ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 あの世一武道会編 捌

 サンダーフラッシュを間一髪で回避した悟空は、何とか上空に逃げる事に成功する。

 しかし、すぐさまそれに気付いたパイクーハンが悟空を追うべく恐ろしいスピードで迫ってくる。

 

 

『はぁっ!!!』

 

 

 パイクーハンの右手から悟空に向かって、エネルギー波が繰り出される。

 それに気付いた悟空も、すぐさまパイクーハンのエネルギー波に向かって、右手からエネルギー波を繰り出す。

 悟空とパイクーハンのエネルギー波がぶつかり、会場全体を光が染め上げる。

 

 しかも2人の力が強すぎた為、2つのエネルギー波が爆発した凄まじい衝撃が悟空とパイクーハンを襲う。

 

 

『なぁ!!!』

『ぐぅあ!!!』

 

 

 あまりの衝撃に、2人は正反対の方向にそれぞれ吹き飛ばされる。

 相当威力が強かったのか、吹き飛ばされた悟空とパイクーハンの身体はくるくると回転しながらどんどん離れていく。

 しかし、その時間も終わりを迎える事となる。

 

 今回のあの世一武道会の会場は、大界王殿の特殊な部屋で行われている。

 広大な空間に、いくつもの小惑星が浮かんでおり、その中で一番大きい惑星にリングや観客席が設置されているのだ。

 つまり、この空間がいくら広かろうと終わりが存在するのだ……。

 

 しかし、そこまで遠くに飛ばされれば、当然会場からは一部の者を除いて、視認する事が出来ない。

 

 

『孫悟空選手、パイクーハン選手、共にあまりに上昇した為、姿が見えません!!!

 一体今勝負はどうなっているのでしょうかっ!!?』

 

 

 2人がいない会場では、きのこ頭の審判が戸惑いの実況を上げている事など、2人は知る由もなかった。

 余談だが、ギネやバーダックが見ている地獄の水晶は今も、ハッキリと悟空とパイクーハンの姿を追っていた。

 しかも、半分に悟空の姿を映して、もう半分にパイクーハンの姿を映すという気の使いっぷりである。

 

 

 

『うわぁああああーーーーーっ!!!』

『くっ、ぐっ……、うっ……』

 

 

 未だ身体を回転させながら吹き飛ばされ続けている、両者の視界に行き止まりが飛び込んでくる。

 ついに2人は、この広大な空間の端まで飛ばされてしまったのだ。

 だが、当の2人はそんな事など一切気にする素振りを見せず、すぐさま着地の体勢に入る。

 

 シュタ!とほぼ同じタイミングで、天井に足をつき、その反動を利用して飛び出す両者。

 凄まじいスピードで飛び出した両者は、すぐさまの互いの標的を発見する。

 リングより遥か上空で、再び顔を合わせた両者の拳が凄まじい轟音を轟かせながら激突。

 

 その反動で、吹き飛んだ両者は再び互いの拳を振り抜く。

 そこからは、乱打戦へ突入だった。

 悟空がパンチを繰り出せば、お返しとばかりパイクハーンの蹴りが飛んでくる。

 

 凄まじい打撃音を互いに生み出しながら、悟空とパイクーハンは拳と蹴りを繰り出し続ける。

 

 

『ふっ、はぁ、だりゃっ!!!』

『はっ、ふぅ、はぁあっ!!!』

 

 

 両者一歩も引かない乱打戦。

 既に互いに数百発以上の拳や蹴りを繰り出しているというのに、まともなヒットは互いになかった。

 そんな時、両者は共に拳を大きく引き、勢いよくそれを互い目掛けて繰り出す。

 

 

『はぁっ!!!』

『ふっ!!!』

 

 

 2人の拳が再び轟音を轟かせながら、激突する。

 だが2人の拳はまるで互角だと言わんばかりに、ギリギリと均衡を保っていた。

 だが、拳を繰り出した両者は互いに、すぐさま逆の拳を勢いよく振り抜く。

 

 再び轟音を立てぶつかる両者の拳、しかし、今回は均衡が保たれることはなく、その反動で吹き飛ばされる両者。

 

 

『かめはめ……」

 

 

 悟空は吹き飛ばされながらも、瞬時に右腰だめに両手を添えると、体内の気を一気に集約さえる。

 

 

『波ぁーーーっ!!!』

 

 

 そして、パイクーハン目掛けてかめはめ波を繰り出す。

 しかし、パイクーハンは余裕の表情で、自身に迫る悟空のかめはめ波を迎え撃つ。

 なんと、悟空のかめはめ波を腕を一閃して、弾き返したのだ。

 

 

『なっ!?』

『フン!』

 

 

 驚愕の表情を浮かべる悟空に、不敵な笑みを向けるパイクーハン。

 どうやらパイクーハンには、正面からのかめはめ波は通じない様だ。

 それが分かっているのか、「くっ!」と表情を歪める悟空。

 

 すると、悟空の目の前から忽然とパイクーハンの姿が消える。

 そして、次の瞬間、悟空の頭部を強烈な衝撃が襲う。

 なんと、パイクーハンは感知される事なく、一瞬で悟空の頭上に移動してエルボーを叩き込んだのだ。

 

 パイクーハンの強烈なエルボーを喰らった悟空は、凄まじいスピードで一直線にリングへ落ちていく。

 

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!」

 

 

 ギネは思わず、声を上げる。

 落下している悟空の顔が、かなりグッタリしている様に見えたのだ……。

 バーダックが言った様に、かなり無理して闘っていたのだろう。

 

 そして、轟音と凄まじい量の砂埃を上げ、リングに叩き落とされた悟空。

 何とか、意識を手放す事だけは回避したが、これまでのダメージが尾を引いているのか、起き上がる事が出来ずにいた。

 だが、それでもまだ勝負を諦めていない悟空は、何とか起き上がろうと身体を動かす。

 

 

 

『あがっ…、ぐっ…、くっ……』

 

 

 だが、そんなスキを見逃すほど、この男は甘くはない……。

 シュタ!という音共に、上空から降りて来たパイクーハン。

 

 

『よし、トドメだ!! サンダーフラッシュでリングの外に吹っ飛ばしてやる!!!』

 

 

 今の状態の悟空を見て、今度こそ勝利を確信したパイクーハン。

 確実に仕留める為に、自身の最高の技を繰り出すべく行動に移る。

 パイクーハンは、サンダーフラッシュを繰り出すべく、再びサンダーフラッシュの動きに入る。

 

 

 

「ど、どうしよう……、バーダック!!!」

「くっ……」

 

 

 水晶の中で、サンダーフラッシュを発動させる為の動作を行なっているパイクーハンに、ギネは慌てた様な声でバーダックに問いかける。

 しかし、流石のバーダックでも今の状態から逆転する方法は考えつかず、自分が闘っているわけでもないのに悔しそうな表情を浮かべる……。 

 それほど、パイクーハンのサンダーフラッシュという技にはスキがなかったのだ。

 

 

 

 地獄で、ギネやバーダックがこの状況からでも逆転する方法を思案していた様に、彼らの息子も同じくこんな絶望的な状態でも勝利を諦めず今出来る事に全力を注いでいた。

 悟空は、なんとか上体だけ起き上げた状態で、パイクーハンに視線を向ける。

 目の前で行われている3度目となるサンダーフラッシュの動作。

 

 パイクーハンの一挙手一投足を見逃すまいと、悟空は全集中を観ることに費やす。

 その真剣な表情は確実に、この技のスキを見抜くと言外に告げていた……。

 

 全ての観客が見守る中、ついに最強の技を繰り出す為の一連の動作が終わりを迎えようとしていた。

 気を感知できる者には、これまで以上の力がバイクーハンの中で高まっているのを感じ取ることが出来た。

 そして、それだけの気を解放する為の最後の動作が今、行われる……。

 

 両手を悟空に向け、突き出すパイクーハン……。

 

 

『サンダーーー……』

 

 

 必殺の技を繰り出されようとしたその瞬間……、悟空の瞳は確かに捉えた……。

 これまで、散々自分を苦しめてきた技の唯一のスキを……。

 

 

『今だぁ!!!』

 

 

 悟空は瞬時に起き上がると、人差し指と中指を立て、額に当てる。

 

 

『フラーーーーーッシュ!!!!!』

 

 

 長い闘いを締め括るべく、パイクーハンのサンダーフラッシュがついに炸裂する。

 勝利を確信したパイクーハンはニヤリ!と笑みを浮かべる。

 だが、そんな時に真横からあり得ない声が聞こえてきた……。

 

 

『かぁ、めぇ、はぁ、めぇ……』

 

 

 パイクーハンが驚きの表情で、そちらに視線を向けると、かめはめ波を放つべく気を集約している悟空の姿を視界に捉える。

 その姿に両眼を見開くパイクーハン。

 だが、サンダーフラッシュを発動しているパイクーハンは、瞬時に動く事が出来ない。

 

 そんなパイクーハンに向かって、ついに悟空の逆転の一手が下される……。

 

 

『波ぁーーーーーっ!!!!!』

 

 

 悟空の両手から収束されたエネルギーが一気に解放され、パイクーハンに向かって繰り出される。

 光の波はパイクーハンに向かって真っ直ぐ進んでいき、アッという間にパイクーハンを飲み込む。

 そして、光が収束した時、観客たちは確かに目にした……。

 

 リングの上で両手を突き出した男と、リングの外に倒れ臥した男の姿を……。

 

 会場全体が静寂に包まれる……。

 

 そんな中、激戦を制した男は、ただ1人残ったリングの上で場外に倒れ臥した強敵を視界に納め、緊張を緩めるかの様に一息吐く……。

 

 

『ふぅ……』

 

 

 その一息を合図としたかの様に、会場の時は動き出す。

 

 

『パ、パイクーハン選手……場外!! あの世一武道会、優勝は孫悟空選手と決定いたしましたっ!!!!!』

 

 

 きのこ頭の審判の甲高い声が、あの世一武道会の覇者の名を告げたのだ……。

 その瞬間、会場が大歓声に包まれる……。

 

 

 

「か、勝った……、カカロットが勝ったんだぁーーーっ!!!

 やったよ!!! バーダック!!!」

 

 

 呆然とした表情で水晶を見ていたギネが、きのこ頭の審判の声で現実に引き戻される。

 そして、水晶の中で笑みを浮かべる息子の姿を見て、ついに喜びを爆発させる。

 その際、となりにいたバーダックに勢いよく抱きついていて、バーダックが後頭部を打撲したのは本人しか知らない……。

 

 あまりの痛さに、声すらバーダックは上げられなかったのだ。

 後頭部を打撲したバーダックはギネに文句を言ってやろうかと思ったが、倒れた自分の胸の上で喜びを爆発さているギネに何も言えなくなった。

 何故なら、自分もその気持ちが少しは分かるからだ……。

 

 それくらい、この決勝戦は両者とも見事な闘いだった。

 そんな闘いをカカロットが制したのだ、ギネが嬉しくないわけがない……、そう思ったのだ。

 だが、流石にこのままでは動きづらいので、とりあえず一度落ち着いてもらう為、ギネの頭をポカリと殴りつける。

 

 

「いったぁーーーーっ!!!」

「よう、ちょっとは落ち着いたかよ? いつまで人の上で暴れてんだ、テメェは……」

 

 

 涙目で抗議する様な視線を向けるギネに、バーダックが冷静に言い放つ。

 バーダックの言葉を聞いて、ギネはようやく自分の状況を認識するといそいそとバーダックの上から降りる。

 

 

「あはははっ、ごめんね! バーダック」

「ったく、テメェはよぉ! 笑って誤魔化してんじゃねぇよ!!」

 

 

 笑って誤魔化すギネに、鋭いツッコミを入れるバーダック。

 バーダックのおかげで冷静になったギネは、改めてバーダックに向き合う。

 

 

「ねぇ、バーダック……カカロットは勝ったんだよね?」

「ああ」

 

 

 ギネの問いに、短くだがはっきりと答えるバーダック。

 その言葉に、再び笑みを浮かべるギネ。

 2人は揃って、水晶に向け視線を送る。

 

 水晶の中では、悟空が場外で倒れているパイクーハンに手を差し伸べ、起き上がらせていた。

 

 

 

『やられちまったな……』

 

 

 立ち上がったパイクーハンは、どこかスッキリした様な表情で口を開く。

 

 

『サンダーフラッシュを3度も打ったのは不味かったな……。 オラ3度目で、初めてオメェの動きがハッキリと見えたんだ」

 

 

 悟空の言葉に驚きの表情を浮かべるパイクーハン。

 だが、すぐにその表情を一変させる。

 

 

『ふっふふふ……、なるほど……、大したヤツだ、お前は!!!』

 

 

 初めてパイクーハンの表情に笑顔が浮かんだのだ。

 しかし、それも束の間、悟空に背を向け歩きだすパイクーハン。

 

 

『大界王様としっかり修行しろ!! オレも負けない様に修行を続けて、今度こそお前を倒す!!!』

 

 

 パイクーハンの言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべる悟空。

 

 

『ああ!! だが、オラだって負けねぇ!!!』

 

 

 悟空の言葉を受けた、パイクーハンは背を向けたまま右手を上げ応える。

 言葉を交わした時間はほとんどない2人だが、この試合で拳を通して多くの事を語り合ったのだろう。

 今のこの2人の間には、たしかに絆と呼べるモノが存在していた。

 

 

 

「なんか、ああいうのって良いね……」

 

 

 水晶を通して今の息子と友の語り合いを見ていたギネは、胸を熱くせずにはいられなかった。

 

 

「そうだな……」

 

 

 そして、バーダックもそれには素直に同意する。

 だが、ギネは気付かなかった……。

 バーダックがパイクーハンを見つめる視線に、どこか羨望の念が混ざっていた事を……。

 

 

「そう言えばバーダック……、あたし1つ分からない事があるんだけど……」

「ん?」

 

 

 ギネの突然の言葉に、ギネに視線を向けるバーダック。

 バーダックが自身に視線を向けた事を確認した、ギネは気になっていた疑問を口にする。

 

 

「最後の時にさ、カカロットってどうやって、パイクーハンのサンダーフラッシュを回避したんだい……?

 あたしには、いきなりあいつがパイクーハンの横に現れた様に見えたんだけど……」

「ああ……、それか……。

 その認識は間違ってねぇよ、あいつはおそらく瞬間移動を使ったんだろうからな。

 前に、トランクスがカカロットは瞬間移動が使えるって言ってただろ……?」

「あっ!! そういえばそんなこと言ってたね……。

 あれ? でも、何であの子そんな手が使えるなら、もっと早い段階で使わなかったんだろ……??」

 

 

 バーダックの言葉で、以前トランクスが話してくれた内容を思い出すギネ。

 だが、そこで再び疑問が浮かぶギネ。

 

 

「そりゃ使えねぇだろ……。

 さっきあいつも言ってたが、3度目になってようやくサンダーフラッシュの動きを捉えたんだ。

 闇雲なタイミングで瞬間移動しても、パイクーハンなら瞬時に気を察知して、サンダーフラッシュをカカロットに向け放っただろうよ。

 それが分かってるから、カカロットのヤツはギリギリまであいつの動きを見切る事を優先したんだ……。

 そして、最後の最後でようやくあの技のスキを見つけたってところか……」

「なるほどねぇ……。 やっぱあの子は大したモンだね!!!」

「まったくだ……」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、改めて息子の凄さを再認識するギネ。

 そして、それは喋っているバーダックも同様だった。

 バーダックが言った様に、打開する技を持っていてもそれを活用出来るかどうかは、本人次第なのだ。

 

 それを、彼らの息子はしっかりと活用するべきタイミングで活用して、勝利を収めた。

 これは、口で言うほど簡単ではない、それが分かってるからこそ、バーダックもギネの言葉に素直に同意したのだ。

 2人は再び、水晶に視線を向ける。

 

 水晶の中では、今正にあの世一武道会の表彰式が行われようとしていた。

 

 

『では、優勝した孫悟空選手、どうぞこちらまでいらっしゃって下さい!!!』

 

 

 きのこ頭の審判兼司会者の声が水晶から響き渡る。

 大歓声の中、名前を呼ばれた悟空が、きのこ頭に近づいたその瞬間、突如会場に予想外の人物の声が響き渡る。

 

 

『ちょこっと待った!!!』

 

 

 会場全体の視線が、声の主に集まる。

 その視線の先には、この大会の主催者である大界王の姿があった。

 

 

『今の勝負ルール違反があった為、悟空ちゃん、パイクーハンちゃん共に失格よーーーん』

 

 

 突如発せられた大界王の言葉に会場全体がどよめく。

 そして、当然この状況を見ていた地獄でも……。

 

 

「えっ!? 何でっ!?』

 

 

 ギネは大界王の言葉に、狼狽えた表情を浮かべる。

 そんな、ギネや会場の観客達を尻目に、大界王は再び口を開く。

 

 

『悟空ちゃん……、確か悟空ちゃんとパイクーハンちゃんはこの会場の天井に足をつけたわよね……?』

『天井に……? あっ……ああ、着けたけど??』

 

 

 大界王に話を振られた悟空は、試合中の事を思い出す。

 そして、大界王が言っている事に心当たりがあった為、素直に答える。

 悟空の言葉を聞いた、大界王はどこからともなく分厚い本を取り出す。

 

 

『この『あの世一武道会ルールブック』、第1351条に『会場の天井も床と同一と見なす、何故ならリングを逆さにひっくり返せば天井は床になるからである』そう書いてあんのよ』

 

 

 分厚い本事『あの世一武道会ルールブック』に視線を向けながら、大界王は悟空とパイクーハンのルール違反を主張する。

 これには、会場中の観客達がブーイングを上げる。

 それを代弁する様に、きのこ頭の審判兼司会者が口を開く。

 

 

『大界王様、それはいくら何でも無理やりやしませんかぁ!?』

 

 

 そして、またしても地獄でこの状況を見ていた、この人もきのこ頭に同意しながら怒りの声を上げる。

 

 

「そうだ、そうだ!!! なんだよ、それぇ!!! ふぜけるんじゃないよ!!!」

 

 

 プンスコと地団駄を踏みながら怒りの声を上げるギネ。

 

 

「はぁ……、あの世ってのも随分いい加減なトコなんだな……」

 

 

 目の前で繰り広げられる茶番に、半分呆れた様な声を上げるバーダック。

 ギネや観客たちが怒りの声を上げるそんな中、当の本人である悟空は特に怒った様子も見せずに口を開く。

 

 

『そっか、ルール違反じゃしょうがねぇなぁ……』

 

 

 素直に自分のルール違反を受け入れる悟空。

 悟空からしたら勝者の特権である『大界王様の修行』よりも、それ以上にパイクーハンと心ゆくまで戦えた喜びの方が上回ったのだろう。

 そんな悟空の内心を見透かしてか、大界王が笑いながら口を開く。

 

 

『そうねぇ、まぁ2人共よく闘ったから、もう2、300年も修行したらあたしが見て上げないでもないわよ?』

『2、300年かぁ……、よぅーーーし、頑張っぞぉーーーーーーっ!!!』

 

 

 大界王の言葉に、新たな目標を定めた悟空は、片手を上げながら楽しそうに気合いを入れる。

 死者である彼には、無限に近い時間があるのだ……。

 そんな彼からしてみれば、目標があった方が張り合いがあるのだろう。

 

 ちなみに、悟空が気合を入れている様子を大界王がどこかホッとした表情で見つめている事は誰にも気付かれる事はなかった。

 

 

「はぁ、あの子は本当にしょうがないねぇ……。

 でも……まぁ、あの子がそれで良いって言うなら、こんな結末もありかな……」

 

 

 水晶に映し出された息子の笑顔に、母親であるギネは呆れながらも笑顔を浮かべる。

 ギネ同様水晶を見つめていたバーダックは、今回の大会について振り返っていた。

 

 

(ふぅ……、トランクスに言われたから観に来たが、正解だったな……。

 思っていた以上の収穫だった……。

 それにしても、カカロットのヤツ……熱い闘いをしやがるじゃねぇか……。

 あいつと戦うのが、ますます楽しみになったぜ!!!

 とは言え、今のオレじゃまだまだあいつの相手にはならねぇ、こいつばかりはオレ自身の問題だからな……。

 となると、やる事は1つしかねぇ!!!)

 

 

 突然立ち上がったバーダックに、視線を向けるギネ。

 

 

「どうかしたのかい? バーダック」

「ああ、わりぃがやる事が出来ちまったから、トキトキ都へ戻るぜ」

 

 

 バーダックの言葉に笑みを浮かべるギネ。

 そんな、ギネに怪訝そうな表情を浮かべるバーダック。

 

 

「なんだよ……?」

「やる事って、修行だろ? あの子の闘いを見て熱くなっちゃったんだろ?」

「ぐっ!!」

 

 

 自身の内心を見透かしたギネの言葉に、少し恥ずかしくなってギネから視線を逸らすバーダック。

 そんなバーダックに、優しそうな笑みを浮かべ口開くギネ。

 

 

「いってらっしゃい、バーダック」

 

 

 視線をそらしていたバーダックが、ギネ言葉で再び視線を彼女に向ける。

 そこには先程まで水晶の中で激戦を繰り広げた息子と、確かに血の繋がりを感じさせる妻の優しい笑顔があった。

 この笑顔は自分の生き方を変えた笑顔だ……。

 

 きっと、こいつの中にある優しさってヤツを、下の息子は特に受け継いだんだろう……。

 そして、それを力に変える術を身につけた、稀有なサイヤ人……。

 それが、オレ達の息子……カカロット……。

 

 オレが初めて純粋に闘ってみたいと思った、サイヤ人……。

 

 そいつには、眼の前のギネがいてくれなければ出会う事は出来なかった。

 そう考えれば、こいつには感謝しかねぇな……とバーダックはふと考える。

 バーダックは、珍しく優しい笑みを浮かべた表情でギネを見つめ口を開く。

 

 

「行ってくる!!!」

 

 

 バーダックは力強く、ギネに告げると背中を向け歩き出す。

 そして、バーダックの全身を眩い光が包み込む。

 次の瞬間には、バーダックの姿は地獄から綺麗さっぱり消え去っていた……。

 

 

(オレは必ず強くなる!!! 待っていろ、カカロット!!!)

あわせて読みたい