ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 10

■Side:ラディッツ

 

 

 オレを殺したナメック星人が現れてから、戦いの展開は大きく変わったと言っていいだろう。

 フリーザが変身タイプだったというのも驚いたが、まさか全部で3段階もの変身を可能にするとはな……。

 第2形態の時点でベジータやカカロットのガキも歯が立たなくなり、殺されるのも時間の問題だと思ったが、何とかしぶとく生き残りやがった。

 

 だが、ナメック星人が戦いに加わり第3形態になってからのフリーザは、パワー・スピードがさらに上がり、第2形態には見られなかった冷静さが備わった事で単純なパワーアップよりも厄介な存在へとなりやがった。

 このオレから見ても、ナメック星で戦っているヤツらはよくやっている……。

 単純な戦闘力では、フリーザ相手では全く勝負になっていないが、小賢しい技や知恵、そしてフリーザ自身の余裕から生まれる隙を見事について喰らい付いている。

 

 だが……、裏を返せはこの状況は、あくまでフリーザがヤツらに付き合っているだけの話なのだ……。

 その気になれば、フリーザと戦っているヤツらは1分もしないで、瞬殺される事だろう……。

 そして、その時はもう間も無く訪れるだろう……。

 

 

 ラディッツが水晶を見ながらこれまでの戦いとこれからの考察をしていると、水晶の中では戦いが更なるステージへ突入しようとしていた。

 フリーザが最後の変身を披露すると宣言し、気合いの掛け声とともにこれまで以上のオーラを放出しだしたのだ。

 

 

『があああああ……!!!』

 

 

 禍々しいオーラを放ち続けている、フリーザの姿を見ていた地獄のサイヤ人達はその禍々しさに、自然と冷や汗が流れて仕方なかった。

 実際に対峙している訳でもないのに、ここまでの絶望感を味わった事は過去になかった。

 

 

「くそっ!ついにフリーザの野郎が最後の変身を行いやがった!!!!」

「今までだってバケモンだったてのに、どうすんのさ!!!」

 

 

 トーマやセリパが述べた様に、地獄にいるサイヤ人達にはこの戦いで悟飯達が勝つビジョンが全く浮かばなかった。

 そんな時だった……、ありえない光景が映し出されたのだ。

 

 なんと、クリリンがベジータに向かって気功波を至近距離から叩き込んだのだ。

 気功波で腹を貫かれたベジータは、笑みを浮かべながら地上へと落ちていった……。

 

 

「おっ、おい……、あのハゲ、王子に向かって攻撃しやがったぞ……」

「ついに、トチ狂っちまったのか??」

 

 

 クリリンの謎の行動に、地獄のサイヤ人達だけでなく、悟飯やピッコロも同様に驚いていた中で、1人だけベジータの思惑に気付いた存在がいた。

 

 

「なるほどな……、確かにフリーザに対抗するには現状それしかねぇかもな……。だが、そいつでどこまで奴との差を埋められるか……」

 

 

 ベジータの思惑に気付いたのは、先ほどまでギネ達にサイヤ人の特性について語っていたバーダックだ。

 だが、バーダックはベジータがパワーアップしても、フリーザを上回るほどのパワーアップは望めないのではないかと、内心で考えていた。

 

 水晶の中ではデンデによって、悟飯、ピッコロ、クリリンが回復されている姿が映し出されていた。

 その時だった……、水晶の中から轟音が響き渡ったのは……。

 

 フリーザが変身を行なっていた場所は、現在爆煙が立ち上がっていてフリーザの姿を隠していた。

 

 

「つ、ついに……、フリーザの野郎の変身が完了しやがったか……。ヤツの真の姿が拝めるってわけか……、正直、見たくはなかったが……」

「あぁ、どんな化け物じみた姿になってるのか、想像もつかねぇぜ……」

 

 

 地獄のサイヤ人達が変身したフリーザに思いを馳せている時、ナッパが水晶の端に映っている異変に気付いた。

 

 

「おい!あれ見てみろ、ベジータのヤツも回復してもらったみたいだぞ!!!」

 

 

 ナッパが指を指した水晶の端では、デンデによって回復されたベジータが映し出されていた。

 しかも、回復してくれたデンデを蹴っ飛ばしている、なんとも恩知らずな行動をとっている姿が映し出されていた。

 恐らく、最初に回復を頼んだ時に拒否され、長い時間放置されていた事が原因なのだろうが、デンデの有用性を理解しているからこそ殺さなかったのだろう。

 

 だが、続いてベジータから飛び出した言葉には、地獄のサイヤ人達にとって信じられないものだった……。

 

 

『フ……フリーザでもなんでもきやがれ!オレはたった今、超サイヤ人になったんだ……!』

 

 

 ベジータの表情はこれまで見た事がないほどの、自信に満ち溢れていた。

 

 

「おい……、超サイヤ人て、あれだよな?確か伝説の……」

「あぁ……、確か1000年に1人現れるとかなんとかっていう……」

「それが、王子って事?」

 

 

 地獄のサイヤ人達は、まさか自分達一族の伝説がこんなところで出てくるとは思わなかった為、ベジータの言葉に困惑していた。

 だが、その困惑も長くは続かなかった……。

 何故なら……、水晶には変身を終えた宇宙の帝王の真の姿が、ついに映し出されたからだ。

 

 

「ついに、姿をあらわしやがったか……」

「あっ、あれが……、本当にフリーザ……?」

 

 

 バーダックやギネが困惑した様な声を上げたのもしょうがないだろう……。

 何故なら、変身を終えたフリーザはこれまでと全く異なる変身を遂げていたからだ。

 

 これまでは、変身を重ねてもどこか第1形態の特徴を引き継いだ形態をしていたが、最終形態は余計な棘などの装飾を一切排除した、いたってシンプルな人型の形態だった為だ。

 しかも、身長もそこまで高くなかった為、外見だけみれば今までの形態の中で1番弱く見えてしまう。

 

 

「おいおい、ずいぶん可愛らしい姿になっちまったじゃねぇか!」

「あぁ!あんま強くなった様には見えねぇよなぁ!!!」

 

 

 ナッパやパンブーキンは、その外見から最終形態のフリーザを舐めてかかっている様だった。

 だが、それは他のサイヤ人達も同じだった様で、若干余裕を取り戻していた。

 だが、この男は違っていた。

 

 

「お前等の目は節穴か?外見に惑わされてんじゃねぇ!!!ちっ、こいつは想像以上にヤベぇぞ……」

「どうしたってのさ?バーダック……」

「さっきフリーザが変身している間、王子とゴハンはあのナメック星人のガキに回復してもらって、また大幅なパワーアップを遂げやがった。

 特に王子はほとんど瀕死だった状態からの、復活だったから、戦闘力の向上はかなりのもんだろう……。

 オレは正直に言えば、パワーアップしたゴハンと王子、そしてあのナメック星人の野郎がいれば、変身したフリーザ相手でもなんとか食い下がる事ぐらいは出来ると考えていた……。

 だが、ヤツの今の姿を見てハッキリ分かった……。

 あいつ等じゃぁ、万に一つも勝ち目なんかねぇ……」

 

 

 皆がバーダックに視線を向けた時、あのバーダックが冷や汗を流し若干震えていたのだ……。

 どんな相手にも屈したことが無いこの男がだ……。

 ここにいるサイヤ人のほとんどは、バーダックの戦闘勘をよく知っていた為、バーダックが本気で述べているのだということを瞬時に理解した。

 

 地獄のサイヤ人達が冷や汗を流していると、ついにフリーザの真の力がナメック星にいる戦士達に牙を剝こうとしていた。

 水晶の中のフリーザが腕を上げた瞬間だった……。

 地獄のサイヤ人達やナメック星にいる戦士達は、一瞬光が走ったと感じた時には事態は大きく動いていた。

 

 

『これで、もう復活はできない……』

 

 

 光が一瞬走ったと感じたその後に響いた轟音により、皆の認識が現実に追いつくと、そこにはデンデの死体が転がっていた。

 

 

「みっ、見えなかった……、攻撃が一切見えなかった……。あの野郎、ナメック星人のガキが復活させていたって気付いていやがったのか……」

「どうするのさ!?これで、王子達はもう復活することが出来ないじゃないか!!!」

 

 

 デンデの死は地獄のサイヤ人達にも大きな動揺を与えていた。

 それはそうだろう、悟飯にしろベジータにしろデンデに復活してもらえていたからこそ、ギリギリで死を免れ、サイヤ人の特性により大きくパワーアップする事が出来ていたのだ。

 そのデンデが死んだという事は、今後パワーアップも望めないどころか、戦闘不能に陥入れば二度と戦うことも出来ず死を迎えるだろう。

 

 デンデを殺した事で、これまでさんざん回復によって煮え湯を飲まされたフリーザの溜飲が下がったのか、その表情には余裕の笑みが浮かんでいた。

 戦士達がデンデの死で動揺していると、フリーザはそんな事全く気にする素振りも見せず、一瞬で悟飯、クリリン、ピッコロの前に移動してみせた。

 その移動速度は、正しく消えたと形容するに相応しい速度だった。

 

 

『約束でしたよね、地獄以上の恐怖を見せてあげるって…………』

 

 

 フリーザが告げたその瞬間、先手を取る様に戦士達は動き出した。

 

 

『だああああぁーーーーーっ!!!!』

『くっ、くそーーーーーっ!!!!』

『ちっ!!!!』

 

 

 最初に動いたのは、悟飯だった。

 そして、それにのっかるようにクリリンとピッコロも瞬時に攻撃に加わる。

 3人からの息もつかせぬ連続攻撃がフリーザを襲う。

 

 だが、フリーザはそれを余裕の表情で躱し続ける。

 しかも、恐ろしい事にフリーザはその場を一歩も動いていないのだ。

 

 このままでは埒が明かないと感じたのか、ピッコロが1人空中へ飛び上がると気功波を地上にいるフリーザへ向けて放つ。

 それを、空中へ飛ぶ事で躱すフリーザ。

 そして、その隙を逃さないとばかりに悟飯とクリリンがかめはめ波と連続エネルギー弾で追撃する。

 

 2人の攻撃が当たろうとした瞬間、3人の目の前からフリーザの姿が忽然と消えたのだ。

 

 

『!?きっ、消えたっ……!!!』

 

 

 思わずクリリンが言葉を発したその瞬間だった、フリーザの動きを唯一捉えていた存在が声が声を上げる。

 

 

『後ろだ!!!!』

『そのとおり』

 

 

 フリーザの動きを捉えていたのは、ベジータだった。

 そして、ベジータの言葉を肯定しながら悟飯達3人の後ろに姿を現すフリーザ。

 姿を現したフリーザは、先ほどの反撃と言わんばかりに攻撃を放つ。

 

 その攻撃の対象となったのは、悟飯だった。

 だが、悟飯は目の前で放たれたはずのその攻撃に反応する事が出来ず、動くことすら出来なかった。

 

 

『よけろバカ!!!』

 

 

 攻撃が悟飯へ直撃するその瞬間、またしてもフリーザの動きを見切ったベジータに蹴り飛ばされる事で命を拾った悟飯。

 ベジータ以外の3人は、フリーザから繰り出される攻撃があまりに速すぎて、唖然とした表情をしていた。

 そして、それは地獄で観戦しているサイヤ人達も同様だった。

 

 

「なんだよ……、あの攻撃……、全く見えねぇぞ……」

「光ったと思ったら、攻撃が終わってるだと……」

「だけどよ……、さっきから気になってたんだが、ベジータのヤツ、フリーザの攻撃が見えてるんじゃねぇか?」

 

 

 確かに、トーマやパンブーキンが言った様にフリーザの攻撃には驚いた……。

 だが、それ以上にナッパが言った様に、ベジータにはさっきからフリーザの動きが見えている様に思えてならん。

 まさか、本当にベジータにはあのフリーザの動きが見えているのか??

 

 だが、フリーザにとっては、まだ今までの攻撃もお遊び程度って感じだな……。

 現にフリーザのツラはまだまだ余裕があるって感じだ。

 にしても、あのベジータが他人を助ける姿を見るとはな……。

 

 

 水晶には助けられた悟飯が、ベジータにお礼を言っている様子が映し出されていた。

 

 

『勘違いするな、助けたわけじゃない……。貴様らにいいものを見せてやろうと思ってな……』

『ま、まさか、お前勝つ自信があると言うのか…………!?』

『まぁな……、貴様らは邪魔だ。引っ込んでよく見ておくんだな』

 

 

 ベジータの言葉を聞いて、悟飯、クリリン、ピッコロの3人は惚けた表情でベジータを見ていた。

 

 

『たいした自信だねベジータ……、それとも恐怖のあまりアタマがおかしくなったのかな?』

 

 

 フリーザはベジータの発言がただの虚勢と判断したのか、その表情は余裕の笑みが浮かんでいた。

 

 

『今のうちにそうやってニヤニヤ笑っていろ……!ここにいるのが貴様の最も恐れていた超サイヤ人だ』

 

 

 ベジータの宣言に一瞬だけ、目を開いて驚きの表情を覗かせたフリーザだったが、ベジータから感じられる実力にそこまでの脅威を感じなかった為、やはり虚勢と判断したのか、その表情はまたすぐに余裕の笑みを浮かべる。

 

 

『ふっふっふっふ……、相変わらずジョーダンきついね……』

 

 

 そのやり取りを見ていたバーダックは、ふと昔のことを思い出していた……。

 そう、自分がフリーザに消し飛ばされる寸前にフリーザが発した言葉を……。

 

 

「超サイヤ人……か……」

「ん?親父、どうかしたのか?」

 

 

 バーダックの呟きを拾った、ラディッツが問いかける。

 

 

「いや、そういやぁ、フリーザの野郎が超サイヤ人を警戒してやがったのは、確かだったってのを思い出しただけだ……」

「そうなのか!?ってか、フリーザは超サイヤ人の事しってたのか!?あれは、サイヤ人の伝説というか、おとぎ話みたいなモノで、その姿を見た事があるヤツはいないって聞いたが……」

 

 

 ラディッツにはバーダックの発言が信じられなかった。

 今水晶の中で、圧倒的な強さを見せているフリーザが警戒する様な存在がいる事もそうだったが、その存在がサイヤ人の自分からしても空想の域を出ない様な伝説の存在だったからだ……。

 

 

「あいつが、どういう経緯で超サイヤ人を知ったのかまでは、オレも知らねぇ。だが、あいつは惑星ベジータを吹っ飛ばす前、オレと対峙した時に確かに言いやがったからな……」

「た、対峙しただと!?親父、惑星ベジータがフリーザに破壊される前にフリーザと戦っていたのか!?」

「ん?なんだ?知らなかったのか?」

「知るわけないだろう!!」

 

 

 ラディッツは、まさかバーダックが惑星ベジータが滅ぶ前に、フリーザと戦っていた等知る由もなかったので、この反応は当然といえば当然だ。

 

 

「そ、それで……、フリーザは何て言ってやがったんだ?」

「ああ、『伝説の超サイヤ人とやらが現れたりすると……不愉快ですからねぇ』ってな……」

 

 

 若干疲れた様に問いかけるラディッツにバーダックは当時を思い出す様に、フリーザが自身に向けて言った言葉を語る。

 

 

「超サイヤ人は、フリーザさえ警戒させる何かがある……ってことか?」

「さぁな。そもそも、伝説って言われちゃいるが、誰も見たことがねぇんじゃな……」

 

 

 2人は超サイヤ人にフリーザが警戒するだけの何かがあるっていうのは予測がたっても、バーダックが言った様に、誰も見た事ない存在なので、全く予想がつかなかった。

 そんな2人に第三者の存在が声を掛ける。

 

 

「はっはっは……、案外、大昔にフリーザの先祖が超サイヤ人に痛い目にあってたりしてなぁ!」

「そんな事あるわけないだろう……」

 

 

 2人の会話に入ってきたのはナッパだった。

 ナッパの言動のあり得なさに、呆れた様な表情を浮かべながら反論するラディッツ。

 バーダックも内心では、ラディッツと同じ事を考えていたその時だった……。

 

 死んでから感じることがなかった、懐かしいあの痛みがバーダックを襲ったのだ……。

 痛みで頭を押さえ一瞬目を閉じて、目を開いた時にはバーダックの目の前の光景は大きく様変わりしていた。

 

 バーダックの目の前には、見慣れた地獄の光景ではなく、何処か懐かしさを感じる別の惑星で2人の存在が対峙していた。

 1人は、金髪で翠色の瞳をした自分とよく似た服装をした男。

 もう1人は、どこかフリーザに似た面影を感じる事が出来る存在。

 

 バーダックが目の前の事態に、困惑していると……

 

 

「親父!!」

「はっ!……ラディッツ?」

 

 

 ラッディツに大声で呼ばれた事で、目の前の光景は見慣れた地獄の景色に戻っていた。

 バーダックらしくない惚けた顔でラッディツを見ると、先ほどまで話していたラディッツとナッパが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

 その様子に気付いた、他のサイヤ人達もバーダック達の元へやってきた。

 

 

「どうしたんだい?ラディッツ??」

「おふくろか!親父が急に頭を抑えてな……」

「な、なんだって!?」

 

 

 ラディッツから事情を聞いた、ギネはバーダックが昔、妙な状態になっていた事を思い出し、バーダックに駆け寄る。

 

 

「大丈夫かい?バーダック!!」

「ああ……、心配するな、ちょっと立ちくらみを起こしただけだ……」

「立ちくらみって……」

 

 

 頭をふって、片手でギネを制するバーダック。

 そして、それを心配そうに見つめるギネ。

 誰の目から見ても、今のバーダックは様子がおかしかった。

 

 

「本当に大丈夫か?顔色悪いぞ、お前」

「無理すんなよ」

「大丈夫だって、言ってんだろ!それより、王子が仕掛けるみてぇだぞ」

 

 

 心配になったトーマやパンブーキンが声を掛けるが、これ以上この話題を引っ張りたくなかったバーダックは水晶を指差し、皆の意識を他に移す。

 

 

(ちっ、なんだって、こんな時にあの力が発動すんだ?死んでから一度も発動しなかったのに……)

 

 

 皆の意識が水晶に移った事を確認したバーダックは、先程の事を思い出していた。

 

 

(あの力は未来を見るための力だったはずだ……。くそっ、あの2人がどこのどいつかは分らねぇが、今起こっているこの戦いとなんか関係があるのか?それとも、別の何かか??)

 

 

 しばらく、考え込むバーダックだったが結局答えは出ず、これ以上考えても無駄だと思い、皆と同じ様に水晶に視線を移す。

 水晶にはフリーザに向かって飛び出したベジータが映し出されていた。

 

 

『カカロットの出番はないぜっ!!!!』

「はえぇ!!」

 

 

 誰が言ったのかは、分らなかったが確かにベジータの動きは、第三形態のフリーザすら上回る程、速く力強いものになっていた。

 これが、ベジータの言う超サイヤ人の力なのか!?

 

 

 ラディッツがベジータのパワーアップに驚いていると、ベジータの超スピードの攻撃をフリーザはそれを更に上回るスピードで躱す。

 だが、ベジータはそれをも見切っていた。

 

 

『見えてるぞ!!!!』

 

 

 ベジータが躱したフリーザに追撃をかけ、ベジータの手刀がフリーザにヒットした瞬間だった。

 ヒットしたフリーザの体がブレたのだ……。

 そして、まるでそこには最初から何も存在していなかったかの様に、フリーザの姿が忽然と消えてしまった。

 

 

『な……!!!』

 

 

 その状況が信じられなかったベジータは、驚愕の表情を浮かべながら首を左右に振りながらフリーザの姿を探す。

 そんな時、ベジータの耳にフリーザの声が届いた。

 

 

『はっはっはっはっは……』

『!?』

 

 

 声のした方に、急ぎ視線を向けると腕を組み余裕の表情でベジータを見上げているフリーザがそこにはいた。

 

 

『ちょっと本気でスピードをあげたらついてこれないようだね……、それでも超サイヤ人なのかな……』

『バ……バカな……、く……くく…………』

 

 

 冷や汗を流し震えながら、まるで現実を受け入れられない様に歯を噛みしめるベジータ。

 

 

『はっきり言って、そんな程度のスピードではこの僕にはとても勝てないよ。

 笑わせないでくれ。所詮超サイヤ人なんてただのくだらない伝説だったんだ』

『オ……オレには、こ……これが限界だというのか……!!

 バカな……そ……そんなはずはない……!!』

 

 

 フリーザから告げられた言葉は、ベジータのプライドや自信を大きく傷つけた。

 そして、ベジータの中で何かが切れた……。

 

 

『オレは…………、オレは超サイヤ人だーーーーーっ!!!!!くたばれフリーザーーーーーッ!!!!!』

 

 

 追い詰められたベジータは、自分の中にある全ての力をエネルギー波にのせ、フリーザ目掛けて放った。

 その凄まじさは先ほど、フリーザに向けて悟飯が放ったものとは比較にならなかった。

 

 

「血迷ったか、王子の野郎!!あれじゃ、ナメック星も吹っ飛ぶぞ……!!!」

 

 

 ベジータの攻撃に、地獄で見ていたバーダックはつい声を上げてしまった。

 それは、当然だろう。ベジータの攻撃は当たるにしろ、避けられるにしろ、どちらにしろ星を吹っ飛ばすには十分すぎるほどの威力が込められているのだから。

 

 だが、バーダックの心配はあり得ない形で杞憂となってしまった。

 そう、この存在によって。

 

 

『きえええっ!!!』

 

 

 奇声を上げたと思ったフリーザだったが、なんと超巨大なエネルギー波にむかって突っ込んでいく。

 もうまもなく直撃すると思った瞬間、なんとフリーザは超巨大なエネルギー波を左足の一蹴りで、真上と跳ね返したのだ。

 あり得ないスピードで上空へ飛んでいく、エネルギー波。

 

 

『あ……ああ…………、あ…………』

 

 

 跳ね返されたエネルギー波を呆然とした表情で見上げるベジータ。

 

 

「う……嘘だろう…………」

「あ……あのエネルギー波を……、片足だけで……蹴り飛ばしやがった……」

「い……今の王子の攻撃、と……とんでもない……威力だったのに……」

 

 

 地獄にいるサイヤ人達は、フリーザがみせたあり得ない行動に心底動揺を隠せなかった。

 避けるなら分かる。

 エネルギー波で相殺するのも分かる。

 

 だが、あれ程の超巨大なエネルギー波を蹴り返すっていうのは、いくらなんでも想像の埒外だ。

 そして、それはフリーザへの恐怖へと帰結する。

 

 

『今度は……、こっちからやらせてもらうよ……かるくね……』

 

 

 そのフリーザの台詞は、今のベジータにとって正に死の宣告に等しかった。

 当のベジータは、もはや震え涙を流す事しか出来なかった。 

 

 ベジータは生まれて初めて心の底から震え上がっていた……。

 真の恐怖と決定的な挫折によって……。

 恐ろしさと絶望に涙を流したのも初めてのことだった……。

 

 ベジータはすでに戦意を喪失していた……。

 

 

 それでも、フリーザは止まらない。

 一瞬でベジータへ近づくと、そのスピードを生かしたまま頭突きを喰らわせる。

 さらに、吹き飛んだベジータをあびせ蹴りで地面へと叩きつける。

 

 口から血を吐き出しながら、猛スピードで地面へ落下したベジータは、轟音と共に巻き起こった砂埃の中で横たわっていた。

 攻撃自体はたった2発なのにも関わらず、すでにベジータは満身創痍だった。

 

 

『ゴ……ゴホッ…………、……うっ…………』

 

 

 痛みでもはや声もあげられなくなっているベジータの頭上に、フリーザが現れる。

 そして、倒れているベジータの首に尻尾を巻きつけると、無理やり引っ張り起こす。

 尻尾により持ち上げられた、ベジータは背後からフリーザに強烈な右パンチを喰らう。

 

 

『ごふっ!!!』

 

 

 あまりの威力に、口から血を吐き出すベジータ。

 その威力は滅多なことでは損傷することがないフリーザ軍の戦闘服が砕けている事からも、凄まじさが容易に想像がつく。

 

 そんな時、ふとフリーザが思い出した様に悟飯達へ視線を向ける。

 

 

『手助けしたかったらいつでもどうぞ……』

『…………』

 

 

 フリーザに声をかけられた悟飯達だったが、何も返す事が出来なかった。

 まるで次元が違う戦闘力を持つフリーザへの恐怖のため、3人はまるで金縛にあった様に動く事が出来なかったのだ……。

 

 そして、それは地獄のサイヤ人達も同じ事だった。

 ベジータがこの様な状況になっているにも関わらず、誰一人として言葉を発する事が出来なかった。

 

 そこまで、フリーザという存在の恐怖が蔓延してしまったのだ。

 

 フリーザは相変わらずベジータの背後から、両手でパンチを打ち続けていた。

 フリーザがパンチを打ち込む度、ベジータの口から血が吐き出される。

 

 そして、それを黙って見ている事しか出来ない、悟飯、ピッコロ、クリリン、そして地獄のサイヤ人達。

 

 だが、そんな時間もついに終わりがやってこようとしていた。

 しばらくベジータを殴り続けいていた、フリーザだったが首に巻きつけ、ベジータの体を支えていた尻尾で、ベジータを岩壁へと投げとました。

 

 

『つまらん……、戦う気がまるで無くなちゃったようだね……。ちょっと早いけど、トドメをさしちゃおうか!』

 

 

 ついに、フリーザによってベジータへの最後通告が告げられる。

 岩壁に叩きつけられたベジータへフリーザが近づき、ベジータの首を左手で持ち上げ、トドメをさそうとしたその瞬間だった。

 

 ズザァ……っと地面が、擦れる音が響いたと同時に突風が吹き荒れたのは……。

 

 音の方へ視線を向けると、1人の男がそこには立っていた。

 

 男の視線はフリーザ1人を睨みつけていた。

 

 

 男が現れた時、地獄でこの戦いを観戦していた1人のサイヤ人が笑みを浮かべていた。

 

 

「ようやく現れやがったか……、カカロット!!」

 

 

 今、数十年前から予知されていた因縁の対決の火蓋が、ついに切って落とされようとしていた。

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