ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 08

■Side:セリパ

 

 

 バーダックが語った、カカロットの息子や王子、ハゲの3人とフリーザの戦力差の違いと、そのあまりにも絶望的すぎる状況に、私たち地獄にいるサイヤ人達は誰もが3人の敗北を覚悟した。

 そんな時だった、水晶から驚きと喜びの声が聞こえてきたのは。

 そして、私達が水晶に視線を向けた時、そこには、白いターバンと白いマントをはためかせ腕を組みフリーザに視線を向けている野郎が1人映っていた。

 

 そして、その野郎は一言だけはっきりと言葉を紡いだ。

 

 

『待たせたな……』

 

 

 その野郎を見た瞬間だった。

 私のそばにいた2人の男が同時に声をあげたのは。

 

 

「「あっ、あいつは!!(俺を殺したやつ/俺が殺したやつ)!!? ん?」」

 

 

 そして、その2人はお互いに顔見合わせて不思議そうな表情をしていた。

 

 

「おい、弱虫ラディッツ。テメェ、まさかあんなカスにやられちまったんじゃねぇだろうなぁ?」

「うっ、うるさいぞナッパっ!!」

 

 

 こんな時に何やってんだい。この2人は。私は頭を抱えた。

 ったく、しょうがないねぇ。

 

 

「あんたら、うるさいよっ!!喧嘩するなら他所でやりな!!!」

「「っ!!?」」

 

 

 私の怒声を聞いて、2人はびくっ!!と体を震わせたかと思うと喧嘩を辞め水晶に目を向ける。

 ったく、男ってのはいつまでたってもガキなんだからさ……。

 それにしても、カカロットのガキのあの喜びっぷりを見ると、あの男どうやら仲間ぽいねぇ。

 

 それに、さっきのナメック星人のガキと似通った特徴をしているって事は、あいつもナメック星人か……。

 そう言えば、さっきナッパのヤツが地球でナメック星人と戦ったって言ってやがったねぇ。

 そうか!!こいつがその、ナメック星人か。

 

 だが、ナッパの言葉を信じるならこいつは死んでるって事になるけど……、どうなってるんだ??

 

 

「にしても、せっかくの援軍があのカスとはなぁ。これじゃぁ、正直3人だった時とたいして変わりゃしねぇじゃねぇか」

 

 

 この中で最後にピッコロと戦ったナッパが正直な感想を述べる。

 そして、それは水晶の中のベジータも同様の考えだったようで、せっかくのドラゴンボールの願いをピッコロの復活に使った事に腹を立てていた。

 そんな時だった、地獄のサイヤ人達にとっては耳を疑うような発言が水晶から聞こえてきたのは。

 

 

『さて……宇宙のゴミを片付けてやるか……。オレ1人でやる。お前達は手を出すな』

 

 

 なっ、なんだって!?あのナメック星人あのフリーザ相手に1人で戦いを挑むって言ったのかい!?

 

 

『えっ!?』

『い!?』

「なっ、なんだと!?」

「あいつ、死ぬ気か!?」

 

 

 ナメック星人の発言に、水晶の中のカカロットのガキやハゲ、そして地獄にいる私たちも一様に驚きを隠せなかった。

 

 

「あいつ、来たばかりで、フリーザの恐ろしさを分かってねぇんじゃないか??」

「へっ、カスがあのフリーザの相手になるかよ。身の程知らずってヤツだぜ」

 

 

 トーマやナッパは、ナメック星人の野郎が状況を分かってないからあんな発言をしたんだと判断したらしい。

 確かに、その可能性が一番たかいだろうからねぇ。

 正直、あたしもあのナメック星人がフリーザに勝てるとは思わない。

 

 そんな事を私が考えていると、水晶の中ではフリーザとナメック星人が向かい合っていた。

 

 

『ウジ虫どもが……』

 

 

 フリーザにとっては、言葉通り虫が一匹増えた程度の認識なんだろう……。

 だが、次の瞬間、私達は信じられない光景を目撃することになる。

 

 

『だっ!!!!!』

 

 

 掛け声とともに飛び出したピッコロは数十メートル離れていた距離を一瞬で詰め、フリーザの右頬をぶん殴り、吹っ飛ばした。

 さらに、吹っ飛ばしたフリーザに一瞬で追いつき追撃のナックルハンマーを喰らわせようとしたが、フリーザもやられっぱなしではない。

 紙一重でピッコロのナックルハンマーを躱し、お返しとばかりに強烈な蹴りで吹っ飛ばした。

 

 今度はフリーザが追撃しようと吹っ飛ばしたピッコロを追う。

 だが、界王の修行とネイルとの融合でパワーアップしたピッコロもやられてはいない。

 瞬時に態勢を整えて、頭突きでフリーザを迎え撃った。

 

 ピッコロの頭突きを食らい、顎が跳ね上がったフリーザだったが、今度は吹っ飛ばされる事はなく逆に尻尾でカウンターを食らわせ、ピッコロを吹っ飛ばした。

 そして、追撃とばかりに強力なエネルギー波を落ちていくピッコロに向けて放つ。

 エネルギー波が着弾するよりも早く、地面で態勢を整えたピッコロはエネルギー波を左腕一本で迎え撃った。

 

 

『ぐあああああ!!!!!』

 

 

 気合いの乗った掛け声とともに繰り出された、左腕の一閃はフリーザの強力なエネルギー波を弾き飛ばした。

 

 

『弾き飛ばした!!!!』

 

 

 これには、流石のフリーザも驚きの顔をしながら声をあげる。 

 そして、お返しとばかりに今度はピッコロの強力なエネルギー波がフリーザを襲う。

 

 

『!!』

 

 

 放たれたエネルギー波のデカさにフリーザが驚きの声を上げるが、フリーザの体はエネルギー波に飲み込まれた。

 フリーザに直撃したエネルギー波は凄まじい轟音を響かせ爆煙を上げている。

 爆煙が収まった時、そこには明らかにダメージを受け、ガードの態勢をとった状態のフリーザの姿があった。

 

 

『……、お……おのれ…………!!』

 

 

 予想以上に強力な攻撃を受けたフリーザは、苦々しい表情でピッコロを睨みつける。

 

 

「す、すげぇ……、あのフリーザにダメージを与えやがった」

「おいっ……、ナッパ……お前、本当にあのナメック星人を殺ったのか!?」

「どっ、どうなってんだ!?地球で戦った時と強さの次元が全くちげぇ!!!あのナメック星人、この短期間に何があった!?」

 

 

 ピッコロとフリーザの戦いを見ていた地獄のサイヤ人達は、あまりにレベルの高い戦いに驚きの声を隠せなかった。

 特に地球でピッコロを殺したナッパの驚きっぷりは、他のサイヤ人よりも遥かに高かった。

 

 

「すごいね、バーダック。あのナメック星人、フリーザのヤツと互角に戦ってるよ」

「いや、互角じゃねぇ。あのナメック星人の野郎の方がフリーザ以上の戦闘力をもっていやがる」

「ほっ、本当かい!?」

 

 

 ギネは喜びのあまり満面の笑顔で、バーダックの腕を揺さぶるが、バーダックは視線を水晶に向けたまま何事もなかったかのようにギネに答える。

 だが、バーダックの言葉はギネにとっては信じられないものだった。

 先程までは勝敗の天秤が負けに傾いていおり、ほとんど諦めていたのだ。

 なのに、今はその天秤の傾きが逆になったと言われたからだ。

 

 

「だが、あのフリーザがそう簡単に終わるとも思えねぇんだがな……」

 

 

 ボソリと呟かれた、バーダックの言葉は誰に拾われることもなく、地獄の空気に消えていった……。

 

 

 ピッコロの攻撃を空中で受けた、フリーザはピッコロを睨みつけたままゆっくりと、地上へ降り立つ。

 苦々しい表情と共に、禍々しいオーラを撒き散らしたフリーザだったが、「にた〜」って表情を浮かべ、一瞬でピッコロとの距離を詰める。

 距離を詰めたフリーザはピッコロの左頬に強烈なエルボーを叩き込み、体制が崩れたピッコロに追撃のパンチを食らわせよとする。

 

 しかし、上空に避ける事で追撃を躱すピッコロ。

 だが、これまでと段違いのスピードでピッコロを追い越しさらに上空に現れるフリーザ。

 そして、ナックルハンマーをピッコロに叩き込む。

 

 ナックルハンマーを叩き込まれたピッコロは猛スピードで地面へと激突する。

 

 

『くっくっく…………』

 

 

 その様子を空中から笑みを浮かべながら、眺めているフリーザ。

 

 

「なっ、なんて野郎だい!!さっきまでとスピードが段違いじゃないか!!!」

「あいつ、これまで全く本気じゃなったのかっ!!!!」

 

 

 地獄のサイヤ人達はフリーザが隠していた実力を目の当たりにして、驚愕の表情を浮かべる。

 たった1人を除いて。

 

 

「やはりな」

 

 

 その1人とはバーダックだ。

 バーダックはこの中で唯一フリーザと直接対峙して、その力の片鱗を味わった存在だ。

 その経験と元々生まれ持った戦闘勘が、フリーザの底知れなさをビンビンと伝えてくるのだ。

 

 

「さて、こっからどうなるか……」

 

 

 あのナメック星人が、最初フリーザとサシで戦うって聞いた時は、身の程知らずな野郎だと思った。

 けど、蓋を開けてみりゃぁ、あのフリーザと互角で戦ってやがる上に、ダメージまで与えやがった。

 こんなヤツを本当にナッパが殺ったとは、どう考えても思えないんだけどねぇ。

 

 だが、フリーザの野郎も負けちゃいない。

 ナメック星人から攻撃を受けてから、明らかにスピード、パワーが上がりやがった。

 

 さっきまでの、カカロットのガキと王子、ハゲの3人と戦っている時から遊んでいるのは分かっちゃいたけど、隠していた実力がここまで底知れないとは、流石に予想外だ。

 あのナメック星人、フリーザからかなりいいのを貰っちまったぽいけど、大丈夫かねぇ??

 

 

 セリパがナックルハンマーを叩き込まれたピッコロの心配をしている時、水晶の中で動きがあった。

 砕けた地面の下敷きになっていた、ピッコロが『く……』と苦痛の表情を浮かべ、姿を現したのだ。

 その姿は、マントやターバンがボロボロになっており、ピッコロ自身にもダメージが与えられているのが、誰の目からしても明らかだった。

 

 

『くっくっく……、さっきは悪かったな。貴様を舐めていたんだ。だが、想像以上にできるんでな。実力を見せることにした。実力をな……』

 

 

 そのフリーザの言葉に、ナメック星で戦いを見ていた者達も、地獄のサイヤ人達も共にフリーザの底知れなさに戦慄を覚える。

 だが、相対しているピッコロだけは違った。

 

 口の中に混じった血を『ぺっ』と吐くと同時に立ち上がり、着ていたマントを脱ぎ、頭に巻いていたターバンを外す。

 ピッコロの身から離れたマントとターバンは普通のマントとターバンでは聞くことが出来ない、音を響かせて地面に激突する。

 そして、またしても皆が耳を疑う一言をこのナメック星人は平然と言い放った。

 

 

『オレもだ……、本気でやろう……』

 

 

 特に相対していた、フリーザの驚きは相当なものだった。

 

 

『なんだと!?いままでは、本気じゃなかったってのか?くっくっく……、知らなかったな、ナメック星人がホラをふくとは……』

『すぐにわかるさ…………』 

 

 

 相対していたフリーザ、そして戦いを見守っていたベジータ、地獄のサイヤ人達はたかがマントやターバンを脱いだからとって、戦闘力が大きく向上するはずがない。と、ピッコロの発言をハッタリだとほぼ決めつけていた。

 だが、ピッコロの事を知っているクリリンや悟飯は、ピッコロがマントとターバンを脱いだ意味を正しく理解していた。

 ピッコロが普段身につけているマントとターバンは、特別製で重量がとてつもなく重いのだ。

 

 つまり、ピッコロはそんな重りを身に付けたままフリーザと互角に戦っていた。

 それを脱いだと言う事は、これからがピッコロにとっての本気なのだ。

 それを理解した、クリリンと悟飯はピッコロの勝利を確信する。

 

 

『貴様らに殺されたナメック星人の怒りをおもいしれ!!!!』

 

 

 ピッコロ、クリリン、悟飯の3人が勝利を確信し、これから反撃を開始する為にピッコロの怒りの啖呵が切られたその瞬間だった……。

 

 この戦いが始まってから、何度も信じられないような事が立て続けに起こった……。

 

 圧倒的な実力差故に絶望的な光景が何度ももたらされた……。

 

 その度に戦士達は、工夫や策、他人の力などを借りて絶望を乗り越えてきた……。

 

 だが、今まで起こった全ての絶望がヤツにとっては本当にただの戯れでしかなったとしたら……、戦っている戦士等が感じる絶望はどれほどのものだろうか……。

 

 今、真の絶望がヤツより語られる……、宇宙の帝王フリーザによって……。

 

 その時、ピッコロ、クリリン、悟飯、ベジータ、そして地獄のサイヤ人達は知ることになる……。

 

 『絶望』って言葉の本当の意味を……。

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