ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 14

■Side:バーダック

 

 

 水晶の中のフリーザは身体を捻り大きく右腕を引くと、引いた腕を勢いよくカカロットに向けて突き出す。

 すると、奴の掌から極大のエネルギー波が放出され、カカロットを襲う。

 しかし、攻撃を放ったフリーザはこれで終わりではないとばかりに、今度は反対の左手で先ほどと同様のエネルギー波を放ち、更に、間髪を入れず右手左手と両の手から何十発もの極大のエネルギー波を放ち続ける。

 

 あいつの攻撃のせいで、水晶はフリーザのエネルギー波とそれが齎す爆炎しか映し出されていない。

 これだけで、今あいつが放ったエネルギー波の攻撃規模がとんでもねぇ事が分かる・・。

 その攻撃の範囲と威力には、見てるこっちの方が冷や汗が流れてきやがる……。

 

 あれだけの規模と数の攻撃だ、流石のカカロットのヤツもノーダメージとは考えづれぇ……。

 だが、オレの予想は大きく外れることになった。

 

 フリーザが放ったエネルギー波とそれが齎した爆煙が止んだ時、そいつは姿を現した。

 しかも、フリーザの攻撃が始まった時からほとんど位置が変わっちゃいねぇ。

 だがそれは、反応出来ず避けきれなかったからじゃねぇ。

 

 あいつにとって、今のフリーザの攻撃は避けるに値しなかったのだ。

 オレはあいつの姿を見て冷や汗と共に身体の奥から、言い様のない何かが湧き出るのを感じだ……。

 

 なるほどな……。こいつが、超サイヤ人か……。

 伝説になるはずだ……。

 

 

 バーダックの視線の先には、黄金色のオーラを纏った金髪碧眼の戦士が無傷の状態でフリーザを睨みつけていた。

 

 

『お前はもうあやまっても許さないぞ……』

『ふ……ふふ…………』

 

 

 無傷な状態の悟空を、しばし驚愕の表情で見つめていたフリーザだった。

 しかし、悟空の言葉を聞き、思い出した様に強気の笑みを浮かべようとする。

 だが、内心の焦りが収まらないのかその笑みは酷く不恰好なモノだった。

 

 そんなフリーザに向けて、悟空は静かに右掌を向ける。

 するとドンッ!!という轟音と共に空気が震えたと感じた時には、フリーザの身体は数十m先へと吹っ飛ばされていた。

 縦回転しながら吹っ飛んでいたフリーザは、なんとか空中で体勢を整える。

 

 

『ハァ……、ハァ……』

 

 

 体勢を整えたフリーザには、冷や汗と共に驚愕の表情だけが張り付いていた。

 さらに、肩を上下に大きく揺らし、その姿からは余裕のカケラも感じられなかった。

 そんなフリーザを不敵な笑みを浮かべ、見つめる悟空。

 

 数十mの距離を空けて向かい合っていた2人だったが、そんな時間は長くは続かなかった。

 

 悟空の姿がブレたと認識した時には、一瞬でフリーザとの距離を詰めその顔面にエルボーを叩き込んでいた。

 

 

『くっ』

 

 

 エルボーを喰らったフリーザは、苦悶の声を上げながらも、なんとか体勢を整える。

 だが、その瞬間を見計らった様にフリーザの顎に悟空の強烈な左アッパーが炸裂し、またしても吹っ飛ばされる。

 さらに追撃とばかりに、超スピードの威力を乗せた悟空の頭突きがフリーザの背後に突き刺さる。

 

 

『ぐあっ!!!!!』

 

 

 その威力についにフリーザの口から血が吹き出る。

 だが、それがフリーザに再度火をつけたのか、痛む身体を無理やり動かし、悟空に攻撃を仕掛ける。

 

 

『くっ……!!ぎっ!!!!!』

 

 

 フリーザが繰り出した右蹴りを左腕でガードする悟空、さらに左エルボーを悟空の顔面めがけ繰り出すが、今度は悟空の右手があっさり防ぎ弾き返す。

 弾き返したことで開いた距離を悟空が詰めると、フリーザも同様に距離を詰め近距離で打ち合いに突入した。

 お互い一撃一撃がとんでもない破壊力を秘めているため、2人の拳や蹴りがぶつかる度、大気が悲鳴をあげ衝撃が走る。

 

 だが、2人の間には決定的な違いがあった。

 至近距離で打ち合いを行なっているというのに、冷静に攻撃を繰り出す悟空に対して、フリーザには一切の余裕が感じられなかった。

 

 このままでは分が悪いと感じたフリーザは、後方に飛び悟空との距離を空ける。

 

 

『ふーっ!!ふーっ!!』

 

 

 後方に飛んだフリーザの顔には玉の様な汗が浮かび上がり、その表情は怒りと屈辱からか、かなり歪んだ表情で悟空を睨みつけていた。

 そんな怒りをぶつける様にフリーザは即座に人差し指を悟空へ向ける。

 すると、間髪を入れず人差し指から一筋の光が光速のスピードで放出される。

 

 その攻撃の正体は、クリリンやベジータを散々苦しめた光速のビームだった。

 一見その細い見た目故、威力を感じさせないが、見掛けに寄らずその攻撃力は星を破壊するには十分過ぎる程の威力を持っていた。

 そんな、光速のスピードと恐ろしい破壊力を持った攻撃が悟空へと迫る。

 

 しかし、悟空はそんな光速の攻撃を顔色一つ変えず、フリーザの攻撃を上回る速度でわずかに横に移動し躱してみせた。

 

 

『よ……よけた…………!!!!』

 

 

 その恐ろしい反応速度に、驚愕の表情を浮かべるフリーザ。

 だが、自慢のビーム攻撃が避けられた事が受け入れなれなかったのか、再度攻撃を繰り出す。

 今度は避けさせないとばかりに、一気に10発近く指から光速のビームを放つ。

 

 しかし、悟空は先ほど同様、顔色一つ変えず、その場からほとんど動くことなく最小限の動きだけで躱し切ってしまった。

 

 その有様をまざまざと見せつけられたフリーザの顔が、先程までよりもさらに怒りで歪む。

 

 

『お……おのれ…………あ……当たりさえすれば……き……貴様なんか…………』

 

 

 苦々しい表情を悟空に向け怨嗟の声を上げるフリーザ。

 フリーザの様子を見ていた悟空は、不敵な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

『あててみろよ』

『!!』

 

 

 悟空の言葉を聞いたフリーザは、一瞬驚いた顔を覗かせる。

 しかし、悟空の言葉の意味を理解した瞬間、その表情は瞬く間にこれまでとは比較にならないほど怒りと屈辱で顔を歪め、身体を震わせていた。

 

 

『な…………なにを〜〜〜〜〜…………!?

 ふ…………ふざけやがって…………、後悔しやがれーーーーーーっ!!!!!』

 

 

 ついに怒りの頂点に達し、怒りの咆哮を上げたフリーザは抑えきれない殺意を込めて指先からビームを放出する。

 凄まじい速度で自分に迫るその攻撃を、避ける素振りすら見せず悠然と佇む悟空。

 

 そして、フリーザの全霊の殺気が籠った攻撃はついに悟空を捉える。

 着弾と共に凄まじい轟音をナメック星に響かせたフリーザの攻撃。

 その攻撃を顔面で、真正面から受けた悟空の顎が勢いよく跳ね上がる。

 

 しかし、攻撃虚しく悟空は跳ね上がった顎をゆっくりと下げ、鋭い眼光をフリーザに向ける。

 そして、口から一筋の血を流しながら不敵な笑みを浮かべる。

 

 

『星は壊せても……たった1人の人間は壊せない様だな…………』

 

 

 その姿を見たフリーザは、ついに全身を震わせ驚愕の表情を浮かべていた。

 その表情にはこれまでとは違い、明らかに悟空に対しての畏怖が込められていた……。

 

 

『な……な……なにものだ…………』

 

 

 震える口から、何とか絞り出す様に言葉を発したフリーザ。

 

 

『とっくにご存知なんだろう!?』

 

 

 そんなフリーザに、不敵な笑みを向ける悟空。

 そして、彼はついに自分の存在について名乗りを上げる。

 

 

『オレは地球から貴様を倒すためにやって来たサイヤ人……。

 穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士……』

 

 

 静かに言葉を発していた悟空は、そこで言葉を切ると、表情を改め鋭い眼光でフリーザを睨みつける。

 

 

『超サイヤ人孫悟空だ!!!!!』

 

 

 悟空の叫びに呼応する様に、全身から膨大な量の黄金のオーラが放出される。

 

 その凄まじい姿を見たフリーザは、自身の全身から冷や汗が流れるのを止められなかった……。

 しばし、茫然とした表情で悟空を見つめていたフリーザだったが、最強の宇宙の帝王としてのプライドがフリーザを現実へ連れ戻す。

 茫然とした表情から何とか笑みを浮かべたフリーザだったが、その笑みは誰が見ても無理やり浮かべた作られた笑みだというのが分かるほど、ぎこちないモノだった。

 

 

『……や……やはりな…………。

 どうやら本当に超サイヤ人らしいな…………。

 ふ……ふっふっふっ…………』

 

 

 ぎこちない顔で笑うフリーザを、静かに、だが鋭い瞳で見つめる悟空。

 

 

『穏やかな心を持ちながら怒りによって目覚めた……か。

 なるほど……いくら頑張ってもベジータにはなれなかった訳だ……』

 

 

 強がりで何とか笑みを浮かべながらも、言葉を発し続けていたフリーザの言葉が途切れる。

 しかし、次の瞬間フリーザは全身をブルブルと震わせ、両こぶしを硬く握りしめていた。

 そして、無理矢理作られた笑みはついに崩れ去り、怒りと屈辱が混ざった様な複雑な表情を浮かべる。

 

 

『ち……ちくしょーーーーー…………!!!

 ちくしょおおお〜〜〜〜〜っ!!!!!』

 

 

 ついに感情を爆発させたフリーザは、怒りの咆哮を上げる。

 咆哮を上げたフリーザは、しばらく怒りと屈辱が混ざった様な複雑な表情を浮かべ、身体を震わせていた。

 その内心がどんなものだったのかは、フリーザ本人にしか分からない……。

 

 そんなフリーザを冷静に静観していた悟空は、ついにフリーザへ最後通告を突きつける。

 

 

『終わりだ!フリーザ!!』

 

 

 

■Side:ラディッツ

 

 

「すげぇ……、圧倒的じゃねぇか……」

「あのフリーザが手も足も出ねぇなんて……」

 

 

 オレ達地獄のサイヤ人は超サイヤ人へと変身を遂げた、カカロットの戦闘力の高さに言葉を失っていた。

 だが、どんな時にも例外はいるものだ……。

 例えばこんな2人みたいに……。

 

 

「凄いじゃないか、ギネ!!!あんたの息子、本当にすごいよ!!!!」

「…………」

 

 

 興奮した様な顔でセリパがオフクロに向かって声をかける。

 しかし、オフクロはセリパが声をかけたというのに返事もせず複雑そうな顔で水晶を見ていた。

 それを不思議に思ったセリパは、改めてオフクロに声をかける。

 

 

「どうしたんだい?ギネ??」

「ソン……ゴクウ…………」

「ん?」

 

 

 セリパの問いかけに反応を示したのか、オフクロは呟く様に声を発した。

 それは、先程水晶から聞こえてきた男の名前だった……。

 だが、セリパにも、そしてこのオレにもオフクロが何が言いたいのか理解することが出来なかった……。

 

 

「ソンゴクウ……。それが、あんたの今の名前なんだね……。

 あたしやバーダックがつけたカカロットではなく……」

 

 

 その言葉を聞いて、ようやくオレはオフクロが何を気にしていたのかに気が付いた。

 そして、それはセリパも同じだった様だ。

 

 

「ギネ……、あんた…………」

 

 

 複雑そうな顔で自分を見つめるセリパに気付いたのか、オフクロはセリパに視線を向けると何と言葉にして良いか分からない笑みを浮かべる。

 オレには正直オフクロが何故そんな表情を浮かべるのか理解できなかった。

 だが、その笑みを見ていると何故だか分からんが、何ともいえない気分になった。

  

 

「まぁ、しかたないよね……。あの子は赤ん坊の時に地球に送られたんだ。

 きっと……、カカロットって呼ばれた事すら無かったんだろうね……。

 そんな事は分かっているんだ……。

 でもね……、それをあの子の口から実際に聞くと、……やっぱりちょっとキツイかな…………。

 何言ってんだろうね……、こんな大事な時に、あたしは……」

 

 

 言葉を発したオフクロの表情を見た瞬間、自分でもよく分からんが無意識にオレは口を開いていた。

 

 

「確かに……、オレがカカロットと地球で会った時、ヤツは自分は地球で育ったソンゴクウだと言っていたな……。

 それどころか、カカロットという名前は自分の名前ですら無いとも言っていた……」

「ラディッツ!!!あんた!!!」

 

 

 オレの言葉を聞いたオフクロは、さらに表情を暗くし俯く。

 そして、そんなオフクロを見てセリパがオレに怒声を上げる。

 だが、オレはそんな事等無視して言葉を続ける。

 

 

「だが、今は少し違っているかも知れん……」

「え?」

 

 

 呆けた様な声を上げ、オレの顔を見つめるオフクロ。

 

 

「ヤツは名前だけでなく自分がサイヤ人である事すら地球で会った時は、否定していた……。

 だが、ヤツは先程フリーザに対して、確かにこう言いやがった……。

 「自分は地球育ちのサイヤ人」だと……。

 それは、自分がサイヤ人であるという事を少なからず受け入れた……、という事ではないのか??」

「そっ、それって……」

 

 

 オレの言葉でオフクロは何かに気付いたのか、その顔には笑みが浮かんでいた。

 そして、まだオレが子供だった頃によく見た事がある様な表情を向ける。

 

 

「ありがとう。ラディッツ」

 

 

 オフクロが笑顔で向ける視線に居心地の悪さを感じたオレは、視線をオフクロから外し水晶の方に向け、思考を切り替える。

 

 

「それにしても……、これが……、超サイヤ人の力…………」 

 

 

 オレは今、目の前で起きている事態に、驚愕の感情を隠せなかった。

 先程親父の説明によって、カカロットが超サイヤ人へと至ったのは理解していたつもりだった。

 だが……、どうやらオレは何も理解して等いなかった様だ…………。

 

 超サイヤ人……。

 千年に1人現れるという伝説の戦士……。

 サイヤ人なら誰でも1度は聞いた事がある程、有名な伝説だ。

 

 だが、その伝説はあくまで、おとぎ話としかオレ達サイヤ人は捉えていなかった。

 それはそうだろう……。これまで、サイヤ人の歴史の中にはベジータ等、数多の力あるエリート戦士が存在した。

 しかし、どんなエリート戦士でもその伝説を蘇らせる事は出来なかったのだ。

 

 そんなおとぎ話の様な伝説を、下級戦士として判断された男が蘇らせた……。

 確かにカカロットは、サイヤ人として見ても異常と言っていい戦闘力を持っている……。

 しかし、ヤツは下級戦士……。

 

 そんな想いがあったからだろうか……、オレは超サイヤ人と言っても、下級戦士がなれる様な変身ならその力もたかが知れている。

 と、心のどこかで考えていた……。いや、思い込もうとしていたのかもしれん……。 

 

 だが、改めてその力を目の前でまざまざと見せつけられると、その思い込みが大きく異なっていた事を嫌でも実感させられた……。

 

 迸る黄金のオーラを纏った金色の戦士の一挙手一投足は、ただただ凄まじかった……。

 

 あのフリーザを全く寄せ付けないほどの、圧倒的な戦闘力……。

 これが……伝説の戦士の力……。

 これが……オレ達サイヤ人が持つ可能性の真の力……。

 

 

「なるほど……、フリーザがオレ達サイヤ人を滅ぼすはずだ…………」

 

 

 フリーザがどういう経緯で、超サイヤ人の事を知ったのかは親父達どころか誰にも分からない。

 しかし、もしフリーザが超サイヤ人についてオレ達サイヤ人以上に何かを掴んでいたとすれば、あいつの立場からすればオレ達は相当やっかいな存在だったのかもしれんな。

 だから、滅ぼした。

 

 超サイヤ人に目覚め、伝説を再現する存在が誕生するのを恐れて……。

 

 しかし、今その伝説は蘇った……。

 しかも、他ならぬヤツ自身の行動が、その最後の一押しをしてしまうとは……、こいつはなんとも皮肉な話だな。

 

 

 

 ラディッツが地獄で超サイヤ人の力に驚愕している頃、ナメック星の上空で向かい合う悟空とフリーザ。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった。

 

 静寂を破ったのは悟空だった。

 ゆっくりとした動きで両手を前に突き出し、それぞれの手を上下に手首を合わせる。

 合わせた手をさらにゆっくりと右腰だめに移動させる。

 

 悟空の動きを見ていたフリーザは、その動作の意味を瞬時に理解する。

 先程自分に向けて放たれたエネルギー波を再度繰り出すのだと、推測したのだ。

 しかも、前回とは違い今の目の前の存在のパワーでそれを放てば、自分を滅ぼすには十分過ぎるほどだと理解していた。

 

 そんな危機的状況に直面したフリーザは必死で頭の中で打開策を思案する。

 そして、僅か数秒で自身の勝利方法を導き出してしまった。

 戦闘力だけでなく、この聡明な頭脳もまた、フリーザが宇宙の帝王として君臨する為の力の一端だったのかも知れない。

 

 そして、それを実行に移すべくフリーザは行動に出る。

 

 

『言っておくが、オレは貴様なんかに殺されるぐらいなら、自ら死を選ぶぞ……』

「あの野郎何考えてやがる……?」

 

 

 冷や汗を流しながらも、強気な笑みを浮かべるフリーザ。

 だが、地獄から戦いを見ていたバーダックはフリーザの言葉を聞き、怪訝そうな顔を浮かべる。

 バーダックには、いかに悟空との戦闘力に差が開いたとしてもフリーザがそう簡単に自ら死を選ぶとは考えられなかったのだ。

 

 

『スキにしろ……』

 

 

 しかし悟空はバーダックとは違いフリーザの思惑に気付く事なく、冷めた目でフリーザを見つめる。

 そんな悟空に邪悪な笑みを向けると、フリーザは瞬時に両手をあげる。

 すると、フリーザの両手の間に小型だが膨大なエネルギーが込められた塊が顕現する。

 

 

『だが、オレは死なん……。死ぬのは貴様だ……。

 オレは宇宙空間でも生き延びられるぞ。

 だが、貴様らサイヤ人はどうかな?』

『!!』

「あっ……、あの野郎まさか……!?」

 

 

 フリーザの言葉を聞いた悟空の表情に驚愕の色が宿るのとほぼ同じタイミングで、バーダックの頭に最悪の可能性がよぎった。

 悟空に浮かんだ驚愕の表情に、愉悦を感じたフリーザは勝利の笑みを浮かべる。

 そして、バーダックの頭によぎった最悪の可能性を無情にも実行にうつす。

 

 

『この星を消す!!!!』

 

 

 その叫びと共にフリーザは、頭上に掲げていた両手を勢いよく地面に向けて振り下ろす。

 すると、振り下ろされた両手の間で力を蓄えていたエネルギーの塊は、猛スピードで地面もといナメック星に向けて落下していく。

 

 

『しまったあ!!!!!』

 

 

 猛スピードで落下していくエネルギーの塊を見て、驚愕の表情を浮かべ叫び声をあげる悟空。

 しかし、もう遅い。

 いくら伝説の超サイヤ人とはいえ、この攻撃をどうにかするには圧倒的に時間が足りなかった……。

 

 

『ふっとべーーーーーっ!!!!!』

 

 

 宇宙の帝王の叫びと共に、ナメック星全域が白い光に包まれた……。

 その数瞬後、星が砕ける程の轟音が世界に響き渡った……。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!!!」 

 

 

 あたしは真っ白に染まり轟音を轟かせた水晶に向けて、無意識に叫び声を上げていた。

 

 

「くそっ……!!!……あの野郎、カカロットに勝てねぇと踏んで星を破壊しやがった……」

 

 

 あたしの耳に悔しさを滲ませたバーダックの声が届いた。

 だが、あたしはカカロットの安否が気になって水晶から視線を動かす事が出来なかった……。

 

 

 水晶はフリーザの攻撃後、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになっていた。

 

 

「サイヤ人は宇宙空間では、生きられない……。

 だが……、フリーザは生きられる……。

 種族としての性能の差が、勝負を分けたというのか……」

「そんなの……、ありかよ…………」

 

 

 トーマとパンブーキンもバーダック同様に、戦いの結末に納得がいっていないのか、その表情は悔しさを滲ませていた。

 

 

「本当に……、これで……終わっちまったのかい…………?」

 

 

 呆然とした表情で水晶を見上げながら、セリパは呟く。

 

 だが、彼等の悔しさや落胆も仕方のない事だろう……。

 彼等からしたら、自分達から全てを奪った存在を、あと一歩というところまで追い詰めたのだ。

 しかも、それを成したのが自分達サイヤ人の最後の同胞と言っても過言では無い存在だったのだ。

 

 しかし、結果だけ見てしまえば、またしても彼等サイヤ人はフリーザに勝つ事が出来なかった……。

 

 さらに、彼等の落胆に拍車をかけたのが超サイヤ人の存在だった。

 自分達一族に伝わる伝説の再来。

 そして、その凄まじいまでの力を目の当たりにして、彼等は勝利を無意識に確信していた。

 

 だけども、負けた……。

 しかも、実力ではなく種族の性能という、自分達ではどうしよう無いものによってだ……。

 

 理不尽だと言いたい者もいるだろう……。

 しかし、どんなに言葉を並べたところで結末は変わらないのだ……。

 彼等もそれを痛いほど実感していた。

 

 地獄にいる全サイヤ人達が絶望に打ち拉がれていると、その空気を打ちやぶる声が聞こえてきた……。

 しかも、それは彼等からしてみれば、あり得ない存在の声だった。

 

 

『ぎっ……、ぐっ…………』

 

 

 その声が聞こえた瞬間、あたしは俯いていた顔を即上げて水晶を見つめる。

 水晶は未だ砂嵐の様なひどいノイズが走った状態だった。

 しかし、確かに先程聞こえたのだ……。

 

 

「まっ……、まさか…………」

 

 

 先程聞こえた声が、私の中に一つの可能性を示す。

 正直、信じられないという想いがあったのは事実だ。

 だけど、あたしと同じ様に周りのヤツ等も同じ可能性に行き着いたのか、皆の不安と期待が入り乱れた視線が水晶に注がれる。

 

 答えは程無くして映し出された……。

 あたし達が抱いた可能性を肯定するかの様に、水晶の砂嵐の様なノイズが徐々に収まっていく……。

 そして、水晶はついに映し出した……。

 

 あたし達の最後の希望の姿を……。

 

 

「カカロットッ!!!」

 

 

 その姿を見た瞬間、あたしは両目に涙を貯め、またしても無意識に喜びの声を上げた。

 あたしだけじゃ無い。

 周りのヤツ等からも似た様な歓声が上がる。

 

 まだ、終わってない……。

 あの子の戦いも、あたし達サイヤ人の願いも……。

 

 

 

 水晶が映し出した悟空は、衝撃に耐える様に両手をクロスさせ顔をガードしていた。

 だが、それは仕方ないだろう。

 空中で静止している悟空の下には、巨大過ぎる穴が空いていた。

 

 そして、その穴からはプラズマの様な光が無数に生まれては消えていた。

 その光景からして、先程のナメック星にフリーザが放った攻撃の威力が、とんでも無いものだったと推測できる。

 

 

『ち…………!パワーを抑えすぎたか…………!!』

 

 

 自分の予定通りに星が消滅しなかった事に、悔しげな表情で地面の巨大過ぎる穴を見つめるフリーザ。

 

 

『星の爆発に自分も巻き込まれるのを恐れたからだ……、しくじったな。

 お陰でオレは命拾いをしたがな……』

『命拾いだと?くっくっく…………。

 貴様には何も分かっていない様だな……』

 

 

 悔しがっているフリーザを見て、冷静に口を開く悟空。

 しかし、悟空の言葉を聞いたフリーザは、その内容が可笑しかったのか悔し顔を引っ込め、邪悪な笑みを向け驚愕の事実を口にする。

 

 

『この星の一瞬の爆発は避けられたが、中枢は破壊された……。

 どういう事か分かるか?

 あと5分もすれば今度こそ放っておいても大爆発を起こし、ナメック星は宇宙の塵となる……』

『なにっ!?』

 

 

 フリーザの語った内容に、流石の悟空も驚きと焦りを隠せなかった。

 せっかく助かったというのに、実は僅かばかり破滅への時間が遅くなっただけだと聞かされれば、驚きや焦りもするだろう。

 

 

『………………5分もあれば十分だ……。

 貴様を倒し、仲間と共に地球から乗ってきた宇宙船で脱出する』

 

 

 しばらく焦りで顔を歪めていた悟空だったが、覚悟を決めたのかフリーザを倒して脱出する事を選んだ。

 しかし、その悟空の言葉を聞いたフリーザは、その物の言いように不機嫌さを隠せなかった。

 怒りでしばし無言で悟空を睨みつけていたフリーザに凶悪な笑みが浮かぶ。

 

 

『残念だったな……。

 希望が残されているのはオレの方だ……。

 少なくとも貴様よりは大きな希望が……』

 

 

 凶悪な笑みを浮かべ、悟空に事実を聞かせる様に静かに語っていたフリーザの言葉がそこで途切れる。

 そして表情を凶悪な笑みから真顔へ変え、ついにフリーザは宣言する。

 

 

『こうなったら見せてやるぞ!!100%の力を!!!

 オレを倒せるわけがないんだ!!

 覚悟しろ!!!』

 

 

 恐るべきフリーザの宣言を聞いても、悟空の態度に変化は見られなかった。

 それどころか、冷静にフリーザを見つめていた。

 その様子はまるで、何かを見極めている様だった。

 

 

『なぜ今になってフルパワーを……?

 分かっているぞ……、全力を使うとお前の身体そのものが耐えられないからだ……』

『…………』

 

 

 悟空はこれまでの戦いで、フリーザの力量を正確に把握していた。

 超サイヤ人になり、感情が高ぶっていても冷静に正確な見極めを行う事が出来るのは、悟空がこれまでの人生で培った武道家としての経験が活きているのだろう。

 

 悟空の言葉を聞いたフリーザは、顔を苦々しく歪めていた。

 それは、無言の肯定と言っても過言ではないだろう。

 フリーザの様子を見て、悟空は自分の見立てが当たっていた事を確信する。

 

 

『時間を稼がせるわけにはいかん!!!

 決着をつけてやるぞ!!!!!』

 

 

 残り時間が限られているので、早速悟空が攻撃に移ろうとするよりも早くフリーザは動いた。

 

 

『ばっ!!!!!』

 

 

 フリーザが突き出した両手から強力な衝撃波が放たれ、悟空を吹っ飛ばす。

 そのあまりの威力に悟空は数百m下の海へ叩き込まれる。

 しかし、すぐに海から飛び出した悟空は舞空術で空へ戻ってくる。

 

 

『ぐっ!!』

 

 

 戻ってきた悟空は数百m先のフリーザを睨みつけるが、その悟空にフリーザはニヤリと笑みを向ける。

 

 

『ふ……ふははははは……!!

 見くびったな!!言っておくが今のは、まだ全力じゃないぞ!!!

 70%ほどかな……』

 

 

 フリーザの笑みを見た悟空は、数百mの距離を詰めようと黄金のオーラを纏い飛び出す。

 自分に物凄いスピードで近づく悟空を見ながらついに、フリーザも決意を固める。

 

 

『そしてこれが……お待ちかね100%!!!』

 

 

 次の瞬間、フリーザの身体から膨大な量の気が放出される……。

 

 

『!!』

 

 

 その光景を見た悟空は、フリーザに近づくのをやめ空中に静止する。

 

 

『気が膨れ上がって充実していく……。

 ついに100%パワーってやつのお出ましか……』

 

 

 気を感知出来る悟空には、フリーザから発せられる力がどんどん高まっていくのが手に取るように理解できた。

 しかし、その表情には笑みが浮かんでいた。

 こんなヤバイ状況だというのに、強い者と戦える事に喜びを覚えてしまう辺り、悟空は紛れもなく戦闘民族サイヤ人なのだろう……。

 

 

 

「おいおい、カカロットの奴、空中で止まっちまったぜ……、どうしちまったんだよ??」

「まさか……、あの野郎……フリーザがフルパワーになるのを待っているのか!?」

「はぁ!?もう星が消し飛ぶまで、5分もないんだよ???」

 

 

 空中で動きを止めた悟空を見て、ナッパやラディッツ、セリパが声を上げる。

 そんな時、水晶から件の存在の声が響いた。

 

 

『聞こえてますよ。界王様』

「ん?あいつ……何言ってんだ……??」

 

 

 しかし、その言葉の内容は誰にも理解できなかった。

 

 

「もしかして、誰かと話してんのか??」

「誰かって、誰さ??」

「オレが知るわけねぇだろ……!!」

 

 

 言葉の内容で、トーマが何となく頭に浮かんだ予想を口にしたが、悟空の声以外聞こえないので確証には至らなかった。

 そんな地獄のサイヤ人達の事など知りようが無い、悟空の会話は続く。

 

 

『確かに、こんなチャンスは二度とないかもしれない……。

 宇宙一強いヤロウのフルパワーを拝見するチャンスは……』

「!!……やはり、あいつフリーザのフルパワーを待ってやがったのか……」

「にしても……、一体何の話してやがんだ……??」

 

 

 訳が分からず怪訝そうな顔をしている地獄のサイヤ人達の気持ちを汲んだのか、水晶から悟空以外の声が響きだした。

 

 

(な……なんだと……!?

 ご……悟空!お前自分が何を言っているのか分かっておるのか……!?

 ど……どうしたというんだ…………!!)

「なっ、何だこれ!?」

「もしかして……、この声がさっきからカカロットが会話していた相手か……??」

 

 

 突如聞こえだした姿なき声に、流石の地獄のサイヤ人達も驚きを隠せなかった。

 しかし、そんなサイヤ人達も、次の言葉を聞いた瞬間、これまでの騒ぎが嘘の様に静まり返る。

 

 

『フルパワーのフリーザと戦い……、そして勝つ!!』

 

 

 悟空の言葉を聞いて、皆が驚愕の表情を浮かべる中、1人だけその言葉に強気の笑みを浮かべた存在がいた。

 

 

「それでこそ、サイヤ人ってもんだぜ……カカロット!!!」

 

 

 1人静かに口を開いたのは、悟空の父バーダックだった。

 その表情は何とも言えない喜びが浮かんでいる様だった。

 しかし、悟空と会話していた界王はバーダックの様に悟空の意見を受け入れる事は出来なかった。

 

 

(こっ、これはゲームじゃ無いんだぞっ!!!

 悟空っ!!!悟空ーーーーーっ!!!)

 

 

 界王の言葉を聞いて、ついに悟空の中で抑え込んでいた感情が爆発する。

 

 

『クリリンの仇を討つんだ!!!

 あいつは2度死んだ!!!

 もう、ドラゴンボールでも生きかえれない!!!』

 

 

 感情を爆発させ、怒りの叫びをあげた悟空は、俯くと何かに耐える様に全身をブルブルと震わせる。

 

 

『クリリンはいい奴だった……。

 本当にいいヤツだった……1番の仲間……。

 こ……粉々にしやがって…………』

 

 

 今の姿と会話によって、悟空の中に押さえ込まれていた怒りの凄まじさ察した界王。

 

 

(だ……だったら奴がフルパワーになるのを待つ事もなかろう!!

 そ、それに悟飯達はどうなる!!)

『大丈夫……悟飯達は助かる…………』

 

 

 何とか悟空を説得しようと試みる界王だったが、悟空の意志は硬く。

 この会話を最後に悟空の方からテレパシーを切る。

 

 テレパシーを切った悟空は、フリーザの方に視線を向ける。

 そこでは、フリーザがフルパワーに向けて力を高めていた。

 

 

『85%……、90…………』

 

 

 そんなフリーザを強気な笑みで見つめる悟空。

 

 

『フリーザ……貴様がフルパワーになっているのを待っているのは……、最高の貴様を叩きのめしたいからだ……。

 戦士として悔いのない様に……。

 貴様だって自分のフルパワーを試してみたくなったんだろ?

 そうでなきゃ、もう1発星を撃って、それで終わりにしてたはずだ……』

 

 

 距離が空いている悟空の言葉が聞こえていたわけではないだろう。

 しかし、その言葉に応える様にフリーザの顔に邪悪だが強気な笑みが浮かぶ。

 

 

『…………ひひひ……』

 

 

 そうしている間にも、フリーザの力はどんどん高められていく……。

 そして、ついに……その瞬間がやってきた……。

 

 それは、決して劇的な変化ではなかった……。

 しかし、それは明らかにこれまでとは大きく異なっていた……。

 

 フリーザの周りで大きな衝撃音が響くと、そこにはこれまでよりも一回り大きくなったフリーザが存在していた。

 発せられるオーラや内包している気の量もこれまでのフリーザとは、比べ物にならなかった。

 

 ここに来て、ついにフルパワーとなった宇宙の帝王が姿を姿を現した。

 

 

『待たせたな…………。こいつがお望みのフルパワーだ』

『時間がないんだ。早いとこカタをつけようぜ……』

 

 

 ナメック星が滅ぶまで、あと残り数分……。

 戦闘民族サイヤ人の伝説の戦士とフルパワーとなった宇宙の帝王の、真の戦いが始まろうとしていた。

 

 戦いは更なるステージへ突入する。

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