ドラゴンボール -地獄からの観戦者- サイヤ人の悪魔編 1

 皆さんは、「パラレルワールド」と言う言葉をご存知だろうか?

 もしくは、「並行世界」または「ifの世界」や「可能性の世界」と呼ばれていたりする。

 上記に挙げた様に呼び方は様々ではあるが、その意味は殆ど同じである。

 

 つまり、「選択」や「場合」によってはあり得たかもしれない世界という事だ。

 今回の物語はこのパラレルワールドからスタートする。

 始まりの舞台となったのは、これまでの物語に登場した悟空やバーダック達……地獄からの観戦者達とは異なる世界の地獄。

 

 その男は、地獄の1番奥底……もっとも厳重な牢に幽閉されていた……。

 

 

「お疲れー、交代だオニ」

 

 

 牢の前で番をしていた赤鬼に向かって、交代にやって来た青鬼が声を掛ける。

 赤鬼は青鬼に顔を向ける。

 

 

「ようやく交代の時間オニか……」

 

 

 自分の腕の時計を確認しながらも、ようやく任務が終了した事に「ほっ……」とした表情で安堵の声を上げる赤鬼。

 なぜ彼がここまで安堵の表情を浮かべているのかというと、それは、現在彼らがいる場所に理由があった。

 ここは、地獄の最下層……。

 

 生前、そして死後に悪行の限りを尽くした凶悪な罪人が収容される最後の場所。

 この最下層の牢に閉じ込められたが最後、2度と外へ出てくる事は出来ない。

 その魂が擦り減るまで、未来永劫、魂と身体を特殊な鎖に繋がれ、死者には絶対に破壊できない牢で過ごしていかなければならない。

 

 つまり、ここ地獄の最下層は、凶悪な罪人達が収容されている事もあり、いかに特殊な鎖や牢で安全だと分かっていても、恐ろしい事この上ないのだ。

 特に、現在赤鬼と青鬼がいる場所は、つい昨日ここに収容された罪人の牢の前だった。

 それも相まって、見張りをしていた赤鬼は、見張り中いつその罪人が牢から飛び出して来るのではないか?と気が気ではなかった。

 

 

「罪人はどうしているオニ?」

「大人しいモンオニ……。 本当に昨日まで暴れていたヤツとは思えんオニ……」

 

 

 交代にやって来た青鬼が尋ねると、赤鬼は肩を竦めて扉のある部分を指差す。

 指の先には、牢に備え付けられたドアに設けられたスライド式の覗き窓だった。

 青鬼は、板をスライドして覗き窓から中を覗き込む、

 

 そこには、全身を鎖で封じられた長身の男の姿があった……。

 

 

「眠っているオニ……?」

 

 

 身動きしない男の様子に、青鬼は男が眠っているのか?と首を傾げる。

 だが、その時、項垂れていた男の首がゆっくりと起き上がる……。

 青鬼の両肩がビクッ!!と跳ね上がる。

 

 そして、とっさに青鬼は板をスライドさせ覗き窓を閉じる。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

「ど、どうしたオニ!?」

 

 

 突如息を荒げた青鬼に、赤鬼は驚いた表情を浮かべ口を開く。

 青ざめた表情の青鬼は、身体を震わせながら口を開く。

 

 

「う、動いた……」

「え?」

「だ、だからヤツが動いたオニ!!」

 

 

 青鬼から飛び出した言葉が理解出来なかった……、いや、したくなかった赤鬼は首をかしげて再度問いかける。

 気が動転している青鬼は、赤鬼の態度など気にする事なく、慌てたように口を開く。

 そんな青鬼に、ジト目を向ける赤鬼。

 

 

「いや、そりゃ動くオニ……」

 

 

 鬼達がそんな風に牢の前で騒いていると、突如牢の中から声が聞こえて来た……。

 

 

『うぅううううぅ……っ』

 

 

 地を震わす様な唸り声に、騒いでいた鬼達は肩をビクッ!!と奮わせると、揃って、そろーっと牢の方へ目を向ける。

 すると、再び牢の中から声が聞こえて来た……。

 

 

『ぐぅううう……っ』

 

 

 この地獄の最下層に投獄され、呻き声を上げている男こそが、今回の物語の中核と成る存在だった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 牢の中で、男は静かに目を覚ます……。

 その瞬間、僅かに痛みが走り思わず声を上げる……。

 

 

「うっ……」

 

 

 目を覚まし首を上げようとした時、何か音がした様な気もするが、男にとってそんな事はどうでもよかった……。

 男は自身の身体に目を向ける……。

 そこには、傷だらけの身体があった……。

 

 そして、自身の全身を覆い隠すように拘束する鎖が目に入る……。

 

 

(オレは……、捕まったのか……?)

 

 

 男は未だハッキリしない思考で、漠然とそんな事を考える……。

 そして、どうしてこんな事になったのか思い出すべく、自身の最後の記憶を探る。

 

 

(オレは確か……)

 

 

 未だ頭がハッキリしない状態で、男は少しずつ自身の過去を思い出す。

 

 

 

☆ 時は昨日へと遡る……。

 

 

 

 男は気が付いたら、自身の目の前に巨大な机に座った巨大な赤い男がいた。

 だが、男は何故自分がこんな所にいるのか分からなかった……。

 そして、今は何故だか思い出せないが『自身はこんな所にいる場合ではない……。 あの男との戦いはまだ終わっていない!!!』という強い想いが湧き上がったのを覚えている……。

 

 赤い男は男のその想いを阻む者だった……。

 それに気付いた瞬間、男は赤い男に向かって飛び出していた……。

 

 

「おぉおおおおーーーっ!!!」

 

 

 凄まじいスピードで、赤い男との距離を詰めた男は問答無用で拳を繰り出す。

 しかし、男が繰り出した拳が赤い男にヒットしようとした瞬間、男の見ていた景色が一瞬にして切り替わった。

 より正確に言えば、自身を除いた全てのモノが数瞬前とは異なっていた。

 

 赤い男や周りにいた鬼達も、全ての存在が男の周りから消えていた。

 男は何事だ!?と言った風にあたりを見回す。

 だが、辺りには人っ子1人いやしなかった。

 

 何故なら、男がいる場所は荒野だったからだ……。

 男は、自身を突き動かす『ある男を殺す』という想いに突き動かされ、即座に行動を起こす。

 男はふわりと浮き上がると、全身に真っ白いオーラを身に纏う。

 

 次の瞬間、凄まじいスピードで空を飛翔する。

 しばらく、飛翔していると小さな集落が見えて来た。

 男は、そこへ降り立つ。

 

 突如集落に来訪した男に、集落の住人が話しかける。

 

 

「おまえ、何処の集落の者だ……?」

 

 

 声をかけて来た集落の者に、男はギロリと視線を向け口を開く。

 

 

「ここは、何処だ……?」

 

 

 男は集落の者に問いかける。

 すると、集落の男は不思議そうに首を傾げ、口を開く。

 

 

「何処って、ここは地獄の北の地区の集落だ……」

「地獄……」

 

 

 男は集落の男が告げた内容を反芻するように、ポツリと呟く……。

 その言葉を理解した瞬間、男は眼の前のカスは何をフザケた事を言っているのかと思った……。

 思わず、眼の前のカスを殺してしまおうかと思った瞬間、男の視界にとあるモノが映り込む。

 

 男の視線の先、正確には集落の者の頭の上……、そこに輪っかが存在したのだ。

 それを視界に収めた瞬間、男の中で嫌な予感が湧き上がる……。

 だからこそ、男は確認する必要があった……。

 

 

「地獄というのは……、あの地獄か……?」

 

 

 ボソリと呟くように述べた男の言葉に、集落の者は不思議そうな表情を浮かべ口を開く。

 

 

「? お前が何を言いたいのか知らんが、地獄といえば死んだ罪人が行き着く場所だろ……?

 お前もそうなんだろ……? 頭にちゃんと輪っかがあるしな」

 

 

 集落の者が「ほれ」といった様子で、男の頭上を指差す……。

 男はゆっくりと自身の頭上に視線を向ける……。

 

 

「!?」

 

 

 それを確認した瞬間、男は眼を大きく見開く……。

 そこには、確かに集落の者が言った様に、集落の者と同じ輪っか……死者の証を示す、死者の輪が存在していた。

 その瞬間、男の中にこれまであやふやだった記憶が一気に蘇る……。

 

 因縁の男を殺す為に、宇宙を渡り、地球でその男の息子達と戦ったこと……。

 新惑星ベジータで、因縁の男と戦ったこと……。

 すべての始まりとなった、あの遠い幼い日のことを……。

 

 すべてを思い出した瞬間、突如男の全身から膨大な気の嵐が吹き出す……。

 

 

「■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

 

 

 咆哮の様な叫び声と共に、これまで黒髪黒眼だった男の姿が、金髪碧眼へと変化する。

 

 

「うぉおおおおおーーーーーっ!!!!!」

 

 

 まるで黄金の巨大な柱と見紛うばかりの、膨大で暴力的なオーラを周りに振り撒き、地獄そのものを男の強大な力が大きく揺らす。

 揺れが落ち着いた時、男の周りには廃墟が広がっていた。

 先程まで話していた集落の者も、その他、ここで生活を続けていた者達も、跡形もなく消し飛んでいた。

 

 そんな、廃墟の中に男は1人立っていた……。

 

 

「■■■ッ■ォォォ……」

 

 

 憎しみを表情に浮かべながら、男はその名を口にする……。

 そして、再び男は猛スピードで地獄の空を飛翔する……。

 

 

「ふはははははーーーっ!!!」

 

 

 狂った様な笑い声を上げながら、飛ぶ男……。

 それからの男の行動は、ただただ凄まじかった……。

 目に映る全てのモノを、ただただ破壊して行った……。

 

 あの世では閻魔大王の権能が働いている間は、2度目の死を迎える事はない。

 何故なら、ここで言う2度目の死とは存在の喪失を意味するからだ……。

 存在が喪失してしまうと、誰の記憶からもその者の事が無かった事になるのだ……。

 

 だが、生前と同じ様に肉体に必要以上のダメージを受けたりすると、擬似的に死んでしまう。

 その場合は、再び閻魔大王がいる閻魔界に飛ばされる。

 何故こういう仕組みを採用しているかというと、地獄では、殺人を禁じているので殺しがあった時にすぐに把握する為なのだ。

 

 だが、今回はそれが裏目に出た……。

 男が地獄で暴れ回り、多くの地獄の住人を殺して回っているので、今や閻魔界は死者で溢れかえっていた。

 そして、その対応に閻魔大王をはじめ多くの鬼達が当たっていた。

 

 

「ええい! ■■■■め、好き勝手地獄で暴れおって!!!」

 

 

 閻魔大王は、ダン!と机を叩き、ここにはいない今回の騒動を引き起こした男に向かって悪態を垂れる。

 しかし、いくら悪態をつこうと状況が改善されるわけではない。

 閻魔大王は、自らを落ち着かせるべく静かに目を閉じる。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 深い深呼吸をしたの後、再び目を開く閻魔大王。

 

 

「しょうがない……、おい!」

「はいオニ!」

 

 

 閻魔大王に声を掛けられた鬼がビクッ!と震えた後、直立不動の姿勢をとる。

 そんな鬼に向かって、閻魔大王はこの状況を解決するべく指令を出す。

 

 

「あの世の達人の派遣を要請しろ!!!」

「はいオニ!!!」

 

 

 閻魔大王から指令を受けた鬼は、指令を遂行するべくダッシュでその場を後にする。

 

 

「これで、一先ずはなんとかなるであろう……」

 

 

 あの世の達人には、強力な使い手達が多く存在する。

 彼らであれば、今回の事件の元凶も何とか対処できるであろう……と考える閻魔大王。

 

 

(まぁ、いざとなったらワシが出るしかないのだろうが……。

 ワシの身に何かあったら、あの世そのものが立ち行かなくなる……。

 それを考えれば、迂闊には出ていけん……。

 ワシにまで出番が回って来んといいのだが……)

 

 

 口には出さないが、自らも戦いに赴かねばならない事を内心で考えつつも、閻魔大王は今回の事件に直接ではないが大きく関わる男の事を思い浮かべる。

 そして、幸か不幸かその男もあの世に存在していた。

 閻魔大王は、今回の事件をどうにか出来るのは、その男しかいないと考えていた……。

 

 

「頼むぞ、■■■……」

 

 

 希望と願いを込めて呟かれたその声は、誰に拾われる事なく静かに消えていった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

  爆煙が空へと立ち昇る中、狂った笑い声が地獄の空を響き渡る。

 

 

「ふはははーーーっ!!!」

 

 

 笑い声を上げている男は、自らが滅した集落の様子を満足そうに見下ろしていた。

 その様はまるで、悪魔の様であった……。

 その時、ふと悪魔の視界にとあるものが映り込む。

 

 

「ん?」

 

 

 悪魔の視線の先には、集落の生き残りらしい者達が、必死に逃げている姿があった。

 その必死に逃げている様に悪魔は、ニヤァ……と笑みを浮かべる。

 

 

「虫ケラが……、まだ生きていたか……」

 

 

 悪魔は逃げている人達に向かって、右掌を向ける。

 すると、悪魔の右掌に緑色のエネルギーの塊が顕現する。

 悪魔は狂気の笑みを浮かべたまま、問答無用で右掌に顕現したエネルギーの塊をエネルギー弾として打ち出す。

 

 悪魔が放ったエネルギー弾は凄まじい速度で、逃げる人々に近づいて行く。

 もうすぐ、恐怖と絶望に染まった悲鳴が上がると思った悪魔は、更に笑みを深める。

 しかし、悪魔の思惑は外れることになる。

 

 

「む?」

 

 

 悪魔が放ったエネルギー弾が、後僅かで逃げる人達にヒットしようとした瞬間、突如現れた別のエネルギー弾によって悪魔のエネルギー弾が吹き飛ばされたのだ。

 目の前で起こった事態に、僅かに顔を顰める悪魔。

 だが、その時悪魔の後ろから、男の声が響き渡る。

 

 

「やめろ!! ■■■■!!!」

 

 

 その声を聞いた、悪魔は弾かれた様に後ろを振り返る。

 

 

「■■■■■ッ!?」

 

 

 そこには、悪魔が殺したくて殺したくてしょうがなかった、因縁の男の姿があった。

 

 

「オメェ、地獄に落ちても、まだこんなことを続けてんのか?」

 

 

 怒りで顔を険しくした因縁の男は悪魔を睨みつけながら、口を開く。

 だが、悪魔にとってもはや男の言葉は耳に届いていなかった。

 何故なら、自分が殺すと決めた宿敵とようやく相見える事が出来たからだ……。

 

 狂気に染まった悪魔の中で、憎悪と歓喜が爆発する……。

 その瞬間、地獄を悪魔の気が蹂躙する……。

 

 

「うぅう……、■■■■■……、■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

 

 

 地獄全土を覆い尽くすほどの強大な力をその身から爆発せる悪魔。

 その瞬間、悪魔の身体がこれまでとは比較にならないデカさに膨れ上がる。

 全身が3mを優に超え、筋肉の鎧を身に纏い、眼は碧眼が消え失せ白眼と化した異質な姿。

 

 そして、暴力的までに破壊のオーラを身に纏ったその姿は、暴力と破壊の化身だった。

 その姿を、悪魔の父親は、かつてこう評した……「伝説の超サイヤ人」と……。

 伝説の超サイヤ人となった悪魔は黄金のオーラを吹き出し、身に纏うと同時に、男に向かって猛スピードで飛び出す。

 

 男から発せられる凄まじい気の圧に、思わず顔を顰める男。

 

 

「くっ!!」

 

 

 突っ込んでくる悪魔同様、男も即座に黄金のオーラを身に纏い、それまで黒上黒眼だった姿を金髪碧眼へ変える。

 悪魔と男の因縁の戦いが、地獄を舞台にして再び繰り広げられる。

 彼ら2人は互いに、同じ種族であった事もあり、戦闘を生業とする一族。

 

 その戦いは、かつてない程激しいモノとなった。

 伝説の壁を2つ超えた姿だで戦う男と、同じく伝説だが突然変異と言っても過言ではない異質な姿で戦う悪魔。

 互いが持てる力の全てを使って、この戦いに望んだ……。

 

 そして、ついに戦いに決着が着こうとしていた……。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 

 長時間の戦いで、ついに男の姿が金髪碧眼から黒上黒眼へと戻る。

 両肩を大きく揺らしながらも、まだ勝負を諦めていないと言った様に、真っ直ぐ悪魔を睨みつける男。

 そんな、男に向かって、悪魔は狂気を含んだ笑みで口を開く。

 

 

「よく頑張ったが、とうとう終わりの時が来た様だなぁ……」

 

 

 そう言って、悪魔は左掌を男に向ける。

 すると、左掌に高密度の緑色のエネルギーの塊が顕現する。

 そこに込められたエネルギー量は、星一つを優に破壊する程、強大なモノだった。

 

 

「くっ!」

 

 

 眼の前で今なお威力を増す、エネルギーの塊に思わず顔を顰める男。

 そんな男に向かって、ついに悪魔は戦いに終止符を打つべく、最後の一手を繰り出す。

 

 

「終わりだぁ!!!」

 

 

 悪魔が狂気の笑みを浮かべ、掌からエネルギーの塊を解き放とうとした瞬間、それは起こった。

 

 

ーーーバシュ!バシュ!バシュ!バシュ!

 

 

 なんと、大地から4本の鎖が突如飛び出してきたのだ。

 そして、瞬時に悪魔の四肢に絡みつき動きを止める。

 

 

「なにぃ!?」

「あれは!?」

 

 

 とっさの事態に、驚きの声を上げる悪魔と男。

 悪魔は、鎖から逃れようと必死で両手足を動かす。

 

 

「ぐぅ!!がぁ!!こ、こんなもの!!!」

 

 

 しかし、いくら悪魔が暴れようと、鎖が千切れるどころかヒビ1つ入る事はなかった。

 そんな悪魔を未だ事態が把握し切れていない男は、唖然とした様子で見つめていた。

 そんな時、男の心に閻魔大王からのテレパシーが届く。

 

 

(■■!! 聞こえるか!?)

「その声は、閻魔のおっちゃんか!?)

 

 

 男は突如自身の脳裏に響いた声に、弾かれた様に反応する。

 そんな男を無視して、閻魔大王は用件を述べる。

 

 

(今、■■■■を封じている鎖は、魂の鎖と言ってな、肉体だけではなく魂をも縛る鎖なんじゃ!

 時間が掛かってすまんかった! 久しぶり過ぎて封印を解くのに時間がかかってしまってなぁ。

 とにかく、今のあいつは、まともに動く事が出来ん!

 決着をつけるなら、今じゃ!! 頼むぞ、■■!!!)

 

 

 若干早口で伝えられた内容に、残念ながら男は全てを理解する事は出来なかった。

 ただ、このチャンスを逃せば、悪魔を倒すチャンスは2度と無い事だけは理解する事が出来た。

 

 

「とにかく、あいつを倒すチャンスは今しかねぇって事だな!! よし!!!」

 

 

 男はキッ!と表情を引き締めると、全身に気を行き渡らせ一気に解放する。

 

 

「はぁっ!!!!!」

 

 

 掛け声と共に、男の全身からとてつも無い量の気が放出される。

 それと同時に、男の姿が再び金髪碧眼へと変わる。

 だが、それだけでは終わらない。

 

 

「はぁあああああっーーーーーっ!!!!!」

 

 

 このままでは悪魔を倒し切る事は出来ないと判断した男は、ボロボロの身体にムチを打ち再び限界まで力を引き出す。

 しかし、悪魔の方もただ黙ってやられるのを待つわけではない。

 男が悪魔を倒す準備にとりかかっている時間、悪魔の方もこの状況を脱する為に必死だった。

 

 

「ぐぅううう……、うぉおおおおおーーーーーっ!!!!!」

 

 

 自分を縛り付ける忌々しい鎖から脱する為に、更に力を上げる悪魔。

 それはそうだろう……。

 何故なら、ようやく悪魔にとって長年の悲願が達成されようとしているのだ。

 

 

 

ーーーピキッ!

 

 

 

 その音は、とても良く響き渡った。

 そして、その音によって、この場にいた2人の表情は一変する。

 男は驚いた表情を浮かべ、悪魔はニヤッ……と邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

(急げ、■■!! 信じられんが、ヤツは魂の鎖から逃れようとしておるっ!!!)

 

 

 男より先に事態を察した閻魔大王は、急かす様に男に声をかける。

 

 

「くっ!」

 

 

 閻魔大王の声を聞いた男は、表情を引き締め悪魔を倒すべく更に気を貯める。

 対する悪魔は、自分を縛る鎖を完全に破壊するべく、更に身体を大きく動かす。

 悪魔が動くたびに、鎖のヒビはどんどん広がっていく……。

 

 悪魔の四肢を縛る鎖は、最早限界に近かかった……。

 

 

 

ーーービキッ、ビキッ! バキン!!!

 

 

 

 ついに、悪魔の右手を封じていた鎖が立ち切れた。

 最早、悪魔が鎖から完全に開放されるのも、時間の問題だった。

 だが、ここで1人の英雄が立ち塞がる。

 

 幾度も、宇宙や自身が育った星を救ってきた、強く心優しき英雄が。

 

 

「はぁああああああっ!!!」

 

 

 男の掛け声と共に、男の全身を凄まじい量の黄金のオーラが包み込む。

 男は自身が持てる全ての力を解放し、それを左手に集約させる。

 男の左手が眩い光に包まれる。

 

 そして、男は悪魔に向かって凄まじい速さで飛び出す。

 自身に近づく男の姿を捉えた悪魔は、対処する為に、即座に鎖の破壊をやめ、男を迎え撃つべく、解放された右手で拳を作る。

 一瞬で距離を詰める両者……。

 

 2人の視線が……、交差する……。

 

 

「■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

「■■■■ーーーーッ!!!!!」

 

 

 互いの名を呼ぶ、悪魔と男。

 その光景は、いつかの焼き直しの様だった……。

 巨大彗星が近づき、星の寿命が残り僅かとなった時、彼らはかつて死闘を演じた……。

 

 あの時は、仲間や息子の力を借りた男の勝利で終わった……。

 そして、その時も彼らは最後に互いの力を拳に込めてぶつかった……。

 死して、2度目となった男と悪魔の因縁の戦い……。

 

 ついに、戦いの幕が降りようとしていた……。

 

 

「でぇあああっ!!!」

 

 

 悪魔が繰り出した鋭い一撃が、男に迫る。

 男はその一撃をしっかり見つめながら、尚も悪魔との距離を詰める。

 その表情には怯えや恐怖といった負の感情は、一欠片も見当たらなかった……。

 

 悪魔の拳が男の顔にヒットしようとした瞬間、男は僅かに顔を逸らす。

 あまりに鋭い悪魔の拳は、男の頬をスパッ!と切り裂き、男の頬から血が流れる。

 だが、そんな事を気にする余裕は男にはなかった。

 

 悪魔の拳を掻い潜った男は、ついに自身の間合いに到達する……。

 そして、自身の左腕を悪魔に向かって、思いっきり振り抜く……。

 

 

「許せねぇーーーーーっ!!!!!」

 

 

 最高にまで気を高めた男の左拳が、深々と悪魔のボディに突き刺さる……。

 そして、男の拳は悪魔の筋肉の鎧を深々と抉り抜く……。

 魂の鎖によって動きを封じられた悪魔は、為す術もなくその一撃をその身に受ける。

 

 男の拳に込められたエネルギーが、まるで波紋の様に悪魔の全身に行き渡る。

 そして、次の瞬間、身体全体を廻ったエネルギーが大爆発を起こし、悪魔の全身を粉砕する。

 

 

「ゔぅあかぁなぁあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 断末魔の如き叫びを上げる悪魔。

 因縁の男の強烈な一撃により、ついに悪魔は倒される。

 地に倒れ臥した悪魔は、朦朧とした意識の中で、自分を倒した男に視線を向ける……。

 

 そこには、静かに……自身を見下ろしている因縁の男の姿があった……。

 

 

(な……、何故だ……? 何故……このオレが……あんな……カスに……、■■■■■なんかに……、また……しても……)

 

 

 言葉に出来ない想いを心に抱きながら、悪魔はゆっくりと目蓋を閉じる……。

 こうして、男と悪魔の因縁の闘いは終止符が打たれたのであった……。

 

 

 

☆ 時は再び現在へ……。

 

 

 

「ぐぅううう……」

 

 

 全ての出来事を思い出した男……、いや、悪魔は歯を食い縛り呻き声を上げる。

 悪魔の脳裏に、自身を撃ち倒した憎き男の姿が浮かび上がる。

 脳裏に浮かんだその姿に、思わず拳を握る悪魔。

 

 余りに力強く拳を握ったからか、悪魔を縛る鎖がギシッ!と音を立てる。 

 

 

(何故だ……? 何故ヤツを殺せない……!?)

 

 

 伝説の超サイヤ人の状態ではなく、魂をも縛る鎖によって封じられたせいか、普段よりか幾分か悪魔の思考は冷静に物事を捉えていた……。

 いつもそうだった……。

 力では間違いなく、自身が勝っているのに、最期には必ず自身が敗北している……。

 

 悪魔は自身が他の存在よりも突出した存在なのを、生まれた時から理解していた……。

 だからこそ、赤子の時とはいえ、自身を初めて負かした存在である、あの男の事が許せなかった……。

 そして、それはこれからも変わる事は無いだろう……。

 

 悪魔は何度も男を打ちのめした、だが男は何度も何度も立ち上がり自身に立ち向かって来た。

 その姿に、最初は悪魔も無駄な事をと鼻で笑っていた……。

 しかし、いくら倒れようと男の目からは戦う意志が消えたり、絶望の色が宿る事は無かった……。

 

 そんな男の姿に、悪魔はいつしか言いようのない苛立ちを感じていた。

 そして、気がつくと自身はいつも男に敗北していた……。

 実際に戦ったのは、今回を含めると2度だが、男の意志を継いだ子供達にも悪魔は敗れてしまった……。

 

 悪魔は訳がわからなかった……。

 自身が負ける要素は何一つ無いというのに……、何故負けてしまうのか……。

 悪魔はふと、自身の全身に目を向ける。

 

 今の悪魔は、戦いで使用された魂の鎖が四肢だけじゃなく、全身を拘束していた。

 しかも、強度も戦いで自身の四肢を封じたモノよりも頑丈になっていた。

 この鎖はそう簡単に破壊できない事を、今の冷静な悪魔は漠然と感じ取っていた。

 

 

(無様だ……)

 

 

 悪魔は、自身の今の姿にそう思わずにはいられなかった……。

 

 

(オレは、このまま終わってしまうのか……?)

 

 

 悪魔はふと、そんな事を考えてしまった……。

 今まで何者よりも強者であった悪魔は、自身の終わり等考えた事もなかった……。

 そんな悪魔が、初めて自身の終わりを考えてしまった……。

 

 

「これで……、終わり……?」

 

 

 ポツリと感情の抜けた声で悪魔が呟いた瞬間、悪魔の全身をこれまで感じたことがない悪寒が襲う。

 それは、恐怖だった……。

 終わりという事は、全てが無に帰すということだ。

 

 悪魔の思考がそこまでの答えを導き出したかまでは分からない。

 だが、悪魔の本能……、いや生物としての本能が自分という存在が消えて無くなる事に恐怖したのだ。

 その恐怖を抱いた瞬間、悪魔の中で様々な感情や記憶が駆け巡る……。

 

 そして、その様々な感情や記憶は一つの形となって、悪魔の中に集約する。

 それは、後悔だった……。

 その初めて湧き上がった感情は、悪魔の心をじわじわと締め付ける……。

 

 そして、問いかけるのだ……。

 

 

(お前はこのまま終わって良いのか……?)

 

 

 自身の心の中に響くその問いに、悪魔は身体を震わせる……。

 

 

「まだだ……、まだオレは終わってなどいない……」

 

 

 そう呟いた悪魔の脳裏に、因縁の男の姿が再び浮かび上がる。

 

 

「ギリッ……」

 

 

 思い出した男の姿に、苦々しい表情で歯を噛み締める。

 どこか虚だった悪魔の瞳に、再び光りが宿る……。

 それは、決して褒められた動機や感情では無いのだろう……。

 

 しかし、あまりに強い力を持って生まれたが為に、悪魔は幼少の頃より実の父親に力を封じられ、復讐の道具として生きてきた。

 悪魔には幼い頃より自由など、ましてや自身を理解してくれる者など存在しなかった……。

 そんな悪魔がただ唯一執着した存在、それこそが、因縁の男だった……。

 

 自由を奪われ、暗い感情によって育てられた悪魔に、唯一許された自由がそれだった……。

 それだけが、悪魔が己を奮い立たせる感情や想いとなった……。

 たった、それだけが悪魔の行動原理だったのだ……。

 

 まだ、何をすればよいのか定まってはいない……。

 だが、このまま終わるわけにはいかない……。

 ただ、そんな想いだけが悪魔を突き動かした……。

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

 悪魔は全身に力を巡らせる……。

 悪魔の黒い瞳が、碧眼へと変化し、垂れ下がっていた黒髪が、ブワッ!と逆立つと瞬時に黄金色へと輝く。

 そして、自身の後悔を消し去るべく、因縁の存在の名を口にする……。

 

 

「■■■■■……、■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

 

 

 まるで、新たに自身の決意を世界に示す様に、悪魔は声を上げる……。

 黄金の超戦士へと姿を変えた悪魔は、更に力を解放する……。

 とてつもない気の嵐が、牢獄の中を荒れ狂う。

 

 

「うぉおおおおおーーーっ!!!!!」

 

 

 力の解放に伴い、悪魔の身体が膨れ上がり、筋肉の鎧を身に纏い、眼は碧眼が消え失せ白眼へと変化する。

 伝説の超サイヤ人へと化した悪魔の力の解放は止まらない……。

 しかし、自身を縛る鎖はビクともしない……。

 

 だが、そんな事では、今の悪魔は止まらない……。

 自身を縛り付ける障害を断ち切る為に、更に力を解放する悪魔。

 

 

「ぐぅおおおおおーーーっ!!!!!」

 

 

 彼らサイヤ人は感情の高まりによって、力を大きく上昇させる……。

 そんなサイヤ人の中でも、悪魔は規格外の潜在能力の持ち主だったと言えよう……。

 そんな悪魔が初めて、自身の意志で何かを変えるべく力を使おうとしていた……。

 

 その常軌を逸脱した超パワーは、地獄だけでなく、あの世全体……だけに止まらず、現世にも届いていた。

 そして、そのあり得ないパワーは、あり得ない現象を引き起こす……。

 

 

 

ーーーバチッ、バチバチッ!!!

 

 

 

 力を解放し続ける悪魔の近くで、何も無い空間にスパークが走ったのだ……。

 しかし、悪魔はそんな異常事態に気付く事は無かった……。

 

 

「がぁああああああああああーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 悪魔は咆哮と共に、更に力を解放する……。

 

 

 

ーーーピキッ!

 

 

 

 悪魔の力に耐えきれなくなったのか、ついに悪魔を拘束していた鎖にヒビが入る。

 1度入ったヒビは、どんどんその割れ目を広げていく。

 そして、ついにその時が訪れる……。

 

 

「だぁっ!!!!!」

 

 

 悪魔の掛け声と共に、ついに全身を拘束する鎖が勢いよく弾け飛ぶ……。

 

 

「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」

 

 

 流石に破格の力を持つ悪魔と言えど、自身の魂までをも縛る鎖を断ち切るのは容易ではなかった。

 それは、そうであろう……。

 本来死人であり、悪人である悪魔はこの鎖を断ち切るのは絶対に不可能であるはずなのだ……。

 

 だが、そんな不可能すら悪魔は可能にしてしまった……。

 それは、悪魔の想いが今この時だけは純粋であったからだ……。

 純粋なる殺意……。

 

 恨みや憎しみなど、そういうドス黒い感情を一切排除したただ純粋なる想い、それが悪魔に奇跡を齎した……。

 力を使いすぎた悪魔は、伝説の超サイヤ人の姿を保つ事が出来ず、通常の超サイヤ人へとその姿を変える……。

 その時になって、悪魔は初めて自身の周りで起きた異変に気づく……。

 

 

「ん?」

 

 

 自身の背後から妙な感覚を感じ取った悪魔がゆっくりと振り返る。

 すると、そこには人1人程通れそうな、空間の歪のような穴が出来ていた。

 先程まで存在しなかった空間の歪みに、怪訝そうな表情を浮かべる悪魔。

 

 悪魔はやっくりとその歪みに近づく……。

 そして、歪みの前に立った悪魔は表情を一変させる……。

 

 

「感じる……」

 

 

 空間の歪みの前に立った悪魔は、その中からとても良く知った気配を感じ取る……。

 悪魔がじっとその穴を見ていると、徐々に穴が収縮していく。

 元々悪魔が放出した膨大な超パワーによって発生した偶然の産物……。

 

 どうやら、あまり長い時間穴を維持する事は出来ないようだ……。

 その状況を見た悪魔は、迷わず穴なの中に身を投じる……。

 

 悪魔はこの地獄で、初めて恐怖と後悔を知った……。

 そして、自身の存在が消え失せるその時になって、初めて悪魔は思った事がある……。

 

 

(自分は何がしたかったのだろう……?)

 

 

 そう思った時に、悪魔の脳裏に思い浮かんだのは、やはり因縁の男の姿だった。

 男を倒すまでは、終われない……。

 何も成さずに消えるのは嫌だ……。

 

 悪魔は漠然とそんな事を思った……。

 これまで何も無かった悪魔だからこそ、自身の存在が消えるその時になって、初めて自身の望みを知る事が出来た。

 これまでは、サイヤ人の本能に呑まれ、自身のプライドを傷つけた男を殺す為に本能のまま暴れ続けた。

 

 だが、今は少しだけど悪魔は自身の事を知る事が出来た……。

 知る前と知った後、結局悪魔がやるべき事は変わらない……。

 だが、知っているのと知らないのとでは、その過程は大きく異なるものだ……。

 

 これは、その為の第一歩……。

 

 

「待っていろ、■■■■■……。 今度こそ、貴様を 血祭りにあげてやる!!!」

 

 

 空間の歪みに飛び込んだ悪魔は、ニヤリと笑みを浮かべ高らかに宣言する……。

 宿敵である因縁の男に、今度こそ引導を渡してやると……。

 

 これは、悲しい悪魔の変革の物語……。

 かつて伝説の超サイヤ人と言われ、本能のまま暴れまわった悪魔は新たな世界で再び因縁の男と相見える……。

 そこで悪魔は、新たな自分と出会う事になる……。

 

 だが、この時の悪魔……、伝説の超サイヤ人ブロリーは、そんな事等知る由もなかった……。

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