ドラゴンボール -地獄からの観戦者- 番外編 祖父との再会03

 祖父に会う為に、五行山に訪れた孫悟空。

 数十年ぶりに祖父との再会を果たした悟空だったが、祖父・悟飯は孫の死因を知り、その過酷な運命に涙を流した。

 しかし、そんな悟飯が落ち着いたのを見計らい、アンニンは話題を変える意味も込め、再び悟空に話を振る事にした。

 

 正直な話、悟空の死因よりも五行山の主人としてはそちらを確認する方が重要だったのだ。

 

 

「色々あって今更って感じだけど、悟空、今日はどうしてここへ来たんだい……?

 また、前みたいに何かあったのかい……?」

 

 

 アンニンが悟空に問いかけたのには、理由があった。

 何故なら、悟空はかつて五行山で起きた問題を解決してくれた恩人でもあったからだ。

 その問題とは、八卦路の底に空いた穴から炎が漏れ、悟空の妻の父・牛魔王の城が炎に包まれ、焼死寸前に陥るという事件が起きたのだ。

 

 炎に包まれた城に残された牛魔王を救うべく、悟空とチチはどんな炎をも消す事が出来ると云われた芭蕉扇を探す冒険を行った。

 冒険の末、芭蕉扇を手にする事は出来たが、それでも八卦路の炎を消す事ができなかった。

 通常の炎であれば、どんな業火であろうが芭蕉扇で炎を消す事が可能だった。

 

 だが、八卦炉の炎は通常の炎とは異なるため、芭蕉扇でも鎮火することが出来なかったのだ。

 その事に困り果てた悟空とチチ。

 そんな2人の前に占いババが現れ、この炎の正体が八卦路の炎だという事を知った2人は、八卦路がある五行山へ向かう事になったのだ。

 

 2人は様々な試練を共に乗り越え、五行門を超える事に成功する。

 そうして、2人は五行山で悟空の祖父・孫悟飯と再会し、五行山の主人であるアンニンと対面する事になったのだ。

 悟空とチチは、アンニンや悟飯の協力を得て、八卦路の底に空いた穴を防ぐ事に成功する。

 

 こうして、牛魔王は助かり、八卦路の問題も解消されたのだ。

 その様な過去があった為、アンニンは悟空が再びこの地へ訪れたという事は、自身が気付いていない問題が起きたのか?と危惧していたのだ。

 

 しかし、その心配は杞憂だった……。

 

 

「いや……、今日はじいちゃんに会いに来たんだ……」

 

 

 悟空の言葉を聴き、アンニンはほっと胸を撫で下ろすと同時に、妙な引っ掛かりを覚えた。

 気のせいか、言葉を発した時の悟空の表情や言葉が少し硬い様に感じたのだ。

 

 

「ワシに……? 死んだから会いに来たということかのう?」

「まぁ、それもあんだけど……」

 

 

 自身に会いに来たと言われた悟飯は、悟空がここに来た理由を予想する。

 しかし、悟空から返って来た言葉は妙に曖昧なものだった。

 悟飯もアンニン同様、悟空の表情や言葉が少し硬い事を感じ取り、不思議そうに首を傾げる。

 

 2人は悟空の様子から、今日この場に訪れた本当の理由が別にある事をなくだが察する。

 そんな2人の視線を受けたせいか、悟空の表情が先程よりもさらに硬くなる。

 よほど言いづらい事なのか、悟空はなかなか言葉を発せられずにいた……。

 

 悟飯とアンニンは、未だ口を開くことが出来ないでいる悟空を急かす事なく、言葉を発するのを見守る事にした。

 しばらく、沈黙の時間が3人の間に流れる……。

 それから少しして、ようやく覚悟を決めたのか、固く結ばれた悟空の口が開く。

 

 

「実は……今日はじいちゃんに謝りに来たんだ……」

 

 

 ようやく重い口を開いた悟空の言葉に、悟飯は不思議そうに首を傾げる。

 

 

「謝る……? はて……、ワシはお前に謝ってもらう様な事など特に無いが……?」

 

 

 その姿や言葉には、本当に悟空に謝られる事が考えつかないのか、心底不思議そうな表情を浮かべていた。

 そんな祖父の姿に、悟空は界王が言っていた事を思い出し、フッと笑みを浮かべる。

 しかし、それをすぐに引っ込め、自身のやるべき事をやる為に、悟空は祖父の眼をしっかり見つめ口を開く。

 

 

「じいちゃん、オラな、じいちゃんがどうして死んじまったのか、もう理由を知ってんだ……。

 じいちゃんを殺しちまったのは……、オラ……だろ……?」

 

 

 悟空の言葉を、悟飯は表情を変える事なく受け止める。

 だが、言葉を聞いた瞬間、僅かにだが悟飯は確かに身体を震わせる。

 それは、悟空やアンニンといった一流の武道家でないと、気づかないほど僅かな揺れだった。

 

 しかし、それは悟飯が確かに動揺した証だった。 

 達人である悟飯も、2人に自身が一瞬動揺した事がバレている事は当然分かっていた。

 だが、それを認めるわけにはいかなかったので、勤めて冷静に口を開く。

 

 

「……何のことじゃ?」

 

 

 表情からは一切動揺を感じさせず、悟空の言葉の意味が本当に分からないと言った表情を浮かべる悟飯。

 そんな悟飯に、悟空は静かに語りかける。

 

 

「じいちゃんは、大猿の化け物に殺された……。 そうだろ……?」

「……」

 

 

 悟空の問いかけに、肯定する事も否定する事もせず無言で応える悟飯。

 そんな悟飯に向かって、悟空は更に言葉を続ける。

 

 

「その大猿は、オラ達サイヤ人が満月を見ると変身する姿だ……」

「サイヤ人……?」

 

 

 聞いた事がない言葉に首を傾げる、悟飯とアンニン。

 そんな2人に悟空は、自分が知る自身の出自について語り出した……。

 

 

「オラは元々地球を滅ぼす為に、他の星から送り込まれた宇宙人だ……。

 だけど、ガキの頃に頭を打ってサイヤ人としての記憶を無くしてしちまったらしい。

 その後は、じいちゃんのお陰で地球人・孫悟空となったんだ……」

「……」

 

 

 頭を擦りながら言葉を続ける悟空。

 そして、悟飯も悟空の頭に無言で視線を向ける。

 悟飯は悟空が触れている箇所に酷い傷跡があることを知っていた。

 

 何故なら、その傷を手当したのは悟飯本人だったからだ。

 悟空は悟飯が拾った当初、とても手がつけられない程気性が荒かった。

 だが、それが落ち着いたのが、頭に大怪我を負った頃からだった。

 

 それを思い出した悟飯は、表情にこそ出さないが、内心で悟空の言葉に納得していた。

 そんな悟飯の内心など知らない悟空は、いよいよ話の核心に触れようとしていた。

 

 

「今から数年前にな、オラの兄貴ってヤツや同じサイヤ人のヤツ等が地球にやって来たんだ……。

 そん時に、オラは自分が何者なのかを知る事になったんだ……。

 そして、大猿の事も……」

 

 

 そこで言葉を切った悟空は、まるで自分の心を落ち着ける様に、一息付く。

 そして、再び祖父の眼を見て口を開く。

 ここへ来た目的を果たすべく……。

 

 

「大猿の事を知った時、じいちゃんを殺したのが自分だって、分かったんだ……。

 だから、いつかあの世に行った時、謝ろうって決めてたんだ……。

 本当にすまねぇ!じいちゃん!!!」

 

 

 全てを話終え、悟飯に向かって深く頭を下げる悟空。

 これまで悟空の向かい側でじっと話を聞いていた悟飯は、静かに立ち上がる。

 そして悟空の元へ近づくと、悟飯は悟空の頭に優しく手を乗せ撫でる。

 

 

「そう、じゃったか……。 お前は全てを知ってしまったんじゃなぁ……」

 

 

 久しぶりに祖父に頭を撫でられ、その懐かしさに思わず身体を震わせる悟空。

 そして、下げていた頭を上げ不安気な表情で悟飯を見つめる。

 

 

「じ……、じいちゃん……」

 

 

 自身を不安そうな表情で自身を見つめる悟空に、優し気な笑みで応える悟飯。

 だが、そんな好々爺の顔が突如、キリッ!とした表情へ変わる。 

 

 

「ふう、いつまでそんな顔をしとるんじゃ、悟空よ!!!」

 

 

 そう言うと悟飯は、これまで頭を撫でていた手で悟空の頭を叩く。

 まるで、腑抜けていた孫に気合を入れる様に……。

 仮にも悟空の祖父、武道家・孫悟飯の一撃だ……。

 

 完全に気が抜けていた悟空は、モロにその一撃を受けてしまう。

 

 

「いてっ!!!」

 

 

 突然、頭を叩かれて思わず両手で頭を抑える悟空。

 だが、悟飯同様、悟空も一流の武道家だ。

 それ故に、今の祖父の一撃が憎しみや怒り等といった負の感情から来るものではなく、自身に喝を入れる為のモノだと言う事を理解してしまった。

 

 

「……って、怒ってねぇんか……?」

 

 

 悟空は不思議そうな表情を浮かべ、祖父を見つめる。

 しかし、当の祖父はそれこそ不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。

 

 

「怒る……? 何でじゃ……?」

 

 

 祖父の表情から、悟空は本当に祖父が怒っていない事を察する。

 しかし、祖父を殺した罪悪感があった悟空は、ここで曖昧なまま話を終わらせる事は出来なかった。

 そこで、更に踏み込むべく口を開く。

 

 

「いや、だって……「まぁ……」え?」

 

 

 まるで自身の言葉を遮るように言葉を発した悟飯へ、驚きの表情を向ける悟空。

 そんな悟空を、朗らかな笑みで受け止める悟飯。

 その表情は悟空が幼い頃、毎日自身へ向けられた、とても良く知っている笑みだった。

 

 その笑みを見た瞬間、悟空は悟飯が自身が言いたかった事を全て理解している事を察した。

 そして、悟飯も悟空の表情を見て、悟空に自身が察していた事が伝わった事を察する。

 

 

「確かにワシは大猿の化け物に殺された……。

 じゃがな、悟空よ……お前は大猿だった時の事は覚えておらんのじゃろう……?」

「あ、ああ……、サイヤ人が大猿になると理性を失っちまうんだ……」

 

 

 まるで事実確認をするかの様な祖父の問いかけに、悟空ははっきりと頷く。

 そして、悟飯はその悟空の返答に納得した様な表情を浮かべる。

 

 

「なるほどのう……。 じゃから子供の時のお前も何も覚えとらんかったんじゃなぁ……」

 

 

 悟空の言葉で、初めて大猿を見た時の事を思い出す悟飯……。

 突如パオズ山に現れた大猿の化け物……。

 眠っていた悟飯は、大猿の化け物の咆哮に思わず眼を覚ます。

 

 そして、自身の股下で眠っていたはずの悟空の姿がない事に気がついた悟飯は、急いで家を飛び出した。

 すると、悟飯の目に飛び込んできたのは、体長10メートルは優に超える大猿の化け物だった。

 その大猿の化け物は、凄まじい力で暴れ回っていた。

 

 悟飯は大猿の凶暴性や、その強大な力に武道家として危機感を抱いた。

 一流の武道家でもあり正義感が強かった悟飯は、一瞬大猿を止めるべく戦いを挑もうとした。

 確かに大猿は凶暴で強大な力はあったが、言ってしまえばそれだけで、知性などは微塵も感じなかった。

 

 正直、自身が戦いを挑めば、勝利を得られる確信が悟飯にはあった。

 だが、ここで自身が大猿と戦えば、周囲にも多大な被害が出ることは火を見るより明らかだった。

 そうなれば、いなくなった悟空に危険が及ぶ可能性が出てくる。

 

 悟空をほっておくという選択肢は悟飯の中になかった。

 結局戦いを挑む事はせず、大猿の眼を掻い潜りながらパオズ山中を探しまわった。

 だが、いくら探しても悟空の姿を発見する事は出来なかった……。

 

 一晩中探し回り、夜が明けた時、悟飯はそれを見てしまった……。

 これまで、好き勝手暴れていた大猿が、突如動きを停止させると、みるみると縮んでいくのだ。

 その事に驚き、何が起こったのか確かめたくなった悟飯は、一旦悟空の捜索を中止して警戒しながらも急いで大猿の元へ向かう。

 

 そして、大猿がいたであろう場所に到着した時、悟飯は大猿の正体を知る事になった……。

 大猿がいたであろう場所に、寝る前は確かに服を着ていたはずの孫が、何事もなかったかの様に猿の様な尻尾を揺らしながらスヤスヤと眠っていたのだ……。

 悟飯はその光景を見て、大猿の正体が何者か理解せずにはいられなかった……。

 

 正直な話、地球の平和の事を考えるのであれば、ここで悟空を殺してしまった方がよいのではないか?と考えなかった訳ではない……。

 それほどまでに、大猿へ変身した時の悟空の凶暴性や暴れっぷりは凄まじかった……。

 だが、それ以上に悟空への愛情が上回った悟飯は、結局悟空を殺す事が出来なかった。

 

 殺さない判断をした以上、悟飯は自身の中で悟空……大猿の面倒を見る事を決心した。

 それからの悟飯は、一体どうして悟空が突然こんな事になったのか、必死に考えた。

 大猿になった時の悟空と、普段の悟空ではあまりに異なっていたからだ。

 

 普段の悟空の性格を考えれば、あそこまで暴れ回ったりする事はない……。

 なので、変身さえさせなければ、悟空が無害な子供だという事は、悟飯自身が一番よく分かっていた。

 それに、これまで一緒に暮らして来た経験から、悟空がそう簡単に変身す事がない事も分かっていた。

 

 となれば、変身する切っ掛けや原因があったはずだと考える悟飯。

 そこで、これまでの生活を振り返り、昨晩とこれまでで何が違っていたのかを考えた時、悟飯の頭に一つの可能性が浮上する。

 それは、昨晩が”満月”だった事だ……。

 

 悟飯は今でこそパオズ山で隠居した生活を送っていたが、若い頃は武天老師の下で修行して、その後は世界中を武者修行の旅で回った過去がある。

 その時に、こんな話を聞いた事があった……。

 ”満月の夜、人間が狼男になる”というものだった……。

 

 その話を覚えていた悟飯は、悟空の変身の切っ掛けも満月だったのでは?と当たりをつける。

 普段の悟空や悟飯は、かなり早い時間に眠りにつくので、夜に外に出る事はない。

 だから、これまで気付かなかったのだ。

 

 それから、悟飯は悟空にこう言い聞かせる事にした。

 

 

「満月の夜は、大猿の化け物が出るから、決して外に出てはいけない」

 

 

 この言いつけを守り出してからは、パオズ山に大猿の化け物が現れる事は無くなった……。

 孫悟飯が亡くなるその日まで……。

 

 

「じいちゃん……?」 

 

 

 悟空の言葉に「はっ!」とした表情を浮かべる悟飯。

 どうやら、ずいぶん長い事、過去の思い出に浸っていた様だ。

 こちらを心配そうに見つめる悟空に、少々恥ずかしくなった悟飯は「こほん!」と一息入れる。

 

 

「まぁ、つまりじゃ、あの時のお前は、お前であってお前で無かった訳じゃ……。

 それにな、ワシは武道家じゃ……。

 いつ死んでも良い覚悟はしておった……。

 じゃから、死ぬ時もほとんど悔いなどなかった……。 幼いお前を残して逝く事以外はのう……」

 

 

 悟空の眼をしっかり見据え、悟飯は自身の思いをしっかり伝える。

 これ以上余計な重荷を背負い続ける必要はない、という想いを込めて……。

 

 

「じゃが、お前はちゃんと自分の人生をしっかり歩き、武道家としても人間としても立派に成長しおった……。

 そんなお前に、何を怒る事があろうか……」

「じいちゃん……」

 

 

 祖父が向ける自身への無償の愛情に、悟空は思わず目頭があつくなり眼に涙が貯まるのを感じる。

 それと同時に、悟空は長年心の奥底にあった心の重荷がなくなるのを実感するのだった。

 悟空の様子を見て、悟飯は悟空が長年背負ってきた重荷から開放された事を悟る。

 

 

(ふぅ、これで悟空がワシの死に対して、これ以上後ろめたさを持つ事はないじゃろう……。

 それにしても、せっかく悟空が久しぶりに会いに来てくれたというのに、先程から随分湿っぽい雰囲気が続くのぅ……。

 まぁ、話の内容が内容だっただけに、仕方ないのやもしれんが、こういう時は皆笑顔がいいのじゃがのぅ……。

 さてはて、どうしたものか……)

 

 

 湿っぽい雰囲気が続き、いい加減この空気を変えたかった悟飯。

 内心でどうしたものか……と考え、考えがまとまった悟飯は場の空気を変えるべく動き出す。

 その表情は、イタズラっ子が浮かべる様なニヤリと人が悪い笑みを浮かべる。

 

 

「それにのう、ワシからしてみれば、こんなに早くお前があの世に来てしまった事の方が、遥かに怒っとる。

 まぁ、理由が理由だけに仕方ないとはいえな……」

「ははっ!!」

 

 

 悟飯の表情を見て、その言葉が自身をからかっているものだと気付き、涙を貯めていた悟空の表情にいつもの太陽の様な笑みが戻る。

 こうして、孫から祖父への懺悔の時間は終わりを迎えたのだった。

 2人に笑みが戻った事で、これまで2人の様子を見守っていたアンニンがぽつりと言葉を零す。

 

 

「それにしても、セルか……。

 もしかして、あの時のあいつがセルだったのかもしれないねぇ……」

「ん? アンニン様、セルの事知ってんのけ……?」

 

 

 何かを考える様に顎に手を当て、難しそうな表情を浮かべるアンニンに、彼女の言葉を拾った悟空が不思議そうな表情を向け問いかける。

 悟空の問いに、アンニンは静かに首を横に振る。

 

 

「いや、あたしはセルってヤツの事は知らないよ……。

 この五行山は、あの世と現世の間だから、お前がこの間まで生きていた現世とはちょっと違った場所なのさ……。

 だから、ここにはあまり現世の出来事は流れて来ない……。

 まぁ、知ろうと思えば知れるけどね……」

「へー! 確かに前来た時から不思議な場所だと思ってたけんど、ここってそんな場所だったんか……」

「まぁ、生きた人間が行けるのは、ここまでだね。

 此処から先は、完全に死者の世界さ……」

 

 

 悟空の問いに応える為、五行山という場所について軽く説明するアンニン。

 しかし、それが質問の内容から外れていた事に気付き、「あっ!」とした表情を浮かべる。

 

 

「……と、話がずれてしまったね……。

 この間、この五行山からとても邪悪な魂があの世へ昇っていったのさ……。

 数年前にも、とんでもない邪悪な魂が登っていったけど、この間のヤツもそれに負けず劣らず凄かったからねぇ……。

 長年、ここで色々な魂を見送ってきたけど、あれほど邪悪な魂は初めて見たよ……」

 

 

 あの世に昇っていたセルの魂を思い出したのか、アンニンは苦々しい表情を浮かべる。

 それほど、セルの魂は邪悪だったのだろう……。

 そして、その表情を見た悟空も自身が戦ったからこそ、セルの恐ろしさが分かっている為、険しい表情を浮かべる。

 

 

「多分、悟飯にやられたセルだろうな……。

 そして、数年前に見た邪悪な魂ってヤツは、フリーザだろうな……」

「おや? そっちも知り合いなのかい?」

 

 

 悟空の言葉を聴き、アンニンはまさか数年前の邪悪な魂の持ち主とも知り合いだった事に、驚きの表情を浮かべる。

 そんなアンニンに、苦笑いで応える悟空。

 

 

「ああ、どっちもオラが闘った相手だかんな……。

 ちなみに、フリーザはオラが生まれた星を破壊したヤツで、宇宙の帝王って呼ばれるくれぇ、悪ぃヤツだったんだ!!」

「なるほどね……。 それだったら、あのドス黒さも当然といえば当然だったわけか……」

 

 

 悟空の言葉で、フリーザが自身が思っていた以上の悪党だと知り、魂の邪悪さに納得した表情を浮かべるアンニン。

 そして、改めて目の前で茶を啜っている男が、自身の想像以上の経験を積んできた事を実感せずにはいられなかった。

 アンニンからしてみれば、人の一生など瞬きにも等しい程一瞬だ。

 

 だが、そんなアンニンからして見ても、孫悟空という男が歩んだ軌跡は異常といえた。

 

 

「それにしても、お前は生前、色んなヤバいヤツ等と戦ってたんだねぇ……」

「ははっ……!! 確かにな!! どいつもこいつも皆強かったぞ!!!」

 

 

 どこか呆れた様な表情を自身に向けるアンニンへ、どこ吹く風といった様子で笑顔で返事を返す悟空。

 そんな孫の様子に、改めて笑みを浮かべる悟飯。

 こうして、重い雰囲気の語らいは終わりを告げるのだった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 話が一段落した3人は、再びお茶を飲みながら談笑に講じていた。

 その時、悟飯はお茶を啜りながら、改めて目の前に座る孫に視線を向ける。

 そこには、本来死者では持ち得る筈のない肉体を当たり前の様に持ち、お茶を啜り饅頭を頬張る孫の姿があった。

 

 

「ところで、悟空よ。

 お前、肉体を持っておるという事は、あの世でも修行する事を許されたという事か……?」

「ん? ああ、地球や宇宙を救ったりしたから閻魔のおっちゃんが特別扱いしてくれたんだ!!」

 

 

 悟飯の問いかけに、口の中の饅頭を飲み込んだ悟空は、得意気な笑みを浮かべ返事を返す。

 その返事に笑みを浮かべる悟飯。

 

 

「そうかそうか! あの世には、沢山の素晴らしい達人がおるからのう……。 お前も大いに励むといい」

「ああ!! この間、あの世一武道会ってのに参加したんだけど、あの世っておもしれぇ使い手が沢山いて、オラ、ワクワクしちまったぞ!!!」

 

 

 悟飯の言葉を受け、先日行われたあの世一武道会で戦った、さまざまなあの世の達人達を思い出す悟空。

 これまで戦った事がなかった様なタイプの達人が沢山参加しており、悟空も大いに刺激を受けた。

 

 

「あの世一武道会……? そんな大会があの世であったのかい?」

 

 

 ワクワクした表情を浮かべる悟空の横で、悟空の言葉を受け不思議そうな表情を浮かべるアンニン。

 

 

「ああ!! えっと……、正式な名前は……『北の界王死んじゃった記念、あの世一武道会』だったかな……?」

「「ブーーーッ!!!」」

 

 

 悟空の発した衝撃の言葉に、アンニンと悟飯は思わず口に含んでいたいたお茶を勢いよく吹き出す。

 そんな2人の様子に、驚く悟空。

 

 

「な、何だよ!? 2人して……」

「ごほっごほっ!!! だ、だって、お前! 今、北の界王様が亡くなられたって……」

 

 

 アンニンは勢いよく立ち上がると、悟空に信じられないといった表情を向ける。

 しかし、そんなアンニンとは対象に悟空はあっけらかんと、更なる爆弾を投下する。

 

 

「ああ、確かに死んじまったぞ……?

 ちゅうか、オラが巻き込んで死なしてしまったんだけど……」

「ええっ!?」

「な、何じゃと!?」

 

 

 悟空の爆弾発言に、アンニンと悟飯は驚愕の表情を浮かべる。

 そんな2人の態度に不思議そうな表情を浮かべる悟空。

 

 

「あれ……? オラ言わなかったっけ……?」

「「聞いてない(とらん)!!!」」

 

 

 2人からの怒声を受け、その声量に思わず耳を塞ぐ悟空。

 思わず抗議の声を発しようと2人に視線を向けると、視線の先の2人は、どういう事だ?と何処か据わった眼をこちらに向け、無言の圧力で説明を要求していた。

 2人の視線に悟空の米神から冷や汗が一筋流れる。

 

 2人の視線に押される形で、悟空は口を開く。

 

 

「えっと……、セルが自爆する時、オラがあいつと一緒に瞬間移動して地球とは別の場所で、あいつの自爆に巻き込まれて死んだ話はしたよな……?」

 

 

 2人は無言で大きく頷く。

 

 

「オラの瞬間移動は、オラが知っているヤツの気を感知して、そして、そいつの元へ移動する技なんだ……。

 そんで、時間もなかったから、界王様がいる界王星に移動して、オラと一緒に界王様も死んじまったんだ」

 

 

 悟空の話を聴き終えた2人は、目の前の男のとんでもない所業に、思わず身体を震わせる。

 界王の死とはそれ程までに、本来であれば重大な事なのだ……。

 

 

「な……、なんちゅう事を……」

「お前、よく今まで無事だったね……」

 

 

 事の重大性を理解している2人は、仕方ないとはいえ界王殺害という大罪を犯したにも関わらず、未だ特に罰を受けず呑気に茶をしばいてる目の前の男に信じられないといった視線を向ける。

 そんな視線を受けた悟空は、思わず眉根を寄せる。

 

 

「無事じゃねぇよ……。 あの後、界王様から滅茶苦茶怒られたしな……」

「「当たり前だ(じゃ)!!!」」

 

 

 あまりに的外れな悟空の発言に、ついにアンニンと悟飯の怒りが爆発する。

 そんな2人の怒声に、再び耳を塞ぐ悟空。

 そんな悟空の様子を見て、幾分か落ち着いたアンニンは「ふぅ」と一息つくと、不思議そうな表情を浮かべ悟空へ問いかける。

 

 

「というか、悟空……。

 さっきから気になってたんだけど、お前、界王様と随分親しい様だけど、あのお方とどんな関係なんだい……?」

 

 

 アンニンの問いかけに、悟空は腕を組み、少し考える様に首を傾げる。

 だが、すぐに答えがでたのか、笑顔を浮かべる。

 

 

「界王様との関係……? うーん、一言で言えば師匠と弟子だろうな!!」

「で、弟子!? あの滅多に弟子を取られない界王様の……!?」

 

 

 悟空の発言に、アンニンは驚愕の表情を浮かべる。

 北の界王は彼自身優れた武道家である事は天界では周知の事実で、その彼に弟子入りしたいあの世の達人は数え切れないほど存在する。

 しかし、先のアンニンの発言どおり滅多に弟子を取らない事でも有名だった。

 

 そして、その数少ない弟子の1人が閻魔大王であった。

 だが、それも数千年前の話で、それ以来弟子をとったという話を聞かなかった。

 それを知っているアンニンからしたら、悟空が界王の弟子になれた事に驚きを隠せなかった。

 

 

「ああ! 今から6年前くれぇかな……?

 さっき言ったと思うんだけど、オラの兄貴ってヤツが地球へやって来た時に、オラそいつを倒す為に、相討ちで1回死んじまってんだよ……。

 だけど、1年後に2人のサイヤ人が地球へやって来る事が分かって、しかも2人共オラの兄貴よりも強い事が分かったんだ。

 だから、前の地球の神様から、あの世で界王様に修行をつけてもらえって言われて、界王様がいる界王星に行って、修行をつけてもらったんだ」

 

 

 懐かしそうに界王の弟子になった経緯を話す悟空。

 そんな悟空の言葉を受け、悟飯とアンニンは改めて目の前の男の規格外さを再認識するのだった。

 

 

「はぁー、昔からただ者では無いと思ってたけど、まさか、お前があの界王様の弟子とはねぇ……」

「まったくですなぁ……。 この世で4柱しかおられぬ、界王様の弟子とは……。

 しかも、そんな偉大な神の一柱を仕方ないとはいえ、巻き込んで死なせてしまうとは、これはワシも界王様に謝罪に行くべきかもしれませぬなぁ……」

 

 

 孫のしでかした不始末に本気で頭を悩ませる悟飯。

 だが、やらかした当の本人はあっけらかんと無責任な発言をぶちかます。

 

 

「う〜ん、別にじいちゃんが謝らなくてもいいんじゃねぇか……?

 界王様を死なせちまったのは、オラなんだし……。

 それに、セルとの戦いの後、地球のドラゴンボールで生き返れたのに、自分で死ぬ事を選んでたしな!

 まぁ、オラに付き合ってくれたからなんだけど……」

「な、何と!? だったらますますお礼を述べに参らねばならんでは無いか……」

 

 

 まさか孫に付き合って、生き返る事すら放棄した界王にいよいよ頭が上がらなくなった悟飯。

 祖父が真剣に頭を悩ませてる側で、饅頭を頬張り祖父を見つめる孫。

 

 

「そこまで、気にする事じゃねぇと思うんだけどなぁ……」

 

 

 悟空の呑気な発言に、悟空と界王の関係が決して悪いものでない事を察するアンニン。

 この様子だと、確かに悟飯がお礼を述べる必要はないのかもしれないと内心で思ってしまった。

 だが、それは置いておいても、流石に悟空の態度に呆れた様な表情を浮かべる。

 

 

「お前は気にしなさすぎだと思うけどねぇ……。

 でも、本当に大丈夫なのかい……?

 他の界王様方や、大界王様に知られたら大ごとになりそうだけど……」

 

 

 北の界王とは師弟の関係故、許されたかもしれないが、流石に事が事なので、アンニンは不安気な表情を浮かべ悟空に問いかける。

 

 

「うーん、他の界王様達は、界王様が死んだのを知った時は、腹抱えて大笑いしてたけどなぁ……。

 それに、さっき言ったあの世一武道会も界王様が死んだ記念とか名前がついてたし、大丈夫なんじゃねぇか?」

「えぇ……」

「神々の考えはワシ如きでは、計り知れぬという事ですかなぁ……」

 

 

 悟空の言葉に、頭を抱えるアンニンと、遠い目をする悟飯。

 その後も、悟空達はあの世一武道会の話や、界王様との生活等たわいもない話に花を咲かせた。

 悟飯はあの世での生活について喋る悟空の姿を、目を細めとても楽しそうな表情で眺めていた。

 

 だが、そんな楽しい時間も終わりを迎えようとしていた。

 

 

「それじゃな! アンニン様、じいちゃん!!」

 

 

 五行門の前で、アンニンと悟飯に別れを告げる悟空。

 

 

「うむ! また気軽に来るといい、待ってるよ、悟空!!!」

 

 

 そう言って悟空に笑みを向けるアンニン。

 アンニンが喋り終わると、悟飯が悟空へ近づき、ポン!と悟空の肩に手を乗せる。

 

 

「今日はお前と久しぶりに話せてとても楽しかったわい。

 お前が、こんな早くに死んでしまった事は、今でも残念じゃが、あの世でも楽しくやっているようで、安心したわい……。

 界王様にご迷惑をかけるでないぞ」

「ああ! わかってるよ、じいちゃん」

 

 

 優しく語りかける悟飯に、太陽の様な笑みを返す悟空。

 そんな悟空に、朗らかな笑みを返す悟飯。

 

 

「またの、悟空……」

「ああ、またな! じいちゃん」

 

 

 再会を誓い、笑顔で別れを告げる祖父と孫……。

 そんな両者の姿を、優しそうな微笑みを浮かべ見守る、五行山の主人……。

 

 それから間も無く、どちらからともなく離れる祖父と孫……。

 そして、悟空は2人に背を向け歩き出す……。

 そんな悟空の姿を、悟飯とアンニンは悟空が通り抜けた五行門が閉まるまで見続けた。

 

 そして、2人は門が閉じる瞬間、確かに見た。

 こちらに、太陽の様な笑顔を向ける男の姿を……。

 

 

 こうして、祖父と孫の数十年ぶりの再会は終わりを告げた……。

 

 だが、今度はそう遠くない未来に、彼らはまた再会を果たすのだろう……。

 

 今日みたいに互いに笑みを浮かべ、仲良くお茶を飲みながら……。

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