ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 12

■Side:バーダック

 

 

『くっくっくっ…………、ウォーミングアップはこれぐらいにして、そろそろその気になろうかな…………』

『オラもだ」

 

 

 水晶から聞こえてきた声には、流石のオレでも驚きを隠せなかった。

 あんだけの戦いをやっておきながら、こいつらにとっては、まだまだ準備運動だったというわけか……。

 ちっ、つくづくオレは人を見る目がなかったって事か……。

 

 あん時のオレは生まれたばかりのあいつを見て、その戦闘力の低さに、思わずクズだと判断したが、オレの方がよっぽどグズじゃねぇか……。

 本当に……、立派になったもんだぜ……。

 

 だがよぉ、カカロット……、お前の力はまだまだこんなもんじゃねぇんだろ?

 このオレに見せてみろ!!お前の真の力を!!!

 

 

 水晶の中では2人の男が、空中で向かい合っていた。

 2人の間に会話はなく、ただ強い風だけが吹いていた。

 

 だが……、そんな時間も長くは続かなかった……。

 

 

『地上戦と空中戦……どっちがお得意だ?』

 

 

 最初に口を開いたのはフリーザだった。

 発したその言葉には単純に自分の方が強者だから、弱者であるお前の方に合わせて戦ってやるよっていう意図がありありと見て取れた。

 だが、この男にはそんな事は関係ない。

 

 

『…………どっちかっつうと、地上戦かな……』

 

 

 孫悟空にとって、強者と戦えるのは何よりもワクワクする事なのだ。

 その相手と少しでも自分の力を発揮して戦えるのであれば、悟空にとって喜ばしい以外の何物でもないのだ。

 

 悟空の台詞を聞いたフリーザは、ニヤリと笑うと近くの島を親指で差し、首をクイッと島の方に向ける。

 2人は共に先程フリーザが指し示した島に降り立つと、またしても向かい合う。

 

 

『サービスがいいな……。それとも余裕ってやつか?』

 

 

 そう言いいながら、悟空は胴着の上を脱ぎ捨てインナーだけの姿になる。

 悟空の言葉を聞いたフリーザは、余裕の笑みを浮かべている。

 

 

『ふっふっふ……、こうみえてもボクは優しいんだ…………。

 そうだ!もう1つ、とっておきの大サービスをしてあげるか……!

 両手を使わないでおいてやるよ。どうだ?』

『両手を?気前がいいんだな』

 

 

 準備運動をしながらフリーザの言葉を聞いていた悟空だったが、流石に両手を自ら使わない発言には驚きを示したが、不快な感じでは無いようだった。

 だが、地獄のサイヤ人達にとってはフリーザの言葉は挑発にしか聞こえなかった様だ。

 

 

 

「両手を使わないだって!?あいつ、カカロットの事完全に舐めてるよっ!!!」

「やっちまぇ!!!カカロット!!!」

 

 

 ここにいるのは、戦闘馬鹿とも言っていい奴らばかりだ。

 相手にナメられるというのは、死にも等しい屈辱に感じる者達ばかりなのだ。

 当然この男も、口にこそ出さないが腹の中は怒りが込み上げていた。

 

 

 ちっ、フリーザの野郎!完全に遊んでやがる……。

 あの野郎のニヤケたツラをさっさとブッ飛ばせ!!カカロット!!! 

 

 

 

 バーダックの険しい視線が注がれた水晶では、カカロットこと悟空が首をコキッコキッと左右に振ったり、屈伸運度等の準備運動を続けていた。

 準備運動を終えた悟空は一息吐くと、フリーザに向き直る。

 

 

『さてと……、こっちから仕掛けていいか?』

『もちろんだよ。おスキなように……』

 

 

 悟空の台詞に余裕の表情で肯定の意を返すフリーザ。

 しばし、2人の間に静寂が流れる。

 だが、向かい合っている2人の空気はとてもピリピリとひりつくものだった。

 

 そんな空気を破ったのは、宣言通り悟空だった。

 赤いオーラを身に纏い一瞬でフリーザとの距離をゼロにすると、強烈な右ストレートを繰り出す。

 しかし、その右ストレートを上に跳ぶことで躱したフリーザは、跳んだ反動を活かした飛び蹴りを悟空の顔面めがけて繰り出す。

 

 繰り出された飛び蹴りを上体を倒すことで躱す悟空だったが、追撃の2発目の蹴りが無防備となった悟空の下半身めがけて放たれる。

 しかし、それを読んでいた悟空は上体を倒した状態で両手を地面につき、バック転の要領でフリーザの2発目の蹴りを回避すると、地面に足がつくと同時にフリーザに向けて連続蹴りを繰り出す。

 だが、フリーザは悟空の鋭い連続蹴りの全てをスウェーイングで躱しながら近づくと、尻尾で悟空の視覚の外から攻撃を繰り出し悟空を吹っ飛ばす。

 

 吹っ飛ばされた悟空は空中で体勢を整え、片足が地面に着くと赤いオーラを身に纏い瞬時にフリーザとの距離を詰める。

 そして、フリーザの尻尾を摘む。

 

 

『でやあああーーーーーっ!!!!』

 

 

 掛け声と共に物凄いスピードでジャイアントスイングの様に回転すると、回転の勢いをのせたままフリーザを岩石へ放り投げる。

 フリーザが激突した岩石はあまりの威力に轟音を立てながら崩壊するが、その中からフリーザが腕を組んだまま猛スピードで悟空めがけて飛び出してきた。

 その姿はまるで、先ほどの攻撃など一切効いていない様だった。

 

 瞬時に悟空との距離を詰めたフリーザは、悟空に膝蹴りを繰り出すが、それを右腕で軽々と受け止め弾き返す悟空。

 弾き返したことで開いた距離を悟空が詰めると、フリーザも同様に距離を詰め近距離で打ち合いに突入した。

 お互い一撃一撃がとんでもない破壊力を秘めているため、2人の拳や蹴りがぶつかる度、大気が悲鳴をあげ衝撃が走る。

 

 両手足が使える悟空に対して両足だけのフリーザ。

 その差は如実に差を発揮し始めた。

 最初のうちは互角の打ち合いだったのだが、徐々に悟空の攻撃の方がフリーザを捉える回数が増えてきたのだ。

 

 

『ちっ!!』

 

 

 苦々しそうな表情で、悟空の拳を躱すフリーザ。

 お返しとばかりに強烈な蹴りを繰り出すが、またしても悟空の左腕に受け止められ、そして弾き飛ばされるとフリーザの腹部に隙ができた。

 その隙を見逃すまいと放たれた悟空の連続蹴りがフリーザの腹部に直撃する。

 

 流石にダメージが通ったのか顔を歪めるフリーザだったが、意地でその痛みを吹っ飛ばし再度悟空に強烈な右蹴りを放つ。

 しかし、またしても悟空はその右蹴りを左腕でガードするが、それがフリーザの狙いだった。

 フリーザの攻撃をガードした事で、悟空の時間は間合いゼロの状態で一瞬膠着する。

 

 その隙を狙ってフリーザは、悟空の首に自分の尻尾を巻きつけ締め上げる。

 悟空は自身の首を締め上げる尻尾を剥がそうと、力を込めて引き剥がしにかかるがなかなか外れない。

 それはそうだろう。フリーザもこのまま締め殺す勢いで、締め上げげているのだ。

 

 その証拠にフリーザの額にも複数の血管が浮き上がっていた。

 それだけフリーザの方も力を込めているのだ。

 

 

『が……あああ……』

 

 

 締め付ける強さが強烈な為、ついに悟空の口から苦痛の声が上がるが、次の瞬間悟空はフリーザの尻尾を力強く握ると、尻尾を自身の口の近くまで引き上げる。

 そして、ガブッと効果音が鳴った様にフリーザの尻尾にかじりつく。

 

 

『!!』

 

 

 流石のフリーザでもこの攻撃?は予想外だったのか、声にならない悲鳴を上げ悟空の拘束を思わず緩めてしまう。

 拘束が解けた悟空は、未だ痛みで悶えているフリーザの顔面に右回し蹴りを叩き込む。

 そして、この隙を逃すまいと回し蹴りにより体勢が崩れたフリーザとの距離を瞬時に詰めフリーザのボディに何発ものパンチを叩き込む。

 

 その威力についにフリーザの顎が上がり、口から一筋の血が流れる。

 これに頭にきたのか、フリーザの怒りが込められた反撃が悟空を襲う。

 

 

『があっ!!!』

 

 

 怒りでフリーザが悟空に叩き込んだのは、強烈な右パンチだった。

 そう、右パンチだったのだ……。

 

 悟空を吹っ飛ばしたというのに、フリーザの顔はどこか苦々しそうだった。

 

 対して吹っ飛ばされた悟空は、ズザザッと滑りながら地面に倒れるが、すぐに起き上がるとニヤリと笑う。

 

 

『手は使わねぇんじゃ、なかったけ?』

 

 

 悟空の言う通り、フリーザは確かに言った。

 両手は使わないと。

 だが、フリーザは右手を解禁してしまった。

 

 いや、正確に言うのであれば、解禁させられたのだ……。

 それは、サイヤ人孫悟空の戦闘力が宇宙の帝王フリーザの予想を上回った瞬間だった。

 

 

『…………ふふふ……、サービス期間は終わったのさ……』

 

 

 明らかに負け惜しみともとれる台詞を吐くフリーザに、悟空は真剣な目を向ける。

 悟空からしてみれば手を使わせたと言うだけで、別段勝った気等さらさらしていないのだ・・。

 

 

『じゃぁ、オラもたまにはサービスというか忠告をしてやろうか?

 おめえはよ……、自分の強さに自信がありすぎるんだ……。

 そのせいで、スキだらけなんだよ……』

『…………そりゃあ、どうも……』

 

 

 悟空の言葉を聞いたフリーザの顔は相変わらず笑みを浮かべているが、先程までの笑みとは少し異なっていた。

 

 

 

「すげぇ……、あのフリーザと……まともに戦ってやがる…………」

 

 

 オレの耳に誰かの呟いた様な声が聞こえてきた……、恐らく声の主はトーマだろう。

 思わず口に出した様なその言葉は、ここにいる奴等全員の気持ちそのものと言っていいだろう。

 両手を使っていないとはいえ、あのフリーザにカカロットは一歩も引いてねぇ。

 

 それどころか、むしろカカロットの方が戦いを優位に進めてるぐれぇだ。

 何でだろうな……?あいつの戦いを見てるとオレの方までアツくなってきやがる……。

 

 そいつはきっと、あいつの今の強さを支えてやがるのが、フリーザみてぇな天性のもんなんかじゃなく、必死に努力して得た力だからだろうか?

 あいつの戦いを見てると、ほとんどその動きに無駄がねぇ。

 攻撃の1つ1つの動きがとんでもねぇ練度で繰り出されてやがる。

 

 恐らくカカロットの野郎には、感覚だけでなく自分の身体をどう使えば威力を逃さずに高い攻撃を繰り出せるのか、しっかり頭の中で理解してやがるんだろう。

 そして、それを無意識に繰り出せる様になるまで、とんでもねぇ数の反復練習を繰り返し、身体に叩き込んだんだろう。

 そんな事が初見でも分かっちまうくれぇ、あいつの戦いの技術は凄まじい。

 

 カカロットがフリーザとの戦いを優位に進められているのも、野郎が両手を使っていないのと先程カカロット自身が言った様にあのヤツ自身の慢心もあんだろう。

 だが、単純な戦闘技術の練度だけだったらカカロットの方が上だ……。

 

 ……とは言え、フリーザの野郎はそんな簡単にやられる程ヤワなヤツじゃねぇ。

 これからはフリーザも両手を使うみてぇだし、さっきのカカロットの攻撃でヤツに火がついたのは確実だろう。

 それは、あの野郎のツラを見れば嫌でも伝わって来やがる……。

 

 フリーザからしてみれば、先程までは格下相手に遊んでるつもりだったんだろうが、これからは違ぇ……。

 これからは、カカロットを敵として認め、確実に始末するために戦うつもりなんだろう……。

 

 だからだろうか?あいつが今浮かべてやがる笑みには、先程までには感じられなかった戦いに対しての真剣さが窺えるのは……。

 恐らくこれからが、本当の意味でのフリーザとの戦いになるはずだ……。

 

 正直、あの野郎がどれだけの力を隠しているのかオレには読めねぇ……。

 だけどよ……、てめえだってまだ全力じゃねぇんだろ……?

 なぁ、カカロット……。

 

 

 バーダックが考えに耽っていると、水晶から件の2人の声が響いてきた。

 

 

 

『君は強いよ。正に驚異的と言ってもいいほどにね……』

『そいつは、どうも』

 

 

 悟空とフリーザが改めて向かいながら会話をしているが、両者の間にはこれまでとは比較にならないほどピリピリとした空気が流れていた。

 恐らく、その原因は間違いなくこの存在のせいだろう。

 

 

『でも、この戦いに飽きてきたよ。そろそろ決着をつけようと思うんだけど……、一応最後に聞いておこう……。

 どうかな、ボクの下で働いてみる気はないか?

 それだけの力を消してしまうのは、惜しいのよ。

 ギニュー隊長より、余程いい仕事をしてくれそうだからね』

「なっ……、な……、なんだってぇ!?」

「おいおい、マジかよぉ……?」

 

 

 フリーザは悟空との短い戦いの中で、悟空の実力を十二分に評価していたのだろう。

 実際これまでにフリーザ自身が言葉にしていたが、ここまでフリーザに戦闘力で迫った存在は同じ一族の者を除いて存在しなかったのだろう。

 だからこそフリーザは、例え敵対していた存在であったとしても、悟空が自身の下に着いた時に齎される利益と天秤にかけ悟空を部下にした方が自身にとって有用だと判断したのだろう。

 

 だが、その言葉に真っ先に驚きの声を上げたのは、悟空本人ではなく地獄のサイヤ人達だった……。

 特に真っ先に叫び声をあげたギネの顔は、顎が外れるんじゃないかと言うくらい口を広げ呆然と水晶を見ていた。

 他のサイヤ人達も驚きの声こそ出さないまでも、皆唖然とした表情を浮かべていた。

 

 だが、彼等の意識は次の者の言葉で現実に引き戻される。

 

 

『ジョーダンじゃねぇって。オラがそんな申し出受けると思うか?』

「……はっ!よく言ったよ、カカロット!!!さすが私の息子だよ!!!」

 

 

 悟空の言葉で真っ先に復活したギネは、またしても声を上げるが、フリーザの言葉のショックが強すぎたせいか若干変なテンションだった。

 そんな、ギネの変なテンションとは対照にフリーザは悟空の返答を予想していたのだろう。

 態度を変える事なく、冷めた笑みを浮かべたままだった。

 

 

『そう言うとは思ったよ。サイヤ人という連中はバカで頑固だからね……。

 じゃあ、君に残された道はたった1つ、死ぬしかない……』

『どうかな?そう簡単にはいかねぇぞ』

 

 

 フリーザからの誘いを断った時点で、フリーザにとって悟空は完璧に殺す対象に変わったので、改めて死の宣告を告げる。

 だが、そんな死の宣告を受けても悟空の表情には強気の笑みが浮かんでいた。

 

 しかし、悟空のその笑みはすぐに崩れ去ることになる……。

 

 

『くっくっくっ……、大した自信だね。

 だが、ボクは気づいているよ。

 君は本気で戦うと言っておきながら、まだかなりのパワーを残していると……』

『…………バレたか……』

 

 

 フリーザの正確な読みに、冷や汗を浮かべる悟空。

 だが、フリーザの言葉はまだ止まらない。

 

 

『そいつを計算に入れても、ボクの計算では…………、約50%つまりマックスパワーの半分も出せば君を宇宙のチリにする事が出来るんだ……』

『…………なに……?そいつは、ちょっと大ゲサだぜ…………へへ…………。

 ハッタリをかましすぎだ…………』

「そ、そうだぜ……、さ、さすがにそれは言い過ぎだろ……」

「あ……、あぁ、お、追い込まれたから……、あ、焦ってるだけだよ……」

 

 

 これまで強気の笑みを浮かべていた悟空も、そして水晶から観戦していた地獄のサイヤ人達も今まで散々フリーザの強さを見て来た。

 だが、幾ら何でも今回ばかりはその言葉をすんなりと受け入れられる事ができなかった。

 いや、正確に言えば受け入れたくなかったのだろう……。

 

 だが、思い出して欲しい……。

 フリーザはこれまで自分の実力に関して、一度も嘘をついた事がないって事を……。

 

 

『楽しかったよ…………。

 こんなに運動をしたのは本当に久しぶりだった…………』

 

 

 この言葉が死の宣告とばかりにフリーザの顔から笑みが消え、初めて構えらしいポーズをとる。

 真顔となったフリーザと向き合っている悟空は自然と顔に冷や汗が流れる。

 そして、発せられるプレッシャーからフリーザの言葉がハッタリじゃない事を敏感に察知した。

 

 その瞬間だった、目の前数メートル先にいたフリーザの右肘が気付いた時には悟空の顔に炸裂していた。

 あまりの威力で、悟空の顔が跳ね上がる。

 だが、何とか耐える悟空だったが鼻からは鼻血が流れていた。

 

 

『…………』

 

 

 フリーザの攻撃に反応すら出来なかった悟空が冷や汗を流しながら、構えをとる。

 そんな悟空に余裕の笑みを向けたフリーザの姿がブレると同時に、悟空が反応出来ないスピードでしゃがみ悟空の足を払う。

 足を払われた悟空は、片手を地面につけて何とか倒れる事を回避するが、それとほぼ同じタイミングでフリーザの尻尾が悟空の首に巻きつく。

 

 巻きついた尻尾で悟空の体を引き寄せたフリーザは、がら空きのボディに強烈なエルボーを叩き込む。

 

 

『ぐふっ……!!!あ……あぐぐぐ…………』

 

 

 あまりの威力で、悟空が声にならない声を上げながら腹を抱え倒れこむ。

 そんな悟空にフリーザは背を向けて悠然と立っている。

 悟空は痛みをこらえ、フリーザの背後から蹴りを繰り出すが空中に飛ぶことで回避される。

 

 フリーザが地面に着地した事で、悟空とフリーザの間に数メートルの距離が開いた。

 その距離を悟空は赤いオーラを纏い瞬時に詰めフリーザにパンチを叩き込もうとするが、悟空のパンチが当たる前にカウンターの形でフリーザの強烈な蹴りが悟空に炸裂し、逆に吹っ飛ばされる。

 吹っ飛ばされた悟空は、背中から地面に激突しズザザザ……と地面を滑る。

 

 

『ぐぐ……、うっ…………』

 

 

 うめき声を上げながらも、瞬時に立ち上がる悟空。

 だが、その表情には余裕のカケラもなかった……。

 

 

『はあっ……、はあっ……、はあっ……』

『ついに息が切れ始めたようだね……。

 でも、これで死なないだけでもすごい事だよ』

 

 

 ボロボロの悟空に対して余裕の笑みを向けるフリーザ。

 

 

 

「やっ、やばいよ!カカロットのヤツ一方的にやられ始めたよ……」 

「そ、そんな事ないよ……、これからだよ……」

 

 

 セリパのヤツがカカロットが一方的に攻撃を受けている状態に焦りの声を上げると、祈るような仕草で水晶を見ているギネがそれを否定する。

 ギネの目には若干涙が浮かんでやがる。

 サイヤ人としては異例と言ってもいいコイツからすれば、せっかく見る事が出来た自分のガキがやられている姿を見るのはかなり辛い事だろう。

 

 にしても、まじいな……、カカロットとフリーザ……、隠していた実力に差がありすぎたみてぇだな……。

 今はまだ、なんとかギリギリで反応して急所を外していやがるが……、このまんまじゃジリ貧だ……。

 しかも、あの野郎の言葉を信じるならあいつの本当の力はまだまだこんなもんじゃねぇ……。

 

 だが、カカロットのヤツも追い込まれちゃいるがオレの勘ではまだ全力を出し切っている気がしねぇ……。

 あいつが隠している力がどこまでフリーザに対抗できるかはわからねぇ……。

 

 どうする?カカロット……?

 

 

 

『だっ!!!』

 

 

 フリーザのエルボーがまたしても、悟空の身体を吹っ飛ばす。

 

 

『ぐっ……!!!』

 

 

 吹っ飛ばされた悟空に瞬時に追いつき追撃を行おうとしたフリーザだったが、空中で体勢を整えた悟空は舞空術で近場の岩石の上に退避する。

 退避した悟空は地上にいるフリーザに視線を向けると、ニヤリと不吉な笑みを浮かべたフリーザの姿を捉える。

 

 フリーザはおもむろに人差し指と中指の2本の指を立てたまま腕を持ち上げる。

 2本の指先は光り輝いており、高密度のエネルギーが収束しているのが見て取れた。

 

 

『…………!?』

 

 

 その様子を怪訝そうな顔で見ている悟空の目の前で、それは起こった。

 フリーザが持ち上げていた腕を一閃すると、悟空の目の前で光の筋が走った。

 2本の指に集約されていたエネルギーは地平の彼方どころかそれよりも更に先の海をも切り裂いた。

 

 

『!!』

 

 

 その威力に驚愕の表情を浮かべる悟空。

 今の攻撃でフリーザは文字通りナメック星を切り裂いたのだ。

 悟空が改めてその傷跡に視線を向けると傷はどこまでも続いており、直撃したら間違いなく悟空は死んでいただろう。

 

 それは戦っている悟空自身よく分かっているのだろう。

 悟空の表情は正に顔面蒼白だった。

 

 

『…………な……なんて技だ…………!!』

 

 

 絞り出したような悟空の声には、明らかにフリーザに対しての恐れが混じっていた。

 

 

『言ったはずだよ。いざとなればこんな星くらいまるごと破壊する事だって出来るとね……。

 惑星ベジータを消滅させたのはボクなんだよ…………』

 

 

 そんな悟空に余裕の笑みを向けるフリーザ。

 だが、今の悟空にフリーザに対して笑みを返すほどの余裕はなかった。

 悟空自身今のわずかな戦闘で、ハッキリ理解してしまったのだ。

 

 冷や汗を流し苦々しい表情を浮かべたままフリーザに視線をむける悟空は、ついにポツリと本音を漏らしてしまった。

 

 

『ま……まいったな…………、勝てねぇ…………』

 

 

 悟空がつい漏らした本音は幸いな事に誰に拾われる事なく、ナメック星の風に消えていった。

 

 

 

「今……、フリーザの野郎……何やりやがった……?」

「あの……線みたいな傷跡……まっ、まさか……、星を切りやがったのか……??」

 

 

 地獄のサイヤ人達も悟空同様、フリーザの規格外の力を目にして改めてその底知れなさに身体を震わせていた。

 

 

「にしてもよ……、カカロットの野郎……マジでヤベェんじゃねぇか??さっきからやられっぱなしじゃねぇか??」

「何か考えがあるのだろうか……?それとも……」

 

 

 ナッパとラディッツも他のサイヤ人同様フリーザの力に恐れを抱いてはいたが、それ以上に悟空の状況の方に目がいっていた。

 ギリギリで凌いでこそいるものの、明らかに劣勢になっている。

 この状況が悟空の考えのもと、そうなっているのなら良い。だが、そうでない場合は彼らサイヤ人の宿願はその時点で終わってしまうのだ。

 

 

「考えなんてねぇ……、どうやらオレ達が考えていた以上にフリーザの野郎がバケモンだったってだけだ……」

 

 

 ラディッツの言葉を拾って現実を突きつけたのはバーダックだった。

 2人がバーダックの方に視線を向けると、あのバーダックの顔に冷や汗が流れていた。

 ラディッツがバーダックに言葉をかけようとしたその時、水晶から声が聞こえてきた。

 

 

『心配しなくてもいいよ。

 今みたいなヤツで一瞬に殺したりはしない……。

 そんなんじゃ、ボクの腹の虫は収まらないからね……。

 今更悩んだって遅いよ。仕掛けてきたのはそっちの方なんだからね』

 

 

 フリーザの言葉にナッパとラディッツはいよいよ悟空の最期を覚悟する……。

 だが、2人はこの男の言葉にまたしても意識を奪われる。

 

 

「確かに、カカロットの野郎ではフリーザに勝つのは厳しいかもしれねぇ……。

 だけどよ……、あいつは……、まだ、諦めたわけじゃねぇみてだぜ?」

 

 

 バーダックの発した言葉で2人が悟空に視線を向けると、何かを悩んでいた表情を浮かべていた悟空の顔に決意の色が宿る。

 そして次の瞬間、その決意に色を宿したように孫悟空の体は赤い光に包まれた。

 

 

『うおおおおぉぉぉ…………!!!!』

 

 

 カカロットの叫びと共にあいつの身体から、これまでとは比べ物にならない真っ赤なオーラが吹き出した。

 まるでカカロットの力に呼応する様に大地や大気が震えてやがる……。

 

 水晶越しだってのに、なんてプレッシャーを発しやがるんだ!あの野郎!!!

 こいつが……、カカロットの本気かっ……!!!

 

 

 悟空から発せられるとてつもないプレッシャーに、流石のフリーザの表情にも警戒の色が宿る。

 

 

『だっ!!!』

 

 

 界王拳20倍で限界まで力を高めた悟空は、掛け声と共に飛び出すとフリーザの反応を上回る速度で近づき、フリーザの横っ面を殴り飛ばす。

 

 

『か……、め……』

 

 

 自身が最も信頼し得意とする技を放つため、更に気を高めながら、吹っ飛ばしたフリーザを猛スピードで追撃する悟空。

 

 

『は……』

 

 

 フリーザに追いついた悟空の拳がフリーザを捉えようとするが、悟空の攻撃よりも早くフリーザは体勢を整え、上空へ退避する。

 

 

『め……』

 

 

 上空へ退避したフリーザの真下で、悟空の両手が右の腰の横に据えられ、両手の中にこれまで高めた気が瞬時に収束し光を発する。

 

 

『波ーーーーーー!!!!!!』

 

 

 その叫びと共に悟空は両手を前に突き出し、両手から極大なエネルギー波をくり出した。

 20倍界王拳で限界まで高められた気を全て収束した、全力のかめはめ波。

 その威力は水晶越しで見ている地獄のサイヤ人達からみても、とてつもないエネルギー量が込めらえているのが理解できた。

 

 

『ぬ!!!』

 

 

 そのとてつもないエネルギー波にたった今、捕捉された存在がいた。

 だが、その存在、宇宙の帝王フリーザは顔色こそ変えはしても、なんとその極大のエネルギー波を片手で受け止めた。

 

 フリーザが悟空のかめはめ波を受け止めた瞬間、ナメック星に轟音が響き渡った……。

 極大のエネルギー波とフリーザの腕の押し合いは、まさに一進一退だった。

 

 必死の表情で両手に気を送り込む悟空と、必死の表情でその攻撃を凌ぐフリーザ。

 

 

 

「頑張れ!!カカロットーーー!!!後少しだよ!!!」

「気合い入れなーーーっ!!!」

「根性見せろっ!!!」

 

 

 その凄まじいやり取りを見ていた、地獄のサイヤ人達も自然と声が上がっていた。

 この戦いを見ていた彼等も分かっているのだ。

 今放っているこのエネルギー波が悟空にとって全力全開の攻撃で、これを凌がれると後がないということに……。

 

 だが、弱者に希望を抱かせない絶対的な強者だから、ヤツは宇宙の帝王として君臨し続けられたのかもしれない……。

 

 

『う……ぐぐぐぐぐ……!!!』

 

 

 悟空のかめはめ波とフリーザの片腕の戦いは、未だ続いていた。

 エネルギー波に対して素手のフリーザは、状況的にかなり不利だった。

 それを証明する様に、フリーザの表情に余裕は無く口からは苦しみの声が上がっている。

 

 

『ぐぉおおーーーーーっ!!!!!』

 

 

 渾身の叫びと共に、フリーザはかめはめ波を抑え込んでいた左腕に更なる力を注ぎ込んだ。

 すると拮抗していたやり取りに、ついに変化が訪れた。

 フリーザの強大すぎるパワーの前に、ついに悟空のかめはめ波は限界を迎え轟音と共に大爆発を起こした。

 

 

『…………!!! く……くそったれめ……!!!!

 な……なんてことだ…………!! た……たいして、き……きいちゃいねぇ…………!!

 こ……今度もハッタリじゃ、な……なかった…………。

 ほ……本当にあいつ……半分の力しか使ってなかった……』

 

 

 爆発が収まった後、その場にはかめはめ波の構えをとった状態で冷や汗を流し、信じられない様な表情を浮かべた悟空は、あまりの事態に震えながら改めてフリーザの規格外さを思い知っていた……。

 

 

 

 オレは冷や汗が流れるのを止められなかった。

 今の強力なエネルギー波は明らかにカカロットの全力の攻撃だったはずだ。

 だというのに、フリーザの野郎は多少ダメージを負ったみてぇだが、未だピンピンしてやがる。

 

 しかも、マズイ事に今の攻撃でカカロットのヤツかなりの体力を持っていかれたみてぇだ。

 それを証明する様に水晶の中のあいつは、空を飛ぶ力すらなくなったのかゆっくりと地面に降りていく。

 地面に降り立ったカカロットは、肩を上下に揺らし息もかなり上がり、立っているのもやっとの様だ。

 

 にしても、まさか本当に半分の力しか使ってなかったとは……、いくらなんでもバケモンすぎだぜ……フリーザ……。

 

 

 

 だが、そのフリーザも今の攻撃は予想を大きく超えていたのか、ボロボロになった姿を晒し苦々しい表情を浮かべ、エネルギー波を受け止めていた左手に視線を向ける。

 フリーザの左手は今の攻撃でかなりの傷を負っていた。

 

 

『い……今のは危なかった……。な……なんであいつにあんな凄まじいパワーが……』 

 

 

 未だ左手に残る痛みが、悟空が放った攻撃が自分を倒しうるものだと理解したフリーザに、怒りの感情が宿り自然と左手に力がこもり、グッと握りしめる。

 

 

『サイヤ人め…………!!!』

 

 

 怒りの籠った声をあげたフリーザは物凄いスピードで、悟空の前に降り立つ。

 

 

『ハアッ、ハアッ……』

『今のは痛かった……、痛かったぞーーーーーっ!!!!!』

 

 

 息も絶え絶えの立っているのもやっとな悟空に、自身の怒りをぶつける様に怒りの叫びと共に超速のスピードで頭突きを喰らわせるフリーザ。

 頭突きを喰らった悟空は、なんの抵抗をする事も出来ず、吹っ飛ばされ地面に崩れ落ちる。

 

 

『が……はあっ……』

 

 

 口から血を吐きながら、なんとか立ち上がろうとする悟空に悠然と歩いて近づくフリーザ。

 悟空が四つん這いで両の手に力を入れ立ち上がろうとしていると、既に目の前にフリーザの足があった。

 首を上げ視線にフリーザの顔が映ったと同時に、悟空の顎の下に衝撃が走った。

 

 フリーザの足が悟空の顎を蹴り上げたのだ、身体ごと宙に浮かされた悟空に更なる追撃の蹴りが叩き込まれ、またしても吹っ飛ばされる。

 

 

『……ぐ……う……が…………』

 

 

 もはや体力の限界を迎えた悟空は、地面の上でうめき声を上げることしかできなかった。

 だが、それでも諦めずにヨロヨロと立ち上がる悟空。

 

 それを冷めた様な表情で見つめるフリーザ。

 

 

『さっきの勢いはどうしたんだ?とうとうパワーを使い果たしてしまったのか?』

『うぐっ……、くっ……』

 

 

 フリーザの問いに対しても、もはや言葉を返すことすら出来ない悟空だったが、フリーザに向ける目には強い光が宿っていた。

 その瞳からは、こんなにもヤバイ状況だというのにも関わらず、一欠片の諦めの感情も見いだせなかった。

 

 その表情を見たフリーザは、不快そうに顔を歪め右腕を上げると、その右腕を一閃する。

 すると轟音と共に衝撃が走り、悟空の目の前の地面は大きく抉り取られていた。

 

 

『もうそれまでの様だな。そろそろ死にたいだろう?』

 

 

 悟空の状態を見て、まともな抵抗すら出来ないと判断したフリーザはついに悟空に死の宣告を突きつける。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「終わりだな……」

 

 

 あたしの横でパンブーキンが呟いた様に声を上げたのが聞こえた。

 だが、あたしはそれに対して何も返すことが出来なかった。

 今のあたしには、水晶の中のカカロットの事以外どうでも良かったからだ。

 

 今もボロボロになりながらも、立ち上がるあの子の姿を見てあたしは涙を堪えることが出来なかった。

 

 

「ギネ……」

 

 

 そんなあたしに気付いたのか、セリパがあたしを気遣う様な声を上げ手を握ってくれた。

 そして、あたしが涙を流しながらセリパに顔を向けるとセリパは、優しげな笑みを浮かべながら話し出した。

 

 

「なぁ、ギネ。あんたの次男坊は本当に凄い男だね。こんな状況だってのに全然諦めてないんだかさ……」

「うん……、本当に凄い子に育ったよ……カカロットは……、あたしと違ってさ……」

 

 

 セリパの優しさが籠った声に、あたしの胸は余計に締め付けれた。

 今のあの子に何もしてあげられない自身の不甲斐なさに、悔しくてしょうがなかった。

 

 

「ようやくあの子に会えたってのに……、また……、あいつに……、フリーザに奪われる……」

 

 

 あたしは、これからカカロットに起こる事を予想し絶望で顔を両手で覆い膝から崩れ落ちた。

 だが、そんな崩れ落ち震えているあたしにセリパの声が届く。

 

 

「確かに、あんたの息子はフリーザに殺られちまうのかもしれない……。

 でもさ……、あいつは……、あんたの息子はまだ諦めちゃいないみたいだよ……。

 どんな時でも諦めないあの姿は、本当に父親にそっくりだね。

 それに、誰かの為に一生懸命になれる所は、あんたにそっくりだ……」

 

 

 その言葉にあたしは、両手を顔から外しセリパを仰ぎ見る。

 あたしと視線があったセリパは不敵な笑みを見せると、水晶に目を向ける。

 

 

「バーダックもあんたも惑星ベジータが滅ぶ時、最期の最期までフリーザ相手に足掻いたんだろ?

 だったらさ、あんたの息子が諦めないうちはしっかり見ててやんなよ。

 もしかしたら、奇跡ってヤツが起きるかもしれないよ??」

 

 

 そのセリパの言葉につられて、水晶を見るとにボロボロになったカカロットが映し出されていた。

 そして、その時に確かに聞こえてきたんだ……。

 呟きの様なあの子の声が……。

 

 

『空よ……大地よ……海よ……いま、この時…………この世に生きとし生けるすべてのみんな、オラに元気を分けてくれ!!!』

 

 

 その言葉が意味するところは、正直あたしには分からない。

 だが、きっと諦めるにはまだ早いと、あたしに思わせるには十分な力強さを感じた。

 

 

 

 フリーザは目の前の事態に困惑していた。

 自身に刃向かったサイヤ人にトドメを刺そうとしたその瞬間、ヤツは何かボソボソと呟くと両手を上げて動かなかくなったのだ。

 

 見るからに全身ボロボロで今にも倒れそうだが、先ほど自分にあれほどの攻撃を行なった相手だ……。

 この行動にもきっと何か意味がある……。

 フリーザにはそう思えてならなかった……。

 

 

『なんだそれは……、また、何かつまらん事を考えているな?

 そんなにフラフラで何ができるというのだ?』

 

 

 だが、そのサイヤ人こと孫悟空には、フリーザに返事するだけの余裕はなかった。

 集中力を切らしてしまうと、せっかく集めたあれが霧散してしまいそうだったから。

 

 

『どうした?何かをしようとするつもりなんだろ?してみろよ!

 それともそいつは、お手上げの降参っていうことなのか?』

 

 

 悟空を挑発し、その動向を見極めようとしたフリーザだったが、またしても無反応な悟空に苛立ちが募る。

 

 

『いいかげんにしろ、いつまでそうしているつもりだ……』

『さ……さあ、いつまでかな、へへ…………』

 

 

 フリーザの苛立ちを感じ取った悟空は何とか会話に応じるが、今やっている事が露見してしまえば全て終わってしまう為、はぐらかした返答をしてしまった。

 だが、それが結果的にフリーザを煽ってしまう事となった。

 

 

『きさまーーーーーっ!!!!』

 

 

 悟空の返答を聞いたフリーザは、バカにされたと感じたのか、苛立ちをぶつける様に悟空を蹴り飛ばす。

 

 

『はあ……、はあ……』

『さあ、どうした!何かの攻撃をするつもりなんだろ!?』

 

 

 蹴り飛ばされた悟空は、息も絶え絶えになりながらもまたしても起き上がり両手を上に翳す。

 そして、先ほどと同じ内容の質問を繰り返すフリーザ。

 

 

『へ……へへへ…………、ま……まあ、そう、あせるなよ…………』

 

 

 ボロボロになりながらも、なんと口を開いた悟空をフリーザは苦々しい表情で睨みつける。

 

 

『ふざけるなよ…………』

 

 

 片手を上げたフリーザは、掌を悟空に向けると気合い砲を放つ。

 為す術もない悟空はフリーザの気合い砲を真正面から受け、またしても吹っ飛ばされ海の中に叩き落とされた。

 

 

 

「おっ、おい……、カカロットのヤツ何考えてんだよ??」 

「ああ、なんで両手を上げて、何もしねぇんだ??」

 

 

 地獄のサイヤ人達も皆、悟空の行動に疑問を持ってはいるがフリーザ同様それが何を意味するのか理解できていなかった。

 

 

「親父、カカロット野郎はなんで何もしないのだ?」

「オレが分かるわけねぇだろうが!!だが、あいつの目はまだ死んじゃいねぇ……、何を狙ってやがる??」

 

 

 ラディッツの質問に流石のバーダックもまともな返答を返すことは出来なかった。

 だが、言葉にした様に悟空が何かをしようと企んでいるのは敏感に感じ取っていた。

 

 そんな、地獄のサイヤ人達の気持ちを察した様に水晶のアングルが急に変化する。

 今までは、悟空やフリーザを大きく映して出していたが、一気に2人の存在が遠くなり地獄のサイヤ人達の目にその存在が姿を表した。

 

 それは、直径50mを超えるとてつもなく大きなエネルギーの塊だった。

 そして、今尚大きくなり続けている様だった。

 

 

「なっ、なんだよ!?あれ……」

 

 

 ラディッツの横で呆然とナッパが声を上げる。

 だが、バーダックはその巨大すぎるエネルギーの塊を見て、それを誰が生み出したのか瞬時に見抜いた。

 

 

「なるほどな……、とんでもねぇ隠し球持ってんじゃねぇか!!!カカロットの野郎!!!」

 

 

 バーダックの言葉には明らかに歓喜の色が宿っていた。

 そして、バーダックの言葉を聞いた地獄のサイヤ人達の視線がバーダックに集まる。

 

 

「どういうことだい?バーダック!?」

 

 

 特にギネの喰いつきっぷりは、他の者達を遥かに凌駕していた。

 ギネに視線を向けたバーダックは自分の予想を語り出した。

 

 

「あの馬鹿デケェエネルギーの塊はカカロットの野郎が作り出したってことだ。

 あんだけのエネルギーの塊だ……、作るのには相当な時間が必要になるはずだ……。

 あいつが、さっきからフリーザ相手に無抵抗で攻撃を受けているのも、恐らくフリーザに気取らせない為だろう……。

 幸いあんだけ高度な位置で作っていれば、フリーザの視覚には入らねぇ……。

 まったく、あんな状況だってぇのに野郎考えやがったぜ……」

 

 

 確かに、バーダックが述べた様に巨大なエネルギーの塊こと元気玉は、フリーザや悟空の遥か上空で今尚成長を続けていた。

 気を察知できないフリーザでは、上空に視線を向けない限り気付く事はないだろう。

 

 

「だが、こいつは時間との勝負だ……。

 何かの拍子でフリーザが気付いたら、速攻でヤツはカカロットを殺しにかかるだろう……。

 あいつが、今尚カカロットを生かしているのは、カカロットの行動が読めないっていう1点に警戒しているからだ。

 そいつが、バレてしまえば、フリーザが手加減する必要は無くなる……」

「てことは……、カカロットがフリーザが気付く前にあのエネルギーの塊を完成させて、フリーザに叩き込む事ができれば……?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、ギネは自分の頭によぎった事を口に出した時、バーダックの口角が大きく上がり不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「あんだけのエネルギーの塊だ、流石のヤツもただじゃぁすまねぇだろうよ!!!」

 

 

 バーダックの一言で地獄のサイヤ人に希望の光が宿る。

 その光は、今尚ナメック星の上空で成長を続ける希望の光がもたらした、僅かばかりの元気だったのかもしれない。

 

 

 

 水晶の中では、フリーザに海に叩き落とされた悟空が、陸に上がろうとしているところだった。

 その姿は動いているのが不思議なくらいボロボロになっており、口からは荒い呼吸が繰り返し行われていた。

 

 その様子をフリーザは不機嫌そうな顔で見ていた。

 

 

『サイヤ人は何を考えているのか分からん……。

 昔からそうだった……、不愉快な連中だ…………』

 

 

 何も反応する事が出来ない悟空を見て、フリーザの表情に残虐な笑みが浮かぶ。

 

 

『ボクはもうこのつまらない戦いを、これ以上続ける気はない。

 この星もろとも、お前にトドメを刺してやる。

 もう1匹のチビのサイヤ人も、死ぬことになる。

 これでこの世からサイヤ人は消えて無くなる……』

 

 

 そう告げると、フリーザは悟空に向け人差し指を突きつける。

 

 

『所詮、超サイヤ人というのは夢物語だったな…………、ん?』

 

 

 フリーザが悟空にトドメを刺そうとした瞬間だった、悟空の後ろの水面に丸い何かが映っている事に気が付いたのだ。

 

 

『…………太陽じゃない……、なんだ…………!?』

 

 

 頭上を見上げたフリーザは、あまりの事態に驚愕の表情を浮かべる。

 

 

『な……なんだ……!?あれは!ま、まさかエネルギーの塊……』

 

 

 そして、言葉にしたと同時に瞬時に先程までの悟空の行動の意味を理解すると、驚愕の表情を浮かべたまま悟空に視線を向ける。

 

 

『きっ……、貴様が……!!!

 な……、あんなものを上空に作ってやがったのか……。

 どこにあんなパワーが残っていたんだ…………』

 

 

 とうとう元気玉の存在に気付いてしまったフリーザは、その存在に驚きこそしたものの、残忍な笑みを浮かべ、改めて悟空に人差し指を悟空に突きつける。

 そして、元気玉の存在がバレた悟空は悔しそうな表情で項垂れていた。

 

 

『だまし討ちをするつもりだったか……情けないヤツめ!

 だが、せっかくの苦肉の策も無駄になってしまったな……』

 

 

 フリーザの人差し指にエネルギーが集まろうとした瞬間、悟空は顔を上げフリーザに殴りかかる。

 

 

『くそーーーーーっ!!!』

 

 

 だが、今の体力が低下した状態の悟空のパンチはあっさりフリーザに受け止められ、目の前にエネルギーが籠った人差し指を突きつけられる。

 

 

『消えろ!!!』

 

 

 フリーザの言葉を聞き、死を覚悟した悟空だったが、殺されるその瞬間、悟空の視界からフリーザが消えたのだ。

 フリーザを悟空の視線から消し去ったのはピッコロだった。

 悟空が殺されるその瞬間、フリーザを海の中に蹴っ飛ばしたのだ。

 

 

『ピ……ピッコロ……!!!』

『さっさと元気玉とやらを、完成させちまえっ!!!』

 

 

 驚きのあまり、事態を把握できていない悟空に、行動を促すピッコロ。

 そして、自分のやる事を思い出した様に表情を引き締める悟空。

 

 

『す……すまねぇ…………!!』

 

 

 一言礼を述べ、ボロボロの身体を引きずりながらも立ち上がった悟空は、力強く両手を掲げ元気玉の完成に集中力を注ぐ。

 

 

『早くしろ悟空!!!オレの力では今の不意打ちが精一杯だ!!!』

 

 

 ピッコロが悟空に向かって声をかけたとほぼ同時だった、フリーザが勢いよく海から飛び出してきた。

 

 

『まだウロウロしていやがったのか…………!!!あのナメック星人め〜〜〜!!!』

 

 

 その表情には、悟空を殺す邪魔をされたからか途轍もない怒りが込められていた。

 それを見たピッコロは、全身から冷や汗が吹き出るのを感じた。

 

 

『まだか!?孫悟空!!まだ元気玉は完成せんか!?

 フリーザの野郎、もうすっかりアタマにきてやがるぜ!!!

 うてっ!!!もう、うっちまえ!!!』

『だ……ダメだ、もう少し……もう少し……!!!』 

 

 

 フリーザの怒り具合から、不完全な状態の元気玉を打つ様に悟空を急かすピッコロだったが、今の元気玉ではフリーザを倒す事が出来ないとしっかり理解しているからこそ、悟空はギリギリまで粘る。

 だが、その様子を見ていたフリーザはますます怒りを露わにする。

 

 

『どいつもこいつも、こそこそ動き回りやがって…………!!!うっとおしいハエどもが〜〜〜!!』

 

 

 フリーザが言葉を発したその瞬間、何かに気づいたフリーザは後ろを振り向くと、2発のエネルギー弾が直撃する。

 3人がエネルギー弾の発生先に視線を向けると、遠く離れた岩石の上からクリリンと悟飯が手をかざしている姿が見えた。

 

 悟飯とクリリンの存在を視界に収めたフリーザの中で、ついに何かが切れた……。

 

 

『あんなところにも、まだハエが逃げずにいたとは…………。

 ふふふ……、まったく人をイライラさせるのがうまいヤツらだ……』

 

 

 不気味な笑みを浮かべたフリーザの口角はピクピクと震えており、頭には血管が浮かんでいた。

 しかし、次の瞬間キッと表情を引き締めると全てのモノに宣言する。

 

 

『もう、ここまでだ!!!

 この星もろとも貴様らをゴミにしてやるーーーーーっ!!!』

 

 

 フリーザが宣言をしたのとほぼ同じタイミングだった、遂に悟空の元気玉が完成したのだ。

 

 

『よし!!!出来たぞ!!!!』

 

 

 悟空が元気玉の完成を声に出した時、フリーザの人差し指の先に30センチ程のエネルギーの塊が出来上がっていた。

 そのエネルギーの塊には、ナメック星を破壊するには十分すぎる程のエネルギーが込められていた。

 

 

『やれーーーーーっ!!!』

 

 

 フリーザの攻撃に気付いたピッコロは、悟空に攻撃を促す。

 そして、ついに皆の希望が詰まった元気玉を完成させた悟空の両手がフリーザに向けて振り下ろされた……。

 

 

 

 今、あたしの目の前で超巨大なエネルギーの塊があのフリーザに向けて、物凄いスピードで落下している。

 フリーザにバレた時は、もうこれまでかと思ったけど、カカロットは諦めず仲間たちの協力の元、なんとかあの超巨大エネルギーの塊を完成させた。

 

 

「いっけぇーーーーーーっ!!!」

「やっちまえーーーーーっ!!!」

 

 

 完成された超巨大なエネルギーの塊を見て私達は、つい自然と声を上げていた。

 そして、その超巨大なエネルギーの塊がついにフリーザ目掛けて放たれたのだ。

 その光景は正しく太陽が落下している様だった。

 

 その様子を私達は固唾を飲んで、見守っていた。

 

 

『しっ……しまった……!!!』

 

 

 超巨大なエネルギーの塊が自身に向かって降りて来ている事に気付いたフリーザは、すぐさま指先のエネルギーの塊を消し両手で超巨大なエネルギーの塊を受け止める。

 

 

『こんなもの…………!!!』

 

 

 流石のフリーザも50mを優に超える超巨大なエネルギーの塊には為す術がないのか、どんどん地上に押し込まれていく。

 だが、それでもフリーザに諦める気配は感じられない……。

 必死の形相を浮かべ、両手で超巨大なエネルギーの塊を押し返そうと足掻いていた。

 

 こんな表情のフリーザ……、あたしは見たことがない…………。

 いや、きっと今まで誰もこんな必死で足掻くフリーザを見たことはないだろう……。

 

 

『こ……ここ……、こんな……もの…………!!!こっ、こんな…………』

 

 

 だが……、そのフリーザの必死の形相がついに絶望に変わる瞬間が訪れた……。

 

 

『こっ……うあああああーーーーーっ!!!!!』

 

 

 必死に足掻いたフリーザだったが、カカロットが放った超巨大なエネルギーの塊に絶叫と共に飲み込まれ、ナメック星の大地へと落ちていく。

 

そして……、ついに……、ついにあたし達サイヤ人が長年、夢にまで見た光景が訪れようとしていた……。

 

 超巨大なエネルギーの塊はナメック星の大地へ激突した瞬間、そこに込められたエネルギーを解放する様に轟音と凄まじい光を放ち大爆発を起こした……。

 

 あまりの眩しさと激しい音に、あたしは僅かに水晶から目を逸らす。

 

 轟音と光が収まり、あたしが水晶に視線を向けると、そこには穏やかな海だけが水晶に映っていた……。

 

 先程まで戦いを繰り広げていたカカロットとフリーザ、そして2人が戦っていた陸地さえもその姿を消していた……。

 

 まるで、戦いなんて初めから無かったんだとばかりに、穏やかな海だけが水晶の中には映し出されていたんだ……。

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