ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 セルゲーム編 伍

 トランクスからセルゲームの全容を聞かされたバーダックとギネ。

 水晶で悟空の死の瞬間を見た事で、感傷に浸っていた2人だったが、トランクスから悟空や悟飯がどういう想いで戦い、そして、どういう経緯で悟空が死ぬ事になったのかを知った2人は幾分か、気持ちを立て直す事が出来たのだった。

 

 

「礼を言うぜ、トランクス…。 カカロット達の事を話してくれてな……」

 

 

 バーダックは、長い時間をかけて自分達に話をしてくれた師匠に向けて礼を述べる。

 

 

「いえ、最後ら辺はオレも他の人から聞いた事を話しただけですので、あまり詳しくお話し出来なくて申し訳ないです……」

 

 

 トランクスの言葉に引っ掛かりを覚えたギネは、首を傾げる。

 

 

「ん? どういう事だい…? あんたもセルゲームってヤツに参加してたんだろ……?」

「あー…実はオレ……、セルが復活して界王星から地球へ戻って来たと同時に、あいつに殺されたんです……。

 なので、悟飯さんがセルを倒したところを、実は見てないんです……」

「「ーーーっ!?」」

 

 

 ギネからの質問に、苦笑いを浮かべながら口を開くトランクス。

 その衝撃的な内容に驚愕の表情を浮かべる2人。

 そして、戸惑いながらギネが口を開く。

 

 

「えっ、で、でも…、あんた今、生きてる…よね……?」

「ええ。 セルとの戦いの後、ドラゴンボールで生き返らせてもらったんです……」

「あっ、それ知ってるよ!! 確か、なんでも願いが叶うって言うヤツだろ……?

 ナメック星での戦いで、カカロットとフリーザが話してたヤツだ!!」

 

 

 ギネの言葉に頷き正解の意を示すトランクス。

 それに、満面の笑みを浮かべるギネ。

 

 

「よかったね、トランクス! 生き返れて……!!」

「ええ、本当によかったです…。 当時のオレはまだ、未来でやるべき事がありましたので……」

 

 

 当時の事を思い出したのか、どこかホッとした様な表情を浮かべるトランクス。

 そんなトランクスに、バーダックが声をかける。

 

 

「そういや、お前はその為に、未来からやって来てたんだったな……、ん……?」

「どうしたんだい? バーダック……」

 

 

 喋っていたバーダックが突然、何かに気が付いた様な反応をする。

 それに、首を傾げながら問いかけるギネ。

 すると、バーダックが再び口を開く……。

 

 

「いや、トランクスが生き返ってんなら…、カカロットのヤツも生き返ったんじゃねぇか…? って、思ってよ……」

「ああっ!!!!!」

 

 

 ふと呟く様にバーダックが述べた言葉に、ギネがそうだ!!って表情を浮かべ叫び声を上げる。

 そして、期待の籠った眼差しをトランクスに向ける。

 しかし、その期待が叶う事はなかった……。

 

 トランクスは静かに首を左右に振り、口を開く。

 

 

「残念ですが、地球のドラゴンボールは過去に一度生き返った事がある人間を生き返らせる事は出来ないんです……。

 悟空さんは過去に地球へやってきたサイヤ人を倒す為に、一度命を落としているんです……。 なので……」

「そういや、ラディッツのバカが地球に行った時に、あいつも一緒に死んだんだったか……。

 だから…、生き返らせる事が出来ないって訳だな……」

「ほんと、困った子たちだよ…。 うちの息子共は……」

 

 

 トランクスの言葉にバーダックとギネは何とも言えない雰囲気で口を開く。

 

 

「オレ達もなんとか悟空さんを生き返らせようとしたのですが、悟空さん本人に止められたんです……」

「えっ…? ど、どうして……?」

 

 

 悟空がせっかく生き返る機会を棒に振った事に、戸惑いの声を上げるギネ……。

 すると、トンランクスはギネ達から視線を外すと、当時を振り返る様な表情を浮かべる。

 しかし、すぐにギネ達に視線を戻し、再び語り出す。

 

 

「オレ達がなんとか悟空さんを生き返らせようとしていると、あの世から悟空さんがオレ達に語りかけて来たんです……。

 そして、自分が生きていると、悪いヤツを引きつけてしまう様だから、自分が生き返らない方が地球は平和になると言って、生き返る事を拒まれたんです。

 ただ、誤解しないでほしいのですが、悟空さんは決して犠牲になろうと思った訳では無いという事です……」

 

 

 トランクスは、念を押す様にバーダックとギネに語りかける。

 

 

「悟空さんは生前に地球を救ったりしていた為、特別にあの世でも肉体が与えられるそうなんです。

 そして、あの世には過去の達人が沢山いらっしゃるので、あの世の生活も楽しそうだと笑っていました。

 それに、界王様も本来ならオレと同じタイミングで生き返る事が出来たのですが、悟空さんに付き合ってくださるとの事で、1人ではないとも言ってました……。

 正直…、あまりに悟空さんの様子がいつもと変わらず明るかったので、悟空さんが死んだというのにあんまり悲しくはなかったですね……」

「はぁ…、まったくあの子は……」

 

 

 トランクスが告げた内容に、バーダックとギネは息子の呑気っぷりに呆れて、ため息をはく。

 しかし、息子が自分の死をそれほど重く受け取っていない事を知れたからか、ギネの表情に笑みが戻っていた……。

 

 

「それで……?」

「えっ?」

 

 

 急にバーダックから声を掛けられ、トランクスは不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「えっ?じゃねぇよ…。 セルとの戦いは終わったんだ……。

 一応お前が未来からやって来た目的は果たしたんだろ……?

 お前はそれからどうしたんだよ……?」

「ああ…、その事ですか……。

 セルを倒した次の日に、オレは父さんや母さん、そして悟飯さん達に見送られながら未来に帰りました。

 そして、帰って直ぐに人造人間が暴れているという情報を掴んだので、そのまま人造人の破壊に向かいました。

 過去で人造人間を停止させる装置の存在も知りましたが、その時のオレは既に人造人間を超える戦闘力を身につけていたので、特に問題なく2体の人造人間を破壊する事に成功しました」

「そっ、それじゃあ……!!」

「ええ…。 ようやく…、オレのいた未来の世界に平和が訪れました……」

 

 

 人造人間を破壊したって言葉を聞いたギネが喜びの表情を浮かべると、トランクスはしみじみと噛みしめる様に世界が平和になった事を告げた。

 しかし、その時のバーダックとギネは気付いていなかった……。

 トランクスのその言葉に、とてつもない回顧の念が込められているという事を……。

 

 何故なら、トランクスが苦労して手にした平和な世界はとある存在によって、再び戦火に塗れ、今はその存在すら消滅してしまったのだから……。

 だが、今の彼等はトランクスがそんな重い過去を背負っていることなど知りようがない。

 彼等がその事を知るのは、これから先の未来なのだから……。

 

 だから、バーダックとギネは純粋にトランクスの長年の悲願が叶った事を喜んだ。

 

 

「やったじゃないか…! トランクス!! 本当にあんたは大したヤツだよ……!! ねぇ、バーダック!!!」

「ああ…、大したモンだ……」

 

 

 2人から伝えられる純粋な祝福に、トランクスは照れた様な表情を浮かべる……。

 目の前にいる2人が師匠である悟飯や、その父悟空の面影を持つ者だったからか、トランクスは2人を通して悟飯と悟空の姿を垣間見た気がした……。

 そんな事を考えていると、自然とトランクスの口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「ありがとうございます。 バーダックさん、ギネさん」

 

 

 こうして、今度こそバーダックとギネが知りたかった全ての話が、終わりを迎えたのだった……。

 

 

 

「そういや、トランクス…。 今更だが、お前オレ達にカカロットの話をする為に、わざわざ通信してきたのか……?」

「確かに、それもあるのですが…、実はもう1つ重要な話があり連絡させてもらいました……」

「重要な話…?」

 

 

 トランクスが言う重要な話というのが、タイムパトロールの仕事に関する事と予想したバーダックは視線をギネに向ける。

 すると、ギネもバーダックの意図を察したのか頷く。

 

 

「どうやら、あたしが聞いたらマズイ話っぽいから、あたしは暫く離れてるよ……」

「あっ! ギネさん、待ってください!」

 

 

 ギネが気を利かせて2人から距離を置こうと、背を向ける。

 しかし、その行動にトランクスが待ったをかける。

 それに、驚いたような表情を浮かべ、振り返るギネ。

 

 

「確かに、本来ならギネさんに聞かれるとマズイのですが、黙って貰えれば大した問題にはならないと思いますので、ここにいてもらって大丈夫です。

 今からお話しする内容は、ギネさんにとっても無関係ではありませんので……」

「ギネにも無関係じゃねぇ…だと……?」

「どういう事だい……?」

 

 

 トランクスから飛び出した言葉に、疑問の表情を浮かべるバーダックとギネ。

 そんな2人を尻目に、トランクス喋り始める……。

 

 

「これから、お話しする事は時が来るまで、お2人の胸の中に留めておいてください……」

 

 

 トランクスの言葉に、2人は無言で頷き了解の意を示す。

 それを確認したトランクスは、再び口を開く。

 

 

「実は、バーダックさんにご協力していただきたいことがあるんです……」

「協力? 仕事じゃなくてか……?」

「はい…。 正直に言えばこれはバーダックさんじゃなくても役目は全う出来るのですが、オレはバーダックさんが適任だと思ったんです」

「随分回りくどい言い方するじゃねぇか…。 さっさと要件を話しな」

 

 

 中々本題を話さないトランクスに苛立った態度を見せるバーダック。

 そんなバーダックに苦笑いを浮かべるトランクス。

 

 

「そうですね…。 バーダックさんに協力して欲しい事というのは…、ある人と戦って欲しいのです……」

「なにっ!?」

 

 

 トランクスの突然の申し出に、驚いた表情を浮かべるバーダック。

 そして、バーダックの横で話を聞いていたギネが気になった事をトランクスに問いかける。

 

 

「ところで、何者なんだい…? バーダックに戦ってほしい相手って……」

「強えのか…? そいつは……」

 

 

 ギネの言葉に、バーダックの表情が引き締まりトランクに問いかける。

 すると、トランクスは力強く頷く。

 

 

「強いです…。 少なくとも今のバーダックさんよりも確実に……」

「ほぉ……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックは不敵な笑みを浮かべる……。

 その表情は何処か楽しそうだ……。

 しかし、隣にいるギネは、反対に不安げな表情を浮かべる……。

 

 

「バーダックより強いヤツに、バーダックと戦って欲しいって……」

「ああ、心配しないで下さい。 命に危険が及ぶ事は絶対にありません……」

 

 

 不安気に呟くギネに、トランクスは安心させる様に口を開く。

 その言葉を聞いたギネはほっとした表情を浮かべる。

 

 

「ほ、本当かい……?」

「ええ。 あの人は、戦う事が大好きですが、不必要に人を殺したりする様な事は絶対にしません」

「その口振りだと、お前はそいつと面識があんのか……?」

「ええ、あります…。 とても、お世話になった方です……」

 

 

 バーダックの質問に、トランクスは懐かしそうな笑みを浮かべる。

 そして、2人に衝撃的な事を口にする。

 

 

「というか、その人はお2人も良く知っている人ですよ……」

「えっ!? 誰なんだい? バーダックに戦ってほしい相手って……」

 

 

 トランクスの言葉でギネは驚きの表情を浮かべる。

 バーダックも声にこそ出さないが、興味を惹かれているようだった。

 そして、ついにトランクスの口からバーダックの対戦相手の名前が告げられる。

 

 

「バーダックさんに戦ってほしい相手の名前は、孫悟空さん…つまり、お2人の息子さんです……」

「ーーーっ!!」

 

 

 トランクスから告げられた名前に、バーダックとギネは驚きの表情を浮かべる。

 

 

「カ、カカロット…だって……? ど、どうしてあの子と……」

 

 

 驚きのあまりしばらく固まっていたギネだったが、ようやく頭が回り出したのか戸惑った声を上げる。

 しかし、そんな彼女の横から曇った笑い声が聞こえて来た……。

 

 

「くっ…くくく……」

 

 

 ギネが声の出所に視線を向けると、そこには彼女にとって、とても珍しい光景が広がっていた。

 なんと、あの普段滅多に笑わないバーダックが笑い声を上げているのだ……。

 残念ながら、表情は俯いているのでよく分からないが、恐らく口元には笑みが浮かんでいるのだろう……。

 

 長年連れ添っているギネでも、声を上げて笑うバーダックの姿なんて、滅多に見る事はなかった……。

 あまりの珍しさに驚いたギネは、戸惑いながらもバーダックに声をかける……。

 

 

「バ…バーダック……?」

 

 

 ギネが声をかけたほぼ同じタイミングで、俯いていたバーダックが顔を上げる。

 その顔には、とても好戦的な笑みが浮かんでいた……。

 

 

「へっ…、なるほどな……。 確かに、こいつはお前が言う通りオレが適任だな…、トランクス……」

 

 

 戦意に溢れたギラギラした眼をトランクスに向けるバーダック。

 そして、そんなバーダックの様子にトランクスも力強い笑みを浮かべる……。

 そんな2人の様子に、気圧されながらもギネはどうしても気になった事をトランクスに尋ねる。

 

 

「ねぇ…、トランクス……。 どうしてバーダックとカカロットをわざわざ戦わせるんだい……?」

「別に理由なんて何だっていいだろ……」

「あんたは、それでいいだろうさ…。 でも、トランクスには何か明確な目的があるんじゃ無いのかい……?」

 

 

 ギネの言葉にバーダックが、そんなモンはどうだって良いという表情を浮かべるが、ギネはどうしてもその理由が知りたかった……。

 何故なら、いつかカカロットがあの世に来たら、バーダックはどうにかしてでも、戦う機会を得ようとする事は予想がついていたからだ……。

 つまり、わざわざこんな機会を用意しなくても2人の戦いはいずれ起こったという事だ。

 

 しかし、トランクスはその機会をわざわざ用意するという…、これにはきっと何か理由があるのだとギネは考えたのだ。

 そして、そのギネの考えは正しかった……。

 

 

「ええ…。 ギネさんの言う通りです……。

 オレが悟空さんと戦ってほしいと言ったのには、理由があります……。

 その理由をお話しする前に、改めて約束してください…。 今からオレが話す内容は絶対に他の人に漏らさないと……。

 もし、破った場合、お2人の安全が保証できなくなります……」

 

 

 真剣な表情で2人を見つめるトランクス。

 そして、その雰囲気に2人はトランクスの言葉に嘘がない事を理解する。

 

 

「分かった…。 他人には話ゃしねぇよ……」

「あたしも……」

 

 

 2人から言質が取れたので、再びトランクスは口を開く。

 

 

「実は…、正確な時期は言えないのですが、悟空さんは今から10年以内に再び生き返ることになります……」

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 

 早速飛び出した爆弾発言に、バーダックとギネは驚きの表情を浮かべる。

 そんな2人を尻目に、トランクスは話を続ける……。

 

 

「今から10年以内に、この宇宙の命運を大きく左右する戦いが起きます……。

 そして、その戦いの起点となった場所が地球なのです……。

 その戦いで悟空さんはとある方から命を頂き、復活するのです……」

「ほ、本当…に……?」

 

 

 トランクスの話を聞いたギネは、両手を口に当て驚いた様な表情を浮かべながら問いかける。

 それに力強く頷く事で、肯定の意を示すトランクス。

 それを見たギネの両目から、自然と涙が流れ出した……。

 

 しかし、今度の涙は先程流した悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった……。

 そんなギネを優しそうな笑みを浮かべながら、バーダックが背中をポンと叩く……。

 そこに込められた意図を察したギネは、両手で覆った顔を何度も縦に振る……。

 

 そんなギネを見ながらも、ふと気になった事をバーダックは口にする……。

 

 

「まぁ…、あいつが生き返る事は別にいいとして、わざわざあいつを生き返らせねぇといけねぇなんて現世の奴等は何やってやがったんだ……?」

 

 

 そのバーダックの疑問に答えたのは、トランクスだった。

 

 

「今度の敵は、セル以上に強く、そして厄介な能力を持っているのです……。

 今回の戦いで生き残った、悟飯さんや父さん、そして他の仲間達も必死に戦ったのですが、その能力によってほぼ全滅状態に追い込まれ……」

「止むに止まれず、あいつを生き返らせるって事になるんだな……」

 

 

 バーダックの言葉に頷くトランクス。

 

 

「それで…? どうしてオレとカカロットを戦わせる必要がある……?」

「悟空さんは、その戦いでとても重要な立ち位置に立つ事になります……。

 その為には、どうしても力が必要になります……。

 セルを倒した超サイヤ人の壁を超えた悟飯さん以上の力が……」

「超サイヤ人の壁を超えた超サイヤ人をも超えた力か……」

 

 

 トランクスから語られた内容を、真剣な表情で反芻させるバーダック。

 そんなバーダックを尻目にトランクスは言葉を続ける。

 

 

「悟空さんは、悟飯さんの超サイヤ人の壁を超えた…、これいい加減言いづらいので、便宜上超サイヤ人2と呼ぶ事にします……。

 とにかく…、悟空さんは超サイヤ人2の姿をその眼で見ています……。

 まず、悟空さんがあの世に来てから修行の目標とするのは、間違いなくその領域になると思います。

 そして、今の悟空さんの戦闘力を考えると、遅くとも3年以内には超サイヤ人の壁を超えるでしょう……」

「たった3年でかっ……!?」

 

 

 トランクスの言葉に驚愕の反応を示すバーダック。

 超サイヤ人になったばかりのバーダックからしてみれば、3年かけてようやく超サイヤ人になれたのだ。

 それなのに息子はたった3年でその壁を越えると言われれば驚きたくもなる。

 

 だが、トランクスはバーダックの言葉にゆっくりと首を左右に振る。

 

 

「違いますよ、バーダックさん。 長くて、3年なんです……。

 オレの見立てではさらに早い段階で、悟空さんは壁を越える様な気がします……。

 なんと言っても、悟空さんですから……」

 

 

 しみじみと語るトランクスに、息子のデタラメさの一端を感じざるを得ないバーダックとギネ……。

 

 

「でもさ…、実際今のバーダックとカカロットってどれくらい実力差があるんだい……?

 カカロットって超サイヤ人だよ…? バーダックに勝ち目なんてあんの……?」

 

 

 このギネの言葉に、バーダックの表情がムッとなるが…、ギネはバーダックを貶した訳じゃなく、純粋に疑問に思ったので言葉にしたのだ。

 そして、それに返事をしたのは当のバーダックではなく、トランクスだった。 しかも、正直に……。

 

 

「今のバーダックさんだったら、まず勝ち目はありませんね……。

 バーダックさんは、ようやく超サイヤ人の第1段階になったばかりですから……。

 対して悟空さんは、超サイヤ人の第4段階ですからね…。 しかも、限りなく超サイヤ人2に近い状態ですし……。

 同じ超サイヤ人でも、戦闘力に開きがありすぎます……」

 

 

 自分の実力をよく知るトランクスの自分と息子の戦力分析を聞き、その差に顔を顰めるバーダック……。

 するとギネの声が話に割り込んできた。

 

 

「あの〜、ちょっと確認したいんだけど…、今バーダックが超サイヤ人になれる…って、言わなかった……?」

 

 

 2人がギネに視線を向けると、眼をまん丸とした様な表情のギネがそこにいた……。

 

 

「ええ…、そう言いましたけど……?」

「ああ…、やっぱり…私の聞き間違いじゃなかったんだ……。

 へぇ〜、そ〜、ふ〜ん……、って、ええええええーーーーーっ!!!!!」

 

 

 いきなり叫び声を上げたギネ。

 そのあまりの声の大きさに、トランクスとバーダックは咄嗟に耳を抑える……。

 すると、いつの間にかバーダックの前に移動していたギネが、バーダックの両肩にガシッ!と手を置き、そのまま強く揺さぶる……。

 

 

「ど、ど、どう言う事だいバーダック!!! あんた、いつの間に超サイヤ人なんかになってんのさーーーーーっ!!!

 あ、あんた分かってんの? 超サイヤ人だよ? 伝説だよ? 1000年に1人なんだよーーーーーーっ!!?」

「ちょ、お、おち、落ち着け…ギネ……」

 

 

 ぐらんぐらん揺さぶられながらも、なんとか言葉を発するバーダックだったが、聞こえていないのかギネの揺さぶる力がどんどん強くなる。

 

 

「ちっ…、ふんっ!!」

 

 

 このままでは、さすがにマズイと判断したバーダックは、舌打ちと同時に気を解放する。

 すると、バーダックの全身を黄金色の光が包み込む……。

 次の瞬間、バーダックの髪は黒から黄金色へ、瞳はエメラルドの様な碧眼へとその姿を変える。

 

 そして、ギネの両腕を掴む……。

 すると、これまで暴れまわっていたギネの両腕が嘘の様に固定される……。

 未だ混乱してるギネは、腕が固定されたことに気づいていないのか、ぎゃあぎゃあ言いながら固定された腕を振ろうとしている。

 

 

「落ち着け! ギネ!!」

 

 

 バーダックに一喝され、ギネの身体がビクッと震える……。

 そして、焦点が定まっていない様な眼でバーダックをじっと見る……。

 すると、最初はぼーっと見ているだけだったが、次の瞬間、両目を大きく開き驚きの声を上げる……。

 

 

「カ、カカロットッ……!?」

「あん…? 何言ってやがんだてめぇは…、いつまでも寝ぼけてんじゃねぇ!!」

「えっ!? あ、あんたバーダック…かい……?」

「はぁ…、ようやく正気に戻りやがったか……」

 

 

 ギネが正気に戻った事を確認したバーダックは、超サイヤ人を解除しいつもの姿に戻る。

 その様子を見ていたギネは、未だ信じられない様な様子で口を開く。

 

 

「あんた、本当に超サイヤ人へ変身できる様になったんだね……」

「まぁ、トランクスと3年修行したお陰でな……」

 

 

 ようやく事態が落ち着いたのを見計らって、トランクスが口を開く。

 

 

「あの〜、大丈夫ですか…? ギネさん……」 

「あ、うん、大丈夫…。 ごめんね、話の腰を折っちゃって……」

「はぁ…、こいつは昔からテンパるとこうなるんだ……」

 

 

 ギネが苦笑いを浮かべる横で、疲れた様な表情を浮かべるバーダック。

 そんな2人にトランクスは苦笑いを浮かべる。

 

 

「そう言えば、トランクス。 お前さっき超サイヤ人の第1段階とか第4段階とか言ってやがったが…、あれはどういう意味なんだ……?」

「ああ…、あれですか……」

 

 

 バーダックの質問に、納得の表情を浮かべるトランクス……。

 

 

「先程、セルとの戦いについて話した時に、超サイヤ人を超えた話をしましたよね……?」

「ああ…。 確か1日で1年分の修行が出来る部屋ってトコで修行してたよな……?」

「そうです…。 超サイヤ人は超サイヤ人2になるまでに全部で4つの段階が存在します。

 第1段階は、現在のバーダックさんがなっている状態…、つまり超サイヤ人に覚醒したばかりの状態の事を指します。

 第2段階は、一回り身体付きが大きくなり、パワー、スピードが増した状態になります。

 第3段階は、第2段階よりも更に身体が大きくなり、スピードが失われる代わりに、とてつもなくパワーが強化された状態になります。

 そして、第4段階は見た目は第1段階と変わらないのですが、スピード、パワー全てがアップした状態になります」

「なるほどな……。 ちなみに、そいつはわざわざ1つずつ段階を踏まないといけねぇのか……?」

「いえ、バーダックさんにはいきなり第4段階を目指してもらいます……。

 修行方法は、昔悟空さんからお聞きしていますので、それを実践してもらえれば、バーダックさんなら問題ないと思います」

 

 

 トランクスから伝えられる、超サイヤ人についての情報を真剣な表情で聞いているバーダック。

 念願の悟空と対決出来るのはいいが、まだ自分の実力が劣っている事を誰よりも実感していたのは彼なのだ。

 少しでも早く息子に追いつきたいバーダックは、強くなる為に貪欲になっていた……。

 

 そんなバーダックの姿を見たギネは、少し驚いたがその何処か楽しそうな表情を見て優しげな笑みを浮かべる。

 そして、そう遠くない未来で、目の前にいるこの男は息子にも負けない強力な戦士として、立ちはだかるのだろうと予想する……。

 何故なら、このバーダックという男は、やると決めた事は大抵やり遂げる男だという事を、ギネは誰よりも良く知っているから。

 

 

「とりあえず、バーダックさんには悟空さんと戦うまでに、超サイヤ人を超えた超サイヤ人…超サイヤ人2に覚醒してもらいます。

 その為には、これまで以上に厳しい修行になりますが、ついてこれますか……?」

 

 

 何処か挑発が含んだトランクスの問いに、バーダックの表情に不敵の笑みが浮かぶ……。

 

 

「へっ、誰にモノ言ってやがんだ!

 上等だぜ、トランクス!! カカロットだけじゃなく、ついでにお前も超えてやるよ!!!」

 

 

 念願の悟空との戦いが決まり、目標が定まったバーダックがその熱いを込め啖呵を切る。

 そんなバーダックを見ながら、ギネは息子に思いを馳せる……。

 

 

(ふふ…、覚悟してなよ…カカロット……。 あんたの親父は、きっと、あんたの度肝を抜くよ……)

 

あわせて読みたい