ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 あの世一武道会編 参

 3年かけて地獄転覆を企てていたフリーザはセルという強力な助っ人を得て、ついに計画を実行する事を決意した。

 今、フリーザの眼下にはフリーザ軍の本拠地に集った、大勢の配下の悪人達が勢揃いしていた。

 その数百は下らない配下達は、自分たちの頭上に立つ圧倒的な強者のオーラを放つ帝王に興奮の目を向ける。

 

 そんな自分の言葉を待つ配下達に向け、ついに宇宙の帝王フリーザの口が開かれる。

 

 

「皆さん、遂にこの日がやって来ました!!!」

「「「おおぉーーーーーっ!!!!!」」」

 

 

 フリーザの言葉を聞いた悪人達は凶悪な笑みを浮かべ、雄叫びを上げる。

 配下達の歓声がやむと再び口を開くフリーザ 。

 

 

「地獄にやって来てからというもの、我々は常に我慢を強いられて来ました……。

 しかし、それも今日で終わりです!!!

 忌々しい閻魔大王や、地獄の鬼達に裁きの鉄槌を下し、この地獄を恐怖と殺戮で塗り替えるのです!!!」

「「「おおぉーーーーーっ!!!!!」」」

 

 

 宇宙の帝王フリーザの宣言により、巨大な本拠地を揺るがすほどの大歓声が再び上がる。

 これまで我慢に我慢を重ねた地獄の悪人達は、ついに自分達の力を思う存分解放出来る事に喜び勇んでいた。

 

 

「それでは、フリーザ軍、全軍出撃!!!」

 

 

 フリーザの後ろに控えていた、ギニューの言葉で天井が左右に大きく開かれる。

 そして、自分達の頭上に姿を現した空に向かって、次々と血に飢えた獣達が放たれたのだった……。

 

 

「さて、ギニューさん、それでは手筈通りよろしくお願いしますよ。

 仮に私達が捕まったとしても、あなたが計画を成功させれば私達はすぐに出てくる事が出来ますからねぇ……」

「はっ!! お任せ下さい!! フリーザ様っ!!!」

 

 

 そう言うと、ギニューは背後に控えていた4人を引き連れ、空へと飛び出した。

 今回の計画の要は、ギニューとこの4人の計5人が本命部隊だ。

 ギニューを見送ったフリーザは、さらに自身の後ろに控えていた2人に目を向ける。

 

 

「ザーボンさん、ドドリアさん、貴方達は念のために、地獄の各地に設置した端末の確認に向かいなさい……。

 我々の計画の邪魔になる様な者は、1人残らず始末しなさい。

 本来なら、私の側近である貴方達だと目立ってしまう可能性も大きいのですが、この計画には各地に設置した端末も重要ですからねぇ……。

 貴方達なら、まずやられたり失敗する心配はないでしょう……。 頼みましたよ!!」

「「はっ! フリーザ様!!」

 

 

 フリーザの命を受けた、ザーボンとドドリアも空へと飛び出した。

 2人を見送ったフリーザに背後から声が掛けられる……。

 

 

「フッフフフ…、いよいよだな、フリーザよ……!!」

 

 

 フリーザが振り向くと、そこにはどこかフリーザに似た面影をもつ巨体の男が立っていた。

 

 

「遅かったね、パパ…。 もうすぐパーティーがはじまるよ!!」

「なに、久しぶりに血が騒いでな……。

 ようやく、私達を殺したサイヤ人達を存在ごと消し去れるのだと思ったらな……」

 

 

 フリーザ達はこれまでの調査で地獄に自分たちがかつて滅ぼした、サイヤ人達が存在している事をしっかりとつかんでいた。

 

 

「ふふっ、確かにそれも楽しみだけど、それはこの計画が終わってからのお楽しみだよ、パパ。

 今殺しても、あいつらはすぐに復活してしまうからねぇ……」

「そうだったな…。 それで…、あいつがお前の協力者か……?」

 

 

 フリーザとフリーザの父、コルド大王は壁に背を預けている存在に目を向ける。

 

 

「ええ…、彼がセルさんだよ……」

「なるほど…、ただ者ではないな……」

 

 

 壁にもたれ掛かっているセルの姿を一目見て、コルド大王もフリーザ同様、セルの底知れない実力を感じ取った。

 この一族は、力だけで宇宙を支配して来たわけではないのだ……。

 人の力を見分ける才覚も持ち合わせていたからこそ、彼らは宇宙を効率よく支配し、また文明を大きく発達させるに至ったのだ。

 

 2人の視線に気付いたのか、目を閉じていたセルが瞼を開け、2人と視線を合わせる。

 セルと視線を合わせた2人は、視線を合わせただけだといいうのに、背筋に寒気の様なものが走るのを感じられずにはいられなかった。

 そんな2人の様子がおかしかったのか、セルの口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「フッ…、どうした……? 宇宙を支配した一族が浮かべる顔だとは思えない様な表情をして……」

 

 

 セルの言葉に、フリーザとコルド大王の表情が苦々しく歪む。

 しかし、そんな2人を無視してセルは口を開く。

 

 

「それで…? これから私達はどうするのだ……? お前の話では、私達も囮とやらを担当するのであろう?」

「え、ええ…、そうです! 貴方の働き、期待していますよ……。 セルさん……」

 

 

 セルの問いに、何とか無理矢理浮かべた笑みで、返事を返すフリーザ 。

 そんな、フリーザの様子を小馬鹿にした様な笑みを浮かべたセルは、空へと飛び出す。

 そんな、セルを憎々しい表情でフリーザは見上げる。

 

 

「あ、あいつ…、こ、このフリーザ様をバカにしやがって……!!!

 計画が完了したら、完全に存在ごと消し去ってやる……」

「確かに、味方だったら良いが…、後々の事を考えると、早々に対処した方が良いだろう……!!」

「ふぅ、とりあえず、今は計画の成功が最優先だからね…。 今は生かしおいてあげるさ……」

 

 

 セルを追う様に、フリーザとコルド大王も空へと繰り出した。

 

 

 

 そして、時は現在へ流れる……。

 

 

 

 セルとフリーザ達は、近くの集落から侵略を開始した。

 襲われた大抵の者達は、閻魔大王の権能を恐れている為、フリーザ達に反撃せずに逃げる事を選んだ。

 しかし、元々地獄にいる者達は悪人で血気盛んな者も多いので、当然反逆する者達も現れた。

 

 だが、フリーザ軍には、ただでさえ戦闘力の高い者達が揃っており、さらに人数も多い為、襲われた者達は殆ど殺されてしまった。

 しかも、これまでの鬱憤を晴らす様に、あえて甚振る様に時間をかけ、痛め付け殺すという非道まで行っていた。

 当然そんな事をしていれば、地獄の鬼達も黙ってはいない……。

 

 フリーザ軍を取り抑える為に、地獄の鬼達も総出で事に当たったが、一般戦闘員はともかく、セルやフリーザ、コルド大王はおろか、特選隊にも戦闘力で劣っていた為、あっという間に返り討ちにあってしまった。

 そして、また1匹の鬼がセルによって、剣山の様な針山へその身を投げつけられた。

 

 

「オニッーーーッ!!!」

 

 

 投げられた鬼が叫び声を上げる。

 あと、数瞬で針山に激突するその瞬間、シュンと風を切り裂く様な音を立て、何者かがその鬼を窮地から救い出した。

 

 

「むぅ?」

 

 

 セルが何事かと視線を空中に向ける。

 すると、視線の先には、この場にいる大半の者にとって因縁の相手と言って良い存在が空中に佇んでいた。

 

 

「オメェ等、地獄に来てまで悪さを続ける気かっ!?」

「フッ!」

「孫…悟空……!?」

 

 

 暴れていたフリーザ達の前に姿を現したのは、セルとの戦いで死んであの世にやって来た、孫悟空だった……。

 悟空の姿を見た、セルは不敵な笑みを浮かべ、フリーザは忌々しそうに苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 そんな2人を見下ろしながら、悟空は再び口を開く。

 

 

「ちっとも、反省してねーよだなぁ!!」

「これはいい…、どうやらお前も死んだらしいな! また会えて嬉しいよ。 特戦隊のみなさん……」

 

 

 フリーザの掛け声により、飛び出した4人のギニュー特戦隊攻撃から再び始まった因縁の対決。

 しかし、今回ばかりは、セルやフリーザ達にとって運が悪かったとしかいいようがなかった……。

 この場に現れたのが、悟空だけだったらセルやフリーザ達の勝利は揺るがなかっただろう。

 

 しかし、今回悟空と共に地獄にやって来たのは、大界王星で長年修行を積んだ西の銀河一の武道家、パイクーハンだった。

 その実力は、現在の悟空の戦闘力を遥かに上回っていた。

 途轍もないスピードと強さで、セル、フリーザ 、コルド大王をあっと言う間に下すパイクーハン。

 

 その実力に共にやって来た、悟空も驚きを隠せなかった。

 パイクーハンの圧倒的な攻撃により、発生した竜巻でセルやフリーザ達は針山へ吹っ飛ばされる。

 

 

「「「「「うわぁーーーっ!!!!!」」」」」

 

 

 叫び声を上げながら、針山へ吹き飛んだセル達は、地獄の鬼達によって、厳重な牢に収監される事になった。

 

 

「くっそーーーっ!!!」

「やられるばかりで、死ねんとは……」

「くぅ…、まるで地獄だ……」

 

 

 こうして、彼等のクーデターは幕を閉じた…筈だった……。

 

 

「ふぅ…、こんなに早くやられた事は業腹ですが…、何とか囮の役割は果たしたでしょう……」

 

 

 牢の中で、ポツリとフリーザが呟くと、これまで怒りや悔しさの声を上げていた者達の声がピタリと止まる。

 そして、皆の視線がフリーザの方へ注がれる。

 

 

「計画では、もうそろそろ本命のギニューさん達が、閻魔界へ侵入しスピリッツロンダリング装置を抑える頃だと思うのですが……」

「あんな雑魚が本当に使えるのか…?」

「たっ、隊長が雑魚だとぉ!!!」

 

 

 自分が立てた計画内容を思い出し、本命の計画遂行状況を推察するフリーザに、セルが人選がギニューでよかったのかと問いかける。

 その言葉に、ジースを筆頭に特戦隊の者達が怒りをあらわにするが、フリーザに視線だけで黙らされる。

 

 

「確かに、ギニュー隊長は戦闘力だけだったら、私や貴方には遠く及びません。

 しかし、彼には特殊な能力が使えましてね…、今回の作戦遂行にはその能力が必要不可欠なのですよ……」

「特殊な能力だと…? 何だそれは……?」

 

 

 フリーザの言葉に疑問の表情を浮かべ問いかけるセル。

 

 

「ギニュー隊長には、ボディチェンジという他人の肉体と自分の肉体を入れ替えるという能力が使えるのです。

 今回の彼らの目的は、戦闘によるスピリッツロンダリング装置の奪取ではありません。

 閻魔大王や鬼達に気付かれずに、施設に潜入して装置を奪取する事です」

「なるほどな…。 施設で働いている鬼とボディチェンジとやらを行い、鬼と入れ替わり侵入するという事か……」

「ええ…、ギニュー隊長はああ見えて、数多くの任務もこなしているので判断力もありますからねぇ。

 能力と経験を考えれば、彼以外にはこの任務は務まらないのですよ……」

 

 

 フリーザ達がそんな事を話していると、突然牢のドアが勢いよく開かれる。

 そして、鬼達によってフリーザ軍の戦闘服を着た、5人の男達が牢の中に叩き込まれる。

 フリーザ達は、その中の1人の顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「ギ、ギニュー隊長!? な、何故ギニュー隊長がこんな所にっ……!?

 ま、まさか…、し、失敗したのかっ!?」

 

 

 どうやらギニューは気絶しているせいか、大声を上げたフリーザに無反応だった。

 それが気に障ったのか、フリーザはギニューに近づくと蹴りを叩き込む。

 

 

「起きろ!! ギニュー!!!」

 

 

 無残に蹴り飛ばされたギニューに向かって、怒声を飛ばすフリーザ。

 今の蹴りで意識が戻ったのか、ギニューの身体がピクリと反応する……。

 

 

「うっ…、ここは……」

「お目覚めかい…ギニュー隊長?」

「はっ!? フ、フリーザ様っ……!?」

 

 

 フリーザの声を聞いた事で、完全に意識が覚醒したギニューに絶対零度の視線を向けるフリーザ。

 

 

「それで…、どうしてお前がこんな所にいるっ!? 計画はどうしたっ!?」

 

 

 再び発せられた怒声に、ギニューは即座にフリーザの前に跪く。

 

 

「も…、申し訳ありません…フリーザ様……。 計画は失敗しました!!!」

 

 

 ギニューから発せられた言葉に、フリーザは苦々しい表情を浮かべる。

 長年かけた計画が失敗したからか、怒りによって身体からは禍々しい気が溢れ出していた……。

 フリーザは人差し指をギニューに向ける。

 

 人差し指の先には、膨大なエネルギーを圧縮した光が輝いていた。

 怒りで頭に血が上ったフリーザには、地獄の法など頭から完全に消え去っていた。

 ここで、フリーザがギニューを殺してもギニューはすぐに復活して、フリーザの立場が今以上に悪くなるだけなのだが、そんな事にすら考えが及ばなくなっていた。

 

 

「オレの計画は完璧だった……。 何故失敗したのか答えろっ!!!」

 

 

 フリーザから発せられる強烈な殺気に、ギニューの全身から冷や汗が吹き出る。

 

 

「サ、サイヤ人です……」

「…何だと? 今…、サイヤ人…と言ったのか……?」

「はい…、我々の邪魔をしたのはサイヤ人の男でしたっ……」

 

 

 ギニューから発せられた言葉に、ピクッと反応を示したフリーザ 。

 しばらく牢の中に張り詰めた空気が流れる。

 しかし、その時間も長くは続かなかった……。

 

 フリーザの指からエネルギーの塊が静かに消えたからだ。

 それと同時に、牢の中の空気も幾分か和らいだ。

 

 

「まずは、聞かせなさい…。 貴方達に何が起こったんですか……?」

「はっ! それでは、話させていただきます…。 あれは……」

 

 

 そして、ギニューは語り出す……。

 宇宙の帝王フリーザが長年かけて計画した作戦が失敗した、その時の様子を……。

 

 

 

 時間は数時間ほど遡る……。

 

 

 

 フリーザ軍の本拠地を出陣した、ギニューを含めた本命部隊5人は猛スピードで地獄の空を飛行していた。

 今回の計画は、時間との勝負なのだ……。

 いかに、フリーザやセルが陽動をしてくれているからといって、ここが死後の世界である以上安心は出来ない。

 

 何故なら死後の世界には、現世の世界にはない理が存在するからだ……。

 それは、単純に戦闘力だけでは片づけられない事態も容易に起こり得るという事だ……。

 

 

「ギニュー様、囮部隊からの連絡です…。 囮部隊は予定通り本拠地の近くの集落に侵攻を始めした」

「分かった! こちらも予定通りあと数分で、目標施設の真下に着く。 急ぐぞっ!!」

「「「「はっ!!!!」」」」

 

 

 背後の部下から報告で、計画の進行状況を確認したギニューは改めて背後の部下達に檄を飛ばす。

 今ギニュー達が目指している場所は、閻魔界にあるスピリッツロンダリング装置が設置されている施設だ。

 地獄は閻魔界の真下にある。

 

 閻魔界と地獄の間には境目として黄金いろの雲がある為、その雲を突き抜ければ閻魔界までなら地獄の住人も行く事は可能だ。

 しかし、閻魔界より上にある、天国や界王星、大界王星へは行く事は出来ない。

 ギニュー達はスピリッツロンダリング装置がある施設の真下まで移動し、そこから天国と地獄の境の雲を突破し、施設に侵入する予定なのだ。

 

 

「事前調査によれば、例の施設の入り口の見張りは通常2人。

 だが、今の時間帯は見張りの内の1人が場を離れる……。

 休憩か他の業務かは知らんが、その時間はおおよそ1時間…、その間に残りの見張りと入れ替わる」

 

 

 ギニュー達はこれまでの調査で、施設内の鬼達の行動をある程度把握していた。

 今回の計画では、ギニューが見張りの鬼と入れ替わり施設内に侵入後、監視室を用意した即効性の強い睡眠薬を散布する事で無効化した後、残りの4人を施設内に手引きする。

 そして、スピリッツロンダリング装置を奪取しようとしているのだ。

 

 その後、結界装置をスピリッツロンダリング装置が生成した負のエネルギーを、エネルギー源として装置を稼働するつもりなのだ。

 

 

ピピピッ…

 

 

 ギニュー達が目標ポイントを目指し飛行していると、ギニューのスカウターから通信を知らせる音が聞こえてきた。

 

 

「私だ! そちらの様子はどうだ? ギニュー」

「ザーボンか。 こちらは後数分で目標ポイントへ到達する!!」

「なるほど、順調だな……」

 

 

 ギニューに通信して来たのは、ザーボンだった。

 

 

「そちらは、どうだ? ザーボン」

「私もドドリアも確認を済ませたが、端末の方は問題ない」

「つまり、我々が成功すれば万事が上手くいくという事だな!!」

「そういう事だ…。 期待しているぞ、ギニュー!!」

「フッ! 当然だ、私は超エリート部隊、ギニュー特戦隊の隊長なのだからなっ!!!」

 

 

 ザーボンとの通信を終え、それから5分ほど飛行して、間も無く予定のポイントへ到着しようとした時に、ギニュー達の目前に1人の男が背を向け佇んでた。

 

 

「何者だ……?」

 

 

 ギニューがそう呟くと、目の前の男が静かに振り向く。

 その男の顔を見て、驚きのあまり驚愕の表情を浮かべギニューは飛行をストップさせる。

 そんなギニューの様子がおかしかったのか、目の前の男は不敵な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「よう…!」

「き、き、貴様は…、そ、ソンゴクウ……、な、何故貴様がここにいる……!?」

 

 

 予想外の状況に、ギニューの口から驚きの声が上がる。

 ギニューにとって、孫悟空とは、ある意味でトラウマのような存在だった。

 何故なら、ギニューはナメック星で悟空のせいで、カエルと体を入れ替えるハメになったのだ。

 

 

「ほぅ、どうやらテメェはカカロットと何やら縁があるみてぇだな……?」

「……何だと?」

 

 

 目の前の男の言葉で、幾分か冷静になったギニューは改めて男の姿を確認する。

 先程は、男の顔だけで悟空と勘違いしたが、よくよく見れば、男が身につけているのは旧型のフリーザ軍の戦闘服。

 そして、額には赤いバンダナを巻いており、左頬には十字の傷。

 

 何より、目つきが以前みた悟空と大きく異なっている事に、ようやく気が付いた。

 

 

「貴様…、何者だ……?」

「オレはただのサイヤ人だ…、名乗る程のもんじゃねぇよ……」

「ほぅ…? では、そのただのサイヤ人がここで何をしている……?

 私達は急いでいるのだ…、あいにく貴様のような輩を相手している暇はないのだ!!」

「何を…か…」

 

 

 男は言葉をボツリと呟くと、口元に不敵な笑みを浮かべる。

 すると、身体から間欠泉の様に白い透明なオーラが吹き出す。

 

 

「はっ!こんな所にオレがわざわざいた理由なんて1つしかねぇだろ!!

 テメェ等の邪魔をする為さ!! こっから先は行き止まりだ!!!」

 

 

 気を解放して戦闘態勢万端の目の前の男に、憎々しい表情を浮かべるギニュー。

 

 

「たかが、サイヤ人ごときがオレ達の邪魔をするだとっ? お前達やってしまえ!!!」

 

 

 ギニューの言葉で後ろに控えていた4人の部下達が、一斉に男へ襲いかかる。

 男は全く焦った様な表情を浮かべず、向かって来た4人を迎え撃つ。

 1人目の攻撃を顔を横にずらし、紙一重で交わすと強烈な右のパンチをボディに叩き込む。

 

 2人目がその隙に、攻撃を加えようとするが男の姿が忽然と消える。

 2人目が認識できないほどの超スピードで背後に回り込み、背後からの蹴りを叩き込んだ。

 

 先2人があっさりとやられたので、3人目は遠距離からのビームによる攻撃を繰り出す。

 しかし、その攻撃を男は片手であっさりと払いのける。

 その払いのけたビームは、攻撃を伺っていた4人目に激突する。

 

 自分の攻撃で4人目がやられた事に、驚愕の表情を浮かべた3人目だったが、そんな隙を男が見逃すはずがない。

 3人目が気が付いた時には、既に目の前に男が迫っていた。

 そして、声を上げる暇もなく、男の強烈な右ストレートが3人目の顔面に叩き込まれた。

 

 僅か数秒の出来事だった…。 男はあっという間に4人のギニューの部下達を下し視線をギニューに向ける。

 

 

「……なるほど、ただのサイヤ人では無いという事か」

「次は、テメェの番だ……!!」

 

 

 2人の視線が激しく交差する。

 張り詰めた緊張感が場を支配する。

 しばらくそんな緊張が続いたが、2人の姿が忽然と消える…。

 

 続いて、轟音と衝撃が地獄に響き渡る。

 原因は、男の腕とギニューの腕がぶつかったからだった。

 そして、弾かれる様に離れると同時にギニューが男に向かってエネルギー弾を放つ。

 

 しかし、即座に体勢を整えた男はそのエネルギー弾を躱すとギニューに向かって突撃する。

 

 

「ちっ!」

 

 

 自分に向かってくる男に、苦々しい表情を浮かべるギニュー。

 ただでさえ、時間が無いというのに、目の前の男がそう簡単に片付けられる存在でも無いという事を、先の部下と男の戦闘を見て確信していたからだ。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 ギニューの間合いに入り込んだ、男の拳がギニューに向かって繰り出される。

 しかし、その拳を躱しギニューはカウンターの要領で男に繰り出す。

 だが、男はその拳を繰り出した拳とは逆の手で払いのける。

 

 男とギニューはゼロ距離での接近戦に突入する。

 2人の男が繰り出す拳の音が地獄の空に響き渡る。

 

 

「だぁ!!!」

「ちぇい!!!」

 

 

 男とギニューの拳が激突する。

 その衝撃で2人は弾け飛ぶが、即座に体勢を整えた2人は構えたまま向かい合う。

 

 

「ふん! なかなかやるじゃないか!!

 サイヤ人と侮っていたが、認めよう…、貴様は間違いなく強者だ……!!!」

「そいつは光栄だな! フリーザ軍きってのエリート部隊の隊長様に褒められるとはな……」

「だが…、生憎とオレには時間がないのでね……。 悪いがそろそろ終わらせてもらうぞっ!!!」

 

 

 ギニューの言葉に、男は気を引き締めた様な表情を浮かべる。

 そんなに男に不敵な笑みを浮かべたギニューは、静かに両腕を開く。

 その構えは、対象者にとって絶望にも近い能力を発動する為の構えだった……。

 

 ギニューの全身を怪しい光が覆う…。

 そして、遂にギニューはその能力を発動させる。

 

 

「チェーーーンジ!!!!!」

 

 

 ギニューの叫びと同時に全身から光が男に向かって放たれる。

 もう、あと数瞬で男に光が直撃する瞬間、ギニューの目の前から男の姿が忽然と消える。

 

 

「!?」

「後ろだっ!!!」

 

 

 突然の事態に驚きの表情を浮かべる、ギニュー。

 そして、背後から声が響いたと思ったら途轍もない衝撃が、ギニューの背後から叩きつけられる。

 

 

「がふっ!!!」

 

 

 あまりの威力に地面に撃墜させられたギニューは、倒れたまま痛みを堪えた表情で頭上に目を向ける。

 すると、男が腕を組んだままギニューを見下ろしていた。

 

 

「ちっ!」

 

 

 未だ痛む体に舌打ちしつつ、ギニューはなんとか立ち上がる。

 すると、男がギニューの目の前に降り立つ。

 

 

「ボディチェンジって言ったか? テメェの能力は……。

 身体を入れ替えられるのはゴメンなんでな、悪りぃが潰させてもらったぜ」

「貴様…、どうしてオレの能力のことを……」

 

 

 自分の手の内がバレていた事に苦々しい表情を浮かべるギニュー。

 そんな、表情を浮かべているギニューとは対照的に、男は無表情でギニューを見つめていた。

 だが、ふと何か気になる事でもあったのか視線を明後日の方向に向ける。

 

 

「どうやら…、あっちも終わった様だな……」

「何の事だ…?」

 

 

 突然男が発した言葉に、ギニューは背筋に寒いものが走るを感じた。

 

 

「ん? ああ、どうやら…ちょうど今フリーザの野郎達がやられた様だぞ……」

「なっ、何だと!?」

 

 

 ギニューの表情に驚愕の色が浮かぶ。

 しかし、男はそんなギニューを無視して、言葉を続ける。

 

 

「別にそんな驚くことでもねぇだろ…、相手をしたヤツはカカロットともう1人だ。

 ただでさえ、カカロットより弱えフリーザがやられるのは、当然と言えば当然だろ……。

 まぁ、フリーザの近くに馬鹿デケェ気が感じられたから、そいつが一瞬でやられたのは驚いたがな……」

 

(カカロットと一緒に来たヤツは何もんだ? 明らかに今のカカロットの実力を超えてやがる……)

 

 

 言葉を発しながら男が、悟空と一緒に来たパイクーハンに思いを馳せていると声が聞こえてきた。

 

 

「カカロットとは、あの、ソンゴクウと言う男の名だったな……。

 あいつが、地獄にいると言う事はあいつも死んだという事か……。

 それにしても…、またしても、あの男に我々の計画が阻まれるとは……、どこまで我々の邪魔をすれば気がすむというのだっ!!!」

 

 

 男が視線を戻すと、怒りで全身を震わせているギニューの姿がそこにあった。

 

 

「だが…、まだだ!! まだ終わってはいないっ!!!

 貴様を倒して、オレが計画を遂行すればまだ終わりではないのだっ!!!」

 

 

 全身に闘志を漲らせ、構えをとるギニュー。

 その表情からは、絶対に計画を遂行するという意思が伺えた。

 

 

「オレを倒すねぇ…、テメェのその気概は認めてやる……。

 だが、悪りぃがテメェには無理だ……、はあっ!!!」

 

 

 男が気合を込める様に叫ぶと同時に、男の全身から黄金いろのオーラが吹き出す。

 すると、黒色だった髪が黄金色へと変わり、黒い瞳は、どこかエメラルドを感じさせる様な碧眼へと変化する。

 宇宙を股にかけたフリーザ軍の超エリート部隊の隊長である、ギニューですら見た事がないほどの圧倒的な力が地獄に顕現する。

 

 その力は、地獄の大気を震わせる…。

 遠く離れた息子に、力の波動を感じさせるほどに……。

 

 男から発せられる圧倒的なオーラに、ギニューは無意識に後ずさる。

 

 

「なっ、何だ!? その姿は…。 サイヤ人は大猿にしか変わらない筈……」

「本当なら、テメェ相手には見せる必要はねぇんだが、テメェがさっき見せた気概への礼だ……。

 こいつは、超サイヤ人ってんだ…。 名前くらいは知ってんだろ……?」

 

 

 男から発せられた言葉に、驚愕の表情を浮かべるギニュー。

 

 

「ス、超サイヤ人だとっ…!? あ、あの伝説の…、フリーザ様すら下したという……」

 

 

 超サイヤ人と聞いて、しばらく動揺した様子が見て取れたギニューだったが、覚悟を決めたのか目の前の圧倒的な存在に視線を向ける。

 

 

「ふぅ、超サイヤ人か…、凄まじいな……。

 なるほど…、フリーザ様すら下すわけだ……。 オレは貴様に敗れるのだろう……」

 

 

 目の前の存在の力に、どこか敬意を込めながら喋るギニュー。

 その内容からも分かる様に、彼は既に自身の結末を確信していた。

 だが、それでも彼の誇りが無様に散る事を許しはしない。

 

 

「だが、ここで逃げるわけにはいかん!! 何故ならオレはギニュー特戦隊の隊長、ギニューだからな!!!

 ここでおめおめと逃げ帰れば愛すべき部下達に顔向けできん!!! 行くぞ!!超サイヤ人……!!!!」

 

 

 再び全身に気を張り巡らせた、ギニューは超サイヤ人へ向け飛び出した。

 

 

「へっ! テメェの様なバカは嫌いじゃねぇぜ!!!」

 

 

 決着は一瞬だった……。

 気を失う前にギニューが見た光景は、自身のボディに突き刺さる拳だった……。

 そして、意識を失うその瞬間、確かにギニューは聞いた……。

 

 

「テメェーの気概、大したもンだったぜ……」

 

 

 圧倒的な強者に、そんな事を言われたからか、ギニューはフリーザの部下としては無念と考えながらも、戦士としてはどこか誇らしく意識を手放した……。

 

 

 

 そして、時は再び現在へ戻る……。

 

 

 

「これが、私たちに起こった全てです……」

 

 

 フリーザの前に跪いたギニューは、自分たちに起こった全てをフリーザに報告した。

 

 

「超サイヤ人…だと……!? ソンゴクウやあの男の他に、まだ居たというのかっ……!?」

 

 

 驚愕の表情を浮かべているフリーザに、後ろから声がかけられる。

 

 

「別にそんなに驚く事でもないだろう…? 今の地球には超サイヤ人は4人もいる。

 地獄に1人くらい居たとしても、不思議じゃない……」

「くっ…、忌々しい猿どもめ……」

 

 

 フリーザに言葉をかけたのは、セルだった。

 そして、セルの言葉にフリーザが苦々しい表情を浮かべる……。

 そんなフリーザに跪いたギニューから声がかけられる。

 

 

「フリーザ様、私に罰をお与えください。

 長年フリーザ様が計画した作戦を遂行できなかった私に!!」

「「「「隊長っ!?」」」」

 

 

 ギニューの言葉に他の特戦隊の4人が驚きの声を上げる。

 フリーザはそんなギニューに冷酷な目を向ける。

 

 

「確かに、お前が計画を遂行していればこんな事にはならなかった……」

 

 

 フリーザから発せられる、強烈な殺気にセル以外の牢屋の住人達から一気に冷や汗が吹き出る。

 

 

「消えろ!!!」

 

 

 その言葉と同時に、人差し指をギニューに向けるフリーザ。

 すると人差し指から、一筋の光が飛び出し、ギニューの眉間を撃ち抜く。

 眉間を撃ち抜かれたギニューは、力が抜けた人形みたいにドサリと倒れると、死体ごと姿を消す。

 

 ギニューの死体が閻魔大王の元へ移動したのだ。

 

 その後、フリーザやセル、フリーザ軍の面々は地獄を転覆しようとした罪により、これまで以上の罰を与えられる事となる。

 特にフリーザは、計画の首謀者ということで、全身を拘束させらえれたミノムシ状態で木に吊るされ、お花畑で楽しそうにパレードをする妖精達を永遠に見続けるという、フリーザにとって苦痛でしかない罰を与えられるのだった……。

 

 これにて、地獄を揺るがすクーデターは幕を閉じたのだった……。

 

 

 

 ギニューがフリーザに殺された、その頃、地獄の荒野に1人の男が佇んでいた。

 その者は、先程までギニューと戦いを繰り広げていた男だった。

 男は、ポケットから端末を取り出し、ボタンを操作する。

 

 すると、端末の画面に1人の男が映し出される。

 

 

「お疲れ様です!! バーダックさん。 地獄での件は終わりましたか…?」

「ああ。 ギニューの野郎を倒して、地獄の鬼達に渡しておいた…。

 これでよかったんだろ?トランクス……」

 

 

 そう、ギニューの相手をしていたのは、孫悟空の父バーダックだった。

 バーダックの言葉に、トランクスは大きく頷く。

 

 

「本来は我々が歴史に介入するわけにはいかないのですが、あの世が乱れてしまったら、その影響は計り知れません。

 下手したら、この宇宙そのものが消えてしまう自体になりかねません……。

 なので、今回はこの時代の人間でもあるバーダックさんにご協力頂いたというわけです」

「まぁ、何でもいいさ! なかなか骨のあるヤツと戦えたからな……」

 

 

 バーダックの言葉に、苦笑いを浮かべるトランクス。

 しかし、内心では、こういう所は、息子と似てるんだなぁと思わずにはいられなかった。

 

 

「とりあえず、これで任務は完了です。 戻ってきてください」

 

 

 トランクスがそう言うと、バーダックの全身が光に覆われる。

 そして、次の瞬間には、バーダックの姿は地獄から綺麗さっぱり消え去っていた……。

 

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