ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 09

■Side:パンブーキン

 

 

 いきなり現れたナメック星人が、まさかあのフリーザの野郎と互角の戦いをやりやがるとは、サイヤ人でもねぇのに大した野郎だ。

 だってぇのに、フリーザの野郎が隠していやがった実力はさらにそのナメック星人の力を上回るモンだった。

 どっちもとんでもねぇバケモンだが、どうやらフリーザの野郎が一枚上手のようだ……。

 

 だが、あのナメック星人の野郎も着ていたマントとターバンを外してから、これからが本気だと言いやがった。

 フリーザ相手に実力を隠して戦っていたっていたなんて、オレには俄かには信じられねぇ事だ。

 それに、マントやターバンを外したぐらいで、戦闘力が急激に上がるなんてこたぁねーと思うが、こいつが、ハッタリでないのだとしたら、勝負はまだ分からなくなる。

 

 もし、ハッタリだった場合、あのナメック星人の野郎……、間違いなく殺されるぞ。

 

 

『貴様らに殺されたナメック星人の怒りをおもいしれ!!!!』

 

 

 これから反撃を開始する為に、ナメック星人の野郎が怒りの篭った啖呵を切ったその時だった。

 フリーザの野郎がニヤリと笑いやがったのだ……。

 その笑いを見た瞬間オレは、これまで感じた事がないほどの悪寒に全身が襲われた。

 

 そして、その悪寒がまさしく正しいものだったのだと、最悪の形で証明されやがった……。

 

   

『勘違いしているようだな!いま見せたのが本気だと思ったのか?』

『なに!?』

 

 

 フリーザの発言を聞いたピッコロは、発言の真意を理解できなかった為、疑問の言葉を返すことしか出来なかった。

 だが、フリーザはそんなピッコロ等気にせず、言葉を告げる。

 その言葉に込められた意味をしっかり理解させるように、ゆっくりじっくりとただ事実だけを語り出す。

 

 

『貴様は、今のこのオレが、変身したものだということを知らんのだろう……。貴様にも与えてやるぞ。ベジータ達と同じこのオレに対する恐怖を……!』

『変身だと……?』

『よし!先に絶望感を与えておいてやろう……。どうしようもない、絶望感をな……』

 

 

 フリーザに告げられた言葉にピッコロはまたしても、疑問の言葉で返すことしか出来なかった。

 告げられた言葉の内容をしっかり受け止め理解すれば、続くフリーザの言葉も何となく予想出来たのかもしれない。

 だが、ピッコロはフリーザの続く言葉を予測する事が出来なかった。

 

 いや、もしくは予想出来ていたかもしれないが、それを言葉にする事で現実になるのを恐れたのかもしれない……。

 そして、ついに告げられる……。

 宇宙の帝王と呼ばれる存在の、真の力のその全貌が……。

 

 

『このフリーザは変身するたびにパワーがはるかに増す……。その変身をあと2回もオレは残している……。その意味がわかるかな?』

『な……なんだと…………!?』

 

 

 フリーザがもたらした、恐るべき事実。

 その事実は、ピッコロ、クリリン、悟飯、ベジータ、そして地獄のサイヤ人達全ての存在に衝撃を与えた。

 今彼らの胸の内にあるのはただ一つ『絶望』だけだった……。

 

 

「そ、そんな……、うっ……うそ……、だろ…………?」

「あ、あいつ……あと2回も変身を残してるだって……」

「くっ……」

 

 

 フリーザの野郎が告げた、とんでもない事実にオレが周りを見渡せば、どんな戦場でも勇ましかったヤツ等が全員、顔面蒼白になって震えていやがった。

 いや、オレ自身もあいつ等と変わらねぇ……。

 あのバーダックすら今まで表情を変えずにこの戦いを見ていやがったのに、流石に今回の件は衝撃が強すぎたのか呆然と水晶を見上げていやがる。

 

 

 フリーザ以外の全ての者達が絶望に押しつぶされそうになっているその時、戦いはさらなるステージに突入する。

 

 

『はーっはっは、よーく見ておけ!!フリーザ様の第2段階の変身を!!!かああああ…………!!!!!』

 

 

 フリーザの野郎が気合いの掛け声を発すると共に、これまで見たことがない密度の邪悪なオーラが撒き散らされたと思ったら、背中から複数の角の様なものが生えやがった。

 だが、それだけでは終わらない。

 次に肩、そして頭に生えていた角などがこれまでと明らかに異なる形へと、どんどん姿を変えていきやがる……。

 そして、最後に頭部が後ろに長く伸びやがると、変身が終わったみたいでその姿からは、以前の形態とは比較にならないほどのオーラを身にまとっていやがった……。

 

 

『ふうっ……、お待たせしましたね…………。さあて……、第2回戦といきましょうか…………』

 

 

 変身が完了したフリーザは、前の形態の時と違い、荒々しい態度はなりを潜めていた。

 今のフリーザは、姿形だけが変わったのではない。冷静さという新たな武器が備わったのだ。

 そして、その真価はすぐ発揮される事となる。

 

 

『重い装備を外して身軽になりましたか……、という事はさらにスピードに磨きがかかった事でしょうね……。そうとう自信がおありになるようだ……』

 

 

 変身する前には、気づく事なかったマントとターバンの秘密に現在のフリーザは容易く気付いた。

 これだけでも、変身する前と現在では大きく異なるのが見て取れる。

 

 

『どぉれ、ちょっと拝見……』

 

 

 言葉を発したフリーザは、一瞬でピッコロとの距離をゼロへと詰める。

 だが、ピッコロはフリーザに近づかれる寸前、上空へと飛び上がる事で攻撃を回避するが、それを更にフリーザが超スピードで追う。

 追いつかれそうになったピッコロが更にスピードを上げる事で、フリーザを突き離しにかかる。

 

 

『くそったれ!パワーがてめぇなら、スピードはオレだ!!!!一生かかっても追いつけんぞ!!!』

 

 

 確かに、重りを外し本気となったピッコロの今のスピードは、これまでのフリーザだったならば反応する事すら出来ない超スピードだっただろう……。

 だが、フリーザは第二形態から第三形態へと進化する事で、これまでとは別次元への存在へと進化していた。

 スピードを上げ、フリーザを突き離しにかかったピッコロだったが、その動きは急制動させられる事になった。

 

 

『!!まっ、まさか……!!!』

『これはこれは、お久しぶり…………』

 

 

 何故なら、突き離しにかかっていた存在が急に目の前に現れたからだ。

 

 

『ひゃあ!!!!』

『お……おあっ……!!!』

 

 

 フリーザが掛け声と共に、指を向けるとピッコロの左足に激痛が襲う……。

 更にフリーザが指をピッコロに向けると、フリーザの指付近の空気が一瞬歪む。

 

 

『ひゃあ!!!』

『くっ!!!!』

 

 

 攻撃を感知したピッコロだったが、指から発射された攻撃のスピードが早すぎて右頬を掠める。

 

 

「何だ!?今、何が起きやがったっ??」

「見ろ!!ナメック星人の足に傷が出来てやがる!!それに、頬にもだ!!」

「まさか、今攻撃したってぇのか!?まったく見えなかったぞ!?」

「あの野郎……、移動のスピードだけでなく、攻撃のスピードまで桁違いに上がってるってのかいっ!?」

 

 

 ピッコロすらギリギリ視認する事が出来るレベルの攻撃や、以前とは桁違いのスピードに驚きの声が上がる。

 地獄のサイヤ人達がフリーザ第三形態の桁違いの性能に圧倒されていると、水晶の中の戦いは更に苛烈さを増していく。

 

 

『ひゃひゃひゃひゃひゃ……!!!』

『ぐっ、ぐああっ!!!』

 

 

 フリーザの指から繰り広げられる、超速の攻撃にピッコロはすでにボロボロの満身創痍状態だった。

 

 

「くそ!とんでもねぇ速さだ!!あっ、あんなの避けきれんぞ!!!」

 

 

 ラディッツがフリーザの攻撃に歯噛みしていると……、水晶からフリーザとピッコロ以外の存在が戦いへと割り込んだ。

 

 

『だぁーーーーーっ!!!!!』

「あの子っ!?」

 

 

 ボロボロになっているピッコロを見ている事が出来なかった悟飯の飛び蹴りがフリーザを襲う。

 そして、悟飯が飛びたした事に一番驚いた反応を示したのはギネだった。

 

 

『!!』

 

 

 超スピードで迫る悟飯の攻撃を察知したフリーザは、ギリギリで上に飛んで回避するが、怒りで戦闘能力が向上した悟飯は超スピードでその更に上へと一瞬で移動する。

 

 

『お前なんか死んじゃえーーーーーっ!!!!フルパワーーーだーーーーーーっ!!!』

 

 

 怒りで感情が高ぶったことで、限界以上の力を引き出した悟飯から強大なエネルギー波がフリーザを襲う。

 その威力は離れていたベジータ、クリリンにも余波だけで強力な衝撃を与える。

 そして、その強力な攻撃をフリーザは回避する事が出来ず、真正面から受け止めることしか出来なかった。

 

 

『ぐっ……ぐおおおおお…………!!!』

『うぅ……うぐぐぐぐぐ…………!!!』

 

 

 強力な攻撃を受け止め耐えるフリーザと、強力なエネルギー波を放ち続ける悟飯。

 両者ともその表情は正に必死だった。

 

 

『でゃあああああ…………!!!!』

『ぐぎぎぎ…………!!!!』

 

 

 悟飯が更に力を振り絞り、エネルギー波に力を込めることで均衡が崩れ始めた。

 必死で耐えていたフリーザだったが、ついに地上ギリギリまで押し込まれた。

 

 

「いけ!カカロットの息子!!!!」

「後少しだよ!!気合い入れな!!!」

 

 

 地獄のサイヤ人達も悟飯の予想以上の奮闘に、必死の声援を送る。

 

 

『どおおーーーーーっ!!!』

 

 

 後少しでフリーザに大ダメージを与えるところまで追い詰めたが、必死の叫びを上げながらフリーザは悟飯のエネルギー波をそのまま悟飯へと跳ね返した。

 

 

『!!』

 

 

 自身が放ったエネルギー波がそのまま跳ね返った事に、驚愕の顔を浮かべた悟飯だったがもう遅い。

 あと数舜で悟飯にエネルギー波が着弾しそうだったその瞬間、横からエネルギー波が放たれ悟飯へ向かっていたエネルギー波は軌道変更を余儀無くされる事となった。

 結果として、無傷の悟飯だったが強力なエネルギー波を放った代償は高かった。

 

 

『はあっ、はあっ、はあっ、あ……ありがとう、ピ……ピッコロさん…………』

 

 

 限界以上の力を今の一撃に込めたからだろう、悟飯は肩を上下にしながら明らかに疲労の色を強く見せていた。

 

 

『今のは跳ね返されちまったが……、つ……強くなったな、悟飯……。オ……オレは嬉しいぜ…………』

『で……でも、もうダメだ…………こ、渾身の力を込めてやったのに……フ……フリーザには通じなかった……』

 

 

 弟子が攻撃して、師匠がフォローするという師弟として絶妙なコンビネーションを発揮した2人。

 予想以上の成長を見せた悟飯の凄まじい攻撃を見て、師匠としてつい嬉しくなったためだろう。珍しく悟飯を褒めるピッコロ。

 本来なら悟飯も満面の笑顔で喜ぶのだろうが、自身が放った全力の攻撃がまさか、そのまま跳ね返されるとは予想しなかったのか、その表情は強張っていた。

 

 

「ちっ……、今ので決めておければよかったんだがな……」

 

 

 バーダックが呟くように囁いたのを、オレの耳は逃さなかった。

 

 

「おい、バーダック今のどういう事だ?」

「別に大した意味じゃねぇさ……。フリーザの野郎、変身する度に大幅に力を増すばかりか、ダメージまでも回復しやがる……」

「あぁ、確かにそうだったな……」

「だが、裏を返せばあの野郎を変身さえさせなければ、ヤツが全力を出す事は出来ねぇ……。

 本来なら全力のヤツを倒すのが望ましいんだろうが、流石にここまでバケモンだと最終形態とやらになったら、どれくらいの力を持っているのか想像もつかねぇ……。

 今のガキの奇襲、防がれこそしたが、あのフリーザにもダメージを通すには十分の威力だった。

 流石に倒す事は出来なかっただろうが……、攻撃さえ通ってれば、あのナメック星人と共に即座に追撃すれば、勝機はかなり近づいただろう」

「なるほどなぁ。だが、フリーザの野郎はそいつをギリギリとは言え、見事対処しちまったってことか……」

「ああ、宇宙の帝王って称号は伊達じゃねぇ。それに、もしかしたら気付いちまったかもな……」

「な、何にだよ?」

「あのガキ「ゴハン!」ん?」

 

 

 バーダックとパンブーキンが話していると、そこに声が割り込んできた。

 2人が声のした方に振り向くと、ギネが怒ったようにこっちを見ていた。

 

 

「どうしたギネ?ゴハンってなんだ?こんな時に腹でも減ったのか?」

「ちがうよ!ゴハンってのは、あの子の名前だよ!!」

「なっ、名前だぁ!?何でお前があのガキの名前を知ってんだ?」

「また、ガキって言った!!ほら、さっきあのピッコロってナメック星人がゴハンって言ってたじゃないか!」

「そういやぁ、んなこと言ってやがったか……」

「会った事はないけど、家族のあたし等がガキっていうのはなんか寂しいじゃないか」

「お前なぁ〜」

 

 

 バーダックが呆れた表情をギネに見せると、ギネは孫の名前がわかったのが嬉しかったのかとても良い笑顔をしていた。

 そんな2人の世界を見せられたパンブーキンは、内心でこいつら「今がどんな時かわかってんのか?」ってツッコミを入れざるを得なかった。

 

 

「はぁ、なぁバーダック、そろそろ教えてくれや。あのガキ「だから、ゴハンだってば!」ゴハンの何にフリーザは気付いたってんだ?」

「あぁ。パンブーキンよぉ、お前も色々な星を制圧したから色々な星のヤツを知ってるとは思うが、宇宙広しといえ、こんな短時間で戦闘力の向上を行える種族なんてそういねぇ事は知ってるよな?」

「あぁ、それがどうしたってんだよ?」

「そうなのかい?」

 

 

 バーダックが語った言葉に同意を示すパンブーキンと、話の内容に興味を持ったようで、会話に加わってきたギネ。

 だが、ギネの方はバーダックやパンブーキン程、よその星に攻め入っていないので、その辺の事はあまり詳しくないようだった。

 

 

「んな事ができる種族は、オレが知る中じゃぁ1つしか存在しねぇ。それは、オレ達サイヤ人だけだ!」

 

 

 2人に向けていた視線を改めて、水晶に向けるバーダック。

 そこには何かを考えている様子のフリーザが映っていた。

 

 

「サイヤ人だけが大怪我の後、復活する事により大幅なパワーアップを可能とする。

 そして、その特性をあのガ「ゴハン」ゴハンはフリーザの目の前で堂々と晒しちまいやがった……。

 あいつは、フリーザはムカつく野郎だが馬鹿じゃねぇ。恐らく今の攻防だけでゴハンがサイヤ人の血を引く者だって事に気付いた可能性は十分にある」

「確かになぁ。王子と一緒にいる時点で、ゴハンのヤツがサイヤ人の関係者だって事に気づくには十分かもな……」

「あぁ。だが、問題なのはこっからだ。

 フリーザの野郎はサイヤ人に妙な執着を持っていやがる。

 ゴハンがサイヤ人だって気付いたら、一気に決着をつけるために最後の力を解放する可能性はでけぇ……」

「そっ、そんなぁ!」

 

 

 ギネが悲鳴に近い声を上げると同時だった。

 水晶の中から最悪の存在の声が響いたのは……。

 

 

『ようし……!くっくっく……、この姿のままあなた達全員を粉々にするのは簡単な事ですが……、殺す前に死よりも恐ろしい究極のパワーというものをご覧に入れましょう!』

 

 

 前置きの言葉を述べたフリーザは、両手を広げ自分に刃向かった愚か者達に改めて宣言する。

 その宣言は受けた者達にとっては、まさに死の宣告に等しい宣言といえよう。

 

 

『大サービスでご覧に入れましょう!!わたくしの最後の変身を……わたくしの真の姿を!!!うおおおぉお!!!』

 

 

 フリーザの掛け声と共に、これ迄見た事がない程の強大で邪悪なオーラがフリーザより放出される。

 今この瞬間バーダックの考えが正しかった事が証明されようとしていた……。

 それも、戦士達にとっては最悪な形として……。

 

 全宇宙を支配下に置く、最強最悪の存在がその真の姿を現すまで後わずか……。

 今ナメック星に真の地獄が顕現しようとしていた……。

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