ドラゴンボール -地獄からの観戦者- 孫悟空VSバーダック編 8

 長い激闘の末、ついに超サイヤ人3へと覚醒し、バーダックとの闘いに終止符を打った孫悟空事カカロット。

 気を失ったバーダックを抱え、悟空は人差し指と中指を立てゆっくりと額に当てると、とある人物の気を探る。

 その人物の気はすぐに見つかった……。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、悟空はバーダック共々、その場から姿を消す。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 再び風を切り裂く様な音が響いた時、悟空の視界には先程までとは別の光景を映し出していた。

 そう、悟空の目の前には、呆けた表情を浮かべる1人の女性が立っていた。

 

 

「え?」

 

 

 いきなり目の前に現れた悟空に、呆けた表情のまま思わずといった様子で声を上げる女性……。

 そんな女性に悟空はニカッ!とした笑みを向ける口を開く。

 

 

「よう!」

「あ……、うん……」

 

 

 元気よく挨拶した悟空に対し、女性の反応はどうも鈍い……。

 その事に首を傾げる悟空。

 

 

「どうしたんだ、オメェ……? さっきは滅茶苦茶ハッキリ喋ってたじゃねぇか……?」

「え……? あ、うん……」

 

 

 悟空の問いにも呆けた様に返事を返す女性。

 女性の内心など知りようがない悟空は、未だ呆けた表情をしながらも、自分をじっと見つめる女性に思わず首を傾げる。

 しかし、腕に伸し掛かる重みで、この場に来た理由を即座に思います。

 

 

「なぁ、オメェこいつの嫁なんだろ……? こいつの事頼めるか……?」

 

 

 悟空は女性に向かって、抱えていたバーダックを差し出す。

 女性は今まで、悟空の事に夢中で悟空の腕の中で眠っている存在の事をすっかり忘れていた……。

 だが、気を失ったバーダックの姿を視界に捉えた瞬間、これまでの事が嘘の様に素早い動きを見せる。

 

 

「バーダック!!!」

 

 

 女性は声を発したと同時に、悟空の元に近付き、バーダックの様子を心配そうな表情を浮かべ確認する。

 

 

「心配いらねぇ……って、こいつをこんな風にしたオラが言う事じゃねぇけど……、心配すんな……。

 気を失ってるだけだ……。 しばらくすれば目を覚ます」

 

 

 悟空は女性を安心させる様に、穏やかな口調で口を開く。

 その言葉を聞いた女性は、「ほっ……」とした様な安心した表情を浮かべ、悟空からバーダックを受け取り、抱き抱える。

 女性は自愛の表情を浮かべ、激戦を繰り広げた男を見つめ口を開く。

 

 

「お疲れ様、バーダック……」

 

 

 女性は、バーダックを近くにいた仲間に引き渡す……。

 そして、再び悟空の方に視線を向ける……。

 すると、そこには女性の方をじっと見ながら、顎に手を当て、「うーん……」と言いながら首を傾げる悟空の姿があった……。

 

 その姿に、思わず声を上げる女性。

 

 

「なっ、何だい……?」

 

 

 女性に声を掛けられた悟空は、眉を寄せながら口を開く。

 しかし、その言葉は何処か歯切れが悪かった……。

 

 

「いやよ……。 オメェ……、オラとどっかで会った事あるか……?

 オラ、オメェとは会った事がねぇと思うんだけど……。

 オメェを見てたら、何でか妙に懐かしい気持ちになんだよな……。

 それに、オラの名前も知ってたし……」

 

 

 悟空の言葉を聞いた女性は、両目を見開く……。

 しかし、すぐにそれを引っ込めると、とても穏やかな笑みを浮かべる。

 気のせいか、彼女の眼にはうっすらと涙が浮かんでいる様に見える……。

 

 

「あ、あたしが……、あたしが、あんたと会った事があるかって……?

 そんなの……、あるに決まってるよ……」

 

 

 声を震わせながら口を開いた女性を、悟空は驚いた表情で見つめる。

 だが、悟空は言葉を発する事が出来なかった……。

 何故なら、目の前の女性は大粒の涙をぼろぼろと流していたからだ……。

 

 そして、彼女は告げる……。

 己の名と、悟空との関係性を……。

 

 

「あたしの名は、ギネ……。 あんたの……あんたの母親だよ……、カカロット……」

 

 

 涙を流しながらも、息子と再会出来た事に喜びの笑みを浮かべるギネ……。

 ギネの言葉を聞いた悟空は、両目を見開きぷるぷると人差し指でギネを指しながら口を開く。

 

 

「母親……、って事は……、オメェが……、オメェがオラの母ちゃん……、なんか……?」

 

 

 悟空の言葉にギネは静かに頷く……。

 そんなギネを見て、今度こそ悟空は口を大きく開けて驚きの声を上げる。

 

 

「えぇーーーーーっ!!?」

 

 

 悟空の余りの声量に、周りで成り行きを見守っていたトーマ達は思わず耳をふさぐ。

 しかし、そんな周りの事が見えていないのか、悟空は驚愕の表情でギネを見つめる……。

 そんな息子の反応が面白かったのか、ギネは可笑しそうに「くすくす……」と笑い声を上げ口を開く。

 

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

「いや、だってよ……。 オラにも母ちゃんて……本当にいたんだなぁ……。って思ってよ……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネの表情が僅かに曇る……。

 そんなギネの様子に、悟空は不思議そうな表情で首をかしげる……。

 ギネは悟空の眼をじっと見つめると、静かに口を開く……。

 

 

「ごめんね……」

「え?」

 

 

 ギネから飛び出た突然の謝罪に、悟空は困惑した表情を浮かべる。

 

 

「あんたを1人で地球へ送った事さ……。

 あたしは、あんたと一緒に居てあげる事が出来なかった……。

 迎えに行くって……、また会おうねって……、あんたと約束したのに……」

 

 

 涙を流し悲痛な表情を浮かべ言葉を発していたギネは、言葉を発し終えると、そのまま顔を伏せる……。

 身体を震わせながら流した涙が、ポタポタと地面に落ち、1つまた1つと小さな染みを生み出していく。

 そんなギネに、これまで黙って話を聞いていた悟空は、ゆっくりと近付く。

 

 そして、悟空はギネの肩にポン!と、右手を乗せる……。

 悟空が触れた瞬間、ギネの身体がビクッ!と震える……。

 だが、ギネは顔を伏せたままだった……。

 

 そんなギネに、悟空は優しく語りかける……。

 

 

「なぁ、顔を上げてくれねぇか……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、涙で濡れた顔をゆっくりと上げる……。

 そこには、太陽があった……。

 正確に言えば、ニカッ!と太陽の様に輝かんばかりの笑顔を浮かべた息子の顔があった……。

 

 悟空とギネの視線が交差する。

 悟空はギネの眼をしっかり見つめて、口を開く。

 

 

「ありがとな……。 オラを地球へ送ってくれて……」

「え……?」

 

 

 息子の言葉に、ギネは呆けた様な表情で声を上げる。

 そんなギネに「へへっ……」と笑いながら悟空は、再び口を開く。

 

 

「確かにさ、いい事ばかりじゃ無かったさ……。

 オラを拾って育ててくれたじいちゃんが死んで、1人になった時とか寂しかったし悲しかった……。

 でもよ、それ以上に地球に行ったおかげで、たくさんの仲間達と出会う事が出来たんだ!!」

 

 

 自身の過去を振り返りながら、自分がこれまでどう生きて来たのか、悟空は母に語って聞かせる……。

 地球へ送ってくれた、感謝を込めて……。

 

 

「それに、家族も出来た……。

 オラはあんまりいい父親とは言えねぇけど、オラにはもったいねぇくらい立派な息子と嫁がさ……。

 これは、オラが地球に行かなかったら決して得られなかったモンだと思う……。

 だからさ……」

 

 

 言葉を切った悟空は、改めてギネの目をしっかり見据え、二カッ!と太陽の様な笑みを浮かべ口を開く……。

 

 

「オラを地球へ送ってくれてありがとな……。 母ちゃん」

「カカロット……」

 

 

 息子の笑みを見て、ギネは涙を流さずにはいられなかった……。

 だがこれは、決して悲しみの涙ではない……。

 これまで、ギネは悟空を地球へ送った事を後悔して来た……。

 

 地獄の水晶や悟空と面識のあるトランクスのおかげで、悟空が地球で幸せに暮らしていたのは知っていた。

 だから、地球へ送ったのはよかったという想いはあった……。

 それでも悟空に対して、後ろめたい気持ちが消えなかったのも事実なのだ……。

 

 そんな後ろめたい気持ちを、悟空の笑顔は一瞬にして吹き飛ばしてしまった……。

 今、この瞬間こそが、本当の意味でギネが救われた瞬間だった……。

 

 

「話は終わったか……?」

 

 

 悟空とギネの耳に、第三者の声が響き渡る。

 2人は声がした方に、そろって視線を向ける……。

 そこには、上半身を起こしたバーダックの姿があった。

 

 ちなみに、悟空との闘いで気絶したバーダックは、今までトーマ達によって地面に寝かされていたのであった。

 バーダックの姿を見たギネは、驚いた表情を浮かべ口を開く。

 

 

「バーダック!? あんたいつから……!?」

「お前がわんわん泣き出した頃だよ……。 煩くておちおち寝ちゃいられねぇ……」

 

 

 ギネの問いに、いつもの皮肉で返事を返すバーダック。

 そして、バーダックは続いて悟空に視線を向ける……。

 悟空とバーダック、父と子の視線が交わる……。

 

 

「オメェが、オラの父ちゃん……なんか……?」

 

 

 何処か戸惑った様な声で、バーダックに声をかける悟空……。

 そんな悟空の様子が可笑しかったのか、バーダックは口元に穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

「ああ……。

 そういや、お前が勝ったら名前を教えてやるって、約束だったな……。

 ギネ達からもう聞いたかも知れねぇが、オレの名前はバーダックだ……」

「バーダック……」

 

 

 自身の父の名を呟く悟空……。

 そんな悟空の様子を見て、バーダックが再び口を開く。

 

 

「フン! 戦闘力2のガキがまさかここまで強くなるとはな……」

「へ?」

 

 

 バーダックの言葉に、不思議そうな表情を浮かべる悟空。

 悟空の表情で考えを察したバーダックは、「フッ……」と口元に笑みを浮かべると、再び口を開く……。

 

 

「お前が生まれてすぐに、惑星ベジータで戦闘力を計測した時の数値だ……。

 あん時は、将来下級戦士どころか戦闘要員としてやっていくのは無理だろうと思ったが……、まさか、どのサイヤ人よりも強くなっちまうとはな……」

 

 

 何処かしみじみとした感じで、言葉を述べるバーダック。

 そんなバーダックだったが、ここで一度言葉を区切ると静かに目を瞑る……。

 バーダックの脳裏には、先程の闘いが思い出されていた……。

 

 しばらくして、目を開けたバーダックはポツリと口を開く。

 

 

「お前が最後に見せたあの姿……」

「超サイヤ人3のことか……?」

 

 

 悟空が告げた言葉を聞いたバーダックの脳裏に、先程実際に闘った超サイヤ人3の姿が浮かび上がる。

 超サイヤ人2とは隔絶した、新たな超サイヤ人の形態……。

 今思い出しても、ゾクゾクとして来る……。

 

 

「超サイヤ人3……か……。 とにかく、あれは本当に見事だった……。

 まさか、超サイヤ人2の上があるとはな……、オレにもまだまだ先があるって知る事が出来た……」

 

 

 正直、勝負に負けた事は、素直に悔しかった……。

 悟空に勝つ為に、並々ならない努力をバーダックは費やして来たのだから、当然と言えば当然だ。

 だが、それ以上に楽しかった……。

 

 自分が持てる力の全てを解放して、積み上げた技術を遺憾なく発揮する……。

 勝つか負けるかのギリギリの攻防は、心底心が踊った……。

 そして、それ以上に自分にはまだまだ先がある……、強くなれるのだと言う事が知れた……。

 

 その事が、敗北よりも大きくバーダックの心を満たしていた……。

 

 

「ところでバーダック……。 あんた、傷は大丈夫なの……?」

 

 

 声をかけたのは、2人の会話を聞いていたギネだった。

 ギネは、2人の会話が途切れたのを見計らって、声をかけたのだ……。

 心配そうな表情を浮かべるギネに、いつものぶっきら棒な態度で返事を返すバーダック。

 

 

「それを言うなら、オレよりカカロットの心配をしてやれ……。

 実際のダメージはオレより、そいつの方がデカイはずだ……。

 力を覚醒させるまでに、相当無理をしてたはずだからな……」

「えぇっ!?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたギネは、驚いた表情で悟空に振り返る。

 

 

「ははっ……」

 

 

 コロコロ表情を変えるギネに、悟空は苦笑いを返す……。

 実際、バーダックとの闘いで大分無理をしたせいで、身体中ガタガタだった……。

 そんな悟空に、ギネは慌て近づき声を掛ける。

 

 

「カ、カカロット!! あんた大丈夫なのかい!?」

「え? あぁ、何と……」

 

 

 心配そうに自身に言葉をかけるギネに、悟空は少し戸惑いながらも返事を返している最中、それは起こった……。

 

 

ぐぅーーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 

 その場にいる全員の視線が、悟空に集中する……。

 

 

「ははっ……、思いっきり闘ったから、オラ腹減っちまったぞ……」

 

 

 少し照れた様に、頭をかく悟空。

 その場にいた、ギネやバーダック、他の者達もあまりの腹の虫のデカさに、思わず頭に冷や汗を浮かべる。

 しかし、それも束の間……。

 

 

「あっははは……、そうかい。 だったらさ、あんたメシ食っていきなよ!!

 すぐに、戻らないといけないって事はないんだろ……?」

「いいんかっ!?」

 

 

 ギネからの申し出に、顔全体をキラキラさせた悟空が喜びの声を上げる。

 そして、ギネは続いてバーダックへ視線を向ける。

 

 

「もちろん! バーダック、あんたも食べるだろ?」

「ああ……、そうだな……」

 

 

 ギネの問いに、バーダックも腹が減っていたのか、腹をさすりながら応える。

 バーダックの返事に満足した様な笑みを浮かべたギネは、最後の家族に視線を向ける。

 

 

「よし! 後は……、あんたはどうすんだい……? ラディッツ」

「なにっ!?」

 

 

 突如、話を振られたラディッツは驚いた表情を浮かべる。

 だが、ギネからしたら何故ラディッツが、そんな表情を浮かべているのか理解できず首を傾げる。

 

 

「あんた何、驚いた顔してんのさ?」

「いや、何故オレがカカロットなどと一緒に……」

 

 

 ギネからの問いに、何処か戸惑った声で返事を返すラディッツ。

 だが、その言葉を聞いたギネはムッとした表情を浮かべる。

 

 

「何言ってんだい! あんたはカカロットの兄ちゃんだろ!!」

「いや、だからってだな……」

 

 

 ギネの言葉になんとか反論を返すラディッツ。

 だが、母親から向けられる視線に耐えられなくなったラディッツは、思わずギネから視線を外す。

 そして、その先には因縁の弟の姿があった……。

 

 

「「…………」」

 

 

 視線を合わせた2人の間に、剣呑な雰囲気が立ち込める。

 2人の雰囲気にギネは驚いた様な表情で、2人の顔を交互に見る。

 

 

「えっ!? ど、どうしたんだい……? 2人共……」

「はぁ……、まったく……、お前は……。 

 ちっとはこいつらの事を考えてやれ……。

 カカロットはラディッツに息子を拉致られた上に、殺し合った中なんだろ……?」

「あ……」

 

 

 狼狽た声を上げるギネに、バーダックは溜め息をつき、以前聞いた彼らの関係性を口にする……。

 バーダックの言葉で、それを思い出したギネは、思わず苦い表情を浮かべる。

 

 

「オメェ……」

「……」

 

 

 目が合ったラディッツに悟空が声を掛けると、ラディッツは悟空から視線を外す。

 悟空も別にラディッツの事は嫌っていた事もあり、そこまでして話す間柄でもないので、そのまま互いにスルーしようとした。

 だが、それに待ったをかけた存在がここにいた……。

 

 

「ねぇ、カカロット……。 あんた、まだラディッツの事を恨んでいるのかい……?」

 

 

 2人の間に割り込んだのは、2人の母ギネだった……。

 ギネの言葉で悟空は、少しだけラディッツについて考える……。

 そして、考えが纏ったのか、口を開く……。

 

 

「正直、あんまりいい印象は持ってねぇ……。

 まだ、小さかった悟飯……、あっ、悟飯てのはオラの息子な……。を攫っていったヤツだからな……。

 その上、地球人を100人くれえ殺して来いなんて、無茶苦茶な事も言うしよ……」

「そっか……」

 

 

 悟空の話を静かに、聞いていたギネは、少し寂しそうに返事を返す。

 ギネも悟空の話を聞いたら、悟空がラディッツに対してそう言う印象を持ってもしょうがないと思ってしまった。

 だが、母親としては兄弟の仲が悪いのは、やはり嫌だったので、彼女はここで自分に出来る範囲で行動に出る事にした。

 

 ギネは、真剣な表情で悟空の眼を見つめて、口を開く。

 

 

「あのさ……、ラディッツの事許してやってほしいんだ……」

「え?」

「オフクロ!?」

 

 

 ギネから飛び出した言葉に、悟空だけでなくラディッツも驚きの声を上げる。

 そんな息子達を無視して、ギネは尚も言葉を重ねる。

 

 

「確かに、あんたの息子を攫った事についてはラディッツが全面的に悪い……。

 それでも、あの子の事を許してやって欲しいんだ……。 頼むよ……」

 

 

 そう言って、悟空に対して頭を下げるギネ。

 突然のギネの行動に、慌てた様子で声を上げる悟空とラディッツ。

 

 

「え!? ちょっ……頭を上げてくれよ!! 母ちゃん!!!」

「そ、そうだ!! 何故オフクロがカカロットに頭を下げる!?」

 

 

 ラディッツの言葉を聞いたギネは、不思議そうにキョトンとした表情で首を傾げる。

 

 

「え? だって、子供が悪い事したら、親が謝るのは当然だろ……?」

「オフクロは、オレの事を幾つだと思っているんだ!?

 オレはとっくに、自分の事は自分で責任が持てる歳だ!!」

 

 

 予想外のギネの返答に、ラディッツは顔を真っ赤にする。

 だが、それも束の間、表情を険しくし、悟空を睨み付ける。

 

 

「それに……、オレはあの時、自分がやった事が、間違っていたとは思わん……。

 あの時、実際カカロットの力がオレ達に、必要だったのは事実だ……。

 甘っちょろいコイツには、あれ位の事が必要だったのだ……」

 

 

 ラディッツの言葉で悟空の表情が、若干険しいモノになる……。

 そんな悟空を無視して、ラディッツは更に口を開く。

 

 

「だが……、地球で貴様達に殺されたおかげで、サイヤ人を滅したフリーザの命令をアレ以上聞かなくて良くなった事だけは、礼を言ってやる……」

 

 

 そう言って、悟空から視線を外すラディッツ。

 ラディッツの言葉が意外だった悟空は少し驚いた表情を浮かべ、ふと思った疑問を口にする。

 

 

「オメェ……、オラ達に殺された事を恨んでねぇのか……?」

 

 

 悟空の質問に視線を外していたラディッツは、「はぁ……」と溜め息を吐く。

 そして、ゆっくり振り返ると、再び悟空と目を合わせる。

 

 

「正直、当時オレよりも格下だった貴様達にやられた事は、思う所はある……。

 だが、サイヤ人が戦場で散るのはよくある事だ……。

 だから、戦場で死ぬ事など、とっくの昔に覚悟は出来ていた……」

 

 

 真っ直ぐ自分の眼を見て、言葉を述べるラディッツに、何処かベジータと似た様なモノを感じ取った悟空。

 

 

(こいつもやっぱり、サイヤ人なんだなぁ……)

 

 

 内心でそんな事を思った悟空。

 ラディッツの言葉には、十分過ぎる程の覚悟が篭っていた。

 だとしたら、自分はこれ以上言う事はないと思った悟空は、静かに口を開く。

 

 

「そっか……」

 

 

 2人の間に再び沈黙が流れる……。

 そんな時だった、おずおずとした様子でギネが2人に語りかける……。

 

 

「あのさ……、せっかくこうして家族が全員揃ったんだ……。

 もう、こんな機会なんて二度と無いかもしれない……。

 だからさ……、1度くらいみんなでご飯くらい……、ダメ……かな……?」

 

 

 不安そうな表情を浮かべ、悟空とラディッツを見つめるギネ。

 母親にそんな表情で見つめられた兄弟は、流石に罪悪感を懐かずにはいられなかった……。

 

 

「そうだな……、みんなで飯食うのは、美味えもんな……」

 

 

 「フッ……」と、穏やかな笑みをギネに向ける悟空。

 その言葉にギネの表情がパァっと、明るくなる……。

 そして、続いてギネはラディッツに視線を向ける……。

 

 ギネからの期待のこともった視線に、ついにラディッツも折れざるを負えなかった。

 

 

「はぁ……、今回だけだぞ……」

「うん!」

 

 

 息子達からお許しが出た事で、ギネのテンションは一気に最高潮に達した。

 そんな時、ギネの頭にポン!と男の手がのせられる……。

 ギネが、手の主の方に視線を向けると、自分を静かに見つめるバーダックの姿があった……。

 

 

「帰るか……」

「うん!!」

 

 

 静かに述べられたバーダックの言葉に、ギネは笑顔で頷く。

 そして、愛すべき息子達に声をかけた。

 

 

「2人共、家に帰るよ!!」

「おう!!」

「ああ……」

 

 

 母の呼びかけに、2人の息子はそれぞれ応える……。

 そうして、親子4人は家に帰るべく、仲間達とその場を後にするのであった……。

 

 

 

 

「へー、ここが地獄のサイヤ人達が住んでる所なんか……」

 

 

 ギネ達と一緒に、サイヤ人の集落を訪れた悟空は思わず声を上げる。

 戦闘民族とずっと聞かされていたサイヤ人が暮らす割には、結構居心地が良さそうだと感じたのだ。

 

 

「結構いいトコだろ……?

 ここはね、あたし達が地獄に来てから、みんなで力を合わせて作ったんだ!!」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、少し自慢気に返事を返す。

 そんなギネに感心した様な声を上げる悟空。

 

 

「へー、凄えんだな……!!

 なあ、村の外にいっぱい畑があったよな……?

 あれも、サイヤ人達が育ててんのか……?」

 

 

 移動中に、そらから沢山の畑を見た悟空はずっと気になっていた事をギネに質問する。

 

 

「そうだよ! この村のみんなで育ててるんだ!!」

「みんな……? え……?」

 

 

 ギネの言葉に、思わず驚いた様な表情を浮かべる悟空。

 そして、ギネの隣にいる男に思わず視線を向ける。

 

 

「おい! 何だその目は……?」

 

 

 視線の先にいたのは、悟空の兄ラディッツだった。

 ちなみに、トーマ達やナッパは集落に戻って来た段階で、すでに別れている。

 今この場にいるのは、バーダック、ギネ、ラディッツ、カカロットの親子4人だけだった。

 

 悟空は、視線が合ったラディッツに問いかける。

 

 

「オメエも畑仕事してんのか……?」

「くっ……」

 

 

 悟空の問いに、まるで屈辱だと言わんばかりに表情を歪めるラディッツ。

 ラディッツが一瞬、どう返事したモノかと考えていると、ラディッツが口を開く前に、横にいたギネが悟空の問いに笑顔で答える。

 

 

「そうだよ! ラディッツも当然、畑で作物を育ててるんだ」

「フン! 笑いたければ笑え……。 サイヤ人が農業等、無様だとな……」

 

 

 ギネの言葉を聞いたラディッツは、思わず肩を落とす。

 そして、悟空の向け自嘲の笑みを向け口を開く……。

 しかし、肝心の悟空は何故、ラディッツがそんな風に言うのか理解できなかった……。

 

 

「何で笑うんだよ……? オラも昔修行で、畑仕事してたしな……」

「へー、カカロットもやってたのかい……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、少し驚いた様な表情を浮かべる。

 言葉こそ述べなかったが、ラディッツも似た様な表情をしていた。

 そんな2人に笑顔で頷く悟空。

 

 

「ああ! オラの最初の師匠の修行で畑を素手で耕すっていうのがあったんだ……」

「何だ、その修行は……?」

「変わった修行だね……」

 

 

 突如飛び出した悟空の言葉に、2人は意味が分からん?といった様な表情を浮かべる。

 だが、悟空も初めてその修行をした子供の時に、何故こんな事をするのか?と疑問に思ったので、2人の気持ちはよくわかった。

 

 

「まあな……。 でも、案外バカに出来ない修行なんだぜ……。

 あれをやると、パンチを打つ時の身体の正しい使い方をマスター出来んだ……」

「正しい使い方……?」

 

 

 悟空の言葉に、ギネは意味がわからないと言った様な表情を浮かべ、首を傾げる。

 

 

「ああ……。 オラがガキだった頃、初めてその修行をした時にな、腕の力だけで土を耕してたんだ……。

 だけどよ、腕の力だけでやっても、あんまり掘れねぇし、すぐに疲れんだ……」

 

 

 悟空の話をギネはふむ!ふむ!と興味深そうに聞いていた。

 ギネの隣にいたラディッツや少し離れた場所にいたバーダックも、興味がない風を装っていながらもしっかりと耳を傾けていた……。

 

 

「この修行を長い事やっていくうちに、次第に大きな穴が掘れる様になんだ……。

 何でかというと、背中や肩……、その他身体の正しい使い方をマスターしねぇとデケェ穴は掘れねぇからだ……。

 毎日やってると、無意識の内に身体をどう使えばいいのかってのを、身体自身が覚えんだ……」

 

 

 一度言葉を切った悟空は、ギネの前でとても綺麗な正拳突きを繰り出す……。

 軽く繰り出された突きだったが、その突きは、武道家として悟空が何年も鍛錬を積み重ねた至高の一撃と呼んで良かった。

 ギネは思わず「わぁ!」と歓声を上げる。

 

 

「パンチを打つ時も一緒でよ、腕の力だけで打ったパンチと、全身を使ったパンチじゃ、当然全身を使ったパンチの方が威力が高ぇ……。

 だけど、その全身を使うってのが、なかなか難しくってよ……。

 そいつを自然と身につける事が出来るのが、この修行って訳だ……」

「へー、カカロットの師匠ってすごい人なんだね……」

 

 

 悟空のちょっとした武術講座を聞き終えたギネは、素直に感心した様な声を上げる。

 ギネの言葉を聞いた悟空は、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「ああ、亀仙人のじっちゃんは本当にスゲェ……。

 オラ強さではじっちゃんを超えちまったけど、まだまだ敵わねぇ部分がいっぱいあると思ってる……」

 

 

 穏やかな笑みを浮かべ、自身の師匠を語る悟空に優しげな笑みを向けるギネ。

 

 

「そうかい……。 あんたは地球で本当にいい出会いをして来たんだね……」

「ああ!! 地球にはスゲエ奴がいっぱいるんだ!!!」

 

 

 そんな風に、会話をしながら4人がサイヤ人の集落を歩いていると、1つの建物が悟空の眼に止まる。

 

 

「おっ? あのデケェ建物はなんだ……?」

「ん? ああ……、あれか、ベジータ王の屋敷だ……」

 

 

 悟空の問いに答えたのは、ラディッツだった……。

 ベジータ王と聞いて、悟空の脳裏に1人の男の姿が浮かび上がる。

 悟空は自身の思った考えを確かめる為に、再び口を開く。

 

 

「ベジータ王って……、もしかしてベジータの父ちゃんか……?」

「ああ……」

 

 

 悟空の考えを肯定する様に、頷くラディッツ。

 自身の考えが当たっていた悟空は、会話の流れで何気なくラディッツに問いかける。

 

 

「へー、やっぱベジータに似てんのか……?」

「容姿はよく似ている……。 だが、他はどうだろうな……」

 

 

 悟空の問いに、どうも歯切れの悪い返事を返すラディッツ……。

 それに疑問を覚えた悟空は、不思議そうに首を傾げる……。

 

 

「ん?」

「いや、オレはベジータの事はそこそこ知ってはいるが、王の事はよく知らんのだ……。

 だが、この村を無から作り上げた手腕を見ると、統治者としてはそこそこ有能なのでは無いか……」

 

 

 悟空の視線に気付いたラディッツは、どこかバツが悪そうな表情をうかべる。

 だが、自身が王に対して抱いていた、評価を素直に口にする……。

 

 

「ふーん……」

 

 

 ラディッツの返事を聞いた悟空は、正直統治についての事等よく分からないので、生返事を返す。

 そこで、ふと1番重要な質問をしていなかった事に気がついた悟空は、さっそく尋ねてみる事にした。

 

 

「ところでよ……、やっぱ、王様って事は強えのか……?」

 

 

 ワクワクした様な表情で問いかけられたラディッツは、ジト眼で悟空を見る。

 

 

「貴様が何を考えているか知らんが、ここでお前の相手を出来るヤツは親父だけだ……。

 それに、王はオレが知っているベジータよりも戦闘力は低い……。

 そういう意味では、ベジータはかなり若い時に、王を超えたって事なんだろうな……」

「へー、流石ベジータだな」

「ん?」

 

 

 ラディッツの言葉を聞いた悟空は、改めてベジータの凄さを実感する。

 そんな悟空を見て、ラディッツは不思議そうに首を傾げる。

 そんなラディッツに、今度は悟空が首を傾げる。

 

 

「どうした?」

「いや、貴様が妙にベジータを認めている様だったのでな……。

 フリーザと戦った時は、止むを得ず共闘したのだろうが、その後は敵同士だったのでは無いのか……?」

 

 

 ラディッツの問いに、悟空は腕を組み、少し考える様な仕草をする。

 そして、考えが纏ったのか自身の考えを口にする。

 

 

「うーん、フリーザとの戦いの後もオラ達は色々あったかんなぁ……。

 でも、敵同士って事はなかったさ……。

 まぁ、共通の敵がいたってのもデカかったんだろうけどよ……」

 

 

 そこで言葉を切った悟空は、ふと遠くを見つめる様な表情を浮かべる……。

 その時、悟空が何を思ったのかは本人にしか分からない……。

 

 

「それによ、ベジータは戦いの天才だ……。

 あいつとの闘いは、心底オラをワクワクさせてくれんだ……。

 それによ……、あいつだけだったかんなぁ……オラに付き合ってくれたのは……」

 

 

 悟空はこれまで多くのライバル達と競い合って来た。

 だが、悟空が強くなればなるほど、かつてのライバル達との溝は開いていった……。

 彼らも、そして悟空自身もいつしか、それを当たり前だと受け入れる様になった……。

 

 だが、そんな中でベジータだけは、いくら悟空との溝が開いても諦めずに、自分を鍛え悟空に追いつこうとしてくれた……。

 そして、いつも必ず追いついて来てくれた……。

 そんなベジータに悟空は心のどこかで、救われていた……。

 

 いくら自身が強くなろうと、必ず追いつき追い越そうと競ってくれる相手がいる……。

 だからこそ、悟空は更なる強さを遠慮なく追い求める事が出来た……。

 

 闘いは1人でする事は出来ない……。 

 共に競い、拳を交える相手がいて、初めて闘う事が出来るのだ……。

 例えこの先悟空が更に強さを増しても、そこには必ずベジータという強者が存在する……。

 

 これ程嬉しい事は、悟空には無かった……。

 

 まぁ、ベジータ本人は自身のプライドを取り戻す為にやっている事なので、悟空の救い等知った事では無いのだろうが……。

 

 

「何ていうか……、王子とカカロットは好敵手……ライバルって感じだね!!」

 

 

 ラディッツと共に悟空の話を聞いていたギネは、悟空とベジータの関係をそう評した。

 ギネの言葉を聞いた悟空は、キョトンとした表情を浮かべる。

 だが、それも束の間、何処か嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「ライバルかぁ……。 へへっ……、そうなんかもしんねぇな……。

 オラ、あいつには絶対負けたくねぇかんな……」

 

 

 こんな風に3人が話をしていると、突如3人に声がかけられる。

 

 

「おい! お前等いつまでくっちゃべってんだ?」

 

 

 3人が視線を向けると、バーダックがとある一軒家の前で立ち止まっていた。

 地球では見た事がない珍しい形式の家に、悟空は目を向ける。

 

 

「へー、これが母ちゃん達の家かぁ……」

「何言ってんだい……?」

 

 

 悟空の言葉に、ギネは不思議そうな表情を浮かべる。

 そんな、ギネの反応に、悟空は首を傾げる。

 

 

「え? 違うんか……?」

「確かにここは、あたしやバーダックの家だけど、ラディッツ、そしてカカロット……、あんた達の家でもあるんだよ……?」

 

 

 ギネの言葉に、悟空は少し驚いた表情を浮かべる。

 だが、すぐにいつもの人懐っこい、二カッ!とした笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「そっか……」

「うん! おかえり! カカロット……」

「おう! ただいま!!」

 

 

 笑顔のギネに出迎えられた悟空は、笑みを浮かべて家に足を踏み入れる……。

 30年以上の月日を経て、孫悟空事カカロットは、生まれた星ではないが、確かに家族が待つ、実家に帰還したのだった……。

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