ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 あの世一武道会編 漆

 ついに幕を開けたあの世一武道会の決勝戦。

 悟空もパイクーハンも共に、これまで鍛えた力と技を駆使して正に決勝にふさわしい戦いを繰り広げている。

 そして、闘いは次なるステージへ突入する。

 

 これまで纏っていた、かなり重い重りを脱ぎ捨て身軽になったパイクーハン。

 そして、超サイヤ人へ変身した孫悟空。

 

 互いに向き合っているだけだというのに、両者から伝わる気迫はこれまでとは一線を画していた。

 その気迫が、観客達だけでなく、会場全体に伝わる。

 

 余談だが、今回のあの世一武道会の会場は、大界王殿の特殊な部屋で行われている。

 広大な空間に、いくつもの小惑星が浮かんでおり、その中で一番大きい惑星にリングや観客席が設置されているのだ。

 その光景から選手や観客達は、まるで宇宙空間にいる様な錯覚を覚えるほどだった。

 

 さて、話を再び主役達に戻そう。

 2人の緊迫した雰囲気が、会場の空気にも伝わったのかリングの上でピカッ!と雷が光り、雷鳴が轟く。

 会場にいる全員の視線が、リング上の2人の男達に集まる。

 

 これから繰り広げられるであろう激戦を見逃すまいと、全ての者達が固唾を吞んで見守っている。

 

 

『いっ、いったい、これからどんな闘いが繰り広げられるのでしょうかっ!!!

 私にはまったく予想もできませーーーんっ!!!!!』

 

 

 2人の男が醸し出す雰囲気にきのこ頭の審判も触発されたのか、発せられる言葉に緊張が宿る。

 周りが緊張に包まれる中、リングに立つこの男だけは笑みを浮かべていた。

 そして、心底楽しそうな表情で口を開く。

 

 

『オラにだって、予想もつかねぇ……』

 

 

 審判の言葉に、悟空がポツリと突っ込むと即座に両手を右腰だめに移動させる。

 そして、一瞬で全身の気の両手に集約させ始める。

 

 

『かぁ、めぇ、はぁ、めぇ、波ぁーーーーーっ!!!!!』

 

 

 悟空が突き出した両手から、エネルギー波が放出される。

 凄まじいスピードで、パイクーハンに迫るかめはめ波。

 あと、数瞬で直撃するという瞬間、かめはめ波の射線上から突如として姿を消すパイクーハン。

 

 目標を見失ったかめはめ波は、地面に直撃し轟音と共にリングを破壊する。

 だが、そんな事など気にした素振りも見せず、悟空は感覚を研ぎ澄ませパイクーハンの気を探る。

 そして、悟空の鋭い感覚は瞬時にパイクーハンの気配を捉える。

 

 

『逃すかぁ!!!』

 

 

 右手を瞬時にパイクーハンに向け、エネルギー弾を繰り出す。

 だが、またしても凄まじいスピードであっさりと躱すパイクーハン。

 しかし、悟空もパイクーハンの気を読み、次にパイクーハンが移動する場所を予測して次々とエネルギー弾を繰り出す。

 

 数多のエネルギー弾がパイクーハンを襲うが、それを余裕を持って次々と回避するパイクーハン。

 それに業を煮やしたのか、苦々しい表情を浮かべた悟空は瞬時に左右の手にエネルギー弾を顕現させ、それを繰り出す。

 2つのエネルギー弾がパイクーハンの身体にヒットしようとした瞬間、またしても悟空の目の前からパイクーハンの姿が消える。

 

 しかも、今回は目で追えないどころか、気配すら感じる事が出来なかった。

 その為、感覚を研ぎ澄ませながらキョロキョロと辺りを見回す悟空。

 そんな時、悟空の頭上から声が聞こえてきた。

 

 

『はっはははっ!!! ここだ悟空!!!』

『ん?』

 

 

 悟空が視線を上に向けると、リングの上に浮かぶ小惑星に両手を組み、仁王立ちしたパイクーハンの姿があった。

 パイクーハンの姿を見た悟空は、驚愕の表情を浮かべていた。

 その表情から、悟空がパイクーハンの動きを追えなかったのは明らかだった。

 

 

『変身して、大分パワーが上がった様だが、それでも私にはついて来れない様だな』

 

 

 小惑星に立ったパイクーハンは、見下ろしながら悟空に告げる。

 

 

『フッ! もう少し期待していたんだがね……」

『くっ……』

 

 

 パイクーハンの言葉に、悔しそうな表情を浮かべる悟空。

 

 

 

 地獄で観戦していた、ギネ達もパイクーハンの恐るべきスピードに驚きの声を上げる。

 

 

「あっ!! あいつ、いつの間に!?」

「あの野郎……、なんてスピードしてやがんだ……」

 

 

 バーダックとギネも悟空同様、パイクーハンの姿を見失っていたのだ。

 しかも、目の前で戦っている悟空とは違って、遠目から観ている2人がパイクーハンの動きを追えなかったのだ。

 これには、ギネはともかくバーダックは大きな衝撃を受けていた。

 

 

(目の前で闘っているカカロットが野郎の動きを捉えられないのは、まだしょうがねぇ……。

 だが、遠目から観ているオレの目が捉えられないスピードだと!?

 って事は、ヤツに遠距離での攻撃はもうほとんど通じねぇって事か……。

 こんな野郎相手に、お前はどうやって戦う……? カカロット……)

 

 

  

 悟空やバーダックがパイクーハンのスビードに驚愕している中、当の本人は、次の攻撃に移るべく行動を起こそうとしていた。

 小惑星から宙へ浮き上がったパイクーハンは、空中で途轍もないスピードで回転する。

 それに伴い、パイクーハンを中心に巨大な竜巻が発生する。

 

 

『ああっ……』

 

 

 その規模の大きさに、悟空は思わず動揺した声を上げる。

 竜巻から発せられる強烈な風が会場を襲い、悟空や観客達は吹き飛ばされたないように、その場に止まる事に注力せざるを得なかった。

 そこで、悟空は思い出す。

 

 この技は、あのセルをも一撃で倒した技なのだ……。

 そんな悟空の動揺を感じ取ったのか、パイクーハンの表情に不敵の笑みが浮かぶ。

 

 

『くらえっ!!! ハイパートルネードッ!!!!!』

 

 

 パイクーハンの叫びと共に発生させた竜巻が悟空にを飲み込むべく動き出す。

 必死にリングで踏ん張りながらも、パイクーハンの行動から眼を逸らさなかった悟空。

 悟空の眼は、自身に向かってくるハイパートルネードをしっかり捉えていた。

 

 だが、現在の状況ではまともに動く事が出来ず、悟空はハイパートルネードに飲み込まれてしまう。

 ハイパートルネードの竜巻によって発せられた、数多の風の刃が悟空の身体をズタズタに切り裂く。

 

 

『ぐぁあああぁぁぁーーーーーっ!!!!!』

「カカロットォーーーッ!!!」

 

 

 悟空が発した絶叫にギネが心配の声を上げる。

 竜巻という名の風の結界に閉じ込められた悟空は、既に全身傷だらけになっていた。

 だが、何とかこの場から逃れようともがく悟空。

 

 

『ぐっ、ぐぅ……、がぁあああーーーっ!!!』

 

 

 しかし、もがけばもがくほど悟空の身体を、ハイパートルネードの風の刃が切り刻んでいく。

 

 

『ふっふふふ……、悟空、お前の身体はもう限界に来ている!!!』

 

 

 悟空の様子に勝利を確信するパイクーハン。

 だが、ここで予想外の出来事が起きる。

 

 

『ぬっ、くぅ、ぁあああああーーーーーっ!!!』

 

 

 雄叫びと共に、全身に力を行き渡らせる悟空。

 すると、これまで、竜巻の風の流れに流され続けた悟空の身体が、竜巻の中心で動きを止めたのだ。

 

 

『なにっ!?』

 

 

 これには、流石のパイクーハンも驚愕の表情で驚きの声を上げる。

 しかし、悟空の行動はまだ終わりではなかった。

 

 

『はぁあああああーーーーーーっ』

 

 

 竜巻の中心から自身の気を爆発させる事で、竜巻そのモノを吹き飛ばしたのだ。

 そして、自由になった悟空は、瞬時にここぞとばかりに反撃に出る。

 

 

『超界王拳ーーーっ!!! はぁっ!!!』

 

 

 一瞬で全身を真紅に染めた悟空は、瞬時に空中に浮かぶパイクーハン目掛けて飛び出し、殴り飛ばす。

 超サイヤ人の状態で界王拳を使用した事で、スピードとパワーが跳ね上がった悟空の攻撃に、ハイパートルネードを破られて僅かに動揺していたパイクーハンは反応する事が出来ず、上空に浮かぶ小惑星へ殴り飛ばされる。

 そのあまりの威力に、小惑星へクレーターを作り背中から激突するパイクーハン。

 

 そんなパイクーハンのスキを見逃すほど、悟空は甘く無い。

 即座に両手を右腰だめに移動させる。

 ちなみにこの時、既に界王拳は解除されている。

 

 超サイヤ人の状態での界王拳は身体への負担が大きすぎるので、長時間維持出来ないのだ。

 

 

『かぁ、めぇ、はぁ……がっ……』

 

 

 追撃の為に、悟空はかめはめ波を放つべく気をチャージしていたのだが、悟空の攻撃よりも早く、小惑星からオーラを全身に身に纏ったパイクーハンが超スピードで飛び出して来た。

 そして、そのまま悟空へ強烈な頭突きを喰らわせ、悟空をリングへ叩き落とす。

 だが、悟空も瞬時に起き上がると、右手に気の塊を顕現させる。

 

 悟空の視線の先には、自分に向かって突撃して来るオーラを身に纏ったパイクーハンの姿があった。

 次の瞬間、悟空は右手からエネルギー波をパイクーハン目掛けて放出する。

 悟空のエネルギー波とパイクーハンが轟音を立てながら激突。

 

 その凄まじい衝撃が、会場を襲う、その衝撃に観客達はおもわず身を竦める。

 

 

『はぁあああああーーーーーっ!!!』

 

 

 悟空は、パイクーハンを吹き飛ばすべく右手に力を注ぐ。

 だが、パイクーハンも負けていない。

 強烈なエネルギー波を物ともせずにグングン悟空に向かって、進んでくる。

 

 2人の距離がどんどん近づく。

 それに伴い、悟空の表情が険しくなる。

 

 

『くっ!!!』

 

 

 バチン!!!と悟空のエネルギー波が弾け飛び、その反動で悟空の上半身が僅かに逸れる。

 邪魔なエネルギー波がなくなったパイクーハンは、そのスキを逃す事なく、瞬時に悟空に近づくと強烈な蹴りを叩き込む。

 

 

『ぐぅあ!!!』

 

 

 蹴り飛ばされた悟空は、倒れた状態で滑りながらリング端まで飛ばされる。

 だが、悟空の視線は片時もパイクーハンから離れる事はなかった。

 リングの外へ落とす為、パイクーハンの追撃が悟空に迫る。

 

 

『はぁっ!!! ……なにっ!?』

 

 

 パイクーハンが繰り出した蹴りがあと僅かでヒットする瞬間、悟空は宙へ飛び上がりギリギリ回避する。

 それに驚きの声を上げるパイクーハン。

 パイクーハンが『くっ!!』と悔しそうな表情で、後ろを振り向くと眼をギラギラさせた孫悟空の姿がそこにはあった。

 

 再び向き合う、両者……。

 

 

『はぁ、はぁ、はぁ……』

『はぁ、はぁ、はぁ……』

 

 

 僅かな時間で行われた凄まじい攻防に、流石の2人にも疲労の色が見え始めた……。

 だが、互いの眼には些かの戦意の衰えも感じられなかった。

 むしろ、互いの全力を解放出来る事に喜び、口元には笑みを浮かべていた。

 

 

 

「すっ…凄い……」

 

 

 ギネは呆然とした表情で、無意識に言葉を発していた。

 それほど、水晶の中で行われている悟空とパイクーハンの試合が凄まじかったのだ。

 いつしか、応援する事も忘れ、2人の一挙手一投足に眼を奪われていた……。

 

 だが、それはギネだけではなかった。

 隣に座っているバーダックも2人のハイレベルな攻防に、真剣な表情で眼を向けていた。

 

 

(なんて闘いをしやがんだ、こいつらは……。

 それに、さっきのカカロットの技……、あいつは何だ!? 急激にパワーとスピードが増しやがった……!!!

 激しくなるとは思っちゃいたが、まさかここまでとはな……。

 今のところカカロットよりもパイクーハンってヤツの方が優勢って感じだが、カカロットのヤツも何とか喰らい付いてるって感じだな……。

 さっきのあの技も、すぐに解除したって事は長く使えるシロモンじゃねぇって事だろうしな……。

 とはいえ、2人の間にはそこまで決定的な実力差はねぇ……、何か裏をかけれりゃあいつにも十分逆転の可能性はある……。

 だが、それを簡単にやらせてくれる程、パイクーハンも甘くねぇだろがな……)

 

 

 これまでの戦いを観て、これからの戦いの展開を予想しようとするバーダックだが実力が伯仲し過ぎていて、なかなか展開が読めずにいた。

 

 

「ふぅ……、なかなか楽しませてくれるじゃねぇか……」

 

 

 一息はいたバーダックは、水晶の中の2人に好戦的な眼を向ける。

 戦いの先が読めないという事は、水晶の中の2人はバーダックよりも更に深い領域に至っているという事だ……。

 そんな奴らが目の前で全力で闘っている……、そんなモンを見せられては、流石のバーダックもアツくならなざるを得なかった。

 

 

「さて、こっからどうなるか……」

 

 

 ポツリと呟き口元に笑みを浮かべながら、バーダックは再び水晶に視線を向ける。

 

 

 

『こっ、ここまでやるとはな……。 ハッキリ言って、予想以上だ……』

『おめぇ強えからなぁ……。 オラ強えヤツと戦うと嬉しくって張り切っちまうんだ!!』

 

 

 悟空の言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべるパイクーハン。

 

 

『嬉しいのは、私も同じだ……。 終わらせるのが残念なくらいにな……』

『なっ、なにっ!?』

 

 

 パイクーハンの言葉に、驚きの表情で声を上げる悟空。

 だが、そんな悟空の事などお構いなしに、必殺の技を繰り出すべくパイクーハンは体内の気を高める。

 

 

『はぁ〜〜〜っ!!!』

 

 

 次々と流れる様な動作で様々な構えを取るパイクーハン。

 目の前の悟空は、パイクーハンが違う構えを取る毎に体内で気が循環し、気が急激に高まっているのを感じ取る。

 そして、気の高まりが最高潮に達した瞬間、パイクーハンは正面に両拳を突き出す。

 

 

『サンダーーー・フラーーーーーッシュ!!!!!』

 

 

 必殺の掛け声と共にパイクーハンの両拳が一瞬光ったかと思ったら、轟音と共に超速で悟空に向かって凄まじい威力の炎が迸る。

 あまりの技の速さに気が付いた時には、既に悟空の全身を凄まじい威力の炎が飲み込んでいた。

 その威力は凄まじく、リング上だけじゃなく観客席にも被害が出るほどだった。

 

 炎が治った時、パイクーハンの技の威力を証明するかの如く溶けたリングの上で、ボロボロの状態で倒れている悟空の姿があった。

 しかし、何とか意識を繋ぎ止めた悟空は、フラフラと立ち上がる。

 

 

『くっ、ぐぅ……』

 

 

 全身が痛むのか、動く度に無意識に苦痛の声を上げ、表情を歪める悟空。

 だが、何とか立ち上がり再びパイクーハンに向き合うと、そこには悟空にとって絶望的な光景が広がっていた。

 悟空の視線の先では、パイクーハンが追撃を行う為、再びサンダー・フラッシュの動きに入っていたのだ。

 

 それを見た、悟空の表情が凍りつく。

 先程の攻撃で負ったダメージがまだ抜けて無く、まともに身体が動かせないのだ。

 

 

 

「マズイッ!!!」

 

 

 地獄から試合を観戦していたバーダックは、思わず声を出してしまった。

 しかし、そんな事を気にする者などこの場にはいなかった。

 何故ならバーダックの隣りに座っているギネも、青い表情で水晶を見つめていたからだ。

 

 

 

 そんな誰しもが、最悪の未来を予想したタイミングで、パイクーハンの両拳が再び前に繰り出される。

 そして、会場に再び閃光と業火が迸る……。

 

 

『サンダーーー・フラーーーーーッシュ!!!!!』

「カカロット逃げてぇーーーっ!!!」

 

 

 とっさにギネが悲鳴の如く、叫び声を上げる。

 しかし、残念ながら、今の悟空はまともに身体を動かせる状況ではなかった。

 だが、先程の経験から、悟空は技のタイミングだけは覚えていたので、動かない身体に鞭を入れ、無理やり防御体勢をとる。

 

 次の瞬間、防御体勢の悟空をパイクーハンのサンダーフラッシュの炎が一瞬にして飲み込む。

 だが、それだけでは終わらない。

 悟空だけでなく、界王達によって丈夫に作られた会場の一部をも焼き尽くす勢いで、パイクーハンの炎はその威力を遺憾無く発揮する。

 

 あまりの技の威力に、会場は大きく揺れ、観客席の至る所にヒビが入り、崩れた瓦礫が観客達を襲う。

 サンダーフラッシュが治った時、リングの上では防御体勢のまま倒れ臥したボロボロの状態の悟空の姿があった。

 

 

「あ…ああ……、そ、そんな……」

「ちっ……」

 

 

 水晶が映し出した悟空の様子に、ギネとバーダックは、流石に敗北を覚悟する。

 そして、それは闘っていたパイクーハンも同様で、勝利を確信する。

 

 

『フッ!』

 

 

 口元に笑みを浮かべたパイクーハンは、宙へ飛び上がると悟空に向かってトドメのエネルギー波を繰り出す。

 バーダックやギネ、そして観客達の誰もが、悟空の敗北を確信した瞬間、それは起こった。

 エネルギー波が悟空にヒットする瞬間、悟空の身体が忽然と消えたのだ。

 

 

『なにっ!?』

「えっ!?」

 

 

 まさかの事態に驚きの表情を浮かべ、声を上げるパイクーハン。

 そして、それは地獄で観戦しているギネも同様だった。

 パイクーハンは、すぐさま表情を引き締め、上空に視線を向ける。

 

 その視線の先には、飛び上がった悟空の姿を捉える。

 

 

『くっ!!』

 

 

 舞空術で悟空に向かって、勢いよく飛び出すパイクーハン。

 悟空とパイクーハンは、物凄いスピードで武空術でどんどん上空へ飛翔していく。

 

 

 

 地獄の水晶には、舞空術で飛翔している悟空の姿が映し出されていた。

 

 

「良かった!! カカロット無事だったんだ!!!」

 

 

 ギネが、喜びの声を上げるが、それを隣の男が冷静な声で制する。

 

 

「無事なもんか……、さっきの技のせいで相当ダメージを負ったはずだ……。

 今のあいつは、かなり無理してやがんだ。

 だが、このまま長期戦に持ち込んでも、あいつに勝ち目はねぇ!!」

「そ、そんな……!?」

 

 

 バーダックの言葉に、ギネが悲痛な表情を浮かべる。

 

 

「ねぇ、バーダック……。 この闘いどうやったらカカロットは勝てるんだい?」

 

 

 不安そうな表情でギネはバーダックに問いかける。

 そんな、ギネを水晶から視線を外し見つめるバーダック。

 正直バーダックの中でも、悟空が勝利するビジョンが見えていなかった。

 

 だが、ギネの言葉から彼女がまだ悟空の勝利を諦めていないと感じ取ったバーダックは口を開く。

 

 

「正直、カカロットの奴があのパイクーハンって野郎に勝つのはかなり厳しいだろう……。

 単純な実力差で言ったら、パイクーハンの方が1枚上手だ」

 

 

 バーダックの言葉に、表情に影を落とすギネ。

 しかし、そんなギネを無視してバーダックは再び口を開く。

 

 

「だが、これまでの闘いから見て決定的な実力差とも思えねぇ……。

 そいつを考えれば、パイクーハンの裏をつく事さえできれば、あいつが試合に勝つ事は不可能じゃねぇ……」

「そっ、それって、まだカカロットにも逆転のチャンスがあるって事だよね!?」

 

 

 バーダックの言葉に、バッ!と顔を上げたギネは、どこか期待の眼差しをバーダックに向ける。

 それに、苦笑するバーダック。

 

 

「まぁ、そうだな……。

 あくまで、可能性の話だけどな……。

 そもそも、あのパイクーハンがそう簡単にスキを見せるとは思えねぇし、かなり確率的に低いがな……」

 

 

 バーダックの追加情報で、悟空がかなり部が悪い戦いをしているのを改めて認識するギネ。

 

 

「とにかく、もう一度足を止めたらあいつの負けは、ほぼ確定だ……。

 あのサンダーフラッシュって技はスキが見当たらねぇ……。

 次に、あの技を喰らったら、流石にカカロットでも耐えきれねぇだろう……」

 

 

 バーダックの言葉に、戦いの終わりが近い事を嫌でも意識させられるギネ。

 だが、たとえどれだけ状況が不利でも、彼女は今もなお、勝つ為に全力で闘っている息子の勝利を微塵も疑って等いなかった。

 だからこそ、彼女は今自分ができる事をやる……。

 

 

「頑張れ、カカロット!!!」

 

 

 水晶を見上げながら、ありったけの自分の願いを込めて応援するという、ただ1つの事を……。

 この想いが、少しでも息子を支える力となる様に……。

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