ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 あの世一武道会編 陸

いよいよ始まったあの世一武道会。
東西南北の各銀河出身のあの世の達人達が覇を競い合うべく、これまで鍛えた技を駆使した戦いが繰り広げられる。
その戦いぶりは、笑いあり涙ありと喜劇の様な試合もあれば、流石達人と呼ぶべき高度な技と技の応酬による素晴らしい試合もあった。
大会を観戦していたギネとバーダックも、戦闘民族の血を引いているだけあって、様々な戦い方を見せるあの世の達人達の試合は見ていてとても楽しめるものだった。
だが、そんな楽しい時間も残るは後1試合となってしまった。
そう……、残る試合は、彼らの息子である孫悟空ことカカロットとパイクーハンによる決勝戦。
この次の試合に勝利した者が、このあの世一武道会の頂点に立ち、大界王様の元で修行出来るという栄誉を得る事が出来るのだ。
「いよいよ決勝だね、バーダック!!」
「あぁ」
これまでの試合で、息子の戦いぶりを存分に観る事が出来てテンションが高いギネが笑顔でバーダックに声をかける。
そんなギネに対して、いつも通り仏頂面でギネが持って来た食べ物を食べながら返事を返すバーダック。
バーダックは普段あまり表情の変化が乏しいので、よく知らない者だと不機嫌なのか?と勘違いされる事があるが、これがバーダックの平常運転なのだ。
ギネにしてみればバーダックが仏頂面なのはいつもの事なので、再び口を開く。
「それにしても、あの世の達人達っていろんな戦い方をするんだね」
「そうだな……。 オレ達サイヤ人は戦闘民族だからか、バランスの良い強さを持っているが、あの世の達人って呼ばれる奴等は何かに特化した力を持ってる傾向が強えみたいだな」
ギネも試合を見ていて、バーダックと同じ印象を持ったのか、大きく頷く。
「そうだね、特にカカロットが2番目に戦った東の銀河のアークアってヤツなんて、正にその最たる例だよね」
「ああ……、あのリングを水場に変えた野郎か。 確かにそうだな。
どんな場所だろうと自分が有利なフィールドを作り出せるってのは、かなり有利だよな。
あの野郎、リングを水場に変えた途端、人が変わった様に攻撃的になりやがった上に、攻撃のスピードもなかなかのモンだった。
カカロットに目眩しの技があったから、野郎の意表をついて水場から上空へ脱出し、水場と化したリングごと消し去るエネルギー波を打つ事が出来たが、並のヤツだったらあいつの攻撃から抜け出すことすら困難だっただろうな……。
水の中ってのは、想像以上に身体が動かねぇからなぁ……」
バーダックの言葉に自分から話題を振ったギネだったが、意外そうな表情を浮かべる。
「へー、カカロットが結構あっさり勝ってたから、あまり大した事ないのかと思ってたけどあいつ強かったんだね」
「あいつと同じ様に水の中でも自由に呼吸出来たり、動けたりしたなら話は変わるが、少なくともオレ達にはどちらも無理だからなぁ。
この試合に関しちゃあ、カカロットの野郎が上手くやったって感じだな……」
「あの子って、ナメック星での戦いの時も思ったけど、結構戦いに関しては頭回るよね……」
「お前に似てすっとぼけたツラしてるのにな……」
「なんだってぇーーー!?」
怒りの表情でポカポカとバーダックの頭を殴りつけるギネ。
だが当のバーダックは、ここ3年ほど超サイヤ人3を上回る強さを持つトランクスの修行を受けているので、ほとんどダメージを受けていなかった。
ちなみに、ただの地球人が現在のギネのパンチを1発でも貰えば、大怪我は間違いない威力である。
今回あの世一武道会をトランクスの言いつけから観戦する事になったのだが、この大会に参加した達人たちが見せた、様々な戦い方は修行中のバーダックには大変勉強になっていた。
(宇宙にはいろんな種族がいる事は知っちゃいたが、まさかここまで色々な方面に特化した戦い方をする奴等が存在したとはな……。
スピードに特化したヤツもいれば、種族の強みを活かした戦いをするヤツ、それに、あのパイクーハンって奴やカカロットと同じ銀河のオリブーってヤツみたいに、自らが鍛え上げた力で戦うヤツ……。
最初にカカロットと戦った芋虫野郎も、カカロットに軽く小突かれたぐれぇで変身する為に繭になりやがって、その期間が長すぎて、あっけねぇ終わり方しやがったから拍子抜けしたが、もしかしたら変身が完了したらとんでもねぇ戦士になった可能性だってあんだよな……。
強さってモンにも色々あるもんだな……。 チッ!そんなヤツ等と戦えるなんて、羨ましいじゃねぇかカカロットの野郎!!)
ギネの攻撃を受けながら考え事に没頭するバーダック。
そして、攻撃していたギネもバーダックが何やら考え事をしている事に気が付き、攻撃の手を止めようとした瞬間、水晶から大歓声が巻き起こった。
2人が水晶に視線を向けると、キノコ頭の審判が再びリングの中央に立っている姿が映し出されていた。
「いよいよ決勝の時間みてぇだな……」
「そうだね、パイクーハンってヤツ今までの戦いからして、相当強いみたいだけどカカロット勝てるかな?」
「さあな……、パイクーハンって野郎はまだ本気を見しちゃいねぇから、あいつの底が全く読めねぇ……。
まぁ、それはカカロットの方も同じだがな」
パイクーハンのこれまでの戦いを見て、只者じゃないと感じたギネが不安そうにバーダックに問いかける。
しかし、バーダックの方も言葉にした様に、未だ本気を見せない2人の実力を見通す事は出来なかった。
だが、これだけは確信していた。
「この戦い……、これまでとは違い、あいつ等は間違いなく全力を出すだろう。 激しくなるぜ、この試合……」
バーダックが呟いた言葉にギネは一瞬不安そうな表情を浮かべるが、すぐにパン!と両手で自分の頬を叩く。
いきなりのギネの行動にバーダックが驚いた表情を浮かべ、ギネに視線を向けると、そこには先程までの不安そうな表情ではなく気合が入った笑みを浮かべたギネがいた。
「よし! それじゃあ、あたし達はカカロットを一生懸命応援するしかないね!
せっかくあの子の全力の戦いが見れるんだ、しっかりこの眼に焼き付けないと!!」
ふん!と両手を握り気合を入れた格好のギネを見て、バーダックは苦笑を浮かべる。
だが、そんな行動もこいつらしいかと思い直し、視線を水晶に向ける。
『さぁ、ついに決勝の時がやってまいりました!!』
バーダックが視線を向けたと同時に、審判の声が水晶から響き渡る。
そして、その声に試合会場に押し寄せた多くの観客達の歓声が上がる。
次の試合が決勝という事もあり、現地は相当な熱気に包まれているようだ。
『決勝は西の銀河代表、パイクーハン選手!!』
パイクーハンの名前が呼ばれると、水晶に片手を挙げ歓声に応えるパイクーハンの姿が映し出された。
『対するは北の銀河代表、孫悟空選手でぇーす!!』
続いて悟空の名前が呼び出されるが、水晶には誰もいないリングが映し出されていた。
『そ、孫悟空選手、いらっしゃいましたら早くリングに上ってください!!』
「えっ!? カカロットはどこ行っちゃったんだい?」
決勝だというのに、未だ舞台に悟空が上がっていない為、審判が慌てた様な声を上げる。
そして、その様子を見ていたギネも姿を表さない息子に、驚きの声を上げる。
会場がどよめきに包まれる中、水晶が突如アングルを変える。
そこには、皿を何枚も積み上げ、幸せそうな表情で今にも骨付き肉にかぶりつこうとしている悟空の姿が映し出された。
「へ?」
突然映し出された、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた息子の姿に気の抜けた声を上げるギネ。
悟空の口が肉に触れるか触れないかというタイミングで、突如横からニョキっと手が映し出され、悟空の持っていた骨付き肉を取り上げる。
『おかわりじゃない!!』
怒ったような声を上げた界王が、悟空から骨付き肉を取り上げるが、瞬時に界王が持っている反対側の骨にかじりつく悟空。
『そんなのんびりしている場合か!! 決勝だ!! お前の出番だぞ!!!』
『ちょ、ちょっと待ってくれよ!! まだ、残ってんだって!!』
肉にかじりついたまま、リングまで界王に引きづられる悟空。
『な、なんと!! 孫悟空選手はお食事中でした!!!』
審判の実況に会場中に笑いが巻き起こるが、そんな息子の姿を水晶で見ていた、地獄の両親は2人して頭を抱える。
「何やってんだ、あいつは……」
「今はそんな事してる場合じゃないだろ……、カカロット……」
バーダックとギネが頭を抱えている間に、ついに孫悟空が決勝の舞台に降り立った。
互いに不敵な笑みを浮かべる悟空とパイクーハン。
そんな2人に触発されてか、観客席からは大きな歓声が飛び交う。
特に、悟空の出身銀河である北の銀河とパイクーハンの出身銀河である西の銀河の応援は相当なものだった。
悟空とパイクーハン、そしてそれを見守る観客達の熱が最高潮に達したその瞬間、ついにその時が訪れた。
『それでは、はじめてくださーい!!!』ゴォーーーン!!!
審判が試合開始の宣言をするのと同時に、大界王が持っていたドラを叩く。
ついに、幕を開けたあの世一武道会の決勝戦。
「いっけぇ!!カカロットォーーーッ!!!」
試合開始と共に、声を上げるギネ。
『はぁーーーーー!!!!!』
声を上げながら飛び出した悟空は、パイクーハンへと猛スピードで近づく。
あっという間にパイクーハンの懐に飛び込んだ悟空は、顔面に強烈なパンチを叩き込む。
そして、続けざまにボディや顎にアッパーや蹴りを次々と叩き込む。
悟空からの攻撃をまったく防御する事もせず、全て受けるパイクーハン。
しかし、悟空の凄まじい連続攻撃が止んだ時、そこには信じられない光景が広がっていた。
なんと、連撃を受けたパイクーハンが、未だ不敵な笑みを浮かべたまま、まったくダメージを受けた様子もなく平然と立っていたのだ。
そんなパイクーハンに訝しげな表情を浮かべ、問いかける悟空。
『なっ、なぜ避けねんだ……?』
悟空が問いかけると、意味ありげな笑みを浮かべるパイクーハン。
そんなパイクーハンの様子に悟空も、不敵な笑みを浮かべる。
『そうか……、オラのパンチなど避けるまでもねぇちゅう事か……。 でも、オラも本気じゃねぇんだ』
悟空が鼻をかきながら茶化すように口を開く。
その際、一瞬だけ悟空はパイクーハンから視線を逸らす。
そんな悟空の様子に、パイクーハンが「フッ!」と笑みを浮かべる。
『だろうなぁ!!!』
『ぐぅあ!!!』
パイクーハンの強烈な右パンチが悟空を吹っ飛ばす!!
あまりの威力に、悟空の身体が宙に浮き上がると、その隙を逃すまいとパイクーハンは両手を悟空に向ける。
吹っ飛ばされた悟空は、空中で体勢を整え着地しようとしたその瞬間、そのタイミングを狙ったかのように、パイクーハンの左右の手から2筋のエネルギー波が悟空に向け放たれる。
しかし、エネルギー波が悟空に直撃するよりも早く、一瞬地面に片足をつけた悟空は超スピードでパイクーハンの頭上へ瞬時に移動すると、反撃のナックルハンマーを振り下ろす。
だが、その攻撃を悟空を上回る、恐るべき超スピードで回避するパイクーハン。
そのあまりのスピードに、悟空は一瞬パイクーハンの姿を見失う。
パイクーハンの姿を捉えるべく、悟空は眼と感覚を研ぎ澄ますと背後から無数のエネルギー弾が迫っているのを感知する。
悟空はとっさに宙へ飛び上がり、お返しとばかりパイクーハンへエネルギー波を放つ。
『はぁ!!!』
それを躱したパイクーハンは、再び悟空に向けエネルギー波を繰り出す。
だが、次の瞬間パイクーハンの鋭い感覚が、自分に近づいてくる存在を感知する。
視線を背後に向けると、先ほど躱した筈の悟空のエネルギー波が再び自分に迫って来ていたのだ。
悟空は、パイクーハンのスピードならエネルギー波を躱すと予想して、予め追尾弾を放っていたのだ。
悟空の追尾弾を躱すべくパイクーハンが舞空術で飛び上がる。
それを見て、悟空は自身の作戦が上手くいったと笑みを浮かべるが、次の瞬間顔を引き締め視線を上に向ける。
視線の先には自身に迫ってくる、パイクーハンのエネルギー波があった。
『うわっ!!!』
驚いた声をあげると悟空もパイクーハン同様、舞空術で飛びす。
なんと、パイクーハンも悟空と同じ作戦をとっていたのだ。
舞空術で飛び出した2人の後を、それぞれのエネルギー波が追尾する。
しばらく、追尾してくるエネルギー波を引き離そうとリングの上空を飛び回っていた2人だったが、どちらのエネルギー波も一向に離れる気配はなかった。
このままでは埒が明かないと判断した悟空は、自身の背後についてくるエネルギー波に一瞬視線を向けた後、パイクーハンに向かって飛び出した。
だが、悟空と同じタイミングでパイクーハンも背後にエネルギー波を携えたまま悟空に向かって飛んで来ていた。
2人の視線が交わる。
互いに不敵な笑みを浮かべたまま悟空とパイクーハンの距離がどんどん縮まっていく。
そして、2人の距離がほぼゼロとなり正面衝突になるその瞬間、2人は同時に急上昇する。
だが、2人の背後を追尾していたエネルギー波は、その急激な動きについていく事が出来ず、エネルギー波同士が正面から激突する。
2つのエネルギー波が衝突した事で、とてつもない爆発音を轟かせながら会場を眩い閃光が埋め尽くす。
ギネやバーダックが見ている水晶など、光で真っ白になり2人は思わず手で目を覆う。
「くっ、なんて戦いだい!!」
目を顰めながら、なんとか戦いを観ようと眼を凝らすギネ。
その甲斐あってか、ギネは真っ白な世界の中で2筋の影が高速で上空からリングへ降り立つのを捉える事が出来た。
再びリングに姿を現した悟空とパイクーハン。
2人は瞬時に近づくと、正面から互いの両手をガシッ!!と組み合う。
どうやら力比べをする腹づもりらしい。
『くっ!!』
『ぐぅ……くっ!!』
双方ともかなりの力を込めているからか、組み合っている手からビリビリとスパークが生じる。
しばらく均衡をたまっていた2人だったが、悟空の顔に笑みが浮かぶ。
『ふっふふふ……、はぁ!!!』
掛け声と共に、更に両手に力を込めた悟空が一気に均衡を崩しにかかる。
手を組んだ状態で、どんどんリングの端までパイクーハンを押し込んでいく。
「いいよ、カカロット!! そのままそいつを舞台から落っことしちゃえ!!!」
ついにリングの端までパイクーハンを追い詰めた悟空に、歓喜の声を上げるギネ。
もはや勝利目前という風にも見えるので、ギネのこの反応は当然といえば当然なのだが、現在悟空と戦っている相手は、そう簡単にやられてくれるほど甘い存在ではないのだ。
『フッ……、その程度の力で終わりか? 悟空……』
『なにぃ!?』
追い込まれたパイクーハンの顔にニヤリと笑みが浮かぶ。
それに、怪訝そうな表情を浮かべる悟空。
『ならば、こちらから行くぞ!!!』
宣言と共に、パイクーハンが全身に力を込め1歩2歩と徐々に歩みを進める。
それに伴い後退していく悟空。
このまま、パイクーハンが悟空を押し返すのかと、誰もが予想したん瞬間、パイクーハンの歩みが止まり再び均衡が訪れる。
これには、観客どころかパイクーハンも予想外だったのか、驚きの表情を浮かべる。
『へっへへへ……』
パイクーハンの表情から、パイクーハンの心情を読み取ったのか、得意げな笑みを浮かべる悟空。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
『はぁ!!!』
これまで両手で組み合っていた両者だったが、突如パイクーハンが掛け声と共に蹴りを繰り出したのだ。
だが、その蹴りが当たる前に悟空は後方宙返りであっさりと躱す。
元々、当てるつもりもなかったのか、パイクーハンは追撃をする事なく、着地した悟空を静かに見据える。
そして、悟空も同じようにパイクーハンを見つめる。
その表情には笑みが浮かんでおり、この戦いが心底楽しいという事を言外に語っていた。
(なんて、楽しそうな顔してんだ、あの馬鹿息子は……)
あまりに悟空が楽しそうに闘っているので、観戦しているバーダックはつい心で突っ込んでしまった。
『思っていた以上だ……、悟空』
『そっちこそ、オラ嬉しくてワクワクしちまうぜ……!!』
不敵な笑みを浮かべ、パイクーハンを見つめる悟空。
そんな悟空をじっと見つめるパイクーハン。
まるで、悟空の底を探るように鋭い視線を向ける。
わずかな時間そのような時間が続いたが、その時間はあっけなく終わりを告げる。
突如パイクーハンが自身が身に纏っていたベルトやガウンを脱ぎ出したのだ。
突然の行動に、目の前の悟空や観客達、そして、水晶で戦いを見ていたギネやバーダックも戸惑いの表情を浮かべる。
そんな周りの事など気にする素振りも見せず、ズボンにTシャツと身軽な姿になるパイクーハン。
観ている全ての者がその行動に、意味を見出せなかった。
確かに先ほどまでに比べると、幾分か身軽になった。
だが、わざわざ試合を止めてまで、衣服を脱ぐ必要性があるとは誰にも思えなかったのだ。
しかし、それが大きな勘違いである事を観ている全ての者は知る事となる。
自身が身に纏っていた衣装を手の中で一纏めにしたパイクーハンは突如、悟空に向かって投げつける。
鋭い速さで投げ出された一塊りとなった衣装は、悟空に届く前にリングに轟音を上げながら激突する。
悟空の1mほど前に横たわっている一塊りとなった衣類に、全ての観客達の視線が引き寄せられる。
よくよく見ると、衣類の下のリングにいくつもの大きなヒビが入っていた……。
あの世の達人達の激闘に耐えるように、用意された丈夫なリングにだ……。
まるで、とてつもない重量のモノをブツけられたように……。
悟空は自分の目の前にあるそれに、おもむろに片手を伸ばす。
そして、それを掴み持ち上げようとした瞬間、驚愕の表情で声を上げる。
『ぐっ、ぐぅ、なっ……、なんだこれっ……!?』
持ち上がらないのだ……。
見た目はただの衣装だというのに、あの孫悟空が持ち上げることが出来ないのだ……。
「なるほどな……。 あの野郎なんてヤツだ……」
「どういう事?」
悟空の様子に、状況を把握したバーダックはポツリと口を開く。
小さな声量だったが、隣に座っていたギネの耳はバーダックの言葉をしっかり拾っていたので、バーダックに問いかける。
「あの野郎、今までとんでもねえ重りを身に付けた状態で戦ってやがったんだ……。
あのカカロットが簡単には持ち上げる事が出来ねぇくらい重いモンをな……」
「えっ!? でも、あいつ今まで普通に動いて戦ってたよね?」
「ああ……、つまりあいつはこれまで本気で戦っちゃいなかったって事だ。
それなのに、あのスピードで戦闘を続けてやがった。
そして、重りを外したって事はこれからがあいつの本気って事だろうな……」
バーダックの言葉にギネは不安そうな表情で、水晶を見つめる。
だが、水晶の中の息子はギネとは反対にとても楽しそうな表情を浮かべていた。
バーダック達が地獄でそんな会話をしている事を一切知らない悟空は、パイクーハンが投げ捨てた衣類の塊を、両手で持ち上げる。
『なるほど、今までのはウォーミングアップだったちゅうわけか……』
そして、勢いよくリングの外に投げ捨てる。
投げ捨てられた衣服の塊は先程のパイクーハンが投げた時以上の轟音をたて、リングの外の地面に激突する。
そんな悟空に『なかなかやるな!』と何処か楽しそうな笑みを浮かべるパイクーハン。
そんなパイクーハンに悟空は、どこか懐かしそうな笑みを浮かべ口を開く。
『オメェ、なんだかピッコロみてぇなヤツだな』
『ピッコロ……?』
自身を鍛える為に、重りを纏っていたパイクーハンに悟空は仲間であり、かつてのライバルであるピッコロの姿を思い出したのだ。
だが、ピッコロの事を知らないパイクーハンは、不思議そうな表情で首を傾げる。
そんなパイクーハンに、悟空は楽しそうな表情で口を開く。
『オメェと同じように、オラをワクワクさせてくれた武道家だ!!』
あの世に来てから、本気で闘いたいと思っていた男が、いよいよその真価を発揮する気になった事で、悟空のテンションは最高潮に達していた。
身軽になったと同時に戦意も向上したのか、向き合っているパイクーハンから伝わる威圧感が桁違いに上がったのだ。
これまでの戦いで、パイクーハンが悟空の実力を認めたという事だ。
それが、悟空にも伝わったのだろう。
だからこそ、自分もパイクーハン同様全力で戦う事を決意する。
今まで浮かべていた嬉しそうな笑みを、不適な笑みに変え口を開く。
『ならば、オラも……、ぐぅ……うぅううう……』
突如悟空の全身を黄色の膜が覆うと、髪が逆立ち全身を取り巻く様にビリビリと幾重にもスパークが発生する。
『はぁあああああぁぁぁ!!!』
雄叫びと共に、全身からとてつもない量の気が吹き出る。
まるで嵐のような気の奔流に、会場にいた観客達は身を守る様に顔を隠す。
嵐が収まり、観客達が再び悟空に目を向けた時、そこには驚くべき光景が広がっていた。
先程まで、黒髪黒目の男が立っていたその場所に、髪を金色へ染め上げ、エメラルドの様な美しい瞳と黄金色のオーラを身に纏った超戦士が不敵な笑みを浮かべ立っていたのだ。
「そうだよなぁ……、力を隠してたのはあいつだけじゃねぇんだ……。
お前だって、まだ全力を出しちゃいねぇんだよな……」
超サイヤ人へ変身した悟空をみて、不敵な笑みを浮かべながらバーダックがはポツリと呟く。
そして、そんなバーダックを隣に座っていたギネは優しそうな表情で見つめる。
バーダックの仏頂面に特に変化は無いが、彼がこれから繰り広げられる闘いにワクワクしているのが、ギネには分かっているのだ。
となりでギネが自分に優しそうな笑みを向けている事など露知らず、バーダックは真剣な表情で水晶を見つめる。
(ようやく本気になりやがったか、カカロットのヤツ……。
さて、トランクスにも言われたが、今のあいつとオレの実力の差ってヤツを認識する為にも、こいつはしっかり観ておく必要がある……。
今のお前の力、しっかりと見せてもらうぜ、カカロット!!!)
地獄で自身に期待の眼差しを両親が向けている事など知らない悟空は、目の前の好敵手に不敵な笑みを浮かべ口を開く。
『さぁ、早ぇとこ続きをはじめようぜ!!!』
悟空の言葉に、パイクーハンも悟空同様ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
ついにお互いの真の力を解放した悟空とパイクーハン、闘いは、次なるステージへ突入する……。
果たしてどちらが優勝するのか……。