ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 あの世一武道会編 弐

 時間は少し遡る……。

 

 孫悟空が界王と共に大界王星へ向け、飛行機に乗り込む数時間前、地獄では大変な事が起きていた……。

 

 

「ちっ…、孫悟飯め……。 まさか、あんな小僧にこの私が破れる事になるとは……」

 

 

 苦々しい表情を浮かべ、悪態を垂れているのは、つい先程地獄へやって来た人造人間セルだった。

 孫悟飯との戦いで敗れた彼は、閻魔大王から問答無用で地獄へ叩き落とされたばかりだった。

 しばらく、悟飯への怒りで頭がいっぱいだったセルだが、そんな事をしていても事態は何も変わりはしない…と思い、思考を落ち着ける。

 

 そうして、ようやく周りを見回す余裕が生まれたセルだった……。

 

 

「なるほど…、ここが地獄というヤツか……」

 

 

 セルの視界に飛び込んできたのは、現世ではまずお目にかかれない、赤い血の色をした池や、剣山の様な山、そして、黄色い空……。

 現世に比べると、何とも物悲しい雰囲気な場所だった……。

 

 

(フン! なんともつまらん場所だな……)

 

 

 そんな事を考えていると、セルの前に1匹の鬼が現れた。

 

 

「オメェが新しく地獄に来たヤツかオニ?」

 

 

 セルは無言で視線だけ、鬼に向ける。

 鬼はそんなセルの事など気にせず、話を続ける。

 

 

「さっそくだが、生前の罪を償ってもらう為に、オメェにも働いてもらうオニ」

「生前の罪…、だと……?」

 

 

 鬼の言葉に、セルが不機嫌そうな顔で反応する……。

 そもそも、人造人間であるセルにとって、孫悟空の抹殺や人を殺す事などはそもそも悪としてインプットされていないのだ。

 確かに知識としては、自分がやって来た事が悪だという事は分かるが、それでも所詮この世は力あるものが正義。

 

 それが実情なのだ……。

 それを、強者である自分が、弱者に対して行った事の何が悪い事なのか、セルには一切理解できなかった。

 むしろ、完全なる生物である自分の役に立てたのだから、感謝して欲しいほどだった。

 

 そんな心持ち故に、現在弱者を殺した程度で地獄で罪を償わされそうになっているこの状況に、セルは胸糞悪くなって来ていた……。

 セルが内心でそんな事を考えていると、目の前の鬼がまたも話しかけて来た。

 

 

「オメェ、ちゃんと話を聞いているのかオニ……?」

 

 

 まったく反応を示さないので、鬼もセルが自身の話を聞いていないと判断して問いかけたのだ。

 しかし、セルの方もいつまでもこんな茶番に付き合ってやる気もなかった。

 

 

「ああ、すまない…。 まったく聞いていなかった……。

 悪いが、私はこれまで自分がやって来た事が悪だとは思ってはいないのでね……。

 つまり…、罰を受ける気はさらさら無いんだ」

 

 

 そう言うと、セルは鬼に向けて、右掌を向ける。

 すると、セルの掌からエネルギー波が放出され、悲鳴を上げる間も無く鬼を跡形も無く消し飛ばす……。

 

 

「フン! グズが……」

 

 

パチパチパチ……

 

 

 セルが消え去った鬼に一瞥をくれてやると、背後から何者かの拍手の音が聞こえて来た。

 

 

「ん?」

 

 

 セルが振り返ると、そこにはセルにとってもある意味関係が深い存在が笑みを浮かべ立っていた。

 

 

「あなた、素晴らしいパワーですね……」

「貴様は…、フリーザ」

 

 

 セルに拍手を送ったのは、かつて未来からやってきたトランクスに殺されたフリーザだった。

 フリーザの方も、セルが自分の事を知っていた事に僅かばかり驚いた様な表情を浮かべる。

 

 

「おや? 私の事をご存知とは……、以前どこかでお会いしましたか……?」

「フン、生憎私と貴様が顔合わせたのは、今が初めてだ……。

 しかし、私を構成する細胞に貴様と同じ遺伝子が使われているというだけだ……」

「私の遺伝子…だと……?」

 

 

 セルの言葉にフリーザの眼と気配が鋭くなる……。

 フリーザの様子にセルの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。

 一触即発の雰囲気を発しながら見つめ合う両者。

 

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった……。

 

 

「フッ…、まぁ、いいでしょう……。 あなたが何者か興味はありますが、今は置いておきましょう……」

「ほぅ…、流石は宇宙の帝王と言っておこうか……。

 敵わないと分かっておきながらも、その様な態度を欠片も見せないとはな……」

 

 

 セルの何処か自分を馬鹿にする様な台詞に、僅かに顔を顰めるフリーザ。

 しかし、フリーザの方もセルと改めて対峙して、向き合っただけだというのにセルが自身よりも強いという確信を得てしまったのだ。

 そうなれば、ここでセルと敵対関係になるのは得策ではない。と瞬時に判断したフリーザ。

 

 

「フン! その物の言い様…、本来なら殺して差し上げるところですが…、今は少しでも強力な戦力が欲しい……。

 あなた…、私と協力関係を結びませんか……?」

「協力関係だと……? 貴様とか……?」

 

 

 突然のフリーザからの申し出に、訝しげな表情を浮かべ首を傾げるセル。

 そんなセルに、笑みを浮かべながらフリーザは口を開く。

 

 

「ええ……。 正直退屈なんですよ地獄って所は……。

 頭の悪そうな鬼が偉そうに威張り散らす上、好き勝手に戦う事すら出来ない……」

「ふむ、分からんな……。 そんなに退屈ならば、好き勝手すれば良いではないか……?」

 

 

 うんざりとした様な表情を浮かべ言葉を発するフリーザに、不思議そうに言葉を返すセル。

 しかし、そんなセルの言葉を首を左右に振る事で否定するフリーザ。

 

 

「そうもいかないのですよ…。 貴方は地獄に来て間もないから知らないのでしょうが……、死者である以上、閻魔大王には絶対に勝てないのです……」

「絶対に勝てない…だと……? どういう事だ……?」

 

 

 フリーザの言葉に怪訝そうな表情を浮かべ問いかけるセル。

 

 

「閻魔大王には、”死者の魂への絶対の権力”という力を持っています。

 この力により、忌々しい事に閻魔大王は死者に対して絶対的な権力…、つまり私達に絶対厳守の命令を下す事が出来るのです。

 それだけでなく、”あの世を司る力”で、あの世を管理している閻魔大王には死者の攻撃が効かないのです……」

「なるほど……、つまり下手に暴れて、閻魔大王の怒りを買えば、こちらは大した抵抗も出来ずに消されるというわけか……」

 

 

 フリーザから閻魔大王の力を聞かされたセルは神妙な表情を浮かべ、敵対した場合の結末を予測する……。

 そして、フリーザも既に同様の結果に考えが行き着いたのか、無言で頷く。

 だが、そんなフリーザに対して邪悪な笑みを浮かべ、セルが問いかける。

 

 

「フン! 閻魔大王の厄介な力は理解した……。

 しかし、貴様はすでにそれを攻略する術を考えているのだろう……?

 その為には、人数とある程度の力を持つ存在が必要になる……。

 だから私に協力を持ち掛けた…。 そういうことだろう……?」

 

 

 セルの言葉に、フリーザも同様の邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「ええ…。 話が早くて助かりますよ……。

 それで…? あなたは、どうします……?」

 

 

 フリーザの言葉で、セルはこれまでに語られた内容について思考する……。

 

 

(恐らくフリーザが述べた閻魔大王の厄介な力とやらは、本当の事だろう……。

 でなかったら、すでにこいつは行動を起こしていただろう……。

 恐らく、現在は行動を起こす為に何かしらの準備を行っているという所だろう……。

 正直、こいつに協力しなくとも、私の頭脳であればこいつが考え出した計画も考えつくだろう……。

 仮にこいつの計画が成功したとしても、私ならばこいつを始末する事は造作もない……。

 だが、考え過ぎかも知れんが…、もし何かしらの方法で閻魔大王の力までこいつが得た場合は厄介な事になる……。

 それに、今こいつを始末すると、人手が必要になった時に使えるコマがいなくなる……)

 

 

 一瞬で様々な状況を想定したセルは、ついに結論を出す……。

 

 

「いいだろう…。 その話のってやる。 ただし…、条件がある……」

「条件…? なんでしょう……?」

「貴様の部下になるつもりはない……。 あくまで対等な協力関係という事なら貴様の話に乗ってやる!!」

 

 

 セルの言葉に、笑みを浮かべていたフリーザがピクッ!と反応したが、直ぐに手を顎に添え考える様な仕草をとる。

 

 

「ふむ…、まぁ…それでいいでしょう……。 それではよろしくお願いしますよ……。

 えっと…そう言えば……、まだ、貴方の名前を聞いていませんでしたね……」

 

 

 フリーザの言葉に、不敵な笑みを浮かべるセル。

 

 

「セルだ……。 私の名前は究極の人造人間、セル」

「セルさんですが…。 それでは改めてよろしく願いしますよ……」

 

 

 邪悪な笑みを浮かべ差し伸べされたフリーザの手を、同じく邪悪な笑みを浮かべたセルが握り返す。

 

 

((邪魔になったら、存在ごと消してやる……))

 

 

 こうして、それぞれの思惑を抱え、最悪の2人が地獄で手を組んだのだった……。

 

 

 

「それで…、さっそくだが、これからどうするのだ……? フリーザ」

「そうですね…、貴方という強力な助っ人を得たので、そろそろ行動に移るとしますか……」

「ほぅ……」

 

 

 フリーザの言葉にセルが興味深そうな声を上げる。

 

 

「計画実行は今から3時間後にしましょう……。 我々が今後地獄で好き勝手するには、まず邪魔な閻魔大王を封じる必要があります……」

「閻魔大王を封じる…か……。 そんな事が出来るのか……?」

「ええ、貴方もここに来る前にスピリッツロンダリング装置での処置を受けたのでしょう……?」

「あの妙な機械のことか……?」

 

 

 セルの言葉に、頷き言葉を続けるフリーザ。

 

 

「地獄の住人達に限らず、閻魔大王の元にやってくる死者達は魂の状態で閻魔大王の元へ行きます……。

 そして、閻魔大王の判決後、地獄に行く者は生前の悪の心が強すぎる者もいるので、地獄に行く前に一度軽く魂を浄化する様なのです。

 そうする事で、地獄に来ても生前ほど悪事を働こうとする気持ちを起きづらくする為の処置らしいですね……。

 そして、スピリッツロンダリング装置で処置を受けた後、地獄へ送られ生前の罪とやらをつぐなう為に肉体が与えられる……」

「なるほど…、あの妙な機械はそんな事の為に使われていたのか……。

 それで…? そのスピリッツロンダリング装置が何だというんだ……?」

 

 

 スピリッツロンダリング装置の事は分かったが、それが何故閻魔大王を封じるのに必要なのかセルには、地獄に来て間もないセルには理解できなかった。

 

 

「先程もお話しした様に、スピリッツロンダリング装置は悪の心を浄化する為の機能があります……。

 つまり、負のエネルギーを蓄積する機能があるという事です……」

「負のエネルギー…ねぇ……」

「ええ、そしてこれまでのあの装置を利用した期間や人数を考えると、その負のエネルギーは膨大な量になります……。

 閻魔大王を封じるには、この膨大な量の負のエネルギーが必要になるのです……」

「ふむ……」

 

 

 フリーザの言葉を聞き、顎に手をやり思考するセル。

 しかし、いかに超人的な頭脳をもつセルとは言え、これだけではあまりに情報が少ない為その膨大な量の負のエネルギーを使って、閻魔大王を封じる方法は流石に思い浮かばなかった。

 

 

「膨大な量のエネルギーがあるのは、分かったがそれをどう使う……?

 閻魔大王を封じると言ったが、口で言うほど単純なモノではないだろう……」

 

 

 セルの鋭い指摘に、フリーザは底冷えのする様な冷たい笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、確かに簡単ではありませんでした。

 地獄に来て、地獄を支配しようと考えましたが、たまたま閻魔大王の権能を知る事が出来た私は、それを無効化する為の準備に、約3年の月日を要したのです。

 その中でも最も力を注いだのは、人材の確保です。

 戦闘員だけでなく、知識や技術ある者を組織に取り入れるのには、大変苦労しました……。

 ここでは、そう簡単に人を殺す事は出来ないので、力で脅す事もままなりません……」

 

 

 死者は2度死ぬと、存在そのものが消える。

 しかし、閻魔大王が健在であれば地獄でも天国でも死者同士が戦って死んでも、存在が消える事はない。

 例え、死んだとしてもすぐに復活する事が出来る。

 

 死者が2度目の死(存在が消える事)を迎えるのは、大きく2つの原因が存在する。

 

 1つ目は、死んだ状態であの世から現世に戻り、再び死んでしまった場合。

 2つ目は、閻魔大王が何かしらの原因で”あの世を司る力”を封じられた場合。

 

 上記の2点の状態でない限り、実質2度目の死を迎える事はない。

 地獄で死ぬ事は無いのに殺人を禁止している理由は、人を殺す事を日常化させてしまえば、また悪感情が育ちいつまで経っても魂の浄化が進まないからだ。

 だから、地獄で2度目の死は無いとはいえ、殺人が起きた場合、大きなペナルティを負う様になっている。

 

 しかも、この仕組みの凄い所は、仮に隠れて殺人を行っても、殺された者が閻魔殿に送られてしまうのだ。

 そして、その場で閻魔大王に尋問され、隠し事をする事すら許されず洗いざらい殺された状況を自白させられるのだ。

 仮に殺された側が殺した側の姿を見ていなくても、閻魔殿にはそれを特定する仕組みがしっかりと用意されているのだ。

 

 なので、どれだけ巧妙に殺人を行おうが、結局殺人を行った事がバレてしまい、殺人を行った者はペナルティを受けてしまうのだ。

 

 

「なので、力による恐怖心で従えるだけではなく、しっかりと参加した者達に旨みがある様に交渉しなければならなかったのですよ……」

「ほう…、力による支配が出来ない状態でも、人を従えるとは…流石は宇宙の帝王と呼ばれていただけはあるな……。 大したものだ……」

 

 

 フリーザがこの3年行ってきた事には、セルも素直に感心した。

 セルはフリーザと違って、人の上に立った事は無いし、本来であれば力による恐怖心で人を従えるだろう。

 だが、今回の様な状況になってしまったら、人を従えるには対話による交渉しか手段が無くなってくる。

 

 セルの超人的な頭脳では、それがそう簡単じゃない事をよく理解していた。

 これは、生前宇宙の帝王としていくつもの星を手に入れてきたフリーザだからこそ身についたスキルでもある。

 彼は、力による恐怖で人を従えていた反面、自分にとって有益となる存在なら敵や気に入らない相手であろうと交渉して、配下に加え働きに見合った報酬を与えていた。

 

 つまり、元々人と交渉する術をフリーザは備えていたと言う事だ……。

 今回は、今までもっとも頼みの綱だった自身の戦闘力という武器は使えなかったが、それがなくともこれまで多くの存在と交渉を交わしてきたのだ。

 人が…、特に悪人がどういうモノを欲しているかなど、既に知り尽くしていたのだ。

 

 そして、モノで動かない者であれば、言葉を使いその者の心理をつき巧みに交渉を進めたのだ。

 そうやって、地獄に来てからもフリーザ軍の規模を粛々と拡大させてきたのだ……。

 全ては、地獄を手中に収めるために……。

 

 

「それで…? 結局貴様はどうやって閻魔大王を封じるのだ……?」

 

 

 再度セルに問われた事で、ついにフリーザの口から計画の根本となる概要が話される。

 

 

「私が地獄で引き込んだ者の中に、優秀な知識を持つ者達がいたのですよ。

 その者達に強力な結界を生み出す装置を作らせました。

 そして、そのエネルギーとなるのが……」

「なるほど、その負のエネルギーというわけか……」

 

 

 セルの言葉に邪悪な笑みを浮かべ、無言で頷くフリーザ。

 

 

「しかも、負のエネルギーとは悪感情から出来ているので、それをエネルギー源にしている結界の中に取り込まれれば、徐々に心が悪感情に蝕まれ悪感情に順応出来れば良いが、出来ない場合はそのまま発狂し、死んでしまいます」

「なるほどな……」

 

 

 邪悪な笑みを浮かべ告げられた内容に、セルの方も邪悪な笑みを浮かべる。

 しかし、ここでふと疑問に覚えた事を口にするセル。

 

 

「とは言え…、3時間後とは随分早急にその計画とやらを進めるのだな……。 フリーザよ……」

「それは、貴方のせいですよ……セルさん」

「何だと……?」

 

 

 これまで散々準備に時間をかけて来たフリーザが、自分という強力な力を持つ存在を味方に引き入れたとはいえ、早急に計画を実行しようとする事に僅かながらに疑問を覚えたセル。

 しかし、その原因が自分だと言われてさらに疑問が増えたのだった。

 

 

「理由は、貴方が先程の鬼を殺してしまった事です。

 恐らく貴方が鬼を殺した事は既に閻魔大王に伝わっているでしょう。

 そうなると、貴方は数時間もしない内に閻魔殿によばれる事になるでしょう。

 そしたら、最悪どこかに幽閉される可能性があります……。

 ただ、貴方は地獄に来たばかりですので、地獄のルールを知らないと相手も考えるでしょう。

 これまでの傾向から考えて、地獄に来たばかりの悪人は大抵最初は鬼に反発する者も多いのです。

 なので、あちら側もこういう事態はある程度想定しているのです。

 あまり派手に暴れない限り、閻魔大王の対応も早急になる事はないでしょう……。

 しかし、そう楽観視も出来ないので、計画の実行を3時間後にしたのですよ。

 正直な話、私としてはあなたを見捨てても構わないのですが、あなたほどの戦力が失われるのはやはり惜しいんですよ……。

 計画を成功させるためにはね……」

「フン! なるほどな……。 なかなか地獄という場所は厄介な所というわけか……」

「とりあえず、あまり時間もありませんので、そろそろ我々の本拠地へ移動しますよ」

 

 

 そう言って、フリーザは空へと飛び出した。

 そしてセルもフリーザを追う様に空へと飛び出した。

 しばらく2人が地獄の空を飛行していると、巨大な都市が見えて来た。

 

 

「これは……」

 

 

 セルはその都市の大きさに、僅かながら驚いた。

 ここに移動してくるまでに、地獄には人が住んでいるであろう場所がいくつも確認できた。

 しかし、大抵は村や集落と言っていいほどのレベルだった。

 

 だが、今セルの目の前に広がっている光景は明らかにそれらとは比較にならないくらいの文明を誇っていた。

 

 

「どうです? 我が本拠地は……」

「正直驚いたぞ…! ここだけ別世界じゃないか……」

「そうでしょうとも! …と自慢しましたが、別にここだけ特別栄えているわけではありませんよ……。

 他にもここと同じ様に栄えている都市はありますからねぇ……。

 地獄で割り振られる領土には、大抵同じ星や同じ一族…といった生前関わりが深い者達が一纏めにされます。

 私の場合は、同じ一族とフリーザ軍がそのまま一纏めにされ領土を与えられました。

 なので、科学力に特化した星出身の者達が多い場所は、ここと同じ様に栄えていたりしますね……。

 ここが栄えているのは、私が地獄で引き抜いた知識ある者達の成果ですがね……」

「なるほどな……」

「さて、無駄話をしている暇はありません…!! さっさと行きますよ!!!」

 

 

 そういうと、フリーザは都市で1番高い建物の屋上へと降りていく。

 そして、セルもフリーザに続く形で降りていく。

 屋上に降り立つと、2人の前に5人の漢達が跪いていた。

 

 

「お帰りなさいませ!! フリーザ様!!!」

「「「「お帰りなさいませ!! フリーザ様!!!」」」」

 

 

 最初に声を発したのは真ん中で跪いた、肌が薄い紫色をした筋肉隆々の漢だった。

 そして、それに続く形で他の4人の漢達も声を上げる。

 

 

「戻りましたよ! 特戦隊の皆さん……」

 

 

 出迎えたギニュー特戦隊に声をかけたフリーザ。

 そして、セルは無言で目の前に跪いている漢達に視線を向け、瞬時に彼らの戦闘力を把握する。

 そんなセルの視線に気づいたのか、ギニューがセルに視線を向ける。

 

 

「何だ? 貴様は……?」

「彼はセルさんといいます…。 私の新たな協力者ですよ……」

「協力者…? 新たな配下ではないのですか……?」

「えぇ、彼とは計画を遂行するまでは対等の関係を結んでいます。 あなた達も失礼がないように……」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 フリーザの横に堂々と立っているセルに声をかけたギニューに、フリーザからフォローが入る。

 対等の関係という言葉が出た時は、僅かに驚いた表情を浮かべた5人だったが、フリーザから命令されれば、どんな事であろうが素直に承諾する。

 何故なら、彼らは宇宙の帝王フリーザの忠実なる僕なのだから。

 

 

「セル、フリーザ様が貴様と協力関係を結ぶと言われるのであれば、我らに異論はない」

「フン!」

 

 

 ギニューに声を掛けられたセルだったが、興味がないのか一瞬視線を向けるがすぐに他所に向ける。

 セルの態度にムッとした表情を浮かべるギニュー。

 しかし、この漢はそんな事で激怒したりしない。

 

 

「何だっ? 貴様は恥ずかしがり屋なのか?セルよ!! それでは、仕方ない貴様には我々のとっておきを見せてやろう!!! お前達!!!」

「「「「おぉ!!!」」」

 

 

 ギニューに声を掛けられ、残りの4人も立ち上がる。

 5人の漢達から発せられるただならぬ雰囲気に、セルは自分に挑んで来るのか?と一瞬考えたが、それは盛大な勘違いだった。

 

 

バッ!! 「リクーム!!!」 バーーーン!!!

バッ!! 「バータ!!!」  バーーーン!!!

バッ!! 「ジース!!!」  バーーーン!!!

バッ!! 「グルド!!!」  バーーーン!!!

バッ!! 「ギニュー!!!」 バーーーン!!!

 

 

「「「「「みんなそろって、ギニュー特戦隊!!!!!」」」」 ドガーーーーーン!!!!!

 

 

「………」

 

 

 いきなり盛大におかしなポーズを決めた5人に、ぽかーんとした表情を向けるセル。

 しばらく両者の間に静寂の時が流れる…。

 セルは、静かにフリーザの方に顔を向ける。

 

 セルの視線の先のフリーザも何とも言えない、表情を浮かべていた。

 

 

「フリーザ…、貴様と手を組んだら、私もこんな妙なポーズをとらないといけない等と言うわけではないだろうな……?」

「そんな訳ないだろうっ!!!」

 

 

 フリーザの怒声に、表情にこそ出さないまでも、密かにほっとしたセルだった。

 仮にあの様な妙なポーズをやれと言われていたら、問答無用でここにいるやつ等を吹き飛ばしていただろう……。

 

 

「こ、こほん! それよりギニューさん…、今から3時間後に例の計画をスタートさせますよ……!!」

 

 

 ギニュー特戦隊のせいで、妙な空気になっていた場の雰囲気をフリーザの言葉が再び引き締める。

 フリーザの言葉を聞いた、ギニューをはじめとした特戦隊の面々の顔つきが鋭くなる。

 

 

「はっ! 分かりました、フリーザ様!!!

 必要な装置の方は既に準備が出来ていますので、後は最終準備さえ整えばいつでも計画に移れます!!!」

 

 

 ギニューの言葉に満足そうに頷くフリーザ。

 そして、再び口を開くフリーザ。

 

 

「それでは、計画について改めて確認しましょう。

 今回の計画の目的はスピリッツロンダリング装置によって発生した、膨大な量の負のエネルギーの確保です。

 負のエネルギーを確保したら、我が軍で開発した結界発生装置へとエネルギーを送り込みます。

 すると、すでに配置した各地の端末が起動し、閻魔殿を含めた閻魔界そのものを結界の中に閉じ込める事が出来ます。

 そうすると、閻魔大王の権能をも封じ込める事ができます。

 閻魔大王さえ、排除してしまえば私達を邪魔する存在はいなくなる。

 まぁ、仮にいたとしても、その人達には2度目の死をプレゼントして差し上げましょう……。 ここまではいいですね……?」

 

 

 フリーザの言葉に各々頷く。

 

 

「それでは、計画実行についての話に移ります……。

 計画実行時ですが、流石に我々全てでスピリッツロンダリング装置のある閻魔界に乗り込めば目立ってしまいます。

 なので、今回は計画実行部隊と囮部隊の2つに部隊を分けます。

 私、セルさん、パパ、ギニュー隊長を除いた特戦隊の皆さんは囮部隊です。

 なので、ギニュー隊長……、計画の成功はあなたにかかっていると言っても過言ではありません……。

 私達が派手に暴れて地獄の鬼や閻魔殿のやつ等を引きつけておきますので、その間に計画を遂行しなさい。

 連れていく面子は、あなたに任せますので少数精鋭でおねがいしますよ……」

「はっ!! このギニュー必ずやフリーザ様のご期待に応えてみせます!!!」

 

 

 フリーザから勅命を受けたギニューは、再び跪きフリーザに頭を垂れる。

 

 

「さて、何か質問がある方はいますか……?」

 

 

 そう言ったフリーザは、周りを見渡すが質問は上がらなかった。

 

 

「よろしい…。 ようやく…、ようやく我々にとって楽しい時間がやって来ますよ!!! ホォッホホホホーーーーーッ!!!!!」

 

 

 これまでの鬱憤を晴らすかの様な宇宙の帝王の邪悪な笑い声が、地獄の空に響き渡った……。

 そんなフリーザをこれから起きるであろう戦いを想像して、邪悪な笑みを浮かべながら見守る人造人間セル。

 この2人の巨悪の前にあの世の住人達は、あの世を守りきる事が出来るのであろうか……?

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