ドラゴンボール -地獄からの観戦者- 孫悟空VSバーダック編 9

 バーダックとの激闘を終えた悟空は、母であるギネから食事の誘いを受け、彼女とバーダックが住む、自身の実家へ数十年ぶりに帰還した。

 ちなみに、ここへは、ギネとバーダック、そして兄であるラッディツと共にやって来た。

 

 

「ちょっと、待っててね! すぐに準備するから!!」

 

 

 そう言ったギネは、悟空達をリビングに通すと、すぐに台所へと消えていった。

 残されたバーダック、ラディッツ、カカロットの親子3人。

 

 

「とりあえず、お前等も座れ……」

 

 

 ソファへドカッと座ったバーダックが、いつまでも立ったままの息子達に声をかける。

 

 

「ああ……」

「うむ……」

 

 

 悟空とラディッツは床であぐらの姿勢で座る。

 静寂がその場を支配する……。

 これまで、会話を成立させていたギネが抜けた事で、3人から一切の会話が無くなってしまった……。

 

 場に気まずい雰囲気が流れようとし出した時、悟空がふと思いついた様に口を開く……。

 

 

「そう言えばよ……、サイヤ人て普段どんなもの食べてんだ……?」

 

 

 悟空の言葉に、バーダックとラディッツは顔を見合わせる。

 

 

「どんなって……、なぁ……」

「ああ……、逆にオレ達は普段貴様がどんなモノを食ってるか、知らんから何とも言えん……」

 

 

 ラディッツの言葉を聞いた悟空は、納得した様な表情を浮かべる。

 

 

「あ、そりゃそうか……。

 いやな、前にベジータが地球のメシは美味ぇみたいな事言っててよ……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたラディッツは、少し懐かしそうな表情を浮かべ口を開く。

 

 

「ベジータはガキの頃から常に戦場にいたからなぁ……。

 ヤツからしたら、食事は栄養補給が目的であって、美味さは求めておらんかったんだろうな……。

 それこそ食えるモンだったら、なんでも食ってやがったからなぁ……」

「へー、そうなんかぁ……」

 

 

 ラディッツの言葉に、ベジータの過去を知らない悟空は興味深そうな声を上げる。

 そんな会話を続けたいた悟空に、今度はバーダックから質問が飛ぶ。

 

 

「カカロット……、王子はフリーザとの戦いの後、地球に居ついちまったのか……?」

 

 

 バーダックからの問いに、悟空は腕を組み、少し眉を寄せた様な表情で過去を振り返る。

 

 

「うーん……、多分そういう事になんじゃねぇか……?

 オラもフリーザとの戦いの後、1年くれぇ地球を空けてたけど、戻った時にベジータがいたからなぁ……。

 それに、今はガキもいるしな……」

 

 

ーーーガタッ! 

 

 

 突然した大きな音に言葉を述べていた悟空と、それを聞いていたバーダックは音の出処に、咄嗟に目を向ける。

 そこには、立ち上がり驚愕の表情を浮かべ、わなわなと震えるラディッツの姿があった……。

 悟空とバーダックは、そんなラディッツに何事だ!?といった視線を向ける……。

 

 そして、ラディッツと悟空の視線が交差する。

 その瞬間、一瞬で悟空との距離を詰めたラディッツが、ガシッ!!と悟空の両方を力強く掴む。

 

 

「ガ、ガキ……!? ちょ、ちょっと待て、カカロット!!! あ、あの……、べ、ベジータに……、こ、こ、子供が生まれたのかっ!?」

「あ、ああ……、あいつに似て、目つきが悪い男の子だ!! 今……6つか7つくれぇの歳になんのかな……?」

 

 

 凄じい剣幕のラディッツに、驚いた表情を浮かべながらも悟空はラディッツの問いに答える。

 それを聞いていたバーダックはポツリと口を開く。

 

 

「という事は、そのガキが王家の末裔って事になんだな……」

 

 

 バーダックの言葉に首を傾げる悟空。

 

 

「まつえい? なんだそれ……?」

「……はぁ、末の血族……、つまり血筋的に一番若い奴の事だ……。

 家で言ったら、お前の息子のゴハンがそれに当たるな……」

「へー!!!」

 

 

 悟空からの質問に、呆れた表情を浮かべながらも律儀に答えるバーダック。

 そして、バーダックのおかげで1つ賢くなった悟空は、感心した様な声を上げる。

 そんな悟空に、「はぁ……」と溜め息を吐くバーダック。

 

 続いて、もう1人の息子に目を向けるバーダック。

 そして、再び呆れた様な表情を浮かべ「はぁ……」と溜息を吐いて、口を開く。

 

 

「おい、ラディッツ!! テメェもいつまで惚けてやがんだ!!!」

「え?」

 

 

 バーダックの言葉に少し驚いた様な表情を浮かべた悟空は、隣に視線を向ける。

 そこには、呆けた様な表情でブツブツ1人言を言っているラディッツの姿があった。

 

 

「ベジータに子供……、サイヤ人の王子……、ベイビー……」

 

 

 ラディッツの姿を見た悟空は、スクッと立ち上がる。

 悟空はラディッツに近づくと、腕を振り上げる。

 

 

「よっ!」

 

 

 振り上げた腕で、ポカッ!と軽くラディッツの頭を叩く悟空。

 

 

「はっ! ベジータに子供が生まれたとか、そんな幻聴が……」

「幻聴じゃねぇよ……。 いつまで、現実逃避してんだ……、テメェは……」

 

 

 現実世界に帰還したラディッツだったが、ベジータに子供が出来た事がそんなにショックだったのか、なかなかその事実を受け入れられないでいた。

 だが、いつまでも現実逃避をしている息子に、バーダックが呆れた様な声を上げる。

 

 

「うぐっ……」

 

 

 バーダックの突っ込みを受けたラディッツは、車に轢かれたカエルの様な声を上げる。

 そんなラディッツの様子に、悟空は過去の自分の事を思い出し声を上げる。

 

 

「まぁ、オラも気持ちは分からなくねぇなぁ……。

 実際、初めて聞いた時は、オラもかなり驚いたかんなぁ……」

 

 

 そんな風に悟空が過去を思い出していると、ラディッツから声が掛けられる。

 

 

「おい、カカロット……」

「何だよ?」

 

 

 声をかけられた悟空が、ラディッツの方に視線を向ける。

 すると、そこには何かを言いたいのだが、上手く言えないと言った様子のラディッツの姿があった。

 だが、当然悟空にそんな事を察する機微など持ち合わせていない。

 

 ラディッツの様子に首を傾げる悟空。

 

 

「どうしたんだよ……?」

 

 

 悟空が改めてラディッツに声をかけると、彼の中で何かしらの踏ん切りがついたのか、真剣な表情を浮かべ口を開く。

 

 

「ベジータのガキは、ちゃんとあいつの……、あの超天才の血を……才能を受け継いでいるのか……?」

 

 

 ラディッツの雰囲気に何かしらの想いを察した悟空は、腕を組み過去の出来事を思い出す。

 ベジータの息子、トランクス……。

 悟空は、過去に2人のトランクスと出会っている。

 

 1人目は、自身を助ける為に悲惨な未来からやって来た青年。

 2人目は、まだ生まれて間もない赤ん坊。

 

 未来のトランクスを知っている悟空からしてみれば、赤ん坊のトランクスもきっと同じ潜在能力を持っているんだろうと予測はついた。

 だが、平和になった現代に生きるトランクスが、悲惨な未来を経験して死に物狂いで強くなった未来のトランクス程強くなるのかまでは正直分からなかった。

 だから悟空は、自身が思う素直な気持ちを口にする事にした……。

 

 

「どうなんだろうな……? オラがそいつと会った時は、まだ赤ん坊だったかんなぁ……。

 だけどよ、あいつの潜在能力は相当高いと思うぜ……。

 なんせ、ベジータとブルマのガキだからなぁ……。

 後はまぁ、そいつがベジータ……(や、未来のあいつ自身)みたいにしっかり修行するかどうかじゃねぇか……?」

 

 

 その言葉を聞いたラディッツは、少し安心した様な表情を浮かべる。

 そして、ポツリと口を開く。

 

 

「そうか……、そのガキなら……ベジータもなれなかった、超サイヤ人にもなれるかもしれんなぁ……」

「え?」

 

 

 ラディッツから突如飛び出した言葉に、驚いた様子で声を上げる悟空。

 そんな悟空に訝しげな表情を浮かべ、口を開くラディッツ。

 

 

「なんだ……?」

「いや、なれっぞ……。 超サイヤ人に……」

 

 

 問いかけるラディッツに、逆に困惑した様な表情を浮かべながら口を開く悟空。

 しかし、悟空の言葉をすぐに理解できなかったのか、間抜けな表情で口を開くラディッツ。

 

 

「は?」

 

 

 そんなラディッツの様子を見て、悟空は再び口を開く。

 

 

「だから、ベジータもなれるんだって、超サイヤ人に……。

 まぁ、あいつが超サイヤ人になれる様になったのは、オメェが死んだ……」

「何だとぉーーーーーっ!!?」

 

 

 悟空の言葉を遮る形で、大声を上げるラディッツ。

 そのあまりの声量に、近くにいた悟空は思わず両手で耳を塞ぐ。

 

 

「オメェ、さっきから何なんだよ!!

 そんなに、ベジータが超サイヤ人になれる様になった事が意外だったんか……?」

 

 

 両手で耳を塞いだ悟空は、ラディッツに批難する様な眼を向ける……。

 そんな息子達に、バーダックがやれやれと言った感じで首を振り、口を開く。

 

 

「まぁ、こいつの驚きは、分からんでもねぇな……。

 お前は知らんかもしれんが、超サイヤ人てのは、オレ達サイヤ人にとっては、正しく伝説の存在なんだよ……。

 そいつになれるって聞けばなぁ……」

「だからって、ちょっと驚きすぎだろ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空は少しむくれた様な表情を浮かべる。

 自分達を棚に上げて会話をしている父と弟に、バッ!と振り返るラディッツ。

 

 

「ええい、黙れ!! その伝説を体現している、規格外の者共よ!!!」

 

 

 バーダックと悟空をビシッ!と指差さし、更に言葉を続けるラディッツ。

 

 

「大体何なのだ!! 超サイヤ人とは1000年に1人の伝説の存在ではないのか!?

 それなのに、ここ数年で3人も誕生しているではないか!!!」

「オラの息子の悟飯も超サイヤ人になれるから、4人だぞ!!(本当は、未来のトランクスも入れれば5人だけど……)」

 

 

 怒りの声を上げるラディッツにツッコミを入れる悟空。

 そんな悟空に、ギロッと鋭い視線を向けるラディッツ。 

 

 

「やかましいっ!!!」

「おおぅ!?」

 

 

 ラディッツの怒声に、思わず顔を引き驚きの声を上げる悟空。

 そんな2人の耳に、ポツリと呟かれた声が聞こえる。

 

 

「伝説の戦士、超サイヤ人なぁ……」

 

 

 声に反応した悟空とラディッツが揃って向けた視線の先には、顎に手を当て何かを考えているバーダックの姿があった。

 バーダックは悟空達の視線など無視して、更に口を開く。

 

 

「なれる様になってみれば、別に言う程の伝説でもねぇな……」

 

 

 そう言ったバーダックは、ラディッツに視線を向ける……。

 

 

「ラディッツ、お前が言ったその伝説の戦士ってヤツは、オレはその気になれば、サイヤ人であれば誰でもなれんじゃねぇかと思ってる……」

「なっ、何を……?」

 

 

 バーダックの言葉に、驚愕の表情を浮かべるラディッツ。

 だが、その反応も当然と言えば当然だろう。

 サイヤ人にとって、超サイヤ人の伝説とはそれほどまでに大きいのだ。

 

 かつての自分もラディッツと似た様な考えを持っていたので、バーダックもラディッツの気持ちはよく分かっていた。

 だが、今は違う……。

 そこで、自分と同じく超サイヤ人に目覚めたもう1人の息子に目を向ける。

 

 

「カカロット、お前はどう思う……?」

 

 

 バーダックからの問いに、悟空は腕を組み考える様な仕草を取る。

 悟空は、自身や周りの超サイヤ人に目覚めた者達の事を思い出し、考えを纏める。

 

 

「うーん……、そうだなぁ……。 父ちゃんの考えはあながち間違ってねぇんじゃねぇか……?

 サイヤ人が修行を積んで、ある程度のレベルに到達して、切っ掛けを掴めば、誰でもなれんじゃねぇかな……」

「切っ掛け……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたラディッツは、悟空の言葉を反芻する様に、その言葉を自身の口の中で転がす。

 そして、ラディッツの脳裏にフリーザ戦の光景がフラッシュバックする。

 その戦いで伝説の領域に足を踏み込んだ、弟の姿を……。

 

 あれは、一体何が切っ掛けだったか……。

 ラディッツは更にあの時の事を思い出すべく、自身の記憶を更に呼び起こす。

 そして、ついに思い出した……。

 

 1人の男がフリーザによって爆殺された光景を……。

 そして、悲しみを超える怒りの咆哮を上げる弟の姿を……。

 その時、ふと思い出した……。

 

 あの時、誰かに言われた言葉を……。

 

 

『あの子はあの時、自分の許容量を超える怒りと悲しみに心が耐えきれなくなったんだ……。

 きっと、カカロットにとって、とても大切な仲間だったんだろうね……。

 その純粋な怒りが、カカロットに超サイヤ人への扉を開いたんだよ……きっとね……』

 

 

 その言葉を思い出した時、ラディッツはハッ!とした表情を浮かべ、口を開く。

 

 

「怒りか!!」

 

 

 悟空とバーダックはラディッツの言葉に共に頷く。

 そして、バーダックは再び口を開く。

 

 

「サイヤ人達が、超サイヤ人を伝説なんてモノとして捉えてんのは、要は、サイヤ人の中にめったに超サイヤ人に覚醒出来るだけの戦闘力を有している者がいねぇからだ……。

 だが、それだったら、なれる様になるまで自分自身を鍛え上げればいい……。

 オレも、カカロットも、そして、王子もそうして来たんだからよ……。

 あとは、まぁ、切っ掛けを掴めるかどうかだな……」

 

 

 その言葉を聞いたラディッツは神妙な表情を浮かべ、口を開く。

 

 

「自分自身を鍛える……、純粋な怒りか……」

 

 

 自身の世界へ閉じこもったラディッツを他所に、今のバーダックの言葉に気になった事があったのか、今度は悟空が口を開く。

 

 

「なぁ、サイヤ人って自分を鍛えたりはしねぇのか……?」

 

 

 悟空からしたら自身を鍛える修行は、ライフスタイルの一部だし、ベジータも地球に来てからは常に修行に明け暮れていたので、サイヤ人はそういうモノだと思っていたのだ。

 だが、どうもバーダックの話を聞いていると、違った様に感じたのだ。

 悟空の問いを受けたバーダックは、少し考えた様な素振りをした後、口を開く。

 

 

「そうだな……、サイヤ人は戦闘民族だから、当然戦闘訓練は行う……。

 だが、自分自身を高める様な修行はしねぇな……。

 サイヤ人は生まれながらに、そこそこの戦闘力を持って生まれて来やがるからな……。

 だから、持って生まれた力にやたら自信をもってやがんだ……」

「へー……、そう言えば、初めてベジータに会った時もそんな感じだったなぁ……」

 

 

 バーダックの言葉を聞いた悟空は、初めて会った時のベジータの様子を思い出す。

 悟空の口から飛びだした名に、バーダックはベジータが幼少期の頃、惑星ベジータで聞いた噂を思い出した。

 

 

「王子は歴代の王族の中でも、特に才能が抜きん出てやがったらしいからな……。

 そいつを考えると、王子がそんな風になんのは、ある意味当然と言えば当然だろう……」

 

 

 3人がこんな風に会話を続けていると、ギネが料理を抱え笑顔でやって来た。

 

 

「お待たせーーーっ!!!」

 

 

 ギネは、テキパキと料理を机に並べていく。

 サイヤ人4人分の料理となると、流石に量が多く、机の上はすぐに料理でいっぱいになった。

 

 

「おぉ!! 美味そうだなぁーーーっ!!!」

 

 

 並べられた料理を見て、悟空は眼をキラキラと輝かせる。

 

 

「えへへっ……、今日は普段より腕によりをかけて作ったからね!! 3人ともたーんと召し上がれ!!!」

 

 

 悟空の言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべるギネ。

 ギネの許しが出た事で、悟空は即座に箸を掴み料理へと手を伸ばす。

 そんな悟空の様子を、どこか緊張した様子で見つめるギネ……。

 

 料理に眼を奪われた悟空は、そんなギネの様子に気づく事なく箸で掴んだ料理を口へ運ぶ。

 モグモクと咀嚼していた悟空が、ごっくんと飲み込む。

 次の瞬間、悟空はニカッ!と太陽の様な笑顔をギネに向ける。

 

 

「母ちゃん、料理うめぇんだな!!! 滅茶苦茶美味ぇぞ!!!」

 

 

 悟空の言葉に、ギネはホッ……と胸を撫で下ろすと、3人と同じ様に料理に向かって手を伸ばす。

 卓上は、3人のサイヤ人の戦士によって料理を奪い合う戦場と化していた。

 遅れたら、自分の食べる分がなくなると、判断したギネも、他の3人に負けない様に箸を動かす。

 

 女だろうとサイヤ人……、普通の人より食う量は多いのだ……。

 そうやって、初めての親子4人での食事の時間は穏やかに過ぎていった……。

 ギネは地獄に来て、今日程幸せだと思える日は無かった……。

 

 そして、こんな時間がいつまでも続けばいいと思った……。

 だが、どんなに願おうと、何事にも終わりはやって来る……。

 

 

 

「カカロット……、もう帰っちゃうのかい……?」

 

 

 家の前で、悟空に悲しそうな表情を向けるギネ。

 そんなギネに、何処かすまなそうな表情を向ける悟空。

 

 

「ああ……、流石にいつまでもここにいる事は出来ねぇかんなぁ……。

 それに、界王様も待ってるだろうし……」

「そうだよね……」

 

 

 ギネも悟空の言わんとしている事は、よく分かっているのだ……。

 本来天国の住人である悟空が、地獄にいる事自体あまり許される事ではないのだ……。

 だが、それでも……、ようやく親子として過ごす事が出来る様になったのだ……。

 

 それが、もう終わりだという事が、ギネの胸を強く締め付ける……。

 表情を暗くしたギネは自然と俯く……。

 そんなギネに悟空は、静かに言葉をかける……。

 

 

「また、会えっさ……」

「え?」

 

 

 ギネが顔を上げると、そこには穏やかな笑みを浮かべた悟空の姿があった……。

 

 

「そう簡単には来られねぇだろうけど、また必ず母ちゃんに会いに来るさ……」

「本当かい!?」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、何処かすがる様に悟空を見つめる。

 そんなギネに悟空は、笑みを浮かべ力強く頷く。

 

 

「ああ!!」

 

 

 その言葉で、ギネの表情に再び笑みが宿る。

 そんなギネを見て、悟空は感慨深そうな表情でポツリと呟く……。

 

 

「オラが本当の母ちゃん達に会えたって聞いたら……、じいちゃん驚くだろうな……」

 

 

 今日本当の両親や兄弟と過ごして、自分も人の子だったのだなぁ……と漠然と思った悟空。

 その時、ふと自分が子供の時の事を思い出した……。

 まだ、自分の世界がパオズ山の中だけで完結していたあの頃……。

 

 悟空の日常には、常に1人の人物が側にいた……。

 その人物こそ、地球に飛来したサイヤ人の遺児……カカロットを拾い、地球人孫悟空として育てた男……孫悟飯だった……。

 孫悟飯は高齢だった為、悟空を実の孫の様に可愛がり、時に厳しく育てた……。

 

 悟空もそんな祖父の事が大好きだった……。

 だが、とある悲劇で祖父は帰らぬ人となってしまった……。

 しかし、祖父は死して尚、自分を心配してあの世から様子を見る為に帰って来てくれたり、チチと結婚する時に八卦炉に訪れた際は、結婚を本気で祝福てくれた上に、問題可決に力を貸してくれた。

 

 今の孫悟空があるのは、間違いなく祖父孫悟飯のおかげである……。

 初めて実の家族と過ごして、もう1人の大切な家族を思い出した悟空だった……。

 

 

「じいちゃんって、あんたを拾って育ててくれた人かい……?」

 

 

 悟空の言葉が聞こえていたギネは、悟空へ問いかける。

 そんなギネに笑みを浮かべ、口を開く悟空。

 

 

「ああ、そうだ!!」

「ねぇ、カカロット……。 その人は、今どうしてるんだい……?

 あんたの話じゃ、既に死んでしまってるんだろ……?

 その人も天国にいるのかい……?」

 

 

 悟空の言葉を聞いて、ギネはずっと気になっていた息子を育てた人物の事を問いかける……。

 

 

「ん? じいちゃんか……? じいちゃんは今、杏仁様のトコでアルバイトしてんだ!!」

「杏仁様……?」

 

 

 聞いた事が無い名前に、首を傾げるギネ。

 そんなギネに再び口を開く悟空。

 

 

「そうだ! あの世と現世の境目にある五行山って所に、八卦炉ってのがあんだけど、そいつの管理をしてる人だ」

「へー、よく分かんないけど、偉い人だってのは分かったよ!!」

 

 

 悟空からの説明を聞いても、聞いた事が無い土地や名前が出て来て、よく分からなかったので、素直に口にするギネ。

 こういう所は、悟空とよく似ていた。

 いや、悟空が彼女に似たのだろう……。

 

 悟空は、ふと何故母が祖父の事を聞いたのか気になったので、聞いてみる事にした。

 

 

「でも、母ちゃんは何で、じいちゃんの事なんて聞いたんだ……?」

「えっ? だって、あんたを育ててくれた人なんだろ……?

 だったら、あたしには、あんたの母親としてその人に礼を言う必要があるのさ!!」

 

 

 悟空の問いに、さも当然だろ?といった表情を浮かべるギネ。

 そこで言葉を切ったギネは、少し言いづらそうに口を開く……。

 

 

「ねぇ、カカロット……、その人に会う事って出来るかな……?」

 

 

 ギネの言葉を聞いた悟空は、少し考えた素振りを見せた後、口を開く。

 

 

「うーん、だったらよ……、今度じっちゃんのトコ連れてってやるよ!!」

「えっ!? いいのかい!?」

 

 

 名案と言った感じで口を開いた悟空に、驚きの表情を向けるギネ。

 そんなギネに、笑顔を向ける悟空。

 

 

「ああ!! って、あれ……? でも、地獄の人間を地獄から出していいんか……?」

「あ……」

 

 

 ギネを五行山に連れて行くつもりだった悟空だったが、ギネが地獄の住人だった事を思い出す。

 そして、ギネも悟空同様、自身が地獄の住人であった事を忘れていた。

 2人の間に、どうしよう……といった雰囲気が流れるが、それも束の間、悟空が再び口を開く。

 

 

「ま、閻魔のおっちゃんにでも聞いてみっか……。

 もし、ダメだったらじっちゃんに地獄に来て貰えばいいんだろうし……」

「ははっ……。 そうだね!!」

 

 

 他力本願な悟空の言葉に、ギネは思わず笑い声を上げる。

 そして、その後も短いながらも何気ない会話を続ける母と息子……。

 だが、ついに別れの時がやって来た……。

 

 

「さて、そんじゃオラはそろそろ戻るとすっかな……」

「そっか……。 死人に言う事じゃないけど、元気でね……!! カカロット……」

 

 

 悟空の言葉に、未だ寂しそうな表情を浮かべるギネ。

 だが、再会の約束があるからか、先程までに比べると幾分かギネの表情は明るかった。

 

 

「ああ!! 母ちゃんもな!!!」

 

 

 ギネの言葉に力強く頷いた悟空は、後ろに控える2人に目を向ける。

 ラッディツは、悟空と視線が合うと、「フン!」と視線を逸らす。

 そんなラディッツに、「ははっ……」と苦笑いを浮かべる悟空……。

 

 そして……。

 

 

「また闘ろうぜ……、カカロット……!! 次はオレが勝つ!!!」

 

 

 悟空と目が合ったバーダックは、不敵な笑みを浮かべ、再戦を申し込む。

 そんなバーダックに悟空も、同じく不敵な笑みを浮かべ口を開く……。

 

 

「ああ!! もちろんだ!!!

 じゃあな、母ちゃん、ラディッツ……、そして、父ちゃん!!!」

 

 

 二カッ!と笑顔を浮かべながら別れの挨拶を告げると、悟空の姿は風を切り裂くような音と共に、地獄から消える……。

 フリーザの凶行によって引き裂かれた、サイヤ人の家族の再会はこうして終わりを告げた……。

 だが、彼らはこうして再会する事が出来た……。

 

 今度はそう遠くない未来に、彼らはまた再会を果たすのだろう……。

 今日みたいに互いに笑みを浮かべながら……。

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1件の返信

  1. 電気ラムネ  より:

    やっぱギネ達との交流日常楽しい

    これはまだギネ達編の話続きが読めるのか
    それとも章が終わってブウ編あたりに飛ぶんだろうか

    しかしこうして見てると存在認識した悟空ならドラゴンボールで生き返らせるんじゃないだろうかと
    ちょっと思った

    ブウ編やその後超編とかでギネやバータックが参入する
    地球人達と交流して暮らす話が見たくなる

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