ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 あの世一武道会編 伍

 ここは、閻魔界。

 見渡す限り黄色い雲に覆われた世界。

 その世界には1つの宮殿が立っていた。

 

 あらゆる者は死ぬと、まずここへ訪れる事になる。

 その宮殿の中で額に”閻”と書かれた二本の角の生えた帽子を被り、背広にネクタイの洋装をしている、身長10mはある巨体の男が、彼の体格に合わせた巨大な木製の机に座っていた。

 机の上には数多の書類や、台帳がのっかっており、彼の仕事量がそれだけで伺える。

 

 そして、その巨大な机の前に1人のサイヤ人が冷や汗を流しながら立っていた。

 

 

(ゴズに言われてここまで来たけど、ここってめちゃくちゃ緊張するんだけど……)

 

 

 内心でギネがそんな事を思っていると、目の前の閻魔大王が口を開く。

 

 

「すまんな、こんなところまで来てもらって」

「いえ!」

 

 

 重々しい口調で紡がれた言葉に、ギネはピンと背を伸ばし口を開く。

 そんなギネの様子が可笑しかったのか、強面の表情に笑みを浮かべる閻魔大王。

 

 

「さて、今日来てもらったのは、お前の息子についてだ」

「カカロットの事……? でしょうか……」

 

 

 閻魔大王の言葉を聞いた、ギネは首を息子同様敬語が苦手なのか、傾げながら辿々しい口調で問いかける。

 すると、ギネの言葉を肯定する様に閻魔大王は頷く。

 

 

「実は、明日あの世で、あの世一武道会という武道大会が開かれる」

「はぁ……」

 

 

 閻魔大王の言葉に、要領を得なかったギネは、なんとか言葉を返すが、続いて発せられた言葉に驚きの表情を浮かべる。

 

 

「その大会に、貴様の息子カカロットも参加することになっておる」

「えっ!?」

 

 

 ギネの様子にニヤリと、人の悪そうな笑みを浮かべる閻魔大王。

 

 

「息子の戦う姿を見てみたいとは、思わんか?」

「み、見れるのかい!?」

 

 

 閻魔大王の言葉に、すっかり敬語を忘れ興奮した様子で言葉を返すギネ。

 そんなギネに頷く閻魔大王。

 

 

「ほ、本当に!? 嘘じゃないよね!? ねっ!?」

「ああ、本当だ!」

 

 

 満面の笑みを浮かべながらも、信じられないとばかりに閻魔大王に詰め寄るギネ。

 そんな、ギネに断言する様に口を開く閻魔大王。

 自分を見つめる閻魔大王の目に、嘘はないと判断したのかその場で、飛び上がらんばかりに喜びの声を上げるギネ。

 

 

「やったぁーーーーーっ!!!」

 

 

 そして、そんなギネの様子に笑みを浮かべる閻魔大王。

 だが、ふとギネが我に返ったのか、おずおずと閻魔大王に問いかける。

 

 

「あの……、でもいいのかい? あたしって一応罪人なんだよね……?」

「なに、これはお前の息子が地獄を救ってくれた礼と、お前が普段から真面目に罰を受けている褒美だ。

 ありがたく受け取っておけ。

 それに、本来お前は天国へいける身分だったからな、少しくらいいいだろう……」

 

 

 ギネの言葉を聞いた閻魔大王は、何てことない様に返事を返す。

 閻魔大王の言葉を聞いて、ホッとした表情を浮かべながらも、悟空の戦う姿が観れるのが嬉しいのか、その表情には笑みが浮かべるギネ。

 そこで、ふと疑問が浮かび、再び閻魔大王に問いかけるギネ。

 

 

「あの……、カカロットの試合って、どうやったら見れるんだい? あたしも天国へ行けたりするのかい?」

「いや、流石に地獄の者を天国へ上げるわけにはいかん。 なので、お前には地獄から観戦してもらう事になる」

 

 

 ギネの質問に、首を左右に振り言葉を返す閻魔大王。

 

 

「まぁ、流石にそこまでは望めないよね……」

「すまんな……」

 

 

 閻魔大王の言葉をある程度予想していたのか、残念そうな表情をしながらも、納得するギネ。

 そんなギネに済まなそうな表情を浮かべる閻魔大王。

 

 

「それじゃあ、あたしはどうやってカカロットの戦いを見ればいいんだい……?」

 

 

 再び問いかけるギネに、うむと頷くと、閻魔大王が口を開く。

 

 

「お前達サイヤ人の集落の近くに、巨大な水晶があるであろう?」

 

 

 閻魔大王の言葉に頷くギネ。

 

 

「以前バーダックから聞いたのだが、お前達は前にその水晶でナメック星で戦っている息子とフリーザの戦いを観たのだろう?

 今回もその時と要領は同じだ。

 あの水晶に、あの世一武道会の様子を映し出すので、それで観戦するといい。

 ああ、明日はお前の罰は免除しておくので気にせず観戦するといい」

「へー、閻魔大王は、あの水晶を自在に扱えるんだね……」

 

 

 閻魔大の言葉に、ギネはこれまでお世話になった地獄の水晶の事を思い出す。

 しかし、あの水晶はまるで気まぐれな猫の様に、映像を映す時と映さない時があるのだ。

 むしろ映さない時の方が、圧倒的に多い。

 

 そんな、水晶を目の前の存在は事も無げに、観たい映像を映し出すと言う。

 流石地獄の主人だけの事はあるという事だろう。

 と考え、ギネが言葉にしたのだが、閻魔大王はその言葉に、苦笑いを浮かべる。

 

 

「あれは古くから地獄にある水晶でな、別にワシのモノというわけではない。

 それに、使うだけだったら誰でも使う事は出来るぞ?」

「えっ!? そうなの!?」

 

 

 予想外の言葉に、ギネは驚きの声を上げる。

 そんなギネに頷く閻魔大王。

 

 

「あれは、”想いの水晶”と呼ばれるモノでな、地獄の特殊な鉱石が死者の念を吸収して生まれたモノだ……」

「死者の念を吸収して生まれるって、どういうことだい?」

「地獄に落ちる者達は悪人や罪人だが、そんな者達にも大切な存在はいるものだ……。

 死後、その大切な存在の事を気にかける者達は大勢いる……。

 そんな死者が生者の事を案じ、少しで良いから様子を見たいという想いが天国と地獄……つまり、死後の世界には常に渦巻いておる」

 

 

 閻魔大王の言葉に、ギネ自身思い当たる部分があったのか、無言で頷く。

 何故ならギネ自身、自分が死んだ時、息子2人がどうなったのか気が気ではなかったのだ。

 叶うなら、息子達の姿が見たいと願った事は、1度や2度ではない。

 

 きっと、ギネだけに関わらず、大なり小なり地獄にもそんな事を想っている者は常に存在するのだろう。

 

 

「そんな、大切な者を想う気持ちが、鉱石に蓄積されて形となったものが、あの”想いの水晶”だ。

 あの水晶は、強く純粋な人の想いに反応する様になっておる……」

「純粋な人想い……」

 

 

 呟く様なギネの言葉に、頷くと再び口を開く閻魔大王。

 

 

「お前達は、3度あの水晶を使ったと聞く……。

 その時も強い想いを抱いて、あの水晶の元を訪れたのではないのか?」

 

 

 閻魔大王の言葉に、ギネはあの水晶は発動した時の事を思い出す。

 

 1度目、フリーザとの戦いの時は、ギネがあの場に到着した時には既に水晶は映像を映し出していたので、どの様な想いであの水晶が起動したのかは分からない。

 だが、2、3回目は自分もその場にいたので分かる。

 確かに、あの時は息子の事を心の底から案じていたからだ。

 

 ギネの反応を見て、閻魔大王はギネに心当たりがあった事を理解する。

 

 

「だから、あの水晶を使用したければ、純粋に対象の姿を想い描けば良いという事だ。

 だが、それがなかなか難しいものでな……、邪念や邪な気持ちがあるとあれは起動せん……。

 そういう意味では、3度もあれを起動させたのは大したものだと言えよう」

 

 

 言葉と共に向けられる何処か優しい眼差しに、ギネは恥ずかしい様な照れた様な笑みを浮かべる。

 

 

「とまぁ、今のが本来の使用方法なのだが、もう1つ使用方法があっての……、今回はそちらの方法を使用しようと考えておる」

「もう1つの使用方法?」

 

 

 閻魔大王の言葉に首を傾げるギネ。

 

 

「あの水晶はな、強い波動を受信する事が可能なのだ。

 今回のあの世一武道会は、天国や閻魔界、そして天界では皆が見られる様にカメラで撮影して放映される事になっとる。

 そのカメラからの波動を地獄では遮断しておるのだが、お前が以前使用した水晶では見れる様にするので、そちらで観戦するといい」

「何だかよくわかんないけど、分かった! とにかく、あたしはいつもの水晶からカカロットの戦いが見れるんだね!!

 ありがとう!閻魔大王!!」

 

 

 嬉しそうな表情を浮かべた後、ギネは頭を下げる。

 そんなギネに、笑みを浮かべる閻魔大王。

 

 

「さて、ワシの用事はこれでお終いだ。 お前も地獄に戻るといい」

「うん!分かった!! あっ、聞き忘れてたけど、その大会って何時くらいから始まるのさ?」

 

 

 閻魔大王の元から去ろうとしたギネが、肝心な事を聞いていないのを思い出し、再び閻魔大王の方に向き直る。

 すると、閻魔大王もうっかりしていた。といった表情を浮かべる。

 

 

「おぉ、忘れとった。 朝10時からだ」

「10時か……。 了解!! それじゃあね!!!」

 

 

 そう言うと、ギネは笑顔を浮かべ手を振りながら、閻魔大王の前から今度こそ姿を消すのだった。

 

 

 

☆ Side Out

 

 

 

 ギネが閻魔殿で、閻魔大王と話をしているその頃、トキトキ都ではバーダックとトランクスが組手をしていた。

 2人は修練場に轟音を轟かせながら、縦横無尽に動き回る。

 只人ではその全てを追う事の出来ない超スピードで繰り出される、拳と蹴り。

 

 その威力から、修練場の地面と壁には、既に幾つものヒビとクレーターが出来上がっていた。

 だが、そんな事など御構い無しに、2人の男は拳と蹴りを出し続ける。

 そんな時、トランクスがバーダックの懐にあっさりと潜り込み、拳を繰り出す。

 

 

「はぁ!!!」

「ぐっ……、だぁ!!!」

 

 

 トランクスの強烈な右拳がバーダックの左頬を撃ち抜くが、それに持ち前の頑丈さで耐え、お返しとばかり同じく右拳を繰り出す。

 だが、バーダックの拳を左手で軽くいなし、体勢が崩れたバーダックのボディを右拳で撃ち抜く。

 

 

「がはっ!!!」

 

 

 トランクスの強烈な拳にボディを撃ち抜かれた事で、バーダックの肺から空気が奪われる。

 だが、トランクスの攻撃はまだ終わらない、ボディを撃ち抜いたその拳ですかさずバーダックの顎を撃ち抜く。

 顎を撃ち抜かれたバーダックの身体は、宙へ浮き上がる。

 

 宙へ浮き上がったバーダックに、トランクスの強烈な回し蹴りが放たれる。

 その蹴りはバーダックの身体を捉え、後方へと吹き飛ばす。

 猛スピードで飛ばされたバーダックは、轟音を立てながら修練場の壁へ激突する。

 

 

「ぐっ……、ま、まだだ……、まだ終わっちゃいね……ぐっ!!」

 

 

 盛大に背中を壁に打ち付け、倒れたバーダックだったが何とか気力で立ち上がる。

 だが、負ったダメージが大きすぎたのか、再び膝をつく。

 既にバーダックの身体はボロボロになっていた、組手を初めて1時間ほど経つが、その間にこうやって吹っ飛ばされたのは1度や2度ではきかない。

 

 

「はぁ…はぁ……はぁ……」

 

 

 流石に1時間休憩もなく全力で戦っていたからか、気もかなり消費していた。

 普通に戦うだけなら、1日だろうと戦えるバーダックだが、気を全力で解放した状態で、しかもダメージを受け続ければ流石に1時間でも疲労を負う。

 少しでも乱れた呼吸を正し、立ち上がろうとするバーダックの目の前に水の入ったボトルが差し出される。

 

 バーダックが視線を上に向けると、ボトルを差し出してるトランクスの姿が目に入る。

 

 

「お疲れ様です。 今日はここまでにしましょう」

 

 

 そう声をかけたトランクスは、バーダックとは違い無傷で、あれだけ動き回ったというのに呼吸すら乱していなかった。

 トランクスの言葉にバーダックは驚いた表情を浮かべる。

 

 

「なっ!? ま、まだオレはやれる!!」

 

 

 だが、やる気はあっても、身体は言う事を聞かない。

 何とか身体に力を入れて立ち上がろるが、その立ち姿はフラフラだった。

 そんなバーダックに、トランクスは優しげな笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、知ってますよ。 ですが、修行には休息が必要だとも教えて来ましたよね?

 これ以上はただ身体を痛めつけるだけです」

「はっ、上等じゃねぇか!! そうなりゃ、サイヤ人の特性で更に強くなれんじゃねぇか!!」

「ええ、確かに戦闘力だけでしたら、確かに上がるでしょう。

 ですが、単純に戦闘力が上がっただけでは、悟空さんには勝てません。

 今、バーダックさんに必要なのは戦闘力ではなく戦闘技術の方です。

 これ以上続けても、痛みや疲労で意識も散漫になりますので、効率も良くありません。

 なので、今日はお終いです」

 

 

 トランクスの言葉でこれ以上の組手の続行は不可能だと判断したバーダックは、溜息を吐くとトランクスからボトルを受け取る。

 そして、ボトルの半分ほど一気に水を飲み干した後、余った分を自身の頭へぶっかける。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 少しさっぱりしたからか、幾分か冷静になったバーダックはドカッと座り込む。

 座ると疲労感が一気に押し寄せて来て、トランクスが言っていた様に、相当の疲労が溜まっていた事を改めて自覚する。

 そして、ふと目の前に座るトランクスに眼を向ける。

 

 疲労困憊の自分とは対照的に、目の前の男は疲れすら感じさせない平然とした様子で座っている。

 もう、3年ほどこの男の元で修行しているが、時間が経てば経つほど男との力の差を実感せずにはいられない。

 確かに超サイヤ人に変身出来る様になったり、トランクス以外のヤツと戦ったりした時に自分の成長を感じる程度には成長したと思う。

 

 だが、それでも自分の師匠であるこの男の領域は果てしなく遠い……。

 バーダックが自分の方をじっと見つめている事に気がついたトランクスが、不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「どうかしました?」

「いや、なんでもねぇ……。 そういやよ、何で最近は超サイヤ人での組手をしねぇんだ?

 お前、超サイヤ人をコントロールする修行をするみたいな事言ってたじゃねぇか」

 

 

 トランクスから向けられる視線から、僅かに顔を逸らしたバーダックは話を変える為、今回の修行で気になった点を質問する事にした。

 そんなバーダックの様子にトランクスは気にした素振りも見せず、口を開く。

 

 

「ああ、それですか……。 今はその修行の準備段階だと思ってください。

 超サイヤ人をコントロールする修行に入ったら普通の状態での修行は殆ど出来なくなりますからね」

「ん? どういう事だ?」

 

 

 トランクスの言葉に首を傾げるバーダック。

 不思議そうな表情をしているバーダックに再び口を開くトランクス。

 

 

「超サイヤ人をコントロールする修行というのは、長期間超サイヤ人の姿でいてもらう事なんです。

 バーダックさんも超サイヤ人になって気付いていると思いますが、超サイヤ人になると肉体的疲労が高かったり軽い興奮状態になったりしますよね?」

「ああ……、そう言えばそうだな」

 

 

 トランクスの言葉にバーダックは思い当たる部分があり頷く。

 

 

「肉体的疲労も興奮状態も、超サイヤ人の姿でいる事に慣れていないから起こる事なんです。

 まずは、超サイヤ人でいる事が当たり前の状態に持っていく事、それが超サイヤ人をコントロールする修行です。

 なので、バーダックさんにはそれが出来るまで、コントロールする修行が始まったら寝る時以外は常に超サイヤ人でいてもらいます」

「なるほどな……。 それにしても、寝る時以外は超サイヤ人になったままってのは地味にしんどそうだな……。

 だが、超サイヤ人の状態に慣れてしまえば、身体に負荷をかけずに、より強力な力を行使する事が出来る様になるって事だな。

 そして、そいつが、前にお前が言っていた超サイヤ人の第4段階ってヤツだろ?」

 

 

 バーダックの問い掛ける様な視線に、トランクスは頷く。

 

 

「ええ、その通りです。 確かにこの修行を行えば、第2、第3段階みたいに身体を大きくする事なく超サイヤ人の真の力を引き出す事が出来ます。

 ですが、この修行はバーダックさんが言った利点の他にもまだ、大きな利点が隠れているんです。

 それは、何だと思いますか……?」

 

 

 バーダックはトランクスの言葉に、顎に手を当て考える。

 トランクスの口振りから、答えは既に自分も知っていると判断したのだ。

 そして、バーダックは思考を巡らせる。

 

 

(そう言えば、身体への負荷だけじゃなく、超サイヤ人になった時の興奮状態も今回の修行で解消されるんだったか……。

 って、事はそいつに関係してやがんのか……?

 興奮状態が解消されるって事は、超サイヤ人になっても平常心でいれるって事だ……。

 こいつは、よくよく考えると結構デケェメリットだ。

 今まであまり自覚した事はなかったが、戦いにおいて冷静でいられるかそうじゃないかは大きな違いがある。

 超サイヤ人になると、自然と興奮状態になるって事は、平常心ではないって事だ……、そいつは冷静な判断を下すには邪魔になりかねないモンだ……。

 つまり、超サイヤ人ってのは、強力な力を得る変わりに、そういうデメリットも負っちまってるって事か……。

 だが、トランクスが言ってる利点ってのは、本当に平常心を保つって事だけなのか……?

 こいつの口振りから察するに、もっと先がある様だが……)

 

 

 長らく考えているバーダックの様子をトランクスは笑みを浮かべ見ている。

 現在の様な光景はトランクスとバーダックの修行では、よくある事だ。

 これから何かをしようという時、トランクスはその意味を必ずバーダック自身に考えさせる様にしているのだ。

 

 それは、この修行がなぜ必要なのかを本人が考え、理解した上で修行した方が効率が良いし成長も早いからだ。

 トランクスは早くに師匠を亡くし、修行の効率が悪く、あまり成長する事が出来なかった過去を持っている。

 だが、過去へ戻り自身の父親であるベジータと修行する事で、大きな成長を遂げる事が出来た。

 

 ベジータは元々口数が多い方ではない、修行をする時もやる事だけを述べそれに付き従う事がトランクスは多かった。

 師匠である悟飯との修行の時は、悟飯がある程度その修行の意味を教えてくれたが、ベジータにはそれが一切なかった。

 一見、意味を教えてくれる悟飯の方が師匠として優れている様にも思えるが、経験が足り無いトランクスにはそれだけでは足りなかったのだ。

 

 その修行の意味は理解できても、それが何故必要なのかを考える部分がトランクスは身につかなかったのだ。

 だから、悟飯が死に1人で修行をする立場になった時、自身をどう鍛えれば良いのかをトランクスは正確に見極める事が出来なかった。

 だが、ベジータとの修行を経て、そのトランクスの欠点は払拭される事になる。

 

 ベジータは先に述べた様に、口数が少ない。

 その為、何故今こんな修行を?っと考える事態が常にトランクスには付き纏った。

 そうやって、常に修行の意味や必要性を強制的にだが、自身で考える様になってからは、これから先に自身がどう成長すればいいのかも見えてくる様になった。

 

 ベジータが意図してそうした訳ではないだろうが、結果的にはトランクスはベジータとの修行で自分で自分を高める術を身に付ける事が出来た。

 その自身の経験から、トランクスはバーダックにも修行の意味や必要性を自身で考えさせる様にしているのだ。

 タイムパトロールの仕事をしている以上、自身もいつどうなるか分かったものではない。

 

 自身がいなくなった時、過去の自分みたいにバーダックが困らない様、トランクスは今から力の使い方だけでなく、考える力も身につけさせようとしているのだ。

 そして、今もバーダックはトランクスの教え通り、自身の修行の目的を思考し続けている。

 

 

(そもそも、平常心を保つっていうのはどういう事だ……?

 超サイヤ人の状態で、今みたいな普通の状態と同じ精神状態を保つ事が出来るって事か……?

 そもそも、超サイヤ人は怒りをキッカケに変身してんだよなぁ……。

 って事は、あの興奮状態はある意味当然と言えば当然なのか……?

 ん? ちょっとまてよ……、興奮を鎮めて普通の状態と変わらない精神状態を維持した後、超サイヤ人になった時と同じ様に激しい怒りに目覚めたらどうなるんだ……?

 確か、超サイヤ人は『穏やかな心』で『激しい怒り』によって目覚めるだったはずだ……。

 ……なるほどな、そういう事か……)

 

 

 長いこと考える様な表情をしていたバーダックに、笑みが浮かぶ。

 それを確認したトランクスはバーダックに問いかける。

 

 

「もう1つの利点の正体が分かりましたか?」

「ああ」

 

 

 トランクスの問い掛けに、不適な笑みを浮かべるバーダック。

 そして、自分の考えを披露するべく口を開く。

 

 

「2つ目の利点とは興奮状態を抑え、平常心を獲得すること。

 興奮状態より、平常心の状態の方が戦闘を行う上では、圧倒的に有利だからな。

 だが、本当の目的は、超サイヤ人を超えた超サイヤ人……、つまりお前が前に言っていた超サイヤ人2とかいうヤツになるのに必要なんだろ……?」

 

 

 バーダックの答えに笑みを浮かべるトランクス。

 

 

「流石ですね。 その通りです。

 バーダックさんが言われた様に、超サイヤ人2になるには、超サイヤ人の状態で平常心になり、超サイヤ人に覚醒した時と同じ様に強い怒りによって、覚醒を果たします。

 なので、超サイヤ人の先を目指すにはどちらにしろ、この修行は必要になるということです」

「なるほどな……、確かにそいつは時間がかかりそうな修行だな。

 それで、今は普通の状態でこれまでお前に叩き込まれた、体術や気の扱いの復習ってところか……」

 

 

 これから行う修行がわかった事もあり、最近の修行を振り返るバーダック。

 そして、その考えを肯定する様に頷くトランクス。

 

 

「で、いつからその超サイヤ人をコントロールする修行に入るんだ?」

「そうですね、正直今からでもいいのですが、その前にまずは、バーダックさんには敵情視察をしてもらいたいと思います」

「敵情視察だぁ?」

 

 

 更なる強さを得る修行方法を聞いて、若干急かす様に修行開始について問いかけるバーダックだったが、そんなバーダックに、敵情視察をしてこいと申し付けるトランクス。

 トランクスの言葉に、首を傾げながら、トランクスの言葉を復唱するバーダック。

 

 

「明日、バーダックさんの時代で、あの世一武道会という大会が開かれます。

 その大会には、あの世の達人たちが多数参加するそうです。

 そして、その大会に悟空さんが参加されるそうなんです」

「カカロットが?」

 

 

 トランクスの言葉に、興味が引かれたのかバーダックが関心を示す。

 

 

「ええ、バーダックさんにはその大会を見てきてもらいたいです。

 そして、現在の悟空さんと自分の力の差をしっかり把握して来て欲しいんです」

「そいつは、かまわねぇがあいつが本気を出す相手が、あの世にいんのか?」

 

 

 現在の地獄の状況を考えて、天国も似た様な状況だろうと判断したバーダックは、正直悟空が苦戦する姿を想像出来なかった。

 だが、そこでふと先日の事を思い出し考えを改める。

 

 

「いや……、そう言えば1人いやがったか……。

 カカロットと一緒に地獄に来たヤツ……、あいつはカカロットより強い気をしてやがったな……。

 そいつが相手だったら、正直勝負は分からねぇか……」

 

 

 バーダックの言葉に、トランクスは頷き口を開く。

 

 

「そうです。 バーダックさんが昨日悟空さんの他に感じた気の相手……、その人との戦いでは悟空さんも本気にならざるを得ません。

 その戦いを、バーダックさんには見てきて欲しいんです。

 本気になった時、追い込まれた時に悟空さんがどういう戦いをするのかを……」

 

 

 真剣な表情で言葉を告げるトランクス。

 その言葉には、言外に今後戦う相手の戦いをしっかり目に焼き付けて、対策を練れと告げている様だった。

 それだけ、トランクスは、悟空とバーダックの戦いが重要なモノだと捉えているのだ。

 

 

「そうだな……、今のあいつの本気とやらは確かにオレも気になるところだ……。

 分かった。 それで、その大会ってヤツはどこで見れんだ?」

 

 

 トランクスの雰囲気で、気を引き締め直したバーダック。

 

 

「あの世一武道会は、バーダックさんが以前言ってらした地獄の水晶から見る事が出来ます。

 なので、今日の修行はもう終わりなので、この後、地獄に戻ってもらって構いません」

「ほぉ、あの水晶でなぁ……」

 

 

 まさか、馴染みの水晶であの世で行われる大会が見れる事に、意外そうな表情を浮かべるバーダック。

 そんな、バーダックを他所にさらに言葉を続けるトランクス。

 

 

「なんでも、特例でその水晶だけは地獄で唯一、あの世一武道会を放映するみたいですよ」

「特例? なんでだ?」

「すいません。 そこまでは、ちょっと……」

「まぁ、いいか。 さてと……」

 

 

 特例という言葉に、バーダックが首をかしげるが、その理由まではトランクスも把握していなかったのか、頭を下げる。

 だが、バーダックもそこまで気になっていたわけではないのか、話を切り上げると立ち上がる。

 

 

「そんじゃ、オレは地獄に戻るぜ」

「ええ、こういう言い方が正しいかは分かりませんが、楽しんで来てください。

 確かに、悟空さんと戦う為に試合は見ていて欲しいですが、せっかく息子さんが戦う姿を見る事が出来るんです。

 応援してあげれば、悟空さんはきっと喜ぶと思いますよ」

 

 

 笑みを浮かべながら告げるトランクスの言葉に、ポカンとした表情を一瞬浮かべるバーダック。

 だが、すぐにその表情をいつもの仏頂面に戻す。

 

 

「はっ!地獄からじゃ応援とやらをした所で声なんて届く訳ねぇだろ」

 

 

 そう言うと、ズボンから端末を取り出し操作するバーダック。

 すると、バーダックの身体が光に包まれる。

 

 

「じゃあな」

「ええ」

 

 

 互いに別れの挨拶を告げると、今度こそバーダックの姿はトキトキ都から綺麗さっぱり消え去っていた……。

 

 

 

☆ Side Out

 

 

 

 次の日、ギネとバーダックは2人で例の水晶の前にやって来ていた。

 

 

「まさか、バーダックまでカカロットの試合を見にくるなんて思わなかったよ」

「トランクスのヤツが、見ておけって言ってやがったからな……」

 

 

 バーダックと一緒に息子の試合が見れる事が嬉しいのか、笑顔を浮かべるギネに対していつも通り仏頂面のバーダック。

 

 

(それにしても、まさか特例がギネのおかげだったとはな……)

 

 

 昨日地獄に帰って来たバーダックは、トランクスが言っていた特例の正体を知る事となった。

 まさか、その理由がギネの日頃の行いだったとは、流石のバーダックも驚きを隠せなかった。

 

 

(まぁ、こいつの場合は天国行きを蹴ってまで、地獄にやって来たという理由も大きいみたいだがな……)

 

 

 バーダックがそんなことを考えていると、ギネの声が聞こえて来た。

 

 

「ねぇ、バーダックあんたも座りなよ」

 

 

 バーダックがギネの方に視線を向けると、シートを水晶の前に広げ座っているギネの姿が目にはいる。

 しかも、持って来たバスケットから、次々に食べ物や飲み物を取り出して並べている。

 完璧に観戦モードに突入していた。

 

 そんなギネの様子に、ため息を吐いたバーダックはギネの横に腰を下ろす。

 

 

「はい、バーダック」

「ああ」

 

 

 ギネから差し出された、飲みモノを手に取るバーダック。

 

 

「それにしても、楽しみだね!! まさかまた、カカロットの試合が見れるなんてさ!!」

「そうだな……」

 

 

 楽しそうに喋るギネに、バーダックも普段人には見せない様な穏やかな笑みを浮かべる。

 2人で穏やかな時間をすごしていると、2人の目の前の水晶が光を帯びる。

 そして、もう何度目かとなるお馴染みの音を地獄に響かせ始める。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

「あ、始まるみたいだよ!!」

 

 

 ギネが声を上げ2人で水晶に視線を向けると、音の発信源である巨大な水晶が光り輝き、砂嵐の様なひどいノイズを走らせていた。

 だが、しばらくすると、ノイズが直り水晶にきのこ頭のマイクを持った、司会者と思われる男が映し出された。

 

 

『皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今より、北の界王死んじゃった記念、あの世一武道会を開始いたします!!』

 

 

 きのこ頭の甲高い声により、ついにあの世一武道会が幕を開けるのだった……。

 はたして、ギネやバーダックの前で悟空はどの様な試合を行うのか、2人は期待に満ちた表情で水晶に目を向けるのであった。

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