ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 セルゲーム編 四

 トランクスによって、悟空達の話を聞いていたバーダックとギネの2人。

 そして…、ついに話は、運命の日に突入する……。

 孫悟空が死に、宇宙の命運を左右した武術大会…”セルゲーム”が開催された日へ……。

 

 目をつぶり、ふぅ…と、息を吐き出すトランクス。

 トランクスにとっては、もう10年以上前の出来事ではある……。

 しかし…、この日のことは今でも鮮明に思い出す事が出来る程、記憶に強く残っている……。

 

 気持ちの整理がついたトランクスは、再び目を開け、語り出す……。

 あの激闘の1日を……。

 

 

「セルゲーム当日…、まず最初にセルと戦ったのは、悟空さんでした……。

 精神と時の部屋での修行を終えた悟空さんの強さは、オレや父さんを遥かに超えたモノでした……。

 当然、セルと悟空さんの戦いは熾烈を極めました……。

 お互いが持てる力と戦術を駆使し、一切気が抜けない…そんな戦いでした……」

 

 

 トランクスが語る言葉を、バーダックとギネは無言で、しかし真剣な表情を浮かべ聞いていた……。

 

 

「しかし、戦況は徐々に悟空さんが不利になっていきました……。

 全力で戦っている悟空さんに対して、セルは未だ余力を残しているのが、見ているオレ達にも分かったからです。

 そして、ついに悟空さんに目に見えて疲労の色が強くなってきたんです……」

 

 

 ギネが悲痛の表情を浮かべる……。

 それを見たトランクスは、一瞬言葉を止め、ギネに言葉をかけようとしたが、それを止めたのはバーダックだった。

 

 

「それで…、それからあいつはどうなったんだ……?」

「あっ、はい。 えっと、疲労の色が強くなった悟空さんは、そこでセルに降参したんです……」

「えっ!?」

「なっ、なんだとっ!?」

 

 

 トランクスが述べた言葉に、夫婦揃って驚愕の表情を浮かべ、声を上げる。

 

 

「なっ、なんで…、何でカカロットはそこで降参しちゃったんだい?

 まだ、そこまで決定的に負けてた訳じゃ無いんだろ……?」

「はい…。 確かに悟空さんはまだまだ戦える状態でした……。

 戦っていたセルも、悟空さんの降参には驚いていたくらいですから。

 しかし、悟空さんはセルに次に自分が指名する相手は、自分よりも強く、そしてセルゲームを終わらせる存在だと告げ、次に戦う人物を指名して、舞台を降りました……」

「次に戦うって…、カカロットは、あんたや王子より強かったんだろ……?

 本当にそんなヤツがいるのかい……?」

 

 

 ギネの言葉を腕を組みながら、無言で聞いていたバーダックは、先程水晶で見た光景を思い出していた……。

 そして、その映像に映っていた息子以外のもう1人の戦士の姿を思い出した……。

 

 

「まさかっ!? トランクス…、カカロットが次に指名したヤツってのは、ゴハン…か……?」

「なっ!! ゴハンだって!? 何言ってんだいバーダック!!」

 

 

 バーダックの口から飛び出した名前に、ギネは驚きの声を上げる。

 しかし、バーダックはそんなギネを無視して、トランクスに視線を向ける……。

 

 

「そうです…。 バーダックさんの言う通りです……。 よく分かりましたね」

「さっき見た水晶の映像を思い出したんだ…。 そこにゴハンの姿が映ってやがったからな……」

「あっ!!」

 

 

 バーダックの言葉で、ギネも先程の映像を思い出した……。

 

 

「ほ、本当に…、カカロットは…ゴハンをセルと戦わせたのかい……?」

 

 

 映像を思い出したとはいえ、息子が幼いゴハンを自分よりも強い相手に戦わせたのが信じられないギネは、再度トランクスに確認する様に問いかける。

 そして、トランクスはギネに無言で首肯し、肯定の意を示す。

 

 

「そ、そんな…。 あの子まだ10歳にもなってないだろ……?

 それなのに、あんなバケモノに1人で挑ませるなんて、カカロットは何考えてんだい!?」

「まぁ、サイヤ人なら別に珍しい事じゃねぇが…、わざわざテメーが引っ込んでまでゴハンを舞台に立たせたんだ……。

 あいつには勝算があったんだろ…。 違うか? トランクス……」

「ええ…、その通りです……。

 今思えば…、あの時、あの場で悟空さんただ1人だけが、セルを倒す未来が見えていたのかもしれませんね……」

 

 

 そしてトランクスは語り出す……。

 これから語るのは、長年地球を守ってきた英雄の話では無い……。

 偉大なる英雄の父を超え、その遺志を継いだ小さな少年の戦いの物語……。

 

 

「悟空さんに指名され、セルと戦うことになった悟飯さんですが、やはりその場にいた全ての人間の予想した通り、すぐに劣勢に追い込まれました。

 戦闘力だけ見れば、悟飯さんも悟空さんに負けていなかったのですが、悟飯さんは悟空さんに比べ、戦いの経験が遥かに劣っています。

 その為、同じ戦闘力でも悟空さんみたいに戦う事が出来ませんでした……。

 しかし、それ以前にどうも悟飯さんは戦いそのものに消極的で、なかなかセルに攻撃する事が出来ないでいました……」

「おいおい…、そいつは戦い以前の問題じゃねぇか……」

「仕方ないよ…。 ゴハンはサイヤ人の血を引いてるって言っても、地球で育った子なんだから……。

 あの子は本来戦いが嫌いな優しい子なんだよ……」

 

 

 トランクスが語る悟飯の戦いっぷりに、顔をしかめるバーダックと悟飯の心情に理解を示すギネ。

 

 

「だとしても、このまんまじゃセルに殺されて終わりだろうが…!!

 そんな事言ってる場合じゃねぇだろ……」

「それは…、そうなんだけどさ……」

 

 

 ギネもバーダックが言わんとしている事は理解しているのだ……。

 だが、普通のサイヤ人とは価値観が違うギネからしてみれば、悟飯の気持ちもよく分かるのだ……。

 

 

「そもそも、カカロットのヤツはゴハンのそういう性格を知ってたんじゃねぇのか?

 それなのに、何故アイツはゴハンを戦いの舞台に立たせたんだ……?」

 

 

 バーダックは、悟飯の性格がギネと同じ様に戦いに向いてないと判断し、いくら戦闘力が高かろうが戦う遺志が低い人間を何故、悟空が戦いの場に立たせたのか疑問を覚えた……。

 

 

「悟飯さんは、子供の時から怒りが限界に達すると我を忘れて、とんでもない力を発揮したらしいんです。

 悟空さんは悟飯さんと精神と時の部屋で修行しているうちに、悟飯さんの中に深く深く封じ込められ眠っていた力が解放され始めたのを感じたんだそうです。

 セルを倒すには、その力を解放させるしか無いと考えたようです……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネは驚きの表情を浮かべる。

 まさか、悟飯にそれだけの潜在能力が隠されているとは、思いもしなかったのだ……。

 

 

「戦いに消極的だった悟飯さんは、セルに悟空さんの思惑を伝え、戦いをやめる事を提案した様なんです。

 しかし、当然そんな事で止まるセルではありません。

 それからセルは、悟飯さんを怒らせる為に、ありとあらゆる手段を用いて悟飯さんを攻撃しました。

 ですが…、悟飯さんは自分への攻撃ではなかなか怒る事は無く、次にセルはオレ達を攻撃して、オレ達が傷つく姿を見せる事で悟飯さんの怒りに火をつけようとしたんです。

 その為に、あいつが用いた手段がセルジュニアです……」

「セルジュニア? 何だい…? それは……」

「簡単に言えば、セルの子供です……。 あいつは、自分の身体から子供を生み出す事が出来るんです。

 しかも、戦闘力も高く、セルとほぼ同じ能力を持った子供です……」

「こっ、子供だって……!?」

 

 

 まさか、自ら子供を生み出すとは、セルの意外な能力に驚くギネ。

 

 

「トランクス…、今更なんだが、セルもお前の居た未来に存在する人造人間17号、18号と同じ人造人間なんだよな……?

 そいつらもセルみたいな事が出来んのか……?」

「いえ、出来ません……。

 そもそも、セルと17号、18号とではまったく、その成り立ちが違うんです……。

 17号と18号は、元々人間だった存在を改造して生み出されたんです。

 それに対して、セルは悟空さんや父さん、そしてその仲間達や、地球に存在する優秀な武道家、更にフリーザ親子の遺伝子を採取して培養して生み出された存在なんです。

 なのでヤツは、悟空さんや父さん、果てはフリーザの技すら使用する事が出来ます……」

「なっ…、なんだいそりゃ……!?」

 

 

 セルの誕生の秘密を知ったバーダックとギネは、驚きを隠せなかった……。

 そして同時に、セルの飛び抜けた強さの理由もようやく納得する事が出来た……。

 

 

「さて、話が脱線してしまいましたが…、セルから生み出されたセルジュニアはオレ達に向かって襲ってきました。

 ヤツらは当時のオレや父さんとほぼ互角の強さを持っていました。

 その為、セルとの戦いで消耗した悟空さんや、サイヤ人でない他の仲間達はセルジュニアにいい様に痛めつけられる事になりました……」

「ひっ、酷い……」

 

 

 セルの所業に顔を歪ませるギネ。

 

 

「結果としてセルの思惑は、成功したと言ってもいいでしょう……。

 悟飯さんは仲間達がセルジュニアに傷つけられる姿を見て、無意識に少しずつ潜在能力を解放していきました。

 そして、ついに悟飯さんの怒りが限界を迎えるんです……。

 17号、18号と一緒に行動していた、人造人間16号がセルに半壊されながらも悟飯さんに、戦う事の意味を説いたんです……。

 正しい事の為に戦う事は罪ではない…。 精神を怒りのままに解放してやれ…と。

 そして、彼が好きだった自然や動物達を守ってくれと言い残し、彼はセルに完全に破壊されました……。

 それを見た瞬間、悟飯さんの中で眠っていた力が、ようやく解放されたんです……」

 

 

 その時を、思い出したのかトランクスは一度喋るのをやめ、目をつぶる……。

 そして、目を開くと再び喋り出す。

 

 

「怒りによって真の力を解放した悟飯さんは本当に凄かったです……。

 その姿は紫電を身に纏い、見た目から通常の超サイヤ人とは異なっていました。

 感じられるその力の波動も、完璧に超サイヤ人の壁を超えていました……」

 

 

 どこか畏怖を込めて語るトランクスに、自然とギネとバーダックはその時の悟飯がどれだけ凄かったのかを想像する……。

 実際は、2人が想像している以上にすごいのだが、その姿を見ていない2人にはそれが限界だった。

 

 

「悟飯さんとセルの第2ラウンドが始まりましたが、そこからは一方的でした……。

 真の力を解放した悟飯さんは、全てにおいて完全体のセルを上回っていました。

 しかし、自身が完全なる存在であるプライドからセルは、何とか立ち向かいますが、そのプライドが折れるのもそう長くはありませんでした……。

 悟飯さんの強烈な攻撃に、セルはどんどん追い詰められていきました……。

 その焦りから、セルは自分を見失い、それが却ってセルを追い詰める事になりました……」

「おぉ…、すごいじゃないか……。 そんな凄いヤツを一方的にブチのめすなんて……」

 

 

 これまでセルの強さを散々聞かされたギネとバーダックは、そこまで一方的に戦いを進める悟飯に驚愕を露わにする。

 そんな2人を見て、トランクスはあの時の自分もきっとこんな感じだったんだろうなぁと思いながら笑みを浮かべる。

 

 

「悟飯さんに散々、追い詰められたセルは、ついに限界を迎える事になります。

 悟飯さんの度重なる攻撃に、完全体を維持する事が出来なくなったんです……。

 体内から18号を排出したセルは、第二形態にその姿を変えました……」

「やった! それじゃあ悟飯が勝ったんだね!!」

「ええ…。 確かに、悟飯さんは戦いに勝ちました……。

 しかし、ここから最悪の展開になるまでほんの数秒の出来事でした……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネは脳裏に先程水晶で見た息子の姿を思いだす……。

 そして、それがトランクスが言う最悪の展開だと瞬時に察する2人。

 

 

「第二形態に戻ったセルは、完全に勝ち目がなくなった事を悟り、さらに形態を変化させていきました……。

 風船の様に身体をどんどん膨らませ、その様子はまるで自身の中に内包されているエネルギーを限界まで溜め込んでいっている様だした……」

「なるほどな…。 勝ち目がなくなったセルは、自分を下したゴハンや地球もろとも自ら自爆するつもりなんだな……」

「はい…」

 

 

 結末を知るバーダックが、セルの形態変化の理由を言い当てる。

 それに、表情を暗くして頷くトランクス。

 

 

「バーダックさんが言われた通り、セルの形態変化は全てを巻き込み自爆する為でした……。

 しかし、自爆まで残り10秒を切った時に、悟空さんが穏やかな笑みでこちらを振り向きこう言ったんです……」

『やっぱ、どう考えてもこれしか…、地球が助かる道は思い浮かばなかった…。 バイバイみんな……』

「そう言って、悟空さんはセルの元へ瞬間移動して、悟飯さんに別れを告げ、再度瞬間移動でセル共々界王星へ移動したんです。

 そして…、セルの自爆に巻き込まれ、命を落としたんです……」

 

 

 トランクスが告げた言葉をバーダックとギネは無言で受け止める……。

 しばらくの時間、3人の間に静寂の時が流れる……。

 そして、その静寂を破ったのは悟空の母であるギネだった……。

 

 

「ねぇ、トランクス……。 カカロットは…あの子は……最後に…笑って…た…ん…だよね……?」

 

 

 言葉を紡ぐたびに、ギネの両目から涙が溢れ出す……。

 そんなギネに、トランクスは力強く頷く……。

 

 

「はい! 悟空さんは、バーダックさんとギネさんの息子さんは最後まで笑ってました……。

 きっと、息子である悟飯さんの成長が…、心の底から嬉しかったんだと思います!!」

 

 

 トランクスの言葉を聞いたギネの頭に、自分が水晶で見た映像がフラッシュバックする……。

 その映像では、確かに悟空は最期の最期まで笑っていた……。

 

 

「そうだね…。 うん…、笑ってた……。

 後悔なんて一欠片もないくらい、あの子は笑ってた……。

 あの子は、自分が大切なモノをちゃんと守り通したんだね……」

「ええ、悟飯さんやご家族だけでなく、オレ達や地球に住む全ての人間を悟空さんは守り通したんです……。

 今、オレがここでこうして居られるのも、あの時悟空さんが守ってくれたおかげなんです……。

 悟空さんには、本当に感謝しても仕切れません……」

 

 

 自分を見つめるトランクスの力強い瞳に、ギネは自然と笑みを浮かべる……。

 

 

「そっか…。 それは、あの子の母親として、とても誇らしいよ……!!

 ありがとう、トランクス。 あの子の事を話してくれて……」

 

 

 穏やかな笑みを浮かべ、とても優しい口調でギネはトランクスに向け礼を述べる。

 そんなギネを、バーダックも優しげな笑みを浮かべ見つめて居た。

 しかし、すぐにいつもの仏頂面に表情を戻すと、口を開く……。

 

 

「ふぅ…、随分ヤベェ戦いだったみてぇだが、客観的に見ればカカロット1人の命だけで済んだってのは、本当に奇跡みてぇだな……」

 

 

 何気なくバーダックが呟いた言葉に、トランクスの表情が曇る……。

 それに、バーダックとギネは首を傾げる。

 

 

「どうかしたのかい? トランクス……」

「いえ…、実は…まだ…、セルゲームは終わっていないんです……」

「なっ、なんだとっ!?」

「どど…、どういう事だい!? トランクス……!! セルの野郎は、カカロットと一緒に自爆して死んだんだろ!?」

 

 

 驚愕の表情を浮かべるバーダックとギネに、トランクスは首を左右に振って応える。

 

 

「実は…、セルはあの自爆で死んでいなかったんです……」

 

 

 トランクスが告げた衝撃的な内容にギネは、膝から崩れ落ちる……。

 

 

「う…うそ……。 じゃっ…じゃあ…、カカロットは…、あの子は無駄…死に…だったのかい……?」

「いいえ!それは違います!! 悟空さんの死は、決して無駄なんかじゃありません……!!」

「えっ……?」

 

 

 茫然とした表情で呟いたギネの言葉を、トランクスは全力で否定する。

 それを、茫然とした表情で見つめるギネ……。

 

 

「あの時…、悟空さんが命をかけてくれなければ、オレ達はあの時点で終わっていました……!!」

「だ、だけど…、セルのヤツは生きてたんだろ……?」

「ええ、確かにセルは生きていました……。

 あいつは、頭の核が破壊されない限り何度でも再生が可能なんです……。

 その核が自爆の時に、運良く無傷だった為、あいつは助かったんです……」

 

 

 トランクスの言葉に言葉を無くすバーダックとギネ……。

 

 

「しかも…、あいつは18号を吸収していないのに、何故か完全体として復活していたんです。

 それだけじゃありません。 あいつは、自身を構成するサイヤ人の細胞のお陰で大幅なパワーアップすら果たしていました。

 その戦闘力は、超サイヤ人の壁を超えた悟飯さんに勝るとも劣らない程でした……。

 更に…、セルは悟空さんの瞬間移動すら学習して戻ってきたんです……」

 

 

 トランクスが告げた絶望的な状況に、バーダックは苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべる……。

 

 

「そいつは…、更にセルを倒す難易度が、跳ね上がったって事じゃねぇか……」

「ええ…。 しかも、復活したセルはこれまでの様な油断は一切ありませんでした……。

 なので、すぐに片を付けるべく、全力のかめはめ波…気功波によって、地球諸共全てを消そうとしたんです……。

 ですが、それを阻むべく、セルの前に立ち塞がった人がいたんです……」

「それって……」

 

 

 ギネの言葉にトランクスは無言で頷く……。

 

 

「そうです…。 悟飯さんです……。

 ですが、悟飯さんはセルの攻撃から父さんを守る為に、左手を負傷してしまったらしいんです……。

 そんな状態では流石に、パワーアップを果たしたセルに勝てないと、悟飯さんは勝負を諦めたらしいんです」

「何やってやがんだ、王子もゴハンも……」

 

 

 大事な場面で大ポカをやらかした2人に、バーダックは顔を顰める……。

 

 

「そ、それで……」

 

 

 不安な表情を浮かべながら、ギネはトランクスに先を促す。

 

 

「勝負を諦めた悟飯さんを再び立ち直らせたのは、あの世に行った悟空さんだったそうです」

「カ…カカロットが!? 一体どうやって……?」

 

 

 トランクスの言葉に、ギネは驚きの声を上げる…。

 

 

「悟空さんがセルと瞬間移動した星は、界王星って星なのですが、その星は界王様が住んでおられる星だったんです。

 界王様は、この宇宙で上から数えて4番目に偉い神様なのです」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネはギョッとした表情を浮かべる……。

 

 

「ちょ…、ちょっと待てトランクス……。 そんな偉い神をカカロットのヤツはもしかして……」

「ええ…。 セルの自爆に巻き込んでしまったんです……」

「ええっーーーーー!!! ちょ、ちょっと、それ…、あの子大丈夫なの? 死んだ後メチャクチャ怒られるんじゃないの?」

「いや…、怒られる程度じゃすまねぇだろ……。 普通に重罪だろ……」

「ど…どうしよう、バーダック! カカロットのヤツ、地球を救ったのに地獄に来ちゃうのかな……?」

「地獄に落とされるだけで、済めばいいがな……」

 

 

 悟飯とセルの戦いの結末も気になる2人だったが、それ以上に息子である悟空がやらかしたとんでも無い事に戦々恐々する2人。

 しかし、そんな2人に救いの手を差し伸べるのは、この男だった……。

 

 

「それについては、心配いりません。

 悟空さんは界王様の弟子なので、巻き込んだ事は怒られた様ですが…、大したお咎めは受けていませんので、安心してください……」

「「ほっ…」」

 

 

 トランクスが述べた言葉に安堵の表情を浮かべる、夫婦2人。

 そんな2人の様子に笑みを浮かべたトランクスは、再び語り出す……。

 

 

「えっと、話を続けますね……。

 悟空さんは界王様のお力をお借りして、あの世から下界にいる悟飯さんに声をかける事で、悟飯さんを再び立ち直らせたんです……。

 そして、ついに悟飯さんとセルの最後の戦いが幕を開けました。

 勝負は簡単…、互いの全力の気功波を打ち合って、それに打ち勝った者が勝者となるものでした……」

 

 

 トランクスの言葉を真剣な表情で聞くバーダックとギネ……。

 

 

「途轍もない力が込められた2つのエネルギーの塊は、地球の地面を破壊しながらも拮抗していたらしいです。

 ですが、パワーアップしたセルの力は凄まじくセルの気功波が徐々に悟飯さんの気功波を押し返し、ついに悟飯さんの目の前までセルの気功波に押し込まれた。

 最早、これまでかと誰もが思った時に、セルの元へ1発の気弾が打ち込まれた様なんです……。

 セルが気弾の出所に眼を向けると、そこにはボロボロの父さんの姿があったそうです…」

「おぉ…!! 今度は王子がゴハンを助けたんだね!!」

 

 

 興奮した様に声を上げるギネに、頷き言葉を続けるトランクス。

 

 

「そうです……。

 そして、それがセルにとって命取りとなりました……。

 セルが父さんに気を取られた瞬間、悟飯さんは最後の力を爆発させました……。

 力を爆発させた悟飯さんの気功波は、一瞬でセルの気功波を押し返しセルごと呑み込んだらしいです……。

 そして、完全にセルを消滅させる事に成功したんです……」

 

 

 ふぅ…と、一息吐くトランクス。

 

 

「こうして、悟空さんや悟飯さんおかげで地球に…、いえ宇宙に平和が訪れました……。

 これが…、セルゲームの全てです……」

 

 

 とてつもなく長く、密度の濃い話を聴き終えたバーダックとギネは、息子と孫に思いを馳せる……。

 死者として数十年過ごしたバーダックとギネは、姿に変化が無い事もあり、どうも時間の感覚に疎いところがあった。

 しかし、こうやって自分達が残したものが、成長し繋がっていった事を改めて聞くと、随分時が経ったものだとしみじみ感じる……。

 

 

「ねぇ、バーダック……」

「なんだ…?」

「あんたが、カカロットを地球に送った時、私ものすごく反対しただろ……?」

「ああ…」

「でもさ…、今は…、あの子を地球に送って、本当に良かったって心の底からそう思うよ……」

「そうか…」

「うん!」

 

 

 バーダックとギネの2人は、穏やかな笑みを浮かべる……。

 

 

(ねぇ、カカロット…。 あんたの息子は本当に大したヤツだね……。

 あんなとんでも無い化け物を倒しちゃうなんてさ……。

 きっと、あんたもトランクスが言った通り、息子の成長が見れて嬉しかったんだろうね……。

 あんたが死んだのは残念だけど、あんたは後悔なんてしてないんだろうね……。

 あんたも、あの世に来たって事は、いつかあんたに会える日が来るのかな……?

 まぁ、あんたは天国に行くだろうから、そう簡単に会えないだろうけど…、いつか…会えるといいな……。

 

 でも、今はまぁ…、お疲れ様…、カカロット……)

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