ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 06

■Side:ラディッツ

 

 何の偶然からか、オレとナッパはオフクロ達を探しに来たら、いつも何も映さないはずの水晶に、これまた何故そんな事になったのか経緯等は不明だが、どこかの星でフリーザと戦っているベジータやカカロットの息子の姿を目にする事になった。

 フリーザが変身する種族だった事にも大いに驚いたが、それ以上にオレを驚かせたのはカカロットの息子の成長っぷりだろう。

 オレが地球に行った時、カカロットに言う事を聞かせる為、あのガキを攫ったがその時はメソメソ泣いてばかりで戦闘民族サイヤ人の素質をカケラも感じさせなかった。

 

 だが、そんなガキが今オレの目の前であのフリーザと戦っていやがる。

 しかも、明らかに前に地球で戦ったカカロットよりも強くなっている。

 それだけじゃない、オレはフリーザ軍で多くの戦士達を見てきた。

 そいつ等と比較しても、明らかにこのガキの方が強い事が見てとれた。

 

 認めるのは癪だが、このオレより明らかに戦闘力は上だろう……。

 たった1年程だと言うのに、何と言う進歩だ……。

 

 だが、そんなカカロットの息子でもあのフリーザ相手では手も足も出ないのが現状だ。

 スピード、パワー共に大したモンだが、それを悉くフリーザは上回っている。

 フリーザからしたら、カカロットの息子との闘いはただの戯れでしかないのだろう。

 

 

 ラディッツが悟飯とフリーザの戦闘力の差を分析した通り、水晶の中の悟飯はすでにフリーザにボロボロにやられ、ついてに頭を足で踏みつけられ今にも殺される寸前だった。

 

 

 あの状態はマズイ、あと少しフリーザが力を加えるだけで、カカロットの息子は頭を潰され間違いなく即死だ。

 このまま、フリーザが飽きるまでいたぶって、それで終わりだ。もはや時間の問題と言っていいだろう。

 

 

 そして、その考えは正しかった。

 散々悟飯をいたぶったフリーザだったが、ついに終わりの時がきた事をフリーザの口から告げられた。

 

 

『フィニッシュだ!!』

 

 

 カカロットの息子の頭を踏みつけていた、フリーザがついにカカロットの息子の頭を踏み潰し殺そうと、より足に力を込めようとしていた。

 その時、オレの視線の端で必死に水晶に向け、震える手を伸ばす女の姿を捉えた。

 視線を横に向けると、そこにはオフクロが震えながら絶望した顔で水晶に叫んでいた。

 

 

「やっ、やめて!!!」

 

 

 どうにも出来ないことは、母にも理解できているだろう。

 オレには理解出来ない事だが、サイヤ人にしては異例と言ってもいいこの母には孫と呼べる存在の命が奪われるのは、我慢できないのだろう。

 

 

 ギネの姿を見て瞬時にギネの内心を予想したラディッツは、ふと自身が子供の頃を思い出した。

 

 

 まだ自分が幼かった頃、この母はたくさん自分に笑いかけて抱きしめてくれた。

 良い事をすれば褒めてくれたし、悪い事をすれば本気で怒ってくれた。

 言葉にするのは難しいのだが、何というか母といる時はいつも暖かかった。

 

 他所の親子関係の事なんて当時は気にしたこともなかったが、どことなくうちと他所の家は違う事は子供ながら理解できていた。

 それを本格的に自覚したのは、果たしていつの時だっただろうか?

 自分が母に甘やかされて育ってきたのをハッキリ認識したのは……。

 

 惑星ベジータが消滅して親父とオフクロが死に、残ったサイヤ人はオレとベジータ、ナッパの3人だけだった。

 親父とオフクロが死んだ時、オレは面にこそ出さなかったものの内心では本気で悲しかった……と思う。

 

 当時まだ8歳くらいだったオレは、惑星ベジータで戦闘技術を学ぶ為、同世代のやつらと戦闘訓練を積んでいた。

 だが、たまたまベジータやナッパと共に任務に出る事になり、惑星ベジータを離れている間に惑星ベジータは消滅してしまった。

 

 そのままなし崩しでフリーザ軍に入隊する事になったが、ベジータもナッパも惑星ベジータが滅んだ事にショックは受けても、親や同胞が死んだ事には欠片も興味を示さなかった。

 それから、オレ達は3人で一緒に任務に出る事が多くなった。

 

 3人で過ごすうちにオレはベジータとナッパからサイヤ人のなんたるかを学んだ。

 ナッパは元々上級戦士として活動していたし、ベジータは王子だからだろうか、オレと同い年だと言うのにちゃんとした教育を受けてきたのだろう。

 その身、その行動、その戦闘力をもって戦闘民族サイヤ人を体現していたように思う。

 

 いくつもの星に攻め行くたびに、その凶暴さ、残忍さ、冷酷さを敵に見せつけ、戦闘そのものを2人は楽しんでいた。

 そして、オレもいつしかあいつ等と同じように戦闘そのものを楽しむようになっていった。

 その頃には、オレも他人を貶める事にかけらも抵抗感を抱くことはなくなっていた。

 

 今だから言える事だが、オレは最初任務で他の星を制圧するときに、少し抵抗感を持っていた。

 惑星ベジータで戦闘訓練を受けている時や、親父や周りの大人達にサイヤ人は他の星を制圧する事が仕事だと聞いていた。

 だが、いざ自分がその立場になった時、特に子供を守ろうとする母親を見た時は攻撃する事を大いに躊躇った事を覚えている。

 

 そんなオレを見兼ねたナッパが、その親子をオレの前でアッサリと消しとばした。

 消し飛ばされた親子を呆然と見ていたオレに、ナッパが言った言葉は今でもオレの中で鮮明に覚えている。

 

 

「ラディッツ、俺たちサイヤ人は戦うことが全てだ。変な情けはロクな結果をうまねぇ……。今のお前の躊躇はサイヤ人としては邪魔なもんだ。やるからには徹底的にやれ。じゃねぇと、死ぬぞ」

 

 

 普段オレの事を泣き虫ラディッツとか弱虫ラディッツってバカにする男だが、その時だけは真剣にサイヤ人としての生き方を語ってくれたから余計に鮮烈に残っている。

 

 きっとその時だろう……。

 オレが、自分が今まで母に甘やかされて育てらて生きてきたのを、正確に自覚できたのは……。

 

 そいつを自覚してからのオレは、必死だった。

 何故なら躊躇したと言う事実はオレの中で弱さとして、自覚されたからだ。

 それを払拭する為に、どんな相手だろうが関係なく目の前に立つなら容赦無く消しとばした。

 

 そうやって、オレ、ベジータ、ナッパの3人で長い事フリーザ軍で過ごした。

 そんな俺たちの時間もついに終わりがやってきた。

 

 ベジータがフリーザ軍の任務として、とある星を制圧すると言う任務を引き受けたのがきっかけだ。

 だが、その星に住む奴等はなかなか戦闘力が高い事で有名だった為、流石の俺たち3人でもてこずることは簡単に予測できた。

 フリーザ軍から助っ人を呼べば解決する問題だったのだろうが、プライドの高いベジータはサイヤ人として引き受けた任務だった事もあり、サイヤ人以外の人間をメンバーに加えるつもりがそもそも無かったようだ。

 

 オレとナッパはそんなベジータの考えに少し不安を覚えたが、一度決めたベジータが考えを変える事がない事も長い付き合いから理解していた。

 そんな時だ、奴の存在を思い出したのは……。

 

 昔、惑星ベジータが滅んでフリーザ軍で働く事に必死だった時、オレのスカウターの通信履歴に親父からカカロットが地球という惑星に送られたという連絡が届いていたのだ。

 だが、当時のオレは自分のことに必死でカカロットの事などすぐ忘れてしまっていた。

 

 カカロットの事を思い出したオレは2人に相談して、ヤツを新たな仲間として迎える為に地球に飛び立った。

 

 そこで再会した弟は、オレの期待を大きく裏切る成長を遂げていた。

 ヤツの使命である地球を滅ぼしてすらいなく、それどころか地球人と仲良くしていやがった。

 

 顔は親父にそっくりだったが、感じられる雰囲気はどことなくオフクロを思い出させるものだった。

 

 仲間になる事を拒否したカカロットに言う事を聞かせる為、息子をさらって飛び立った時、ふとカカロットと息子の様子が頭をよぎった。

 そして、カカロットから発せられる雰囲気がオフクロにどこか似ていたからか、自分が幼少の頃の母と過ごした記憶も何故か思い出した。

 

 かつて、自分の弱さとして切り捨てた母との思い出だったが、カカロットと息子の関係は正しく昔の母と自分ではないかと茫然と心の中で思ってしまった。

 

 久しく忘れていた母の事を思い出したからだろうか、その時オレは20年ぶりくらい母の事を考えた。

 

 もしかしたら、母はオレやカカロットに……。

 

 

「なっ、なんだ!?」

「あれは!?」

 

 

 周りからあがった驚きの声にオレは過去から現在に意識を戻し、水晶に視線を向けるとそこには信じられない光景が映し出されていた。

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