ドラゴンボール -地獄からの観戦者- フリーザ編 11

■Side:ギネ

 

 

「ようやく現れやがったか……、カカロット!!」

 

 

 あたしの横でバーダックがそんな台詞を口に出していたが、あの男を一目見た時から、あの子が何者なのかあたしには一目で分かった。

 なぜなら、今私の横にいるバーダックにそっくりだったからさ。

 でも、ちょっと違うところもある。

 

 着ている服は、あたし達サイヤ人はまず見た事がない様な服装だし、顔つきだって今は敵の前だから険しい顔してるけど、本当はよく笑う優しい子なんだろう。

 その姿からなんと無くだけど、想像がつくよ……。

 

 あんたは地球でいい人達に囲まれて、楽しくやってたんだね……。

 最後に会った時は、まだ赤ん坊だったのに……、立派になったんだね……。

 ねぇ、カカロット……。

 

 

「カカロットだと!?あいつ、生きてやがったのかっ!?てっきりベジータに殺られてるとばっかり思ってたぜ……」

「いや、さっきベジータがカカロットの出番がどうたらって言っていたではないか……」

 

 

 カカロットの登場に、ナッパやラディッツが何か言っているが、私は久しぶりに見る事が出来たカカロットに夢中で気にしなかった。

 ナッパのバカが、大変失礼なことを言っていた気がするけど……。

 

 

「へぇ、あれがバーダックとギネの次男坊かい!!」

「確かに、顔だけ見ればバーダックそっくりだな……」

「いや、バーダックはあんな平和ボケしたツラしてねぇだろ……」

「それは、ギネの血のせいだろう」

 

 

 あたしとバーダックの昔からの仲間達も、カカロットには興味津々て感じだった。

 こっちも、なんか失礼な事を言っているけど、今は気分がいいので気にしない……。

 

 

「にしてもよぉ、カカロットの野郎何しに来やがったんだ?まさか、フリーザに戦いを挑むわけじゃねぇよなぁ?」

「いくらなんでも、それはないだろう。下級戦士のあいつがフリーザと戦えるだけの力があるわけないではないか」

 

 

 横から聞こえた、ナッパとラディッツの会話であたしは今がどういう状況なのかを思い出した。

 そうだった……、カカロットの目の前には今フリーザがいるのだ。

 せっかく見る事が出来たカカロットだけど、正直あたしは今すぐ仲間達と共にフリーザの前から逃げてほしいと思わずにはいられなかった。

 

 そんなあたしの気持ちなど知りようがない、当のカカロットは水晶の中で、仲間や息子達に何か話しかけ、王子の前にいるフリーザの元へ歩いていく。

 

 

『きさまがフリーザか……、思っていたよりずっとガキっぽいな……』

 

 

 フリーザを目にした悟空は、自分が想像していた姿よりフリーザの外見や雰囲気が幼く見えたのだろう。

 つい口から本音が出た様だった。

 

 

『まだゴミが残っていたのか……』

『ベジータはオラと戦う約束したんだ、邪魔するなよ』

 

 

 いきなり現れた存在に舐めた口をきかれたからか、フリーザも辛辣な言葉を返すが悟空は意にも介していない様だった。

 2人が口でやり取りを行なっていると、フリーザの足元で気を失いかていたベジータが、ようやく悟空の存在に気づいた。

 

 

『カ……カカロット……、お、お……おまえ…………』

『カカロット……!?その名前は……サイヤ人か!!』

 

 

 ベジータは、悟空を一目見た瞬間何かに気づいた様だった。

 だが、フリーザはベジータが発したカカロットという、悟空のもう一つの名前を聞き、悟空がサイヤ人であったことに驚きを示した。

 そして、悟空の顔を改めて見た時だった……

 

 

『はっ!!!』

 

 

 一瞬何かに気づいた様子を見せたのち苦々しい顔を浮かべ、悟空を睨みつけるフリーザ。

 その一瞬に何を思い浮かべたのかは、フリーザにしか分からない。

 

 悟空がサイヤ人だと分かったからか、それとも先程の一瞬で何かを思い出したからか、フリーザは改めて悟空を敵として認識した様だった。

 

 

『サイヤ人は1匹たりとも生かしておかないよ……。バカだねぇ、おとなしく震えてりゃよかったのに……』

『かもな……』

 

 

 嘲りの笑みを浮かべるフリーザに対して、まるで感情を押し殺しているかの様に淡々とした返事を返す悟空。

 だが、2人の会話は長く続かなかった……。

 

 

『そらっ!!!』

 

 

 掛け声と共に最初に動いたのはフリーザだった。

 繰り出された低空の飛び蹴りはフリーザより身長が20cm程高い悟空からしてみれば、かなりの厄介な上、スピードも相当なものだった。

 だが、悟空は瞬時に体を倒し、片手を地面に突きフリーザよりもさらに低い位置から蹴りを繰り出した。

 しかも、今度は逆に身長差を活かし、フリーザが自身に蹴りを当てるよりも早くフリーザの横っ面に蹴りを叩き込む。

 

 カウンターという形で蹴りを喰らい吹っ飛んだフリーザだったが、瞬時に体勢を立て直しバック宙の要領で地面に着地する。

 サイヤ人が今のスピードにカウンターを合わせられるとは思っていなかったのか、一瞬頬を抑え顔を顰める。

 だが、その表情は瞬時に「にや……」と不気味な笑みに変わると、フリーザは悟空に向かって人差し指を向ける。

 

 

『やばいっ!!!よけろ悟空ーーーーーっ!!!!』

 

 

 フリーザの動作を見て、次に行われる攻撃が先程自分たちに行なっていた攻撃だと予想がついたクリリンは悟空に向かって叫ぶ。

 

 

『なまいきだよ、おまえ』

 

 

 クリリンの叫びも虚しくフリーザの指先から数十発のビームが無情にも放たれてしまった。

 あのベジータをしてようやく目で追う事ができる程の超速で、しかも高威力なフリーザのビームが悟空に迫る。

 

 だが、悟空は冷静に片手を突き出し、そのビームを片手だけで全て跳ね返していく。

 跳ね返されたビームはその威力から、ナメック星の大地にどんどん大きな傷跡を残していく。

 そして、数十発のビームが全て止んだ時、フリーザの前には無傷のままの悟空が目の前に立っていた。

 

 

『まさか……、全部弾き飛ばした……片手だけで……』

 

 

 さすがのフリーザもこの展開は予想外だったのか驚きの表情を浮かべる。

 

 

 だが、フリーザ以上に驚きに包まれている存在が別にいた。

 それは、地獄で観戦しているサイヤ人達だった。

 彼等は今の一瞬の攻防を目の当たりにして、呆然としていた……。

 

 だが、それは当然かもしれない。

 ここにいるサイヤ人達にとって、カカロットこと孫悟空は、バーダックとギネの息子で下級戦士って情報しかなかったのだ。

 ナッパやラディッツから多少の情報が入っていたとしても、ここまで戦える存在とは正直予想もしていなかった。

 

 そんな存在が、サイヤ人の王子であるベジータが手も足も出なかった化物と互角に戦っている。

 これは、一種のカタルシスと言ってもいいだろう。

 

 

「すっ、すごい!すごいよ!!カカロット!!!!」

「ギネ!!あんたの次男坊やるじゃないか!!!」

 

 

 最初にショックから復活したのはギネだった。

 自分の息子が初めて戦っている姿を見て、彼女のテンションは最高潮だった。

 そして、それが伝わったのかセリパも興奮したようにギネに声を掛ける。

 

 

「おいおい……、聞いていた話と随分違くねぇか?バーダックの話じゃカカロットって下級戦士だっただろ?」

「ああ、確実にベジータ王子より上の戦闘力を持っているな……」

 

 

 女性陣が興奮しているのに対して、男性陣は冷静に悟空の戦闘力について分析していた。

 だが、そんな中で今だに悟空の力を認められない者達もいた……。

 

 

「マ、マグレだぜ……、カ……カカロットの野郎があんなに強いわけねぇ……」

「…………」

 

 

 ナッパとラディッツは目の前で起きた出来事がいまだに信じられないのか、呆然と水晶を見ていた。

 その横で、バーダックは漸く自分が過去に予知した状況になり、しかも自分が期待していた通りの力を発揮している息子の姿を見て、静かに笑みを浮かべていた。

 地獄のサイヤ人達が、カカロットにそれぞれの想いを抱いている、その時だった……、彼等の王子の笑い声が聞こえてきたのは……。

 

 

『は……、はーーーーーっはっはっは……、フ……、フリーザ……!

 本気でやったほうがいいぜ……。

 こ……、こいつこそ……き……貴様の最も恐れていた……、ス……、超サイヤ人だ!!!』

『!!』

 

 

 ベジータが告げた言葉にフリーザは目を見開いて、驚きの表情を浮かべる。

 その表情を見たベジータは、痛みで最早身体を動かす事すらしんどい状況にも関わらず、震える体に力を入れ上半身だけ起き上がらせ強気の笑みを浮かべ言葉を続ける。

 

 

『そ……そうだ!あの伝説の全宇宙最強の戦士……超サイヤ人だ……。

 ふ……ふっふっふ……、フリーザ……、も……もう、てめえはおしまいだ……。

 ざ……あまあみやがれ…………!!』

 

 

 その瞬間だった……。ベジータの胸をフリーザのビームが貫いたのは……。

 胸を貫かれたベジータは、口から血を吐きながら力が事切れた様に後ろに倒れこむ。

 

 

『が……がはっ……』

『知ってたはずだろ!?ボクがくだらないジョークが嫌いだって事をさ……』

 

 

 フリーザが不機嫌そうにベジータに告げるのを見て、悟空の表情に怒りが宿る。

 

 

『おい!ベジータはもうほとんど身動きさえ出来ねえ様な状態だったんだ……!

 わざわざ止めを刺すこたあねえだろ……!』

『超サイヤ人だなんて、つまらない伝説にいつまでもこだわっているからさ。

 ボクはくどいヤツが嫌いなんだ』

 

 

 フリーザは悟空の怒りなど知った事ではないと言う感じで言葉を告げる。

 それに対し、悟空が顔を歪めると、足元からベジータの弱々しい声が聞こえてきた。

 

 

『カ……カカロット……、ま……まだきさまは……そんな、あまいことをいって……やがるのか……。

 ス……超サイヤ人じゃ……な……なかったのか…………。

 バ……バカやろう…………!非情になれ…………!

 あ……あまさなくせば……き……きさまは、き……きっとなれたはずだ…………。

 ス……超サイヤ人に…………!』

『オ……オラはおめえみてえに非情に徹するなんてどうやったって出来ねえ……。

 だいたい、その超サイヤ人……てのがよくわからねえ……』

 

 

 ベジータの正に命を振り絞った言葉だった。

 そして悟空にもベジータが自分に対してとても大切な事を語ってくれていると言うことは理解できても、その内容をどうしても受け入れられる事がで出来なかった。

 それでもベジータは命を振り絞りながら言葉を続ける。

 

 

『ス……超サイヤ人てのは……うっ……ゴホッ』

『それ以上喋るな!死を早めるだけだぞ!』

 

 

 なんとか言葉を発していたベジータだったが、流石に心臓を貫かれていては長く喋る事が出来ず、またも口から血を吐き出す。

 流石にこれ以上はマズイと思ったのか、悟空もベジータを止めようとするが、ベジータは止まらない。

 

 ベジータ自身嫌でも分かっているのだろう……。

 自分がもう助からないと言う事を……。

 

 

『よ……よ……よく聞けカカロット……。

 オ……オレや貴様の生まれた星…………、惑星ベジータがき……消えて無くなったのは…………、きょ……巨大隕石の衝突のせいなんかじゃ……な……な……なかったんだ……』

『心臓を貫いたのにしぶといね。話はまだ続くわけ?』

 

 

 ベジータが痛みを堪え、必死で話を続ける中、フリーザだけはつまらなさそうにベジータを見る。

 フリーザのそんな態度が余計にベジータが胸に隠し持っていた想いを刺激したのか、ベジータの手は怒りで無意識に力が入り、じゃりじゃりと地面に指をめり込ませるとそのまま地面の土ごと力強く握りしめる。

 それと同時に、ベジータの目から涙があふれ一筋の線となって頬を伝い落ちた。

 

 

『フ……フリーザが殺りやがったんだ……!

 オ……オレ達サイヤ人はあ……あいつの手となり足となり命令どおり働いたってのに……』

『…………!!』

 

 

 ベジータから告げられた内容に、フリーザ以外の悟空、悟飯、クリリン、ピッコロの4人は驚愕の表情を浮かべる。

 そして、同じくベジータの言葉を聞いていた地獄のサイヤ人達も全員が一様に表情を苦いものへと変えていた。

 

 

『オ……オレ達以外は全員殺された……。

 貴様の両親もオレの親である王も……。

 フリーザは……ち……力をつけ始めたサ……サイヤ人の中から超サイヤ人が生まれるのを、お……恐れたからだ……』

『ふっ……、よくいうよ……』

 

 

 ベジータが告げた言葉を、鼻で笑い飛ばすフリーザ。

 ベジータの言葉が真実かどうかは、フリーザ以外判断はつかないが、フリーザが惑星ベジータを吹き飛ばす間際、超サイヤ人について言及したのは事実だった。

 

 強く握り締めていた右手を開き、弱々しく隣に立っている悟空に向けるベジータ。

 その顔はとめどなく溢れ出る涙と、戦いで出来た傷と血によってボロボロだった。

 

 

『た……たのむ……、フリーザを……フリーザを倒してくれ…………、た……のむ。

 サ……サイヤ人の……手……で……た……たおして……』

 

 

 その言葉を最後にベジータの手は地面にバタンと落ちる。

 

 

『やっとくたばったか……、じゃぁ恐怖のショーを再開しようか』

 

 

 ベジータが死んだ事等どうでも良いとばかりに、さっさと戦いを再開させようとするフリーザだったが、悟空の視線はベジータの亡骸に注がれたままだった。

 その表情には確かに悲哀の感情が見てとれた。

 

 

『おめえが泣くなんて……、おめえがおらに頼むなんて……、よっぽど悔しかったんだろうな……』

 

 

 呟く様に吐き出された言葉の後も、ベジータの亡骸を見つめ続ける悟空。

 その表情にはいつしか、悲哀の感情の他に何か大きな決意が込められている様だった。

 

 それから数秒後、悟空はベジータから視線を外しベジータの亡骸の後ろに視線を送る。

 『キッ』と悟空がそこを睨む様に気合いを入れると、大きな音を立てて人1人埋められるくらいの穴が出来ていた。

 悟空は、そこにベジータの亡骸を埋めてやろうと、ベジータの亡骸に近づく。

 

 

『わかってるぜ……、サイヤ人の仲間が殺されたのが悔しいんじゃねぇんだろ……?

 あいつに、いい様にされちまったのが悔しくてしょうがねぇんだろ……?

 おめえの事は大キライだったけど、サイヤ人の誇りはもっていた……』

 

 

 亡骸を埋めてやりながら、悟空はベジータに語りかける。

 

 悟空とベジータの間に友情等といったプラスの感情は皆無と言っていいだろう。

 なんせ、彼らは出会ってたった一度の死闘を演じただけで、口で会話した時間よりも拳で語り合った時間の方が長い位なのだ。

 そんな彼らなのだが、不思議と悟空にはベジータがどう言う人間なのかよく理解できていた。

 

 死ぬ間際の懇願は、きっとベジータにとってプライドを大きく傷つける行為だったはずだ。

 だがそれでも、ベジータは言わずにはいられなかったのだろう。

 何故ならそれは、彼がこれまで人生の中で長い事、胸の奥に押し殺していた想いだったからだ。

 

 本来であれば自分の手でフリーザを倒したかっただろう。

 だが、それは同族の敵討ち等では決してない。

 彼は戦闘民族サイヤ人の王子として、サイヤ人が誰かにいい様に使われていた事が我慢出来なかったのだ。

 

 そして、そんなベジータの想いは、今1人のサイヤ人に確かに伝わり受け継がれた。

 

 

『オラも少しだけ分けてもらうぞ、その誇りを……』

 

 

 ベジータの亡骸を埋め終えた悟空は、フリーザに向き直る。

 その表情は大きな決意が込められており、真っ直ぐフリーザを睨みつける。

 そして、孫悟空は宣言する。

 

 

『オラは地球育ちのサイヤ人だ……!』

 

 

 きっと、この時だったのだろう。

 地球育ちの孫悟空が戦闘民族サイヤ人、カカロットを初めて受け入れたのは。

 

 

『おめえ達に殺されたサイヤ人の為にも、そしてここのナメック星人達の為にも、おめえをぶっ倒す!!!』

 

 

 多くの亡きサイヤ人とナメック星人、そして仲間達の想いを背負った最後の戦士、孫悟空が今フリーザにその熱き想いと共に開戦の合図を告げる。

 

 

 

■Side:ラディッツ

 

 

 カカロットがフリーザをぶっ倒す!!と宣言した時、オレは柄にもなく胸がアツくなった。

 それが何故なのかと問われれば、言葉にするのは難しいのだが……。

 

 あいつと地球で再会した時に、あいつは自分がサイヤ人であることを否定しやがった。

 オレはそれが多分許せなかったのだろう……。

 使命を忘れ、のうのうと地球人と仲良く暮らしているあいつが。

 

 そんなあいつが、自分がサイヤ人である事を受け入れた。

 それはベジータの死が切っ掛けである事は間違いないだろう。

 

 正直なところベジータの死に様は無様としか言いようがない。

 だが、あいつの語った想いはこのオレにもどこか感じさせられるものがあったのも事実だ……。

 

 オレがそんな事を考えていると、横から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

「へっ、ベジータの野郎、ようやくくたばりやがったか!ざまぁ、ねぇぜ……」

「ナッパよ、口と表情が合っていないぞ……」

「うるせぇ……」

 

 

 ナッパの台詞を聞いて、オレがナッパを見るとヤツの表情は台詞と異なりどこか暗かった。

 オレの言葉への返しも何処と無く覇気がない。

 もしかしたら、ベジータの死はオレが思っている以上にこいつには重くのし掛かっているのかもしれない。

 

 そして、それに一番驚いているのはナッパ本人なのかもしれんな……。

 

 

「ナッパは知っていたのか?惑星ベジータがフリーザに滅ぼされたのを?」

「いや、オレも知らなかった」

 

 

 オレは話を変える様に、ナッパに声をかけるとヤツは話に乗ってきた。

 

 

「ベジータのヤツはどこでそれを知ったんだろうな?そして、何故それをオレ達に黙っていたのだろうな……」

「ベジータはフリーザ軍の幹部とも会っていたから、案外偶然知っちまったのかもな……」

 

 

 オレ達の間に沈黙が流れる……。

 

 

「あいつは、サイヤ人の王子である事に誇りを持っていやがった……。

 だからこそ言えなかったのかもな……、サイヤ人が他の誰かの手によって滅ぼされたなんて事は……。

 特に同じサイヤ人である、オレ達には……」

 

 

 沈黙を破ったのはナッパだった。

 ポツリと呟く様に吐き出されたその言葉には、ベジータをガキの頃から一番近くで長年見続けたからこそわかる何かが篭っている様な気がした……。

 オレが黙ってナッパを見ていると、ふとあいつの口角が上がる。

 

 

「くっくっく……、にしても、まさかあのプライドの塊みてぇなベジータが下級戦士のカカロットを頼るとはなぁ!!!

 人生何が起こるか分からねぇとは、正にこんな事を言うんだろうなぁ!!!」

 

 

 笑いながら話すナッパを見て、オレも人生の大半の時を一緒に過ごした我らがサイヤ人の王子を思い出した。

 そして、確かにヤツらしくないと思い、笑わずにはいられなかった……。

 

 

「で、ナッパ……、我らが王子は下級戦士のカカロットに、オレ達サイヤ人の宿願を託したみたいだぞ?」

 

 

 オレがお前はどうするんだ?って視線を向けるとナッパは鼻で笑い飛ばす。

 

 

「はっ!カカロットなんかがフリーザに勝てるわきゃねぇだろう!!!」

 

 

 そう言って、話は終わりだと告げる様にナッパの視線は水晶に向けられる。

 口ではカカロットの勝利等ないと断言し起きながら、その目にはこの戦いをきっちり見届けてやるって気持ちがありありと見て取れた。

 

 そんなナッパに苦笑を禁じ得ないオレも水晶に目を向ける。

 確かにナッパの言う通り、正直オレもカカロットがフリーザを倒せるとは思っていない……。

 だが、あのベジータがカカロットを認めたのは紛れも無い事実。

 

 もしかしたらベジータには、オレ達に感じ取れない何かをカカロットから感じ取ったのかもしれない……。

 だとしたら、オレが出来る事はただ1つ……。

 

 

「無様を晒すなよ、カカロットよ!!!」

 

 

 オレも地獄から、この戦いの結末を見届けよう……。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

『きさまら、この場から離れるんだ!!オレ達は邪魔だっ!!!!』 

『悟飯っ!!!!はやくしろっ!!!!』

『お父さん死なないで!!!フリーザをやっつけて!!!』

 

 

 カカロットとフリーザの戦いが本格的になる事を見越して、ナメック星人とハゲ、そして悟飯の3人はカカロットとフリーザから大きく距離をとる。

 水晶には構えを取っているカカロットと、両手を広げ仁王立ちしているフリーザ。

 水晶越しだと言うのに、2人からのとんでもないプレッシャーで押しつぶされそうになる。

 

 

 ギネが2人のプレッシャーで押し潰されそうになっていると、向かい合っていた悟空とフリーザの時が動き出した。

 

 最初に仕掛けたのは悟空だった。

 フリーザに向かって飛び出し、一瞬で距離をつめると強力な右ストレートを繰り出す。

 だが、それを左腕で軽々と受け止めるフリーザ。

 

 悟空の拳の威力を証明する様に、受け止めたフリーザの後ろの芝生や水面には衝撃の波紋が広がっていた。

 

 しばし、悟空の右ストレートを左腕で受け止めていたフリーザだったが、お返しとばかり悟空の顔目掛けて右ストレートを繰り出す。

 だが、悟空はそれを首を逸らす事で躱し、カウンターの左を合わせるが、今度はフリーザが上体を前に折る要領で悟空のカウンターを躱し、拳が頭上を過ぎ去ると瞬時に上体を起こし反動で蹴りを繰り出す。

 その蹴りをバック転の要領で躱し、上空へ飛び上がる悟空。

 

 それを逃すまいとフリーザは両目からビームを出し追撃する。

 だが、ビームが当たる瞬間悟空の姿が消えると、瞬時にフリーザの後ろに現れる。

 そして、後ろから右の一撃を浴びせようとするが、今度はフリーザの姿が悟空の視界から消える。

 

 

『!!』

 

 

 悟空が気を読んで、後ろを振り向くと水面からフリーザが飛び出して来た。

 そして、両手からエネルギー弾を繰り出す。

 

 瞬時に反応した悟空は、そのエネルギー弾を正面から受け止めるが、威力が強く地面を擦りながらも押し込められていく。

 

 

『く……!!!ぐあっ……!!!ぎ……ぐぐ……!!!』

 

 

 ズザザザ・・と音を立て、地面を擦りながら押し込まれていく悟空だったが。

 いつのまにか、悟空の後ろには巨大な岩石が迫っていた。

 しかし、悟空は為すすべも無くエネルギー弾ごと巨大な岩石に押し込まれていく。

 

 

『だっ!!!』

 

 

 フリーザのエネルギー弾と共に巨大な岩石の中間部分まで、押し込まれた悟空だったがようやくエネルギー弾を上空へ弾き飛ばした。

 

 

『い……いちちち……!!おーいてえ!』

『…………』

 

 

 崩壊する巨大な岩石の中から、まるで大したダメージでは無いみたいに現れる悟空。

 そして、それを真顔で見つめるフリーザ。

 

 

 

「すげぇ……」

 

 

 あたしの横にいたパンブーキンが呆然とした顔で声に出した言葉は、まったくもって同感だった。

 いや、あたしだけじゃ無くここにいる全員、同じ気持ちだと思う。

 周りを見渡せば、皆呆然とした表情で水晶を見ていたが、その目からはこの戦いを一瞬でも見逃すまいって気持ちが見て取れた。

 

 戦いがあまり好きじゃないあたしでも、この戦いのレベルがとんでも無い事は分かる。

 そして、この戦いを行なっているカカロットがあたしでは想像出来ないくらい努力してきたのも……。

 

 わたしは祈る様に顔の前で手を組む。

 そして、自然と次の言葉が出ていた。

 だって、あたしが今カカロットにしてあげられるのは、それだけだったから……。

 

 

「頑張れ!カカロット……」

 

 

 

『思っていたより、ずっと強い様だね。

 ちょっと驚いたよ。ギニュー隊長の上をいくヤツがこの世にいるなんてね……。

 でも……、ボクには敵わない』

 

 

 ニヤリと余裕の表情を浮かべるフリーザ。

 

 

『かもな……。でも、分かんね〜〜ぞ〜〜』

 

 

 悟空の方もまだ力を隠しているのか、こちらもまだまだ余裕の表情だった。

 

 

『ほっほっほ……、わかるよ』

 

 

 悟空の言葉を聞いても余裕を崩さないフリーザ。

 そして、言葉を言い終えると同時にフリーザの両目がカッと見開くと、悟空が立っていた巨大な岩石が轟音と共に弾け飛ぶ。

 フリーザが繰り出した気合い砲を躱した悟空は、フリーザの頭上に一瞬で移動するとお返しとばかりにフリーザに気合い砲を叩き込む。

 

 頭上から繰り出された気合い砲を受けたフリーザだったが、水面に叩きつけられる寸前でフリーザの姿が搔き消える。

 

 

『オラの気合い砲から脱出した!!』

 

 

 悟空が驚きの声をあげると同時に、フリーザが悟空の背後に現れると強力な蹴りで悟空を水面に叩き落とす。

 叩き込まれた衝撃が強すぎて凄まじい水しぶきを上がる。

 

 

「カカロット!!!」

 

 

 水面に叩き込まれたカカロットを見て、あたしは思わず声を上げていた。

 叩き込まれたカカロットはまだ姿を現さない。

 

 

「まさか……、いまのでやられたんじゃ……」

 

 

 セリパがあたしが頭に浮かんだけれども、拒否した最悪な事を口に出す……。

 本当にあんたはこれで終わっちまったのかい?カカロット……。

 

 あたしは、不安になって、ついバーダックの方に視線を向けるとバーダックは真剣な顔で水晶を見続けていた。

 その顔には、まだ終わってねぇって書いてある様だった。

 

 あたしが、そんな事を考えていると、あたし達の頭によぎった最悪な考えは思わぬ相手から否定されることになる。

 

 

『はやく上がってこいよ!キミがそれぐらいで参るわけないからねぇ!!』

 

 

 フリーザの言葉に、あたしは弾かれた様に水晶に視線を向ける。

 だが、一向にカカロットは姿を現さない……。

 

 しばらく、静寂の時が流れる。

 本当にカカロットは大丈夫なのだろうか?と不安になり始めた時だった。

 水面からエネルギー弾がフリーザ目掛けて物凄いスピードで飛び出てきた。

 

 カカロットが出てくると予想していたフリーザは、驚きの表情を浮かべエネルギー弾を躱す。

 

 

『あいつじゃない!!』

 

 

 フリーザが驚きの声を上げ、エネルギー弾を躱した瞬間を見計らう様に、またしても水面からフリーザ目掛けて物凄いスピードで2発目のエネルギー弾が飛び出てきた。

 

 

『こっちか!!!』

 

 

 フリーザは今度こそカカロットと予想していたのだろう。

 嬉々とした顔で攻撃体勢をとったフリーザだったが、またしても予想が外れ、驚きの顔を浮かべ2発目のエネルギー弾を紙一重で躱す。

 あたしが、思わずおしい!と思ったその瞬間だった。

 

 待ち望んでいたあの子の声が聞こえてきたのは……。

 

 

『だっはーーーーーっ!!!』

 

 

 2発のエネルギー弾で完璧に自分から意識を外すことに成功した悟空は、フリーザの背後からドロップキックを叩き込み、先ほどのお返しとばかりに水面に叩き落とす。

 だが、威力が強すぎたのか、水面に激突したフリーザは水切りみたいにで水面を飛び跳ね、陸地にある巨大な岩石に体ごと叩きつけられる。

 フリーザが叩きつけられた岩石は衝撃で轟音を上げながら崩壊する。

 

 

『大成功!』

 

 

 奇襲が成功して喜びの声を上げる悟空だったが、崩壊した岩石からガラガラと音が聞こえて来た。

 悟空が視線を向けると、フリーザが起き上がるところだった。

 

 起き上がったフリーザは、首をコキッコキッと左右に振りながらまるで応えていない様だった。

 

 

『…………あら〜〜、ぜんぜん応えてない…………』

 

 

 流石にこれには予想外だったのか、冷や汗を浮かべ苦笑いを浮かべる悟空。

 そんな悟空を、身体についたホコリを払いながら余裕の笑みを浮かべながら見上げるフリーザ。

 

 

『ここまでやるとはね……。

 ボクにホコリをつけたのは親以外ではキミが初めてだよ』

 

 

 一度言葉を切ったフリーザは、これまでよりも更に深い笑みを浮かべる。

 その笑みには先程までとは比べ物にならないほど、残忍な笑みだった。

 

 

『生まれて初めてかもしれないしれないな……。

 こんなにわくわくするのは……。

 どうやって料理しようか……』

『まいったな〜。少しぐらいは応えると思ったんだけど……』

 

 

 フリーザのあまりのタフさに、流石に困った様な声を出す悟空。

 そんな悟空を尻目にフリーザは次に悟空に攻撃するべく行動に移る。

 

 

『ちょっとおどかしてやるか……ん〜〜〜〜〜…………』

 

 

 フリーザが自分の足元に転がっている、先程崩壊した巨大岩石のかけらに手を向けるといくつもの小さい岩石が宙に浮く。

 

 

『へ?』

 

 

 フリーザの行動を理解できなかった、悟空が驚きの声をあげると同時だった。

 

 

『はっ!!!!』

 

 

 フリーザが浮かべたいくつもの岩石が、悟空目掛けって物凄いスピードで一斉に飛んでくる。

 

 

『よっ!!ほっ!!たっ!!』

 

 

 最初は躱し続けていた悟空だったが、流石に数が多かったのか拳と足を使って岩石を砕く悟空。

 

 

『ちくしょう!!!超能力ってやつか!!』

 

 

 だが、それがフリーザの狙いだった。

 先程悟空が2発のエネルギー弾でフリーザの意識から悟空を一瞬忘れさせた様に、今度は悟空の意識から一瞬フリーザの存在が消えた。

 悟空が全ての岩石を処理した瞬間、悟空の頭上にフリーザが現れる。

 

 

『かかったね』

『しっ、しまっ……』

 

 

 悟空が驚愕の声を上げようとした時に、はもう遅かった。

 フリーザの超能力である金縛によって、動きを封じ込められる悟空。

 だが、フリーザの攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 動きを封じられた悟空を更にエネルギー弾で包み込んだ。

 

 

『う……うごけ……ねえ……!!!』

 

 

 必死に自分の身体の主導権を取り戻そうと、もがく悟空だったがフリーザの超能力からは抜け出せない。

 そして、それを残忍な笑みを浮かべながら見下ろすフリーザ。

 

 

『こんどは死ぬかもね』

 

 

 その言葉を合図に、エネルギー弾に包まれた悟空は猛スピードで地面へ吹っ飛ばされる。

 そして、フリーザの言葉通りまともに受ければ死ぬには十分が威力が込められていた。

 

 

『おああああーーーーーっ!!!!!』

 

 

 絶叫しながら吹っ飛ばされる悟空。

 地面に着弾したエネルギー弾は、そこに込められたエネルギー量を証明する様に強力な威力を発揮した。

 その攻撃から伝わる衝撃は、戦いに巻き込まれない様にかなり遠く離れた場所で観戦していた、悟飯、クリリン、ピッコロが踏ん張らないと立っていられない程だった。

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!」

「おいおい、流石にヤベェんじゃねぇか!?」

「今の攻撃の威力とんでもねいぞ!?!?」

 

 

 フリーザの攻撃を目の当たりにしてその威力に、あたし達地獄のサイヤ人は思わず声をあげる。

 だが、あいつだけ違う反応をしたんだ。

 

 

「カカロットの野郎やるじゃねぇか!!」

 

 

 その言葉の主にあたし達全員の視線が集まる。

 そして、あたしはその言葉の意味をそいつに問いかける。

 

 

「どういう意味だい?バーダック??」

 

 

 バーダックは一瞬こちらに視線をよこすと、すぐに視線を水晶に戻しあたし達に語り出す。

 

 

「どういう意味も何も、カカロットの野郎、爆発した瞬間に金縛りから脱出しやがった。見ろよ」

 

 

 バーダックに言われあたし達が水晶に視線を向けると、フリーザの目の前にカカロットが飛んでくる。

 しかも、ほとんどダメージを受けていない様だった。

 どうやら、あたしの息子はあたしが想像していた以上にタフだった様だ。

 

 そして、カカロットのタフさはどうやらあのフリーザの予想よりも上だったみたいだ……。

 あのフリーザがほとんど無傷のカカロットを見て、驚きの表情を見せたかと思ったら、その表情を引き締め真顔でカカロットを睨んでいるのだ。

 

 だが、あたし達はまだ知らない……。

 今までのハイレベルな戦いそのものが、この2人にとってほんの小手調べ程度でしかなかったなんて……。

 この時のあたし達には、想像すらしてなかったんだ……。

 

 

『おい、あんまり他人の星をこわすなよ』

『しつこいヤツだね……。さすがにちょっとムッときたよ……』

『オラもだ……』

 

 

 空中で向かい合い言葉を交わす2人。

 だが、2人の雰囲気はどこかこれまでとは違っていた……。

 お互いこれまでの手合わせで気付いてしまったのだ……。

 

 今発揮している力程度では、目の前にいる敵を倒すことは出来ないという事を……。

 

 

『くっくっくっ…………、ウォーミングアップはこれぐらいにして、そろそろその気になろうかな…………』

 

 

 敵を倒すのに力が足りていないのであれば、更なる力を引き出せばいい……。

 なぜなら、自分にとっては今までは唯の準備運動でしかなかったのだから……。

 そう言う様に、余裕の笑みを浮かべる宇宙の帝王。

 

 だがそれは、目の前の男も同様だった様だ……。

 

 

『オラもだ」

 

 

 フリーザの余裕の笑みを受けても、更に笑みを返す事が出来るこの男もまだ本領を発揮していなかったのだ……。

 

 長き因縁を背負った地球育ちのサイヤ人と宇宙の帝王のバトルは更なるステージへ突入する。

 

 果たして、この戦いに勝利するのはどちらなのか……。

 

 2人の第二ラウンドの火蓋が、切って落とされようとしていた。

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