ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 02

 1人のサイヤ人の話をしよう。

 そのサイヤ人の名はバーダック。

 

 かつて彼はフリーザの命を受け4人のサイヤ人、トーマ、セリパ、パンブーキン、トテッポと共に惑星カナッサを襲撃した。

 任務を終えるとバーダックは仲間たちと談笑していたが、その際にカナッサ星人の生き残りトオロの不意討ちを受け、バーダックは気絶してしまう。

 

 トオロの放った「幻の拳」はバーダックに予知能力を与え、彼が死に際に放った「未来の姿を見てせいぜい苦しむがいい」という言葉通り未来を垣間見る事になった。

 

 仲間たちに連れられ帰還した後、妻のギネに見守られながら治療カプセルで治療中、カカロットの鳴き声を起点に惑星ベジータの消滅と彼の成長した姿の予知夢を見て困惑するが、仲間達が自分を置いて先にミート星へ向かったことを知り、ギネの制止を振り切り医療施設を後にする。

 出発の前に息子のカカロットを見つけ、再び惑星ベジータが消滅する未来を垣間見るが、彼の戦闘力2という数字に苛立ちその場から立ち去った。

 

 ミート星へ降り立つとそこは既に廃墟となっており、更に仲間たちの変わり果てた姿を見つける。

 瀕死のトーマからフリーザの裏切りを聞いたバーダックは、彼の白のスカーフを血染めしハチマキとして頭に装着する。

 そして現れたフリーザ軍の兵士を次々と撃破するが、その途中にも成長したカカロットがナッパと戦う予知夢を見る。

 予知夢に邪魔されながらも兵士たち全員を倒すが、突如そこにドドリアが現れ、彼のエネルギー波で大ダメージを負う。

 

 何とか生き延びたバーダックは惑星ベジータに帰還すると、カカロットが送り込まれる惑星が予知夢で見た惑星と同じものだと同族のサイヤ人に告げられ、今まで見てきた夢が全て現実になることを悟った。

 バーダックはギネにもうすぐ惑星ベジータ共々サイヤ人がフリーザに滅ぼされる事を告げると、惑星ベジータが滅ぼされる前に急ぎカカロットを予知夢で見た地球へ送る事を決意した。

 しかし、家族への愛情が深いギネはバーダックからカカロットを他の星に飛ばすことを聞かされた際には語気を強めて反対し、ポッドの打ち上げ直前まで「みんなで逃げよう」と提案したが、仲間を皆殺しにされ、フリーザへの怒りに囚われたバーダックにはその提案を受け入れる事はどうしても出来なかった。

 そして、涙を流すギネと2人カカロットが旅立つのを見送った。

 カカロットを脱出させる際にギネも一緒に惑星ベジータから逃そうとするが、ギネがバーダックと一緒に戦う事を望んだのでギネを惑星ベジータから逃す事は出来なかった。

 

 その後、トーマの遺言通り同族にこの事実を知らせフリーザに反旗を翻そうと試みるが、他のサイヤ人達にその発言を笑い飛ばされ信じてもらえなかった為、味方はギネただ1人となってしまった。

 たがギネは元々戦闘力が高いわけではなく、サイヤ人にしては異例と言って良いほど戦闘欲求がない為、最近はほとんど惑星ベジータで仕事をしていた事もありほとんど実戦経験がなかった。

 そんなギネを連れて行っても無駄死にさせてしまう可能性が高いと考えたバーダックは、ギネを気絶させギネを守るためにも絶対に勝つ決意の元、単身で滅びゆく運命に逆らうことを決意する。

 

 フリーザの宇宙船に向かう途中、ナメック星にいた成長したカカロットの姿をまたしても予知夢で見るが、その悟空が突如フリーザの姿に変わり自身を殺害。

 予知夢から目覚めたバーダックはその運命を変えるべくフリーザの宇宙船へ向けて飛び立つ。そしてそこから出てきた何十何百のフリーザ軍兵士を蹴散らし、遂に姿を現したフリーザと対峙する。

 

 バーダックは運命を変えるべく渾身の巨大エネルギー弾を放つが、フリーザは専用のポットに鎮座したまま指先から更に巨大なエネルギーの球体を放ち、それはバーダックの気弾はおろか、バーダックや自軍の兵士達まで吞み込みながら惑星ベジータへ直撃。

 死の直前バーダックは、最後の予知夢でカカロットがフリーザと対峙する未来を予見すると笑みを浮かべ、カカロットの名前を叫び彼が自身やギネの意思を引き継ぎサイヤ人達の敵を討つ事を願いながら、ギネや残っていた多くのサイヤ人と母星である惑星ベジータと共に散っていった。

 

 

 

■Side:バーダック

 

 

 あの忌々しいフリーザの裏切りによる、サイヤ人抹殺というかオレ自身が死んでから25年ほど経つ。

 

 あの時ギネを生かす為、殺されたトーマ達仲間の仇を討つ為にも絶対勝つと心に決めてフリーザの野郎に挑んだが、結局指一本あいつに触れる事なくオレは殺された。

 

 閻魔宮で地獄行きを閻魔大王とかいう野郎に宣告された時は、自身の判決は当たり前だと受け入れたと同時に二度とギネに会えなくなってしまったと思った。

 あいつは、サイヤ人の中でも変わり者だった為か生前人を殺していないからだ。

 過去に戦闘員としてよその星に出向く事があったが結局持って生まれた性格ゆえか、人を殺す事が出来ずオレと交際しだしてからは戦闘員をやめてしまった。

 そんな優しいあいつが地獄へ送られるとはオレは欠片も考えていなかった。

 

 一言だけでも、あいつを最後の戦いに連れて行けなかった事、フリーザを倒せなかった事を詫びたかった。

 なんて、どうしようもねぇらしくもない事を考えていたが、オレの予想は大きく裏切られた。

 

 なんと、地獄へ行った時、彼女がギネが仲間達と共にいたのだ。

 

 地獄で再会したギネは目に涙を浮かべ無言でオレに強烈なビンタを一発喰らわせた後、オレを抱きしめ泣きだした。

 そして、一言「お疲れ様」と言ってくれた。

 オレもギネを抱きしめ伝えたかった事を伝える事が出来た。

 

 それからトーマをはじめとする仲間達とも再会できたし、地獄に来た同族達に酒場でフリーザの裏切りを信じなかった事への謝罪も受けた。

 

 そうしてオレ達サイヤ人の地獄での生活が始まった。

 

 

 地獄に来てからの日々は正直退屈で仕方がねぇ。

 閻魔大王の命令で、生前の罪ってやつを償う為に罰を与えられちゃいるが、別にオレが悪い事をした自覚もねぇからちょくちょく罰というなの地獄での仕事をさぼっている。

 

 今頃ギネや他の仲間達は作業をやってんだろうな。

 戻った時にギネに怒られるんだろうが、まぁそんときゃそん時だ。

 

 オレは最近行く事が日課となった場所へ足を進める。

 いくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶が見えてきた。

 この水晶はこの辺をよく見回っている鬼達に聞いた話によると、極たまに現世の映像を映すらしい……。

 らしい……というのは、オレも長い事ここにいるが一度もこの水晶に何かが写っているのを見た事がないからだ。

 まぁ、人間のオレと地獄の鬼であるあいつらの時間の感覚は違ぇだろうし、あいつらのたまにの感覚がそれこそ数百年や数千年単位って事もありうるのだ。

 

 そんないつ映るか映らないか分からない水晶に毎日足繁く通っているのには理由があった。

 

 

「現世の映像か……」

 

 

 つぶやきにも等しいその言葉は、ほぼ無意識と言って良いほどポロっと出てしまった言葉だった。

 生前バーダックが襲撃した惑星カナッサで与えられた未来を見る力はフリーザに殺されたと同時になくなってしまった。

 

 死ぬ間際に垣間見たあの予知夢は間違いなく成長したカカロットとフリーザの野郎だった。

 オレが死んだ年数から考えてもそろそろあの予知夢で見た時が近いはずだ。

 何より最近妙な胸騒ぎを感じ、気がついたらオレはここに無意識に足を運ぶ事が多くなった。

 かつて予知夢を使える事を経験したからか、戦士としての勘なのかは分からねぇがこの感覚には従っていた方が良い事は何となくわかる。

 

 予知夢で何度もボロボロになりながらも諦めず立ち上がり、どんな強敵にもワクワクした顔して立ち向かっていき最後には勝利を納めていたカカロット。

 その戦いそのものを楽しむ姿はある意味、どのサイヤ人よりもサイヤ人としての本能に忠実なようにも見えた。

 そんなあいつの成長の過程を見る事が出来たからか、戦闘力が2ってだけで苛立ち見限ったガキにこんな都合よく期待する自分に、我ながら都合がいいと呆れるが不思議とあいつなら宇宙の帝王フリーザすらどうにか出来てしまうのではないか?と割と本気で考えているあたりオレもギネの能天気がうつったのかもしれねぇ。

 

しかし、バーダックのそんな考えも虚しく、見上げていた水晶は今日も後ろの風景を歪めて映しているだけだった。

 

 

「今日も無駄足だったか」

 

 

 そんな事をため息と共に呟き、バーダックが帰ろうと後ろを振り向いたその瞬間だった。

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 後ろからノイズのような音が聞こえた。

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 振り返って見ると先ほどまで風景を歪めて写しているだけだった水晶が光り、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになっていた。

 

 

「こっ、これは!?」

 

 

 いきなりの展開に普段冷静なバーダックも流石に驚愕した。

 しばらくひどいノイズが走った水晶に釘付けになっていたいたが、徐々にノイズが収まり明らかにこれまで映し出していた地獄とは違う光景を映し出した。

 緑色の空と緑色の海に包まれた星の荒野、そして激怒している自身を殺した憎い宿敵とその敵と向かい合っている2人の男と2人のガキ。

 

 そこにはあの予知夢を見てからバーダックが長年待ち望んでいた光景が確かに水晶に映し出されていた。

 しかし、その映し出された光景には決定的に欠けている存在いた……。

 そう、絶対に映し出されると信じて疑わなかった、自身やギネ、他の滅ぼされたサイヤ人の意思を引き継いだ息子の姿が……。

 

 

「な、なぜだ!?なぜお前が此処にいないんだ……カカロットよぉー!!!!!」

 

 

 自身が見た予知夢と似通っているが確かに違った光景を目の当たりにし、疑問や落胆、そして怒り等、様々な感情が綯い交ぜになったバーダックの心からの叫びは誰に聞かれることもなく、虚しく地獄に響き渡った。

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