ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 セルゲーム編 参

 水晶が映し出した映像で、悟空の死を目撃する事となったバーダックとギネ……。

 バーダックとギネが互いに息子の死に感傷を抱いていると、タイムパトロールの隊員であるバーダックの端末に通信が入った。

 そこに映し出されたのは、トキトキ都にいる筈のトランクスだった……。

 

 

「トランクスか…。 悪りぃが、今立て込んでんだ……。 用なら後にしてくれ……」

 

 

 バーダックは横目で未だ項垂れているギネを確認し、流石にこのまま放っておくわけにはいかないと考え通信を切ろうとする。

 だが、そうはならなかった……。

 

 

「分かっています。 孫悟空さんが亡くなった件…ですね……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックは僅かに顔を顰めながら、1つの考えに行き着く。

 

 

「そうか…、トキトキ都には様々な世界の歴史が記録され保管されてやがる……。

 隊員でも、自分が普段生活している歴史より後の歴史は原則知らされる事はねぇ……。

 だが、過去だったら、権限さえあればありとあらゆる歴史を知る事が出来る。

 トランクス…、お前カカロットが今日死ぬ事を知ってやがったな……?」

 

 

 トランクスを睨みつける様に疑問をぶつけるバーダック。

 そして、バーダックの問いにトランクスは表情を曇らせる……。

 まるで、後悔を噛みしめる様に……。

 

 

「はい…。 バーダックさんが考えている通りです。

 オレは今日悟空さんが死ぬ事を知っていました……。

 ただ、オレが悟空さんの死を知ったのはトキトキ都で調べたからではありません」

「なに?」

「その疑問を答える前に、質問なのですが……、バーダックさんはどうやって悟空さんが死んだ事を知ったんですか?」

 

 

 バーダックはトランクスにこれまでの事情を説明する。

 事情を聴き終えたトランクスは、納得した様な表情を浮かべ頷く。

 

 

「なるほど……。 以前バーダックさんが言っていた水晶で見ていたのですね」

「ああ…、それで、てめぇは何で今日カカロットが死ぬ事を知ってやがった……?」

「……そうですね。 説明します。 何処から話しましょうか……」

 

 

 トランクスはオレから視線を外すと、何かを振り返る様な表情を浮かべる。

 数秒程考え込んでいたが、何かしらの整理がついたのだろう。

 いつもの力強い瞳でオレを見つめ、語り始めた。

 

 

「あの日…、バーダックさんにとっては今日ですね。

 オレは悟空さんや悟飯さん、そして父さん達と共にあの戦いに参加していたんです……」

「なんだとっ!? どういう事だ? この時代のテメェはまだ赤ん坊だったはずだ……」

「はい、バーダックさんの言う通りです。 その時代のオレは赤ん坊で間違いありません。

 バーダックさん……以前オレの過去をあなたに話したと思うのですが、覚えていますか……?」

「ああ…。 確かテメェのいた時代では、2人の人造人間なんてふざけたモンが暴れていて、戦える戦士がお前以外に死んだ世界……だったか?

 だが、お前1人ではその2人には勝てねぇから…タイムマシンで過去に……っ!! まっ、まさか……」

 

 

 バーダックは、自身の口にしていた言葉で、何故トランクスがあの場にいたのか察する事が出来た。

 

 

「そうです…。 オレは過去にタイムマシンで戻る事で本来心臓病で死ぬはずだった孫悟空さんの命を救い、当時の悟空さん達から3年後の未来に人造人間って敵が現れるのを伝えました。

 そして、その戦いの中で人造人間の弱点を見つけ、オレの時代の人造人間を倒す手掛かりを手に入れるつもりでした……。

 ですが、オレが不用意な介入をしたからか歴史は、オレが知っているモノと大きく変わってしまったんです。

 その最たるものが…、セルの存在でしょう……」

「セル……。 そいつが…あの緑色の…カカロットを殺した化け物の名前かい……?」

「ーーーっ!?」

 

 

 突如会話に介入してきた第三者の声にトランクスは驚いた表情を浮かべる……。

 バーダックは、視線を声がした方向に向けると、ゆっくりと立ち上がるギネの姿が眼に入った。

 

 

「ギネ……」

 

 

 ギネは立ち上がるとバーダックの横まで移動し、バーダックが持っている通信機に映し出されたトランクスに視線を向ける。

 

 

「あ、あなたは……?」

「あたしの名前はギネ。 カカロットの…あんたが言うソンゴクウの母親さ」

「ご、悟空さんの母親!?」

 

 

 いきなり通信機に姿を現したギネに、驚きを隠せないトランクスだったが、目の前の存在が悟空の母親だと知り、更に驚いた表情を浮かべる。

 

 

「えっと……、初めまして。 オレはサイヤ人の王子ベジータの息子、トランクスっていいます。

 悟空さんや悟飯さんには、大変お世話になったんです」

「ーーー!? あ、あんたがベジータ王子の息子だって!?」

 

 

 トランクスの言葉に今度は、ギネが驚きの表情を浮かべる。

 

 

「えっ、本当に…? あ、あんまり似てないんだね……。

 あ、でも、目元は何処かベジータ王子に似てる気がする……」

「テメェ等、関係ねぇ話は後にしやがれ! 話が脱線してんじゃねぇか!!」

 

 

 互いに衝撃を受けた2人による場違いなほのぼのした会話に、苛立ちの声を上げるバーダック。

 すると、トランクスとギネははっとした表情を浮かべ、真剣な表情を浮かべる。

 

 

「えっと、何処まで話しましたっけ……?」

「セルってヤツの名前が出たところまでだよ……」

「そうでしたね。 それでは、続きをお話しします」

 

 

 ふぅ…と、一息吐くと、トランクスは再び語り始めた……。

 

 

「歴史の流れとは、ちょっとした事でその流れを大きく変化させます。 それは、良い意味でも…悪い意味でも……。

 本来の歴史では病死するはずだった悟空さんをオレが未来からの技術で救い、未来での出来事を伝えた事で、死ぬはずだった仲間達も生き残る事が出来ました。

 だが、タイムマシンというモノを使用した、代償が最悪な形としてその時代に現れたんです」

「それが、さっき言っていたセルってヤツだね……」

「そいつは、一体何モンだ…?」

 

 

 苦々しい表情を浮かべながら語るトランクスに問いかける、ギネとバーダック……。

 

 

「セルは、オレがやって来た未来より更に3年経った未来からやって来た人造人間です……。

 ヤツは、未来のオレを殺し、タイムマシンを奪う事で今バーダックさん達がいる時代にやって来ました……」

「「っ!?」」

 

 

 トランクスは、目の前で驚愕の表情を浮かべている2人に苦笑する。

 まぁ、今話している相手が死んだと聞けばしょうがないか…と考えたのだ。

 

 

「セルがわざわざ時を超えた理由は、完全体になる為です……」

「完全体……?」

「ええ。 セルは、人造人間17号と18号を吸収する事で、完全体になる事が出来るんです。

 この2体の人造人間が、おれがいた時代で暴れまわっていた人造人間です」

「そいつは、厄介だな……」

 

 

 トランクスから明かされる、セルの情報に顔を顰めるバーダックとギネ。

 

 

「にしても、トランクス。 未来にも2体の人造人間はいるんじゃねぇのか?

 お前はそいつらを倒す切っ掛けを得る為に、過去に行ったんだろ?」

「そ、それが…、セルがやって来た未来ではどういう訳か、2体の人造人間がすでにいなくなっていた様なんです。

 恐らくですが、未来のオレは過去で2体の人造人間を倒す方法を見つけ、その方法を実行し、成功したんだと思います……」

「なるほどな…。 だから、その時代でセルが誕生した時には、既に2体の人造人間はいなくなってたって訳か…。

 それでヤツは、2体の人造人間が存在する時代を求めて、未来から過去にやって来たって訳か……」

 

 

 バーダックの言葉に、頷く事で肯定の意を示すトランクス。

 

 

「未来から過去へやって来たばかりのセルは、タイムマシンに乗る為にわざわざ自身を退化させていた為、ものすごい弱い存在でした。

 しかし、地中で約3年間休眠する事で最低限の力を取り戻し、地上で活動を再開してからは2体の人造人間を吸収する為に、動き出しました……」

「なんだか、そいつ完全体ってヤツになる為とはいえ、えらい苦労してやがんな…。

 そこまでして、セルってヤツは完全体になりたかったのか……?」

「そう…なのでしょうね……。 実際戦ったオレとしてはあいつが完全体へ執着した理由も分かる気がします。

 実際完全体のセルは、恐ろしく強い上に頭もキレるとんでもない存在でしたから……」

 

 

 バーダックは、セルの完全体への執念に若干呆れていた…。

 ギネもバーダックと同じ事を考えていたのか、うんうんと首を上下に動かし相槌を打つ。

 だが、実物を知っているトランクスからしてみれば、セルの執念を馬鹿にする事は決して出来なかった……。

 

 完全体セルとは、それだけの労力を払う価値があるほどの存在だったのだ……。

 

 

「それで、セルってヤツは動き出してどうしたんだ?」

「流石のセルも活動を開始した当初の戦闘力では、17号18号はおろか、当時の悟空さんを含めたオレ達の戦闘力にも及ばなかった様で、ヤツは…「ちょ、ちょっと待って!」…えっ? な、何でしょう? ギネさん」

 

 

 バーダックが先を促しトランクスが喋っていると、いきなりギネが大声で割り込み、それに驚いた表情を見せるトランクス。

 トランクスは驚いた表情を浮かべたままギネに発言を促すと、ギネは堰を切ったように口を開く。

 

 

「あ、あんたの話を聞いていると、そ、その人造人間17号と18号ってヤツは、あのカカロットより強いのかい?

 あの、フリーザを倒した超サイヤ人のカカロットよりも?」

 

 

 そのギネの発言に、ある程度事情を知っていたバーダックはギネの疑問に納得の表情を浮かべる。

 確かに、ナメック星での悟空の戦いを見ているギネからしたら、その悟空が負ける姿など想像も出来ないのだろう……。

 だからこそ、2体の人造人間がカカロットより強いと聞いて、驚きを隠せないのだろう……。

 

 そこで、ふとバーダックは頭に疑問が浮かんだ……。

 

 

「ギネ、それを言うならこいつのいた未来だって、その2体の人造人間にメチャクチャにされてんだぜ?

 そんなに、疑問に思うことか?」

「だって、この子の未来では、カカロットは病気で死んじゃうんだろ? …って、あの子本当なら病気で死んでたの!?」

「おいおい、今更そこに疑問を持つのかよ……。 あー、トランクス、悪りぃがちょっとそっちの話を先にしてくれ。

 カカロットが死んだって事が気になって、話に集中しねぇと面倒だ……」

「あははは……。 分かりました」

 

 

 普段とは違う一面を見せるバーダックと、コロコロと表情を変え何処か悟空を感じさせるギネに、自然と笑みを浮かべるトランクス。

 

 

「えっとですね、オレがいた時代の歴史では、悟空さんは今バーダックさん達がいる時代から約3年前にウイルス性の心臓病で亡くなっているんです。

 さすがの超サイヤ人も残念ながら病気には勝てなかったんです」

「そう…なのかい……」

 

 

 違う歴史の事とはいえ、やっぱり息子が死んだと言う話はギネにとって辛いものだった……。

 

 

「悟空さんの死後3年後に、17号と18号が動き出し、悟空さんの仲間達や世界中の人間を殺し、世界をメチャクチャにしたんです……。

 かろうじて逃げ延びた孫悟飯さんが、オレに戦いを教えてくださった師匠だったのですが、その悟飯さんもオレがタイムマシンで旅立つ4年前に人造人間に殺されました……。

 それからは、ずっと1人でオレは戦って来ました……」

「あんた…、どれだけ辛い人生を送ってきのさ……」

 

 

 ギネは目の前の青年が辿った壮絶な人生に、自然と涙を流していた……。

 そんなギネに困った様に優しげな笑みを浮かべるトランクス。

 

 

「当時のオレも超サイヤ人になれてはいましたが、2体の人造人間相手では手も足も出ませんでした…。

 そんなある日、オレの母が長年研究していたタイムマシンが完成したんです。

 母は人造人間にやられっぱなしじゃシャクだからと、奴等をやっつけてしまった平和な未来があってもいいんじゃないかって…、そんな想いでタイムマシンを作っていました。

 そして、その平和を掴む為に必要な人物が悟空さんだったんです……」

「カカロットが…? あんただって超サイヤ人になれるんだろ……?

 そんな、あんたが敵わないんじゃ、カカロットだって……」

 

 

 ギネの言葉に、トランクスはゆっくりと首を左右に振る。

 

 

「違うんです…。 超サイヤ人だからって事が重要じゃないんです……。

 孫悟空という人は、どんな絶望的な状況だってどうにかしてくれる……。 そんな、希望を抱かせてくれる方なんです……。

 オレの母は、誰よりもそれを知っている人でした……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネは思い出す……。

 あの、ナメック星での息子の姿を……。

 そして、2人は静かに笑みを浮かべ、トランクスが言わんとする事を理解する。

 

 

「だから、悟空さんさえ生きていれば、未来は大きく変わるんじゃないかと母は考え、オレに悟空さんの病気の特効薬とタイムマシンを託してくれたんです。

 そして、オレは過去へと旅立ち、悟空さんに出会って病気の特効薬を渡し、未来での出来事を伝える事が出来ました。

 こうして、悟空さんは病気での死を克服し、来たる人造人間との戦いに向け修行を開始する事になったんです」

「なるほどね…。 あたしは、あんたに礼を言わないといけないね……。

 ありがとう。 遠い未来から息子を助ける為にやって来てくれて……」

 

 

 話を聴き終えたギネは、トランクスに礼を述べ、静かに頭を下げる。

 そんなギネに、トランクスは慌てた様に言葉を返す。

 

 

「あ、頭を上げてください! 悟空さんを助けたのは先程言った様にオレの為でもあったんですから、礼を言われる事じゃありません」

「確かに、あんたにもあんたの理由があったんだと思う……。

 でも、あんたが来てくれなかったら、この時代のカカロットも病気で死んでたんだ……。

 だから、あたしはあんたにすごく感謝してる!」

 

 

 真っ直ぐと自分を見つめるギネの瞳に、一瞬呆けた様な表情を浮かべたトランクスだったが、すぐに可笑しそうに笑みを浮かべる。

 そんなトランクスに、不思議そうに首を傾げるギネ。

 

 

「ああ、すいません…。 あなたと同じ事を悟空さんの奧さんにも言われたんです……。

 それを思い出しまして……」

「あっははっは……、そうかい! カカロットはいい嫁さんを貰ったんだね!」

 

 

 トランクスの言葉に、満面の笑みを浮かべるギネ。

 

 

「さて、ギネが知りたかった未来のカカロットについて、分かったところで、続きを頼むぜ、トランクス…!」

「あ、そうだった…。 ごめんね……。 話の腰を折っちゃって……」

「いえ、気にしないでください! えっと、過去からやって来たセルが地中から出て、活動を開始したところからでしたっけ?」

「ああ…、動き出したセルがどうしたかってトコからだな……」

 

 

 バーダックの一声で、ようやく本来の話に戻る事が出来た一同。

 

 

「そうでしたね…。 えっと…、流石のセルも活動を開始した当初の戦闘力では、17号18号はおろか、当時の悟空さんを含めたオレ達の戦闘力にも及ばなかった様です。

 このままでは目的を達する事が出来ないと考えたセルは、戦闘力を上げる為に生体エネルギーを吸収し始めたんです」

「生体エネルギー…、なんだそいつは……?」

「つまり、生きた人間を吸収して、吸収した人間の生命力を戦闘力に変えたという事です……」

「げぇ…、なんだいそりゃ……」

 

 

 セルのおこなった行為に、バーダックとギネも嫌悪の表情を浮かべる……。

 サイヤ人も全体的に見れば残虐非道ではある為、強さを得られるなら似た様な事を行うサイヤ人がいても可笑しくはない。

 だが、ギネは普通のサイヤ人とは価値観が大きく異なっているし、バーダックも自らの力で戦いを楽しみたいタイプだ。

 

 少なくとも、ここにいる2人にとってはセルが行った行為は、聞いていてあまり良い気はしなかった。

 

 

「そうやって、いくつもの街の人間がセルの犠牲になりました……。

 そしてあいつは、ほんの数日の間についに17号と18号に匹敵するほどの戦闘力を身につけたんです。

 この時代の17号と18号はオレがいた時代の2人より更に強く、3年間修行して超サイヤ人に目覚めた父さんや仲間達をあっさり倒す程でした……」

「おいおい…、どんだけ強ぇんだよ…。 その2人の人造人間てヤツは……」

 

 

 散々トランクスから、その強さを言葉で聞かされていた2人だったが、まさかそれに備えて修行していたベジータ達の強さを圧倒的に上回るとは、流石に想像の埒外過ぎて、もはや呆れるレベルだった……。

 

 

「とはいえ、当の人造人間達は、その当時セルの存在の事を知らず、暇つぶしも兼ねて悟空さんを倒す事を目的とし世界中を放浪していたんです……」

「カカロットを倒す? カカロットはそいつらに何か恨みでも買ってやがったのか……?」

「そう言えば、バーダックさんにも、何故人造人間が生み出されたのかって、話した事なかったですね……」

 

 

 バーダックの言葉で、今まで散々人造人間の強さや所業の話はしたが、何故その人造人間が生み出されたのかを話した事がなかった事を思い出したトランクス。

 

 

「2人の人造人間もセルも、ドクター・ゲロという天才科学者が生み出したんです。

 ドクター・ゲロは、かつて地球に存在したレッドリボン軍って組織に存在していた科学者なんです。

 レッドリボン軍はかつて、地球で悪さを働いていた私設武装組織だったのですが、その組織を壊滅させたのが悟空さんだったんです。

 組織壊滅後、ドクター・ゲロは悟空さんに復讐をする為、研究に明け暮れました……。 そして……」

「その研究の成果ってやつが…、人造人間て訳か……」

「はい…。 ですから、全ての人造人間には孫悟空の抹殺という指令がインプットされているらしいです……」

 

 

 トランクスの説明に理解と驚きの表情を浮かべる、バーダックとギネ。

 

 

「地球の科学力はよく分からないけど…、超サイヤ人になったカカロットや王子、そしてトランクスより強い存在を作り出すって、そのドクター・ゲロってヤツは相当なヤツだね……」

「ええ…、ヤツがその頭脳を悪事ではなく、良い事に使っていたら多くの人間を幸せにする事が出来た事は間違い無いでしょうね……」

「で、その超天才に恨みを買ったバカ息子やお前らは、セルってヤツがパワーアップしてる間、何やってやがったんだ? 何もしなかったって訳じゃねぇんだろ……?」

 

 

 バーダックの質問に、トランクスは重々しく頷く。

 

 

「セルが人々を襲い、パワーアップを果たしている間、オレと悟空さん、悟飯さん、父さんの4人は超サイヤ人を越えるための修行を行っていました……。

 悟空さんと父さんは、たった1回の人造人間との戦闘でこれまでの超サイヤ人では、勝負にならない事を悟り、超サイヤ人を進化させる考えに至ったんです……。

 本当に凄いですよ…、あの2人は……。

 オレは何年もあいつらと戦って来たけど、超サイヤ人を超えるなんて考えた事すらなかったんですから……」

「超サイヤ人を超えるだって!? そんな事が出来るのかい?」

「まぁ、お前の話を聞く限り、お前達もパワーアップが必要なのは分かるが、そんな簡単に超サイヤ人を超えられるモンじゃねぇだろ……?

 時間的猶予もそんなにあるとは思えねぇが……」

 

 

 バーダックもトキトキ都でトランクスと修行した事により、超サイヤ人に変身できる様になってはいるが、彼はまだ超サイヤ人の第一段階までしか変身できないのだ。

 超サイヤ人を越えるのがそう簡単な事で無い事は、身を以て知っていたのだ。

 そのバーダックの質問に、応えるべくトランクスは再び口を開く。

 

 

「確かに、バーダックさんのいう通り、オレ達には時間がありませんでした。

 しかし、地球の神様の神殿に、利用できる人数は2人までですが、1日で1年分の修行が出来る部屋があるんです。

 そこで、最初にオレと父さん、次に悟空さんと悟飯さんがその部屋に入りました……」

「そ、それで…? う、上手くいったのかい……?」

 

 

 緊張を孕んだ様な声で問いかけるギネに、無言で力強く頷く事で肯定するトランクス。

 それにギネは笑顔で応える。

 

 

「す、凄いよ!! ただでさえ強い超サイヤ人を超えちゃうなんて、あんた達4人本当に凄いよ!! ねぇ、バーダック!!」

「ああ…、1年という期間はあったんだろうが、超サイヤ人を超える事は並大抵の修行じゃ無理だ……。

 それを4人共やってのけるなんて、大したモンだ……」

「って事はさ、パワーアップを果たしたあんた達が、人造人間を倒したって事……?

 あれ…? でもそうなったら、カカロットが死ぬなんて結末にはならないのか……。

 ねぇ、トランクス、それからどうなったんだい?」

 

 

 テンションが高かったギネだったが、悟空の死という結末を思い出し、自身が考えた様な展開にならない事を察する。

 

 

「オレ達がパワーアップに向けて修行を行なっている間、既にパワーアップを果たしたセルと17号達はついに戦う事になったんです。

 そして、その結果17号がセルに吸収されてしまったんです。

 第二形態に進化したセルは、姿形を変えただけでなく、パワーもスピードも桁違いにアップしていたのです。

 しかしそれほどのパワーアップを果たしても、セルは満足しません……。

 その理由は、分かりますよね……?」

「完全体になる事…、だよね……?」

 

 

 トランクスの質問に、ギネが答えると正解とばかり頷く。

 

 

「セルは、いよいよ完全体になるべく、17号が吸収される間に逃げた18号を追うべく行動に出たんです。

 そして、時を同じくして、オレと父さんも”精神と時の部屋”、1日で1年分の修行が出来る部屋から出てきたんです。

 オレと父さんは、さっそくセルを倒すべく神様の神殿を後にしました……」

「いよいよ、あのバケモンと戦う訳か……」

 

 

 現在悟空を目指して、修行しているバーダックは超サイヤ人を超えた強さというモノに興味ある様で、若干声に力が籠っていた。

 

 

「気を感知できるオレ達は、すぐにセルを発見しました。

 そして、すぐに父さんとセルの戦いが始まりました……。

 父さんは戦闘開始早々、超サイヤ人を超えた形態に変身しました。

 そして、修行の成果を遺憾無く発揮し、第二形態となったセルを終始圧倒していました……」

「おぉ…!! 流石王子!!」

「僅か1年で、そこまでの強さを王子は手にしたのか……。

 …ん? おい、トランクス…、王子はこの時点でセルを追い詰めてたんだよな……?」

「ええ…、まぁ……」

 

 

 バーダックの問いに、苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべるトランクス。

 そんなトランクスに2人は首をかしげる。

 

 

「確かに、父さんはセルを追い詰めたんですけど…、ここでサイヤ人の悪い癖が出たと言いますか……」

「悪い癖…?」

「父さんからしたら、せっかく1年間修行したのに、当のセルが想定していたより弱かったんです……。

 なので、まぁ、消化不良といいますか……。

 そこで、追い込まれたセルが完全体になれば負けないと言ってしまったので、父さんが完全体になったセルの強さに興味を持ってしまったんです……」

「なるほどな……」

 

 

 バーダックもサイヤ人である為、強いやつと戦いたいという気持ちはよく分かる……。

 それに、せっかく鍛えた力を存分に解放出来ない事がどれほどストレスなのかも知っている……。

 そんなバーダックからしたら、ベジータが完全体のセルの強さに興味を惹かれたのは仕方がない様にも思えた。

 

 

「父さんはセルを完全体にするべく、セルを逃がそうとしました……。

 しかし、オレは地獄の様な未来はもうたくさんだった為、逃げようとしたセルを倒そうとしたんです。

 その時のオレも父さんに負けないくらいの戦闘力がありましたので…、しかし、そのタイミングでセルが18号を発見してしまったんです……」

「うわっ、最悪のタイミングじゃないか……」

 

 

 ギネは驚愕の表情を浮かべ声を上げる。

 それに同意する様に、トランクスは頷く。

 

 

「セルは、早速18号を吸収するべくオレの目の前から18号に向かって飛び出しました……。

 オレは、セルの吸収を防ぐべく後を追い飛び出したのですが、そこで、父さんの妨害にあってしまったんです……。

 そして、オレが父さんの妨害にあっている間に、ついに…セルは18号を吸収して、完全体へとその姿を変えてしまったんです……」

「ついに、セルが完全体になりやがったか……」

 

 

 セルが完全体になった事で、バーダックとギネの顔にも緊張感が宿る……。

 そして、トランクスの口が重々しく開かれる……。

 

 

「完全体のセルは、それまでとは次元が違う強さでした……。

 父さんはさっそくセルに戦いを挑みましたが、セルに殆どダメージを与える事が出来ませんでした……。

 父さんがセルに気絶させられた後、オレは父さんをパワーで上回る超サイヤ人の形態で戦いを挑みましたが、ヤツにあっさりとその形態の弱点を見抜かれ、勝機が無いと判断したオレはあいつに降伏しました……」

「そ…、そんなに強いのかい……? 完全体のセルってヤツは……」

 

 

 最早想像の次元を超えてしまった、セルの強さにギネは身体を震わせながら驚愕の表情を浮かべる……。

 バーダックも黙ってはいるが、驚きを隠せない様な表情をしていた……。

 

 

「そ、それで、あんたはどうなったんだい? トランクス……」

「セルは、わずかな期間で強くなったオレ達に興味を抱きました……。

 そして、時間があればさらなるパワーアップが可能なのか?と質問してきました……」

「えっ? なんで、セルはそんな事を聞いてきたんだい……?」

「なるほどな…。 今度は、セルの野郎が王子と同じ様な考えを持った訳だな……」

 

 

 バーダックの問いに首肯するトランクス。

 

 

「そうです…。 セルは先程の父さんと同じ様に、完全体になった力を試したいと考えていました……。

 後、単純にヤツは戦いを楽しみ、恐怖に怯えひきつった人間の顔をも見る事も……。

 だからセルは、それから10日後に武道大会を開くとオレに言ったんです」

「武道大会…?」

「ええ…、その武闘大会の名前は…”セルゲーム”。

 悟空さんが死に…、バーダックさんとギネさんが水晶で見た戦いです……」

 

 

 トランクスが述べた言葉で、バーダックとギネの表情が一変する……。

 ここからが、彼らが知りたかった本題……。

 トランクスが語る内容に彼らは何を思うのだろうか……。

 

 そして、続きを語るべく、トランクスは喋り出す……。

 あの激闘の1日を……。

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