ドラゴンボール -地獄からの観戦者- 孫悟空VSバーダック編 5

 凄まじい打撃音が絶え間なく地獄に響き渡る。

 その音を発し続けている2人の男は、まるで鏡合わせの様にそっくりな顔をしていた。

 だが、それは致し方ない事だろう……。

 

 何故なら彼等は自分たちの一族では、下級戦士と位置付けられる存在だ。

 下級戦士……、それは戦闘を生業とする彼等一族にとっては、ある意味侮蔑の対象と言ってもいいだろう。

 彼等の一族は生まれてすぐに、己の戦闘力を検査され、「優秀な者」か「そうで無い者」かの篩に掛けられる。

 

 下級戦士とは、明らかに「そうで無い者」に属するだろう。

 戦闘要員ではあるが、戦闘力が低いが故に使い捨てにされたり、生まれてすぐに他所の星に飛ばされる事も多く、もっとも扱いが悪い文字通り最下層な戦士の事なのだ……。

 それ故に同族達でも彼等を馬鹿にする者は多い。

 

 そもそも彼等の一族は、顔のパターンが少ない。

 特に下級戦士と呼ばれる者達は似た様な顔をした者が多い。

 それ故に、例え血が繋がっていなくても、双子の様な人相の別人が存在するのだ。

 

 そんな一族の血を引き、同じ下級戦士だから今闘っている2人の容姿が似ているのだろうか?

 確かにそれもあるだろう……。

 だが、理由はそれだけではない……。

 

 今闘っている2人は文字通り、血で繋がった存在だからこそ、ここまで似ているのだ……。

 父と子……、最も強い血の繋がりがある2人だからこそ、この2人はここまで似通っているのだ。

 それは何も容姿に限った話では無い……。

 

 彼ら親子は誰かの為に本気で怒り、そして、それを力に変え強大な敵に立ち向かっていくという気高い精神までもが似ていた。

 何より、『強いヤツと全力で闘いたい』というサイヤ人の本能に、誰よりも彼らは忠実だった。

 そんな、戦闘バカな親子の戦いは、更に凄まじい展開に突入しようとしていた……。

 

 

 

「はぁあああ!!!」

「だらぁあああ!!!」

 

 

 掛け声と共に、互いに繰り出した右拳が轟音と共に激しくぶつかる。

 2人はぶつかった衝撃で、正反対の方に吹っ飛ぶが、即座に体勢を整え構えたまま向かい合う。

 互いの視線が交差する……。

 

 

「へへっ……」

「ん?」

 

 

 突如笑みを浮かべた悟空に、怪訝そうな表情を向けるバーダック。

 そんなバーダックを見て、彼の内心を察した悟空は少し困った様な笑みを浮かべる。

 

 

「ああ、悪りぃな……。 オメェと闘ってると何だか悟飯と修行していた時の事を思い出してさ……」

「ゴハン……?」

 

 

 悟空の言葉に首を傾げるバーダック。

 

 

「あ、悟飯ってのは、オラの息子なんだけど……。

 オラ死ぬちょっと前まで、そいつと1年間ぐらいみっちり修行しててさ……。

 そん時は、あいつとこうやって毎日組み手してたっけなぁ……」

 

 

 懐かしそうな表情で話す悟空に、バーダックはほぼ無意識に口を開く……。

 

 

「お前の息子ってことは、そいつも強えんだろうな……」

 

 

 その言葉に一瞬驚いた様な表情を浮かべた悟空だったが、すぐに笑みを浮かべる。

 だが、その笑みはこれまでバーダックの闘いの中で見せたどの笑みとも異なっていた。

 まるでその存在を愛しむ様に浮かべたその笑みは、間違いなく親の表情だった……。

 

 バーダックが悟空が浮かべた表情が親の顔だと理解できたのは、今の悟空と同じ様な笑みを浮かべる存在を身近でよく知っていたからだ……。

 

 

(こんな顔もする様になったんだな……。 あの時のガキが……)

 

 

 バーダックは自身が親として、子供達に何かをしてやれた訳でない事をよく理解していた。

 特に目の前にいる次男坊には、残してやれたのは精精命だけで、他のモノは何一つ残してやれなかった。

 それ以前に、自身では子供に対して愛情が希薄だと思っている……。

 

 そんなバーダックだったが、今の悟空の表情を見て、いままで感じた事がない感情をその胸に宿した。

 それ故か、今のバーダックは悟空と同じ様な笑みを浮かべていた。

 その表情を見た悟空は、少し驚いた様な表情を浮かべる。

 

 

「ん? どかしたか……?」

 

 

 驚いた表情を浮かべる悟空に、不思議そうに問いかけるバーダック。

 

 

「あ、いや……、何でもねぇさ……」

 

 

 バーダックの問いかけに悟空は静かに首を横に振ると、自身の自慢の息子について話すべく口を開く。

 

 

「そういや悟飯の話だったな……。 そうだなぁ……、オメェの言う通り、とんでもなく強えヤツだ……。

 なんせ、当時9歳やそこらのガキだったのに、オラより先に超サイヤ人の壁を越えて、超サイヤ人2になっちまったんだからなぁ……」

「ほぉ……、本当に大したヤツじゃねぇか……」

 

 

 悟空の言葉に、バーダックは珍しく素直に称賛を送る。

 だが、それも仕方ない事だろう……。

 何故なら、バーダックは生前数多の経験を積み、死後、トランクスとの厳しい修行を約10年近く経験して今の領域にたどり着いたのだ……。

 

 その領域に、僅か9歳の子供がたどり着いたと聞けば、やはり驚かずにはいられない。

 以前トランクスから話は聞いていたが、あの時は、この領域に至るのが、まさかここまで大変だとは思っていなかった。

 

 

「にしても9歳で、超サイヤ人2とはなぁ……。

 そのガキ、将来はとんでもねぇ事になりそうだな……」

 

 

 バーダックが悟飯の才能と潜在能力に驚嘆の声を上げる。

 だが、悟空はそれに苦笑い浮かべる。

 

 

「あーそいつは、どうだろうなぁ……」

「ん?」

 

 

 悟空の言葉に首を傾げるバーダック。

 

 

「いやな、あいつは元々オラ達みてぇに闘いが好きってわけじゃねぇんだ……。

 あいつが、超サイヤ人2なんてとんでもねぇ力を身につけたのは、それが必要な状況だったからだ……。

 あいつからしてみれば、そんな力は使わねぇに越した事はねぇんだろうしな……」

「なんだそりゃ!?」

 

 

 話を聞いたバーダックは、驚愕の表情を浮かべる。

 純粋なサイヤ人のバーダックからしてみれば、それだけの才と力を持っていながら、闘いに興味がない事に驚きを隠せなかった。

 そこで、ふと以前トランクスから聞いた話を思い出した……。

 

 

(そういや、トランクスから前に話を聞いた時も、ゴハンの奴は戦うのを躊躇していたと言ってやがったな……。

 あん時は、ギネがゴハンは優しいからあまり戦いが好きじゃねぇんじゃないか、とか言ってやがったが、どうやらあいつの予想は当たってたみてぇだな……)

 

 

 昔の事を振り返っているバーダックを尻目に、悟空が再度口を開く。

 

 

「まぁ、あいつの将来の夢は偉え学者さんだからなぁ……。

 あんま力は関係ねぇだろうしな……」

「はぁ!?」

 

 

 悟空の言葉に今度こそ、信じられないと言った表情を浮かべるバーダック。

 

 

「サイヤ人が学者だと!? そんだけの力を持っててか……?」

「ああ。 てか、そんなに驚くことなんか……?」

 

 

 バーダックのあまりの驚きっぷりに、悟空は不思議そうな表情を浮かべる。

 そんな悟空にバーダックは思わず問いかける。

 

 

「お前は、息子がそんなんで、何とも思わねぇのか……?」

 

 

 バーダックの言葉に少し、考える様な素振りを浮かべた悟空だったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「うーん、あいつはもっとガキの頃から、ずっと偉え学者さんになりてぇって言ってたからなぁ……。

 あいつが好きな様に生きてくれた方が、オラとしてはうれしいかな!!」

 

 

 子供の頃から、自分のせいで息子には多くの苦労を掛けてきた。

 本来なら大人である自分達が守るべき存在なのに、いつも最前線に立たせてしまった。

 そんな息子に何度助けられ、命を救われた事か……。

 

 本来なら戦いが好きでは無い息子……。

 それなのに、文句を言う事もなく息子はいつも勇敢に戦った。

 そんな息子の夢が叶うのを、悟空は本気で願っていた……。

 

 

「それによ、あいつは、誰かの為に本気で怒れるヤツだ……。

 本気で怒った時の悟飯に勝てるヤツは、この世界には存在しねぇ!!

 だからまぁ、オラは悟飯の事に関しちゃあ何も心配してねぇんだ……」

 

 

 悟飯の優しさや、その力だけじゃなく、心の強さを誰よりも知っているからこそ、息子に対して絶対的な信頼の言葉を述べる悟空。

 しかし、その表情は直ぐに困った様な笑みを浮かべる。

 

 

「まぁ、せっかく身につけた力だから、そっちも大事にしてくれりゃ、もう言うことはねぇな……」 

 

   

 自分の言葉にははっ……と笑いながら頬をかく悟空。

 そんな悟空を静かに見つめるバーダック。

 今の言葉で、悟空は悟空なりに息子の事を考えているのだと分かったので、これ以上は自分が何かを言うのは無粋だと思ったのだ。

 

 そんな時、悟空が何気なく呟いた言葉がバーダックの耳に届く。

 

 

「にしても、不思議なんだよなぁ……」

「ん?」

 

 

 言葉に反応し、バーダックが視線を向けると腕を組み、首を捻る悟空の姿があった。

 バーダックの視線に気付いた悟空は、少し困った様な笑みを浮かべ再び口を開く。

 

 

「いやよ、今までにも他のサイヤ人とも戦った事はあんだ……。

 でも、こんな気持ちになった事はなかったなぁ……と思ってさ……。

 まぁ、そいつらと戦った時は、やたらでけえモンがかかってたから状況が違うんだけどな……」

 

 

 悟空の言葉にバーダックは黙ったまま耳を傾ける。

 そんなバーダックを悟空は見つめる。

 

 

「オメェと闘ってると、悟飯や死んだじいちゃんと組み手をしていた時の事を、やたら思い出す……。

 なんて言うか……、そう、懐かしい感じがすんだ……、何でなんだろうな……?」

「懐かしい……か……」

 

 

 悟空の言葉を受け、バーダックはポツリと言葉を発していた。

 そして、脳裏に自身の妻の姿が浮かび上がる。

 

 

(ギネのヤツが今の言葉を聞いたら、間抜けヅラ晒して、間違いなく喧しく泣くんだろうなぁ……)

 

 

 ふぅ、と一息吐くと、バーダックは思考を切り替え口を開く。

 

 

「懐かしくなっても不思議じゃねぇんじゃねぇか……。

 ここらはサイヤ人の気が多く存在してやがる……。

 惑星ベジータが滅んだ時にいなかったって事は、お前、飛ばし子だったんだろ……?

 お前が覚えていなくても、お前の身体や本能はサイヤ人の事を覚えてたんじゃねぇのか……?」

 

 

 バーダックの言葉に悟空は、視線をバーダックから外しサイヤ人の集落がある方へ向ける。

 

 

「ここには、多くのサイヤ人がいるんだな……」

「ああ……。 フリーザの野郎に惑星ベジータが滅ぼされた時にいたヤツは大抵いるな……」

「そっか……」

 

 

 バーダックも悟空同様、集落の方に視線を向け、地獄のサイヤ人達について口を開く。

 それを聞いた悟空は、何とも言えない表情を浮かべる。

 

 

「って事は、あそこにはオラの父ちゃんや母ちゃんがいるかも知れねぇんだな……」

「ふん! 何だ、その歳になっても、親離れが出来てねぇのか……? てめぇは……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたバーダックは、内心でギクッとしながらも、悟空に嫌味を返す。

 

 

「いやな、悟飯の話をしてたら、オラにも父ちゃんや母ちゃんがいたはずなんだよなぁーって思ってよ……。

 ちょっと気になっただけさ……」

 

 

 バーダックの嫌味など対して気にもとめず、何でも無い様に口を開く悟空。

 

 

「……」

 

 

 悟空の言葉に、複雑な表情で押し黙るバーダック。

 そんなバーダックの様子に首を傾げる悟空。

 

 

「ん? どうかしたんか……?」

「いや……、何でもねぇ……。 それより、無駄話は終いだ……。 続き……、やんだろ……?」

 

 

 悟空の問いに首をふり、話を終わらせたバーダックは再び構える。

 

 

「当然!!」

 

 

 そんなバーダックに笑みを浮かべ、同じく構える悟空。

 2人はほぼ同じタイミングで、地を蹴り、一瞬にしてその距離をゼロにする。

 最初に攻撃をしかけたのは、バーダックだった。

 

 バーダックは、悟空に向け右拳を勢いよく振り抜く。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 悟空は頭を下げバーダックの右拳を躱すと、力強く踏み込みバーダックのボディに右拳で強烈なボディブローを叩き込む。

 

 

「だりゃぁ!!」

「がはっ!!」

 

 

 悟空のボディブローを受けたバーダックの身体がくの字に曲がる。

 そんなバーダックの頭に、ナックルハンマーを容赦なく叩きつける悟空。

 

 

「せいやぁ!!」

「ぐっ!!」

 

 

 悟空のナックルハンマーを受けたバーダックは、地面に思いっきり叩きつけられる。

 しかし、悟空の攻撃はまだ終わらない。

 バーダックが倒れた瞬間、宙へ跳び、地面に倒れ伏したバーダック目掛けて、凄まじい早さで飛び蹴りを繰り出したのだ。

 

 視界の端に飛び蹴りを繰り出した悟空の姿を捉えたバーダックは、躱す為に身体を横に回転させる。

 次の瞬間、バーダックの横数十cm隣に凄まじい音と共に悟空の蹴りが着弾する。

 蹴りの威力で、地面はヒビ割れ、大量の砂塵が舞い上がる。

 

 そんな中、その場を離れ体勢を整えたバーダックは、悟空の追撃に備える。

 

 

(チッ! 単純な体術だったらどうやら、カカロットの方がオレよりも1枚上みてぇだな……。

 フリーザの野郎との戦いを見ていた時から思ってたが、こいつの体術の練度は相当なモンだな……)

 

 

 バーダックがそんな事を考えていると、砂塵の中から悟空が凄まじいスピードで飛び出してくる。

 悟空はバーダックに近づくと、右拳を振り抜く。

 それを、左腕でガードしたバーダックは、お返しとばかりに同じく右拳を繰り出す。

 

 悟空はバーダックが繰り出した拳を避ける事はせず、バーダックの拳の勢いを殺さない様に、左手を繰り出された拳の腕に当てパンチの軌道をずらす。

 そして流れる様に、右手でバーダックの右手首を掴み引っ張ると同時に、身体を反転させバーダックの身体を背負う。

 更に、軌道をずらす為に当てていた左手をバーダックの右腕に絡める。

 

 そして、そのままバーダックを背負い投げの要領で、勢い良く地面へ叩きつける。

 

 

「がはっ!!」

 

 

 その威力に、思わず声を上げるバーダックだったが、すかさず左掌を悟空に向けエネルギー弾を放つ。

 悟空は瞬時にバーダックから距離を取り、そのエネルギー弾を回避する。

 その隙にバーダックもその場から飛び退き、体勢を整え、構えたまま向かい合う両者。

 

 

(今……、オレは何をされた……? 拳を繰り出したと思ったら、気がついたら地面に叩きつけられてやがった……)

 

 

 数多の戦闘を経験したバーダックも、悟空が今使った様な相手の力を利用した体術のテクニックは経験した事がなかった。

 悟空が使った技は、地球の柔術に由来する技で、かつて自分の足で世界中を周り、色々な武術を眼にしてきた経験が今なお悟空に息づいている証拠だった。

 地球の武道家達は、確かに宇宙規模で見たら弱者の方が圧倒的に多い。

 

 だが、彼等が生み出して来た技の数々が決して劣っているわけでは無いのだ。

 

 

(瞬間移動といい、さっきの妙な技といい、攻撃の幅が広い奴だぜ……。

 だけど……、こいつはそんだけ強くなる為に、色々やって来たって事なんだろうな……)

 

 

 そんな事を考えていたバーダックだったが、ふぅ……と一息吐くと、思考を切り替える。

 

 

(にしても……、どうもさっきから後手に回ってんなぁ……。

 こりゃ、オレの攻撃のタイミングを完全に読まれてやがんなぁ……。

 ここらで、どうにかしねぇと、このまんまじゃジリ貧だな……。 ……ん?)

 

 

 そこでバーダックは相対する悟空の姿に違和感を感じる。

 バーダックは目を鋭くし、悟空の全身を観察する様に目を向ける。

 

 

「こいつは……」

 

 

 そして、悟空の違和感の正体を看破する……。

 

 

(今まで普通に闘っていたから意識しなかったが、こいつ……よく見れば、妙に肩を上下させてねぇか……?

 それだけじゃねぇ……、僅かだが息が荒くなってきてやがる……)

 

 

 バーダックの観察した通り、視線の先の悟空は構えてはいるが、僅かに肩を上下させ、僅かに呼吸が荒くなっていた。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 

 バーダックが色々考えている時、相対している悟空も思考を巡らせていた。

 

 

(マジいな……。 気の減り具合はお互い似た様なモンだけど、肉体のダメージは確実にオラの方が上だ……。

 ダメージを与えた回数はオラの方が多いってのに、あいつなんてタフさだ……。

 このまま闘いを続けたら、いつかあいつに押し切られちまう……。 どうすっかなぁ……)

 

 

 悟空もバーダック同様、バーダックに視線を向け観察する。

 

 

(ダメージは間違いなく受けている……。 けど、オラほどダメージを負っちゃいねぇ……。

 元々あいつがタフなのか、オラの攻撃と同等の攻撃を受け慣れてんのか知んねぇが、見た目ほどのダメージは負ってねぇ……。

 っとなると、今までと同じ様に攻撃しても、あいつにはそこまで大きなダメージは与えらんねぇって事だな……。

 こりゃ、オラがあいつに勝つ為には、もう、あいつの裏をかくしかねぇかな……)

 

 

 そんな事を考えていると、悟空の視界にこちらに向かって飛び出して来るバーダックの姿を捉える。

 悟空はバーダックが間合いに入った瞬間、構えていた右拳を、勢いよく繰り出す。

 しかし、バーダックは全く防御や避ける素振りを見せず、敢えて一歩前進して悟空のパンチを左頬に自ら受ける。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 悟空の拳を受けたバーダックは、顔を顰めて思わず声を上げる。

 そんなバーダックの行動に、悟空は驚きの表情を浮かべる。

 だが、次の瞬間、左頬に悟空の拳を喰らったままのバーダックの瞳がギラッと悟空を射抜く。

 

 その瞳に射抜かられた悟空は、背筋に寒気が走るのを感じる。

 思わずその場を離れようと思った瞬間、バーダックが悟空に向かって、強烈な右拳を叩き込む。

 

 

「オラァ!!!」

「がっ!!」

 

 

 拳を左頬に打ち込んだままの体勢だった悟空は、避ける事が出来ず、バーダックの拳をモロにくらってしまう。

 拳を喰らった悟空は、なんとか踏ん張り、その場に止まる。

 そして、今度はバーダックに向け左拳を繰り出す。

 

 すると、またしてもバーダックは自ら一歩前進して、悟空の攻撃を自ら右頬に受ける。

 

 

「がっ……」

 

 

 しかし、次の瞬間攻撃を受けた状態で、悟空に向け同じく左拳を悟空に叩き込む。

 

 

「ダラァ!!!」

「がはっ!! オメェ……!?」

 

 

 反撃の拳を喰らった悟空は今の攻防で、バーダックの狙いに気付き目を見開く。

 バーダックは自身のタフさが、悟空のタフさを上回っている事に気付き、相打ち覚悟での接近戦を仕掛けて来たのだ。

 自身が悟空の攻撃を受けている間は、悟空も足を止めざるを終えない。

 

 そうすれば、バーダックの攻撃は確実に悟空に当てる事が出来る。

 しかし、当然いい事ばかりでは無い……。

 この戦法は、確実に攻撃を当てられる反面、自身も確実にダメージを受けてしまう。

 

 バーダックは自身の肉体の強靭さにかける事で、勝機を見出したのだ……。

 

 

「へっ! どうやらお前はオレの攻撃のタイミングを掴んだみてぇだからな……。

 だが、こうすりゃ避ける事は出来ねぇだろ……?」

 

 

 驚いた表情の悟空に、不敵な笑みを浮かべ口を開くバーダック。

 バーダックの言葉を聞いた悟空はその場から飛び退き、距離を開ける。

 2人は再び向かい合う。

 

 だが、笑みを浮かべるバーダックに対して悟空の表情は険しかった。

 

 

(こいつ……、なんて戦い方をしやがんだ……。

 いくら自分から踏み込んで、ダメージを減らしてるからって、オラに確実に攻撃を当てる為だけに、自ら攻撃を受けるなんてよ……。

 けど……、こいつはいよいよマジいな……。

 このままじゃ、オラの方が先にまいっちまう……)

 

 

 そんな事を考えていると、バーダックが悟空に向かって飛び出して来た。

 

 

「くっ!!」

 

 

 悟空は、とっさに上空へ飛び出す。

 そして、そんな悟空を追うべく、バーダックも舞空術で空へ飛び出す。

 悟空は上昇を続けながら、チラッと追って来るバーダックに視線を向ける。

 

 バーダックは凄まじいスピードで、ぐんぐん悟空との距離を詰めてくる。

 そして、その距離が5mを切った瞬間、突如上昇を止めた悟空が、バーダックに向かって振り返る。

 

 

「天津飯!! 技を借りるぜぇっ!!!」

 

 

 そう言って悟空は、両手を頭の前に翳す。

 

 

「太陽拳っ!!!」

 

 

 悟空に迫っていたバーダックの眼の前で、太陽が顕現する。

 突如現れた強烈な光に、バーダックの視覚は一瞬にして蹂躙される。

 

 

「ぐおっ!!! 眼がぁ……っ!!!」

 

 

 強烈な光を至近距離で眼に入れてしまった為、バーダックは思わず両手で眼を抑え痛みに悶える。

 悟空の計画通りバーダックに大きなスキが出来た。

 そして、悟空はこのチャンスをモノにすべく最後の攻撃に出る。

 

 

「はぁあああああっーーーーーっ!!!!!」

 

 

 掛け声と共に、悟空の全身からとてつも無い量の気が放出される。

 紫電を含んだ炎は、これまでに無いほど勢いよく燃え上がる……。

 悟空が解放した途轍も無い力に、地獄全体が竦み上がり震える。

 

 

「これで決めるっ!!! かぁ、めぇ……」

 

 

 気を全開に解放した悟空は、両手を右腰だめに移動させると、全身の気を集約させ始める。

 両手の中に顕現した、青い光の塊はかつて無いほど力強く輝く。

 そして、今尚その輝きは、悟空の気を喰らい増していく……。

 

 

「ぐっ……、な、何が起きやがった……!?」

 

 

 太陽拳を至近距離でモロに受けたバーダックは、未だ視覚を封じられていた。

 だが、そんな時に、自分の頭上から途轍も無い気を感知する。

 バーダックは、弾かれた様に頭上に顔を向ける。

 

 

「なっ、なんだ……!? この途轍も無い気は……!?」

 

 

 思わず顔をあげたが、視覚が封じられている為、当然ながら視覚からの情報は何も得られなかった。

 だが、バーダックは鋭い感覚で悟空の狙いを即座に看破する。

 

 

(チッ! カカロットの奴、この機会に勝負を決めるつもりだな……!!

 ヤベェ……、今感じられる気を、まともに喰らったら、流石にただじゃ済まねぇ……!!)

 

 

 現状を把握したバーダックは即座に、悟空の邪魔をするべく、気を感知した方に向け強力なエネルギー波を放つ。

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 バーダックから放たれた強力なエネルギー波は、真っ直ぐ悟空の方へ進んでいく。

 悟空とエネルギー波の距離がどんどん縮まる。

 あと僅かで、バーダックのエネルギー波が悟空にヒットしようとした瞬間。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、悟空の身体が忽然と消える。

 目標を見失ったエネルギー波は、悟空が一瞬前までいた場所を虚しく通り過ぎる。

 バーダックは、自身が放ったエネルギー波がヒットしなかった事を即座に感じ取る。

 

 今のバーダックは、眼が見えない分、尋常じゃ無い集中力で気配を感知する事に努めていた。

 

 

「チッ! 瞬間移動か……。 だが……、あいつが姿を現した瞬間、即座にこいつを打ち込んでやる……!!」

 

 

 バーダックは、右手にエネルギーの塊を顕現させる。

 だが、次の瞬間バーダックは驚きの声を上げる……。

 

 

ーーーシュン!ーーーシュン!ーーーシュン!ーーーシュン!ーーーシュン!

 

 

「なにっ!?」

 

 

 バーダック耳に風を切り裂く音が鳴り続ける。

 そして、その度に、悟空の気の位置がどんどん変わるのだ……。

 悟空はバーダックの周りを、瞬間移動を連続使用して現れては消えて、消えては現れてを繰り返しているのだ。

 

 

(くっ……、瞬間移動は連続でも使えんのか……!!

 これじゃあ、カカロットの奴がどこにいるのか分からねぇ……)

 

 

 バーダックの表情に僅かに焦りの色が浮かぶ……。

 

 

ーーーシュン!「はぁ……」

 

 

 バーダック耳に瞬間移動を続けている悟空の声が聞こえてくる……。

 それと同時に、悟空から感じられる気が増しているのを感じ取る。

 バーダックはギリッと歯を噛み締める。

 

 

「くっ!! 舐めんじゃぁねぇーーーーーっ!!!!!」

 

 

 バーダックの全身から強大な気が放出される。

 それに伴い、紫電が混じった黄金の炎が激しく燃え上がる。

 次の瞬間、バーダックは全方位に向かって無差別にエネルギー弾を放つ。

 

 

(何処にいるのか分かんねぇなら、全部潰しちまえばいい話だろうがぁ!!!)

 

 

 凄まじい数のエネルギー弾が、バーダックを中心に悟空に襲い掛かる。

 そのあまりの数に、驚きのあまり眼を見開く悟空。

 

 

(なんて奴だっ!! オラの動きを封じる為にこれだけのエネルギー弾を……。

 けど……、ここで引くワケにはいかねぇ!!

 このチャンスを逃せば、もうオラの勝機はほとんど残っちゃいねぇんだから……)

 

 

 覚悟を決めた表情を浮かべた悟空は、全神経を総動員してバーダックのエネルギー弾を避け続ける。

 それと同時に両手を通して、自身が生み出した美しくも凄まじく強大なエネルギーが篭った塊に更に力を込める。

 

 

ーーーシュン!「めぇ……」

 

 

 悟空の両手に顕現したエネルギーの塊が更に輝きを増す……。

 極限にまで高まった悟空の気を目一杯喰らったそれは、もはや悟空が育った地球の如く、美しくも力強い純粋な蒼い輝きを周囲に振り撒いていた……。

 ついに、機は熟した……。

 

 

「だぁあああああっーーーーーーっ!!!!」

 

 

 未だ視覚が戻らないバーダックは、持てる力の限り周囲にエネルギー弾を放ち続ける。

 左右の腕を高速に動かして繰り出されたそれは、周囲の被害などお構いなしだった。

 その為、宙に浮いているバーダックを中心に半径数kmの地面は、既に凄まじい事になっていた。

 

 そして、その被害は今尚拡大している……。

 轟音と共に地獄の大地を蹂躙し続けるバーダック……。

 それだけの事をやらかしても彼は止まらない……。

 

 分かっているのだ……。

 今止まれば、その瞬間、とてつもない攻撃が自身を襲うという事を……。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 その風を切り裂く様な音は、バーダックの耳によく響いた……。

 自身が繰り出したエネルギー弾が起こす、耳を塞ぎたくなる程、煩い爆発音が響く中でだ……。

 バーダックは思わず動きを止め、上を向く……。

 

 この時になって、ようやくバーダックの視覚がうっすらと戻って来た。

 未だはっきりとしない視覚の中で、バーダックは確かに見た……。

 まるで惑星の輝きの様に、力強い光に包まれた自身の好敵手の姿を……。

 

 そして、その光が最も強い場所には、文字通り惑星すらをも容易く屠る力が込められていた。

 その強大な力が……、ついに解放され、バーダックに襲いかかる……。

 

 

「波ぁーーーーーっ!!!!!」

 

 

 掛け声と共に両手をバーダックに突き出す悟空。

 次の瞬間、集約されたエネルギーが一気に解放され、極大の一筋の光の波となって、バーダックを一瞬で飲み込む。

 そのあまりの威力と規模に、バーダックは声すら上げる事が出来なかった。

 

 

「はぁあああああっーーーーーーっ!!!!」

 

 

 悟空の咆哮にも似た叫びに呼応する様に、かめはめ波は今尚その威力を増していく。

 まるで1本の光の柱の様に空と大地を繋いだ光の波は、その威力を持って地獄の地面を蹂躙していく。

 これが地球で行われたら、間違いなく地球は破壊されていただろう。

 

 その恐ろしくも美しい光の波は、やがて役目を終えたかのように徐々に細くなっていく。

 そして、光が完全に収束した時、地獄の地面には途轍も無く巨大なクレーターが出来上がっていた……。

 その中心で、超サイヤ人が解けた、バーダックが静かに横たわっていた……。

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