ドラゴンボール -地獄からの観戦者- サイヤ人の悪魔編 4

「今のオレ達に必要なのは、戦闘力のコントロールだ!!!」

 

 

 意を決して、自身の意見を述べるラディッツ……。

 だが、ラディッツの言葉を聞いた、ナッパは不思議そうに首を傾げる。

 

 

「戦闘力のコントロール……? それだったら、オレ達も普通に出来るだろ……?」

 

 

 ナッパの言葉にラディッツは首を横に振る。

 

 

「確かに、ナッパが言うように、オレ達は戦闘力を上げたり下げたりさせる事が出来る。

 だが、それはオヤジに言わせればコントロールしているのではなく、単純に力の使い方を知っているレベルの技術らしい……。

 その為、オレ達が普段全力で力を開放していると思っている戦闘力さえも、実際は本来出せる戦闘力の7割程度しか良くて出せていないと言っていた……」

 

 

 ラディッツの言葉に驚愕の表情を浮かべ、口を開くナッパ。

 

 

「なっ、何だと!? それじゃあ……」

「ああ、オレ達は自身が認識している以上の戦闘力を出す事が可能だという事だ……。

 その為には、今までみたいに漠然と戦闘力を高めていては駄目なのだ。

 自身の中に在る力をしっかり認識し、制御下に置くことで力を練り上げ戦闘力の質を高める事で、ようやく自身が持つ本当の全力を出す事が可能になる。

 それを行う為に戦闘力のコントロールが必要になるのだ……」

 

 

 ラディッツの説明を受け、普段当たり前にやっていた戦闘力の扱いがここまで奥深い事だった事に衝撃を受けるナッパ。

 だが、これは戦闘力……気が持つ可能性のほんの触り程度でしかなかった。

 驚愕の表情を浮かべるナッパに、再び言葉を発するラディッツ。

 

 

「ナッパよ、お前も地球でカカロットやその仲間達と過去に戦った事があると言っていたな?」

「ん? あ、ああ……、あいつら自体は大した戦闘力を持っちゃいなかったが、妙な技を色々持ってやがったな……」

 

 

 ラディッツの問いに、ナッパは顎に手を当て地球での戦闘を振り返る。

 そんなナッパの言葉を受け、ラディッツは同意するように頷く。

 

 

「オレもお前とほぼ同じ認識だ。

 だが、その妙な技……特に戦闘力のコントロール……。

 親父の言葉を借りるならば、”気をコントロールする術”が今のオレ達には必要なんだ……」

「なんだよ……? 気のコントロールって……」

 

 

 雑魚と見下していた地球人の技術を学ぶ必要があると聞いた瞬間、嫌そうな表情を浮かべるナッパ。

 たが、超サイヤ人へ到ったバーダックの名前が出た事で、渋々と言った表情でラディッツへ問いかける。

 そんなナッパの様子に、ラディッツは自身も初めて父親から気のコントロールについて話を聞いた時の事を思い出す。

 

 気のコントロールとは、地球で戦った弟やナメック星人が使っていた技術と同様のモノだと言う事に気がついたのだ。

 そして、その時に今のナッパと同じ様な表情を自分も浮かべていた事を思い出し、苦笑を浮かべる。

 しかし、直ぐに表情を元に戻し、再び口を開くラディッツ。

 

 

「今までの会話の流れで凡そ分かっているとは思うが、気のコントロールというのは、戦闘力のコントロールの事だ。

 お前も地球の奴らと戦った時に、こんな経験はなかったか?

 例えば、スカウターで表示されている戦闘力と実際に喰らった攻撃の威力に差があるとかな……」

「そういやぁ……、そんな事もあった様な……。

 まぁ、大した威力じゃなかったから、あんま覚えてねぇがな……。

 それが、どうしたんだよ……?」

 

 

 ラディッツの言葉を受け、改めて地球での戦闘を振り返るナッパ。

 しかし、当時戦った地球の戦士達とナッパの間では残念ながら戦闘力に開きがあり過ぎた。

 それ故に、スカウターの数字と実際の攻撃力に差があったとしても、ナッパにとってみれば誤差でしかなかったのだ。

 

 その為、言われてみればそうだったかも?程度しかナッパの印象には残っていなかった。

 だが、今回はそのスカウターの数字と実際の攻撃力の差が重要なのだ。

 

 

「つまりだ、あいつらはスカウターで計測している数値以上に、攻撃する際に瞬間的に自身の戦闘力を高めていたって事だ……」

「あっ!!!」

 

 

 ラディッツの言葉を受け、ようやくラディッツが言いたい事に気がついたナッパ。

 

 

「お前も知っての通り、普通戦闘力を解放しスカウターで計測すればその数値は、ほとんど一定で変動する事がない。

 それこそ、変身とかしない限りはな……。

 だが、あの地球人達はスカウターの数値以上の戦闘力を発揮する事が出来る。

 しかも、スカウターが計測出来ないほど瞬時に力を引き出す……、いや、高める事が出来るんだ……。

 これこそが、本当に戦闘力をコントロール出来ている証拠なのだと思う……」

 

 

 改めて、言葉にされた事でその技術がどれほど高度で、しかも恐ろしいかを再認識させられたナッパ。

 ナッパやラディッツ、フリーザ軍の流れを組む戦士達はスカウターを使う戦闘に慣れてしまっている。

 彼等はスカウターで計測した戦闘力を元に、自身の戦闘力と比較して戦いを進める。

 

 だが、地球の戦士達はその常識を覆す術を持っているという事だ。

 地球の戦士達とは戦闘力に大きな開きがあったから、あまり大した脅威にならなかった。

 だが、これが自身と大差ない戦闘力を持つ者がこの技術を持っていたとしたら、どうだろう?

 

 スカウターの数値を鵜呑みにして戦闘を開始すれば、計測出来なかった相手の本当の力により大きな痛手は免れないだろう。

 戦闘に生きたナッパだからこそ、その恐ろしさに危機感を抱かずにはいられなかった。

 まさか、見下していた地球人達がそんな高度な事を行っていた事に正直驚きを隠せなかった。

 

 だが、話はここで終わりではなかった……。

 

 

「事の重要性をようやく理解した様だが、この話の面白いのはこれからだ……。

 ナッパ、あいつ等はな、自身の戦闘力を最大から0まで自由自在にコントロールする事が出来るらしいぞ……」

「なんだと!?」

 

 

 ラディッツの言葉を受け、驚愕の表情を浮かべ思わず言葉を発するナッパ。

 それ程、今ラディッツが述べた内容はナッパにとって衝撃的内容だった。

 何故なら戦闘力を0に出来るという事は、スカウター等で存在を捉える事が出来ないという事だからだ……。

 

 実際、ナメック星でスカウターを使う者達からの追跡から、この技術を使ってクリリン達は逃げ延びている。

 生前数多の星を制圧して来たナッパにとって、逃げたり不意打ちを行おうとした隠れた敵を見つけるのに、スカウターには大いに助けられて来た。

 だが、そんなスカウターから逃れられる術があるというのだから、これには素直に驚きを隠せなかった。

 

 

「オレ達も戦闘力を上げたり下げたりは出来ても、流石にそこまでの精密なコントロールは出来ん……」

「むぅ……」

 

 

 しみじみと呟くラディッツに、悔しそうにだが同意する様に頷くナッパ。

 ラディッツやナッパ、それにフリーザといった地球以外の力ある生命体は当然戦闘力のある程度のコントロールは出来る。

 そんな彼等からしても、悟空を始め地球の武道家達ほどの精密なコントロールは出来なかった。

 

 ましてや、生きている者が戦闘力を0にする事などまず不可能だというのが常識だった。

 それ故に、彼等にとって戦闘力が0とは死を意味するに等しかった。

 もしこの技術を活用すれば、追跡から逃れるだけでなく、不意打ちや死の偽装など戦略的に多岐に活用できる事が用意に想像できた。

 

 だからこそ、ラディッツやナッパは戦闘力を0に出来る術が存在した事に驚きを隠せないのだ。

 

 

「さらに……」

「まだ、あんのかよっ!?」

 

 

 言葉を続けようとするラディッツに、すでに情報過多となったナッパは思わずツッコミを入れる。

 そんなナッパのツッコミに、ラディッツ自身彼の気持ちがよく分かるのか、疲れた表情を浮かべながら重い溜息を吐く。

 

 

「はぁ……、今のお前の気持ちはよく分かる……。

 オレも初めて親父からこの話を聞いた時は、お前と同じ心境だったからな……。

 だが、これが最後だ……。 と言うよりも、ある意味これが1番重要と言っていい……」

「なんだよ……? 1番重要って……」

 

 

 ラディッツの疲れた表情を見て、幾分か冷静さを取り戻したナッパは話の続きを促す。

 そんなナッパの言葉に、ラディッツは頷くと再び口を開く。

 

 

「あのな……、戦闘力のコントロールが出来る奴等は、自分以外……つまり他者の戦闘力を感知出来るそうだ……」

「……は?」

 

 

 ラディッツの言葉に、今度こそナッパはポカンとした表情を浮かべる。

 その表情は正にこいつ何を言っているんだ状態だった……。

 だが、ようやく脳がラディッツの言葉を理解したのか、全身を震わせながらその表情が驚愕に染まる。

 

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!?」

「うんうん、お前の気持ちはよぉーーーく分かるぞ、ナッパよ!!!」

 

 

 驚愕の表情を浮かべるナッパに、どこか悟りを開いた様な笑みを向けるラディッツ。

 そんなラディッツの笑みが癇に障ったのか、怒りの表情を浮かべるナッパ。

 

 

「てめぇ、ニヤついてんじゃねぇぞ、ラディッツ!!!

 とういうより、どういう事だ一体!?」

「どうもこうも、言葉通りの意味なんだが……。

 つまりな、カカロットや親父……、そして地球の奴等はスカウターがなくとも他者の戦闘力を感知する事で相手の位置や強さを把握出来るという事だ……。

 正にスカウターいらずとはこの事だな……」

「そっ、そんな事が可能なのか……!?」

 

 

 ラディッツの説明に、ナッパは再び驚愕の表情を浮かべながら逆に疑問を投げかける。

 そんなナッパの問に、ラディッツは重々しく頷き口を開く。

 

 

「戦闘力のコントロールとは、まず自身の中に流れる戦闘力……つまり気を感知する所から始まるそうだ……。

 そういう意味でも、まずこの自分の戦闘力を感知出来るようなるというのは必須だろうな。

 その応用で、他者の戦闘力も感知出来る様になるそうだ……。

 お前もこいつの有用性は十分理解出来るだろう……?」

 

 

 視線を向けられたナッパは重々しく頷く。

 上記に記述したが、ナッパ達は生前スカウターの恩恵を多大に受けてきた。

 だが、スカウターは機械だ……。

 

 当然不具合を起こす事もあれば、破損し故障する事もある。

 特にナッパ達は戦闘要員として、フリーザ軍に在籍していた。

 そんな彼等からしたら、戦闘中にスカウターを装備して戦う事等ざらだった。

 

 その為、激しい戦闘中や戦闘を行った後にスカウターが壊れる事がまれにあったのだ。

 スカウターが壊れてしまった時は、任務にかなり支障をきたしたものだ。

 だが、気のコントロールをマスターすればそれらの問題はクリアされる。

 

 しかし、当然だがスカウターを使うメリットも存在する。

 遠くにいる者との連絡等はその最たるモノだろう。

 だが、それを差し引いたとしても、自身で他者の戦闘力を感知出来るメリットは大きい。

 

 特にスカウターは、敵の存在を感知し戦闘力を計測して、それを画面上に表示するという一連のプロセスがある為、若干タイムラグが発生するのだ。

 その為、とっさの対応に弱い弱点が存在する。

 だが、自身で戦闘力を感知出来れば、それらの弱点は解消できる。

 

 それ等を加味して、ナッパが出した結論は1つだった。

 

 

「なるほどな……。 つまり……、戦闘力のコントロールが出来る様になると、計り知れねぇメリットがあるって訳だな……」

 

 

 ナッパの言葉を受け、ラディッツは重々しく頷き口を開く。

 

 

「ああ……。 戦闘力を扱える事とコントロールする事では、似ているようでまったく別だって事だな……」

 

 

 だが、ここまでの話を聞いて、ナッパは妙な引っ掛かりを覚える。

 

 

「ラディッツよぉ、散々人に戦闘力のコントロールの有用性を語って聞かせたんだ……。

 お前、戦闘力のコントロールの方法について、何か知ってんじゃねぇのか……?」

 

 

 鋭い視線で、ラディッツを睨み付けるナッパ。

 だが、当のラディッツは元々隠す気等なかったのか、軽く頷き口を開く。

 

 

「ああ、親父から多少な……」

 

 

 ラディッツは、あの日……バーダックと悟空が戦った日。

 親子4人で食事をした際に、2人の話を聞いて、彼らが超サイヤ人へ至ったのは才能だけでない事を強く感じ取っていた。

 彼らがあそこまで強くなれたのは、強くなる為にそれに見合うだけの努力と時間を彼らが積み重ねたからだ。

 

 それを自覚してからは、ラディッツも時間が空いている限り1人でトレーニングを積んだ。

 だが、1人では出来る事が限られるし、そもそも自分を追い込むトレーニング……、つまり修行を行った事が無かったラディッツは何をすれば良いのかよく分かっていなかった。

 ただ闇雲にトレーニングを積んだからといって、強くなるわけではない。

 

 悟空やバーダックは自身を導く師によって、彼らに見合った修行を付けてもらい、その後もその経験から自身を高める修練を個人でも行って来たから強くなれたのだ。

 だが、ラディッツにはそんな自身を導いてくれる師と呼べる存在はいなかった。

 なので、ラディッツは意を決して、たまたま地獄に帰省していた父にどうやって強くなったのか、聞いてみる事にした。

 

 ラディッツの父バーダックは、突然の息子の問いに一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐにいつもの仏頂面を浮かべる。

 だが、自身へ問いかけるラディッツの姿から何かを感じ取ったのか、ポツポツと自身がどういう修行を行なって来たのかを語って聞かせた。

 もしかしたら、かつての自分……、トランクスに出会う前の強くなりたいけど何をやっても思う様な成果が得られなかった頃の事を思い出したのかもしれない……。

 

 とにかく、そういう経緯でラディッツは、バーダックから色々な話を聞いていた。

 気のコントロールについても、その1つだった。

 しかも、実演付きでだ……。

 

 そのおかげで、ラディッツは自分1人だけで修行を行なっても、短時間でナッパに匹敵する力を得る事が出来たのだ。

 

 

「なるほどな……。 お前が昔に比べて強くなってやがったのはそういう理由か……」

 

 

 ラディッツのパワーアップの謎が解けた事で、納得の表情を浮かべるナッパ。

 

 

「まぁな……。 だが、まだ思う様には戦闘力のコントロールが出来てはいない……。

 なかなか厄介だぞ、こいつは……」

「だが、そいつをマスターしねぇと、カカロットやバーダック、ベジータには追いつけねぇって事だな……」

「あぁ……。だが、戦闘力のコントロールをマスターせずとも超サイヤ人になる事自体は出来るかもしれんと親父は言いていた。

 しかし、気のコントロールをマスターしていないと、本当の意味で超サイヤ人の力を引き出す事は出来ないのではないかともな……。

 親父やカカロットの様に、超サイヤ人以上の領域へ行く為には戦闘力のコントロールは必須だと思っておいた方がいいのだろうな……」

「なるほどな……」

 

 

 2人はバーダックから聞いた話を踏まえて、その後も今後の修行方針について話し合った。

 それからしばらくして、修行方針が決まった2人は早速行動に移る事にした。

 

 

「よし、とにかく今後の方針は決まったな!

 おい、ラディッツ! せっかくメディカルマシーンがあんだから、早速手合わせすんぞ!!

 幸いこの辺はあまり人が寄りつかねぇからな。

 オレ達が本気で戦っても文句言ってくるヤツはいねぇだろ!!!」

「そうだな……。 早速やるとするか!!!」

 

 

 そう言って、2人は部屋を出て行った。

 こうして、英雄の兄とサイヤ人の王子の元側近の修行の日々が幕を開けたのだった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

ビーッ!!!ビーッ!!!プシュゥーーーッ!!!

 

 

「ふぅ、すっかり元通りだな……。

 あれからほぼ毎日、こいつの世話になってるが本当に大したもんだぜ……」

 

 

 そう言って、ラディッツはたった今自身が出て来たメディカルマシーンに目を向ける。

 先程までナッパとの修行でボロボロで傷だらけだった身体は、今や傷一つ残ってはいなかった。

 

 

「あれから、半年か……」

 

 

 ポツリと呟く様に、ラディッツは口を開く。

 そう、ナッパとラディッツが共に修行を初めて既に半年の月日が流れていた。

 この期間、2人はほぼ毎日、本気の手合わせを行い、その度にメディカルマシーンで傷を癒して来た。

 

 もはや、メディカルマシーンで傷を癒すのは2人にとって1日のルーティンと言っても過言じゃなかった。

 だが、その甲斐あってか2人の戦闘力は半年前とは比較にならない程向上していた。

 しかも、半年前とは違い今はしっかりと気のコントロールまで行える様になっていた。

 

 何故2人がこの短期間で戦闘力を大きく向上させた上、戦闘力のコントロールをモノに出来たかには理由があった。

 その理由とはラディッツの父バーダックが原因だった。

 ラディッツ達が修行を始めたのとほぼ同時期から、タイムパトロールになってからは滅多に地獄に帰ってこなかったバーダックがちょくちょく地獄へ帰ってくる様になったのだ。

 

 そもそもバーダックが滅多に帰ってこなかった1番の理由は、悟空と闘う為に自身の戦闘力を高める為にトキトキ都で修行を行わなければならなかったからだ。

 だが、悟空との闘いを終えた事で一区切りついたのか、修行は依然続けている様だが、昔ほど時間に追われる必要がなくなったからか、仕事に余裕がある時はちょくちょく帰ってくる様になったのだ。

 そして、そんなバーダックに2人は頼み込んで、修行の相手をしてもらったのだ。

 

 そうして、2人は一応だが師匠を確保する事に成功する。

 だが、バーダックの修行は修行というにはあまりに苛烈でもはや扱きだった……。

 毎回初めこそ面倒くさそうに相手をしているものの、時間が経つにつれどんどん攻撃の手が激しくなるという物凄いスパルタっぷりを発揮したのだ。

 

 バーダックと2人の間には、隔絶した実力差があるというのに、全く容赦が無く、ギリギリ2人が気絶しないレベルで、ボコボコにするのだ。

 しかも、罵声と怒声という有り難くないおまけ付きだ。

 ヌルい攻撃や、気の抜けた対応をしようものなら、一切の容赦の無い攻撃と罵倒が飛んで来るので、2人は気が気じゃなかった。

 

 それだけ容赦の無いバーダックの鋭い攻めを凌ぐ為に、付け焼き刃の気のコントロールだろうと何だろうと自身達が持つ全ての技術や精神力を動員して2人は喰らい付いていった。

 その甲斐あって、2人はいつの間にか当たり前に気のコントロールを組み込んだ戦闘が出来る様になっていた。

 正直、この2人の戦闘力の伸びは、修行をつけていたバーダックから見ても目を見張るほどのものだった……。

 

 それだけ辛いバーダックの修行という名の扱きを2人が何度も自ら受けたのには、しっかりとした理由があった。 

 それは、単純にバーダックと修行を行った日は、辛かった分、成長した実感を得られたからだった。

 後は、2人のプライドがバーダックにやられっぱなしを良しとしなかったのだ。

 

 今更サイヤ人の階級制に拘る2人ではなかった。

 だが、下級戦士と判断され、努力で伝説の領域に足を踏み入れた男に、そもそもスタート地点で勝ってるいる自分達が、気持ちで負ける訳にはいかない!という妙な意地を持ってしまったのだ。

 しかし、その意地がなかなか馬鹿に出来なかった……。

 

 結果としてだが、この意地は2人を大きく成長させる切っ掛けとなったのだ。 

 毎回バーダックにボコボコにされた2人は、次こそはバーダックを見返す為にと、それまで2人で行なって来たものよりも更に激しい内容の修行を行う様になったのだ。

 その為、毎日修行後の2人は、互いの攻撃を限界まで喰らって虫の息の状態で、半分身体を引きずりながら、メディカルマシーンへ入っていた。

 

 そのせいで、かつてのフリーザ軍のアジトの入り口からメディカルマシーンがある部屋までの廊下は、消す事が難し程2人が流した血で赤く染まっていた。

 そんな常軌を逸する様な修練を半年も続けて来たのだ……。

 その結果、それに見合うだけの戦闘力を2人が有する様になるのは当然といえば当然なのだ……。

 

 だが、それだけの厳しい修練を積んでも、2人は未だ超サイヤ人への覚醒を果たせないでいた……。

 

 

「ふぅ……、さて、そろそろ戻るとするか……。 ん?」

 

 

 ラディッツは、自身が出て来たメディカルマシーンの隣にある、別のメディカルマシーンに目を向ける。

 だが、そのマシーンは稼働しておらず、もぬけの殻だった。

 その様子にラディッツは首を傾げる。

 

 

「どういう事だ……? ナッパのヤツここに一緒に来たはずなのに何処へ行った……?」

 

 

 ラディッツが気になったのはナッパの存在だった。

 修行を終えた2人は確かにここへ一緒にやって来たのだ。

 だが、当のナッパは現在メディカルマシーンの中どころ部屋の中にすらいない。

 

 その事に、ラディッツが疑問を覚えるのは当然だった。

 

 

「オレと同じタイミングでここにやって来たのだから、治療を終えるのも同じはずなんだが……」

 

 

 首を傾げながら普段ナッパが使っているメディカルマシーンに近づき、中を覗き込むラディッツ。

 

 

「ふむ、どうやら使った形跡はない様だな……。 という事は、あいつまだ治療していないのか……?」

「おぉ、ラディッツ……。 お前、もう治療が終わったのか」

 

 

 ラディッツがメディカルマシーンの中を覗いていると、後ろからナッパの声が聞こえて来た。

 その声にラディッツ振り返ると、ボロボロの状態のナッパの姿があった。

 

 

「ナッパ!? お前、治療もせずに何をやっているのだ……?」

「ん? ちょっとよ、こいつを探してたんだよ……」

 

 

 ラディッツの問いかけに、ナッパは手に持っていたとある機会を差し出す。

 ナッパの掌には、ラディッツ達にとって見慣れた機会がのっていた。

 

 

「それは……、スカウターではないか」

 

 

 そう、ナッパが持っていた機械とは、昔ラディッツ達がよく使っていた、相手の戦闘力を測る機会……スカウターだった。

 だが、何故ナッパがそんなものを探していたのか、ラディッツにはその意図が掴めなかった。

 

 

「何故今更スカウターを? オレ達は既に気を察知できる様になっているだろう……」

 

 

 ラディッツが言葉にした様に、半年の修行のおかげで、2人は既に他者の気を感知する事など当たり前に出来る様になっていた。

 つまり、今の自分達にはそんなモノは必要ないだろうと、ラディッツは言外に告げているのだ。

 そして、当のナッパも同意する様に首を縦に振る。

 

 

「まぁな……。 確かにお前が言った様に今のオレ達にはこいつは必要ねぇ……。

 だがな、ちょっと興味があったんだよ」

「興味だと……?」

 

 

 ナッパの言葉に、ラディッツは不思議そうに首を傾げる。

 そんなラディッツに人の悪い笑みを浮かべるナッパ。

 

 

「お前、最後にスカウターで測った戦闘力の数値、覚えてるか……?」

「戦闘力の数値だと……? 確か……1500くらいだったか……」

 

 

 ナッパの問いかけに、ラディッツは過去に測った自身の戦闘力を思い出す。

 その戦闘力を聞いて、ナッパは小馬鹿にした様な笑みを浮かべる。

 

 

「へっ! ずいぶん低い数値だな!!」

「やかましい!!!」

 

 

 とりあえずナッパにツッコミを入れたラディッツは、「ふぅ」と一息つくと改めてスカウターに視線を向ける。

 

 

「……で、お前は結局何がしたいんだ……?」

「ちょっとよ、昔と比べてどれくれぇ成長したのか調べてみようと思ってな!!!

 オレ達は気で自分や相手の強さが分かる様になったが、数値としてどれくれぇ上がったのか、ちょっと気になったんだよ!!」

「ふむ、なるほどな……。 そう言われてみると、確かに気になるな……」

「だろ!!!」

 

 

 得意気な笑みをラディッツに向けるナッパ。

 ラディッツも確かに今の自分が昔に比べてどれくらい成長したのか気になったので、戦闘力を改めて計測する事に異論はなかった。

 しかし、ここでラディッツはふとナッパが持つスカウターを見て思い出した事があった。

 

 

「だが、そのスカウターで計測出来るのか……?

 今のオレ達のフルパワーの戦闘力は、自分で言うのも何だが相当高くなっているはずだぞ」

 

 

 ラディッツの記憶の中のスカウターは、最新式のものですら2〜3万程度の戦闘力で計測不能を起こしていた。

 昔はその数値がはるか遠いものであったが、今のラディッツにとってその程度の戦闘力は軽く力を込めただけで達する事が出来る数値になってしまった。

 それ故に今の自分とナッパの戦闘力をスカウターが計測し切れるのか、気になったのだ。

 

 だが、それはどうやらいらない心配だったらしい。

 

 

「そいつは心配ねぇ……。

 こいつは、あのフリーザの最終形態の戦闘力くらいまでなら、何とか耐えられるくらいのスペックがあるみてぇだからな……。

 いくら、オレ達が強くなったっつっても、流石に超サイヤ人と戦える最終形態のフリーザレベルまでは、まだ至ってねぇからな……」

 

 

 どうやらナッパやラディッツが死んでいる間に技術の方も進歩したせいか、2人の戦闘力にも耐えられるスカウターが既に開発されていた。

 恐るべきフリーザ軍の科学力である。

 

 

「なるほど……。 それならばオレ達の戦闘力くらいなら計測出来そうだな……」

「そう言う事だ。 さて、オレがメディカルマシーンで治療を終えたら、早速こいつで計測してみようぜ」

 

 

 そう言い残したナッパは、全身ボロボにも関わらず意気揚々とメディカルマシーンの中へ入っていた。

 そんなナッパの様子に溜息を吐きながら、ラディッツは部屋の壁へ背を預ける。

 

 

「はぁ、あいつが治療を終えるまで、オレは待たねばならんという事か……。

 それだったら、治療を終えた後にスカウターを探せばいいものを……」

 

 

 自身への迷惑を一切考えないナッパの行動に愚痴を吐きつつも、ラディッツはナッパの治療が終わるまで1人目をつぶり時間を潰すのだった。

 表情にこそ出さないが、自身がとれくらい成長したのかを楽しみにしながら……。

 そうやって、新たに修行に目覚めた2人のサイヤ人の時間は、今日もゆっくりと過ぎてゆくのだった……。

 

 

 

■スカウターでの計測結果(最大戦闘力数)

 

ナッパ:1,300万 

ラディッツ:1,295万

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