ドラゴンボール -地獄からの観戦者- 孫悟空VSバーダック編 2

「はぁあああ!!!」

「だらぁあああ!!!」

 

 

 2人の男が繰り出した拳がぶつかり、轟音と共に地獄の大地を大きく揺らす。

 ぶつかった拳はギリギリと音を立て、均衡を保つ。

 込められた力がよほど強いのか、バチバチとスパークを轟かせる。

 

 だが、そんな事等この2人には関係ない。

 何故なら、今目の前にはそんな事が些末に映るほど、魅力的な存在が互いの眼の前にいるのだから……。

 2人は拳を通して、互いの力を感じ取り好戦的な笑みを浮かべる。

 

 疼くのだ……、身体が……、血が……。

 彼らの中に流れる戦闘民族サイヤ人の血が、目の前の相手に狂喜しているのだ……。

 2人は同時に、拳を引っ込めると勢いよく蹴りを繰り出す。

 

 

「だりゃぁあああ!!!」

「オラァアアアア!!!」

 

 

 ぶつかった瞬間、またしても轟音と衝撃を振りまきながら、ビリビリと空気を揺らす。

 その威力から2人の軸足を中心に、大地にいくつもの大きなヒビが走る。

 そんな、傍迷惑な闘いを繰り広げる男達を、遠くから眩しそうに見つめる1人の女性の姿があった。

 

 

「ははっ!! バーダックもカカロットも本当に楽しそうだ……」

 

 

 彼女の名前はギネ、現在目の前で闘いを繰り広げている、バーダックの妻にして、カカロット事孫悟空の母である。

 

 

「まったく、しょうがないんだから……、家の男共は……」

 

 

 彼女は眼に涙を溜めながらも、目の前に光景に心の底から笑みを浮かべる。

 

 

 

☆ 時は数分前へ遡る……。

 

 

 

「よう!」

 

 

 そう言って、右手を上げ笑みを深めた男をバーダックは無表情でジッと見つめる……。

 バーダックがあまりに反応を示さないからか、男は困った様な表情を浮かべ再び口を開く。

 

 

「なぁ、オラの声、聞こえてるよな……?」

「ああ……」

 

 

 返事を返したバーダックに、男は安堵の表情を浮かべる。

 

 

「オス、オラ悟空!!

 いやー、よかった!! オメェ何の反応もしねぇから、てっきり耳が聞こえねぇのかと思ったぞ……」

「そいつは、悪かったな……。 元々こういうタチなんだ……」

「へー、そうなんかぁ!!」

 

 

 悟空は、バーダックの腰に巻かれているモノに目を向ける。

 

 

「やっぱ、尻尾があんだな……」

 

 

 かつては悟空にも生えていたそれは、今や見なくなって等しい。

 悟空にとってはデメリットの方が大きいので、先代の地球の神によって切除された。

 それは悟空だけでなく、経緯は違えど彼の息子やライバルもいつしか無くしていたモノだった。

 

 悟空は尻尾をなくした事を後悔した事はない……。

 だが、こうやって改めて見ると、悟空達が無くしたそれこそが、目に見えるサイヤ人の象徴だったのかもしれない。

 

 ジッと自分の尻尾を見つめる悟空の言葉を聞いたバーダックは、不思議そうに首を傾げる。

 

 

「? サイヤ人なんだから尻尾があって当たり前だろ……」

「ははっ! そりゃ、そうだよな……」

 

 

 さも当然と言わんばかりのバーダックに、曖昧な笑みを浮かべる悟空。

 だが、そんな悟空を今度はバーダックがジッと見つめる。

 正確には、先程の悟空と同じ様に、悟空の腰あたりを見ていた。

 

 

「寧ろ……、サイヤ人のくせして尻尾がねぇお前の方がおかしいんだ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空は驚いた表情を浮かべ、声を上げる。

 

 

「へぇ! 尻尾がねぇのにオラがサイヤ人だって分かんのか!!」

 

 

 だが、悟空の言葉を聞いたバーダックは、呆れた様な表情を浮かべ口を開く。

 

 

「はっ! テメェ鏡を見たことがねぇのか……。

 殆どオレと似た様なツラしておいて、オレ達のツラはサイヤ人ではよくある顔なんだよ……」

「ああ……、なるほどなぁ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空はそう言えばといった様子で、まじまじとバーダックの顔に視線を向ける……。

 

 

「本当に、オラそっくりのツラしてんなぁ……。 ……でも、オラここまで目付きは悪くねぇな……」

「ほっとけ!」

 

 

 いきなりな悟空の無礼な発言に、ツッコミを入れるバーダック。

 そんなバーダックが、はぁ!とため息を吐くと、話を切り替えるべく口を開く。

 決して、自分を見つめる悟空の視線が煩わしくなったのでは無い……、多分……。

 

 

「それで……、オレに何か用か……? 無駄話をしに来た訳じゃねぇんだろ……」

「ああ、そうだった!! いきなりで悪いんだけどよ、オメェ、オラとちょっと手合わせしてくれねぇか??」

 

 

 バーダックの言葉で、ここに来た目的を思い出した悟空は、ポン!と手を打つ。

 そして、ワクワクした笑みを浮かべ、真っ直ぐバーダックを見つめ、手合わせを申し込む……。

 そんな悟空をジッと見つめるバーダックが、静かに口を開く。

 

 

「(騒がしいヤツだな……、こういうトコはギネそっくりだな。 だが……)手合わせか……」

 

 

 そして、その表情に不敵の笑みが浮かへる。

 

 

「いいぜ!! 相手になってやるよ!!!」 

 

 

 そう言って、構えをとるバーダック。

 そんなバーダックに悟空も同じく、不敵の笑みを浮かべ構えをとる……。

 2人が構えをとったことで、場の緊張感が一気に高まる。

 

 もはや、いつ闘いが始まってもおかしくなかった。

 だが、ここで悟空の表情が、何かを思い出したかのような表情を浮かべ、口を開く。

 

 

「っと、ところでよ、ずっと気になってた事があんだけど、いいか……?」

「あん? 何だ……?」

 

 

 悟空の言葉に、せっかく気分が盛り上がっていたのに、水をさされたバーダックが不満げな様子で答える。

 そんなバーダックを尻目に、悟空はある方を指差す。

 

 

「いやよ、さっきからあそこの岩場に隠れてるヤツ……、オメェの知り合いか?」

 

 

 悟空の指差した方向に視線を向けたバーダックは、苦々しい表情を浮かべる。

 

 

「(まぁ、気を感知出来るこいつが、あいつに気付かねぇわけねぇよな……)ああ……、オレの女房だ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空は驚きの表情を浮かべ、声を上げる。

 

 

「へー、オメェ結婚してるんだな!! でも、何であんな所に隠れてんだ……?」

「さあな……。 だが、今は都合がいい……、何せこれからここは……、戦場になるんだからよっ!!!」

 

 

 バーダックの妻が何故岩場に隠れているのか、疑問を覚える悟空。

 だが、バーダックはそんな悟空の疑問をはぐらかす。

 そして、話は終わりだと、身体から膨大な気を放出する。

 

 そんな、バーダックに悟空も笑みを浮かべ、身体から気を放出する。 

 

 

「へへっ!! 確かにな……。 そう言えば、まだオメェの名前聞いてなかったな……」

「オレの名か……。 そうだな……、お前がオレに勝ったら、教えてやるよ……」

 

 

 悟空に名を問われたバーダックは、人の悪い笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「なんだそりゃ!?」

 

 

 バーダックの言葉に、どこか呆れた様な表情で口を開く悟空。

 だが、すぐに表情を笑みに変える。

 

 

「まっ、いっか! じゃあ、オメェに勝って、オメェの名を教えてもらうとすっかな!!!」

「へっ! やれるモンなら、やってみな!! くそガキがっ!!!」

 

 

 バーダックの言葉を合図に、気を高め、互いに戦闘態勢が万全に整った両者は、ほぼ同時に飛び出す。

 ついに、幕を開けたサイヤ人の親子対決……。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「始まったっ!!!」

 

 

 あたしの視線の先で、バーダックとカカロットの拳が激しくぶつかる。

 その凄まじい衝撃が、離れた場所にいるあたしを容赦なく襲う。

 

 

「くっ、なんて衝撃だい……」

 

 

 あたしは、吹き飛ばされない様にその場に止まる事に全力を注いだ。

 だが、あたしの事などお構いなしに、うちのバカ共は、どんどん戦闘を加速させていく。

 2人が超速で繰り出す拳や蹴りが、轟音となって、地獄の空気を揺らす。

 

 しかし、当たれば互いにただでは済まない威力の攻撃を、互いに向かって繰り出しているというのに、2人の顔は本当に楽しそうだった。

 そんな、2人の顔を見ていると、あたしまで嬉しくなってくる。

 

 

「ははっ!! バーダックもカカロットも本当に楽しそうだ……」

 

 

 今日の朝、突如地獄へ帰って来たバーダック。

 バーダックは、師匠であるトランクスから、今日の午後にあたし達が住んでる集落から少し離れた荒野に行く様に伝えられたと言っていた。

 最近修行が上手くいっていたらしいバーダックは、この突然の申し出に若干腹を立てていた。

 

 だけど、師匠であるトランクスの事を信頼していたバーダックは、なんだかんだ言いながらも、午後には言われた通り、荒野に足を運んだ。

 バーダックはどうやら気付いていなかった様だけど、あたしはその話をバーダックから聞いた時に、ついに来るべき時が来たのだと思った。

 そう、バーダックとカカロットが闘う時が……。

 

 だけど、前にバーダックと相談して決めた事があった。

 その決め事とは、いずれカカロットとバーダックが戦う時に、カカロットがもしバーダックの事を父親と認識していなかった時は、そのまま知らせずに闘うというものだ。

 あり得ないとは思うが、バーダックが父親と知って、カカロットが本気にならないのを防ぐ為だ。

 

 その為、カカロットと闘う時は、会うのはバーダックだけで、ギネは立ち会わないと2人の間で決めていた。

 だけど、あたしはやっぱり一目カカロットをその眼で見たかった。

 だから、あたしはバーダックが荒野に向かった時に、こっそりと後をつけた。

 

 荒野に訪れたバーダックは、近くの岩場に飛び乗ると1人静かに風景を見つめていた。

 あたしは、そんなバーダックから少し離れた岩場に身を隠し、事の成り行きを見守る事にした。

 バーダックが荒野に訪れて10分程立った時、突如、バーダックの背後にカカロットが姿を現した。

 

 

「えっ!?」

 

 

 思わぬ事態に、あたしは隠れているのを忘れ、驚きの声を上げる。

 だけど、瞬時に今の状況を思い出し、両手で口を塞ぎ、息を殺す。

 あたしは、再び視線を2人に戻す。

 

 幸いな事に2人に気付かれる事は無かったみたいだ……。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 あたしは、安堵のため息を吐く。

 そして、私の眼はあの子の姿に釘付けになる……。

 

 

『うわぁ……!!!」

 

 

 思わず口から喜びの声が出てしまった。

 

 今まで、何度もその姿を見て来た……。

 ナメック星でのフリーザとの戦いで……。

 あの世で一番の強者を決める戦いで……。

 

 だけど、そのどれもが水晶を通してで、実際にあの子の姿を見た事はなかった……。

 そんなあの子が、今目の前に確かにいる……。

 最後に直接眼にした時は、あんなに小さかったのに……。

 

 

(本当に……、立派になったんだね……)

 

 

 本当は今すぐ、飛び出してあの子の元へ駆け出したい。

 でも、それは出来ない……。

 だって、この闘いの為にバーダックがどれほどの想いを込めているのか……、努力して来たのかを知っているから……。

 

 それを、あたしの一時の感情で無にするワケにはいかない。

 わたしは、必死で自分の感情を押し殺す。

 そんな、あたしの視線の先で、ついにバーダックが構えをとる。

 

 そして、そんなバーダックに対して、同じ様にカカロットも構える。

 ついに、闘いが始まるのか?とあたしが思った瞬間、突如カカロットが何かを思い出したかの様な表情を浮かべ、バーダックに話しかける。

 

 

「ん? どうしたん……えっ!?」

 

 

 あたしが首を傾げながら、2人の動向を見守っていると、カカロットが私の方を突如指差したのだ。

 あたしは、とっさに身を隠す。

 そして、再びゆっくり身を乗り出して2人に視線を送る。

 

 すると、視線の先では、カカロットに大した様子も見せず、バーダックは会話を進めていた。

 それを見た瞬間、あたしの脳内に一つの可能性が浮かび上がる。

 

 

(もっ、もしかして……、あの2人……あたしの事に気付いてる!?)

 

 

 あたしが内心でそんな事を考えながら、頭を抱えていると衝撃が私の身体を襲う。

 ハッ!となって、あたしが視線を向けると、2人の身体から白いオーラが立ち昇っていた。

 

 

「始まる……」

 

 

 あたしが、ポツリと呟いた瞬間、2人は同時に力強く地を蹴り動き出す。

 そして、次の瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃があたしを襲った。

 2人の繰り出した攻撃で、2人を覆い隠す量の砂埃が舞い上がる……。

 

 その中に、2つの人影をあたしは確かに捉える。

 あたしは、これから起こる2人の闘いを一瞬たりとも見逃すまいと、全集中力を使って2人の姿に目を向ける。

 それが、今バーダックの妻として、そして……カカロットの母親としてあたしが出来る唯一のこと……。

 

 

「頑張れ、2人共……。 あんた達の闘い、あたしがちゃんと見届けるから!!」

 

 

 

■Side:トランクス

 

 

「始まったわね……!!」

 

 

 オレの横で時の界王神様が、口を開く。

 オレ達の目の前では、強大な水晶に闘いを始めた悟空さんとバーダックさんの姿が映し出されていた。

 映像の中の2人は、まるで相手の動きを探りながらも、次々と拳や蹴りを繰り出していく。

 

 だが、1つだけ見ていて分かる事がある。

 

 

「あの2人、とっても楽しそうね……」

「ええ……」

 

 

 オレと同じ事を時の界王神様も感じていたのか、2人の戦いで感じた事を口にする。

 そう、まだ互いに全力ではないが、2人とも本当に楽しそうに闘っているのだ。

 流石、純血の戦闘民族サイヤ人と言った所なのだろうか……。

 

 いや、それだけじゃないか……。

 少なくともバーダックさんはこの闘いを何年も心待ちにしていたのだ。

 そんなバーダックさんの願いがようやく叶ったのだ。

 

 バーダックさんからしてみれば、この瞬間が楽しくないワケがない。

 オレがそんな事を思っていると、オレの横から声がかけられる。

 

 

「ねぇ、トランクス……。 あなたどうしてバーダック君に、今日悟空君と闘う事を伝えなかったの……?」

 

 

 視線を横に向けると、不思議そうな表情で時の界王神様がオレを見上げていた。

 

 

「正直、特に理由はないんです……。

 ですが、バーダックさんはここ数年悟空さんと闘う為に、物凄い執念で修行をして来ました。

 正直、自分でもやりすぎと思うくらいのハードな修行でもバーダックさんは、弱音一つ吐く事はありませんでした。

 それだけ、悟空さんと闘う事への想いが強かったんだと思います」

「なるほど……、予め伝えちゃうと、想いが強すぎる分闘う前から、余計な力が入りすぎちゃうって思ったのね……」

 

 

 オレの言葉を聞いた時の界王神様は、オレの考えを予測して口を開く。

 そして、それが正解であった為、オレは素直に肯き、苦笑を浮かべ口を開く。

 

 

「まぁ、あの人には無用の心配だったかもしれませんが……」

「でもまぁ、今かなりいい状態で闘えてるみたいだから、結果的には良かったんじゃない?」

 

 

 ウィンクしながらオレを見つめる界王神様。

 そんな時の界王神様にオレは笑みを返す。

 

 

「それで、トランクスとしてはこの戦況どう見るの……?」

「正直、まだお互い手の内を何一つ見せていないので、何とも言えません。

 ですが……、オレは現在予想される悟空さんの力を、上回るだけの力をバーダックさんに身につけさせたつもりです……。

 ただ、相手はあの悟空さんです……。 

 僅かな戦闘の中で、あの人は急成長してバーダックさんに追いつく可能性は十二分にあります」

 

 

 オレの言葉を聞いた時の界王神様は、思案気な表情で口を開く。

 

 

「なるほど……、つまり全く予想がつかないという事ね……。

 まぁ、今回の戦いの目的は、悟空君を超サイヤ人3へ覚醒させる事が最優先事項だから、勝負の行方は二の次なのよね……」

「本人達は、そんな事お構いなしで、闘ってるんでしょうけどね」

 

 

 タイムパトロールの隊員としてはどうかと思うが、オレは素直に思った事を口にする。

 しかし、時の界王神様はオレの言葉を聞いて、まるで我が子を見つめる母親の様に優しげな笑みを浮かべる。

 

 

「それでいいのよ……。 全力の中でないと人は己の殻を破れないのだから……」

「そうですね……」

 

 

 オレはこれまでの人生で、時の界王神様が言った様な経験を何度も経験して来た。

 だからこそ、心の底から時の界王神様の言葉に同意を示した。

 オレは水晶に視線を向ける。

 

 

(バーダックさん、オレは限られた時間ではありましたが、オレに出来る最大限の事をあなたに教えたつもりです……。

 今の貴方なら、悟空さんとも十分に渡り合える……。

 これまで貴方が長い間、胸に宿した想いを存分に解放して闘ってくださいっ!!!

 そうすれば、きっと悟空さんは……、貴方の息子さんは貴方の想いに応えてくれます)

 

 

「頑張れ……、バーダックさん!!!」

 

 

 

☆ 時は再び現在へ戻る……。

 

 

 

「はっ!!」

 

 

 悟空の繰り出した拳を、左腕でガードしたバーダックは、お返しとばかりに右拳を振り抜く。

 しかし、悟空はそれを紙一重で躱し、バーダックの懐に飛び込む。

 そして、すかさず左拳をボディに叩き込む。

 

 

「だりゃぁ!!!」

「くっ!!」

 

 

 バーダックの表情が僅かに歪む……。

 だが、バーダックの足は下がらない、それどころか一歩踏み出し、左拳を悟空の顔面に叩き込んだ。

 

 

「オラァ!!!」

「がっ!!」

 

 

 バーダックの拳に、今度は悟空が声を上げる。

 しかし、悟空もバーダック同様、下がる事はせず、再び拳を繰り出す。

 そこらからは、超接近戦での乱打戦だった。

 

 2人は次々に様々な角度から拳と蹴りを繰り出す。

 並のサイヤ人だったら、既にこの段階で、数え切れない程の敗北を喫しているだろう。

 だが、この2人の限界はこんなものではない。

 

 2人は攻撃を繰り出す毎に、自分の中に眠る力を徐々に開放してく。

 その証拠に、2人の戦闘が進むにつれ、攻撃の余波で傷つく規模が増えているのだ。

 そして、今2人は互いにノーマル状態での気が最高潮に達しようとしていた。

 

 2人は、ほぼ同じタイミングで拳を引くと、その拳に最高に高まった気をのせ、勢いよく繰り出す。

 

 

「だりゃあああああ!!!」

「オラァアアアアア!!!」

 

 

 2人が繰り出した拳が、真正面から激突する。

 その瞬間、轟音と共に、2人を中心に地面が吹き飛び直径数百mのクレーターが形成される。

 クレーターの中心で、互いに拳をぶつけ合ったまま不敵な笑みを浮かべる親子。

 

 2人は、瞬時に距離を取り向かい合う。

 

 

「思ったよりやるじゃねぇか……」

 

 

 悟空に向け、ニヤリと笑みを浮かべるバーダック。

 そんなバーダックに悟空も笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「オメェもな……!! オラが想像していたより、ずっと強え!!!

 けど……、オメェの強さはまだまだこんなもんじゃねぇんだろ……?」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら、挑発的な眼をバーダックに向ける悟空。

 だが、バーダックはそんな悟空を鼻で笑い飛ばす。

 

 

「へっ! それは、テメェもだろ!! お互いウォーミングアップは十分だろ……?」

 

 

 好戦的な笑みを浮かべたバーダックの言葉に、悟空も不敵な笑みを浮かべる。

 次の瞬間、地獄の大地が大きく揺れる……。

 だが、誤解しないでほしい……。

 

 この揺れは、自然に起こったものではない……。

 これは、たった2人の人間の人智を超えた力が引き起こした、超常現象だ……。

 その地震の震源地に立つ男達の周りを、石が、瓦礫が、砂粒が重力に逆らう様に舞い上がる。

 

 2人は、互いに気を全身に巡らせ練り上げていく、高まった気は全身から間欠泉の様に純白の気を爆発させる。

 次第に純白の中にキラキラと光る粒子が加わり、その色合いをどんどんか変化させていく。

 それに伴い、2人の全身を黄金色の膜が覆うと、髪が逆立ち全身を取り巻く様にビリビリと幾重にもスパークが発生する。

 

 

「「はぁあああああぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 2人が雄叫びを上げた瞬間、純白の気が完全な黄金色へ変化し、これまでとは比較にならない程の大量の気が吹き荒れる。

 まるで嵐のような気の奔流の中で、2人は黒髪を金色へ染め上げ、黒眼をエメラルドの様な美しい瞳へと変化させる。

 嵐と地震が収まった時、そこには殆ど瓜二つの黄金色のオーラを身に纏った超戦士が不敵な笑みを浮かべ向かい合っていた。

 

 2人は静かにスッと構える。

 先程までの事が嘘の様に、静寂が2人を包む。

 そんな中、緊張感で場が張り詰める。

 

 そんな時、2人の近くの岩場から、小石がガタッ!と転がり落ちる。

 その瞬間、その場から2人の超戦士の姿が消える。

 たが次の瞬間、轟音と共に鈍い音が地獄の空気を震わせる。

 

 

「がっ……!!!」

「ぐっ……!!!」

 

 

 なんと、悟空の右拳がバーダックの左頬に突き刺さり、バーダックの左拳が悟空の右頬に突き刺さっている。

 2人は互いの拳の威力に、声を上げるが、瞬時に拳を引き戻す。

 先に攻撃を仕掛けたのはバーダック。

 

 バーダックは、悟空目掛けて右足を一気に振り抜く。

 しかし、それを悟空はバックステップで交わすと、再びバーダックの懐に飛び込むべく前に出る。

 蹴りを躱され、体勢が不十分なバーダックは、瞬時に右手で悟空の足元にエネルギー弾を放ち懐への侵入を阻む。

 

 だが、悟空も即座にエネルギー弾に反応し空中へ飛び上がると、お返しとばかりバーダック目掛けてエネルギー波を繰り出す。

 それをバックステップで躱したバーダックは、空中の悟空目掛けて飛び出す。

 悟空も、自分に向かってくるバーダックを迎え撃つ為に構える。

 

 バーダックの強烈な右が、悟空を襲う。

 しかし、それをギリギリ躱した悟空は、バーダックの胸にカウンターの形で右拳を叩き込む。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 悟空の拳を受けたバーダックの口から苦悶の声が上がる。

 そんなバーダックに、悟空の追撃の左拳が迫る。

 しかし、バーダックはその左拳が振り抜かれるよりも早く、先程繰り出した右手を引き戻し、悟空の顔に右肘を叩き込む。

 

 

「がっ……っ!!」

 

 

 今の一撃で、僅かに悟空が体勢を崩した隙に、バーダックは瞬時に悟空の頭上に移動し、悟空の頭にかかと落としを繰り出す。

 だが、悟空はそれを首を横に振る事で、回避する。

 そして、瞬時に右手にエネルギーの塊を顕現させると、かかと落としを繰り出して体勢が不十分なバーダックに叩きつける。

 

 

「はぁーーーーーっ!!!」

 

 

 悟空の雄叫びと共に、右手から強力なエネルギー波が放出され、至近距離からバーダックに襲いかかる。

 

 

「ちっ!!」

 

 

 バーダックは舌打ちと同時に、とっさにガードの体勢をとった事で、直撃は免れたが、今の一撃のせいで完全に視界から悟空の姿を見失う。

 しかし、バーダックの鋭い感覚が突如頭上に気配を捉える。

 瞬時に、バーダックが視界を上に向けると、悟空のナックルハンマーが眼の前に迫っていた。

 

 これは躱せないと判断したバーダックは、自分から上昇して距離を詰める。

 バーダックが距離を詰めた事で、ナックルハンマーはその威力を殺され、不完全な威力のままバーダックの頭に止められる。

 だが、攻撃が止めれられた悟空は現在自分の腰付近にあるバーダックの顔面目掛けて、左膝蹴りを繰り出す。

 

 しかし、その膝蹴りを、バーダックの左手が受け止める。

 そして、バーダックは反対の手で繰り出された左足の足首をガッ!と乱暴に掴む。

 バーダックはニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべる。

 

 

「オラァ!!!」

「うわっ!?」

 

 

 バーダックは、悟空の足を力一杯引っ張る。

 足を引っ張られた悟空は、驚きの声と共に体勢を大きく崩す。

 そんな悟空を無視して、バーダックはすかさず両手で悟空の足首を持つと、その場で回転する。

 

 

「くっ、ぐぅ……、くぅ……」

 

 

 バーダックのジャイアントスイングによって振り回される悟空は、なんとか抵抗しようとするが回転が早過ぎてなかなか身動きが取れない。

 そして、回転が最高潮が達した瞬間、悟空を岩場に向け投げ飛ばすバーダック。

 

 

「うわぁーーーーーっ!!!」

 

 

 投げ飛ばされた悟空は、大声を上げながら凄まじいスピードで岩場に突っ込んでいく。

 そして、次の瞬間、岩場に突っ込んだ悟空は、突っ込んだ衝撃で凄まじい音を立てながら崩壊した岩石ともみくちゃになりながら沈む。

 その場には、崩壊し積み上がった岩石の山が出来上がっていた。

 

 だが、その山は一瞬で崩れ去る事になる……。

 カラッ……と小さな音が鳴ったかと思ったら、ガラガラと大きな音を立てながら、どんどん岩石の山が崩れ去り、吹き飛ばされた孫悟空が姿を現したのだ。

 

 

「いっちーーーっ!! あいつムチャクチャすんなぁ……」

 

 

 口ではそう言いながらも、ほとんどダメージを受けていない悟空は、空中へ浮かぶバーダックへ視線を向ける。

 そんな悟空に、空中で腕を組み不敵な笑みを浮かべるバーダック。

 そんなバーダックに笑みを浮かべ口を開く悟空。

 

 

「へっ! ワクワクしてくるぜ……!!!」

 

 

 そう言いながら悟空は、再びバーダックへ向け飛び出す。

 

 多くの人達に見守れながら、ついに実現した親子対決。

 

 だが、闘いは更にその激しさを加速させていく……。

 

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