ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 13

■Side:ギネ

 

 

 あたしが見ているこの光景は現実なんだろうか……?

 さっきまで目の前の水晶では、あたし達サイヤ人の希望を背負った息子とあたし達から全てを奪い去った宇宙の帝王の凄まじい戦いを映し出していた。

 だというのに、今水晶が映し出している光景は穏やかな波音をたてる海だけだった……。

 

 先程まで本当に戦いなんておこっていたのか?と感じさせるその光景を、あたし達はただ呆然と見つめていた……。

 

 

「やりやがった……、あ……、あいつ……、本当にやりやがった……」

 

 

 あたしが声の上がった方に視線を向けると……、あたしはまたしても自分の見ている光景を疑う事になった。

 なんせ長い事こいつの女房をやっているけど、こいつ……バーダックのこんな間抜けな顔を見たのは初めてだったからだ……。

 

 

「ねぇ……、バーダック……、あたし達が見ているこの光景って……、夢……じゃないよね……??」

「あぁ、あいつは……、カカロットは確かにフリーザの野郎をやりやがった!!!」

 

 

 あたしの問いかけに、バーダック自身もようやく実感が湧いたのか、あたしに向けていつも浮かべる不敵な笑みを見せてくれた。

 その瞬間だった……、あたし達の周りで大歓声が上がったのは。

 

 

「うぉおおおおおーーーーーーっ!!!本当にフリーザの野郎をやりやがった!!!」

「ねぇ、本当だよね!?本当に……、あのフリーザを倒したんだよねぇ!!!ねぇ!!!」

「しっ……信じれねぇ……!!!カカロットの野郎、マジかよ……」

 

 

 そんな中、ふとラディッツが思い出した様に声を上げる。

 

 

「そう言えば……、カカロットの野郎はどうなった……?」

「そうだよ!!カカロット……カカロットはどうしたのさ???」

 

 

 ラディッツの言葉にギネは、喜びの表情から一転青褪めた表情で水晶に視線を向ける。

 

 

「心配すんな、カカロットのやつはあそこだ……」

 

 

 だが、そんなギネを安心させる様に普段より柔らかい声でバーダックは水晶の端の方を指さす。

 そうすると、水晶がまたしてもこちらの意思を察した様に、遠目に映っていたモノをズームする様に表示した。

 そこには、ナメック星人に引っ張り上げられる形で海から陸に姿を現したカカロットが映し出されていた。

 

 

『はあっ、はあっ』

「カカロット!!!」

 

 

 あたしは、カカロットの姿を見て喜びの声を上げた。

 映し出されたカカロットの姿は満身創痍でかなりボロボロなうえ、息がかなり上がっている様だった。

 無理もない。あれほどの攻撃を繰り出した上、あの超巨大なエネルギーの塊を完成させるまでフリーザの猛功を耐え続けたのだ。

 

 寧ろ、あの程度の怪我で済んでいる事の方が、あたしには奇跡に思えてならなかった……。

 

 あたしがそんな事を想いながら、水晶を見ていると休んでいるカカロットの元に息子のゴハンと仲間のハゲがやってきて、カカロットとナメック星人の男と共に喜びを分かち合っていた。

 今のカカロットの表情は、フリーザと向き合っていた時の険しい表情とは違い、疲れの色が強いもののとても優しい顔で笑っていた。

 

 そんなあの子の姿を見て、あたしは改めてあの子が今尚こうして五体満足の身体で……、何より生き残ってくれた事に自然と涙が流れた……。

 

 本当に……、本当によく頑張ったね……カカロット……。

 

 あんたは……、あたしの自慢の息子だよ……。

 

 

 だけど……、あたし達はまもなく思い知る事になる……。

 

 世界ってヤツはどこまでいっても、不条理だって事をさ……。

 

 そして、そいつはいつだって突然やってくるんだって事も……。

 

 

 

『そ……そ……そんな…………』

 

 

 浮かれているあたし達の耳に、場違いだと言っていい程の何かに驚愕した声が届いた。

 皆がその声を頼りに、水晶に視線を向けると、カカロットの仲間のハゲが全身を震わせている姿が映し出されていた。

 その姿にあたし達は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 だが、何故あのハゲがあんなに全身を震わせているのか、その原因をあたし達はすぐ知る事になる……。

 絶望を含んだ叫び声と共に……。

 

 

『フリーザだーーーーーっ!!!!!』

 

 

 ハゲが叫び声を上げた瞬間、一筋の閃光が走る。

 何が起きたのか理解出来ていないあたし達は、さっきまでのバカ騒ぎが嘘の様に、呆然とした表情でその光景を見ている事しか出来なかった。

 そして、意識が現実にようやく追いついた時には、ナメック星人が何者かに心臓を撃ち抜かれて倒れ伏し、ゴハンの悲鳴にも似た叫びが水晶を通して地獄に響き渡る……。

 

 

『ピッコロさーーーーーん!!!』

「……え?……なに?……何が……起こったの??」

 

 

 あたしは倒れ伏したナメック星人を見て、呆然と呟いた。

 そして、次の瞬間、水晶に映し出された存在を見て、あたし達は驚愕する事となる……。

 何故ならそこには、あたしが二度と視界に入れたくなかった存在が映し出されていたからだ。

 

 

「フ……フリー……ザ…………」

 

 

 水晶に映し出されたその姿は、全身ボロボロになり息も絶え絶えで、尻尾も半分失い満身創痍だと言うのに、しっかりと2本足で立っているフリーザだった。

 カカロット達を見下ろすその表情には、怒りを超え憎しみすら籠った表情を浮かべていた。

 そして、自分をこんな目に合わせたヤツ等を絶対に許さない!という意志が強く感じる事が容易に出来た。

 

 

『さ……流石のオレも今のは死ぬかと思った……。

 このフリーザさまが死にかけたんだぞ……』

 

 

 フリーザの途轍もない怒りを感じ取った悟空は、瞬時にクリリンと悟飯の2人に視線を向け声を上げる。

 

 

『逃げろおめえ達!!

 オラが最初にやって来たところのすぐ近くに宇宙船がある!!

 ブルマを連れてこの星を離れろ!!!』

『な、何言ってんだ…………!

 なに、考えてんだ悟空…………!そんなこと…………』

 

 

 悟空の言葉に不吉な予感を感じ取ったクリリンは、顔中に冷や汗を流しながら、焦った様に悟空に声をかける。

 だが、悟空は長い付き合いであるクリリンすら見た事がない剣幕でクリリンの言葉を封じる。

 

 

『さ……さっさといけ!!!ジャマだ!!!

 みんなそろって死にてえか!!!』

 

 

 今のフリーザの姿を見た瞬間、瞬時に皆殺しにされると直感した悟空は、自身が囮になりフリーザを足止めしようと考えた。

 その為、急ぎ2人をこの場から避難させようとしたのだが、そんな事この存在が許すはずが無かった……。

 

 

『貴様らを許すと思うか?1匹残らず生かしては帰さんぞ……』

 

 

 残酷で冷徹な笑みを浮かべながら発せられたその言葉には、これまでのフリーザには常に感じられた遊びなど一切なく。

 確実に『殺す』という純粋な殺意のみ込められていた。

 

 そして、それを証明するかの様にフリーザは早速行動に出る。

 

 

『ダメージはくらっても、貴様らごとき片付けるのはわけないぞ!!!!』

 

 

 怒声を発したフリーザは、即座に右手を上げ掌をクリリンに向ける。

 すると、クリリンの身体は瞬時に自由を奪われる。

 

 

『!!』

 

 

 クリリンが突然の事に声にならない声を発すると、身体はクリリンの意思を無視して宙に向かって勝手に浮かび上がっていく。

 

 

『うっ、うわあああーーーーーっ!!!!』

 

 

 自身の身体の自由を奪われたクリリンは、驚きの叫びを上げながらどんどん上空へとその身体を上昇させる。

 

 

『クリリーーーーーン!!!』

 

 

 それをただ見ている事しか出来ない悟空は、必死の形相で叫ぶ事しか出来なかった。

 そんな時、フリーザの方からとてつもなく嫌な気配が伝わってきた。

 即座にフリーザの方に視線を向けた悟空は、その表情を見た瞬間、無意識に叫んでいた。

 

 

『やっ、やめろフリーザーーーーーッ!!!!』

 

 

 悟空の叫びを聞いたフリーザは、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべると掲げていた右手を容赦無く握りつぶした……。

 

 

『悟空ーーーーーっ!!!!』

 

 

 その叫びを最後にクリリンの肉体は一瞬膨れ上がると、瞬時に爆発し爆炎に包まれながら弾け飛んだ。

 燃えながら弾け飛んだ残骸を、魂が抜けた様な呆然とした表情で見つめる悟空……。

 そして、そんな悟空の様子を残忍な笑みを浮かべながら笑い声を上げるフリーザ。

 

 

『くっくっく……、お次はガキの方かな?』

 

 

 フリーザに次の標的にされた悟飯は、恐怖で表情を歪めながら後ずさる……。

 そんな時に、悟飯の横から小さな声が発せられた。

 その声は気を抜いてしまえば、聞き逃しそうなほど小声だったが、フリーザと悟飯には確かに聞こえた。

 

 2人が視線を声の発生源に向けると、そこには俯き全身を震わせている悟空の姿が目に映った。

 

 

『ゆ……許さん……、よくも……よくもぉ…………くっ……』

 

 

 だが、そこにいる悟空はそれまでと何かが違っていた……。

 ただ俯き全身を震わせているだけだと言うのに、纏っているプレッシャーがこれまでとは桁違いだったのだ。

 さらに、フリーザには感じ取れなかったが、気を感じる事が出来る悟飯には、特大の元気玉を放ちドン底まで低下していた悟空の気が、どんどん高まっていっているのに気付いた。

 

 

『くっ……くぅ……』

 

 

 悟空の気の高まりに呼応する様に、周りの石や砂は重力を無視するかの様に宙に浮き上がり、更にはナメック星の大地は割れ、海は荒れ狂い、空からはいくつもの雷が落ちる。

 これだけの異常事態を起こして起きながらも、悟空の気の上昇はまだ続いていた。

 そして、その異常はついに悟空自身にも訪れていた。

 

 気が高まるにつれ、悟空の髪が逆立ち、時折髪の色が黄金色へと変化したと思ったら、また黒髪へ戻るという現象を先程から何回も繰り返しているのだ……。

 しかも、だんだんその間隔が短くなっている。

 

 悟空に起こってい異常に、フリーザと悟飯の2人は言葉どころか動くことすら忘れ、ただ見入っていた。

 

 

『よくも……よくもぉ……くっ……うぅ……うぅぁああああああーーーーーっ!!!!!』

 

 

 そして、ついに悟空は悲しみを超える怒りの咆哮を上げ、自身の中に宿る力を完全に解き放った。

 その瞬間、全身から黄金色のオーラが吹き出し、ナメック星を黄金色の爆轟が満たした。

 悟空の髪は完全に黒髪から金髪へ、瞳は黒から碧色へと変化していた。

 

 

『!?なっ、何!?』

 

 

 そのあまりの変わりっぷりに、フリーザは驚愕の表情を隠せなかった。

 そんなフリーザを黄金色に包まれた戦士は、険しい表情を浮かべ碧色の瞳で睨みつける。

 

 

 

「なっ、何だよ……、あれ……??」

「カカロットのやつ……、どっ……どうしちゃったのさ…………」

 

 

 水晶の中のカカロットの急激な変身には、あたし達地獄のサイヤ人も驚愕を隠せなかった。

 黄金色のオーラを纏っている今のカカロットは、見た目だけじゃなく雰囲気や性格まで変わっている様だった。

 何より水晶越しだと言うのに、伝わってくる威圧感が尋常じゃない……。

 

 

「あの変身もカカロットの妙な技の1つ……なのだろうか?」

 

 

 あたし達がカカロットの変化に戸惑っていると、ラディッツが確信を持ってない推測を口にする。

 しかし、それは次の存在によって否定されることとなる。

 

 

「いや……、あの変身は……カカロットの技なんかじゃねぇ…………」

「何か知ってるのかい?バーダック!?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたあたしが彼の方を見ると、当のバーダックは信じられないものを見たと言わんばかりに両目を見開き、若干身体が震えている様だった。

 その様子と返事がなかったことに、あたしはただ事じゃないと感じ、再度バーダックに声をかけてみる。

 

 

「ねぇ!ねぇってば!!バーダック!!!あんたどうしちゃったのさ!!!」

 

 

 肩に手を置き揺らしてみるが、それでもバーダックの視線は水晶から離れなかった……。

 考えるまでもなく、原因はカカロットに起きた変身だろう……。

 いったい……、あの変身は何なんだろう……?

 

 

 

■Side:バーダック

 

 

 一体何がどうなってやがる……?

 オレは今自分が見ている光景に驚きを隠せなかった……。

 誰かに身体を揺すられている様な気がするが、そんな事が気にならないくらい、オレは混乱の極致って状態だった。

 

 カカロットが変身した姿と非常に似た姿の存在を、オレは知っている……。

 先程数十年ぶりに発動したあの力で、確かにオレは見た……。

 今のカカロットによく似た姿のヤツを……。

 

 

『なっ、なんだ!?あいつのあの変化は……!!

 サイヤ人は大猿にしか変わらんはず……、……どういう事だ…………!?』

 

 

 水晶の中からフリーザの動揺が混じった声が聞こえてきた。

 

 だが、今あいつが発した言葉にオレは何故だか引っかかりを覚えた……。

 ……なんだ?……オレは一体何が引っかかった??

 

 オレが思考の海に沈んでいる時、水晶の中では、変身したカカロットが息子達を逃がそうとしていた。

 ゴハンはカカロットの発言に戸惑いを隠せない様だったが、カカロットの剣幕におされ、それ以上は何も言わず大人しく負傷したナメック星人を抱え飛び立った。

 

 だが、こいつがそんな事を許すはずがなかった……。

 

 

『はーーーっはっはっは!!!このまま逃がすわけがなかろう!!!』

 

 

 飛び立ったゴハンの背後を狙う様に、フリーザの指先にエネルギーが集まる。

 今にも攻撃が発射されようとしたその瞬間、カカロットの姿が瞬間移動をしたと錯覚するぐらいの速度でフリーザの目の前に現れる。

 いきなり目の前に現れたカカロットに、驚愕の表情を浮かべるフリーザ。

 

 フリーザの目の前に現れたカカロットは、フリーザがゴハンに向けていた右腕を無造作に掴む。

 だが、そこに込められた力はそうとうなものだったらしく、腕を掴まれたフリーザの顔が痛みからかどんどん歪んでいく。

 

 

『いい加減にしろ……、このクズやろう……!!!

 罪もないものを次から次へと殺しやがって……、ク……クリリンまで……』

 

 

 カカロットの表情と言葉にはフリーザへの明確な怒りが籠っていた。

 そして、それに伴う様にフリーザの腕を掴んでいる手にも力が加わっている様だった。

 

 あまりの痛みで苦痛の表情を浮かべていたフリーザだったが、何とか力付くでカカロットの手から腕を抜き取ることに成功する。

 

 

『くっ!!!』

 

 

 腕を抜き取ったフリーザは即座に後ろに跳び、カカロットから距離をとった。

 しかし、その表情には距離をとった安心や、カカロットへの怒り等の表情ではなく、ただ驚愕だけが占めていた。

 まるで目の前で起きている事態が、信じられないとばかりに……。

 

 

『な……なぜ貴様に、そ……そんな力が……、ま……まさか……き……きさま…………』

 

 

 オレは水晶の中のカカロットとフリーザのやり取りを見ながら、先程から頭の中で引っ掛かっている事について考えていた……。

 

 ……サイヤ人……変わる……大猿…………変わる……変わる?……!!……まさか…………!?

 

 色々考えを巡らせたオレは、ついに1つの推測が頭の中で浮かび上がった……。

 

 カカロット……、お前は……本当に…………!?

 

 

 バーダックが悟空の変身について1つの可能性を見出した時、ついに悟空の怒りが爆発した。

 

 

『オレは怒ったぞーーーーーっ!!!!!フリーザーーーーーッ!!!!!』

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「すっ……すごい……」

 

 

 あたし達は目の前で起こっている事態に驚きを隠し得なかった……。

 怒りの叫びを上げてからのカカロットは、先程までフラフラだったのが嘘の様にフリーザ相手にとてつもない戦いを繰り広げていた。

 

 

 

 黄金のオーラを纏った悟空は怒りの叫びをあげると、フリーザの反応を超える速度で近づきその顔面を殴り飛ばす。

 そして、吹き飛んだフリーザに瞬時に追いつくとナックルハンマーを頭上から叩きつける。

 攻撃を受けたフリーザは物凄いスピードで地面に向けて落下すると、轟音を響かせながら地面に激突する。

 

 フリーザが激突した地面は大きくひび割れ、砂煙も高く上がっていた。

 攻撃の威力が強すぎたのか、フリーザの姿は攻撃の衝撃で出来たひび割れた大地もとい岩石の下に隠れてしまっている。

 だが、数秒もしない内に爆発みたいな音と衝撃が走ると、そこにはほとんどダメージを受けていないフリーザが立っていた。

 

 気を外側に放出する事で、周りにあった岩等を吹っ飛ばしたのだ。

 姿を現したフリーザはゆっくりと浮かび上がると、空中から見下ろしていた悟空と同じ位置まで飛翔する。

 悟空と同じ位置まで戻ったフリーザは、不愉快そうな顔を隠しもせず悟空を睨みつける。

 

 

 

「おいおい、本当にカカロットのヤツどうしちまったんだよ……。

 さっきまで、ボロボロだったくせに、あの姿になってからフリーザの野郎を圧倒し始めやがったぞ」

「ああ、あの姿になってから確実に戦闘力が増しやがったな……」

 

 

 パンブーキンとトーマは姿を変えたカカロットの戦闘力に驚愕しながらも、冷静にカカロットの戦闘力を分析していた。

 この辺はやはり戦闘民族の性なのだろうか……。

 でも、変身してパワーが増すって……まるで……。

 

 トーマ達の言葉に引っ掛かりを覚えたが、それはあたしだけではなかった。

 

 

「戦闘力が増すって、大猿になったわけじゃないのにそんな事ありえるのかい?」

 

 

 あたしと同じ疑問を抱いたセリパがトーマ達に疑問を上げていた。

 

 だが、トーマ達が答えるよりも早く水晶の中から聞こえた声で、あたしの視線はまたしても水晶に引き寄せられた。

 何故ならそれは、あたしにとっては目を背けてはいけない罪そのものだったからだ……。

 

 

『偉そうな事をいいやがって……、貴様らサイヤ人は罪のない者を殺さなかったとでもいうのか?』

 

 

 言葉を発したフリーザの顔には、貴様らサイヤ人も自分と同じ穴のムジナだと言外に語っていた。

 あたしは、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に痛みみたいなのを感じた。

 そして、同時にとてつもない罪悪感が押し寄せた。

 

 それは、他の星を制圧した事を今更後悔しての事ではない。

 きっとカカロットは生まれてこのかた、他の星を制圧なんてした事はないはずだ……。

 それなのに、あいつは今目の前の最悪な存在に自分と同じ存在だと言われているのだ……。

 

 あたし達の罪が……何の罪もないあの子まで同じモノだと貶める……。

 それが情けなくて……、申し訳なくて……しかたなかった……。

 

 だが、それを受けたカカロットの表情はとても冷ややかなモノだった。

 そして、一言……顔色ひとつ変えずにただ事実だけを述べる。

 

 

『だから滅びた…………』

「なっ!?」

「んだとぉ!!」

 

 

 カカロットの受け答えが気に入らなかったのか、フリーザは更に表情を不愉快そうに歪めた。

 だが、あたしの周りのいたヤツ等もカカロットの今の言葉には、怒りを隠せない様だった。

 

 

「カカロットの野郎……!!オレ達が滅んだのが当然みたいなこと言いやがったぞ!!ふざけやがってぇ!!!」

「流石に今の言葉は頭にくるぜ……」

「なんで、あたし達が滅びなきゃなんないのさ!!!」

 

 

 特に怒りを露わにしていたのが、惑星ベジータ消滅の時とほぼ同じタイミングで死んだ、バーダックやあたしの昔の仲間達だった。

 正直今のカカロットの言葉は、あたしもショックだった……。

 

 そんな時、ふとあたしは思い出した……。

 あの時一番怒っていたのが誰だったかという事を……。

 

 あたしは、その人物に視線を向けるとその人物はぼそりと呟いた……。

 だが、その内容はあたし達が想像すらしていない様な言葉だった……。

 

 

「分かってんじゃねぇか……、カカロット」

「えっ?」

 

 

 あたしはバーダックが呟いたその言葉が信じられなくて、つい自然と呆けた様な声を出していた。

 そんなあたしに普段と変わらない顔したバーダックが、不思議なものを見る様な目を向ける。

 

 

「どうした?ギネ?」

「え……いや……、バーダックは……怒ってないのかい?」

「怒るって……、何にだ??」

 

 

 あたしが言葉を選ぶ様に問いかけると、バーダックは尋ねられた意味が分からないとばかりに首をひねる。

 

 

「カカロットのさっきの言葉にだよ!!」

 

 

 埒が明かないと感じたあたしは、バーダックに直球で聞いてみた。

 そしたら、バーダックはようやく理解した様な表情を浮かべる。

 そして、静かに口を開く……。

 

 

「ああ……、あれか。別に怒る事なんてねぇだろ……事実だしな……」

「なんだってぇ!?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、あたしが少なからず衝撃を受けていると思わぬところから横槍が入った。

 あたしとバーダックが声の主に視線を向けると、全身に怒りを滲ませたセリパだった。

 セリパだけじゃない、トーマやパンブーキン、トテッポまで声にこそ出さないまでも、険しい顔でこちらを睨んでいた。

 

 

「バーダック!!あんたのその言葉……どういう意味だい……??」

 

 

 セリパはバーダックの答え次第では、今すぐにでも戦闘を辞さないって雰囲気を醸し出しながらバーダックに問いかける。

 だが、そんなセリパにバーダックは冷ややかな目を向ける。

 

 

「どういう意味も何もねぇよ……。オレ達はただフリーザに負けて滅んだ……。

 それが事実だ。……違うか?」

 

 

 バーダックの言葉はどこまでも冷ややかだった。

 その雰囲気と視線に気圧されたセリパは、一瞬後ずさるがすぐに持ち直したのか、バーダックを睨みつける。

 

 

「だとしても、あたし達サイヤ人が滅びるのが当然だったとでもあんたは言うつもりかい!?」

 

 

 セリパの言葉を聞いたバーダックはただでさえ冷ややかだった視線を、さらに細める。

 そこには、少なからず怒りが感じられたのはあたしだけだろうか……?

 

 

「セリパよぉ……、オレ達は生きている間色々な星を制圧して滅ぼして来た。

 その滅ぼしてきた星のヤツ等がよぉ、自分達が滅びる必要なんかあったのか?

 なんて、テメーに問いかけたらテメーはなんて答えんだ?」

「ああ?んなの、弱いテメー等が悪いんだろ!!!って言って終いさ!!!」

 

 

 バーダックの問を聞いたセリパは、頭に血が上っているのかよく考えもせず反射的に答える。

 だが、その回答はバーダックも同じ考えだった様で、同意を示す様に頷く。

 

 

「ああ、オレもお前と同じ考えだ。そいつ等が弱いからオレ達サイヤ人に星を滅ぼされた。

 ただ、そんだけだ……。

 滅ぼされたくなかったら、オレ達より強ければいい」

 

 

 そこで言葉を切ったバーダックの目に力が宿り、セリパ達を睨みつける。

 

 

「だけどよ、それはオレ達にも言える事じゃねぇのか?

 惑星ベジータの件は、色々あったが面倒くせえ事を除けば、結局のところオレ達サイヤ人がフリーザより弱かった。

 だから、滅びた……。

 散々テメー等が吐いてきた理屈だ……。それが自分達には当てはまらねぇなんてこたぁねぇだろ……。

 それが、分かってるからカカロットの野郎は、オレ達が滅びたのは必然だって言ったんだろうぜ!!」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたサイヤ人達は、皆一様に顔を顰める。

 そう、彼等だって分かっているのだ。

 この世は弱肉強食であり、力あるものこそが正義なのだ。

 

 そして、自分達はその理屈で数多の星を滅ぼし制圧してきた。

 惑星ベジータの時は、滅ぼす側から滅びる側にただ回ってしまっただけなのだ。

 

 それでも納得いっていないのか尚もセリパは喰いさがる。

 

 

「でも、あいつは……フリーザはあたし等サイヤ人を油断させて……、星の外から攻撃して惑星ベジータを吹っ飛ばしたじゃないか……」

 

 

 弱々しく吐き出されたセリパの言葉をバーダックは鼻で笑い飛ばす。

 

 

「ふん、だから何だ?油断してなかったら、フリーザに勝てるってか??

 そもそも、あいつの下でいい様に働かされていた時点で、オレ達サイヤ人はあいつに負けてんだよ……。

 惑星ベジータの消滅なんて、そいつの延長線上での出来事でしかねぇんだよ……」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたセリパは遂に項垂れてしまう。

 だが、その言葉を聞いていたあたしはどうしても気になって仕方なかった事があった。

 

 

「ねぇ、バーダック……。そこまで自分達の滅びを受け入れておきながら……、どうして、あんたは惑星ベジータが消滅する時にフリーザに立ち向かっていったんだい?

 しかも、かなり怒ってたよね??」

 

 

 あたしの問いかけを聞いたバーダックは、一瞬苦い表情を浮かべると、あたしの視線から外れる様に背を向ける。

 それを不思議そうにあたしやセリパ達の視線はバーダックの背中に集まる。

 

 

「オレ達戦いに身を置く者にとって、強者は絶対だ……。

 だけどよ……、戦ってもいねぇのにそいつより弱いなんて認めるほどオレは人間出来ちゃいねぇんだよ……。

 それに、オレは黙って殺られてやるほど、お人好しでもねぇ……」

 

 

 そこで、バーダックの言葉は途切れる。

 皆が怪訝そうな表情でバーダックの背中を見つめると、バーダックはまた語りだす……。

 その時、バーダックの握りしめている拳が震えている様に見えたのは、きっと気のせいでは無いだろう。

 

 

「あの野郎はオレ達サイヤ人を好き放題使いまわした挙句、ゴミみたいに切り捨てやがった……。

 強者は絶対だってのは理屈では分かっててもよぉ……、……我慢……出来なかったんだ…………」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたセリパ達は、結局お前も同じ様なもんじゃねぇかとばかりに苦笑を浮かべる……。

 そしてあたしは、目の前の男が口にしなかった内心にまで想いを馳せる。

 

 

(本当はセリパやトーマ達が殺されたのが許せなくて、悔しくて、悲しくてあんたはあの時怒りに震えたんだろう?

 はぁ……、あんたは本当に不器用な男だねぇ……、ねぇ、バーダック)

 

 

 自分の旦那の不器用さに改めて苦笑を浮かべた、あたしだった。

 そんな時、バーダックがゆっくりと振り向き水晶を見上げると、そこに映し出されたフリーザを視界に納めポツリと一言漏らす。

 

 

「もし……、あいつがただオレの前に敵として現れたら、オレはきっとあいつをここまで憎むことも無かったのかもな……」

 

 

 その吐き出された言葉には、あたしでも汲み取れない複雑な想いが籠っている様な気がした。

 

 あたしがバーダックにその言葉について問いかけようとした時、水晶から最悪の存在の声が響いた。 

 

 

『オレが滅ぼしたんだ。サイヤ人は何となく気に入らなかったんでね……』

 

 

 フリーザの言葉を聞いたあたし達は、その内容に思わず顔を顰める。

 事実だとしても、そんな理由で滅ぼされたんだとしたら、正直たまったもんじゃ無い……。

 

 こいつのせいで、あたしは愛しの我が子達を育てられなかったのだ……。

 その理由が、フリーザの何となくの気分だったなんて、正直笑えない理由である……。

 

 

 しかし、ギネ達地獄のサイヤ人達は怒りによって気付いていなかった。

 フリーザの言葉は一見して事実を述べている様だったが、現在の悟空に対して冷や汗を浮かべ苦々しい表情をしているフリーザの有様を見ると、その言葉が違った意味の様にも取れる事に。

 今のフリーザの言葉は自分自身に「サイヤ人なんかが自分に勝てるわけがない」と言い聞かせている様にも見えるのだ。

 

 そんな、フリーザの内面を見抜いたのは、この男だけだった。

 

 悟空は強気の笑みを浮かべると明確な敵意と共にフリーザに対して勝利宣言を突きつける。

 

 

『今度はこのオレが貴様を滅ぼす』

 

 

 その言葉に地獄のサイヤ人達は苦い顔を浮かべ俯いていたのに、信じられないものを見る様に水晶に視線を向ける。

 だが、言葉を投げかけられたフリーザは、冷や汗を浮かべながらも笑みを浮かべている。

 

 

『このフリーザを?

 くっくっく……、図に乗るのもそれぐらいにしておくんだな……。

 このオレに勝てるわけがない!!』

 

 

 そこで言葉を切ったフリーザは、悟空に今まで以上の強気の笑みを浮かべ口を開く。

 それは、この短い手合わせで実際に悟空の急激なパワーアップした力を体験し、破格の分析力を持つフリーザだからこそたどり着いた1つの答えだろう。

 

 

『も……もし、本当に、き……貴様が超サイヤ人であったとしてもだ……!!』

 

 

 そのフリーザの言葉に悟空は、静かに強気の笑みを返すだけだった。

 

 

 しかし、地獄のサイヤ人達は今のフリーザの言葉に驚愕の反応を示していた。

 だが、例外な反応を1人だけ示している存在がいた。

 

 

「やはり、フリーザの野郎もその答えに行き着きやがったか……」

 

 

 バーダックの言葉に他のサイヤ人達の視線が集まる。

 

 

「お、親父!!親父はカカロットのあの変身が、超サイヤ人だと気付いていたのか??」

 

 

 真っ先に反応をしめしたのはラディッツだった。

 だが、ラディッツの問いかけは他の者達の総意でもあった。

 

 

「いや、正直確証があるわけじゃねぇ。

 カカロットの今の姿が伝説の超サイヤ人かと言われても、見た事がねぇからなぁ……。

 ただ、色々考えると、そうなんじゃねぇかって思えてしょうがねぇんだよ」

「いっ、色々って何だよ??」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたナッパが、急かす様に問いかける。

 

 

「まず、さっき王子のヤツが超サイヤ人になった、とか言ってやがっただろ?

 オレはあれは超サイヤ人じゃねぇと思っている」

「なんか理由があるのかい?」

 

 

 セリパの問いかけに、頷き言葉を続けるバーダック。

 

 

「さっきの王子の姿は、普通のサイヤ人のままだったからな……」

「それが……理由なのかい?」

 

 

 今度はバーダックの隣のギネが、なぜそれが理由?って感じで首を捻っている。

 

 

「ああ、さっきまでの王子の自称超サイヤ人は、言ってしまえば戦闘力がただバカ高いサイヤ人でしかねぇんだ。

 それをオレは超サイヤ人って呼ぶとは思えねぇ……。

 超サイヤ人って呼ぶからには、決定的に普通のサイヤ人とは違う何かがあるはずだ」

「それが、破格の戦闘力じゃねぇのか??」

 

 

 パンブーキンの問いかけに首を左右に降るバーダック。

 

 

「確かにそれもあるかもしれん。だが、よく思い出せ。

 オレ達サイヤ人には瀕死の状態から復活する他に、もう1つパワーアップする方法があるはずだ……」

「大猿か!!!」

 

 

 バーダックのヒントを聞いて、トーマが声を上げる。

 その答えに笑みを浮かべるバーダック。

 

 

「ああ……。オレは、超サイヤ人てのはサイヤ人の大猿以外の変身形態だと考えている……」

「変身形態……??」

 

 

 またしても、バーダックの言葉にギネは首を捻らせる。

 それを無視してバーダックは言葉を重ねる。

 

 

「大猿化は通常の状態から約10倍戦闘力が上昇する。

 その代わり、一部のエリートサイヤ人を除き、皆理性を失いサイヤ人の本能が表に現れる。

 また、巨大化する事でスピードも奪われるってデメリットもあるな……」

 

 

 そこで、言葉を切ったバーダックは水晶に映っている、黄金色のオーラを放っている金髪碧眼へと変化した息子へ視線を向ける。

 

 

「おそらく超サイヤ人ってのは、大猿のデメリットである理性を失う、巨大化によるスピードの減退を克服した新たな変身形態なんだろう。

 しかも、パワーアップの桁は見た限りだと大猿の時よりも大きい様だな……。

 だからこそ、カカロットの野郎は急激に戦闘力を増しやがった。

 雰囲気が変身前と大きく異なっていやがるのは、大猿ほどではないにしろ少なからずサイヤ人の本能が強く出てるからだろう……」

「なるほどな……、確かに説明されてみれば、あれが超サイヤ人だって言われても不思議じゃねぇかもな……」

 

 

 バーダックの答えにトーマは、冷や汗を流しながらも理解を示した。

 それは、どうやら他のサイヤ人達も同様だった。

 

 

「でも親父、カカロットの変身の切っ掛けはなんだったのだ?」

 

 

 ラディッツは悟空が超サイヤ人になった事を素直に受け入れたが、何がその壁を越える切っ掛けになったかまでは理解していなかった。

 自分もその場面を見ていたのにも関わらずだ……。

 そして、それは他のサイヤ人達も実は似たり寄ったりだったのかもしれない……。

 

 その辺を理解できないあたりが、長年サイヤ人の中から超サイヤ人が誕生しなかった理由の一端なのかもしれない……。

 

 

「そいつは「あのハゲ……というか、仲間の死だよ……」

「たかが、仲間の……死で……だと…………!?」

 

 

 ラディッツの問いに答えたのは、バーダックではなくギネだった。

 だが、その答えにラディッツは信じられないモノを見る様にギネを見る。

 そんな、ラディッツを悲しそうな笑みを浮かべギネは言葉を続ける。

 

 

「うん。あの子はあの時、自分の許容量を超える怒りと悲しみに心が耐えきれなくなったんだ……。

 きっと、カカロットにとって、とても大切な仲間だったんだろうね……。

 その純粋な怒りが、カカロットに超サイヤ人への扉を開いたんだよ……きっとね……」

 

 

 尚も信じられないといった表情を浮かべていたラディッツは、視線をバーダックに向ける。

 するとバーダックは、仕方ないとばかりにため息をはく。

 

 

「さっき、王子のヤツが死ぬ間際にカカロットに言ってやがっただろ?

 甘さを捨てれば、きっと超サイヤ人になれるって……。

 フリーザの野郎は、その最後の一押しをテメーで押しちまったんだよ……。

 別に甘さを捨てれば、誰でもなれるわけじゃねぇだろうが……、サイヤ人としても破格の戦闘力を持つカカロットだからこそなれたのかもな……。

 伝説の超サイヤ人によ……」

 

 

 そう言って、バーダックは改めて水晶に視線を向ける。

 それに伴って、ギネやラディッツ、そして他のサイヤ人達も水晶に視線を向ける。

 

 そこには、黄金のオーラを纏う絶対的な強者が映し出されていた。

 惑星ベジータが滅んで20数年……、ついにナメック星にて伝説は蘇った……。

 

 伝説の超サイヤ人と宇宙の帝王のバトルは更なるステージへ突入する。

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