ドラゴンボール -地獄からの観戦者- Story of Bardock Episode-05
「振り返ってみると、この2年半色々あったな……」
初めてバーダックに出会った日の事を思い出していたトランクスは、バーダックと過ごした2年半を振り返る。
正直、師匠のトランクスから見てもバーダックの成長速度は予想以上だった……。
初めて会った時は、戦闘力1万程度だったのに、1年と少しで超サイヤ人への覚醒を果たしてしまったのだ。
しかも、こちらが伝える技術の吸収力も凄まじく、使いこなすまでにさほど時間を要さない辺り、やはり悟空の父親なのだと実感する場面も多々あった。
基本的に、バーダックは任務以外ではトランクスとの組手を主にした修行に時間を当てていた。
組手の中で、悪いところや足りていない技術をその度に、トランクスが指摘したり教えたりしていくスタンスで続けてきた。
また、トランクスが任務でいない時は、トキトキ都にいる様々な相手と自分からコミュニケーションを取り組手を行い、実践の中でメキメキと力をつけていった。
今にして思えば、時の界王神様が自分に彼が悟空の父親だと伝えなかった理由も、今なら何となく予想もつく。
きっと、バーダック本人に自分の足りていないモノを自覚させるためだったのだろう……。
トランクスが過去を振り返っていると、足元からガサッと音がした……。
視線を向けると、先ほどまで足元で大の字になり息も絶え絶えだったバーダックが起き上がろうとしていた。
起き上がったバーダックは、構えをとり闘志みなぎる視線をトランクスに向ける。
「さて……、続きやるぞ……! トランクス……!!」
「ええ……、それでは、行きますよ! バーダックさん……!!」
そう言うとトランクスは、バーダックから距離を取る様に後方へ跳び、着地すると同時に構えをとるトランクス。
しばらく、睨み合う両者……。
組手だと言うのに、緊張感が高まる……。
ほどなくして、ほぼ同じタイミングで両者が飛び出す。
「だらぁ!!!」
「はあっ!!!」
2人の男が同時に繰り出した拳は轟音をたて、ぶつかり合う。
その衝撃で、2人を中心に地面が陥没しトキトキ都を大きく揺らす……。
2人の男の拳は、未だぶつかり合っている。
まるで力比べをしている様だ。
しかし、両者の表情は決定的に異なっていた。
「ぐぐぅ……」
バーダックが顔を顰め歯を噛み締め呻く様な声を上げ、明らかに全力なのに対して、余裕の表情でバーダックの拳を受けているトランクス。
「ちっ……、はあああああぁっ……!!!」
舌打ちしたバーダックは、このままでは状況が悪いと瞬時に判断すると自身の気を解放する……。
すると、バーダックの全身が黄金に包まれ、髪は金色、瞳は碧眼へと変化し、黄金いろのオーラを身に纏う。
「おらぁっ……!!!」
「ぐっ……」
超サイヤ人へと変化した事で、パワーアップしたバーダックが掛け声と共に拳に力を込める……。
すると、さすがにノーマルの状態では超サイヤ人との純粋な力比べでは部が悪いのか、トランクスの表情から余裕が消える。
「はあっ……!!」
掛け声と共にトランクスの身体から白い透明なオーラが吹き出す。
そして、バーダック同様に拳に力を込める……。
トランクスが力を解放した事で、押され気味だった拳は、再び拮抗した状態に戻る。
拳に込められている力が、どんどん増す事で2人の周りの地面の陥没はさらに広がり、それだけでなく建物にまでヒビが入るなどの損害がで始めた……。
さすがに、そんな状況を看過出来るほど、このお方は寛容ではなかった……。
「いい加減にしなさい!2人共っ!!!」
その怒声に、今まで力比べをしていた2人はビクッ!!と身体を震わせる……。
そして、2人揃って恐る恐る怒声がした方に顔を向ける。
すると、そこには顔を真っ赤にし、仁王立ちした少女がいた。
「と、時の界王神様……」
トランクスが冷や汗を流しながら、その少女の名を呼ぶ。
そう、この少女こそ現在のトランクスとバーダックの上司にあたる時の界王神だったのだ。
「あなた達さっきから、ズドンバコン煩いのよ!!
修行するんだったら、然るべき場所でやりなさいっ!!!
ちゃんとトキトキ都のルールにあるでしょうがっ!!!」
自分の怒りをマシンガンのごとく、ぶつけて来る時の界王神。
お怒り状態の時の界王神に視線を向けたバーダックは、不満そうにボソリと呟く……。
「ちっ、ロリババアが来やがったか……。 いいトコだったのによ……」
その呟きは、近くにいたトランクスの耳にも届いていた。
(ちょっ……、バーダックさん、何て事を……。
どうか、時の界王神様には聞こえていません様に……)
バーダックの呟きに、更に冷や汗を流すトランクス。
だが、トランクスの祈りが叶う事はなかった……。
何故なら、目の前に居られるお方こそが、最も近くにいる神なのだから。
「誰がロリババアですってーーーっ!!?」
「んだよ、聞こえてたのか……? 年の割に耳はいいじゃねぇか」
「むっきぃーーーっ!!!」
バーダックの呟きをしっかり拾っていた時の界王神は、更に怒りを爆発される。
だが、バーダック追い打ちにより怒りの臨界点を超え遂には、訳が分からない叫び声を上げ地団駄踏む。
「おっ、落ち着いてください……。 時の界王神様……」
さすがにほっとく訳にもいかないので、止めに入るトランクスだったが、聞こえていないのかてバーダックにぎゃあぎゃあ文句を言い続ける時の界王神。
哀れトランクス……。
さすがにバーダックの方も、いい加減うるさくなって来たのか、話を逸らす為自ら話題を振ることにした。
「んな事より、例の組織について何か分かったのかよ……?」
「うっ……」
バーダックの問い掛けに、痛い所を突かれたのか、呻き声を上げ時の界王神の動きが止まる。
そして、これまでとは比較にならないほど、ドヨーンと重苦しい雰囲気を醸し出した……。
「まだ……」
ポツリと呟かれたその言葉に、バーダックとトランクスの表情も僅かに曇る。
一応記述しておくが、2人のこの反応は、時の界王神の仕事が遅いことへではない。
彼らは、1年ほど前からとある犯罪組織を追っていたのだ。
ここ1年程その組織の手の者と幾度なく戦った、バーダックとトランクスだったが、組織の名、規模、主導者の名など一切掴めていないのだ。
時間に干渉する術を持つ、その組織を一刻も早く壊滅させる為に、時の界王神は組織の痕跡を探す為、大勢のタイムパトロール隊員を色々な時代へ調査の名目で飛ばした。
そして、その調査で上がって来た膨大な量の情報を、ここ最近ずっと整理していたのだ。
しかし、それだけ大規模な調査を行ったのにも関わらず、成果は殆どなかったのだ……。
「大規模な組織だと言うのに、まったく痕跡を残さないというのは厄介ですね……」
「だな……。 組織としてかなり徹底されてんだろうな。
フリーザ軍のヤツ等は、フリーザの目が届いてねぇとこじゃ結構好き勝手やってやがったが、この組織の連中は目的の事以外は、余計な事はしねぇ様に厳命されてんだろう……」
「そうとう統率力がある者が上にいる……、と言う事でしょうか?」
「どうだかな……。 ここまで完璧に徹底して痕跡を消してるトコを見ると、逆に部下の連中は全員操られてんじゃねぇか? とさえ思えてくるぜ……」
自分の横で、組織についてあれこれ考察している2人の言葉を聞いて、ようやく復活した時の界王神も会話に加わる。
「はぁ、まぁ、今後はこれまで以上に色々考えて動く必要があるでしょうね……」
「とりあえず、今後も調査を続行するということですね……?」
「そうね……。 奴らの狙いが分からない現状そうするしか手はないしね……。
さて、そろそろ私は仕事に戻るわ」
そう言って、時の界王神は2人に背を向け歩きだしたが、「あっ!」と声を上げたると歩みを止め2人の方へ振り返った。
振り返った時の界王神の顔はとても、いい笑顔だった……。
2人はその笑顔を見て、嫌な予感を覚える……。
「そういえば、言い忘れてた事があったわ……!!
バーダックくん……、あなたに罰を与えます……!!!
私をロリババアと呼んだ罪は重い……!!!」
「ちっ、覚えてやがったのかよ……。
しかも、組手で物壊した事で罰を受けるんじゃなくて、てめぇをロリババアって言った事で罰を受けるのかよ」
「もちろん、そちらの罰も一緒にかかってるわよ」
ビシッ!と指をバーダックに突きつける時の界王神。
上手く話題を逸らしたのに、時の界王神がロリババア発言を覚えていた事に舌打ちしたバーダックだった。
しかし、然るべき所で修行を行っていなかったのは自分の落ち度であることも理解していた。
なので、今回は特に文句を言うことなく罰を受け入れる事にした……。
「しょうがねぇ……。 で?オレにどんな罰を与えるつもりなんだ? 時の界王神様よぉ……」
「ふっふっふ……。 今の君に一番効く罰といったらこれしかないわよねー」
時の界王神が浮かべる人の悪い笑みに、罰を受け入れるつもりだったバーダックは速攻バックレたくなった。
「バーダックくんは、罰として地獄に帰ってもらいます!!
つまり、私がいいと言うまでトランクスとの修行は禁止です☆」
「なっ、なんだと!? ふざ……「はーい、強制退去ー!!!」」
時の界王神が下した罰にバーダックが文句を言おうとした瞬間、バーダックの全身が光に包まれる。
そして、徐々にバーダックの身体が透けていく。
バーダックの身体がトキトキ都から地獄へ転移しようとしているのだ。
「たまには、家族サービスしてあげるのよーっ!!
せっかく可愛い奥さんがいるんだからー!!
あと、例の組織に動きがあったら戻してあげるからねー!!!」
「てめぇ、ふざけんなーーーっ!!!」
絶叫と共にトキトキ都から完全に姿を消す、バーダック。
その場には満面の笑顔の時の界王神と、唖然としたトランクスの2名だけ残っていた……。
「あのー、時の界王神様……いくらなんでも、ちょっと厳しすぎでは……?」
恐る恐る問いかけるトランクスに、今まで満面の笑みを浮かべていた時の界王神の表情が一変する。
その表情は何処か哀愁が漂っていた……。
「トランクス……。 バーダックくんが普段いる時代ではね、明日が何日か知ってる……?」
時の界王神の変わり様に、驚きを隠せないトランクスはこんな受け答えしか出来なかった。
「えっ……?」
「明日はね……、エイジ767年5月26日なのよ……」
「ーーーっ!?」
時の界王神が告げた日にちに、トランクスの表情が驚愕に染まる。
何故なら、その日はトランクスにとって忘れられない日だったからだ……。
「明日、エイジ767年5月26日は、地球の命運を決める”セルゲームが”開催される日……。
つまり……、孫悟空くんが2度目の死を迎える日なのよ……」
目標としていた息子が、明日死ぬ等、想像すらしていないバーダックを他所に物語は更に続くのだった……。