ドラゴンボール -地獄からの観戦者- サイヤ人の悪魔編 6

「ぐっ……」
自身の身体に走る痛みによって男が目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。
「ここは……?」
男は部屋の中を確かめる様に首を左右に動かす。
だが、分かった事といえば、ここがどこかの家の一室で自身は今ベットに寝かされているという事だけだった。
拘束等はされていない様で、身体は自由に動かせる。
ただし、残念ながら全身が大怪我をしているせいで、思う様に身体を動かせそうに無い。
正直、今敵に襲われたら、かなり無理をしないと生き残る事は出来ないだろう……。
それくらい弱っていると、男は自身の状態を判断する。
現状の理解を終えた男は、未だ言う事の聞かない身体を無理やり動かし、起き上がろうとしたその瞬間。
ーーガチャ!!
音がした方に男が視線を向けると、桶をかかえた1人の女性が入っていきた。
女性と男の視線が交わる。
そして、次の瞬間女性の表情に笑みが浮かぶ。
「やっと、起きたんだね!! 調子はどうだい?」
突如現れた女性に声をかけられた男は、これまでの人生でこんなに自分へ気軽に声をかける存在に会った事がなかったので、思わず面喰らう。
そんな男の様子に女性は首を傾げる。
「どうかしたかい?」
「いや……」
心配そうな表情を浮かべ問いかける女性に、男は思わず声を発してしまった。
表情には出さなかったが、男の内心では自身が素直に返事した事に彼自身が一番驚いていたのだった。
そんな男の内心など知らない女性は、未だベットの上で横たわっている男のそばに近寄る。
「あんた、大怪我だった上に1週間以上眠っていたんだよ……。
無事に目覚めてくれて本当によかったよ……。
でないと、あたしの看病も無駄になるからね!!」
女性の言葉を受け、男は自身の身体に目を向ける。
そこには包帯で巻かれた自身の腕や腹部が映り、女性の言葉が事実である事を告げていた。
男は再び女性に視線を向ける。
「看病……、お前がオレの面倒を見てくれたのか……?」
「うん! そうだよ!!」
男の問いに、女性はニコッ!!と笑みを浮かべ応える。
その笑みに居心地の悪さを覚えた男は、女性から視線をそらし、再び問いかける。
「何故だ……?」
「ん?」
ボソリと問いかける男に、女性は意味がわからないと言った様子で首を傾げる。
そんな女性の様子に、若干の苛立ちを覚えた男は、苛立ちの籠もった声でギロリと睨みながら再び問いかける。
「何故、オレを助けた……? オレを助けてお前に何の得がある……?」
男の問いを受け、女性はキョトンとした表情を浮かべる。
そして、女性は男が考えもしなかった回答を口にする。
「うーん、得も何も、人を助けるのに一々理由がいるの?」
「なっ!?」
女性の言葉に、睨み付けていた男の表情に驚愕が宿る。
まさか、そんな答えが返ってくるとは、予想にもしていなかったからだ。
しかも、何故だか分からないが、女性が言った事が嘘でない事を直感で理解してしまったのだ。
だからこそ、男は色々な意味で驚きを隠しきれなかった。
そして、気がつけば再び女性に問いかけていた。
「お前サイヤ人だろう……?」
「うん、そうだね。 あんたもそうだろう?」
あっけらかんと自分の問いに答える女性。
そんな女性の様子に、頭を抱えたくなった男。
(サイヤ人でありながら、他者を助ける……? 何なんだ、この女は!?)
そんな事を内心で思いながらも、ふと1つの考えが浮かんだので、男にしては珍しく再び問いかける。
「同族だから、助けたのか……?」
「まぁ、それもあるけど、別に同族じゃなくても助けるよ?」
男の問いに、何言ってんだこいつ?みたいな様子で、返事を返す女性。
しかも、またしてもそれが嘘じゃないと分かってしまったので、尚更タチが悪い。
そんな女性に、今度こそ男は訳が分からない……と言った表情を浮かべる。
「お前みたいなサイヤ人初めて見た……」
「あっははは!!! よく言われるよ、変わってるってさ!!!
実際、生きてた頃は戦闘欲求のなさに戦闘員じゃなかったからね!!!」
皮肉を込めて男が呟いた言葉に、豪快に笑って返事を返す女性。
そんな女性に、呆れた視線を向けていた男だが、女性の発言の中で気になるワードがあり、無意識の内に口に出してしまう。
「生きていた頃……?」
ポツリと呟きながら、男は視線をとある箇所へ移動させる。
そこには、生きている人間には存在しないモノが、確かに存在していた。
そして、男の視線で彼が何を見ているのか理解した女性は、それを指差しながら口を開く。
「あっ、こいつが珍しいのかい……?って事はあんた最近死んだんだね……」
女性が指差した先には、あの世の住人の証……”死者の輪”が女性の頭上に確かに存在していた。
それを見た瞬間、これまで寝起きだった事もあり、どこか朧げだった男の記憶が一気に鮮明になる。
(あれは……、夢じゃ無かったのか……)
記憶がしっかりした事で、男は自身が気を失う前の事を全て思い出した。
自身が既に死んでいた事も……。
地獄で暴れ回り、宿敵と戦い敗れた事も……。
牢獄の中に現れた妙な穴の中に、飛び込んだ事も……。
全てを思い出した事で、男はギリッ!と歯を噛みしめ、眉間にシワを寄せる。
そして、無意識に身体に力を込め、つい本能のまま力を解放しようとした瞬間、男の耳にその声が届いた。
「ねぇ、大丈夫かい……?」
「はっ!」
身を乗り出して、心配そうな表情で自身を覗き込む女性。
そんな女性の姿に、男は「はっ!」とした表情を浮かべ、無意識に昂りかけた気を落ち着かせる。
そして、「ふぅ……」と一息つくと、大丈夫と言う意味も込めて静かに首を縦に振る。
そんな男の様子に、安心した表情を浮かべた女性は、再び口を開く。
「まぁ、ここはサイヤ人の集落だからあんたも遠慮せずここで過ごせばいいよ」
「サイヤ人の集落……?」
女性は不思議そうな表情を浮かべる男に、このサイヤ人の集落について説明する事にした。
「なるほど……」
女性からの説明で、男は大分この土地について知る事が出来た。
ここには惑星ベジータが滅んだ時にいたサイヤ人達が暮らしていること。
閻魔大王の権能のせいで、生前みたいに戦闘行為や略奪行為ができないこと。
そして、自身達の手で厳しい環境から知恵を出し合いこの土地に集落を作り発展させたこと。
だが、何よりも男を驚かせたのはこれだった……。
「まさか戦闘民族と呼ばれたサイヤ人が、地獄で農業をしているとはな……」
「あっははは……。 まぁ、驚くよね!! でも、結構馬鹿に出来ないんだよ。
あっ!そうだ、あんたお腹空いてないかい……?」
男のどこか呆れと皮肉が混じった言葉に、なんて事ない様に笑い飛ばす女性。
そして、思い出した様に腹が空いてないかと問いかける女性。
「え?」
「どうなんだい……?」
突然話題が変わった事に一瞬驚いた表情を浮かべる男だったが、そんな男を無視する様に女性は笑顔で問いかける。
その笑顔を見て、どこか気まずくなった男は思わず視線をそらす。
だが、女性の言葉で男は自身がすごく空腹である事にようやく気が付く。
女性の話を信じるのであれば、1週間以上寝たきりだったのから、当然といえば当然なのだ。
そう考え直し、素直に空腹だと女性に返事をしようと男が口を開こうとした時、それは起こった。
ぐぅーーーーーっ!!!
2人の間に、しばし沈黙が流れる……。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
「あっははは!!! まさか、腹で返事をするとは思わなかったよ!!
ちょっと、待ってな!!!」
そう言って部屋を後にした女性。
女性が部屋を出た事で、1人部屋に取り残された男は、思わずぽつりと口が開く。
「何なんだ、あの女は……?」
今まで出会った事がないタイプの女性によって、自身のペースを崩された男は1人になり「ふぅ……」と溜息を吐くのであった。
まさか、自身がこんな事で安息を感じる日が来ようとは、男はこれまでの人生で考えた事もなかったのであった。
それからしばらく1人の時間を満喫していた男の元に、再び女性が戻って来た。
「お待たせーーーっ!!!」
(全然待っていないのだが……)
勢いよく部屋に入って来た女性に、内心でツッコミを入れる男だったが、男の鼻が敏感にとある匂いをキャッチする。
そして、男の視線は女性の手元へ引き寄せられる。
そう、女性は両手でトレーを持っており、そのトレーの上には旨そうな匂いを漂わせた料理がのっていたのだ。
その匂いに、空腹を刺激された男は思わずゴクリと喉を鳴らす。
そんな男の事などお構いなしに、女性はベッドの近くの小さな机にトレーを置くと男の近くへやってくる。
未だ身体が上手く動かない男は何をするんだ……?と疑問に思いながら、女性に視線を向ける。
「さて、それじゃ上体を起こすよ……」
そう言うと、女性は男の身体に触れようと手を伸ばす。
だが、ここで男によって待ったがかけられる。
「待て……、自分で、出来る……」
「え? でも……」
男の言葉に驚きながら、心配そうな表情を浮かべる女性。
だが、男はその言葉を視線で封じる。
男の視線を受けた女性は、仕方ないとばかりに「はぁ……」と溜息を吐く。
「じゃあ、起き上がって」
女性の言葉を受け、男は全身に力を込める。
すると、全身に激痛が走る。
だが、何故だか分からないが目の前の女性の手を借りるのが嫌だと思った男は、気合で上半身を起こす。
「くっ……」
何とか上体を起こす事に成功した男は、「ふぅ……」と一息をつく。
彼の人生でここまで、自身の身体が動かない経験は初めての事だったので、まさかこれだけの動作に自分がここまで苦労する日が来ようとは考えた事もなかった。
そんな事を男が思っていると、自身の膝上に女性がトレーをのせる。
「よくがんばったね!! はい、どーぞ!!!」
笑顔で料理を差し出した女性の姿を、男はポカンと惚けた表情で見つめる……。
そんな男の姿に、不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる女性。
「どうしたんだい……?」
「あ、いや……」
女性の言葉を受け、男は咄嗟に女性から視線を逸らす……。
そんな男の行動に、女性は再び不思議そうな表情で首を傾げる。
だが、男の方には女性の方を気にする余裕は皆無だった……。
男は何故自身がこんなに動揺しているのか、自分でもよく分かっていなかったからだ……。
男は最初、女性が自身に対して「よくがんばったね!!」と言った時、何に対してそう述べたのか分からなかったのだ。
だが、一瞬後に自身が上体を起こした事だ……と気付き、その事を何の邪気のない笑顔で褒められたのだと分かった瞬間、自分でもよく分からない気持ちに襲われたのだ。
その気持ちが何なのか、今の男には正直分からなかった……。
男が自身の心境に戸惑っていると、男の口元にスプーンに乗った料理が差し出された。
「はい、口開けな!」
「…………」
突如差し出された料理に、怪訝そうな表情を浮かべ料理と女性に交互に視線を送る男。
女性の行動の意図がつかめない男は、ギロリと睨みつけながら、低い声で問いかける。
「何をしている……?」
「何って、料理を食べさせようとしているんだよ。
あんた、起き上がる事すらあの様なんだから、今は大人しく食べさせられてな!
ちゃんとご飯食べないと、よくならないんだから!
ほら、さっさと口を開ける!!」
女性は男の態度などどこ吹く風と言った様に、逆に男の目を真っ直ぐ見つめる。
その目には有無を言わさないと、言外に告げていた。
女性が発する雰囲気に、これまで感じた事がないプレッシャーを感じた男は、渋々口を開ける。
そして、ようやく開けた男の口に女性はスプーンに乗った料理を入れる。
男の口の中が、一気に料理の味に包まれる。
その味はこれまでに感じた事がない味だった……。
「う、うまい……」
男はほぼ無意識のうちに、その言葉を吐き出していた。
正直、これまでの人生で今口にしている以上の豪華な料理を食べた経験は男にもあった。
だが、今食べさせられているのは、野菜がふんだんに入ったただのスープだった。
男にとって、食事とはただの栄養補給と空腹感を無くすための行為でしかなかった。
だから、どんな料理を食べても特別な感情を抱く事は無かった。
しかし、このスープは自分でも気付かない内に言葉を発するほど、美味かった。
使われている野菜も新鮮なせいか葉物はシャキシャキしているし、ジャガイモはホクホクしているし、人参や玉ねぎは物凄く甘い。
しかも、何故だか分からないが、このスープを飲むと空腹感だけでなく、胸のあたりが暖かくなってくる……。
男はそんな自分自身に今日何度目かの戸惑いを覚えるのであった……。
「へっへーーーん!! どうだい? 美味いだろ……?
これが、あたし等が作っている野菜だよ!
案外バカに出来ないだろ……?」
女性の声で思考の淵に沈んでいた意識を呼び戻した男は、皿の中のスープに浮かんだ色取り取りの野菜達に目を向ける。
「これを……、サイヤ人が……?」
正直、男はこれ等をサイヤ人が作った事に違和感を拭えなかった。
何故なら男が抱いていたサイヤ人像と大きく異なっていたからだ……。
だが、それもしかたないだろう……。
この地獄で生活して行くには、地獄のサイヤ人達も変わらなければならなかったのだから。
住む場所が変わり、生きる為のルールが変わったのだ。
生きて行く為に、変化が必要なのであれば当然対応する必要がある。
それに対応せず、過去に固執しても待っているのは滅びだけである。
そう言う意味では、地獄のサイヤ人達は上手い事対応できた方なのだろう。
だが、過去のサイヤ人の事しか知らない者達からしてみれば、やはり今のサイヤ人達の在り方は違和感を覚えるのもまた事実なのだ。
だが、男が惑星ベジータでの生活を1度でも経験していれば、今の地獄のサイヤ人達の在り方の受け止め方が少し違ったのかもしれない。
何故なら、過去のサイヤ人達は他の星を侵略し、その星を売る事で生計を立てていたが、惑星ベジータの住民全てが戦闘員だったわけではない。
当然、戦士をサポートする科学者や料理を提供する者達といった、直接戦いに関係ないが、生活する上で必要な職業に就いていた住民も沢山いたのだ。
今の地獄のサイヤ人達は、本来の生き方が出来なくなったので、代わりとなる方法を模索するしか無かった。
だが、無から有を作り出す事はとてつも無く難しい。
しかし、地獄のサイヤ人達は運が良かった。
地獄に来てからの日々、新たな生き方を模索している中、彼らは自身達が本来の生き方が出来ないからといって、全てを無くした訳じゃない事を早い段階で知る事が出来た。
そして、それが地獄という土地の中で利益を得る事が出来る事を知ったのだ。
それは、彼らの価値観を変えるモノでもあったし、利益を得る事が出来ると言う事は単純に生活の質が向上すると言う事だ。
誰にだって譲れない気持ちや意志、誇りとういモノは存在する。
だが、それは時に日々の生活の中で天秤にかけられる事が往々にしてある。
意志や気持ち、誇りだけでは人は生きていけないからだ。
生活の向上は、彼らがこれまで築き上げて来た自尊心を自ら破壊する行為だったのかもしれない……。
だが、そこで立ち止まらず進み続けたからこそ、結果的に地獄のサイヤ人達は人並みの生活を手にする事が出来たのだ。
もし、彼らが過去に固執して変化する事を拒んでいれば、無限に続く飢えに襲われる者や閻魔大王による2度目の死で、存在そのものが消え去った者で溢れかえっていただろう。
なので、種の存続という観点から見れば、地獄のサイヤ人の変化は必要だったし、成功とも言えよう。
しかし、それは地獄のサイヤ人達の歴史を理解しているからこそ言える事なのだ。
それを知らない者からしたら、”戦闘民族”と謂われたサイヤ人とのギャップに違和感を覚えるのは当然なのだ。
だから、男が今抱いている違和感も当然の事なのだ。
しかし、それも仕方ない事なのかもしれない。
何故なら、男はサイヤ人でありながら実はサイヤ人の事をよく知らないのだ。
いや、正確には知識では知っている……と言った方が正しいのかもしれない。
何故なら、惑星ベジータは彼がまだ赤ん坊の頃に滅ぼされてしまったからだ。
彼は彼の父親と共に、とある事情によって生き残る事が出来たのだ。
だから、男が知っている……直接顔を合わせた純粋なサイヤ人とは、実は片手で数える程しかいなかったのだ。
しかも、男自身が深く関わり会話を交わしたしたサイヤ人は共に生き延びた父親ただ1人で、それ以外のサイヤ人とは敵対しただけだ。
なので、男が持つサイヤ人像とは、自分と父親、そして父親から聞かされた亡きサイヤ人達の話だけで構成されていたのだ。
そして、今日初めて偶然ではあるが父親以外のサイヤ人とちゃんと話をする事になった。
(親父から聞いていた話とは、随分違うな……)
幼い頃、まだ父との確執があまり無かった頃、男はサイヤ人について聞かされた。
サイヤ人を表す言葉といえば、残虐非道、力こそ正義、自分の欲しいものは力で手に入れる等……、全ての事柄は力……戦いによって手に入れるモノだった。
だからこその、戦闘民族。
何より、誰よりもサイヤ人の本能に忠実だった男はそれが事実だと信じで疑わなかった。
しかし、男が出会ったサイヤ人はどうだ?
まったく戦闘欲求がなく、戦いでなく農業で生きていると言う……。
まぁ、本人も自身が変わっていると周りに言われていると言うので、この女性を基準にする必要はないだろう。
だが、この女性にかかわらず、この場……集落にいるサイヤ人達は戦いとは別の方法で生きているという。
それが果たしてサイヤ人と言えるのか……?
男は自身の胸に去来する疑問に、思わず顔を顰める……。
「何難しい顔してんの?」
「ん……?」
無意識のうちに思考の淵に沈んでい男を、またしても女性の言葉が引き戻す。
声につられて男は女性に視線を向ける。
そこには、心配そうに自身を見つめる女性の姿があった。
その自分を心配そうに見つめる女性に、男はまたしても居心地の悪さを感じてしまい、思わず視線を逸らしてしまう。
(本当に、サイヤ人らしくない女だ……)
男が内心で自身の心情を吐露していると、横からまたしても女性の声が男の耳に届く。
「あっ! そういえば、あんたに聞きたい事があるんだった!!!」
女性の言葉を受け、男は女性に視線を向ける。
2人の視線が交わると、女性はニコッ!と笑みを浮かべ男に問いかける。
「あんたさ、名前なんて言うの? あたしの名は、ギネ!!」
真っ直ぐ男を見つめ、自らの名前を告げるギネ。
たったそれだけだと言うのに、男は何故だか妙な緊張を覚える。
今はこんな様だが、それでも力では確実に自分が上だというのにだ……。
正直、男は目の前の女性の存在がよく分からなかった……。
力は自分より遥かに弱い……。
それ故に彼の価値観からしたら、目の前の女性の言う事など何一つ聞く必要はない。
なのに、何故だか争い難い何かがこの女性にはあった。
しかも、不思議な事にそれを嫌だと感じていない自分に男は心底戸惑っていた。
そして、気がついた時には、戸惑ながらも男は口を開いていた。
「……ブロリー……です……」
辿々しい口調で告げられた男の名……。
だが、その名は確かに女性の耳に届いた。
そして、男の名を聞いた瞬間、女性の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「そっか、ブロリーかぁ!! よろしくね!ブロリー!!!」
笑顔でブロリーの名前を呼び、手を差し出すギネ。
そんなギネの笑顔に、やはり何処か居心地の悪いモノを感じるブロリー。
だが、やはり何故だか嫌な感じはしなかった。
戸惑いながらも差し出されたギネの手を確かに握るブロリー。
正直何故その手をとってしまったのかは、ブロリー本人にも分からなかった。
だが、今日は数え切れないほどの分からない事を彼は体験してしまった。
だから、最後も分からない事に身を任せるのも良いと思ったのかもしれない……。
こうして、伝説の超サイヤ人と呼ばれたサイヤ人の悪魔と悪魔の宿敵の母親の奇妙な生活が始まったのだった……。
続きは次回……。