ドラゴンボール -地獄からの観戦者- Story of Bardock Episode-02

「そいつは……、頬に十字傷を持ち、額に赤いバンダナを巻き、フリーザ軍の戦闘服を纏ってやがった……。

 髪型、そして髪と瞳の色以外瓜二つだったんだ……、オレとな……。

 最初は、偶然オレと似た服装をした他人だと思っていた……。いや、思い込もうとしていたのかもしれねぇ……。

 実際、今のオレと違っている部分も多かったからな……。だが……」

「貴様の息子、孫悟空……いや、カカロットがフリーザとの戦いで蘇らせた、お前達サイヤ人の伝説。

 ”超サイヤ人”へと変身した姿と予知の中の男が瓜二つだったのだな?」

 

 

 閻魔大王の問いかけにバーダックは静かに頷く。

 

 

「あぁ……。カカロットは見た目だけだったら、オレに瓜二つだからな……。

 オレが超サイヤ人へと変身したと仮定した時、その変身した姿は、ほぼ間違いなくあいつが超サイヤ人へと変身した姿と同じになったはずだ……。

 その考えに行き着いた時に思ったんだ……。

 あの予知に出て来た超サイヤ人は……、オレ……だったんじゃねぇか……ってな」

 

 

 自分の考えを静かに語っていたバーダックが、ここで言葉を区切ると苦笑を浮かべる。

 

 

「まぁ、死じまって地獄にいるオレに、そんな未来なんてモンがあるとは思えねぇがな……。

 それに、死んでから1度も予知なんてなかったんだ。

 今回の事も単なる白昼夢かもしれねぇ……」

「ふむ……」

 

 

 ここまでのバーダックの言葉を聞いていた閻魔大王は、身体を椅子に深く沈め両手を組み、何かを考える様に目を瞑る。

 その仕草はバーダックから齎された情報を整理し、自身の考えを纏めている様だった。

 

 そんな閻魔大王の様子をしばらく見つめていたバーダック。

 だが、程なくして閻魔大王の閉じていた目が開き、バーダックを見据える。

 

 

「なるほどな……。

 死者である貴様自身の時間は、生者としての時間と考えると確かに止まっていると言って良いだろう……。

 それなのに、地獄ではない別の場所に存在した貴様自身の未来を予知したと……。

 しかも、他者に与えられ、死後に無くした筈の力の突然の発動……」

「ああ……」

 

 

 自身が聞いた内容の認識が間違っていないか再度バーダックに確認をとった閻魔大王は、机に広げている閻魔帳に視線を向ける。

 そして、とある記述に目を止める。

 

 

「”幻の拳”……」

「あん?」 

 

 

 閻魔大王が呟く様に口にした言葉に怪訝そうな表情を浮かべたバーダックだったが、そんなバーダックを無視して閻魔大王は机に広げていた閻魔帳をめくり出した。

 しばらくページをめくっていた閻魔大王は目的のページを見つけたいのか、閻魔帳に記述されている内容に目を通す。

 

 

「なるほどな……”幻の拳”とはそういう類のものか……、それでか……」

「おい!何かわかったのか?」

 

 

 バーダックの若干苛立ちが混じった言葉で、閻魔帳から視線を上げた閻魔大王は口を開く。

 

 

「貴様に予知の力を預けた術……”幻の拳”について調べておったのだ」

「さっきの感じだと、何か分かったみてぇだな?」

「うむ。”幻の拳”は対象者……今回の場合だとバーダックお前に当たるわけだ。の頚椎に拳を放った際、対象者の魂と脳に術を施す様だ……。

 魂……つまり貴様の存在の力をエネルギーとし、術によって変革した脳に未来を見せるという事だろう……」

 

 

 死んで20数年経って初めて自分にかけられた術の性質を知ったバーダックだったが、閻魔大王の言葉を聞いて余計に疑問が増えた。

 

 

「術の性質は分かったが、何でそいつが死んで使えなくなっちまったんだ?

 まぁ、使えたら使えたで、あの頭痛が毎度起こるのは勘弁してほしいがよ……」

「推測ではあるが……、原因は魂だろうな……。

 貴様は地獄の住人だから、地獄へ行く際スピリッツロンダリング装置を受けたからな。

 肉体の方は魂が記憶している肉体情報を元に、惑星ベジータで滅んだ時のものを完全再現しているからのう」

 

 

 閻魔大王が口にした推測に、怪訝そうな表情を浮かべるバーダック。

 

 

「スピ……なんだそれは……?」

「スピリッツロンダリング装置だ!貴様も地獄に行く前に受けただろうが!!」

「あぁ……、あれかぁ……」

 

 

 バーダックは、地獄に行く前に受けたよく分からない機械を思いだす。

 そこで、バーダックはふと頭によぎった疑問を口に出す。

 

 

「そういえば、あれはいったい何の装置なんだ?」

「スピリッツロンダリング装置とは、魂を浄化する装置の事だ。

 使用用途は主に2つだな。

 1つ目は、死後地獄に落ちる魂は、生前の悪の心が強すぎる者も多いのでな、地獄に行く前に一度軽く魂を浄化するのだ。

 そうする事で、地獄に行っても生前ほど悪事を働こうとする気持ちを起きづらくする。

 まぁ、地獄にいるやつらはどいつも悪人だかりだから、逆に悪事に発展する事も少ないがのう……。

 せいぜい、力の有り余った奴らが喧嘩しているくらいか……。

 2つ目は、地獄での刑を終えた者の魂や、天国で転生を待っていた魂と共に完全に浄化し、輪廻の輪に還し転生させ新たな命として現世に戻すのだ」

 

 

 閻魔大王の説明を聞き、心当たりがあったのか納得した様な表情を浮かべるバーダック。

 

 

「なるほどな……。

 地獄で再会したら態度がおとなしくなったと、感じたヤツが何人かいたのはそう事だったのか……ん?」

 

 

 喋っていたバーダックは、先ほどの閻魔大王の説明でとある部分が引っかかった。

 

 

「ちょっと待て……!スピリッツ何とかって装置は魂を浄化するんだよな……?」

 

 

 自身の頭にふと浮かんだ考えを確認するべく、バーダックは閻魔大王に視線を向ける。

 バーダックの視線で彼が何がいいたのか察した閻魔大王は口を開く。

 

 

「そうだ、それが理由だ。

 スピリッツロンダリング装置で魂を浄化された際に、”幻の拳”から魂にかけられた術の大部分まで一緒に浄化されてしまったのだろう。

 ここまでくれば、貴様が死後、予知が出来なくなった理由も分かっただろう?」

「ああ……」

 

 

 閻魔大王の言葉に力強く頷いたバーダックは、言葉を続ける。

 

 

「肉体というか脳か……は、”幻の拳”ってやつを喰らった後の状態だが、魂の方は浄化された時に術の効果まで一緒に浄化しちまった。

 脳と魂、どちらかが欠けたら予知はできねぇ……。

 つまり……、今のオレは予知なんて出来ねぇ……て事だろ??」

 

 

 自身の考えを自信を持って言葉にしたバーダックだったが、閻魔大王は静かに横に振る。

 

 

「逆だ。これは、あくまでワシの推測だが……、今回貴様が予知を見たのは偶然という訳ではない。

 生前ほどではないだろうがお前はその気になれば、今でも予知自体を見る事は可能だろう。

 まぁ、好きなタイミングで見れるかは知らんがな……」

 

 

 閻魔大王の発言に、疑問を浮かべた表情を浮かべたバーダックが口を開く。

 

 

「あ?どういう事だ?

 てめぇが予知を見るには、術が施された脳と魂が必要だって言ったんじゃねぇか!

 だが、肉体はともかく魂は浄化されたから、予知は使えねぇんじゃねぇのか?」

 

 

 バーダックの言葉に、閻魔大王はやれやれと言った様に首を左右に振ると口を開く。

 

 

「ワシは、完全に魂から術の効果が消えたとは一言も言っておらんだろう?

 貴様らサイヤ人がカナッサ星人に行った事は、彼らからしたら到底許せる事ではない。

 つまり、あの術はそれほど負の感情が込められて行使された術なのだ……。

 そんな術が、スピリッツロンダリング装置で軽く浄化した程度で消える訳があるまい?

 あくまで、術の大部分が消え去っただけだ……」

 

厳しい表情を浮かべバーダックの目を真っ直ぐ見た閻魔大王は、静かに言葉を発する。

だが、その言葉には確かな重みがあった。

それは、この術にはそれだけ術者の強い想いが込められている事を理解しろと言外に告げていた。

 

ふぅ、と一息ついた閻魔大王。

 それにより、2人の間に流れていた重苦しい空気は緩む事となった。

 そして、続きを話すべく再び閻魔大王は口を開く。

 

 

「今回貴様に予知が発動したのは、お前の息子とフリーザの戦いを見た事で、お前が1番魂に刻みつけている時間へ立ち戻ったからだろう。

その瞬間とは、たった1人でフリーザへ戦いを挑み、息子に自身の意志を託した瞬間だろうな……。

その想いが強すぎて、魂が無意識に反応して術を発動させたのだろう」

「なるほどな……、確かに一理あるかもな」

「なんだ?やけにあっさり納得するのだな……」

 

 

 素直に納得するバーダックに、少々拍子抜けしたと言わんばかりの表情を浮かべる閻魔大王。

 そんな閻魔大王の様子に対して、気にした様子もなく口を開くバーダック。

 

 

「ふん、あんたが言った事にいくつか思い当たる部分があったからな……。

 あんたが言った事は、あながち間違ってねぇのかもなって思っただけさ」

 

 

 口にしてから、バーダックはあの戦いについて、改めて思いを馳せる。

 

 確かにフリーザとカカロット、そしてその仲間達の戦いは、地獄に来てから一番心動かされた出来事であった事は紛れも無い事実だった。

 それに、バーダック自身フリーザへ対して、消化しきれていない様々な感情がある事を自覚していた。

 

 それらを踏まえると、あの時のあの戦いを見て、魂が強く反応する事は十二分にあり得る事だと思った。

 それなら、術が発動してもおかしくはないのかもしれない。

 バーダックは、そう結論付けることにした。

 

 これで、術が発動した理由は大凡だが判明した。

 バーダックは、もう1つ気になっていた予知の内容について、目の前の相手に聞いてみた。

 

 

「まぁ、術が発動した理由は分かったが、オレが見た予知については何か分かるか?」

「ふむ、それについては正直ワシにも分からん……が、仮説程度なら思い浮かばんこともない……」

「本当かっ!?」

 

 

 閻魔大王の返答に、バーダックは驚きを隠せなかった。

 正直ダメ元での問いだったのだ。

 

 バーダックが浮かべた驚きの表情が、可笑しかったのか苦笑した様な表情を浮かべる閻魔大王。

 

 

「大層なリアクションだが、あくまで仮説だ。

 確証もないし、証明する方法もない。それでも聞くか?」

「ああ、あの予知の力はバカにできねぇ事は身を以て知ってるからな……。

 もし、あの予知が本当にこれからオレに起こる事だったら、知っておきてぇ」

 

 

 バーダックの目に力強い意思を感じ取った閻魔大王。

 

 

「ふむ、よかろう。

 ワシが考えるに、貴様が予知した未来とはこの2つのうちのどちらかじゃろう」

「可能性が2つもあるのか!?」

 

 

 閻魔大王の言葉に驚きを隠せないバーダック。

 そんなバーダックに頷くことで応える閻魔大王。

 

 

「1つ目は、貴様自身が生き返ることだ。

 これは、貴様自身も考えたことではないか?」

「ああ、死人が生き返るなんて事はねぇと思ってたが……、ナメック星での戦いでカカロットの仲間が生き返ったとか言ってやがったからな。

 それに、宇宙にはドラゴンボールって、とんでもねぇモンまであるみたいだからな」

「そうじゃ、宇宙には死者すら生き返せる神秘の力を宿す道具が存在するし、その様な事象を起こせる存在もおる。

 だから、貴様自身が生き返る可能性も無いとは言い切れん。

 これが仮説の1つ目じゃな」

 

 

 閻魔大王が語った仮説の1つ目はバーダック自身考えたことでもあったので、大した驚きもなく受け入れることができた。

 だが、目の前の男は自身が思いつかなかった2つ目の仮説があるという……。

 それが何なのか見当がつかないバーダックは、目で2つ目の仮説を話せと促す。

 

 

「2つ目の仮説じゃが、こちらは内容を話す前に言っておくが、限りなく可能性は低いじゃろう。

 それに、半分空想の域に入っている話だ。

 それでも構わんか?」

「ああ、元々オレはあんたが言った仮説の1つ目くらいしか思い浮かばなかったんだ。

 どんな空想だろうと、可能性があるなら聞いてやるよ。

 ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと話な」

 

 

 バーダックに一言断りを入れた閻魔大王は再び口をひらく。

 

 

「2つ目は、貴様自身が死んでいなかった可能性の未来を予知した場合だ」

「……は?」

 

 

 バーダックは目の前の存在が言った事が瞬時に理解できなかった。

 そして、閻魔大王もバーダックの反応に無理もないと言った感じの表情を見せる。

 

 

「まぁ、そんな反応も無理もないじゃろうな。

 死者であるお前が死者としての自身の未来を予知することも無くは無いだろうが……、その場合は少なくとも地獄での光景を予知せねばおかしい。

 だが、お前が死者でありながらも、予知した様な状況になったのなら、ワシは何者かに力を封じられたか、存在そのものが消されたという事になる。

 その様な状況になったら、あの世とこの世の法則が崩壊するじゃろう。

 そうなったら、この宇宙の理自体が崩壊していると考えて良い」

 

 

 そこで一息ついた閻魔大王。

 

 

「つまり、あんたをどうにかすれば、死者でも現世に行く事は可能って事か……」

「まぁ、理屈で考えればの。

 だが、この宇宙には、そんな状況を許さないお方がおられる。

 もし、仮にワシがどうにかなって、死者と生者が入り乱れる様になった場合、ありとあらゆる存在は破壊され、再構築されるだろう。

 あのお方は宇宙の理の乱れを絶対に許しはせんじゃろうからな……」

 

 

 閻魔大王の言葉を聞いて引っ掛かりを覚えたバーダックは、首を捻る。

 

 

「あのお方?何者だ……そいつ?」

「お前は知らんでも良い……。

 お前があのお方にお会いする機会は無いであろうからな。

 ただ、宇宙には絶対的な力を持つ存在がいるとだけ認識してれば良い」

「ふーん、そうかよ。

 それで……、その”あのお方”ってヤツがいる限り死者としてオレが現世に行くのは不可能だって事でいいのか?」

 

 

 ”あのお方”ってヤツの存在も気になるバーダックだったが、今は予知の方が重要だったため、話を先に進めるべく、ここまでの話を纏める。

 

 

「そうじゃ。厳密に言えば死者でも現世に行けなくは無いが……、それはワシの許可と現世の協力者が必要になるのでこちらも無いだろう」

「つまり、どうやってもオレが死者のまま現世に行く方法は無いってわけか……。

 それで……、”オレ自身が死んでいなかった可能性の未来”って事になるのか……。

 どういう意味なんだ……これ?」

 

 

 ここまでの話で、とにかく死者である以上自身が予知した様な状況になる様な事は限りなく低い事を理解したバーダック。

 だが、いきなり”自身が死んでいなかった可能性”と言われてもさっぱり理解できなかった。

 

 

「バーダック、お前並行世界という言葉を知っておるか?」

「並行世界?……なんだそいつは……?」

 

 

 聞いた事がない言葉に首をかしげるバーダック。

 

 

「そうだな……、言ってしまえば、”別の可能性の世界”とでも言ってしまえば良いか……」

「別の可能性だぁ?」

「そうだ。例えば、お前が惑星ベジータの消滅時に運良く生き残ったり……とかな……」

 

 

 閻魔大王の言葉に顔を顰めるバーダック。

 先程はどんな空想だろうと、可能性があるなら聞いてやる。と言ったが、ここまで話がぶっ飛んでるとは思っていなかったのだ。

 

 

「おいおい、いくらなんでもそんな事はありえねぇだろ……」

「だ、か、ら、可能性の話だと言っておるだろう。

 それに、あながち無いとも言い切れんぞ。

 星の爆発という膨大なエネルギーがあれば時空に影響を及ぼすには十分じゃろうしのう」

 

 

 呆れた表情を浮かべるバーダックとは対象に、どこか楽しそうに話す閻魔大王。

 これは反論するだけ無駄だと、悟ったバーダックは話を先に進める事にした。

 

 

「並行世界ねぇ……、その可能性の世界とやらが本当にあるとして、なぜオレがその世界の事を予知として見るんだ?

 それに、あんたの話を信じるとして、あの爆発から生き残ったって今のオレからしたら20年以上前の過去の事じゃねぇか。

 過去の事を見るのも予知なのか?」

 

 

 バーダックの疑問はもっともだった。

 閻魔大王が言った並行世界が本当に存在するのだとしても、不確定な事が多すぎるのだ。

 

 

「並行世界の事をなぜ予知できたのかは、正直ワシにも分からん。

 じゃが、お前からしたら過去になるのだろうが、生き残った後のお前をなぜ予知出来たのかなら、おおよそ推測がたつ。

 先程も言ったじゃろうが、死者である貴様自身の時間は、生者としての時間と考えると止まっておるのだ。

 止まった時間の先だったら、立派な未来であろう?」

「おいおい……、なんかこじつけが過ぎやしねぇか?」

 

 

 自信満々に語る閻魔大王に呆れた様な声を出すバーダック。

 だが、急に閻魔大王の表情が真面目なものへと変わる。

 

 

「バーダック……、この予知はきっと意味があるものだとワシは思うぞ」

「あん?意味……だと?

 そいつはフリーザみてぇな奴が現れる事か?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて首を横に振る閻魔大王。

 

 

「いや、今更フリーザと同等の存在が現れてもお前の息子がいる以上、それほど脅威でも無いであろう。

 問題なのは、貴様が”超サイヤ人”になれる可能性があるという事だ……」

「ああ……、そっちか」

「ん?どうした?」

 

 

 明らかにテンションが下がったバーダックに、不思議そうな表情を浮かべる閻魔大王。

 その表情に気づいたバーダックは、バツが悪そうな顔を浮かべる。

 

 

「あー、オレが超サイヤ人になれるって言われても正直、実感がねぇと思っただけだ……」

「ふむ……、お前達サイヤ人は戦闘民族故強くなる事は喜ばしい事だと考えると思ったが、違うのか?」

「あながち間違っちゃいねぇが……、”超サイヤ人”ってのはオレ達とっちゃお伽話みてぇなモンだったからな。

 あいつのあの姿をこの目で見ても、未だに実感がわかねぇんだよ」

 

 

 そう言葉を吐いたバーダックは静かに目を閉じる。

 目を閉じた暗闇の世界に、黄金色の圧倒的なオーラに身を包んだ超戦士が鮮明に蘇った。

 あのフリーザを圧倒した、一挙手一投足の凄まじい攻撃。

 

 あれだけの力を持っているのだ、伝説になって当然だとバーダックは思えた。

 1人の戦士として、その圧倒的な戦闘力に身震いすら起きた。

 それと同時に……

 

 

 バーダックが1人思いに耽っていると、それを呼び起こす様に閻魔大王の声が響いた。

 

 

「なるほどのぅ、でも良いのか……?その可能性を閉ざしても……」

「あ……?」

 

 

 その言葉はバーダックを呼び起こすには十分すぎる響きを持っていた。

 それと同時に、バーダックは言われた言葉をよく理解する事が出来なかった。

 どういう意味だと?閻魔大王に視線を投げかける。

 

 

「お前の息子、孫悟空……いや、カカロットはこれからもさらに強くなるじゃろう。

 あの男は今の自分に満足する様な男では無い。

 昨日よりも今日、今日よりも明日と少しでも自分の限界へ挑むべく修行するだろう。

 それは、ナメック星での戦いを見ていたお前なら分かるであろう?」

 

 

 閻魔大王に言われてバーダックは、ナメック星でのカカロットの戦いを思い出す。

 超サイヤ人に変身する前から、サイヤ人として破格の戦闘力を持っていた。

 だがそれは、本能と持って生まれた戦闘能力で得たものでは決してなかった。

 

 とてつもなく長い時間をかけて、自分を追い込み今の自分よりもさらに強くなる為に訓練を重ねてきたのだろう。

 あいつの力の根底にあるのが、そういう努力によって培われたものだというのは、あの戦いを見せられれば嫌が応にも理解させられるものだった。

 そして、あいつはこれからもこれまでどうり自分を鍛え、更なる領域に足を進めるだろう。

 

 オレ達サイヤ人が誰1人進んだ事がない、未知なる領域へ……。

 

 

「お前は……、そんな息子と戦ってみたくはないのか……?」

「っ!?」

 

 

 目を見開き、固まるバーダック。

 それほど、今の閻魔大王の言葉はバーダックの心に突き刺さるものだったのだ。

 そして、その反応を見た閻魔大王はさらに言葉を続ける。

 

 まるで、バーダックの心を覗き見た様に……。

 

 

「戦ってみたかったのじゃろう……?超サイヤ人へと変身した息子と……」

 

 

 その問いに無言で応えるバーダック。

 そんなバーダックを同じく無言で見つめる閻魔大王。

 しばらくそんな時間が続いたが、先に音を上げたのはバーダックだった。

 

 

「はぁ……、そーだよ……、カカロットの奴がフリーザの野郎と戦ってる姿を見た時、オレはあいつと戦いたくてしょうがなかった。

 そんくれぇ、あん時のあいつの戦いはオレを熱くさせた……。

 けどよ……、あいつとオレが戦うなんて不可能だろう……」

 

 

 あのナメック星の戦いを見終えてからバーダックの胸には、歓喜と同時にどうしようもない虚しさがつきまとった。

 心の底から戦いたいと思った相手と戦う事が出来ない。

 これは、サイヤ人であり戦士であるバーダックにはとてつもない苦痛だった。

 

 自分の胸の内を吐露したバーダックを見て、閻魔大王は静かに口を開く。

 

 

「戦う事が出来る……、と言ったらどうする?」

「なにっ!?」

 

 

 驚愕の表情を浮かべるバーダック。

 そんなバーダックを無視して話を進める閻魔大王。

 

 

「もちろん、今のままではお前達は戦うことは出来ん。

 理由は分かっておるな?」

「あ、あぁ……、カカロットの奴は現世の人間で、オレが死者だから……」

 

 

 言葉を発していたバーダックは、自身の言葉で閻魔大王が言いたい事に予想がついた。

 

 

「まさかっ……!?カカロットが死んだ後にオレと戦わせるって事か!?」

 

 

 その言葉に、大きく頷く閻魔大王。

 

 

「そうじゃ。あらかじめ言っておくが時間がかかり過ぎだと言われれば、それくらい我慢しろとしかワシは言えん。

 それに、あいつが生涯をかけて鍛え上げたその力を、お前は味わってみたくないか?」

 

 

 強面な顔に挑発的な笑みを浮かべた閻魔大王に、強気な笑みを浮かべるバーダック。

 

 

「へっ、あいつと戦えるんだったら、いつだろうと構わねぇよ!

 それに、ただでさえ実力に開きがあるんだ……、あいつが死ぬまでにオレがあいつを越えてやる!!」

「ふっ……、それでこそサイヤ人……いや、カカロットの父親と言うべきか……。

 あいつの強い者と戦うことに、ワクワクするのは血筋だったと言うことか……。

 だがな、バーダック。お前が息子と戦うに当たって1つ条件を出す」

 

 

 強気な笑みを浮かべたバーダックの表情が、胡散臭いものを見る様な表情へと変わる。

 

 

「条件……だぁ?」

「そうだ……。だが、これはお前にとって悪い条件ではない」

「……なんだよ?」

 

 

 しぶしぶといった感じで話を聞く事にしたバーダック。

 

 

「バーダック……、お前タイムパトロールになる気はないか?」

「タイムパトロール……?なんだ、そいつは?」

 

 

 首を捻るバーダックに閻魔大王は待ってましたとばかりに言葉を続ける。

 

 

「この世には、時を司る界王神様という方がおられる。

 タイムパトロールとは、その方の元で歴史改変を食い止める仕事を行なっておる者達のことだ。

 タイムパトロールになれば、歴史改変を行なっておる悪人どもとも戦えるし、時の界王神様がおられるトキトキ都には多くの猛者がおる。

 そこで腕を磨けば、お前と息子の間にある差もかなり縮まるだろう。

 どうだ?やってみんか?のう?」

 

 

 鼻息荒く捲し立てる様に言葉を吐いた閻魔大王は、勢い余っていつの間にか机から身を乗り出していた。

 そんな閻魔大王をバーダックはジト目で睨んでいた。

 

 

「白々しいこと言ってんじゃねぇよ……。

 そのタイムパトロールってヤツ、重大な仕事なんだろうが人手が足りてねぇとかじゃねぇのか?

 だから、オレの話を聞いて丁度良さそうだから、タイムパトロールってヤツにしようとしてるんだろ?」

「なっ、なんのことじゃぁー……」

 

 

 バーダックの言葉が図星だったのか、ギクッとばかり体を震わせた閻魔大王はバーダックから視線を外す。

 そんな閻魔大王に溜息を吐くバーダック。

 

 

「おい、1つだけ答えろ!」

「なんじゃ?』

「本当に強いヤツと、戦えるんだろうな?」

 

 

 嘘は許さないとばかりに、閻魔大王の目を見据えるバーダック。

 そして、そんなバーダックの目を真っ直ぐ見据え真剣な表情で閻魔大王は頷く。

 

 

「ああ、本当だ。

 今のお前以上のヤツと戦えるだろう」

 

 

 それを聞いたバーダックの顔に、強気な笑みが浮かぶ。

 その笑みは何処か彼の息子、カカロットが強敵を前にした時に浮かべる笑みと似通っていた。

 

 

「いいぜ、閻魔大王。

 そのタイムパトロールってヤツになってやるよ!!

 そして、カカロットがあの世に来るまでに、あのクソガキを越えてやる……!!!」

 

 

 それからしばらくして、バーダックは閻魔大王の推薦の元、トキトキ都に趨き時の界王神の元、様々な歴史改変を行なっている者と戦う事になる。

 そして、持って生まれた戦闘感と戦う毎に強くなるサイヤ人の特性を活かしてメキメキと強くなっていく事になる。

 

 だが、彼の願いである息子との初対決は彼が思っているよりずっと早く、実現する事になるのをこの時の彼はまだ知らない……。

あわせて読みたい