ドラゴンボール -地獄からの観戦者- 孫悟空VSバーダック編 7

■Side:ギネ

 

 

 今あたしの視線の先では、バーダックとカカロットが互いに放ったエネルギー弾とエネルギー波がぶつかっていた。

 言葉にするとなんて事無いけど、その2つの技が齎した影響は決して馬鹿に出来るモノではなかった……。

 地獄中に響き渡るのでは無いかと思う程の凄まじい音と、立っているのもやっとだと思う程の衝撃を撒き散らしているからだ。

 

 

「くっ、あいつ等なんて威力の技を出しやがるんだ!! 衝撃だけで吹っ飛びそうだ!!」

 

 

 2人の技のぶつかり合いで生じた凄まじい爆風に、思わず腕で目を覆いながら、必死に踏ん張っているトーマが声を上げる。

 だが、声に出していないだけで、周りにいるあたしやパンブーキン、セリパ、トテッポ、ナッパ、ラディッツも似たような状況だった。

 

 

「おい! あれを見ろよ!!」

 

 

 そんな中、何かに気付いた様な声をパンブーキンが上げる。

 あたし達が、視線を凝らした先では、バーダックのエネルギー弾がカカロットへ、あと僅かという所まで、迫っていた。

 

 

「バーダックのヤツ、いよいよカカロットを追い詰めたんだね!!」

「いけぇ!! バーダック!!! そのまま決めちまぇ!!!」

 

 

 その様子にセリパやトーマは喜びの声を上げる。

 それが聞こえたわけじゃ無いだろうけど、バーダックのエネルギー弾がカカロットとの距離を更に縮めた様に見えた。

 もはや、カカロットとエネルギー弾の距離は5mを切ろうとしていた。

 

 

「必死に耐えてやがるって感じだな……。 カカロットの野郎……」

「ああ……。 実際、随分前からガス欠状態だったっぽいが、寧ろよくここまで粘ったもんだ……」

 

 

 付き合いが長い、トーマ達とは違い、戦闘民族サイヤ人として冷静に戦況を見極めているナッパとラディッツ。

 そして、この2人が指摘した様に、今のカカロットは誰がどう見ても、限界を迎えている様に見えた……。

 でも、あたしには……。

 

 

「頑張れ……、頑張れ……、カカロット……」

 

 

 いつしか、あたしの口は言葉を発していた。

 別に意識したわけじゃ無い、その為か、あたしの言葉はとても小さかった。

 だけど、今、目の前で必死で闘っているあの子を見ていると、どうしても応援せずにはいられなかった。

 

 ここにいる誰もがバーダックの勝利を確信している。

 あたしだってそうだ……。

 でも、あの子は……、あの子だけはまだ自分の勝利を諦めていない……。

 

 あんなに、全身に血管を浮き上がらせ、大量の汗を出している所を見ると、本当に限界以上の力を出しているんだろう。

 でも、バーダックの強力なエネルギー弾は、カカロットの頑張りなど関係なしに、その距離をどんどん縮めている。

 諦めてしまったら、すぐ楽になれるのに、あの子はそうしない……。

 

 我が息子ながら諦めが悪いというか……、負けず嫌いというか……、一体誰に似たんだろうか……。

 きっと、あの子の中ではまだ可能性があるって思ってるんだろう……。

 だって……、あの子の瞳はまだ、一欠片の諦めの色も宿っていないんだから……。

 

 あたしが、そんな事を漠然と考えていると、誰かの手が勢いよく、あたしの肩を叩く。

 

 

「ギネッ!!!」

 

 

 その声に驚いた様に、あたしは勢いよく振り返る。

 

 

「セリパ……」

 

 

 そこには、真剣な表情をしたセリパの姿があった。

 あたしは、驚きのあまり呆然とした表情でセリパに視線を向ける。

 そんなあたしの事等、お構いなしとばかりに、セリパは口を開く。

 

 

「ギネ……、あんたさ、バーダックとカカロット……、どっちに勝ってもらいたいと思ってるんだい……?」

 

 

 いつもよりもやや低い声で問いかけられた、セリパの問いに、あたしは自分でも両肩がビクッとなったのを感じる。

 正直痛い所を突かれたと思ったのだ……。

 

 

「そ、それは……」

 

 

 あたしは、セリパの問いに瞬時に答える事が出来なかった……。

 バーダックがこの闘いに向け、どれだの想いや気持ちを込め、長い期間頑張って来たのかを知っていたからだ。

 だから、当然バーダックに勝ってもらいたいという気持ちは強い。

 

 だけど、同じ位、今必死で頑張っているカカロットにも負けないで欲しいと思ってしまうのだ……。

 答えあぐねている私に向け、セリパは再び口を開く。

 

 

「答えられないかい……?」

「……」

 

 

 真っ直ぐあたしの眼を見て問いかけるセリパ。

 セリパの真剣な眼が、まるであたしを攻め立てているように感じたのだ……。

 彼女はバーダックを応援しているようだったので、カカロットを応援したあたしは若干気まずかった。

 

 あたしは、つい顔を伏せてしまう……。

 

 

「ぷっ……、くっくくく……」

「え?」

 

 

 突然聞こえて来た笑い声に、あたしは思わず顔を上げ、セリパに目を向ける。

 そこには、笑いを堪えようとしたのに耐え切れなかった様な、微妙な笑い顔を浮かべたセリパの姿があった。

 今のセリパの姿には、先程見せた真剣さは皆無だった。

 

 この時点で、あたしは自身がからかわれたのだと悟り、セリパをジト目で見つめる。

 

 

「あっははは……!! ごめんって、あんたがあまりにも複雑そうな表情をしてたから、ついね……」

 

 

 あたしのジト目など気にした素振りも見せず、いつもの活発な笑みを浮かべ、口を開くセリパ。

 そんなセリパの雰囲気に、あたしも少し気持ちが軽くなった……。

 

 

「でもさ、さっきあたしが言った事は、本当に聞きたかった事なんだ……。

 ギネ、あんたはさ、どっちに勝って欲しいんだい……?」

 

 

 先程と違い、優しげな表情で問いかけるセリパ。

 雰囲気が和らいだおかげか、あたしは自分の気持ちをようやく吐き出す事が出来た……。

 

 

「あたしは……、正直どっちを応援したらいいか……、分からないんだ……。

 カカロットと闘う為に、長い時間を努力に費やして来た事を知ってるから……、バーダックに勝って欲しい。

 でもさ、今頑張っているカカロットを見ると、あの子のにも負けて欲しく無いって思っちゃうんだ……」

 

 

 セリパはあたしの言葉を、静かに聞いてくれた。

 そして、あたしの話を聴き終えたセリパは、静かに口を開く。 

 

 

「そっか……。 どっちにも勝って欲しいし負けて欲しく無いか……。

 ははっ……、そいつは、流石に無理でしょ! 何よりそんな事をあの2人が望んじゃいない」

「うん……」

 

 

 セリパの言葉を聞き、あたしはまた顔を伏せてしまう……。

 そう……、そうなのだ……。

 セリパの言う通り、あの2人は、そんな事は一欠片も望んじゃいない。

 

 だからこそ、今尚2人は死力を尽くして頑張っているのだから……。

 再び顔を伏せたあたしを見て、セリパは「はぁ……」と溜息を吐くと再び口を開く。

 

 

「でもさ……、あんたは、それでいいんじゃないの……?」

「え?」

 

 

 セリパの言葉を聞いたあたしは、思わず顔を上げる。

 そこには、不敵な笑みを浮かべたセリパがあたしを真っ直ぐ見つめていた。

 

 

「だってさ、あんたはバーダックの嫁であるのと同時に、カカロットの母親だろう?

 あんたがそんな気持ちになるのは当然さ……。

 だったらさ、両方を応援しても誰も文句なんざ、言えやしないよ……」

「でも……」

 

 

 セリパの言い分は分かる……。

 だけど、あたしはどうしても踏ん切りがつかないでいた……。

 そんなあたしを見て、セリパは再び口を開く。

 

 

「でももへったくれ無い! あんたは、2人に優劣をつけられないんだろ?」

「うん……」

「だったら、堂々と両方応援しな!!

 さっきみたいに、小声でボソボソ言ったって、応援されている方は力なんて出やしないよ!!!」

 

 

 セリパの言葉に、あたしは両眼を見開く。

 

 

「さっきも、言ったけど、あんたがどっちを応援したって誰も文句を言うヤツなんていないよ。

 もし言うヤツがいたら、あたしがぶっ飛ばしてやるよ!!!

 それが例え、バーダックだろうとね!!!」

 

 

 ウィンクしながらサムズアップするセリパを見て、あたしは自然と自分の顔に笑みが浮かぶのを感じる……。

 

 

「セリパ……。 うん!ありがとね!! 何かいろいろ吹っ切れたよ!!!」

 

 

 あたしは、視線をカカロットの方に向ける……。

 「すぅーーーっ」と限界まで息を吸い込む。

 そして、それを言葉として一気に吐き出す……。

 

 あたしの想いや気持ちをめいっぱい乗せて、あの子に届ける為に……。

 

 

「頑張れーーーっ!!! カカロットーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「くっ……、ぐぅぐぐぐ……」

 

 

 必死に身体の中から気を引き出しながら、両手から放出し続ける悟空。

 彼の視線の先には、今尚自身へ迫るバーダックのライオットジャベリンの姿があった……。

 

 

(くそっ……、全然押し返せねぇ……。

 あとちょっとで、壁を超えれそうな感じはしてんだけど、このままじゃ、その前にやられちまう……。

 オレは……、オラの限界はここまでなんか……)

 

 

 限界まで力を絞り出している悟空だったが、バーダックのライオットジャベリンとの距離は刻々と縮まっていた。

 流石の悟空もここまで力を絞り出しても状況が改善され無い事に、焦りを隠せずにはいられなかった……。

 だが、自身の感覚では確かに己の中に眠っている力が在るという自覚だけは存在した為、それだけが今の悟空の心を支えていた。

 

 しかし、ここまで追い込まれても悟空は壁を越えられずにいた……。

 その事がじわじわと、悟空の心に焦りを生んでいく……。

 そして、また少しライオットジャベリンが悟空との距離を縮める……。

 

 

「くっ! がぁあああああ……!!!」

 

 

 悟空は歯を食い縛り、顔を更に顰めながら、無理矢理力を引き出す……。

 その結果、何とかバーダックのライオットジャベリンを少しだが押し返す事に成功する。

 だが、自身から5m先に押し返すので精一杯だった……。

 

 その事実が悟空に重くのし掛かる……。

 そして、更に悟空の心を折るかの如く、気持ちとは裏腹に肉体の方がいよいよ限界を迎えようとしていた……。

 

 

「ぐっ!(ヤベェ……、急に身体が重く……)」

 

 

 限界以上の力を引き出した反動が、突如、悟空に襲いかかり始めたのだ……。

 悟空の両腕がブルブルと震える……。

 もはや、腕を上げているのもやっとだった……。

 

 そして、この事態により、ついに孫悟空の強靭な意志が砕かれる……。

 

 

「も……、も……もうダ……『頑張れーーーっ!!! カカロットーーーーーッ!!!!!』……えっ?」

 

 

 限界を迎えた悟空が勝負を諦めようとした、その瞬間……。

 ライオットジャベリンとかめはめ波の打ち合いで凄まじい轟音が鳴り響く中、悟空の耳は確かにその声を拾った……。

 どこか懐かしい感じを抱かせる、力強い女性の声を……。

 

 悟空は思わず声がした方に視線を向ける……。

 そこには岩山の上に1人の女性が立って、必死になってこちらに向かって声を上げていた……。

 

 

『諦めるんじゃ無いよ、カカロット!!! そんなエネルギー弾なんてさっさと吹っ飛ばしちまいな!!!』

 

 

 声を上げている女性を悟空は状況を忘れ、呆然とした表情で見つめる……。

 そして、ふと頭に疑問が浮かぶ……。

 

 

(あいつは、確か……、今オラが闘ってるヤツの嫁じゃなかったか……?)

 

 

 視線の先の女性はバーダックとの戦いの前に、岩山に隠れていた者と同じ気をしていたので、悟空はすぐに女性の正体を看破する。

 

 

(何で、オラの名前を知ってるんだ……?)

 

 

 だが、そんな悟空の疑問等知ったこっちゃないとばかりに、女性は悟空から視線を外すと、バーダックに向け更に口を開く。

 

 

『バーダック!!! あんたもいつまでノロノロやってんだい!!! カカロットはもう虫の域じゃ無いか!!!』

 

 

 悟空は、女性の言葉を聞いて今度こそあんぐりと口を開き驚きの表情浮かべる。

 だが、何故だろうか……。

 そんな女性を見ていたら、悟空は自然と口元に笑みを浮かべていた。

 

 

「へへっ……、何だあいつ……、無茶苦茶言ってらぁ……」

 

 

 笑みを浮かべていたが悟空の口元が、再び引き締まる……。

 そして、折れかかっていた悟空の瞳に再び闘志が宿る……。

 

 

「さっさと吹き飛ばせ……か……。 そうだな、オラの限界はまだまだこんなモンじゃねぇ!!!」

 

 

 悟空は自身に迫る、ライオットジャベリンをしっかり見据える……。

 今の悟空には、何故だか先程まであった焦りが嘘の様に消えていた……。

 それどころか、心が軽くなった様な不思議な感覚を味わっていた……。

 

 悟空は静かに眼を閉じる……。

 

 

「すぅーーーっ、ふぅーーーっ」

 

 

 大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出すとカッ!と眼を開く悟空。

 

 

「がぁあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 咆哮にも似た声を上げる悟空……。

 それと同時に、凄まじい量の気が悟空の全身から吹き出し、黄金の炎が激しく燃え上がる……。

 

 

(あいつの言う通りだ、まだ力を全て出し切ってねぇのに諦めるなんてオラらしくもねぇ!!!

 限界なんて、今までだって、何度も乗り越えて来たじゃねぇか!!!

 いい加減、オラの……、オレの中に眠る力よ、さっさと起きやがれぇっ!!!!!)

 

 

 その時だった……。

 悟空は、確かに感じ取った……。

 自身の中にあった何かが、断ち切れるのを……。

 

 

ーーープツン!!!

 

 

「うぉあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 悟空の全身を眩い光が包み込む……。

 

 

 

「なっ、何っ!?」

 

 

 悟空の異変に最初に気づいたのは、打ち合いをしていたバーダックだった……。

 だが、バーダックが驚きの声を上げた理由は、悟空が眩い光に包まれたからでは無い……。

 伝わって来るのだ……。

 

 ライオットジャベリンを通して、今打ち合っている男の気が桁違いに跳ね上がったのを……。

 

 

「ぐっ!!!」

 

 

 バーダックは、咄嗟にライオットジャベリンの威力を上げるべく力を注ぎ込む。

 これは考えての行動では無かった……。

 バーダックの本能が、自身に迫る危険を察知して無意識にさせた事だった……。

 

 だが、次の瞬間バーダックの表情が驚愕に染まる……。

 

 

「なっ!?」

 

 

 たった今力を注ぎ込んだ、ライオットジャベリンが凄じいスピードで自身に迫って来たからだ。

 バーダックの背筋に凄じい悪寒が走る……。

 即座に、ライオットジャベリンのコントロールを破棄して、その場から凄まじいスピードで距離をとるバーダック。

 

 次の瞬間、バーダックの数cm隣をライオットジャベリンと共に、一筋の極大な光の波が通り過ぎる……。

 バーダックは唖然とした表情で、上空へ昇って行った極大のエネルギー波を見つめる。

 だが、それも束の間、ハッ!とした表情を浮かべ、地面へ……極大のエネルギー波が放たれたであろう場所へ視線を向ける。

 

 

「!!」

 

 

 そして、今度こそバーダックは言葉を失う……。

 バーダックの視線の先には、1人の男が両手を空へと突き出した状態で立っていた……。

 男は、静かに両手をおろす……。

 

 そこには、腰まで伸ばした黄金の髪をはためかせ、凄じい量の紫電を身に纏った男の姿があった……。

 男とバーダックの視線が交差する……。

 眼を合わせた瞬間、バーダックの本能がとてつもない警鐘を鳴らす。

 

 一眼見ただけで理解してしまったのだ……。

 あれは、今の自分とは隔絶した存在だと言う事を……。

 だが、バーダックは必死でその思いを封じ込める。

 

 バーダックは男に向かって飛び出す為に、全身に力を巡らせる……。

 そして、飛び出そうとした瞬間だった……。

 バーダックの眼が大きく見開かれる……。

 

 

「なっ!?」

 

 

 ほんの数瞬前まで地面に立っていた男が拳を構えそこに居たからだ……。

 誤解がない様に言っておくが、バーダックは片時も男から視線を外していなかった……。

 だと言うのに、バーダックは男が自分の間合いに入るまで、男が移動した事に全く気づかなかった……。

 

 しかも、風を切り裂いた様な音がしなかった事から、男は瞬間移動ではなく純粋なスピードでバーダックが知覚出来ない速度で近づいたのだ……。

 そして、驚愕の表情を浮かべたバーダックに向かって、男は容赦無く右拳を振り抜く……。

 吸い込まれるかの様に、男の拳は凄まじい音を立てバーダックのボディへ突き刺さる……。

 

 

「がはっ……」

 

 

 その瞬間、痛みを感じるよりも早く、バーダックの身体は凄じい勢いで後方へ吹っ飛ぶ……。

 勢いが弱まり始めた瞬間、バーダックは何とか身体をコントロールし、空中で静止する。

 次の瞬間、先ほど殴られた腹部にとてつもない痛みが走る……。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 思わず片手で腹部を抑えるバーダック……。

 だが、視線だけは片時も、男から離す事は無かった……。

 今の一瞬で男とバーダックの距離は、1km近くも離れていた。

 

 しかも、男はバーダックを殴り飛ばした場所で自分の右拳を見つめ静かに佇んでいた……。

 

 

「チッ!」

 

 

 顔を顰め舌打ちしたバーダックは、即座に両手にエネルギーの塊を顕現する……。

 

 

「はあぁっ!!! だだだだだだ……!!!」

 

 

 バーダックの左右の手から凄まじい量のエネルギー弾が繰り出される……。

 その全てのエネルギー弾が1つ残らず男の方へ向かっていく……。

 しかし、バーダックの表情が再び驚愕に染まる……。

 

 

「なっ!?」

 

 

 男の姿がブレたと思ったら、男は大量のエネルギー弾の中を超スピードで避けながら近づいて来るのだ……。

 そして、次の瞬間……。

 一瞬で距離を詰めた男が、バーダックの目の前に現れる……。

 

 

「だらぁ!!!」

 

 

 男が繰り出した強烈な左拳が、バーダックの顔面に突き刺さる。

 

 

「がっ!!!」

 

 

 痛みで声を上げたバーダックは、凄じいスピードで地面へ落下していく……。

 痛みで顔を歪めながらも、バーダックは冷静に地面と自身との距離を測っていた。

 

 

(チッ! ヤツの拳の威力が強すぎて、身体のコントロールだけじゃ、勢いを殺しきれねぇ……。

 しょうがねぇ……、地面に激突する前に、気功波で勢いを殺す!!!)

 

 

 どんどん地面とバーダックの距離が近づく……。

 バーダックは気功波を放つべく、右腕を伸ばそうとした瞬間、バーダックの視線の先にありえない存在が姿を現す。

 なんと、殴り飛ばした張本人が、殴り飛ばされ凄まじい速度で落下していたバーダックより先に、地面に立っていたのだ……。

 

 

(い、いつの間に……!?)

 

 

 バーダックが驚きの表情を浮かべると、男はトン!と軽やかに宙へ跳び落下しているバーダックとの距離を詰める。

 そして、次の瞬間、男は右足を勢いよく振り抜く……。

 

 

「ぐぅ……」

 

 

 男の蹴りを受けたバーダックは、地面へ激突する前に今度は上空へ凄じいスピードで吹っ飛んでいく。

 だが、バーダックもただやられた訳ではない……。

 今度は、男の蹴りが自分に当たる瞬間、両腕を滑り込ませ何とかガードする事に成功したのだ。

 

 

(よし! 今度は何とかガードが間に合った!!

 一旦大勢を立て直さねぇと、このままじゃ何も出来ずにやられちまう……)

 

 

 バーダックがそんな事を考えていると、彼の瞳は、自身に近づいて来る男の姿を捉える。

 ほぼ無理矢理体勢を整えたバーダックは、男を迎え撃つべく構える。

 その時、バーダックの眼は確かに捉えた……。

 

 男の右拳が眩い光を放っているのを……。

 その光景を見た瞬間、バーダックの全身にとてつもない悪寒が走る……。

 しかし、もう遅い……。

 

 男は力強く光り輝く拳を、勢いよくバーダックに向かって突き出す……。

 

 

「龍拳ーーーーーっ!!!!!」

 

 

 男が拳を突き出した瞬間、男の全身からとてつもなく膨大な気が放出される……。

 放出された気は一瞬にして、巨大な黄金の龍の形へと成り変わる……。

 それを眼の前で見ていたバーダックは、一瞬にして黄金の龍に捕獲される……。

 

 捕獲されたバーダックは、自身の全身を拘束している龍がとてつもない密度の気で形成されているのを即座に感じ取る……。

 次の瞬間……自身を拘束している龍が眩い光を発する……。

 バーダックは、それにとてつもない危機感を抱く……。

 

 

「ぐっ……、がぁ、ぐぅ……」

 

 

 何とか龍の拘束から抜け出そうとするバーダックだったが、いつしかバーダックの全身は目も開けていられない程の眩い光に包まれていた……。

 そして、次の瞬間……とてつもない衝撃がバーダックを襲う……。

 

 

「ぐぅあああああーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 なんと、バーダックを拘束していた龍が凄まじい轟音を轟かせ、大爆発を起こしたのだ……。

 その大爆発を至近距離でモロに受けるバーダック。

 爆発が収まった時、もはやバーダックはほぼ意識を手放していた……。

 

 バーダックは、重力に従って地面へ落下していく……。

 今のバーダックには、もはや舞空術を使う体力も気力も残っていなかった……。

 しかし、バーダックが地面へ激突する事はなかった……。

 

 何故なら、バーダックの身体を何者かが、空中で受け止めたからだ……。

 

 

「うっ……」

 

 

 朦朧とした意識の中で、バーダックは首を少しだけ動かす。

 視線の先には、自身を受け止めた者の姿があった……。

 バーダックと男の視線か交わる……。

 

 

「ありがとな! オメェのおかげで、オレはようやく超サイヤ人2の壁を超えることが出来た……」

 

 

 男はバーダックに向かって、優しげな表情で言葉を告げる……。

 だが、残念ながら今のバーダックには口を開く体力すら無かった……。

 だから、バーダックはしっかり目に焼き付ける事にした……。

 

 自身に勝利した男の姿を……。

 超サイヤ人2を遥かに超えた存在へと至った、偉大なる超戦士……超サイヤ人3の姿を……。

 自分の身体を優しく抱きとめ、穏やかな笑みを浮かべる、息子……孫悟空事カカロットの姿を……。

 

 だが、それも長くは続かなかった……。

 徐々にバーダックの目蓋が閉じ始めたのだ……。

 だから、バーダックは最後の力を振り絞る……。

 

 バーダックは悟空に眼を合わせたまま、口元に穏やかな笑みを浮かべる……。

 例え、言葉に出来なくとも、少しでも今の自分の気持ちが伝わる様に……。

 

 

(フッ……、楽しかったぜ……。 バカ息子……)

 

 

 そうしてバーダックは完全に意識を手放した……。

 

 

 

 悟空は意識を手放したバーダックを静かに抱きとめる……。

 そして、静かに自身の腕の中で眠るバーダックに視線を向ける……。

 悟空の中で、今日の激しくも、とても心が踊った闘いがフラッシュバックする……。

 

 悟空の口元には、いつしか笑みが浮かんでた……。

 

 

「本当に大したヤツだったぜ……」

 

 

 悟空は、自身の腕の中で眠る好敵手に、改めて感謝と尊敬の念を込め賛辞を送る。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 悟空が力を抜くように息を吐くと、腰まで伸びていた髪が短くなっていく……。

 それに合わせるかの如く、身体から吹き出していた黄金の炎も徐々に弱まり、ついには鳴りを潜める……。

 そして、黄金色だった髪と、エメラルドの様なグリーンの眼がいつもの黒色へ戻る……。

 

 完全に変身を解いた悟空は、人差し指と中指を立てゆっくりと額に当てる。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、悟空はバーダック共々、その場から姿を消す。

 こうして、サイヤ人の親子の闘いは終わりを告げたのだった……。

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