ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 07

■Side:ナッパ
オレは生まれてから死ぬまで、ずっと戦ってきた。
若い頃は同族であるサイヤ人達とそして惑星ベジータが滅んでからはベジータやラディッツと共に、自由気ままに色々な星に攻め込み戦いの限りを尽くした。
その戦いにまみれた人生の中で、多くの戦士達を見てきた。
特に宇宙を支配しているフリーザ軍に入ってからはそれまでの人生で知らなかった、サイヤ人の戦闘力を大きく上回る強者にも出会った。
だからだろうか、オレは自分が宇宙の強者の力を知った気になっていた。
だと言うのに……、くっ!?フリーザの野郎なんて強さだ!
気に入らねぇが、あのガキもベジータもオレやここにいるサイヤ人達を大きく上回った戦闘力を持っていやがる。
いや、恐らくあのフリーザの側近であるドドリアやザーボン、ギニュー特戦隊さえも上回っている可能性が高ぇ。
それなのに……、その2人が全く相手にならない……だと……。
水晶に映された悟飯をいたぶり頭を踏みつけているフリーザを見て、ナッパはフリーザのあまりの強さに先程映し出されたベジータ同様に自身の全身が震えているのが分かった。
生前の話になるが、ナッパはベジータがドドリアやザーボン、ギニュー特戦隊を上回る程の力をいずれ手にする事をほぼ確信していた。
それは、戦闘の天才であるベジータが幼少の頃より共にいた事で、ベジータの強さと成長のスピードを一番近くで見てきたからだ。
ドドリア、ザーボン、ギニュー特戦隊は宇宙規模で見ても上位に入る強者だ。
そいつらを下してしてしまう程の力を手にしたベジータと自分、ラディッツの3人でかかれば、宇宙を支配しているフリーザ相手にもどうにか勝利出来ると密かに考えていた。
だからこそ、地球のドラゴンボールの使い方をラディッツの復活よりも、フリーザを倒せる確率が上がる、ベジータが提案した不老不死にのったのだ。
戦闘を永遠に楽しむ為と言う理由もあったが、それと同じくらいフリーザを倒して自分たちサイヤ人が宇宙の覇権を握る為に。
だが、今のフリーザの強さを見てナッパは自分の考えが如何に浅はかだったのかを心底痛感していた。
例え不老不死を手に入れていたとしても、フリーザの前では死ねないが故に地獄の苦しみを永遠に味合わされただろうと簡単に予測出来てしまったからだ。
それくらい、今水晶に映し出されたフリーザは規格外と言ってもいい存在だった。
フリーザの強さを目の当たりにして、ナッパが己れの過去を省みているその時、さんざん悟飯をいたぶっていたフリーザがついにとどめを刺そうと悟飯の頭を踏みつけていた足により力をかけようとしたその瞬間だった。
水晶を見ていたサイヤ人達にとって、信じられない映像が映し出された。
『うぐっ!!!!』
「なっ、なんだ!?」
「あれは!?」
オレは、驚きのあまりつい言葉を発していた。
フリーザの野郎が今まで聞いたことのないような呻き声をあげたかと思ったら、エネルギー弾を円盤状にした様な攻撃がフリーザの尻尾を切り裂きやがった!!
オレはあの技を知っている。あ、あれは、あの地球人が使った技じゃねぇか!?
ナッパが地球での苦い経験を思い出したその時、技を繰り出した人物が水晶に映し出された。
フリーザ軍の戦闘服を纏ったハゲ、もとい先程フリーザの角に貫かれたクリリンだ。
『なっ!!?』
『なにっ!?』
『なっ、なんであいつが……!!!!あ……あいつは、す、すくなくとも相当のじゅ……重症だったはずだ…………!!!な、なぜだ……!?』
復活したクリリンを目にしたフリーザとベジータは、あまりの事態に驚きの声を上げた。
特に自身がトドメを刺したことに疑いを持っていなかったフリーザの驚きは一入だった。
「おっ、おい、あのハゲさっきフリーザのヤツにやられなかったか?」
「どうなってんだい!?」
それは地獄にいる者達も同様だった。
フリーザにやられた姿を見ていた、トーマ達もクリリンの復活に驚きの声を出している中、1人だけ違う事に意識が向いていた。
「よ、よかったぁ〜。カカロットの息子助かったよぉ〜〜〜」
涙を浮かべながら、心底ホッとしたような声を上げたのはギネだ。
クリリンが繰り出した技を察知したフリーザが避けようと飛び上がった事により、悟飯は何とか生き残ることが出来たのだ。
クリリンが復活したことで、水晶の中の戦いは次なる局面に突入する。
『気円斬』
クリリンが繰り出した、複数の気円斬がフリーザにせまる。
自身がトドメを刺した存在が予想外の復活をした事で生じた動揺の為か、先程尻尾を切られた痛みが頭に残っているからか、フリーザは必死で自分に向かってくる気円斬を避ける。
『べ〜〜〜!!!』
『お……、おのれ〜〜〜〜〜〜!!!』
舌を出しフリーザを挑発するクリリン。
挑発+尻尾を切られた事で完全に頭に血が上ったフリーザは、その心情を表したように怒りを押し込めたような表情でクリリンを睨みつけると、クリリンに向かって飛び出す。
その光景を地獄のサイヤ人達はポカンとした顔で見ていた。
「あの、ハゲすげぇな……。フリーザ相手に挑発なんて殺してくれって言ってるようなもんだぜ……」
「ただもんじゃないね……。あのハゲ……」
フリーザが向かってきたので、フルスピードで逃げるクリリンだったが、元々のスペックが段違いな為あっという間に追いつかれしまった。
『どうやって復活したのかわからんが……、よくもこのフリーザ様の尻尾を切ってくれたな……!!』
クリリンの前に姿を表したフリーザは、ただでさえ現在の形態は気性が粗いのに、これまでの人生で味わった事がないほどの屈辱を味わったせいで、その表情は正に怒り心頭だった。
『今度は、2度と復活出来ぬよう粉々にしてくれるぞ!!!!』
フリーザの怒りを正面から受けたクリリンは、その怒りの圧から表情を強張らせたが、瞬時に次の手に打って出る。
『太陽拳!!!!』
その名の通り太陽のごとき強烈な光がフリーザの視界を光で塗り潰した。
『あうっ!!!くっ……、目が……!!!』
「くっ、何が起こった!?」
「これは、強烈な光を起こし視界をつぶしたのか??」
あまりに強烈な光を至近距離で受けてしまった為、流石のフリーザも目を瞑らざる負えなかった。
また、太陽拳の威力は地獄から観戦んしていたサイヤ人達ににも少なからずダメージを与えていた。
そして、そんな大きな隙を逃すほど幼少期から武道に身を捧げ、強敵達と闘ってきた男は甘くはない。
『ベジータいまだーーっ!!!攻撃してくれーーー!!!!』
瞬時に相手との力量を察したクリリンは、自分1人では太刀打ちできない事を理解していた。
確実にダメージを与える為、近くで戦いを見ていたベジータに協力を求める。
こういう自分に足りないものを素直に受け止め、かつて敵であった存在であろうと必要であるなら頼る事が出来る心の強さこそ、クリリンという男の本当に凄いところなのかもしれない。
だが、そんなクリリンの頑張りは空振りに終わることになる。
何故なら、協力を求めたベジータはクリリンやフリーザの事など一切見ていなかったからだ。
オレが地球で戦った地球人のチビハゲがいきなり現れたかと思ったら、無謀にもフリーザの野郎を挑発しやがった。
だがヤツは頭に血が上った事で怒りで思考が鈍ったフリーザを誘い込み、強烈な光でヤツの視界を奪いやがった。
最初からこれが狙いだったのかっ!?
ちっ!思い出すとムカッ腹が立つが、地球で戦った奴らはみんなそうだった。
あいつらは戦闘力自体は大した事ないカスのくせに、やたら小賢しい技を使う。
その中でも、あのはチビハゲは特にその手の技を多く持っていやがった覚えがある。
今回もその小賢しい技であのフリーザを出し抜きやがった。
こいつは間違いなくチャンスだっ!!
あのチビハゲとベジータの同時攻撃なら、あのフリーザにもダメージがあたえられるかもしれねぇ。
「って、ベジータの野郎、見てねぇじゃねぇか!!!!」
「何やってんだい!?王子!!」
絶好のチャンスを棒に振った、ベジータを見てオレとギネはつい声を上げてしまった。
「くっそ〜、せっかくのチャンスなのに王子のヤツ、こんな時に何やってんだよ!」
「にしても、ベジータらしくないな。こんなチャンスを逃すヤツではないのだが……」
ナッパ達と同じようにパンブーキンもせっかくのチャンスが潰れた事を残念がっていたが、付き合いが長いラディッツはあまりにベジータらしくない行動だった為首を傾げている。
そこで、水晶を見ていたトーマがベジータの視線の先で何かが行われている事に気が付いた。
「おいっ!!あれを見てみろ!!!あそこで何かやってるぞ!!!!」
水晶に映し出されていた、ベジータの視線の先をトーマが指で指し示した。
そこにトーマ以外の視線が突き刺さる。
「何だ??カカロットの息子に異星のガキが何かやっている……のか??」
「あのガキ、ナメック星人じゃねぇか!!ってことは、ここは……、まさかナメック星かっ!?」
「なっ、何だい、いきなり大声で!?何か知っているのかい?ナッパ」
水晶にはデンデがフリーザにやられた悟飯を回復している光景が映し出された。
それを見ていた地獄のサイヤ人の内、地球でピッコロの正体を見抜いたナッパがデンデがナメック星人である事に気付いた。
そうかっ!!そういう事か!!何でベジータとカカロットのガキが一緒に戦っているのかずっと疑問だったが、ここがナメック星だったら納得がいくぜ。
恐らく地球での戦いの事はスカウターでフリーザに筒抜けだったのだろう。
それでフリーザは知っちまいやがったんだ……。
どんな願いでも叶えちまうっていう、ドラゴンボールの事を……。
そして、それに気付いたベジータがフリーザを追ってナメック星にやってきた。
恐らくあいつの計画では、フリーザ達より先にドラゴンボールを見つけて不老不死の願いを叶えるつもりだったんだろう。
地球人共は、オレが地球でナメック星人の野郎をぶっ殺しちまった事で地球のドラゴンボールがなくなっちまったから、オレ達が殺したヤツ等を生き返らせる為にやって来たのだろう。
あの時ラディッツと共にくたばったカカロットを生き返らせたように……。
だが、ヤツ等はどういう経過かまでは分からんがフリーザに見つかり現在に至るってところか。
共闘しているのも、相手がフリーザという強大すぎる敵だからって理由程度だろう。
でないと、あのベジータがカスの地球人とまで一緒にいる理由がねぇ。
カカロットのガキがいて、カカロットの野郎がいねぇのは、地球でベジータの野郎にぶっ殺されたってところか……、ざまぁねぇぜ。
ナッパが自分の脳内で、状況を分析していると横から大声が飛んできた。
「ナッパ!ナッパってば!!聞いてるのかい!?」
「うおっ!?」
あまりの声量ゆえ、ビックリして視線を声の主に向けるナッパ。
どうやら声をかけて来たのは、セリパだったようだ。
何度も呼びかけたのだろう。それでもナッパが反応しなかった為に若干イラついているようだ。
「なっ、何だよ?セリパ」
「何だよ?は、私のセリフだよ。あんた、あの異星のガキがナメック星人で、今水晶に映っている星がナメック星って言ってたね?何を知ってるんだい?」
「別に大した事じゃねぇ。オレがあのガキがナメック星人だって気付いたのは、地球でカカロットやその仲間達と戦った時、その中にナメック星人がいやがったのさ。そいつにあのガキがそっくりだったってだけだ」
「へー、確かカカロットが送られたのって、地球っていう辺境の惑星だろ?そんなところに、ナメック星人がねぇ……。それに何だって、カカロットの息子達までナメック星にいるのさ?」
「そいつは……
ナッパが口を開いたその瞬間だった。
セリパがナッパから色々聞き出している間に、水晶の中の状況は刻一刻と変化していた。
「なっ!?何だと!!」
「おいおい、まじかよ……。どうなってんだ??」
驚きと困惑の声が上がったので、2人は会話を断ち切って水晶を見てみると、そこには信じられない光景が映し出されていた。
先程フリーザにボロボロにされて、まともに動けなくなっていた悟飯が復活して、ベジータとクリリンがいる戦線に復帰していたのだ。
あまりの事態に驚いた2人は目を丸くしてしまった。
「えっ!?あの子さっきまでボロボロだったじゃないか。私達が目を離している間に何があったんだい??」
「いや、それが、私達もよく分からないんだけど……、あの、ナメック星人だっけ?その子がカカロットの息子の近くで何かやってたら、いきなりカカロットの息子が復活したんだ……と、思う……」
セリパの疑問に答えたのはギネだったが、その表情は困惑に染まっているのが見て取れた。どうやらギネ自身よくわかっていない為、回答はしどろもどろだった。
その時水晶を見上げていたバーダックがボソリと呟いた。
「どうやら、あのナメック星人のガキには治癒能力があるようだな……」
その言葉を聞いた他のサイヤ人達の視線がバーダックに集まる。
水晶から視線を逸らさずに、バーダックの言葉は続く。
「宇宙には、特殊な能力を持っている奴も多い。あのナメック星人のガキが治癒能力を持っていても不思議じゃねぇ。それに、あのガキが治癒能力を持っているんだったら、さっきのハゲが復活したのも説明がつく」
自身も他所の星の人間に不思議な能力で一時的にとはいえ、未来予知が出来るようになったバーダックは身を以て特殊な能力を備えた存在がいる事を知っていた。
だからこそ、他のサイヤ人達よりも状況を分析し理解するまでにそれほど時間を要さなかった。
「にしても、さすがサイヤ人の血を引いてるだけあって、復活したら戦闘力が随分向上したみたいだな」
バーダックの言葉を聞いて、他のサイヤ人達は改めて水晶に視線を移す。
そこには、バーダックの言葉を証明するように、これまでとは比較にならないほどの気を放っている悟飯が映し出されている。
「でもよ、バーダック。いくらあのガキがパワーアップしたからといって、フリーザに通じるのか?」
「無理だな。だからこそ、あのナメック星人のガキは戦いの鍵になる。フリーザのあの表情を見る限り、野郎はまだあのガキが治癒能力を持っていることに気付いてねぇ」
水晶には、またしても自分が痛めつけた存在が復活した事に困惑の表情を浮かべたフリーザの姿も映し出されていた。
『……バカな…………!あのチビもよみがえった……!や、やつもたしかに死にかけていたはずだ…………!』
「やはりな。バレるのは時間の問題だろうし、何度も使える手でもねぇ。だが、あの戦闘力の上がりっぷりを考えれば、あと数回復活すれば戦いとして成立するくれぇには差を埋められる可能性もある」
バーダックの言葉を聞いていた周りのサイヤ人達の顔に希望の色が宿る。
だが、その後続くバーダックの言葉に希望の光は霧散することになる。
「あくまで可能性の話だ。現状を見る限り、パワーアップしたカカロットのガキと王子とハゲの3人がかりでもフリーザの相手にはならねぇ。サイヤ人の特性である復活による大幅なパワーアップを考慮したとしても、あと何回復活する必要があるのか不明だ。それに何より、フリーザをぶっ倒すには決定打に欠ける。人数も力も圧倒的に足りてねぇんだよ」
確かに、バーダックの言う通り可能性の域を出ない話だぜ。
ギネやセリパの話じゃぁ、フリーザの戦闘力は100万を超えてるって話だ。
あのガキは確かにパワーアップしたみてぇだが、フリーザにはまだまだ遠く及ばねぇ気がする。
今あいつらが生きていられるのは、フリーザがあいつ等を舐めてかかっているから以外の何物でもねぇ。
しかし、さっきからガキやチビハゲが予想外の復活を遂げた事でフリーザの怒りは確実に増してやがる。
フリーザが遊びをやめた瞬間、あいつ等の死は確定する……。
バーダックが改めてちゃんと言葉にした事で、現状があまりにも救いがない状態だと認識した地獄のサイヤ人達は全員その表情を曇らせた。
彼等からしたら、自分達を滅ぼしたフリーザと残り少ない同胞が戦っているのだ。
別段、サイヤ人は同族意識などが高い種族ではないが、やはり自分達の仇であるフリーザは同じサイヤ人の手で倒して欲しいというのが、ここにいる全員の総意だった。
それが、例え自分を殺した存在や混血児だったとしてもだ。
だが、相手は正真正銘自分の力とカリスマ性で宇宙を支配した恐怖の帝王。
勝敗の天秤はそうやすやすとは動かない。
確かにバーダックが語った。可能性が現実になる可能性もあるだろう。
だが、その可能性が実現する可能性はあまりにも低い。
そんな事は、誰の目にも明らかだった。
誰もが勝利を諦めたその瞬間だった。
水晶から驚きと喜びの声が聞こえてきたのは……。
『はっ!!!』
『なにか来るぞっ!!!!』
最初に聞こえてきたのは、ベジータとチビハゲの驚きの声だった。
そして、次に聞こえてきたのはカカロットの息子の喜びに満ちた声だ。
『あっ!!!ピ……ピッコロさんっ!!!!!』
俺たちが水晶に視線を向けた時、そこには、白いターバンと白いマントをはためかせ腕を組みフリーザに視線を向けている野郎が1人映っていた。
そして、その野郎は一言だけはっきりと言葉を紡いだ。
『待たせたな……』