ドラゴンボール -地獄からの観戦者- あの世へやって来た孫悟空編 あの世一武道会編 壱

■Side:悟空

 

 

 オス!オラ悟空!!

 セルとの戦いで死んだオラは、今界王様と一緒に閻魔界から出ているオンボロの飛行機に乗っていた。

 

 

「なぁ、界王様〜。 まだ着かねぇんか? 大界王星ってトコに……。

 オラ早く、あの世の達人たちと会って、戦ってみてぇぞ。 きっと、スゲェヤツ等ばかりいんだろうなぁ〜」

「もうちょっと、時間がかかるのぅ。 大界王星は天国のずっと上にあるからなぁ、行くのは時間がかかるんじゃ」

「へぇー、そうなんかぁ」

 

 

 オラ達は今、あの世の達人に会う為、大界王星ってトコに向かっている。

 大界王星には、閻魔界から出ている飛行機でしか行くことが出来ねぇらしく、2人揃って飛行機に揺られている。

 舞空術で行けたら楽なんだけど、行けねぇもんはしょうがねぇもんな……。

 

 暇になったオラは、隣に座っている界王様に目を向ける。

 正確に言えば、界王様の頭に浮かんでいる輪っかにだ。

 今更考えると、セルとの自爆に巻き込んだってのに、オラに付き合って一緒に死人になってくれるなんて、本当に良かったんかな?

 

 ふと気になった、オラは聞いてみることにした。

 

 

「なぁ、界王様…。 オラが言うのもなんなんだけど…、本当に良かったのか……? 生き返らなくて……」

「いやほんと、お前が言う事じゃないなぁ……。

 まぁ、ワシからしたら生きているのも、死んでいるのも大して変わらんからどっちでもいいがな……。

 強いて言えば、在り方が変わったくらいだな……」

「ふーん、よく分かんねぇけど…、界王様が良いってんならそれでいいや!」

 

 

 界王様の返事を聞いて、オラが安心した様に答えると、オラの返事を聞いた界王様の顔がムッとした表情をする。

 

 

「これ、悟空! お前はもうちょっと反省せんか! ワシは界王なんだぞ!!」

「悪かったって! 何度も謝ってんじゃねぇか。 界王様もしつけぇなぁ……」

「しつこいとはなんじゃぁーーーっ!!」

 

 

 オラ達がそうやってぎゃあぎゃあやってると、オラの視界の端にキラキラ光るモノが目に入ってきた。

 

 

「ん? んん…へっ、あれが天国か!? デッケェんだなぁーーーっ!!!」

 

 

 飛行機の窓から外を見ると、オラの視界いっぱいにデッケェ星が飛び込んできた。

 そのデカさは、前に宇宙からみた地球より、遥かにデカく感じる。

 オラが天国のデカさに驚いていると、隣から界王様の声が聞こえてきた。

 

 

「そろそろ着くぞ! 悟空」

「えっ、どこどこ…どこ?」

「ほれほれ、あそこだ!」

「えっ? どこ?」

 

 

 界王様に言われて視線を動かしてみるが、オラにはやっぱり天国しか見えねぇ。

 すると、界王様がオラが眼を向けていた場所よりずっと上の方を指差す。

 

 

「あれが、大界王星だ!」

「へぇーっ! なんだ…思ったよりちっちぇ星だな!!」

「あっ、こら! なんてこと!!」

 

 

 さっきの天国の印象が強すぎて、思わず本音を言ったら横から怒った界王様の声が聞こえてきた。

 

 

「わりぃわりぃ、界王様の星よりずっとデッケェや!」

 

 

 オラが謝ると、界王様は唸りながらむぅとした表情を浮かべる。

 

 

「それも十分失礼じゃ!!」

 

 

 

 悟空と界王がそんなやりとりをやっている間に、大界王星についた悟空達。

 2人で大界王星を歩いていると、いろいろな所から活発な声が聞こえてきた。

 悟空が視線を動かしてみれば、組手をしてる者達や、型の修行、筋トレ、瞑想…等、様々な修行をしている者達で溢れかえっていた。

 

 

「すんげぇや! 流石に強そうな連中ばっかだなぁ!!」

「界王様!」

 

 

 悟空が大界王星で修行している者達に驚嘆の声を上げると、どこからか界王を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

「おぉー! 頑張っとるなぁ!!」

「お久しぶりです……」

「ご無沙汰しています……」

 

 

 呼ばれた界王が声の主達に視線を向けると、嬉しそうな表情を浮かべる。

 そんな界王に修業していた2人の男が頭を下げる。

 彼等の頑張っている姿が見れて、嬉しかったのか界王も笑顔で労う。

 

 

「へー、界王様ってあの世じゃ結構有名人なんだなぁ……?」

「ヤツ等は、北の銀河出身だからなぁ」

「へっ? じゃあ、オラと一緒か?」

 

 

 どうやら、界王に声を掛けてきた2人は悟空の先輩にあたる様だ。

 悟空がそんな事を考えていると、界王様から驚きの言葉が飛び出る。

 

 

「まぁ、お前よりざっと2300年ほど先輩といったところじゃ!」

「へー…2300年……、ええっ…!!? 2300年!!? そんな長い事、修行してんのかっ!?」

 

 

 悟空があの世の達人達に驚愕していると、そんな悟空をほっといて界王はどんどん1人で歩いていく。

 それからもしばらく歩いていると、悟空達の前に白くてデカイ建物が見えてきた。

 

 

「ここが、大界王様の住んでおられる、大界王殿だ」

「へーっ! いよいよ会えんだなぁ! あの世で1番強え大界王に……」

「大界王様と言え! 様と! あんまり失礼をすると後で痛い目を見るぞ!!!」

 

 

 界王のあまりに剣幕に、驚いた悟空は大界王がどんなヤツなのか改めて気になった……。

 

 

「そんなに強えのか? 大界王…「様!」…様って……」

 

 

 悟空の質問に、今まで怒った表情だった界王が真剣な表情を浮かべる。

 その顔には、冷や汗が流れていて、ちょっとヤバそうな雰囲気だった……。

 

 

「実を言うとワシでさえ、まだ大界王様が戦っておられる所を見たことがないんじゃ……」

「ふーん」

「だがな! その強さは言葉では決して伝える事が出来ない程素晴らしく、また恐ろしいモノだと言い伝えられておる……」

「へぇーーーっ!!!」

 

 

 悟空が大界王の強さに驚嘆の声を上げていると、「ん?」と隣の界王から何かに気が付いた様な声がしたので、悟空が界王に眼を向ける。

 

 

「あああっーーーっ!!! いやいや、これはね、ワシが欲しかった車だ!!! いいな!いいな!大界王様いいなぁーーーっ!!!

 ワシも欲しいなぁーっ、コレ!! おぉ、このお尻がこりゃまたセクシィーっ!! きゃぁー、最高最高!!」

 

 

 悟空が眼を向けた時には、すでに大界王殿の前に止まっていた車の前に移動していた界王は、子供みたいに車の周りをウロチョロして変な声を上げていた。

 

 

(そういや、界王星にも似た様な車があったけなぁ……)

 

 

 そんな事を内心で考えている悟空。

 しかし、このまま放っておくといつまで経っても終わりそうにないので、声を掛ける事にした。

 

 

「界王様、早く行こうぜ!!」

「あーーーっ!!! お前は!!!」

 

 

 悟空が界王に声をかけると、悟空の後ろから大きな声が聞こえてきた。 

 

 

「ん?」

 

 

 悟空が振り返ると、そこには凄く驚いた顔した背の低い界王と同じ様な格好をした者と、ピッコロみたいな緑色の肌をした背の高い者が立っていた。

 誰だろう…?と悟空が考えていると、今度は振り返った悟空の後ろから先程の声に負けない大きな声が聞こえてきた。

 

 

「んーっ……なっなんじゃあ? って、西の界王!!!」

 

 

 界王は叫び声を上げると、悟空の目の前にいる西の界王と呼ばれた者の前に走ってやってきた。

 2人は顔を合わせると、揃って「うぅーーーっ!!!」と言いながらメンチを斬り合う様に睨み合う。

 目の前でいきなり繰り広げられる、その尋常ならざる雰囲気に、唖然とした表情を浮かべ、困惑する悟空。

 

 

「えっ!? あれっ!? ど、どうしたんだ……? なに!? なに!? 何これ?」

 

 

そんな、悟空の事なんてほったらかしに、2人の界王は話を続ける。

 

 

「お前、どうしてここにっ!?」

「お前こそ、なぜっ!?」

「ふん、ワシは今日、久しぶりにこのパイクーハンに会いに来たんじゃ…。 なにしろ、パイクーハンは西の銀河一の武道家だからな……!!」

 

 

 西の界王の言葉に悟空が「えっ!」と驚きの声をあげ、西の界王の横にいる長身の男に眼を向ける。

 

 

「あっはははっ…、…ん……?」

「なっ、なんじゃ!?」

 

 

 悟空の反応に気を良くしたのか、大声で笑っていた西の界王が、ふと何かに気づいた様に界王をじーっと見る……。

 その様子が不気味だったのか、界王はたじろいだ声を上げる。

 しばらく、じーっと見ながら界王の周りをぐるぐる周ってた西の界王……。

 

 

「あーーーっ!!!」

「なぁーーーっ!!?」

 

 

 いきなり大声を上げた西の界王に、驚いた反応を返す界王。

 しかし、そんな界王を無視して、今度は大声で笑いだす西の界王。

 

 

「あっはははーーーっ!!!」

「へっ!?」

 

 

 いきなり大声で笑いだした西の界王に、訳が分からないといった表情を浮かべる界王。

 

 

「おっ、お前死んだのかっ……!?」

「あーーーっ!! こっ、これはっ……!!」

 

 

 笑いながら、死んだ事を突っ込まれた界王は、顔を赤くしながら頭の輪っかを両手で隠そうとする。

 しかし、そんな事しても隙間から死者の証である輪っかが見え隠れしていた。

 

 

「界王が死ぬなんて…、あっははは……、こりゃいい! お前の下らんジョークよりずっと笑えるわ!! あっはははーーーっ!!!」

「くだらんジョークとはなんだっ!! くだらんジョークとはっ!! これには色々、事情があったんじゃ……」

 

 

 界王が死んだ事が、よっぽどおかしかったのか、笑い転げる西の界王。

 そんな西の界王に、流石に頭に来たのか、怒った様に言い返す界王。

 そんな2人のやりとりを見て、悟空が口を開く。

 

 

「オラが、界王様を巻き込んじまったんだ……」

 

 

 すまなそうな声で会話に割り込んだ悟空に、視線を向ける西の界王。

 

 

「ん? なんだぁ、この小僧は……?」

 

 

 不機嫌そうな声で口を開く西の界王に、悟空は名乗りを上げる。

 

 

「オラか? オラ孫悟空だ!」

「悟空は、北の銀河にある地球という星を救った正義の武道家でな、とてつもなく強いヤツなんじゃ!!」

 

 

 悟空が名を名乗ると、補足する様に界王が自慢気に悟空の事を紹介する。

 そして、悟空が強いと聞き、西の界王の顔つきが変わる。

 

 

「なにっ!? とてつもなく強いだとぉ? ふん!しかしこのパイクーハンほどではないだろう?」

「いや! 悟空の方が強いな!!」

 

 

 悟空よりパイクーハンが上だと告げた西の界王だったが、それに間髪入れず悟空の方が強いと返す界王。

 

 

「まっさかぁ〜! いや!パイクーハンの方が強いに決まっておる!!」

「いーや! 絶対に悟空だ!!」

 

 

 強がりを言うなよ。みたいな笑みを浮かべ、もう一度パイクーハンの強さを主張する西の界王。

 しかし、それに自信満々の笑みで、再度悟空の方が上だと主張する界王。

 その界王の表情に腹が立ったのか、界王の前にダッシュで近づき大声を上げる西の界王。

 

 

「絶対に! 絶対に! パイクーハンだぁーーーっ!!!」

「わからんっ奴だなぁ!!!」

「わからんのは、そっちだっ!!!」

 

 

 互いに本人達を他所に、ヒートアップしていく2人の界王。

 そして、ついに界王から本人達をも巻き込む言葉が吐き出される。

 

 

「ならば、勝負させるかっ!?」

「えっ?」

「あっ!」

 

 

 界王の言葉に、今まで2人のやりとりを見守っていた悟空とパイクーハンが驚きの表情を浮かべる。

 しかし、2人が何かを言う前に西の界王が自信満々の声を上げる。

 

 

「望むところだっ!!!」

 

 

 本人達の意見を他所に、勝負をする事になった2人は視線を合わせる。

 困惑気な悟空に対して、無表情のパイクーハン。

 

 

「さぁ! 行け悟空!!」

「えっ!? 行け!って、ここで戦うんかっ!?」

 

 

 未だこの事態に思考が追いついていない悟空は、界王の言葉に戸惑いの声を上げる。

 すると、西の界王の方もパイクーハンに号令を下す。

 

 

「パイクーハン、軽くやっつけちゃいなさい!!」

 

 

 まさに、一触即発という状況の中。

 突如、第三者の声が響き渡る。

 

 

「ちょっと、待ってぇ〜ん!!」

「うん…?」

「あ…、あの声は……」

 

 

 突如響いた声に、悟空が首を傾げる横で、額に冷や汗を流す界王。

 そして、界王だけでなく、西の界王も声の主の正体に気づいた為、2人揃って声を上げる。

 

 

「「大界王様!!」」

 

 

 声の主である、大界王の名を呼んだ2人の界王とパイクーハンは、即座に大界王殿に向かって跪く。

 

 

「えっ…? どこ……?」

 

 

 跪いた3人を他所に悟空は、立ったまま大界王の姿を探す。

 そんな悟空の姿に、ギョッ!とした表情を浮かべる界王。

 

 

「これこれこれこれ悟空っ!! 頭が高い!頭が!!」

 

 

 口を開いた界王が即座に悟空の頭を掴み、跪かせようとした瞬間、それはおこった。

 突如大界王殿の屋上が光ったかと思った瞬間、屋上から一筋の光が走り、悟空達の目の前に落ちてきた。

 光が地面に激突した瞬間、大きな音と煙を巻き上げる。

 

 悟空達が唖然とした表情を浮かべていると、徐々に煙が収まり、そこに上下デニムでブーツを履き、肩にラジカセを担ぎサングラスをかけた、大層ファンキーな爺様が立っていた。

 

 

「はぁーい!!!」

 

 

 4人にとてもつもなく、軽い声で爽やかな笑みを浮かべ挨拶する爺様。

 

 

「「だ、大界王様!!」」

 

 

 2人の界王が改めて、目の前の人物の姿を見て名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれた大界王は、ラジカセから流れてくる音楽を鼻歌で歌いながら、独特なステップを踏みながら4人の元へ近づいてくる。

 その様子は正にノリノリだった……。

 

 

(こっ、これが大界王様ぁ……!?)

 

 

 そんな大界王の様子に、悟空が内心で信じられない。とばかりに驚きの声を上げる。

 しかし、現状だけ見ればそれは仕方ないかもしれない……。

 悟空が唖然とした表情を浮かべたまま、大界王に視線を向ける。

 

 4人の元に近づいた大界王は、勢いよく肩に担いでいたラジカセを地面に置くと、ポチッ!っとボタンを押す。

 すると、今までラジカセから流れていた曲がストップする。

 4人が唖然とした表情で大界王を見ていると、大界王が早速、口を開く。

 

 

「取り込み中のところ悪いんだけんど…、あー、パイクーハンちゃん。 ちょっと、くーじごまで行ってきてくれない?」

「はっ!」

 

 

 大界王直々の命に、パイクーハンが簡潔に返事し頭を下げる。

 

 

「”くーじご”…って、なんだ……?」

「地獄の事じゃ…。 地獄のくを持ってきてくーじご!」

 

 

 大界王が言ったくーじごについて、悟空が首を傾げていると、その言葉の意味を界王が小声で教えていた。

 そんな2人を尻目に、大界王は言葉を続ける。

 

 

「くーじごで、ちょっと困ったことが起きちゃってさぁ!」

「「「困ったこと?」」」

 

 

 大界王の言葉に、2人の界王と悟空が反応する。

 

 

「最近セルってヤツが、まえんちゃんに、くーじごに送られちゃったらしいんだけどさぁ」

「えっ!? セル!?」

 

 

 軽い口調で話す大界王の言葉から飛び出した、セルの名前に驚きの表情を浮かべる、悟空と界王。

 

 

「そのセルが、フリーザとか言う奴らを従え暴れ回ってるそうなのよ」

「セルが…!?」

「フリーザ達を…!?」

 

 

 軽い口調とは裏腹に、飛び出すかつての強敵達の名に、驚愕の表情を浮かべ、驚きの声を上げる界王と悟空。

 

 

「だから、ちょっと行って、片付けてきて欲しいわけ!」

「かしこまりました!!」

 

 

 大界王の言葉を聞いたパイクーハンは一つ返事で、即座にこの場から姿を消す。

 

 

「あっ!! 1人じゃ無理だっ!! オラも行く!!!」

 

 

 それを見た悟空は、セルやフリーザの恐ろしさをよく知っている為、即座にパイクーハンの後を追うべく飛び出した。

 

 

「ごっ、悟空! 勝手にそんなっ!!」

「まぁ、いいじゃん〜!! 北の界王ちゃん、好きな様にやらせてあげれば!!」

 

 

 いきなり飛び出した悟空に、焦った様に声を上げる界王だったが、大界王から許しが出たので困った様な表情を浮かべ、どんどん小さくなる悟空の背中を視線で追う。

 そんな事を知らない悟空は、先行するパイクーハンとの距離をどんどん詰める。

 背後から近づく、悟空の気配に気づいたのか、パイクーハンが視線を悟空に向ける事なく口を開く。

 

 

「助っ人を頼んだ覚えはないぞ……!」

「オメェ…、セルやフリーザを知らねーから、そんな事が言えんだ…!! あいつら凄く強えんだぜ……!!」

 

 

 2人が地獄に降り立つと、セル達が暴れ回ったせいか、建物や乗物が破壊され、荒れ果てていた。

 

 

「こりゃ、ひでぇな……」

 

 

 その様子に、悟空が思わず口を開くと、近くの茂みから2つの気配が近づいている事に気がつく悟空とパイクーハン。

 

 

「「ん?」」

 

 

 2人が揃って、茂みに視線を向けると、ガサガサと音がしたと思ったら、巨漢の青鬼と、赤鬼が飛び出してきた。

 

 

「お願いですオニ!」

「どうか、見逃してくださいオニ!!」

 

 

 何かから逃げてきたのか、悟空とパイクーハンに気付いてない2人は、命乞いする様にその巨体を小さくして土下座する。

 いきなり土下座した2人の鬼に驚いた、悟空とパイクーハンだったが、2人に見覚えがある事に気が付く悟空。

 

 

「あれっ? オメェ達、ゴズとメズじゃねーか!?」

 

 

 悟空の言葉に、驚いた様な表情で顔で顔を上げる2人。

 

 

「えっ? …あっ! オメェは前に蛇の道から落ちてきた、孫悟空!!」

「ふぅ、よかった…。 セルの仲間じゃなかったオニ……」

 

 

 悟空の姿に安堵の表情を浮かべる2人。

 しかし、2人からセルの名前が出た事で、悟空の表情が引き締まる。

 

 

「オラ達、そのセルを退治しにきたんだ!!」

「「えぇっ…!? 本当オニ……!?」」

 

 

 悟空の言葉に、驚愕の表情を浮かべる2人。

 

 

 

 悟空とパイクーハンがゴズとメズに話を聞いているその頃、地獄のとある場所ではセルやフリーザ達が暴れまわっていた……。

 

 

「ぐぅあ…」

 

 

 1人の赤鬼が苦痛の声を上げながら仰向けに倒されると、その赤鬼の顔面をドスン!!と何者かの足が踏みつける。

 

 

「どうだ…? これから誰に従えばいいか…、よぉーく分かっただろう……?」

 

 

 その存在とは、数日前地球で孫悟空の息子、孫悟飯に敗れて地獄にやってきた、ドクター・ゲロの最高傑作、人造人間セルだった。

 そして、そのセルの周りには、宇宙の帝王フリーザやその父であるコルド大王、そしてギニュー特戦隊等を始めとするフリーザ軍達が我が物顔で闊歩していた。

 

 

「ここのボスは誰だ……?」

 

 

 セルは踏みつけた赤鬼に向け、問いかける。

 しかし、踏みつけられた赤鬼は必死になって喋ろうとするが、痛みでうまく言葉を発することが出来ない様だった。

 痛みで、呻いている赤鬼に苛立ったセルは、更に力強く顔を踏みしめる。

 

 

「聞こえんっ!!」

「セ…、セル…っ……」

 

 

 何とか、言葉を吐き出した赤鬼に邪悪な笑みを浮かべたセルは、その赤鬼の襟元を掴み自分の目線まで引き上げる……。

 

 

「フン! セル様…、だろう……?」

 

 

 そう言って、更に邪悪に笑みを深めたセルは、掴んでいた赤鬼を近くの針山に向かって投げつける。

 

 

「オニッーーーッ!!!」

 

 

 投げられた鬼が叫び声を上げる。

 あと、数瞬で針山に激突するその瞬間、シュンと風を切り裂く様な音を立て、何者かがその鬼を窮地から救い出した。

 

 

「むぅ?」

 

 

 セルが何事かと視線を空中に向ける。

 すると、視線の先には、この場にいる大半の者にとって因縁の相手と言って良い存在が空中に佇んでいた。

 

 

「オメェ等、地獄に来てまで悪さを続ける気かっ!?」

「フッ!」

「孫…悟空……!?」

 

 

 悟空の姿を見た瞬間、セルは不敵な笑みを浮かべ、フリーザは忌々しそうに苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 そんな2人を見下ろしながら、悟空は再び口を開く。

 

 

「ちっとも、反省してねーよだなぁ!!」

「これはいい…、どうやらお前も死んだらしいな! また会えて嬉しいよ。特選隊のみなさん……」

 

 

 悟空の頭上にある死者の輪っかを見たフリーザは、悟空が死んだ事に笑みを浮かべる。

 そして、今こそ積年の恨みを果たすべく、行動に出る。

 フリーザに声をかけられた、ギニュー特戦隊のジース、バータ、リクーム、グルドの4人がお馴染みのポーズをとると、即座に悟空に向け飛び出す。

 

 

「パイクーハンッ……!!」

 

 

 向かってくる4人を視界に収めた悟空は、救出した赤鬼をパイクーハンに向かって放り投げる。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 即座に気を解放した悟空は、4人の攻撃を紙一重で躱し全員を一撃で気絶させ、血の池地獄に叩き込む。

 

 

「なっ…、なんと……!?」

「悟空のヤツ…、いつの間にあんな……」

 

 

 悟空の現在の戦闘力に冷や汗を流しながら驚愕の表情を浮かべる、コルド大王とフリーザ。

 しかし、そんな2人をこの存在が一喝する。

 

 

「うろたえるなぁ!! あの程度何でもない…。 私がヤツを殺したのだからなぁ……」

 

 

 今の悟空の戦いを見ても、不敵な笑みを浮かべるセル。

 そんなセルを気に入らないとばかり、額に血管を浮き立たせながらも笑みを浮かべるフリーザ。

 

 

「さ、流石セルさんですね……。 お願いしますよ……」

 

 

 フリーザの言葉を受けたセルは、両翼を広げ勢いよく地面を蹴り、空中に佇む悟空に向かって飛び出す。

 

 

「ぶらぁ!」

 

 

 勢いよく飛び出したセルは、物凄いスピードで悟空へ近づいてくる。

 

 

「むっ!」

 

 

 セルの姿を視界に収めた悟空は、迎え撃つべく構えをとろうとした瞬間、悟空とセルとの間に何者かが、セルをも上回るスピードで割り込む。

 

 

「なっ…、何だっ!?」

「何っ!?」

 

 

 予想外の割り込みに、驚きの声を上げる、悟空とセル。

 その何者かは、全身に炎を纏い、あっという間にセルに近づくと強烈な蹴りでセルの顎を蹴り飛ばす。

 

 

「うぐぅ……」

 

 

 蹴り飛ばしたのは、悟空と一緒に地獄にやって来たパイクーハンだった。

 パイクーハンの強烈な一撃で、意識が朦朧となったセルは拳による追撃の2撃目により、ついに意識を手放し、先のギニュー特戦隊の4人と同じく血の池地獄にその身を落とした。

 

 

「バ、バカなっ……」

 

 

 その様子を、驚愕の表情で見つめるフリーザとコルド大王。

 しかし、それはこの2人だけではなかった。

 悟空もパイクーハンのあまりの強さに、驚きを隠せなかった……。

 

 

「なっ、なんてスピードだ……」

 

 

 今の一連の戦いを思い出した悟空は、自然と言葉を吐き出していた……。

 そんな悟空を尻目に、パイクーハンは視線をフリーザ達向けると、フリーザ達が認識するよりも早く2人に近づき、一撃でフリーザとコルド大王を昏倒させる。

 2人が気絶したのを確認したパイクーハンは、再び宙へ飛び出し、先ほどセルを含めた5人が落ちた血の池地獄の上に姿を現す。

 

 水面より10m程上空に現れたパイクーハンは、その場で胸の前で腕をクロスさると、もの凄いスピードで回転し始める。

 パイクーハンの高速回転により、発生した竜巻で沈んでいた5人が血の池地獄から針山へ吹っ飛ばされる。

 

 

「「「「「うわぁーーーっ!!!!!」」」」」

 

 

 叫び声を上げながら、針山へ吹き飛んだ5人はそのまま、気絶した2名共々地獄の鬼達によって、今までよりも更に厳重な牢に収監される事になった。

 

 

「くっそーーーっ!!!」

「やられるばかりで、死ねんとは……」

「くぅ…、まるで地獄だ……」

 

 

 こうして、彼等のクーデターは幕を閉じたのだった。

 そんな彼等を近くの岩場から眺めていた、悟空とパイクーハン。

 牢に入るまでに暴れたら、また彼等がセル達の相手をしなければならないので、彼等が無事収監されるまで見守っていたのだ……。

 

 しかし、ようやくセル達が無事収監されたので、これにて2人の任務は無事に終わりを迎えたのだった。

 

 

「これでもう、あいつ等も悪さしなくなんだろ!」

「ああ…、そうだな!」

 

 

 牢に入ったセル達を見て、腕を上にあげ伸びをしながら、安堵の声を上げる悟空。

 そして、そんな悟空に力強い笑みを見せるパイクーハン。

 そんなパイクーハンを見て、改めて悟空は先程のパイクーハンの強さを思い出すのだった……。

 

 

(スゲーや! こんな強えヤツがいるなんて! あの世も結構ワクワクすっぜ!!)

 

 

 自分を超える強さを持つパイクーハンの存在に、あの世でも楽しくやっていけそうだと確信する悟空。

 悟空がそんな事を考えていると、隣のパイクーハンから声が聞こえて来た。

 

 

「さて、戻るぞ! 悟空…。 大界王様と界王様達に任務完了の報告をしなければ……」

「ああ…、そうだな!! …ん……?」

 

 

 既に空へ飛び出したパイクーハンに相槌を打ち、悟空も空へ飛び出そうとした瞬間、ふと何かを感じて後ろを振り向く。

 

 

「どうした…? 悟空……?」

「いや…、なんでもねぇ……。 戻ろうぜ、パイクーハン」

 

 

 悟空の様子に疑問を持ったパイクーハンが声をかけるが、しばらく、ジーッと地獄を見て回っていた悟空が静かに首を左右に振る。

 悟空に促されたパイクーハンは首を傾げるが、特に気になっている訳でもないので、悟空と一緒に地獄の空へ飛び立つ。

 しばらく2人で地獄の空を飛んでいると、悟空がパイクーハンに向かって声をかける……。

 

 

「なぁ、パイクーハン! いつかオラと戦ってくれねぇか?

 さっきのオメェの戦い見てたら、オラ、ワクワクしちまってよぉ!」

 

 

 いきなりの戦いの申し込みに、驚いた表情を浮かべるパイクーハン。

 しかし、悟空から向けられる眼差しや表情がとてもキラキラ、ワクワクした純粋なモノだったので、パイクーハンの口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「フッ…、いいだろう! オレもお前の強さには興味がある……」

「おっ!? 本当かっ!?」

「ああ…、近いうちに手合わせしよう」

「よっしゃあ! 楽しみだなぁーーーっ!!」

 

 

 パイクーハンの返事に、笑顔で喜びの声を上げる悟空!!

 大の男が子供の様に純粋に喜ぶ姿を見て、更に笑みを深くするパイクーハン。

 

 

「フッ…、おかしなヤツだ……」

 

 

 こうして、孫悟空のあの世での生活がスタートしたのであった……。

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