ドラゴンボール -地獄からの観戦者- Story of Bardock Episode-06

 一度動き出したものは、何であれそう簡単には止まらないものである……。

 時だろうと、人間だろうと、運命であろうと……。

 そして、叫び声だろうと……。

 

 

「てめぇ、ふざけんなーーーっ!!!」

 

 

 時の界王神より、無理矢理地獄に戻される事になったバーダック。

 視界の光景が、トキトキ都から地獄に一瞬で置き換わる寸前に、あのチンチクリンのロリババアに吐いた咆哮は今地獄に響き渡っていた……。

 その時、バーダックのすぐ近くから声が聞こえてきた。

 

 

「うわっ! いきなりなんだいっ!?」

「あん……?」

 

 

 驚きに満ちた女性の声はとても良く聞き覚えがある人物の声だったので、幾分か冷静さを取り戻したバーダック。

 そして、そちらに視線を向けると1人の女サイヤ人が立っていた。

 

 2人のサイヤ人の視線が交差する。

 

 

「……ギネ?」

「……バーダック?」

 

 

 2人は呆然としたまま、何とかお互いの名前を口にする。

 しばらく、無言で見つめ合う両者。

 まるで、現実に理解が追いついていないようで、2人そろって間抜けな顔を晒していた。

 

 しかし、そんな時間も長くは続かず、ようやくフリーズしていた思考が動き出した。

 

 

「よぉ……、久し「バーダックーーーッ!!!」うおっ……!!!」

 

 

 久しぶりに会った女房に声を掛けた瞬間、自身の声を遮る形でギネがバーダックの胸に猛スピードで飛び込んできた。

 飛び込んで来たにスピードが早すぎた為、うっかり体勢を崩しそうになり、驚きの声を上げるバーダックだった。

 しかし、そんなバーダックの事なんぞ知ったこっちゃねーとばかりにギネの口が開く。

 

 

「バーダック!! あんた、3年も帰ってこないなんて一体どういうつもりだい……!!!

 いきなり閻魔大王からの仕事だって言って、いなくなって……、あたしが……、あたしがどれだけ心配したと…………」

 

 

 3年間貯め続けた怒りを爆発させるように、口からマシンガンの如く怒りの言葉を吐き出すギネ。

 その言葉の弾幕に為す術のないバーダックは、抱きつかれた体勢のままギネの言葉を聞いていた。

 しかし、しばらくするとギネの身体が僅かに震えているのに気が付いた……。

 

 そこで初めて、バーダックは自身がどれだけギネに心配をかけていたのかを悟ったのだった。

 

 

「心配かけたな……。 すまねぇ……」

「ーーーっ!!」

 

 

 静かにギネを抱きしめ、謝罪するバーダック。

 すると、ギネは一瞬驚いたように身体を震わせたが、静かにバーダックを抱きしめた……。

 

 

「おかえり……。 バーダック……」

「ああ……」

 

 

 しばらく抱擁を交わしていた2人だったが、お互いに落ち着いたので、家に帰り久しぶりに夫婦2人の時間を過ごした。

 ちなみに、2人の長男のラディッツは、成人している事もあり別の家で暮らしている。

 

 

 余談だが、地獄のサイヤ人たちは例の水晶から少し離れた所に、集落を作って暮らしている。

 そこは、地獄を管理している鬼達によって、サイヤ人達に与えられた土地だった。

 

 サイヤ人達みたいな惑星規模ではないが、種族の大半が滅んでしまう事は宇宙ではたまにあったりするのだ。

 その様な場合、同じ種族や星、国の者は大体同じ場所で生活を送る事になるのだ。

 これは、単純に同じ価値観を持つ者同士の方が互いの常識が通じる為、無闇矢鱈に争いにならないという考えの元その様になっている。

 

 とはいえ、地獄の刑の度合や刑期は人によって違うので、人によっては全く別の場所で生活していたり、そもそも地獄でも自由に出歩く事が許されていない者も存在する。

 

 本来地獄にいる者達は死人である為、食事や睡眠等取らなくても死ぬ事は無いが、それでもやはり労働した後等は、空腹感や睡眠欲等が生まれてしまう。

 その為、集落によってはしっかりと家が建っていたり、土地を耕して食料を育てていたりもする。

 当然これは、地獄の刑での時間外に行っている。

 

 そして、地獄にいるサイヤ人達も刑の時間外に、ベジータ王の命令を受けた非戦闘員達主導の元、家の建築と畑の開拓を行なった。

 サイヤ人達の身体能力を持ってすれば、重機などは必要ない為、しっかりとした計画を立てる者さえ存在すれば、家の建築や畑の開拓等はさして時間が掛からなかった。

 ある程度の生活基盤が出来た後は、より良い生活を追求する為、非戦闘員達は更なる研究を進めた。

 

 その結果、食べられる食料が増え、畑で育てる作物は一気に増えた。

 その作物は大変出来が良く、近くの集落とも取引が生まれるレベルだった。

 これにより、サイヤ人の集落の財政はかなり向上した。

 

 これらの出来事は、地獄のサイヤ人達の価値感を少なからず変えた。

 かつては、他の星を侵略し制圧してから、他者へ売り払い生計を立てていたサイヤ人が初めて、自分達で何かを生み出し育てた。

 そして、それを他者が評価し認めてくれた。

 

 戦闘民族サイヤ人が、農耕民族サイヤ人になった瞬間だった……。

 信じられない様な成長を遂げた彼らだったが、彼らがこうなったのには、しっかりとした理由があった。

 

 地獄での戦闘行為は、基本禁止なのだ……。

 これを破った者は、閻魔大王によって大きな罰を受ける事になる。

 いかに、生前強力な力を持っていようが、死者である以上、閻魔大王が持つ”死者の魂への絶対の権力”には逆らえないのだ。

 

 最悪、無限に等しい時間を封印され苦痛を味わい続け過ごす事だって、十分あり得る。

 また、やりすぎれば存在そのものすら、消される可能性だってあるのだ。

 それらのリスクを天秤に掛けると、どうしたって無闇矢鱈に戦闘行為等は行えない……。

 

 とはいえ、サイヤ人達から戦闘欲求が消えたわけではない。

 彼等みたいに戦いに生き甲斐を感じる種族がいるのもまた事実だ。

 そう言う者達に必要以上に戦いを禁じるのも、無駄な争いを働く切っ掛けを与えることになりかねない。

 

 なので、下記の2つのルールさえ守れば、ある程度の戦闘行為は容認されていたりもする。

 

 1.相手を殺さない

 2.他の集落への侵略は厳禁

 

 上記の2つのルールを守れば、戦い自体は出来るので地獄のサイヤ人達は、同族同士で殺さない程度で戦ったり、近くの集落の者と腕試しをしたりしている。

 それが、今の地獄のサイヤ人達の生き方だ。

 

 

 

 バーダックが地獄に戻って翌日。

 その日は、地球の日付でいえばエイジ767年5月26日だ。

 オフであるバーダックと違い、ギネは地獄の刑と仕事の為、バーダックが起きた時には既に家を出ていた。

 

 ちなみにバーダックの地獄の刑だが、現在はタイムパトロールの仕事が地獄の刑の代わりになっている。

 これは、閻魔大王からバーダックにタイムパトロールになる事を勧めた為、その様な処置が取られている。

 

 ギネが作り置きしてくれた食事を食べ終えたバーダックは、1人で修行するべく出かける事にした。

 家を出る際、部屋の時計に目を向けると、もうすぐ正午になろうとしていた……。

 

 

「バーダック!!!」

 

 

 家を出て、静かに修行できる場所を考えながら歩いていると、自分を呼ぶ声が聞こえたのでそちらに視線を向けるバーダック。

 

 

「ん? なんだ……ベジータ王じゃねぇか」

「ふん、下級戦士の分際でこのワシにその様な口を聞くのは貴様だけだぞ……。 バーダックよ」

「はっ……、オレに敬語を使わせたかったら、力付くでやってみな……!! サイヤ人だろ……?」

「ちっ……、相変わらずなヤツだ」

 

 

 偉そうな声でバーダックに話しかけてきたのは、お供を2人連れたサイヤ人の王ベジータだった。

 本来ならベジータ王が言った様に、下級戦士であるバーダックは彼に敬語を使うべきなのだろうが、この男も2人目の息子同様、他人に敬語を使うのが苦手な人間だった。

 バーダックの対応に、顔を顰めたベジータ王だったがこの2人のやりとりは何だかんで数十年続いているやりとりなので、今やサイヤ人達にとってみれば日常風景なので、お供の2人や通行人は何も言わずに見守っていた。

 

 

「それで、オレになんか用かよ……? ベジータ王」

「ふん、貴様が閻魔大王の命を受け、妙な仕事に就いたとギネから聞いたのでな。 3年間どこで、何していた?」

「何で、あんたにそんな事言わねぇといけねぇんだよ……?」

「3年前フリーザが、地獄にやって来たのは知っているな?」

「ああ……、そいつがどうしたってんだ……?」

 

 

 ベジータ王の口からフリーザの名前が出た事により、バーダックの目が鋭くなる。

 そんな、バーダックの様子にベジータ王もようやく目の前の男が、まともに話を聞く気になったと判断し、さらに口を開く。

 

 

「まだ、確定情報ではないのだが、どうやらフリーザが妙な動きをしているらしいのだ……」

「妙な動き……だと……?」

「うむ……。 まだ詳しい調査は出来ておらんが、最悪の場合、奴は地獄を支配する為に動き出すやもしれん……」

「閻魔の野郎がいる限り、フリーザの野郎が好き勝手出来るとは思えねぇが……、あいつが大人しくしているタマでもねぇ……か……。

 正直な話、よく今まで動き出さなかったって思うくれぇだぜ。

 フリーザの野郎は、クズだがバカじゃねぇ……。

 動くとしたら、それ相応の勝算があるからだろうな……」

 

 

 バーダックの言葉に、重々しく首を縦に降るベジータ王。

 

 

「もし、フリーザが動き出した場合、あの者が必ず襲う集落は何処だと思う……? バーダックよ……」

「ーーーっ!?」

 

 

 その問いかけで、ベジータ王が何が言いたいのか瞬時に理解したバーダック。

 

 

「……オレ達、サイヤ人てわけか……。

 あいつはカカロットにプライドを奪われ、トランクスによって命を奪われた……。

 2人のサイヤ人によって何もかも奪われたわけだから、当然といえば、当然か……」

「……トランクス、誰だ、その者は……? 地球には貴様の息子以外にもサイヤ人がいるのか?」

 

 

 バーダックの口から飛び出した、自分の知らないサイヤ人の名前にベジータ王は首を傾げる。

 そのベジータ王の反応に、バーダックは人の悪い笑みを浮かべる……。

 そのバーダックの笑みに、嫌な予感を覚えるベジータ王だった。

 

 そんな、ベジータ王の内心等知りようがないバーダックは、これから告げる事実に目の前の男がどの様な反応を見せるのか楽しみでしょうがなかった……。

 なんせ、自分もあいつに真実を告げられた時は、大きなショックを受けたのだ……。

 肉親である、目の前の男は自分以上の反応をしてくれるはずだと、大きな期待を抱くバーダックだった。

 

 そして、ついに、バーダックの口からそれが告げられたのだった……。

 

 

「トランクスってのはな、あんたの孫さ……。 ベジータ王よ」

「……は?」

 

 

 バーダックに告げられた言葉を、しっかりと王の耳にも届いた。

 しかしベジータ王はその言葉の意味を、上手く認識することが出来なかった。

 その証拠に、彼はバーダックの前でだらしなく口を唖然とした表情を浮かべている。

 

 その反応を面白そうに、眺めているバーダック。

 

 

「おいおい、どうした王よ……? 聞こえなかったのか? あんたの孫だって言ったんだよ……。

 よかったな。 あんたの血はちゃんと受け継がれる様だぜ……?」

「まっ、孫……? ワシに……孫だと……? ワシに孫がいるのかっ!! バーダックーーーッ!!!」

 

 

 しばらく、脳内でバーダックの言葉を反芻していた様だが、孫の存在を自覚した瞬間ベジータ王はバーダックに突っ込んできた。

 

 

「うおっ!!!」

 

 

 物凄い形相で突っ込んできた王を、驚きながらも横に僅かに移動する事で回避するバーダック。

 バーダックが回避した事で、頭から地面に突っ込むベジータ王。

 勢いがあり過ぎたのか、地面に激突した時、周りに凄まじい音が鳴り響いた。

 

 

「おいおい……、ちょっとは冷静になれよ……」

 

 

 バーダックが、無様に地面とキスをしているベジータ王に呆れながら言葉を掛けると、王は鼻を押さえながら起き上がる。

 鼻から血が流れているところをみると、そこそこのダメージはあった様だ。

 痛みで冷静になったからか、ベジータ王は頭に浮かんだ疑問を口にする。

 

 

「うぐぅ……、そもそも、貴様なぜワシの孫の事を知っておるのだ……?」

「ああ……、んなことか。 実はな……」

 

 

 そこでバーダックは、タイムパトロールやトキトキ都、そしてトランクスが以前話してくれた過去について話せる範囲内で語って聞かせた。

 

 

「なるほど……、タイムパトロールとはその様な組織なのか……。

 それにしても、ワシに孫がいたことも驚いたが……、まさか、その孫が歴史を改変し、その罪を償う為にタイムパトロールになっているとはな……」

「まぁ、あいつの話だとオレ達がいる今の時代では、あいつは赤ん坊らしいがな……。

 それに、オレ達がいるこの世界線ではあいつは、トキトキ都にいるあいつみたいにはならねぇ……って話だ」

「そうか……。 それは良い事だ……」

 

 

 話を聞き終えたベジータ王は、複雑そうな感情を抱きながらも、安堵した表情をしていた。

 

 

「それにしても、ワシらの子達は孫に随分世話になったのだな……」

「ああ……。 あいつがいなかったらオレのガキは、病でくたばっていたみてぇだし、あんたの息子やオレの孫は、人造人間ってフザけた奴等に殺されていたらしい……。

 あいつが、罪を背負ってくれたから、オレらのガキどもは今を生きていられんだ……」

「そうだな……。 バーダックよ、お前がトキトキ都に戻ったらワシからも礼を言っていたと伝えておいてくれ」

 

 

 サイヤ人の王であり、普段は他人に厳しいこの男も、面識はなくとも肉親であるトランクスの生き方には何かしら感じ入るものがあった様だ。

 

 

「さて、貴様のせいで話が脱線してしまったが……、フリーザが動いた場合、我々サイヤ人を狙ってくる確率が高い事は貴様も分かっているであろう?

 その場合、1人でも戦力は多い方が良い……」

「まぁ、そうだろうな……。 フリーザが動く時は地獄にいるヤツの配下、フリーザ軍が動くって事だからな……。

 あいつが地獄に来て3年……、すぐに動かなかったのは戦力を整えていた可能性も十分に考えられるからな……。

 結構な人数がいると考えていいだろう……」

 

 

 バーダックの言葉に重々しく頷くベジータ王。

 

 

「貴様は、下級戦士だが戦闘力は上級戦士を凌駕しておる。 フリーザが攻めてきた時は、貴様も前線に出ろっ!!!」

「へっ、言われなくても、そん時はちゃんと戦ってやるよ……。 今度こそオレがあの野郎に引導を渡してやるっ!!!

 とは言え、オレは地獄を空けることが多い。 もし、オレがいない時にヤツが動いたら非戦闘員を閻魔の元へ飛ばせ。

 そうすれば、オレに連絡がつく様にしといてやる」

「うむ、それではワシは他かの集落との会合があるので、そろそろ行く。 それではな、バーダック」

「ああ」

 

 

 バーダックとの会話を終えたベジータ王は、背後の臣下達を引き連れ去っていた。

 残されたバーダックも、修行するべく歩き出だした。

 

 

「さて、どこで修行するか……。 近くでやるとトーマ達が来やがりそうだしな……。

 今日は1人で修行してぇ気分だから、静かに修行できる場所は何処かねぇもんか……」

 

 

 歩きながら、修行できる場所を考えているバーダックの頭に、絶好の修行スポットがよぎる。

 

 

「そうか、あそこだったら、邪魔する奴はいねぇな……」

 

 

 そう呟くとバーダックは舞空術で空へと飛び出す。

 しばらく、地獄の空をバーダックが飛んでいると、いくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶が見えてきた。

 

 

「ん? あれは……」

 

 

 バーダックが徐々に高度を下げ、水晶の前に着地しようとした時、水晶の前に1人の女性がいることに気がついた。

 しかも、その女性はバーダックにとってとても馴染みのある者だった。

 その女性の後ろに降り立ったバーダックだったが、女性はバーダックに気づく事なく水晶を見上げていた。

 

 その様子に違和感を感じたバーダックは、女性同様視線を水晶に向けるが水晶は何も映し出していなかった。

 何故女性がそんなに一生懸命水晶を見上げているのか疑問に思ったバーダックは、その女性に声をかけることにした。

 

 

「こんな所で何やってんだ……? ギネ」

「バーダック……」

 

 

 バーダックに声を掛けられたギネは、水晶から視線を外しバーダックを視界に収めると、静かにバーダックの名前を呼んだ。

 その時のギネの表情は、どこか追い詰められた様な、焦りと不安が混じった表情を浮かべていた。

 

 

「どうした……? 何かあったのか?」

 

 

 問いかけらたギネは、目を伏せしばらく沈黙を保っていたが、バーダックの問いかける視線に耐えられなくなったのか、静かに口を開く。

 

 

「朝からさ……、嫌な予感がずっとしてるんだ……。

 最初は気のせいだって思ってたんだけど……、時間が経つにつれてどんどんその予感が強くなって、それが何なのか分からないんだけど……、気がついたらここに来てたんだ……」

 

 

 ギネは語り終えると、自身の後ろに鎮座している巨大な水晶に目を向ける。

 ギネの言葉を黙って聞いていたバーダックは、彼女がどうしてここに訪れたのか瞬時に理解した。

 

 

「なるほどな……。 ここに来れば、こいつがその嫌な予感ってヤツの正体を映してくれるかもしれないって思ったのか」

「うん……。 でも、こいつは何も映してくれない……。 ははっ……、嫌な予感ってヤツもあたしの勘違いなのかもしれないね……」

 

 

 無理やり笑みを浮かべながら喋るギネ。

 そんなギネに、視線を水晶に向けたままバーダックが口を開く。

 

 

「ふんっ、別にこいつが、何も映さねぇからって何も起きねぇとは限らねぇだろ……。

 まぁ、嫌な予感だってんなら、外れた方がいいのかもしれねぇがな」

 

 

 いつも通りぶっきらぼうな口調だったが、そこには確かにギネを気遣った優しさがあった。

 その事に気付いたギネは、今度こそ本当の笑みを浮かべる。

 

 

「ははっ、そうだね……。 嫌な予感だったら外れた方がいいんだから、映さないっていうのは良い事なのか……!!

 あんたの言う通りだね、バーダック」

 

 

 そんなギネの様子に、バーダックの口元にも僅かに笑みが浮かぶ。

 バーダックの言葉でようやく落ち着いたギネは今更ながらバーダックが、どうしてこんな所にいるのか気になった。

 

 

「そういえば、バーダックはどうしてこんな所にいるのさ……?」

「あ? オレは修行する為にここに来たんだよ。 そしたらお前がこんな所で深刻なツラしてやがったんだろ」

「修行……、あぁ、トレーニングのことか。 って、バーダックってそんな自主的にトレーニングとかしてたっけ?

 長期間戦場外れた時とかに鈍らない様にしてた事はあったけど……」

「別に良いだろ? トキトキ都にはオレより強えヤツが修行して日々強くなってやがんだ。

 そいつを越える為には、オレも遊んでるワケにはいかねぇんだよ……」

 

 

 修行する本当の理由は、息子であるカカロットを越える為なのだが、流石にそれをギネに言うのは恥ずかしかった為、敢えてボカした回答をしたバーダックだった。

 それに、トキトキ都にいるトランクスを超える事も、今やバーダックの目標の一つだった為、あながち嘘でもないのだ。

 そんな、やる気に満ち溢れたバーダックを見て、ギネは優しい笑みを浮かべる。

 

 正直ギネは、最初にバーダックがタイムパトロールになると聞いた時、あまり良い感情は持っていなかった。

 死人であるバーダックが、もう一度死んでしまうと、今度は存在そのものが消えてしまうのだ。

 それは、つまりギネや他のサイヤ人達から、バーダックという存在の記憶や痕跡が全て消えるという事だ。

 

 それを理解していたので、ギネはバーダックに本当はタイムパトロールになって欲しくなかった。

 だが、カカロットとフリーザの戦いを見た後くらいから、バーダックの様子が何処か変だったのにも気付いていた。

 そんなバーダックの状況を変えるには、タイムパトロールになるのが1番近道なのも何処かで感じ取っていた。

 

 だから、ギネはバーダックがタイムパトロールになると言った時、心の底では反対したくても反対しなかった。

 だが、今のバーダックの様子を見ると、あの時反対しなくてよかったと心の底から思うギネだった。

 

 

「そうかい。じゃぁ、バーダックはしっかり修行……?とやらを頑張りなよ。

 あたしは仕事に戻るよ。 抜け出してきちまったから、きっと他の連中も怒ってるだろうからさ」

「ああ」

 

 

 未だ嫌な予感が消えたわけではないが、バーダックのおかげで幾分か冷静になれたギネは、バーダックに背を向け、舞空術で空へ飛び出そうとした瞬間、その音は2人の耳へ確かに届いた……。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

 その音に聞き覚えがあった2人は、弾かれた様に音の発信源に目を向ける。

 すると、音の発信源である巨大な水晶が光り、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになっていた。

 徐々にノイズが収まり明らかにこれまで映し出していた地獄とは違う光景を映し出した。

 

 綺麗な青空と戦闘で傷ついたであろう荒れ果てた荒野、その中に2人の存在が映し出された。

 

 1人目は見るからに化け物だった。

 だが、何処か様子がおかしい……。

 身体を限界までに膨らませたその化け物は狂気じみた笑みを浮かべ、目の前の者を見下ろしていた。

 

 2人目は逆立った金髪をした少年だった。

 化け物の前で地面に膝をつき、何かを後悔する様な表情を浮かべ、項垂れていた。

 

 水晶が映し出した映像の中の状況が全く分からない、バーダックとギネだったが、状況が切迫している事だけは見て取れた……。

 2人が訳も分からないまま、映し出された映像を見ていると、映像の中の2人の間に、いきなり3人目の登場人物が一瞬で現れた。

 まるで瞬間移動でもしたのではないかと思われる様に姿を現した3人目の登場人物は、バーダックとギネの両名にとても馴染み深い人物だった。

 

 その人物は、2人目の少年と色こそ違っているが同様の、サイヤ人ではまず身に付けることがない様な服装を身に纏っていた。

 その服は地球では道着と呼ばれる服だ。

 鮮やかな山吹色の道着に青いインナーを身に纏った男の姿は、かつてナメック星で見た装いとほぼ同じだった。

 

 その道着も所々破けた所がある事から、きっとこの男も戦っていたのだろうという事が推察出来る。

 本来は黒色である髪を金色に逆立て、瞳を鮮やかなエメラルドにも似た輝きを持つ碧眼。

 その碧眼には、父譲りの力強さと母譲りの優しさが確かに宿っていた……。

 

 その者の名は……

 

 

「カカロット……」

 

 

 自然と口から自身の息子の名を呼んだ時、ギネの中に芽生えていていた嫌な予感は確信へと変わった……。

 

 今日自分が感じ取っていた予感は、この時の事だったのだと……。

 

 そして、映像の中に映る自分の子がこれから死ぬのだと……。

 

 そういう確信が、確かにギネの中で芽生えるのだった……。

 

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