ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 セルゲーム編 弐

■Side:ギネ

 

 

 あたしは、あの日の光景を忘れる事は2度とないだろう……。

 

 あの日、朝から嫌な予感を覚えていたあたしは、仕事中にも関わらず自然とあの巨大な水晶が鎮座する場所へと赴いていた。

 だが、あたしを出迎えた水晶は、いつもと変わらず背後の地獄の風景を歪めて写すだけで、あたしが抱えている嫌な予感を解消する手助けはしてくれなかった……。

 

 

「はぁ、ここに来れば何か分かるかと思ったけど……、そう上手くはいかないよね……」

 

 

 水晶に反射する落胆した自分の顔を見ながら、あたしは1人ボツリと呟く。

 本当なら昨日3年ぶりに帰ってきたバーダックに相談したかったのだが、あたしが仕事で家を出る時間にはまだバーダックの奴は起きていなかったのだ。

 あいつもこの3年間働いていて疲れているだろうから、起こすのが躊躇われたのだ。

 

 

「はぁ、こんな事なら、あいつを起こして話を聞いてもらえば良かったかなぁ……?

 でも、嫌な予感て言っても、それが何なのかも分からないし……、はぁ……」

 

 

 あたしはこの胸を締め付ける様な焦燥感を、どうする事もできず途方に暮れながら水晶を見つめていた。

 すると、あたしの後ろから聞き慣れた男の声が聞こえてきた。

 

 

「こんな所で何やってんだ……? ギネ」

 

 

 あたしが振り返ると、そこにはあたしの予想した通りの男が立っていた。

 

 

「バーダック……」

 

 

 あたしが彼の名を呼ぶと、彼は何か違和感を感じたのか何か引っかかる様な表情を浮かべ軽く首をかしげる。

 

 

「どうした……? 何かあったのか?」

 

 

 どうやら、あたしの顔を見ただけであたしの様子がどこかおかしいことに気付いた様だ。

 普段ぶっきら棒な態度を見せておきながら、こういう機微を察知するあたり本当にこの男は人を見ているんだなぁと、あたしは改めて感じ入った。

 こうなっては、バーダックに隠し事をしても、どうせバレるだろうし、そもそもあたしは隠し事に向かない。

 

 だから、あたしはバーダックに話すことにした。

 まぁ、もともと隠す気なんて無かったんだけどさ……。

 

 

「朝からさ……、嫌な予感がずっとしてるんだ……。

 最初は気のせいだって思ってたんだけど……、時間が経つにつれてどんどんその予感が強くなって、それが何なのか分からないんだけど……、気がついたらここに来てたんだ……」

 

 

 あたしの言葉を聞いたバーダックは納得した様な表情を浮かべると、視線をあたしの後ろの水晶に向ける。

 

 

「なるほどな……。 ここに来れば、こいつがその嫌な予感ってヤツの正体を映してくれるかもしれないって思ったのか」

 

 

 少し話を聞いただけで、あたしの行動を理解したバーダック。

 

 

「うん……。 でも、こいつは何も映してくれない……。 ははっ……、嫌な予感ってヤツもあたしの勘違いなのかもしれないね……」

 

 

 本当は、バーダックに嫌な予感について相談したいんだけど、正直何て言っていいのか分からないあたしは笑ってごまかすことにした。

 正直上手く笑えている気はしなかったが、誤魔化せただろうか?

 なんて、あたしが考えていると、横からバーダックの声が聞こえて来た。

 

 

「ふんっ、別にこいつが、何も映さねぇからって何も起きねぇとは限らねぇだろ……。

 まぁ、嫌な予感だってんなら、外れた方がいいのかもしれねぇがな」

 

 

 視線は水晶に向いたままで口調もいつも通りぶっきら棒だったけれど、明らかにあたしの事を気にしてくれている事が分かった。

 そんな目の前の男の様子がおかしくて、あたしの口元も自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

「ははっ、そうだね……。 嫌な予感だったら外れた方がいいんだから、映さないっていうのは良い事なのか……!!

 あんたの言う通りだね、バーダック」

 

 

 あたしが笑った事に気を良くしたのか、バーダックの口元にも僅かに笑みが浮かんでいた。

 バーダックのおかげで、幾分か気分が軽くなったところで、今更ながらあたしは何故バーダックがこんな所にいるのか?と疑問に思うのだった。

 どうやら、嫌な予感てヤツのせいで自分が思っていた以上に頭が回っていなかった様だ……。

 

 

「そういえば、バーダックはどうしてこんな所にいるのさ……?」

「あ? オレは修行する為にここに来たんだよ。 そしたらお前がこんな所で深刻なツラしてやがったんだろ」

「修行……、あぁ、トレーニングのことか。 って、バーダックってそんな自主的にトレーニングとかしてたっけ?

 長期間戦場外れた時とかに鈍らない様にしてた事はあったけど……」

「別に良いだろ? トキトキ都にはオレより強えヤツが修行して日々強くなってやがんだ。

 そいつを越える為には、オレも遊んでるワケにはいかねぇんだよ……」

 

 

 まさか、あのバーダックが自主的にトレーニングをするなんて、長い事こいつといっしょにいるあたしでも驚きを隠せなかった。

 だが、今のバーダックはかなり充実している様に見える。

 ここまでバーダックを変えてしまうとは、きっとタイムパトロールになっていい出会いがあったんだろう。

 

 正直あたしは、最初にバーダックからタイムパトロールになると聞いた時、あまり良い感情は持っていなかった。

 死人であるバーダックが、もう一度死んでしまうと、今度は存在そのものが消えてしまうのだ。

 それは、つまりあたしや他のサイヤ人達から、バーダックという存在の記憶や痕跡が全て消えるという事だ。

 

 それを考えると、あたしはバーダックに本当はタイムパトロールになって欲しくなかった。

 だけど、カカロットとフリーザの戦いを見た後くらいから、バーダックの様子が何処か変だったのも分かっていた……。

 そんなこいつの状況を変えるには、タイムパトロールになるのが1番近道なのもなんとなくだけど何処かで分かってたんだ。

 

 だから、あたしはバーダックがタイムパトロールになると言った時、心の底では反対したくても反対しなかった。

 だが、今のこいつの様子を見ると、あの時反対しなくてよかったと思う。

 

 

「そうかい。じゃぁ、バーダックはしっかり修行……?とやらを頑張りなよ。

 あたしは仕事に戻るよ。 抜け出してきちまったから、きっと他の連中も怒ってるだろうからさ」

「ああ」

 

 

 まだ嫌な予感が消えたわけじゃないけど、バーダックのおかげでかなり気分がスッキリしたあたしは、バーダックに背を向け、空へ飛び出そうとした瞬間、それは起こった。

 かすかに響いただけだったのだが、その音は確かにあたしの耳へ届いた……。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

 その音に聞き覚えがあったあたしは、弾かれた様に音の発信源であるであろうそれに視線を向ける。

 すると視線の先では、音の発信源である巨大な水晶が光り輝き、砂嵐の様なひどいノイズを走らせていた。

 あたしは、この光景を以前見たことがあった……。

 

 徐々にノイズが収まり、水晶は明らかにこれまで映し出していた地獄とは違う光景を映し出した。

 綺麗な青空と戦闘で傷ついたであろう荒れ果てた荒野、その中に2人の存在が映し出された。

 

 1人目は見るからにヤバい化け物だった。

 だが、何処か様子がおかしい……。

 身体を限界までに膨らませ見ただけで身の毛がよだつ狂気じみた笑みを浮かべ、目の前の男の子を見下ろしていた。

 

 2人目は逆立った金髪をした、どこか見覚えがある様な男の子。

 化け物の前で地面に膝をつき、何かを後悔する様な表情を浮かべ、項垂れていた。

 その痛々しい姿に、あたしは何故だか急に胸が締め付けられた……。

 

 いきなり水晶が映し出した映像に訳が分からず困惑していたあたしだったが、明らかにあの化け物がやばいヤツだという事は分かった。

 あまりに水晶が映し出した状況がわからず、バーダックに尋ねようと視線を向けるとバーダックも視線を水晶に向けていた。

 だが、何故だかとても険しそうな表情をしていたのだ。

 

 バーダックもあたしと同じ様にあの化け物がやばいと思ったのだろうか?と一瞬考えたが、それにしてはバーダックから切迫した雰囲気が伝わってくるのだ。

 あたしと違ってバーダックは、何か知っているかと思って声をかけようとした瞬間、映像の中の2人の間に、いきなり3人目の登場人物が一瞬で現れた。

 まるで魔法でも使った様に姿を現した3人目の登場人物は、あたしとバーダックにとって忘れられない人物だった。

 

 その人物は、男の子と色こそ違っているが同様の、あたし達サイヤ人ではまず身に付けることがない様な服装を身に纏っていた。

 鮮やかな山吹色の服に青いインナーを身に纏った男の姿は、かつてナメック星での戦いで見た時とほぼ同じ装いだった。

 着ている服が所々破けた所がある事から、きっとこの男も戦っていたのだろうという事が予想できた。

 

 本来は黒色である髪を金色に逆立て、瞳を鮮やかなエメラルドにも似た輝きを持つ碧眼。

 その碧眼は以前見た時は、あの子の怒りを表している様にとても険しい目つきだったが、今は大分険しさがとれ、あの子本来の優しさが見て取れた……。

 

 その男の名は……

 

 

「カカロット……」

 

 

 あたしは自然と息子の…あの子の名前を口に出していた……。

 そして、その時確信したんだ……。

 今日、自分が感じていた嫌な予感は、この時の事だったのだと……。

 

 そして、映像の中に映るこの子がこれから死ぬのだと……。

 そういう確信が、何故だか分からないけど確かにあたしにはあったんだ……。

 

 

 

 あたしとバーダックは、突如現れたカカロットの姿を静かに見守っていた。

 何故なら、映像に映し出されたあの子の姿が力強さと共に、どこか儚げだったからだ……。

 それが、あたしに言いようのない不安を与えていた。

 

 すると、片手を化け物の腹に手を添えた映像の中のカカロットが口を開いた。

 

 

『ここまでよくやったな、悟飯。 すごかったぞ!』

『お…お父さん……』

「ゴ、ゴハンだって!?」

「そうか……、ゴハンも超サイヤ人に目覚めてやがったのか……。 あの歳で大したモンだ」

 

 

 カカロットが口に出した男の子の名前に、あたしとバーダックは驚きを隠せなかった。

 以前見た時は、戦闘能力は高かったが、どこか子供特有の甘さと優しさが見て取れた。

 だけど、今映像に映し出されているゴハンにはそれが全く感じられなかった。

 

 それ以上に、まさかカカロットの他にゴハンまであたし達サイヤ人の伝説、超サイヤ人になっているのに驚きを隠せなかった。

 

 カカロットに声を掛けられたゴハンは、突如現れた父親に驚きを隠せない様だった。

 いったいこの子達のこの状況はどういう事なんだろう……?

 だが、その疑問はすぐに解消される事になる……。

 

 あたしやバーダックにとって、最悪の形となって……。

 

 

『母さんにすまねぇって言っといてくれ。 いつも勝手なことばっかしちまって……』

 

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、遺言の様な言葉を告げるカカロット。

 それを聞いたゴハンは、驚きと戸惑いを隠せない様な表情をしていた。

 恐らくあたしも似た様な表情を浮かべていたんだと思う……。

 

 そんなゴハンにカカロットは笑みを向ける……。

 

 

『グッバイ!悟飯!』

 

 

 そうゴハンに告げるとかカカロットは、額に人差し指と中指の2本をあて真剣な表情を浮かべる。

 すると、次の瞬間……カカロットと化け物以外の全ての光景が一瞬で変化した。

 

 

「えっ……!?」

『お、お、わっ、ば、バカッ! そ、そんなヤツつれてくるなぁーーー!!!』

 

 

 突然変化した光景に、あたしは驚きの声を上げる。

 すると、水晶の中から、急に現れた黒い服を着た小太りのおっさんが驚きの叫び声を上げ、一緒にいる猿と虫の様な奴が慌てている様子が映し出された。

 

 

『わ、わりぃ界王様、ここしかなかったんだ……』

『そっ、そんなこと言ったって……』

 

 

 訳が分からないあたしやバーダックをよそに、映像の中はどこかコミカルだった。

 小太りのおっさんの反応からして、結構やばい状況なはずなのに……。

 だが、それも次の瞬間に崩壊する事となる……。

 

 

『くぅ、くっそぉ〜〜〜〜〜っ!!!!』

 

 

 化け物が叫び声を上げた瞬間、水晶の中の世界が突如として震えだす。

 震えが大きくなるにつれて、カカロット達がいた小さな星の地面にどんどんヒビが入り、崩壊していく。

 叫び声を上げた化け物はその身体にさらに限界まで大きく膨らませていく……。

 

 もはや、破裂する寸前だった……。

 

 

「ちっ、やっぱり…か……。 このバケモン自爆するつもりだっ!!」

「えっ!?」

 

 

 化け物の様子を見ていたバーダックが苦々しい表情で叫んだ。

 私は驚いてバーダックに尋ねようとした瞬間…、ついに化け物が限界を迎えた……。

 

 

『うおぉおぉーーーーーっ』

 

 

 化け物が上げた断末魔と共に、水晶の中は光に包まれた……。

 あまりの眩しさにあたしとバーダックは腕で視界を覆う。

 すると、かつて聞いたことがない様な爆発音が水晶から地獄に響き渡った……。

 

 音が静まり、あたし達が水晶に視線を向けた時、水晶はいつも通りの地獄の風景を歪んで写すただの巨大な水晶に成り代わっていた……。

 そのいつもと変わらない様子に、あたしは先ほど見ていた映像が幻だったのではないか……?と錯覚してしまいそうだった。

 

 

「な…なんだったんだい……? さ、さっきの…幻じゃないよね……?」

「…………」

 

 

 あたしの問い掛けにバーダックは、腕を組みながら水晶を苦々しい表情で見つめていた……。

 何も答えてくれないバーダックに、あたしは再度問いかける。

 

 

「ねぇ…、さっきのカカロットだったよね? そうだよね? バーダック……」

「ああ……」

 

 

 今度は、なんとか返事だけ返してくれたが、視線は未だ水晶に固定されたままだった。

 その様子に、あたしは嫌な予感を覚える……。

 

 

「あの子に何が起こったんだい? あんたは何か気づいてるんだろう? 教えておくれよ、バーダック」

 

 

 バーダックの腕をゆすり、問いかけるとバーダックがゆっくりと視線を向ける。

 その視線はまるで、あたしの心を見透かしている様だった。

 

 

「本当は察しがついてんだろ……? あいつがどうなったのか……」

「ーーーっ!?」

 

 

 バーダックのその言葉に、あたしは軽く身体を震わせる……。

 そう、本当はバーダックに聞かなくても分かっていた……。

 あの子がどうなったかなんて……。

 

 だけど、それを認めたくなくて……、あたしが抱えていた嫌な予感が現実になったのを否定して欲しくて、みっともなくバーダックに縋ったのだ。

 

 

「あいつは、自分のガキや家族…そして、育った故郷を守る為に死んだ……。 ただ、そんだけだ……」

 

 

 あたしの目をしっかりと見つめ、いつもの様にぶっきら棒な態度で淡々と喋るバーダック。

 だけど、いつもと変わらないその態度の裏に、どこか悲しげな感情が込められている事をあたしは見逃さなかった……。

 そして、それが現実から目を背けていたあたしの心を決壊させる切っ掛けとなった……。

 

 気が付くと、あたしの目から勝手に涙が流れていた……。

 そして、自分が涙を流していると認識した瞬間、もう、ダメだった……。

 

 

「カ…カカロット……、うっ、うぅ…カカロットぉ〜……、カカロットーーーーーッ!!!」

 

 

 あたしは両目から涙を出しながら、天に向かって慟哭の叫びを上げると膝から崩れ落ちた。

 両手で顔を覆っているにも関わらず、あたしの涙は地獄の大地を濡らし続けた……。

 

 

「な、なんで……なんであの子が…、あ、あんな酷い死に方を…しなきゃいけないのさ……。

 あ…あたしは……、あの子だけは…、カカロットだけには……自分の人生を最期まで楽しく生きていて欲しかったのに……。

 そ、それなのに……、それなのにどうしてあの子が死なないといけないのさ……」

 

 

 あたしは、あの子に愛情を注いで育ててあげる事が出来なかった……。

 どんなにそれを望んでも、あの子を残して死んでしまったあたしには不可能だったからだ……。

 だから、ナメック星の戦いを水晶を通して見た時、立派に成長したあの子を見てあたしは心の底から救われたんだ……。

 

 あの子は、地球という星で、あたしやバーダックに変わって愛情を持って育ててくれた人に出会えたのだろう。

 それだけじゃない。 共に命を預けられる仲間や、生涯を共にする伴侶、そして幸せの結晶の子供まで得ていた……。

 そんな、あの子を見た時に滅びの運命のサイヤ人の中で、あの子だけは……カカロットだけはその運命とは無縁で生涯を幸せに過ごして欲しいと願わずにはいられなかった。

 

 だけど……、あたしの願いは叶わなかった……。

 この世界には、神って奴がいるらしいが、やはり地獄にいる人間の願いなんて聞き届けてくれないって事なんだろうか……。

 この世界は、本当に理不尽だ……。

 

 

 

■Side:バーダック

 

 

 修行の為にこの場に来て、僅か数分の間にとんでもねぇ事になりやがった……。

 オレは目の前で蹲り、涙を流しているギネに目を向ける。

 正直なトコ今のオレがこうやって、冷静でいれんのはギネがこういう状況だからだろう……。

 

 カカロットの死は、オレにとっても衝撃だった……。

 オレはここ3年間、遠い未来にカカロットが天寿ってやつを全うした後、あいつがあの世にやってきた時あいつと戦う為に、腕を磨いて来た……。

 何故ならカカロットはオレにとって自分のガキであると同時に、目標でもあったからだ……。

 

 あいつが、ナメック星でフリーザと戦っている時に見せたその姿は、オレの固定概念ってヤツを木っ端微塵にぶっ壊しやがったからだ。

 オレはいつのまにかサイヤ人の限界なんてモンをテメーの中で勝手に作っていた。

 その限界をあいつは、あっさりと飛び越えたばかりか、伝説の超サイヤ人なんてモンにまでなりやがった……。

 

 今でもあの時のあいつの姿はオレの眼に焼き付いている……。

 いくら血を流し傷つこうが、何度でも立ち上がり立ち向かい限界を超えていくあいつの姿が……。

 その姿を思い出すたび、オレは自分の中に流れるサイヤ人の血が、熱く沸騰した様になるのを感じていた……。

 

 そう、あいつと…カカロットと……全力で戦いてぇと……。

 

 ナメック星での戦いで生き残ったあいつは、これからもっと強くなるとオレは確信していた……。

 現に、さっき水晶で見たあいつは、僅か数年でナメック星でフリーザの野郎と戦っていた時よりずっと強くなっていた。

 そんなあいつが、生を全うし長い戦歴と鍛錬によって鍛え上げられた力をもって、オレの目の前に立った時どんだけ強くなってやがんのか考えると正直ワクワクした。

 

 正直、そんな日が早く来る事を望んでいたことは、否定しねぇ……。

 

 だがよ……。

 

 

「いくらなんでも、早すぎるぜ……。 バカ息子が……」

 

 

 サイヤ人は戦闘民族だから、若い期間が他の星の奴らよりずっと長ぇ……。

 カカロット程度の年齢だったら、まだまだこれからと言っていいくれぇだ……。

 だが、あいつの未来は潰えた……。

 

 あいつが最後に望んだ、ガキや家族…そして育った星を守り通して……。

 

 本当に、この世界ってやつは…ままならねぇモンだな……。

 

 

 

ピ、ピピッピ…、ピピッピ……ピピッピ……。

 

 

 バーダックとギネが互いに感傷に浸っていると、2人の耳に響き渡る電子音が聞こえていきた。

 するとバーダックは、この電子音に聞き覚えがあるのか、顔をしかめるとズポンのポケットに手を突っ込み、掌に収まるくらいの板状の機会を取り出した。

 どうやら、音の発信源はその機械からだった様だ。

 

 

「ちっ…、こんな時になんだってんだ……?」

 

 

 バーダックは忌々しそうな表情を浮かべながら、板状の機会を操作する。

 すると、板状の機会に備わっていたモニターに1人の男の姿が映し出される。

 これは、タイムパトロールの隊員の通信機だ。

 

 

「お忙しい時にすいません。 バーダックさん」

 

 

 通信機に映し出されたのは、トキトキ都にいる筈のトランクスだった……。

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