ドラゴンボール -地獄からの観戦者- 孫悟空VSバーダック編 2.5
■Side:ラディッツ
「フーン、フーン……、フフーン……♪」
オレは眼の前の光景に何とも言えない表情を浮かべる……。
オレの眼の前では、頭に麦わら帽子、そしてオーバーオールを身に纏い、ついでに足元に長靴を装備している。
いわゆる農業ファッションを着こなした、筋骨隆々の男が鼻歌を歌いながら作業を続けていた……。
まぁ、この服装は畑仕事をする時に皆着るので、男が特別というわけではない。
ないのだが……。
(お前似合いすぎだろ……)
オレは、そんな事を考えながら目の前の男に目を向ける。
その男は、物凄いスピードで畑の雑草を除去していく。
しかし、その男の手がふと止まり、こちらに視線を向ける。
その男とオレの視線が交差する。
男はオレの手が止まっている事に気が付くと、憤怒の表情を浮かべる。
「ラディッツ!! てめぇ、何サボってやがんだっ!!!」
「はぁ……」
男から飛び出た言葉に、オレはついため息をついてしまった。
オレの様子に男は不思議そうに首を傾げながら、男が近づいてくる。
「なんだ、どうした……?」
「いや、まさかお前がここまで農業にハマるとは思わなかったぞ……。 ナッパよ……」
ナッパからの問いかけに、オレは首を振り本心を隠しながら口を開く。
そんなオレの言葉にナッパが顔を真っ赤にして口を開く。
「ば、馬鹿野郎! ハマってるわけねぇだろ! オレは戦闘民族サイヤ人だぞ!!」
「はぁ……、鼻歌を歌いながら雑草を採っていた奴が言うセリフではないだろ……」
オレは、ナッパの言葉に再びため息を吐きながら口を開く。
オレの言葉を聞いたナッパは、歯噛みしながらこちらを睨みつける。
(戦闘民族サイヤ人ともあろう者が、土と戯れて情けない等、こいつには決して言えんな……。
まぁ、農業で今の我々の暮らしが成り立っているのも、紛れもない事実なのだが……)
オレは先程隠した本音を内心で思い浮かべながら、眼の前の畑に目を向ける。
そこには、広大な敷地に様々な野菜が植えられた立派な畑が広がっていた。
これは、オレやナッパ、そしてその他多くのサイヤ人達が育てた作物達で、今のサイヤ人の暮らしを支える立派な収入源だ。
まさか、自分が畑仕事をする事になろうとは、生前の自分では考えもつかなかった……。
そう言えば……、いつ頃からだっただろうか……?
畑で作物を育てるのが日常になったのは……?
そう思いながら、オレは地獄に来てきてからの日々を思い出すのだった……。
☆★☆
地獄に来てから、サイヤ人の集落で暮らす事になったオレとナッパ。
ここには、フリーザによって惑星ベジータが消滅した時に共に死んだ同胞達が多く存在していた。
その中には、オレの両親の姿もあった。
数十年振りに再会したオフクロは、涙を浮かべオレとの再会を喜んでくれた。
オフクロがオレと再会した時に発した言葉は、何故だか今でも強く記憶に残っている。
何度も何度もオレに向かって「ごめんね」と謝り続けたのだ。
正直、あの時はどうしていいか分からず、オフクロに抱きつかれたまま動く事が出来なかった。
そんなオレを見かねてか、親父がオフクロを優しく引き剥がしてくれた。
それから、オフクロはオレがどの様な生き方をして来たのかを、聞きたがった。
正直、あまり話したい気分ではなかったのだが、オフクロの顔を見ると何故だか断る気にもなれなかった。
オレは自分がどの様に生きて来たのかを少しずつオフクロに語った。
オフクロはオレの話を、何がそんなに面白いのか?と疑問に思うほど、笑みを浮かべ聞いていた。
しかし、会話の中で2度ほどその笑みが曇ったことがあった。
1つ目は、オレがフリーザ軍で働いていたと言った時だ。
オフクロはどこか辛そうで、そして済まなそうな表情を浮かべていたが、当時のオレは何故オフクロがその様な顔をしたのか理解できなかった。
そして2つ目は、オレが死んだ原因を聞いた時だ。
親兄弟で殺し合う事等、サイヤ人にとっては日常茶飯事だが、この母は他のサイヤ人とは違った感性を持っている。
そう、あの不出来な弟の様に……。
その為、オレ達兄弟が殺し合った事が悲しかったのだろう。
その証拠と言うわけではないが、とても寂しそうな表情を浮かべていた。
全てを話し終えたオレに、オフクロは笑みを浮かべながら礼を言った。
その笑みを見た時に、オレはふと思った。
こうやって、オフクロと長い時間話しをしたのは何年ぶりだっただろう……。
この笑みを最後に見たのはいつの事だったろうと……。
しかし、すぐに思い出す事が出来なかった……。
もう、思い出せないくらい昔の事なのかと認識した瞬間、ずいぶん長い時が経ったのだと、何処か他人事のような感想を抱いたのを覚えている。
ちなみに、母に無理やり連れてこられ、隣で話を聞いていた親父は何も言わず、ただ頭をポンと軽く叩くだけだった。
たったそれだけだったが、その単純な行動にとても意味が込められている様な気がした。
それから程なくして、オレは惑星ベジータの消滅の真相を知り、大きな衝撃を受けた。
そして、何故オレの話を聞いた時に、オフクロがあの様な表情を浮かべていたのか理解した。
それと同時に、自分の同胞達を殺した奴の下で、何年もいい様に使われ続けたオレの人生とは、一体なんだったのか……と本気で落ち込んだ。
だが、悔やんだところでオレの生は返ってこない。
これが、オレの地獄での生活の始まりだった……。
それから、ここで暮らす様になったが、オレは地獄のサイヤ人達のあり方に愕然とした。
何故なら、生前の奴らの生き方と、あまりにも乖離していたからだ。
かつてのサイヤ人達の生き方は、他の星を侵略し制圧した後、その星を売る事で利益を生み出してきた。
言い方を変えれば、戦いによって命を繋いできた民族なのだ。
だが、ここでのサイヤ人達はどうだ……?
他者の決めたルールに従い、戦闘ではなく農業で暮らしていると知った時は、フリーザに支配されている時と同じではないか!と酷く怒りを覚えた。
戦いで他者から奪うのがサイヤ人。
自分達の自由も戦って勝ち取るのが、我ら一族のやり方……、そう思っていた。
それが、なんてザマだと……。
当然オレも地獄に来る時に、ここでのルールは聞かされていた。
その中でも特に遵守するべき2つのルール。
1.相手を殺さない
2.他の集落への侵略は厳禁
これを破ったものは、大きな罰が下されると聞かされていた。
だが、地獄に来たばかりのオレは、まだ閻魔大王の事をよく知らず、その力の恐ろしさも理解していなかった。
その為に、戦う事をやめ、他者の決めたルールに従順に従う同胞達を見て、サイヤ人の面汚しめと内心で蔑んでいた。
だが、どうして奴らが自分達の生き方を変えなければならなかったのかを理解するまでに、そうは時間はかからなかった。
この地獄という土地は、当然ながら生前罪を犯した者達が訪れる。
自分が生前の行いをどう思おうが、閻魔大王が悪と判断すれば、それは悪になる。
そういう土地柄故か、地獄に訪れた者の中には、地獄でも悪事を働こうとする者は少なくない。
だが、悪事を働いたらすぐに、その者に罰が下される。
初めての場合は、慣れていない故の事として比較的処分が甘い。
そして、2度目は厳重注意。
最後の3度目は、もはや自由すら許されない厳重処分となる。
この様に地獄では基本的に3段階の罰があり、3度目を犯した者は、未来永劫牢の中でその自由を奪われ続ける。
ただ、数年前にフリーザが犯した様な、地獄を揺るがす大事件等の場合は1発アウトである。
地獄での閻魔大王の権能には、死者である以上、逆らう事が出来ない。
地獄にいれば、嫌でもそれを眼にする機会は多いのだ。
(それを理解してから、オレは改めて認識させられた……。
オレは2度と生前の様に、戦いで生きていく事は出来ないのだと……)
それからは、オレも地獄にいる同族たちと同じ様に、生前の罪とやらを償いながら生活を続けた。
それから1年程経った時、ナッパが地獄にやって来た。
あいつもやって来た当初、いろいろ聞かされて衝撃を受けていた。
だが、惑星ベジータがフリーザに滅ぼされたと聞いた時は、何処か合点がいった様な表情を浮かべていた。
もしかしたら、こいつはオレと違い薄々だが惑星ベジータの消滅の理由に気付いていたのかもしれない……。
オレ同様、地獄のサイヤ人達のあり方に、あいつも最初は思うところがあったみたいだ。
しかし、惑星ベジータが滅んだ時にガキだった頃のオレと違い、ナッパには地獄にいるサイヤ人の中に知り合いが多かった。
だから、閻魔大王の恐ろしさもそいつらから聞いたのか、オレよりも早く、ここでの生活を受入れていた様に思う。
それからは、あいつもオレ同様ここで生活を送っている。
生活と言っても、死者であるオレ達は、本来食べる事も寝ることも必要ない……。
だが、生前の習慣や欲ってやつは死んでも抜けないらしく、動けば疲れ、腹もすけば眠くもなる。
なので、生きていた頃と同様に、衣食住が必要になってくる。
この地獄って場所は、ルールを守り、生前の罪を償う刑罰をしっかり受ければ、ある程度の自由は認められているのだ。
つまり、生前の罪を償い終わるまでは、どういう形であれ、ここで過ごしていかねばならないということだ……。
そうなれば、ここでの生活をより良いものにしたいと考えるのは当然のことだろう。
だが、惑星ベジータが滅び、多くのサイヤ人達が地獄にやって来てこの土地を与えられた時は、本当に何もない状態からのスタートだったと聞く。
食事等は、地獄の鬼達から決められた時間に僅かに貰う事が出来たらしいが、与えられた土地は住居等はまったくない土地だったらしい。
唯一の救いは、与えられた土地の中に川や森があった事だ。
サイヤ人達は自分達の肉体性能を駆使して、何とか、寝床と飲み水、僅かながらの食糧を確保する事に成功する。
しかし、生活として決して豊だったとは言えなかった。
それから間も無く、サイヤ人達は自分達が住んでいる集落の近くに、別の集落がいくつか存在する事を知る。
その内の1つの集落を訪れると自分達との生活の格差に愕然とした。
その集落には、なんと畑やその他の産業が築かれており、自分達でしっかりと自給自足出来る体勢が整っていたのだ。
当初それを見たサイヤ人達は生前の様に、この集落を襲い自分達のモノにしようと考えたらしい。
だが、地獄のルールでそれは禁じられている……。
中には、そんなモノは無視して、集落を襲おうという意見も多く出た。
だが、それをベジータ王は絶対に許さなかった。
王はフリーザによって惑星ベジータが滅ぼされた原因の一端は自分にあると考えていた為、今度こそ同胞達を守る為に王として責務を全うしようと考えたらしい。
だが、当時の地獄のサイヤ人達には何もない、これでは周辺の集落との交易は結べない。
奴らにあったのは、せいぜい戦闘力に優れた肉体だけだ。
ベジータ王は、今後自分達の生活を豊かにする為にどうするべきかを模索する。
そして、1番最初に王がとった政策が、サイヤ人達を他の集落に労働力として派遣する事だった。
オレ達サイヤ人は戦闘民族と呼ばれるだけあって、宇宙の中でも肉体スペックが高い部類に位置する。
だから、ベジータ王はそれを活かす事にした。
そして、それは功を奏する事となる。
周辺の集落では開拓や建築に取り組んでいる所が多かったのだ、果ては運送業まで重宝される事になったのだ。
それで得た利益で、周辺の集落から様々な資材や食糧を購入し、サイヤ人の集落を充実させて行った。
だが、ベジータ王はいつまでもこのままの状態が続くとは考えていなかった。
開拓や建築はいつか、終わりがやってくるのだ。
そうなると、これまで得ていた利益は得られなくなり、徐々に生活の水準を落としていかざる終えなくなる。
そこで、次にベジータ王が考えた政策が農業だった。
これまでは、他所の集落から食糧を調達していたが、今後収益が減るのであれば、食糧の調達量も必然的に減る。
我らサイヤ人はそもそもよく食べる種族なのだ。
一説には我らサイヤ人が変身した大猿……あれこそが、我らの本来の姿と言う者も存在する。
それを考えれば我らサイヤ人の食事量も納得出来る。
そんなサイヤ人の胃袋を満足させるだけの量となると、得た収益のほとんどを食糧の調達に当てていたと考えていいだろう。
だが、収益が減ると言うことは購入できる量も限られてくる。
ベジータ王の政策は、当初それを少しでも緩和させる為の処置として考えれたモノらしい。
しかし、この政策が思わぬ利益を生むことになった。
地獄のサイヤ人達が作り出した作物は、完成度が高く、近くの集落との交易が生まれる程だったのだ。
これにより、食料問題と金銭問題のどちらも一気に解決する事となり、サイヤ人達の暮らしを更に豊かにした様だ。
それから、地獄のサイヤ人達は集落上げて農業に取り組むことになった。
当然反対する者も最初は多かった。
農業に関しては、今後収益が減ることを見越して自分達が食べられる物を少しでも増やすという名目で始めたのだ。
なので、非戦闘員達がその仕事を行っていた。
だが、彼らの中には生前科学者として惑星ベジータで戦闘で使用される道具の研究を行っていた者達も存在していたのだ。
その科学者が半分道楽で始めたのが、作物の品種改良だ。
そして、彼らが完成させたのが、通常の育てる時間よりも短く、しかも美味い作物だ。
この品種改良のおかげで、短い期間で美味い作物の生育を行う事が出来る様になったのだ。
別に科学者達もこれで利益を生む為に、研究していなかったわけではなく、サイヤ人は食う量が多いのだから、単純に収穫量が増えれば良い、更に美味ければ尚良し。
ぐらいにしか考えていなかったが、それが利益につながった。
それであれば、ベジータ王や側近達は集落を維持し発展させる為には、農業に力を入れるのはある意味当然の流れとも言えるのだろう。
しかし、農業を非戦闘員以外の者達もせねばならないとなった時、少しばかり問題が発生した。
大抵のサイヤ人……、特にエリート戦士達が自分達は戦闘民族なのだからという自負を持っていた為、農業をやる事に抵抗を示した者も多かったのだ。
だが、地獄ではその戦闘能力はほとんど活かされる事がないのが実情だ。
それに、地獄のサイヤ人は何もないところからのスタートだっただけに、集落にいる者1人1人がどうやったらこの集落を発展させられるのかを少なからず考える様になっていた。
この考える力が厳しい環境で鍛えられたのが、大きかった。
結局、プライドと実利どちらをとるべきかとなった時に、後者を選択する者が多かったのだ。
反対していた者達も、実利を選択してからは、渋々ながら農業に取り組む事となった。
だが、これは地獄のサイヤ人達に、利益だけじゃなく大きな変化をもたらした。
これまで、侵略や略奪しかまともにやってこなかったサイヤ人が、初めて自分達で何かを育て作り上げた。
そして、それが多くの者に喜びを与える結果になった。
これは彼らがこれまで感じた事がなかった、何かを彼らに与える事となった。
そういう経緯を経て、サイヤ人達は集落全体で農業に取り組むことになった。
だが、その様な経験を経ていない、オレやナッパは、地獄で暮らす様になった時、周りのサイヤ人達との意識の差に困惑した。
オレが地獄にきて間もない頃、この集落が農業で収益をあげていると聞いた時は、何を言っているんだ?と本気で混乱した。
しかし、実際サイヤ人の集落の近くには多くの畑があり、様々な作物が育てられていた。
その為、オレやナッパもこの集落に居着いてからは、畑に駆り出される様になった……。
最初は、戦闘民族サイヤ人が何故そんな事をせねばならんのだ!と怒りをぶちまけた事もあった。
だが、働かざる者食うべからずと言う言葉がある様に、畑の世話をしなければ飯がもらえないのだ。
最初こそ、意地を通して食事を諦め、農作業をする事を拒否していた。
先にも言ったが、今のオレは死んでいるので、食事は必要としない。
だが、それも長くは続かなかった……。
理由は様々で、オフクロに説得させられた事もそうだ。
最初こそ聞く耳を持たなかったが、流石に何日も言われ続けると折れざる終えなかった。
だが、1番の理由は、目の前で旨そうに飯を食われると、食事が必要でないとは言え精神的にキツかったからだ。
死んでも欲が残る以上、飯が食えないというのは想像以上にキツかった……。
正直、地獄で初めて飯を食った時は、惑星ベジータで昔食べたモノとは比較にならない程美味く驚いた。
別にオレはグルメではないし、生前もそんな良いモノを食べて来たわけではない。
しかし、そんなオレでもハッキリ分かるくらい、ここの飯は美味かった。
地獄のサイヤ人達が作った作物が何故利益を上げているのか、その時になって初めて分かった様な気がした。
それからは、オレもいやいやながらも他のサイヤ人達と同じ様に農作業をする様になった。
オレから1年程遅れてやってきたナッパも、当時はこんな事を言っていた。
「超エリートのオレが、何故畑仕事なんぞしなきゃいけねぇ!! オレは絶対やらねぇからな!!!」
☆★☆
(なんて事、言ってたんだがなぁ……。 それが今じゃこれだからな……)
昔を思い出したついでに、初めてナッパが地獄にやって来た頃を思い出したラディッツは、今や立派な農夫に成り果てた男に目を向ける。
未だ赤い顔でオレを睨みつける農夫。
(本当に変わったな、ナッパ……。 今のお前を見たら、あのベジータはなんて思うのだろうな……)
昔を思い出していたからか、ラディッツの頭に懐かしい人物の名が思い出される。
(ベジータ……か……)
「なぁ、ナッパよ……。 ベジータの奴は今頃どうしているのだろうな……?」
「あぁ? ベジータだぁ? いきなりどうしたんだお前……?」
「いや、何となくあいつのことを思い出してな……」
突然のラディッツの言葉に怪訝そうな表情を浮かべるナッパ。
しかし、ラディッツが浮かべている何処か懐かしそうな表情を見てしまい、ナッパの脳裏にもベジータの姿が思い浮かぶ。
あの、苛烈にして誰よりもサイヤ人を体現していた王子の姿を……。
「さぁな……。 あいつの事だ、今も宇宙中を荒らし回ってんじゃねぇか……?
聞いた話じゃ、カカロットの野郎も死んじまったんだろ?
今の宇宙であいつを邪魔出来る奴なんかいやしねぇだろ……、気にいらねぇがな……」
「お前、まだベジータの事恨んでいるのか? サイヤ人なら、同族に殺されるのも珍しくないだろうに……」
ナッパの言葉に呆れた様な表情を浮かべるラディッツ。
しかし、ナッパはラディッツの言葉に、また顔を真っ赤にする。
「当たり前だろ!! 闘って殺られたなら分かるが、身体が動かねぇ時に殺らたんだぞ……!! ベジータの野郎!!!」
拳をプルプルさせながら、ベジータへの怒りを爆発させるナッパ。
「そういう所は変わらんなぁ……。 ん?」
つい先程、変わったと思ったばかりだったが、やはりナッパはナッパなのだなぁと思ったラディッツだった。
その時に、ラディッツは違和感を感じ、足元に目を向ける。
次の瞬間、地面が大きく揺れる。
「こっ、これは!?」
「な、何だ!? 地震か!?」
ラディッツとナッパは驚きの声を上げる。
しかし、ラディッツはナッパが上げた言葉に違和感を覚える。
「地震だと!? そんなバカな……!?」
「じゃあ、これが地震じゃなかったら、何だってんだ!?」
「いや、まぁそうなんだが……」
何故ラディッツがここまで、地震に驚いているのかというと、彼が地獄来てから10年ほど経つが今まで地震など1度もなかったのだ。
それどころか、地震が起きたって話すら聞いた事がなかった。
2人が揺られながら、会話を続けていると、地震が次第に治っていく。
「止まったか?」
「ああ、どうやらそうみてぇだな?」
完全に揺れが止まり、2人は安堵の表情を浮かべる。
「畑は無事みてぇだな……」
ポツリとナッパがそう呟き、ラディッツも畑に目を向ける。
そこには、収穫まで後わずかという所まで育った作物があった。
ラディッツ自身は、未だに自分が農業をやることに抵抗はあるが、この畑がサイヤ人に利益をもたらしている事は理解している。
それに、ここまで育てるのに自分も少なからず手を貸しているのだ、今更ダメになるのは、心情的に腹が立つのは確かだった。
だが、それにしたって……。
「1番最初の心配が畑とは、もはやすっかり農夫だな……。 ナッパ」
「じゃかぁしぃ!!!」
ナッパに皮肉を言ったラディッツだったが、ナッパの怒声に一蹴されたので、話を変える事にした。
「しかし、地獄で地震とはな……」
「ああ……、ここに来て初めて……だよな……?」
「ああ」
オレの言葉に、ナッパも珍しく真剣な表情を浮かべる。
それだけ、ここでの地震とは珍しい事態なのだ。
だが、オレ達は更なる異常事態に遭遇することになる。
ズドォーーーーーーーーーーン!!!
轟音と共に大気が揺れ、凄まじい衝撃がオレ達の身体を襲う。
「ぐっ、これはっ……!?」
「くそっ!! 今度は何だってんだっ……!?」
突然の事態に、オレとナッパは再び声を上げる。
だが、衝撃は治まる様子を見せず、絶え間なく轟音と共に、地震や大気を揺らす。
しかし、ラディッツにはこの感覚に覚えがあった……。
「もしや……、誰かが闘っている……?」
「何だと!?」
ラディッツの言葉に、ナッパが驚きの声を上げる。
そんなナッパを尻目にラディッツは言葉を続ける。
「だが、今日は、闘技場が使える日じゃなかったはずだが……」
「って、事はどこかのバカが、どっかで闘ってるってことだな!!
どこのバカ野郎だ!! このままじゃ畑が滅茶苦茶になるじゃねぇか!!
探し出してとっちめてやる!!!」
怒りを露わにしたナッパが空へ飛び出す。
ちなみに、地獄ではサイヤ人みたいに戦闘欲求を持つ者も多いので、闘いが出来る場所を設けている。
「結局、畑が大事なのではないか、お前は……」
飛んで行ったナッパを見送りながら、ラディッツはポツリと呟く。
「はぁ……、オレも行くか……」
ナッパを追うべく空へ飛び出したラディッツ。
2人が衝撃の元に向かうべく空を飛んでいると、2人の視線の先に4人の人影が映り込んだ。
「あれは……」
「セリパ達じゃねぇか……」
ラディッツとナッパが、前を飛んでいる者達の名を口にすると、4人がこちらに振り向く。
4人はラディッツとナッパに気付き声をかける。
「よう!」
「あんた達も、このバカ騒ぎを起こしてる奴らの事が気になったのかい?」
口を開いたのは、パンブーキンとセリパだ。
「まぁな!! って事はお前達もか?」
「当たり前だろ? この揺れのおかげで仕事にならねぇんだ」
ナッパの言葉にトーマが口を開く。
そんな事を話しながら、6人が飛行を続けると、どんどん伝わってくる衝撃が強くなってくる。
それだけじゃない、闘いを行なっている者達の凄まじい緊張感が伝わってくるのだ。
その証拠に、6人のサイヤ人の顔がいつしか戦士の表情に切り替わっていた。
「どうやら近いな……」
緊張を含んだ声で、トーマが口を開く。
「ちょっと、あれ見て!!」
大声を上げたのは、セリパだった。
皆の視線がセリパに集まる。
セリパは皆の視線を無視して、人差し指をとある場所に向ける。
皆がセリパが指差した方に目を向けると、岩場に立つ1人の女性の姿があった。
「あれは……、ギネか?」
「とりあえず、行ってみよう!!!」
パンブーキンが女性の名を口にすると、セリパが急いで飛び出す。
セリパの後を追う形で、他の5人もギネに向かって飛び出す。
「ギネーーーッ!!!」
「え? セリパ!?」
何処からか自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきたので、ギネは声が聞こえて来た方に視線を向ける。
そこには、こちらに手を振り近づいてくるセリパの姿があった。
しかも、よくよく見るとセリパだけじゃなく、トーマ達やラディッツ、ナッパの姿があった。
困惑しているギネの前に、6人が降り立つ。
「あんた達、どうしてここに!?」
ギネが、驚きの表情のまま口を開く。
「いやさ、さっきからすごい衝撃があたしらの集落まで響いててさ、それでどっかのバカが闘ってんだろうなって思ってさ……」
「ああ……。 だが、あそこまでとんでもねぇ闘いが行われているとはな……」
ギネの質問にセリパが答える。
それに同意しながらも口を開いたトーマの視線は、遥か先を見つめていた。
トーマの言葉に皆の視線が、トーマが見つめている方向に集まる。
そこでは、2人の男の激しい戦闘が行われているのであった……。