ドラゴンボール -地獄からの観戦者- サイヤ人の悪魔編 2

 ここは、地獄。

 生前罪を犯した者達が行き着く、最終地。

 ここでは生前に犯した罪を償う為に、さまざまな悪人や罪人達が存在している。

 

 そんな場所で、現在2人の男が互いの拳を交えていた……。

 

 

「ふん!!!」

「オラァ!!!」

 

 

 1人は、腰まで届く黒髪を生やした長髪の男。

 もう1人は、スキンヘッドで体格の良い男だった。

 そして、彼らは互いに猿の尾に似た尻尾を腰にベルトの様に巻いていた。

 

 つまり、彼らは同じ一族の者だった。

 1つ断っておくが、現在彼等が拳を交えているのは決して争っているからではない。

 彼等が現在行っているのは、所謂組手、もしくは手合わせと呼ばれるものだ。

 

 2人が同時に放った拳が真正面からぶつかり合うが、元々の力量差からか長髪の男が後方へ吹っ飛ぶ。

 

 

「ちっ!」

 

 

 舌打ちしつつも空中で体勢を整え、地面に着地する長髪の男。

 しかし、長髪の男に安心している時間はなかった。

 何故なら、すぐ眼の前に拳を振りかぶったスキンヘッドの男の姿があったからだ。

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 スキンヘッドの男は、長髪の男に向かって勢いよく拳を振り抜く。

 凄まじい速度の拳が、長髪の男に迫る。

 その拳が当たれば、ただではすまないと理解している長髪の男は顔を顰める。

 

 

「くっ!!!」

 

 

 長髪の男は咄嗟の事態に、歯噛みしながらも瞬時に決断を下す。

 なんと、長髪の男は後方へ退避するのではなく、敢えてスキンヘッドの男との距離を詰めたのだ。

 これには、スキンヘッドの男も一瞬驚いた様な表情を浮かべる。

 

 だが、次の瞬間ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

「そんなに、死にてぇならこれでくたばれぇ!!!」

 

 

 スキンヘッドの男が繰り出した拳が、長髪の男の顔面にヒットするその瞬間、長髪の男は首を捻り薄皮一枚で拳を回避する。

 そして、そのままスキンヘッドの男との距離を更に詰め、ガラ空きとなったボディに右拳を叩き込む。

 

 

「ふん!!!」

「おぉっ!!!」

 

 

 カウンターの形で叩き込まれた拳の威力に、思わずスキンヘッドの男の口から苦悶の声があがる。

 だが、長髪の男の攻撃はまだ終わらない。

 ボディへ拳をたたき込んだ拍子に、僅かに下がったスキンヘッドの男の顎に向かって、アッパーを続け様に叩き込む。

 

 

「ぐぉっ!!!」

 

 

 アッパーを叩き込まれたスキンヘッドの男の身体が、後方へ吹っ飛ぶ。

 そこにチャンスを見出した長髪の男は、瞬時に自身の右手に力を集約させる。

 すると、長髪の男の右手が光に包まれバチバチッと凄まじい音を立てる。

 

 

「終わりだ!! ナッパ!!!」

 

 

 長髪の男は、右手に集約させたエネルギーをスキンヘッドの男……ナッパへ向け解き放つ。

 解き放たれたエネルギーは、塊となってナッパへ向かって凄まじいスピードで向かっていく。

 勝利を確信した長髪の男はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 だが、事は男の思惑通りには進まなかった……。

 後僅かでエネルギー弾がナッパと呼ばれたすキンヘッドの男にヒットしようとした瞬間、一瞬早く空中で体勢を立て直したナッパがカパッと口を大きく開ける。

 すると、凄まじい威力のエネルギー波がナッパの口から放出される。

 

 そのエネルギー波は、長髪の男が繰り出したエネルギー弾を一瞬で飲み込み、そのまま長髪の男目掛けて凄まじい速度で突き進む。

 

 

「くっ!」

 

 

 そのあまりの早さに、避ける事が不可能だと察した長髪の男は咄嗟に防御の構えをとる。

 次の瞬間、ナッパが放ったエネルギー波は男を一瞬で飲み込む。

 閃光に飲み込まれた長髪の男の全身を、凄まじい衝撃とダメージが襲う。

 

 

「ぐぅあああーーーっ!!!」

 

 

 閃光が収まると、そこにはボロボロとなった長髪の男の姿があった。

 防御した事で何とか倒れる事なく、立ったままの姿だったが、それも束の間……。

 

 

「がはっ……」

 

 

 流石にダメージが大きかったのか、ドサッと地面に両膝を突き、そのまま前のめりに倒れ込む。

 

 

「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」

 

 

 倒れた長髪の男は、そのまま荒い呼吸を上げる。

 そんな男の元へナッパが、勝者の笑みを浮かべ悠然と近づく。

 

 

「はぁ……、はぁ……、惜しかったなぁ……、弱虫ラディッツ……。 下級戦士にしてはなかなかだったぜ!」

「はぁっ……、はぁっ……、くそっ……」

 

 

 

 ナッパの言葉を聞いたラディッツは苦々しい表情を浮かべ、悪態を垂れる。

 そんなラディッツの態度を「フン!」と鼻で笑い飛ばすナッパ。

 だが、ナッパの方もラディッツとの闘いでかなり疲弊していた為、かなり息が上がっていた。

 

 ナッパはじっと未だ倒れているラディッツを真剣な表情で見つめると、ラディッツの隣へドカッと座り込む。

 突然自身の隣に座ったナッパの行動に疑問を覚え、怪訝そうな表情を浮かべ首を動かしナッパへ視線を向けるラディッツ。

 そんなラディッツの視線に気付いているだろうが、無表情のまま視線を真っ直ぐ固定したまま遠くを見つめるナッパ。

 

 ナッパの意図が掴め無い為、こいつは何がしたいんだ?とラディッツが内心で首を傾げていると、隣に座ったナッパがラディッツへ視線を向ける事なく口を開く。

 

 

「聞かせろ……、ラディッツ……」

 

 

 ようやく口を開いたかと思ったら、突然ラディッツへ問いかけるナッパ。

 だが、当のラディッツはナッパが自身に対して何を聞きたいのか分からなかった。

 なので、ラディッツは思った事をそのまま返す事にした。

 

 

「何をだ……?」

「チッ!」

 

 

 ラディッツの返答が気に入らなかったのか、顔を顰め舌打ちするナッパ。

 そんなナッパの態度に、ますます訳が分からんといった表情を浮かべるラディッツ。

 ここに来て、ようやくダメージが抜けて来たラディッツは、起き上がるとそのままナッパの横に同じく座り込む。

 

 

「それで、お前は何が知りたいのだ……? ナッパよ……」

 

 

 仕切り直しとばかりに、今度はラディッツからナッパへ問いかける。

 ナッパは、チラリと一瞬ラディッツへ視線を向けると、再び目線を正面に戻す。

 よほど言いにくい内容なのか、中々話を切り出そうとしないナッパ。

 

 しばらく沈黙の時間が2人の間に流れる。

 いつまでも話し出しそうに無いナッパに、「はぁ……」と溜息を吐いたラディッツは静かに立ち上がる。

 

 

「用が無いなら、オレは戻るぞ……」

 

 

 そう言って踵を返し、歩き出すラディッツ。

 そんなラディッツの耳にポツリと声が聞こえて来た……。

 

 

「さっきの闘い……」

「ん?」

 

 

 ラディッツがその声に反応して、振り向く。

 だが、やはりこちらに視線を向ける事のないナッパの姿があった。

 ナッパはラディッツが自身の方を見ている事に気がついているのか、ラディッツに視線を向ける事無く、再び口を開く。

 

 

「昔のお前の力なら、オレとあそこまで闘う事は出来なかったはずだ……。

 いつの間にこれ程の力をつけやがった……」

 

 

 ナッパの言葉にラディッツは一瞬驚きの表情を浮かべる。

 だが、何故ナッパが今のような態度をとっているのか、直ぐに理解してしまった……。

 サイヤ人は戦闘民族故、戦闘力至上主義な部分がある……。

 

 ナッパは先程の手合わせで、格下だと思っていたラディッツに思っていた以上に苦戦を強いられてしまった。

 こんな事、互いが死ぬ前では有り得ない事だった。

 いや、それ以前にサイヤ人の歴史でも上級戦士がそれ以下の戦士と互角に戦う事など有り得ない事だった……。

 

 サイヤ人は生まれた時から、ある程度の戦闘力を有して生まれてくる。

 そして、生まれてすぐに素質を検査される。

 その時の数値が高い者が上級戦士となり、低い者は下級戦士やその他の職につく。

 

 言ってしまえば、生まれてすぐに人生の身分が決まってしまうのがサイヤ人の社会体系なのだ。

 一見すると随分乱暴な様な気もするが、実際生まれてすぐに戦闘力が高かった者は成長してからも優秀な戦士となり、結果を残す者が多かった。

 一部の例外を除いてその様な事実がある以上、現在の様な社会体系になっても可笑しくはない。

 

 それがナッパとラディッツが、育って来た世界だった……。

 しかし、その絶対ともいえる不文律が今崩れようとしていた……。

 いや、正確に言えば既にもう崩れていたのだ……。

 

 孫悟空ことカカロットやバーダックといった下級戦士によって……。

 だが、ナッパはそれを例外だと捉えていた。

 何故なら彼らは、過程は違えど共に伝説の領域へと至った存在だからだ。

 

 しかし、そんな例外と思っていた存在の他に、しかも昔から知り、自分より遥かに格下だと思っていた存在に善戦された。

 これには、今までサイヤ人の不文律を絶対だと思っていたナッパの価値観を揺るがすには十分だった。

 だが、これまでのプライドが邪魔してしまい、ラディッツに素直に聞く事が出来なかったのだ。

 

 それ故に、ナッパは今の様な態度をとってしまったのだ。

 ラディッツもかつてはナッパと同じ考えを持っていたが故、ナッパの今の気持ちが手にとる様に理解できた。

 しかし、今のラディッツは生まれた時の戦闘力が低くとも、上級戦士以上に強くなれる事を知っている。

 

 ラディッツは、かつての自分の様に未だサイヤ人の考え方に囚われているナッパへ向け口を開く。

 何故自分が変われたのか、その理由を……。

 

 

「なぁ、ナッパよ……。 お前3ヶ月前の親父とカカロットの闘いを覚えてるか……?」

「あん? 当たり前だろ!! あんなスゲェ闘い忘れようがねぇ……」

 

 

 突然ラディッツから飛び出した言葉に、ナッパは怪訝そうな表情を浮かべながらも、ラディッツの問いに答える。

 娯楽の少ない地獄において、悟空とバーダックの闘いはあの場にいた全てのサイヤ人にとってある種最高の見せ物だった。

 戦闘民族の血が流れているサイヤ人にとって、自分が戦う事もそうだが、戦いを見るのも好きなのだ。

 

 しかも、サイヤ人にとって伝説と言われる存在、超サイヤ人同士の戦いだ。

 口では悟空やバーダックを下級戦士と言って見下しているナッパも、血には逆らえ無いのか、あの2人の激闘には興奮を覚えた1人だった。

 そんなナッパの言葉に、頷いたラディッツは再び口を開く。

 

 

「あの闘いの後、オレ達家族4人で食事をとった時の事だ……。

 親父の口から、とんでもない言葉が飛び出したのは……」

「とんでもない言葉だと……?」

 

 

 ラディッツの言葉に首を傾げるナッパ。

 ナッパの言葉に頷いたラディッツは、まるであの時の事を思い出すかの様に、僅かに視線を上に向ける。

 

 

「親父やカカロットからしたら、オレ達が伝説だと思っていた超サイヤ人とはその気になれば、サイヤ人であれば誰でもなれる程度のモノらしいぞ……」

「はぁ!?」

 

 

 突然ラディッツから飛びだした言葉に、ナッパは驚愕の表情を浮かべ驚きの声を上げる。

 予想通りの反応を返すナッパに思わず苦笑を浮かべるラディッツ。

 そんなラディッツの様子に、バカにされたと思ったのかナッパが思わず声を上げる。

 

 

「テメェ、ラディッツ何笑ってやがる!!!」

「いや、きっとオレも親父やカカロットからこの話を聞いた時は、同じ様な反応をしたのだろうなと思ってな……」

 

 

 怒声を上げるナッパに、何処吹く風といった様子で言葉を返すラディッツ。

 そんなラディッツの姿を見たせいか、怒りの感情を顕にしていたナッパも幾分かクールダウンする。

 

 

「チッ! で、その超サイヤ人がサイヤ人であれば誰でもなれる程度のモノってのは、一体どういう事だ……?」

 

 

 冷静になれた事で思考が働き出したナッパは、話の軌道修正を図る様にラディッツの言葉の真偽を確かめるべく問いかける。

 真剣な表情で問いかけるナッパに、ラディッツの方も表情を引き締め、再び口を開く。

 

 

「ナッパよ、お前、これまで親父やカカロットの事をどこか特別な存在だと思っていなかったか……?」

「あん?」

 

 

 突如投げかけられた、ラディッツの言葉に首を傾げるナッパ。

 だが、当の問いかけをしたラディッツはナッパの反応など気にした様子もなく、再び口を開く。

 

 

「オレは……、正直、あの2人の闘いを見てから、いや……カカロットに至ってはそれ以前からだが……あいつ等は特別な……、選ばれた存在だと思っていた……」

 

 

 ナッパはラディッツの言葉に、一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに真剣な表情で押し黙る。

 正直、ラディッツはバーダックはともかく、カカロットこと孫悟空の事はいくら強くなろうが、どこかで下級戦士として見下しているのだろうと、ナッパは思っていたからだ。

 正確に言えば、ナッパ自身がそう思っていたので、ラディッツも同じなのだろうと思っていた。

 

 だが、ナッパがそう思っていたとしても、仕方ない事なのかもしれ無い……。

 それ程、サイヤ人の社会に根付く、生まれてから与えられる身分というモノは絶対なのだ……。

 だからこそ、ラディッツの言葉にナッパは驚きを隠せなかったのだ。

 

 だが、今目の前にいるラディッツは、自分より戦士としての階級が低い父と弟を、自分とは違い特別な存在だと思っていたと口にした……。

 それは、下級戦士に劣っていると……自ら認め、自分の弱さを受入れた事に他なら無い……。

 これは、サイヤ人の社会に生きて来た人間からしたら、とてもじゃないが容易に認められるモノではない。

 

 それだというのに、目の前のラディッツはどこか清々しい表情でその事を口にする。

 そんなラディッツの様子に、ナッパは何故だか自分がとても小さい存在の様に思えてならなかった。

 だが、それを受け入れられるほど、今のナッパの器は大きくもなかった……。

 

 だから、そんな自分の気持ちを打ち消すように、ナッパは大きな声を上げる。

 

 

「そ、それがどうした!!!」

 

 

 虚勢をはったナッパの言葉を受け、真剣な表情を浮かべていたラディッツの口元に微笑が浮かぶ。

 そんなラディッツの姿が、またしてもナッパを苛つかれせる。

 思わず口を開こうとしたナッパだったが、それを遮る様に再びラディッツが口を開く。

 

 

「親父達曰く……、オレ達が伝説と持て囃している”超サイヤ人”とは、サイヤ人であれば、ある程度の戦闘力に到達し、切っ掛けを掴めば、誰でもなれる程度のモノらしい……」

「なっ!?」

 

 

 ラディッツから飛び出した言葉に、本日何度目かの驚愕の表情を浮かべるナッパ。

 だが、そんなナッパを無視して、更に言葉を続けるラディッツ。

 

 

「オレ達サイヤ人が、超サイヤ人を伝説として捉えているのは、要は、サイヤ人の中に超サイヤ人に覚醒出来るだけの戦闘力を有している者が誕生しなかったからだ……」

「そっ、そん事……」

 

 

 ラディッツの言葉に思わず反論しようと思ったナッパだったが、ふと脳裏に浮かんだ男の戦いに神妙な表情を浮かべ押し黙る。

 急に口を閉じたナッパの姿に、僅かに首を傾げるも再び口を開くラディッツ。

 

 

「サイヤ人は戦闘民族故に生まれた時から、程度は異なるが高い戦闘力を有している者が多い。

 そして、その生まれ持った力でサイヤ人の人生は決まると言っても過言ではない……。

 何故なら、オレ達サイヤ人の社会では、生まれ持った戦闘力=身分と同義だからだ」

 

 

 淡々と喋るラディッツの言葉に、ナッパは静かに耳を傾けていた。

 

 

「戦闘力=身分という社会体制になったのは、お前も知ってのとおり生まれながらに戦闘力が高い者は、成長してからも優秀な戦士になる者が多いからだ。

 だからこそ、今の様な社会体制になったのだろう。

 だが……、ある意味、そいつがオレ達サイヤ人を超サイヤ人から遠ざけたのだと、今のオレは考えている……」

「ん? どういう事だ……?」

 

 

 これまで静かに耳を傾けていたナッパだったが、ラディッツから飛び出した言葉に思わず口を挟む。

 不思議そうな表情を浮かべるナッパに、真剣な表情で向き合うラディッツ。

 

 

「ナッパよ、よく思いだして欲しい……。

 オレ達サイヤ人は生まれ持った戦闘力をいかに上手く扱うかのトレーニングはしても、自分自身を限界まで追い込み続け、更なる高みに到る修練を積む者などいなかったはずだ……」

 

 

 ラディッツの言葉にナッパは、これまでの自分や周りのサイヤ人達が行って来たトレーニングの光景を思い出す。

 そこで、ある事に気付いた。

 確かに、ラディッツが言った様に、自身の力を上手く扱う為のトレーニングは積んだ。

 

 しかし、それはナッパが戦士になりたての頃だった……。

 その後は、殆どトレーニング等をした記憶が無かったのだ……。

 ましてや、ラディッツが言った様な自分自身を限界まで追い込む様な修練など、皆無だった……。

 

 だが、これはナッパに限った話ではない。

 ナッパ以外の、ラディッツ、トーマ達、そして、今や修行の虫と言っていい、バーダックやベジータでさえ戦場に出る様になってからは、殆どトレーニングなんてしていなかったのだ。

 だが、これにはちゃんとした理由があった。

 

 サイヤ人は戦闘を生業としているだけあり、惑星ベジータで戦闘員として認められれば、上級下級問わず数多の戦場へ送られる。

 それ故、実戦経験はやたら積む事ができる。

 正直それがサイヤ人なりのトレーニングになっていたのだ。

 

 数多の戦場で戦って来たサイヤ人は、経験を積み、その過程で戦い方や自分の力の使い方を洗練させていった。

 確かに、それも自身を高める方法の1つだろう。

 だがそれは、あくまで自分が今現在持っている戦闘力をより上手く扱う訓練でしかないのだ。

 

 更に付け加えれば、サイヤ人は任務を行う際、基本チームで行動する事が多い。

 それ故に、サイヤ人が他の星に攻め込む際、有意な立ち位置で戦闘を進める事が多い。

 そんな、有意な立ち位置にいて、しかも格下の者達と戦う事が殆どなのだ……。

 

 そんな状態で、自身の限界を超える状況なんて、まず起こり得なかった……。

 ナッパがそんな風に、考えていると隣からポツリと何処か自嘲を含んだ声が聞こえて来た。

 

 

「振り返ってみると、オレ達は自身の限界を超える程の戦いを殆どした事もなければ、自分自身で追い込んだ事もない……。

 ずっと、種族としての才能に胡坐をかき、ぬるま湯に使って力を奮って来ただけだ……」

 

 

 自身が思っていた事を、より強烈な言葉として口にしたラディッツに思わず眼を向けるナッパ。

 そんなナッパとラディッツの視線が交差する。

 そして、ラディッツはナッパの眼を真っ直ぐ見て、現実を突きつける。

 

 

「そんなオレ達に、サイヤ人の限界を超えた”超サイヤ人”なんかになれるはずがなかったのだ!」

 

 

 静かだが、確な意志が籠もったその言葉が、ナッパに重くのしかかった。

 しかし、ナッパはラディッツから視線を外す事はしなかった。

 何故かは分から無いが、ナッパはラディッツにはその言葉の先……、限界を超えた超戦士……”超サイヤ人”への道が見えているのでは無いかと無意識に思ってしまったからだ……。

 

 そして、その想いが表情に出てしまったのだろうか……。

 ナッパを見ていたラディッツの表情が、一瞬驚きのモノへと変わる。

 そして、フッ……と笑みを浮かべると、表情を引き締め再び口を開く。

 

 

「つまりだ……、長くなったが、超サイヤ人になりたかったら自分の限界を何度も超えるほど、自分自身を追い込み鍛え上げなければなら無いという事だ……」

「自分自身の限界を超えるか……」

 

 

 ラディッツの言葉を反芻するように、真剣な表情で呟くナッパ。

 普段は大雑把な男だが、やはり戦闘民族の性なのか、強くなる為には貪欲だった。

 無意識にこれまでの話を頭で整理していた、そんなナッパの耳に、ポツリとだが、確かな意志が籠もった言葉が聞こえて来た。

 

 

「オレは、超サイヤ人へなってみたい……」

 

 

 声がした方に、ナッパが視線を向けると、視線を地面に向けたラディッツの姿があった。

 だが、ラディッツの眼は地面へ向いてはいるものの、見ているのは地面などではなく、何処か違う景色を見ている様であった。

 付き合いがそこそこ長いナッパは、ラディッツの眼が捉えているモノの正体を何となくだが察する……。

 

 

「闘ってみたくなったか……? テメェの弟や親父と……」

 

 

 ナッパの言葉に、バッ!と頭を上げ、驚いた表情でナッパを見つめるラディッツ。

 そんなラディッツの姿に思わず、してやったりと笑みを浮かべるナッパ。

 

 

「へっ!何を驚いたツラしてやがる。

 別にお前がそう思ったとしても、何ら不思議はねぇ……。

 オレ達は戦闘民族サイヤ人……。 死んでいようが、戦いを求める本能が消えるわけじゃねぇ……」

 

 

 そこで、言葉を切ったナッパは、ラディッツから視線を外し、もはや見慣れた地獄の空へ目を向ける。

 

 

「強えヤツがいて、自分も強くなる方法が分かっている……。

 だったら、やるしかねぇだろ……。 それがどんなに険しくともよ……。

 幸い、オレ達には時間だけはあんだ……」

「ナッパ……」

 

 

 ラディッツはナッパの言葉に驚きを隠せなかった。

 何故なら、己が超サイヤ人へ成りたいと口にした時、きっとナッパは否定するだろうと思っていたから。

 だが、実際にナッパの口から飛び出したのは、否定ではなく肯定の言葉だった……。

 

 昔のナッパだったら、ラディッツが超サイヤ人へ成りたいなどと口にした、まず否定されていただろう。

 もしかしたら、ナッパも自身と同じ様に父や弟の戦いを見て何かしら燻っていたのかもしれ無い。

 そんな事を想いながら、ラディッツもナッパと同じ様に地獄の空へ視線を向ける。

 

 

「そうだな……」

 

 

 そう言ってラディッツは、口元へ笑みを浮かべる。

 

 英雄の兄はこの日、初めて本気で強くなる事に覚悟を決めるのだった……。

 彼がこれからどう成長するのかは、まだ誰も知り得無い……。

 だが、彼の覚悟が本物であるなら、彼はきっとたどり着くだろう……。

 

 伝説の超戦士……”超サイヤ人”へ……。

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